~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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 息抜きがてら、少し短めに。


第23話 バレンタインデー

 今日も今日とて、俺はこのデスゲームを完全攻略し、現実世界に帰還するために攻略組として活動するつもりだ。最近は、毎朝のルーティンとして宿屋の窓から朝日を拝み、気合いを入れている。攻略組は毎日、最前線を探索し、レベルを上げて、ボスに挑む、この工程を当たり前のように繰り返しているため、まるで生まれた時からこの生活を続けていたかのような錯覚に陥る者もいるらしい。

 確かに、アインクラッドの世界は現実世界と似ても似つかない面が多く、そういった意味では現実世界で生きていたという感覚が失われてくるのも無理はないだろう。俺達がアインクラッドの世界で現実世界と同じように過ごしたのは、クリスマスや年末年始ぐらいだった。次にある現実世界と同様のイベントはハロウィンだろうか…。などと思っていたのだが、本日、重大なことに気が付いた。否、気付かされてしまった。

 

 「ピコんッ!」

 

 アルファ「…ん?」

 

 いつも通りベットの上で寝ぼけながら太陽を眺めていると、メッセージの着信音が聞こえてきた。ユウキ達なら直接喋ればいいだろうし、メッセージを送ってくるということは、キリトかアルゴか?…アスナはないだろう。まだぼんやりとしている頭のままメッセージを確認すべく慣れた手つきで指を動かす。メッセージ受信欄の一番上にある未読のメールを開いてみると差出人は茅場晶彦となっていた。

 

 アルファ「……は?」

 

 まさかの事態に数秒間、頭がフリーズしつつも、流石に見間違えたと考え、もう一度メッセージを確認し直す。しかし、やはり差出人は茅場晶彦だった。今度は、まだ夢の世界の中にいるのかと考えて、頬っぺたを抓ってみた。

 

 アルファ「…うん、痛いな、これは現実なのか。」

 

 一瞬、新手の罠か何かだという考えが頭をよぎったが、取り敢えずメッセージの内容を確認しなければ何も始まらない気がしたので、意を決する。

 

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 件名 諸君らへのささやかなプレゼント

 

 

 まずは、今日という日まで生き残ってくれた諸君たちを称えたい。しかし、まだはじまりの街に籠っているプレイヤーが多数であることには些か納得がいかないものだ。外部からの救助などあり得ず、この世界で生き抜くためには自ら剣を持ち、立ち上がらなければならない事はもう理解できただろう。はじまりの街に引きこもり続けるのもこの世界で生きる一つの形ではあるが、余りオススメは出来ないものだ。

 では、そろそろ本題に入らせてもらおう。諸君らは今日が何月何日か覚えているだろうか?今日は2月14日、つまり、バレンタインデーということだ。だが、残念ながらプレイヤーの大多数は男性が占めているせいで、男性プレイヤーが女性からチョコをもらえることは、ほとんどないだろう。

 そこで私が、不運な諸君らにチョコをプレゼントするべく、本日限りでモンスターのドロップ品にチョコを加えておいた。是非とも楽しんでくれたまえ。

 

 

────────────────

 

 アルファ「……」

 

 相変わらず人を見下したような喋り方をする奴だ。俺は茅場晶彦の語り口が気に食わなかったが、このメッセージを目にして、この世界に来て以来チョコレートの甘みを味わっていないことを思い出す。それを思うと、チョコが手に入るというイベントは正直ありがたい。そろそろ部屋を出て朝食を食べようとした時に、いきなり扉が開いて、一人の男が鬼の形相で口走った。

 

 オウガ「オイッ!いつまで寝てんだァ?サッサとチョコ狩りに行くぞッ!!」

 

 サツキ「狩るのはモンスターやけどな」

 

 アルファ「…二人共、準備が早いな」

 

 ユウキ「二人じゃなくて、三人だよ!アルファも早く準備してよねっ!」

 

 どうやら今日も、俺が一番のお寝坊さんだったようだ。…しっかし、オウガとユウキは気合が入り過ぎではないだろうか。俺はベットから這い出た後に、武器防具を装備して部屋を出た。

 

 

 

────────────────

 

 

 

「そっちに行ったぞ!追いかけろッ─!」

 

