~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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 明日休みってマジですか?筆者、感激です!


第30話 白い日

 アルファ「…遅い…」

 

 待つ。ひたすらに待ち続ける。俺は待ち合わせ場所に指定した転移門の前にて、かれこれ三十分ぐらい手持ち無沙汰に突っ立っていた。俺は基本的には待ち合わせ時間を厳守するタイプだが、相手が時間ぴったりに来ることを要求するような人間ではない。

 だが、人間には限界がある。俺にとっての我慢の限界は三十分だったということだ。これは、遅れた分はしっかりと何かしらの埋め合わせを求めようと強く決心していると、背後にある転移門が輝き始めた。期待せずに出てくるプレイヤーを待っていると、そこから現れたのは、俺を待ちぼうけにさせた張本人であった。

 

 キリト「アルファ、悪い、遅れた」

 

 アルファ「流石にこれは大目玉だぞ。デートの待ち合わせとかだったらどうすんだよ」

 

 キリト「…アスナと同じ事を言わないでくれ…。ちょっと色々あったんだ。今日は奢るから大目に見てくれよ」

 

 アルファ「そりゃありがたい。そんじゃあ、行こうぜ」

 

 キリト「あぁ、案内頼むぞ」

 

 今日に会う予定だった相手のキリトがようやく集合場所に来てくれたので、早速、俺達は街の中心へ向かって行った。俺達が今いる階は第十一層、俺のお気に入りの店がある階層だ。俺は慣れた足取りで主街区を曲がりくねり進んでいく。ものの数分であっさりとキリトを店まで誘導し、カウンター席について料理を注文した。

 この店では、俺の好きな食べ物ランキング10位以内に入ってくる手羽先らしきものが食べられるのだ。注文し終えると、直ぐに料理が提供された。

 俺はキリトに本題を切り出す前に、肉厚な鳥っぽい何かにかぶりつき、肉のジューシーさと濃厚なタレの味を堪能する。キリトも、その旨さに衝撃を受けたようで、夢中で料理にがっついていた。一通り、注文した料理を食べ終えた後、俺達は近況報告などを交えながら雑談していた。

 

 キリト「でさぁ、その時アスナに怒られたんだよ…待ち合わせの時間にはキッチリ来なさい、って」

 

 アルファ「あ~、アスナは時間に厳しそうだからな。アスナに嫌われないように、十分前行動でも実践してみたらどうだ?」

 

 キリト「そんなことをしては、俺のスローライフに危機が…!」

 

 アルファ「…何言ってんだか」

 

 これは、アスナは将来苦労しそうだな。…いや、現在進行形で、か。俺達は無駄口をたたき合いながら、店内で、ゆっくりと休む。キリトは俺とは違って果実酒というお酒を飲みながら、話を続けていた。時間的にも、そろそろ本題に入るべきだと思った俺は、とうとうその話題を切り出した。

 

 アルファ「なぁ、キリト。そろそろあの日が近づいてきてんだけど、もうなんか考えてるのか?」

 

 キリト「何の日だ?」

 

 アルファ「白い日だ」

 

 キリト「白い日?」

 

 アルファ「そうだ。…ま、ホワイトデーのことだけどさ」

 

 キリト「和訳が無理やりすぎるな」

 

 …ちょっとした遊び心で、ホワイトデーを日本らしい言い方に変えてみたというのに、ここまであっさりとした対応を取られると、ちょっとムカつく。

 

 アルファ「…それで、だ。キリトは、アスナへのお返しとか決めてるのか?」

 

 キリト「…実を言うと、今アルファに言われるまで、完全に忘れてた…」

 

 アルファ「おいおい…。このままだったら確実にアスナにキレられてたぞ」

 

 キリト「…あぁ、きっと鉄拳制裁が待ってただろうな。考えるだけでも恐ろしい」

 

 アルファ「じゃぁ真面目にお返し考えないとな」

 

 キリトは、俺がそう言ってすぐに返事を返してくれる。

 

 キリト「……レアアイテムとか良くないか?」

 

 アルファ「…アリだな。どんな感じのなんだ?」

 

 キリト「ちょっと待ってくれ…こんなのだ」

 

 …性能うんぬんの前に、見た目が最悪だ。もしキリトが本気でお返しをこのアイテムにしようとしているのなら、俺はキリトとアスナの為に、全力で阻止しなければならない。

 

 アルファ「前言撤回だ。こんな気持悪い物渡すぐらいなら、お返ししない方がマシだ」

 

 キリト「やっぱりそうだよな…」

 

 「「う~ん…」」

 

 二人で頭を捻って、何かいいアイデアを模索してみるが、中々これといったアイデアが浮かんでこない。普通、ホワイトデーのお返しには、クッキーなどのお菓子を渡すのが定番だとは思うが、俺もキリトも料理スキルは持っていないため、お菓子を自作することもできない。…まぁ、俺の場合は現実世界でもお菓子を作ったことなどないのだがな。

