少しイメージしずらい文章になっていた気がするので、補足説明を入れておきました。
アルファ「オウガ!そっち行ってるぞ!」
オウガ「…!クソッ!」
アルファに呼びかけられたことをきっかけに前方へ意識を向けると、タコのようなモンスターがこちらに向かって槍を突き出していた。オレは慌てて突きの軌道から身体を逸らして、攻撃を避ける。その動きに合わせて、オレ自身もタコに向かって槍を薙ぎ払うように強打した。それによってタコは大きくノックバックし、アルファがその隙をついて、ソードスキルでとどめを刺してくれた。
アルファ「どうした?疲れたのか?」
オウガ「……大丈夫だ」
オレは今、迷宮区タワーの中にいるんだ。しっかりと神経を張り巡らして、集中しなければ、たちまち死んでしまう。だというのにオレはボケっとして、目の前に注意を張り巡らしていなかった。…しかし、どうもあの日以来、オレはこのギルドで攻略をするということ何処かに違和感を感じている。最も、その違和感の原因はオレにあるんだがな。
ユウキ「アルファ!助かったよ!」
アルファ「ちょっとは気を付けてくれ」
ユウキ「アルファを信頼してるからこそだよ?」
アルファ「はいはい…」
オウガ「……」
ユウキがアルファに笑顔で話している様子を見て、オレの心は一段と沈んだ。そう、あの日以来、必要最低限の会話以外でユウキと話すことは一気に少なくなった。オレが話しかけても、ユウキはまだどういった対応をすればいいのか分からないようで、オレに対して微妙な反応を見せている。それに対して、俺の目にはどうしても、ユウキが、アルファには今まで以上の笑顔を見せているように映ってしまう。
やはり、アイツが存在しているから、オレは振られたのだろうか。アイツがいなければ、結果は違ったんじゃないだろうか。そんな気持ちが胸の中に浮かび上がってくると、同時に、酒場で偶然出会ったあの男の言ったことが思い出される。
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オウガ「…な、…うだ?」
「オイオイ、もう少し大きな声で言ってくれ、俺は聞き耳スキルを持ってないもんでな」
オウガ「どんな、方法だ?」
この言葉を誰かに聞こえるぐらいの声量で発するだけで、心臓がバクバクし、全身から汗が吹き出る。だが、ここまで言ってしまったからには、もう後には引けない。その方法について聞くしかないだろう。オレはある意味でボス戦や告白なんかよりも緊張しながら、目の前の男が喋り出すのを待った。
「お、そいつを聞くってことは、…そういうことなんだろ?」
オウガ「……」
「無言は承諾と解釈させてもらうぜ…で、肝心の方法だが、」
「…デュエル中に相手をキルする、それだけだ」
オウガ「…時間の無駄だったな。そんなことァ、どうあがいても、不可能だろ」
この男の戯言に真剣に付き合ってしまったオレ自身に呆れながら、もうここに用はないので、席を立ち、酒場から出ようとする。しかし、この男は、そんな俺の腕を掴んでから、チッチッチ、と口元で指を振って言葉を続けた。
「そう慌てんなよ。肝心なとこはこっからだぜ?」
オウガ「…続けろ」
「確かにお前の言うとおりだ。だが、それをいとも簡単に為せる技がある。…それも、第一層に引きこもっている奴らが最前線のプレイヤーをヤれるぐらいにな」
オウガ「それは流石に無理があるだろ」
正直言って、この表現は誇張が過ぎるだろう。デュエルになれば、低レベルプレイヤーが高レベルプレイヤーに勝つ術など、在りはしないのだ。この男は高レベルプレイヤーを縄で縛るとか言い出すんだろうか。そんなことの方がよっぽど不可能だ。それに、この手の誇張表現を使う奴らは詐欺をする連中に多い。何故そう言えるかというと、オレも現実世界では、この手のやり口で高校時代や中学時代の関係の薄い知り合いにマルチ商法を仕掛けられたりした経験があるからだ。
最も、こんなところでその経験が役立つとは思いもしなかったがな。…今起きたことは忘れればいい。そう思って、今度こそ、酒場を出ることを決意した時に、男が言ったことに衝撃が走った。
「相手が寝ている間に、デュエル申請を送る」
オウガ「!…だとしても、相手が受諾しねぇとい…」
──意味がない。オレがそう言い終える前に男は続けた。
「そして相手の腕を動かして、デュエル申請を受諾させる。そうすりゃあ、後は無防備なサンドバッグの出来上がり、だ」
オウガ「なるほど…」
男の言ったことにシステム上不可能な点はない。これならば、先ほど言っていた低レベルプレイヤーでも高レベルプレイヤーを殺せる、という表現は誇張でもなんでもなく、ただの事実だ。
「この知識をどう活かすかはお前次第だ。楽しいショウを期待しているぜ」
男はオレが何かを聞き返す前に手をひらひらと振りながら酒場を出て行ってしまった。酒場に取り残されたオレは、しばらく何も考えずにひたすら酒に溺れた。
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サツキ「オウガ?またボーっとしてんで」
