今日は雲の上でのほほんと、過ごせる夢を見させてください。…雲から落下するなんてオチは無しでお願いします。
──いい朝だ。
俺にしては珍しく、強制起床アラームが鳴る前に目を覚ますことが出来た。窓の外を眺めるとまだ外は薄暗く、ぼんやりと空が明るくなり始めているぐらいの時間帯だ。俺はその様子から、今が明け方であることを理解した。…これでは、目覚めたら朝日を拝むというルーティーンが出来ないではないか。
そう言えば、世界には太陽を信仰する文化が多数あるが、日本もその例に漏れない。日本の太陽神と言われるとアマテラスオオミカミを思い浮かべる人が多いだろうが、実はアマテラスオオミカミのよりも前から存在していた太陽神、アマテルがいることを知らない人は更に多いだろう。気になった方は是非調べてみてほしい。
と、現実逃避はここまでにしようか。現状を説明しよう、何故かは分からないが、俺が借りた寝室でオウガが顔を下に向けたまま、正座している。…本当に意味が分からない。
アルファ「…オウガ、これは一体…?」
取り敢えず、オウガに現状の説明をお願いする。すると、オウガは俺が目覚めたことに気が付き、目を大きく見開いてから、頭を床に擦り付けてしまった。
オウガ「本当に済まなかった…」
アルファ「!?」
オウガがやけに深刻な様子で謝罪の言葉を口にしたことに、俺は動揺を隠せないまま、ベッドから飛び起きる。オウガの傍に寄って、頭を上げるように促しても、オウガは一向に視線をこちらに向けてくれなかった。なので仕方なく、オウガの肩を掴んで無理やり俺の方に視線を向けさせた。
アルファ「…いきなり謝られても、何のことだか分からん。事情を説明してくれ」
オウガの真剣な声のトーンに合わせて、俺も真面目に尋ねる。…まさか、俺が爆睡している間に、ユウキやサツキの身に危険が迫っていたのか?オウガの申し訳なさが滲み出た表情から考えれば最悪…。俺はすぐさま四人の体力バーに目をやったが、二人の体力は満タンであり、何の問題もなさそうだった。なら、どうしてオウガはこんな様子なんだ?俺の疑問に答えるようにオウガが話し始める。
オウガ「オレはァ…アルファを殺そうとしたんだよ…」
アルファ「は?」
オウガの意味の分からない発言により、俺はますます頭の中がこんがらがってきた。俺は考えを纏めることすらせずに、オウガに聞き返す。
アルファ「俺を殺すって、何の冗談だよ。ここは圏内だぞ?そんなの不可能じゃないか」
オウガ「…デュエルシステムを応用するんだ。そこにあるダガーでオレを突いてみろ、そうすりゃ分かる」
本当に何言ってんだか…。俺は半ば呆れながら床に転がっていたダガーを拾う。ダガーでオウガを刺そうとしても、アンチクリミナルコードによって阻まれるとは思うが、一応、万が一のことを考えて、あまりダメージが入らないようにオウガの腕に向けて、そっとダガーを当てた。
アルファ「なッ…!」
俺の想像とは裏腹に、ダガーはしっかりとオウガの腕に突き刺さり、オウガのHPを僅かに削った。俺はすぐにダガーを抜いて、オウガの方を見やる。
オウガ「な?言ったろ?オレ達は今、完全決着モードの決闘をしてんだよ」
俺は目の前で起こっていることを中々受け入れられずにいたが、オウガが「アイ、リザイン」とデュエルの降参を示す言葉を唱えると、俺の視界の正面にwinnerの文字が現れた。対戦相手はオウガになっている。
そこまで来ると、否応なしにオウガが俺とデュエルをしていたという事実が認識できた。
アルファ「待て、デュエル申請の受諾は申請を受けた本人が承諾しないと…」
オウガ「オレがアルファの腕を動かしたんだよ。寝てる間にな」
アルファ「なるほど…」
確かに筋の通った話だ。完全決着モードを利用したPKということか。これなら相手を殺しても、プレイヤーカーソルはグリーンのままだろう。カラクリを理解した俺はオウガに尋ねる。
アルファ「…何故、俺を殺そうとしたんだ」
オウガ「…オレの私利私欲のためだ」
アルファ「なら、どうして殺さなかったんだ?」
オウガは何も言わない。だが、それは黙秘を貫き通そうとしているのではなく、俺に伝えるのに最適な言葉を選んでいるように見える。今度は俺の予想通り、オウガは再び話し始めた。
オウガ「……アルファを殺すことがオレの望みに繋がるわけじゃないと気が付いたからだ…」