 プレイヤーは主に昼型と夜型に分かれているため、基本的には朝方にフィールドに赴く者は少数である。しかし、本日はその例を覆すが如く、朝っぱらからいつもの倍以上のプレイヤーが屯しており、フィールドはチョコを巡った戦場と化していた。勿論俺達もその例に漏れず、いつもは昼頃から夕暮れにかけてフィールドでレベリングや素材集めをするのだが、今日はユウキとオウガの強い希望に沿って朝からフィールドにやってきた。出来るだけモンスターを効率良く狩るために人気のない場所を探しているのだが、なかなか意に沿う場所が見つからない。どこもかしこもプレイヤーだらけで、つい先ほども怒号と共にプレイヤーの集団が目の前を通り過ぎて行った。

 

 サツキ「そんなにチョコが欲しいもんなんかな?」

 

 アルファ「まぁ、チョコなんてしばらく食べてないだろ?」

 

 サツキは呆れた様子で通り過ぎて行ったプレイヤー達を眺めていたが、俺としては彼らの気持ちも理解できるので、一応フォローしておく。

 

 オウガ「そういやお前、チョコもらったことあるのかァ?」

 

 オウガがニヤニヤしながらそんな質問をして来た。…この顔から察するにコイツはチョコを貰ったことがあるんだろう。俺は…あるにはあるが、義理チョコを幾つかってくらいだ。何の自慢にもならない。だが、そんなことを素直に答えても、オウガに馬鹿にされるのがオチなので、ここは少し言い方を変えておく。

 

 アルファ「そりゃあ、あるだろ」

 

 オウガ「ンなこと言っときながら、母親から、とかだろ?」

 

 アルファ「…ちげーよ」

 

 オウガはまだ顔をニヤつかせたまま、俺を煽ってくる。これ以上相手をしても無駄だと悟った俺は適当にあしらうことにした。

 

 ユウキ「ここら辺なら結構モンスター倒せそうだね」

 

 そうこうしているうちに良さげなポイントを見つけ、俺達はそこでしばらくモンスターを狩り続ける。かれこれ一時間ほどモンスターを倒し続けただろうか、ここまで狩りを続けて分かったことが二つあった。まずは、チョコが確定ドロップではないこと、そしてお次は、ドロップ率が異常なほど低いことだ。

 前者はともかく、後者については俺達のリアルラックが低いだけかもしれないが、流石に一時間掛けて一つもドロップしないのはおかしい気がする。…いや、そうとも言い切れない、運が大きく関わってくるゲームでは、こんなこともザラにあるからな。

 

 オウガ「……これ、マジでチョコとか手に入んのか?」

 

 余りのドロップ率の低さに、あれ程チョコを食べることを楽しみにしていたオウガが、打って変わってげんなりとした顔でぼやいた。その時、後ろの茂みがガサゴソと揺れる音がした。俺達は警戒して、茂みの方へと視線をやる。すると、そこから現れたのは凶暴なモンスター…ではなく小さなネズミだった。ネズミと言っても、ヒゲはペイントなわけだが…。

 

 アルゴ「こんな所まで来て、チョコを手に入れようなんて必死なんダナ。アー坊主催カ?」

 

 アルファ「いや、ユウキとオウガだぞ」

 

 俺もチョコは欲しいが、率先してチョコを手に入れようとしているのはユウキとオウガだ。俺は何の嘘もついていない。

 

 アルゴ「ふ~ん。ま、そういうことにしておいてやるカ」

 

 アルファ「俺はどんだけ信用無いんだよ…」

 

 アルゴ「ニャハハッ、信用はなくても、信頼はしてるからナ!オネーサンから信頼してもらえるなんて滅多にない事ダヨ!」

 

 アルファ「お、おう、サンキューな」

 

 アルゴにウィンクされた俺は不覚にもドギマギしてしまい、返事の歯切れが悪くなってしまう。俺の背後から冷たい視線を感じるが何故なのだろう。確か俺の後ろにいたのはユウキとサツキのはず…。

 

 アルゴ「オレっち、チョコが本当にドロップするかどうかの情報を持ってるんだよナ~。誰かこの情報知りたい人いるカ?」

 

 オウガ「はいッ!教えてくれ!」

 

 アルゴ「じゃあ情報料くれヨ」

 

 オウガ「…マジかよ」

 

 情報屋の洗礼にあったオウガは渋々、アルゴに指定された金額を支払っている。…そこは金額の交渉をしてもいいと思うけどな。何だかんだでオウガも騙されやすい人間なのかもしれない。