オウガ「…わりぃ」
ちょっと気を抜いたら、すぐに目の前のことに集中できなくなってしまう。とにかく今は、無事に主街区までたどり着くことに意識を向けなければ。…後のことは、主街区にある何処かの酒場でゆっくりと考えればいい。そう結論付けたオレは深呼吸をして、気持ちを切り替えた。
サツキ「気持ちは分かるけど、主街区まであとちょっとやねんから、そこまでは集中してや?」
オウガ「…オゥ」
この反応からして、やはりサツキはオレとユウキの間に起きたことを察しているのだろう。サツキの観察眼は相当なものだ。それは戦闘であっても、人間関係であってもだ。…それでも、心の奥深くで思っていることだけは、悟られないように気を付けなければ、とオレは無意識にそう考えながら、主街区まで気を引き締めて歩いて行った。
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しばらくフィールドを歩いていると、オレ達は主街区に到着した。今まで通りなら、これから皆でご飯を食べに行ったりしていたが、今はオレとユウキの関係がすれ違ってしまっている状態のため、そういう訳にもいかず、寝るまでの時間をバラバラに過ごしている。アルファが一緒に飯でも行かないか?と声を掛けてくれたが、オレはどうしても一人になりたい気分だったので、その申し出を断った。
今は第十二層の主街区にある居酒屋を訪れている。この世界に来てから、様々な種類の酒を飲んできたが、オレはここのハイボールっぽいやつが一番気に入っている。一人でいると気は楽だが、どうにもいろいろなことを考え込んでしまう。
オウガ「はぁ…」
いつの間にか、オレはユウキの事ばかり考えていた。一度は振られたものの、そう簡単に諦めれるほど、オレは出来た人間ではない。だが、どうせこの先どれだけユウキにアピールしても、どれだけ愛の気持ちを伝えても、オレがユウキと結ばれることはまずないだろう。障害となっているのは、やはりアルファだ。ユウキの傍にアイツがいる限り、オレに勝ち目はない。そうは言っても、アルファとユウキを物理的にも精神的のも引き離す合理的な理由などないのだ。いや、一つあるとすれば、それはアルファの死…。
オウガ「…デュエル」
ボソリ、とオレは独りでに口を動かした。オレの頭の中で、あの日の夜に酒場で出会った男が言っていたことが思い出される。あの男の言う通りにやれば、犯人がオレであることを証明することは出来ない。その上厄介なアルファを消せる。ならば、ユウキの心もオレの方に寄ってくるだろう。
…オレの望みを叶えるには、この方法しかないのではないか?そんな思いが全身を駆け巡り、正体不明の焦燥に駆られる。…そもそも、アイツはズルい。オレがユウキと出会う前からずっと一緒に日々を過ごしていたんだ。そんな強い絆で結ばれた二人にオレの立ち入る隙なんて皆無に等しいじゃないか。オレが対等に渡り合うためには、アイツがいない状況を作り出すしかない。それこそが万人における機会の平等と言えるのだ。だったら、オレがアイツを殺しても許されるべきなんだ…。
オウガ「………やるか」
自分でも驚くほど冷たく無機質な声で、そう呟いたオレは、時刻を確認した。午後11時37分。オレは丑三つ時が過ぎたあたりで計画を実行することに決め、宿に向かった。
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ユウキ「…ねぇ、サツキ、ちょっと相談に乗って欲しいんだ、いい?」
迷宮区のダンジョンから主街区まで戻ってきたボク達は、これまでとは違って、個人個人で夜を過ごそうとしていた。…何もかも、ボクのせいだ。ボクがオウガにどう接したらいいか分からないから、ギルド内での連携とか、雰囲気とかが微妙にギクシャクしてるんだ。現に今日も、ボクがオウガの方へモンスターが近寄っているのに気が付いていたのに、どう声を掛けていいのかが急に分からなくなってしまって、アルファが気づくまで、オウガに知らせることが出来なかったのだから。
そんな風に思っていたボクは、いつでも周りを見通せている頼れるサツキにこのことを相談しようと考え、食事に誘うことにした。別に相談事ならアルファでも良かったのだが、内容が内容だし、自慢しているように取られるのが怖かったので、今回はサツキを選んだ。
サツキ「うん、ええよ」
サツキはすんなりとボクの申し出を承諾してくれたので、ボクは適当な店を選んで、入店する。メニューを見てから料理を注文して、しばらくはボクの首にかけているロザリオはどこで手に入れたのか、などの他愛もない話をしていた。
サツキは面白そうにボクの話を聞きながら、届いた料理をつっついている。ボクも中華っぽい何かを食べながら、話を進めていった。二人のお皿が空になった頃に、ボクは満を持して本題に入った。
ユウキ「えっと、今日、相談したいって言ってたことは…」
サツキ「あぁー、オウガとどう接したら良いかって話やろ?」