オウガは真っ直ぐ俺の目を見てそう答えた。その真摯な様子から、その言葉に噓偽りがないことがしっかりと伝わってくる。
アルファ「…そうか。んじゃ、今日も攻略頑張ろうな」
オウガ「…は?」
アルファ「どうした?」
オウガは啞然としており、俺の言っていることが全く理解できないといった様子だ。さっきの俺も同じような顔をしていたのかもしれない。
オウガ「オレはお前を殺すつもりだったんだぞ!なんでそんなに平然としてられんだよッッ!」
オウガは若干納得がいかないようで、声を荒げるが、俺は冷静に言葉を返す。少なくとも、オウガは一度は俺のことを殺そうとしていたようだが、今のオウガには全くそのつもりは無いらしい。もしこれが、現実世界で起こっていたのなら、俺の意思に関わらず、オウガは中止犯なりなんなりで、法により罰せられていただろう。
だが、この世界には法律なんてものは無く、これまでにアインクラッドの世界が世紀末のような状態に移行しなかったのも、偏に皆の心に宿る道徳心のお陰である。この世界の掟は道徳心によって定められていると考えるなら、俺も自身の道徳心に従って、オウガのことを許したいと思っている。
アルファ「俺はオウガを許したい。それじゃダメか?」
オウガは目を見開いて俺のことを見つめたまま、数秒間フリーズし、その後に声を震わせながら呟いた。
オウガ「…お前って奴はァ…スゲェよ…ホントにスゲェ…こんなオレを許してくれて、ありがとう…」
アルファ「気にすんなって、俺達は仲間だろ?」
オウガ「……あ゛りがどう…」
アルファ「おいおい、泣くことはないだろ。ほら、椅子座れって」
オウガが泣き出すなんて想像もしていなかったため、少々面喰いつつも、俺はオウガを茶化しながら、部屋の一角にある、テーブルに誘導して、元々この部屋に備え付けられていたハーブティーを振舞う。
俺達がそれを飲み終える頃には、朝日もしっかりと昇ってきていた。オウガは部屋を出る間際にもう一度、俺に感謝の言葉を述べてから、自室に戻っていった。
アルファ「…しっかし、良くあんな方法思いついたな…」
オウガが部屋から出て行った後、ふとそんなことを疑問に思った。ただ、もしこれが誰かが既に考案したものであったら…。そう考えると、急に背中がゾクリとした。
…まさか噂のPK集団か?その予感を放っておいてはいけない気がした俺はすぐさま、アルゴにこの手のPKの情報を求める趣旨のメッセージを送信した。
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今日の攻略はパーティー間での連携がしっかり取れていた上に、オレもしっかりと集中して攻略に臨めていたため、特に危なげな事態に陥ることもなく、主街区に戻ってくることが出来た。心なしか、ユウキがオレに対して、昨日までのようなぎこちない様子ではなくなり、以前のような柔和な笑顔で話してくれるようになった気がする。
だからといって、もうオレは利己心のためにユウキを自分のものにしようとしたりすることは決してない。…ユウキはユウキ自身が好いている人と恋仲に落ちればいいのだ。つまりそれは十中八九アルファだろうが、アルファはオレのような罪人をも許す優れた道徳心の持ち主で、オレなんかよりもよっぽど良い奴だ。きっと、お似合いのカップルになるだろう。
アルファに罪を告白した以上、オレの為すべきことはあと一つ…。
ユウキ「ねぇってば!聞いてる?」
オウガ「…おっ、ワリィ、聞いてなかった」
ユウキ「今日はみんなでどっか食べに行こうよ!」
オウガ「…気持ちはありがたいが、今日はちょっとやらなきゃいけねぇことがあるもんでよ、また明日頼むわ」
オレがユウキにそう伝えると、どうやらアルファにも今日は先約がいたらしく、アルファもユウキの誘いをパスしていた。ユウキは、じゃあ仕方ないか、とサツキとどこかに行こうとしていたが、何とサツキにも先約があったようで、本日の夜は各個人での自由行動となった。
オレは武器防具のメンテナンスなどを済ませてから、深夜帯になるまで適当な場所で時間を潰す。飯屋で晩飯を食べていると、丁度良い時間になったので、オレはあの日の夜に見つけた酒場に向かった。あの日もこれぐらいの夜更けに酒場で飲んでいると、どこからかあの男が現れたのだ。オレは奴に、何故、あのようなPKの方法を知っていたのかを問い質さねばならない。…答えようによっては、何としてでも奴を黒鉄宮の牢屋にぶち込む必要があるはずだ。