 

 アルゴ「まいど!…結論から言うと、チョコはドロップする、但し超低確率だけどナ」

 

 アルゴはそう言いながらストレージから小包を取り出した。その小包の中には色々な形のチョコが入っていて、アルゴはその中の一つを取り出すと、口の中に丸いチョコを放り込んだ。アルゴは大変幸せそうな顔をしており、それを見た俺は、逸早くチョコを入手したいと思わされてしまう。いや、いっそここでアルゴからチョコをもらえばいいのでは…?アルゴは俺を信頼してくれているらしいし、義理チョコとして頂くという手も…。

 

 アルファ「あの~、アルゴさん、良かったらチョコくれませんか?」

 

 アルゴ「ん~、…ダメだナ、チョコっていうのは己の頑張りの勲章ダ、誰かにもらうものじゃないんだヨ」

 

 アルファ「さいですか…」

 

 確かに、アルゴの言うことにも一理ある気がしたので、ここは大人しく引き下がって地道にモンスターを倒すことに決めた。

 

 アルゴ「それに…あっ、そうダ!キー坊からアー坊に伝言があるんだった。『午後三時頃からフィールドボスの討伐を始めるから、良かったら来てくれ』だってサ」

 

 サツキ「フィールドボスの攻略って確か明日やったと思うねんけど」

 

 アルゴ「その予定だったんだケド、攻略組の中で、フィールドボスを倒せば、ボーナス獲得でチョコが手に入るんじゃないかって意見が出始めて、安全マージンも取れているわけだカラ、せっかくだし今日攻略しようって流れだナ」

 

 サツキ「そこまでする必要あるんかなぁ…」

 

 サツキが若干引き気味に感想を述べると、アルゴがそれに反応する。

 

 アルゴ「チョコ嫌いなのカ?」

 

 サツキ「そういうわけじゃないけど…」

 

 ユウキ「とにかく、一旦街に戻ってお昼ご飯食べてから、フィールドボス倒しに行こっか」

 

 特に異論もなかったので、おれたちはギルトマスターの発言に従い主街区に戻ることにする。ユウキがアルゴを食事に誘ったのだが、アルゴはこの後調査したいことがあるらしく、名残惜しそうにその場を去っていった。

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 アルファ「よっ、キリト、久しぶりだな」

 

 キリト「おぉ、アルファ、来てくれたんだな」

 

 アルファ「ボス戦のこと、教えてくれてサンキュー」

 

 キリト「アルファたちがいる方が勝率がウンと上がるからな」

 

 アルファ「キリトとアスナがいれば十分だと思うけどなぁ…」

 

 フィールドボスが出現するエリアの少し手前が今回の集合場所となっていたため、昼休憩を取った後、その場に向かうと、キリトを始めとする攻略組の面子がボチボチと集まり始めていた。因みに、道中に何度かモンスターとエンカウントすることはあったが、チョコがドロップすることはなく、そろそろ己の運のなさに嫌気がさし始めてきた。

 

 アルファ「キリトはもうチョコをゲットできたのか?」

 

 キリト「あぁ、バッチリ入手したぜ、あのまろやかな甘みは最高だよな~。特に…」

 

 アスナ「ドロップしたのは私でしょ?自分の手柄みたいにしないこと!」

 

 チョコの素晴らしさを自慢げに語っていたキリトは背後から現れたアスナにお灸を据えられた。もしかしたら、キリトも俺と同じくリアルラックは低い方なのかもしれない。

 

 アルファ「ふ~ん、アスナはキリトにチョコを上げたのか。…なるほどねぇ~」

 

 アスナ「…アルファ君?あんまりバカなこと考えてると、レイピアで突っつくからね」

 

 氷点下の笑顔でギラリと鋭く輝く細剣を向けられた俺は、即座に両手を上げて降参した。キリトとアスナ、お似合いの組み合わせだと思うのだが、どうしてくっつかないのだろうか。こんな事を聞いてしまえば、アスナの憤怒によって俺は殺されることが確定しているので、言葉にすることは無い。

 

 キリト「そろそろ攻略が始まりそうだな、気合い入れていこうぜ」

 