 正直言って、オウガ、キリトへのお返しは、最悪、手に入れにくい強化素材とかでもいい気がするが、サツキ、ユウキ、アスナにはそうは問屋が卸さないと思われる。キリトの言っていたレアアイテムは良い案だとは思ったのだが、生憎、俺には余分なレアアイテムの在庫はないし、キリトが持っていたものは、不吉なドクロがモチーフの腕輪で、とてもじゃないが、お返しには適していなさそうなものだった。

 暫くの間、何も思いつかず、二人の間に沈黙が生まれたが、それを破ったのはキリトだった。

 

 キリト「三人寄れば文殊の知恵。強力な助っ人を呼ぼう」

 

 そう言ってキリトは手早く何者かにメッセージを送りつけた。キリトがメッセージを送ってから、少しすると、店内に何かが猛スピードで侵入し、一瞬にして俺達の前までやって来た。凄まじいスピードを見せつけてくれたそのプレイヤーは息絶え絶えになりながら、俺達に話しかけてくる。

 

 アルゴ「き、緊急、事態ってなん、ダ?」

 

 アルファ「…おいキリト、お前どんなメッセ送ったんだよ」

 

 キリト「これは俺達にとっちゃ死活問題だろ?」

 

 アルファ「…どうなっても知んねぇ」

 

 取り敢えず、アルゴに席についてもらい、料理を食べて、一旦落ち着いてもらってから、俺は事の顛末をアルゴに話した。

 最近、アルゴには、睡眠中にデュエルを用いた完全犯罪や宝箱に仕掛けられた新たなトラップについてなどの、その情報を知っておかなければ、今日明日に己の身を危険に陥らせる可能性のある話ばかりしていたので、最初はアルゴもそれはもう真剣な表情で俺の話を聞く態度を取っていたのだが、話が進むにつれてその態度はドンドンと軟化していき、俺の話が終わる頃には、適当に相槌を打ちながら追加の料理の注文をしていた。

 

 アルゴ「…それで、バレンタインのお返しに何か良い案はないか、と…」

 

 アルファ「…あぁ」

 

 アルゴ「…アー坊とキー坊はオレっちを何でも屋か何かと勘違いしてるダロ?」

 

 アルゴ「これの何処が緊急事態なんダ!」

 

 アルゴは明らかに不機嫌といった様子で俺に文句を垂れてきた。…確かに、アルゴにとってはこんな話はどうでもいいことだろうし、俺達の相談に乗る時間があるのなら、本業である情報屋としても仕事の一つや二つこなせたに違いない。

 だが、ここで今俺がアルゴにブーブー言われるのは、なんか違う気がする。明らかにキリトのミスだ。アルゴは再び届いた料理をスピーディーに食べ進めていく。その様子からしてアルゴもこの店の料理がお気に召したようだった。

 

 アルファ「…緊急事態だなんてぬかしやがったのは、キリトだろ?文句ならキリトに言ってくれ」

 

 アルゴ「…そうえばそうだったナ。キー坊、罰として、オレっちの頼んだ料理は全て持つように」

 

 キリト「…へいへい、俺の財布はもうすっからかんだ…」

 

 キリトは項垂れながら、これから出て行くであろうコルと自分の手持ちのコルの差額を想定して、相当悲しそうにしていた。しかし、こればかりは自業自得だ。俺は落ち込むキリトを放置して、アルゴと話を進める。

 

 アルファ「…それで、アルゴ、何か良い案はないか?」

 

 アルゴ「言ったはずだゾ。オレっちは情報屋だ。みんなのお悩みに答える何でも屋じゃないんダ」

 

 アルファ「…マジかよ」

 

 アルゴ「…でも、こんな穴場スポットを教えてくれたのと、最近の情報提供のお礼も込めて、サービスダ。オネーサンも手を貸して上げようカナ?」

 

 アルファ「それでこそ、アルゴさんだぜ!」

 

 キリト「調子いいなぁ…」

 

 思わぬ形で、最近の命を懸けた生活が報われた。やはり悪いことがあった後には良いことが転がり込んでくるものだ。この世界で数少ない女性プレイヤーからご意見を頂けるのは非常にありがたい。俺はアルゴに一身の期待を寄せて、彼女が考える女性が喜ぶホワイトデーのお返しについて尋ねる。

 

 アルゴ「これはオレっちの主観が入ってるとは思うけど、やっぱり、お返しされて嬉しいのは、お菓子だナ」

 

 キリト「でも俺達は料理スキルの熟練度を上げてないから、それは無理じゃないか?」

 

 アルゴ「キー坊は現実世界でお返しする時、どうするんダ?自分でクッキー焼いたりしてるのカ?」

 