オウガ「これがオレの償い…」
そう呟くことで自分の決意を確かなものにする。路地を何度か曲がると、その突き当りに例の酒場が見えてきた。オレは大きく深呼吸してから、ドアを開ける。
すると、朗らかな音楽と共に、マスターの陽気な「らっしゃい!」という声が店内に響いた。カウンター席を見やると、やはり黒ずくめの男が座っている。男の隣に座ったオレが飲み物を注文すると、男が話しかけてきた。
「よぉ、随分と早かったな。しっかりヤれたのか?」
殺そうとしていた相手と和解したなどと伝えれば、オレの求める情報が得られない可能性があるため、ここは無難に相槌を打っておく。すると、男は口元を綺麗に歪ませながら、愉快気に「そいつは良かったじゃないか…」と言った。
…今となっては分かるが、コイツの表情や声色の全ては作り物だ。今のオレには、この男が作り出している上っ面の陽気さの奥底に秘められた冷徹な雰囲気を自然と感じ取ることが出来る。…これは間違いなく黒だろう。オレは本題に入った。
オウガ「あのやり口はアンタが考え付いたのか?」
男はオレの顔を覗くように見つめてきた。
「お前、本当に殺したんだな?」
オウガ「あぁ…」
「…そうか、だったらこっちに来い。全部話してやる」
そう言った男は酒場の入り口とは反対にある裏口へと向かった。…最悪、オレのウソに感づいていたとしても、ここは圏内だから、PKの被害に遭う可能性はない。そう結論付けたオレは男に続いて、裏口に向かい、店外に出る。そこは巨大樹の枝先の最先端に位置しており、天然のベランダと化していた。男はその一番端で背を向けている。
オウガ「勿体ぶってないで、そろそろ教えてくれよ」
「お前ら、やれ」
男が右腕を掲げて、そう言った瞬間、背中にドスッ、と何かが刺さったような鈍い感覚が襲ってきた。オレは後方に振り向こうとしたが、途端に体が動かなくなり、その場に倒れる。視界の端には麻痺状態になったことを示すアイコンが表示されていた。…ここは圏内じゃなかったのか?
「コイツ、バカじゃないんですかねぇ」
「ホント、頭が回らないんだろうな」
数は二人。そのうちの一人はの後ろから襲ってきたであろう人物がオレの正面にやってきて、足で頭を踏みにじる。うつぶせに倒れていた俺は、身体が動かないせいで、地面と顔面が思いっ切り衝突した。もう一人はそのプレイヤーの傍でオレの横腹を思いっ切り蹴り飛ばしてくる。
オウガ「ガハッ?!」
おそらく、リーダ格であろう、黒ずくめの男がこちらに近寄ってきて、今度は本当に心底楽しそうな歪んだ笑顔と興奮した声で問いかけてくる。
「俺は目を見れば、そいつがヤれる側の人間かそうじゃないかぐらい分かるんだよ。お前は今から無様に殺される。なぁ、今どんな気分だ?…クハハッ!」
オウガ「ク、ソッ…動、け!」
オレは手探りにポーチの中にある解毒ポーションを取り出そうとする。
「…何やってんだてめぇ!」
だが、オレを麻痺状態にしてきた奴がそれに気が付き、オレの右手の甲に投げナイフを突き刺してくる。俺の手元は狂い、解毒ポーションを取り出すことは許されなかった。
オウガ「グッ…」
「今から目繰り抜いてやんよ…ケケッ!」
──万事休すか。そう思った瞬間、目の前のプレイヤーが吹き飛ばされた。オレは何が起こったのか分からず、視線を上にあげる。
アルファ「なんとか、間に合ったみたいだな」
そこには、オレの仲間であり、同時にその寛大な心に憧れを抱かされた漢でもあるアルファが堂々と立ちはだかっていた。
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アルゴ「その情報、どっから仕入れたんダ?」
アルファ「それは…まだ確証がないから、言えないな」
俺は今日の攻略が終わった後、朝に連絡しておいたアルゴと落ち合って、夕食に来ていた。何でも今日の情報料はアルゴに夕食を奢ればそれで良いようで、飯を食っている間はどれだけ情報を聞き出してもいいという食べ放題形式らしい。俺は出来るだけ元を取れるように努力することを心に誓いながら、まずは本命の情報を聞くことにした。