ユウキ「うん、そうなんだけど…。って、え…?サツキに話したことあったっけ?」
サツキがボクの相談事を言い当てたにも関わらず、ボクは流れで話を続けようとしていたが、途中でその事実に驚き、話を止めてしまった。
サツキ「まぁ、ユウキとオウガの様子を見てたら、なんとなくな」
ユウキ「サツキ…凄いね」
サツキ「どうも」
サツキは、あくまでも当然だ、といった様子でボクの賛辞を受け流していた。
ユウキ「それで、どうしたらいいのかな?」
サツキ「別に、これまで通り普通にすればええんちゃう?知らんけど」
ユウキ「これまで通り?」
サツキが言ったことの意味が分からず、ボクは言葉を繰り返した。
サツキ「そ、これまで通り。言いたいことがあったら言えばいいし、話したいことがあれば話せばいい。むしろ、今みたいに、変に遠慮し合う関係でいたいん?」
ユウキ「それは、嫌かな。…そうだね、ボクが色々考えすぎてたみたい」
ボクの心の中で燻っていたモヤモヤが一気に晴れていく。…やっぱりサツキに相談して正解だった。アルファじゃこうはいかなかったかもしれないし。
サツキ「それに、告白断った時にオウガに無理やり迫られたりせんかったんやろ?」
ユウキ「うん、それどころか、帰り道の心配してくれたよ」
サツキ「やったら、オウガの根っこはいい奴ってことやな。…無理やり嫌なことしてこんてっことはな…」
ユウキ「相談乗ってくれてありがと…?どうしたのそんな顔して?」
サツキの顔を見ると今までとは打って変わって、何かを憎んでいるような恐ろしい表情をしていた。ボクがそう指摘すると、サツキはその表情をすぐに消し去ってしまった。
サツキ「ごめんごめん、ちょっといらんこと思い出してな。…そろそろ店出よっか」
サツキはボクに有無を言わさずにスタスタとお店の出入り口に向かっていく。ボクはサツキに何も言えないまま、お店を出て、宿の方へ歩いた。
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午後三時ジャスト。オレは目覚ましアラームでこんな夜更けにベッドから飛び上がった。中途半端な時間帯に目覚めたせいか、頭の中は寝ぼけるどころか、妙に冴え渡っている。オレは余計なことは考えずに自室を出て、すぐ隣の部屋のドアノブをそっと開けた。予想通り、アルファはしっかりと熟睡している。
オレはベッドに横たわる無防備なアルファに対して、機械的にデュエル申請を行う。そして、アルファの腕を掴んでデュエル申請の受諾ボタンがあるであろう場所にその指を動かした。デュエルの内容はもちろん完全決着モードだ。しっかりと受諾ボタンを押せたらしく、デュエルが始まるまでのカウントダウンが始まった。
オウガ「…」
バクバク、バクバクッ!と心臓がうるさいほど鳴り響いている。だが、頭は驚くほど冷え切っていた。…あと五秒、あと五秒経ったら、オレが今手に持っているダガーをアルファの心臓に突き立てればいい。そうすれば、アルファはものの数秒でそのHPバーをゼロにしてこの世界から消えてしまうだろう。その時が来ればオレの望みは叶うんだ…。
オウガ「オレの、望み…?」
ふと、オレは自分が抱いていることを疑問に思った。確かに、アルファが死ねば、ユウキがオレのものになる可能性は大いに上がる。しかし、オレの望んでいた結末は果たしてこんなものだったのだろうか。刹那の思考の後に、オレはある真理に辿り着いた。
オウガ「ち、ちげぇよ…オレが望んでんのはこんなもんじゃ無かったはずだッ…!」
これではオレ自身だけの幸せを追求しているだ。だったら?だったらオレが欲してやまなかった本当の結末は?…そりゃあ、オレのことをユウキに好いてもらうことだ。でもそれはもう無理な話になってしまった。ならば次点は?オレの小さな幸福の為にユウキの幸せを犠牲にすることなのか?…オレは、オレがッ!
──オレが本当に望んでいることは、オレが幸せになることなんかじゃない。ユウキ自身がが幸せになることなんだ…。
オウガ「ハッ…遅せぇんだよ。気が付くのが遅すぎんだろうがよォ…」
既にデュエル開始までのカウントダウンは終了し、デュエルは開始されていたが、オレはアルファの胸にダガーを突き刺すために動き出すことなく、その場に崩れた。己の本当の気持ちに気が付いてから、今更ながら、自分のやろうとしていたことがどれだけ愚かなものだったのかを思い知ったのだ。オレの目からは涙が溢れ、嗚咽は止まらない。殺意を込めて右手に握っていたダガーは、もうその手で掴むことは出来なかった。
どれほどの間、泣きはらしていたのだろう。空は段々と、少しずつ明るくなってきていた。オレはアルファに包み隠さずオレの犯そうとした罪を伝えることがケジメの一つであると考え、その場から逃げ出すことなくアルファが目覚めるの時を、だんざいのときを待ち続けた。
アルファ君は、無事に助かりましたとさ。…まぁ、曲がりなりにも主人公であるアルファ君です。こんなしょうもない死に方は筆者が許しません。
では、また第27話でお会いしましょう!