 キリトの言うように、段々と多くの人数が集合場所に集まり始めていた。俺はそろそろ時間かと思い、各地に散らばっていたユウキ、オウガ、サツキを集めて、最終確認を行うことにした。今回のフィールドボスはオーソドックスな型でギミック解除や特定のアイテムが必要になってきたりしない。落ち着いて戦えば、何の被害もなくフィールドボスに勝てるだろう。…最も、今回に限っては、チョコのおかげで、ほとんどが野郎で構成されている攻略組の士気が一段と高く、そんな心配はいらないかもしれない。

 

 オウガ「ヨッシャァ!気合い入れてボスぶっ倒すぜッ!」

 

 オウガが拳を高く掲げた。それに合わせて俺、サツキ、ユウキが拳を空に向けた。

 

 ユウキ「それボクの役割なんだけど!」

 

 サツキ「まぁまぁ、今日ぐらいはええやん?」

 

 ユウキは、ボス戦前に行うリーダーとしての役割をオウガに奪われたことに冗談っぽく怒っていたが、サツキが微笑しながらユウキを宥めている。そんな微笑ましい様子を見ていた俺は、スリーピング・ナイツが更に心地の良いギルドになってきているのを肌で感じ取りつつ、ボス戦に臨んだ。

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 今回のフィールドボスは巨大なハリネズミもどきの怪物で、背中の針をミサイルのようにぶっ放してきたり、地面に潜って、こちらの視界から消え去ったりと、それなりに面倒くさいボスだったが、その体力も残り僅かとなっている。そうこうしているうちに、ディアベルが巨大ハリネズミの柔らかい横腹を一閃し、ボスを仕留め切った。周囲にはいつもよりも一層大きな雄叫びがフィールド上に響き渡る。その雄叫びによってモブが引き寄せられるのではないかと思わされるほどだ。

 

 オウガ「オオッ!チョコがドロップしてるぜ!」

 

 オウガの一言によって、周りのプレイヤーも本来の目的?を思い出し、急いでドロップ品を調べ始めた。一瞬の静寂の中、ポツリと誰かが「チョコだ!」と歓喜の声を上げたことを皮切りに、再び絶叫が周囲を包む。

 

 ユウキ「!ボクもチョコゲット~!」

 

 サツキ「アタシも落ちてるわ」

 

 この戦いに参加した誰もがチョコを入手出来ている、そんなムードが出来上がりつつある中、あるプレイヤーは絶望的状況にあった。

 

 アルファ「……ない、チョコが、ないッ!?」

 

 確定ドロップじゃなかったのか?何度アイテムストレージを見直しても、チョコらしきものは見当たらない。ここまでくると不運どころか神様に見放されてるのではないかと、ネガティブな感情が心に押し寄せてくる。

 

 オウガ「オイ、そんな顔してどうした?」

 

 サツキ「この世の終わりみたいな表情やな」

 

 アルファ「…チョコがドロップしなかった…」

 

 膝から崩れ落ちた俺を心配してくれたのか、オウガ、サツキ、ユウキが俺の近くに来てくれた。俺がその理由を伝えると、次第に、何とも言えない微妙な空気が漂った。…いや、俺も結構チョコ楽しみにしてたんだよ!?何で俺だけこんな目に遭わなきゃいけないの!?しばらくすると、その雰囲気を破るようにユウキが言葉を発する。

 

 ユウキ「じゃあ、ボクのチョコ分けてあげるよ!」

 

 オウガ「心配すんな!俺の分も分けてやんよ!」

 

 サツキ「アタシも、もちろんな」

 

 そう言った三人はそれぞれのチョコ袋からチョコを取り出して別の袋に入れてくれた。そんな様子を見かけたキリトとアスナもそれぞれのチョコを分けてくれる。

 

 アルファ「…みんな、ありがとな」

 

 自然と、感謝の気持ちが言葉になる。俺は本当に良い仲間たちに恵まれているのだろう。貰ったチョコを口に入れると、まろやかな甘さだけでなく、優しい味がした気がした。

 

 

 

 

 

 

 




 はい、タイトル見てユウキがチョコづくりすると思った人、いましたか?…そんな皆様へ筆者が送る言葉は唯一つ。引っ掛かったなっ!
 ユウキがいつ料理スキルを取ったなんて、いつ説明しました?(ゲス野郎)
 ちょうど茅場さんもちょっと暇そうでしたし、今回の企画を手伝ってもらいました。

 では、また第24話でお会いしましょう!
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