アルファ「それで、ここ最近のPK集団に関する情報はないのか?」
アルゴ「一応あるナ」
アルゴはフランスパンみたいに長いパンをムシャムシャと食べきってから、そう答えた。俺も同じようにフランスパンをスープにつけて味わう。フランスパンの硬い食感も好きだが、スープにつけて食べるのもまた美味しい。
パンをスープに漬ける行為は食事が不味いことを意味するため、あまり良くないことらしいが、一度パンとスープの組み合わせを知ってしまっては、中々やめることは出来ない。アルゴが続けて話す。
アルゴ「この主街区の中間地点辺りの路地にある酒場に溜まってる、っていう情報があるナ」
アルファ「そのマップとか分かるか?」
アルゴ「…アー坊、何するつもりなんダ?こういう情報はあんまり売りたくないんだヨ?」
アルファ「何も心配させるようなことはしねぇよ。それに、情報屋が知ってる情報売らないなんてどうなんだ?売れるものは売るのがモットーなんだろ?」
アルゴ「…それを言われると、売らないわけにはいかないナ。…ただ、本当に危ないことだけはやめてくれヨ?アイツらは本気なんダ」
アルファ「あぁ、約束させてもらう」
アルゴ「んじゃ、ホイッ」
アルゴはその酒場がある場所のマップデータを送ってくれた。それを受け取った俺は、お礼を言ってから、再び夕食を食べ始める。それから夕食を終えるまで、レアアイテムに関する情報からキリトとアスナの情報など、役立ちそうなことからそうでないことまで、多岐にわたって情報を聞き出した。更に、アルゴは俺のことを一応心配してくれているのか、PK集団に纏わる話を色々としてくれたりした。
夕食も終わり、支払いを済ませた帰り際にアルゴは「今日は珍しく元取られちゃったナ」と言い残してから、驚くべきスピードで街のどこかに消えていく。珍しく元を取られた、という発言からいつもは俺が情報を搾取されていることに気が付き、戦慄したものの、まぁ今日は元取れたらしいからいっか、と思い直して、宿のある方角へ向かう。
サツキ「もう話は終わったん?」
アルファ「うおっ!びっくした…」
街の中を歩いていると、突然後ろから声をかけられて、驚きのあまり頓狂な奇声を上げてしまった。
アルファ「ん?サツキか、今日は誰かと予定があったんじゃないのか?」
サツキはかなりの美人だ。今日はてっきり男性プレイヤーに食事にでも誘われたんだと思っていたんだが…。
サツキ「いや、予定なんかないで、アルファのこと待ってたんや」
アルファ「そうか…ってなんでや!」
予想外過ぎる返答に思わず俺は関西弁でツッコミをしてしまった。
サツキ「なんか危険なことするつもりやろ、ちょっと心配やったからな」
アルファ「なッ…なぜそれを…」
サツキ「アルファは顔に出やすいから」
アルファ「…む」
…少しポーカーフェイスの練習でもしてみるか。そんなことを考えていると、サツキが再び訊ねてくる。
サツキ「それで、何するつもりなん?」
アルファ「えーっと──」
俺はサツキに装備とアイテムの確認を終えたら、アルゴに教えてもらった情報に基づいて、PK集団が溜まっているかもしれない酒場に向かうことを伝えた。すると、サツキが「圏内やから大丈夫やろうけど、万が一のことがあったらユウキに示しがつかんから」などといった言い、俺に同行してくる。
PK集団は麻痺毒を利用するらしいので、俺達は解毒ポーションを余分に購入してから、マップデータに従って、巨大樹の枝が複雑に交差し合って迷路のようになっている路地を進んでいく。もう何度か路地を曲がれば目的地に着きそうになったその時、突如としてオウガのHPが減少した。
アルファ「ん?オウガの奴レベリングでもしてんのか?」
サツキ「次のデュエルはステータスで出し抜こうとしてたりして」
そんな他愛もない会話をしていると、とうとう酒場の前まで到着する。少し緊張するが、思い切ってドアを開けた。
アルファ「…誰もいない」
店内には酒場のマスターしかおらず、客席にはプレイヤーどころか、NPCの客さえいなかった。
サツキ「…無駄足やったな。戻ろか」
アルファ「あぁ…!」
俺もサツキと同じく踵を返そうとすると、酒場の裏口の方から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。だが、その声は呻き声だ。そしてその声と同時にオウガの体力が再び減少する。サツキもこれに気が付いたのか、お互いに顔を見合わせて、そっと、勝手口を開いた。
アルファ「!!」
そこには地に這いつくばるオウガを囲む三人のプレイヤーがいた。そのうち二人はグリーンではない。俺は直感的にコイツらが噂のPK集団であることを悟る。オウガの顔にダガーが振り下ろされる直前に勝手口から飛び出した俺は両手剣でそのダガーを弾き飛ばした。
オウガは啞然とした顔でこちらを見つめている。俺はオウガの手元に解毒ポーションを置いてから、こう言った。
アルファ「なんとか、間に合ったみたいだな」
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「オイオイ、そんなもんかよ!」
アルファ「くッ!」
俺はオウガを助け出してから直ぐに、ダガー使いと剣戟を繰り広げ始めたが、普段やっているデュエルと違って、相手は本気で俺の命を奪おうとしていることからか、有効打を決めることが出来ず、防戦一方を強いられていた。
俺が両手剣であるのに対して、相手はダガーを使っているため、手数や剣先の細やかな動きで相手の方が上回っており、こちらが攻撃をヒットさせる毎に、相手からは二撃、三撃攻撃を貰っている。その度に身体をずらすことで、かすり傷程度に抑えられているが、何処かでこちらのペースに持ち込まなければ、じわじわと追い詰められてしまうだろう。
アルファ「そこだッ!」
俺は相手がダガーを突き出してきたのに合わせて、両手剣の広い剣の腹を利用してツーハンドブロックの態勢に入る。それによってダガーの軌道は完全に潰れ、相手は仕切り直しのように後方へバックステップしようとした。
一瞬、相手の重心が後ろに倒れたタイミングで、出足払を応用して相手を背中から地面に落とす。
「なッ…!」
…いけるッ!そう思った俺は、相手を切り裂こうとした。だが、相手は両足で俺の腹を蹴り上げて、俺がそれに怯んだ隙に、その場から逃げ出してしまう。
「ボス!コイツ中々やりますぜ」
「…アイツは何してるんだ」
ボスと呼ばれている男が見た方向に俺も視線をやると、サツキがもう一人の男を圧倒していた。相手の体力はもう半分を切っている。
「おい、そこの女、そいつは俺の貴重な駒だ。殺されちゃあ困る」
リーダー格の男が余裕気にそう言うと、サツキは目の前の男との戦闘を放棄して、ボスの男に斬りかかった。奴のカーソルはグリーンだったため、サツキのカーソルはグリーンからオレンジに変化する。
「俺はグリーンだぜ?無実の人間に斬りかかるなんて、頭イってんじゃねぇのか?」
サツキ「はぁ?中身はオレンジの癖によう言うわ」
しばらくサツキと男が剣戟を続けていたが、急に男の方が大きく距離を取り、サツキに語り掛けた。
「ヤリ合って確信した。お前、こっち側だろ?」
サツキ「!…あんたらなんかと一緒にせんといてッ!」
男がよくわからないことを言ったと思えば、サツキはこれまでに見たことの無いほど険しい表情を浮かべながら、物凄い剣幕で言い返す。
「図星かよ。…なぁ、俺と一緒に来るつもりはないか?きっとお前が今送っている生活よりもエキサイティングな毎日が待ってるぜ」
英単語を流暢に発音した男は、どうやらサツキをPK集団に勧誘しているようだ。だが、サツキは「あほ言ってんちゃうで!アタシは絶対に、お前らみたいにはならへんねん!」と叫び、サツキらしかぬ猪突猛進な動きで男たちに迫っていく。
だが、男は「ツレねぇなぁ…」と呟いてから、いつの間にか手に持っていた紫色の玉を思いっ切り地面に投げつけた。なんと、紫の玉は煙玉だったようで、それが地面にぶつかり、破裂した途端に、辺りは紫色の煙で覆われた。そのせいで俺達は視界を奪われるも、幸い、その毒っぽい見た目に反して、デバフ効果は無い。
しかし、煙が晴れた頃にはもう奴らは何処にもおらず、俺達三人はその場に取り残されてしまったのだった。
リーダー格の男って、一体どこの黒ポンチョだって言うんだ…。黒ポンチョ君の出番は、次何時になるかは全くわかりません。
オウガに焦点を当てるのは、一旦今回で終わりまして、次回からは、サツキにスポットライトを当てていきたいと思います。
では、また第28話でお会いしましょう!