 キリト「いや、そういう訳じゃないけど…」

 

 アルゴ「普段は店で買ってるんダロ?だったら、ここでも同じようにすればいいんじゃないのカ?」

 

 なるほど、料理スキルの熟練度を上げている他のプレイヤーに作ってもらうという作戦か。これは盲点だった。だが、問題はホワイトデーが目の前に迫っているというのに、そんなプレイヤーを見つけ出して、素材などを集めきれるのかという所だろう。俺の懸念点を代弁するかのようにキリトがアルゴに質問する。

 

 キリト「確かに、その通りかもしれないけど、現状で都合よくお菓子販売店を開いてるプレイヤーがいるなんてことは…」

 

 アルゴ「あるんだよナ、これが。第十一層の主街区にお菓子を販売しているプレイヤーがいるんだヨ」

 

 アルファ「へぇー、流石はアインクラッド一の情報屋だな」

 

 アルゴ「ニャハハッ!褒めても何もないゾ」

 

 当の本人はこのように謙遜?しているが、最前線での攻略情報や様々なクエストについてやちょっとした小ネタやPKに関すること、そしてその他にも強化素材やレアアイテムなどがドロップするモンスターに関すること、更には最前線以外で生活しているプレイヤー達の情報にまで精通しているとは…。

 きっとアルゴがこうやって身を粉にして情報屋としてうごいてくれているからこそ、俺達攻略組の階層踏破は実現しているのだろう。俺は純粋にアルゴの情報収集能力に感心すると同時に、改めてアルゴに感謝した。

 

 キリト「ちなみに場所は?」

 

 アルゴ「実際に店を構えているわけじゃなくて、露天商風にやってるから、大通りを歩いていれば分かると思うヨ。ただ、こんな夜中にはやってないけどナ」

 

 アルファ「アルゴ、サンキューな」

 

 アルゴ「いいヨいいヨ。オレっちも良さげな情報手に入れられたしナ」

 

 アルファ「ん?どういうことだ?」

 

 アルゴ「『キー坊はリアルでチョコを貰った経験がある。』この情報はアーちゃんにでも売りつけようカナ~」

 

 キリト「おい待て。あくまでも義理だからな。それにアスナがこんなくだらない情報をわざわざ買うとは思えないけどな」

 

 アルゴ「アーちゃんはキー坊の情報なら喜んで買うと思うヨ」

 

 アルファ「うん、絶対買うだろうな」

 

 キリト「アルファまでおかしなこと言わないでくれ」

 

 そんな無駄口を叩きながら、俺とアルゴはしっかりとキリトに晩御飯代を支払ってもらい、心もお腹も満足した状態で店を出た。アルゴと二人でキリトをからかったり、アルゴから情報を抜き取られて、それをキリトに煽られたりしながら、楽しく三人で転移門の方まで歩いて行った。

 別れ際にキリトとアルゴに明日の朝にもう一度ここで落ち合うことを約束してから、それぞれが今晩の宿がある階層に転移していった。アルゴは最後まで「なんでオレっちも着いてかなきゃダメなんダ?場所はもう教えたダロ?」と疑問そうにしていたが、今はそれに答えるわけにはいかない。

 ふと、時刻を確認すると午後十時を回っていた。そろそろユウキやオウガ、サツキも宿に戻っているかもしれない。出来れば、お返しはサプライズにしたいので、みんなにそれを悟られないよう気を付けなければ、と気を引き締めて宿屋に向かった。

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 キリト「…アルファ?約束の時間から十分ぐらい遅れてきたけど、昨日の俺に言ったことはどう説明してくれるのかな?」

 

 アルファ「…申し訳ありませんでした。ちょっと不慮の事故が…」

 

 アルゴ「女の子との待ち合わせに遅れるのは厳禁だナ」

 

 アルファ「…はい、ホントすいません」

 

 キリト「そうだそうだ~!」

 

 アルファ「こん畜生ッ…!」

 

 キリトは俺が遅れてきたことをいい事に、これ見よがしに棒読みを使って、俺を煽り立ててくる。アホほど腹が立つが、今回は悪いのは俺なので、ここは甘んじて受け入れるしかない。

 あれ程時間は厳守するタイプの俺が遅れてしまったのは、昨日の夜に起床アラームを設定するのを忘れてしまい、待ち合わせの時間に合わせて起床できなかったからだ。俺は朝に弱い人間で、目覚めてすぐに身体を動かすことができない。

 それでもなんとか体に鞭打って、ギリギリ遅れないぐらいの時間に宿を出発できそうだったのだが、そこでユウキに捕まってしまい、何処に行くのか問いただされてしまったのだ。その場は適当な言い訳をして、ここまでやってきたのだが、戻った時には更なる詰問が待っているだろう。

 

 アルゴ「じゃ、案内するヨ」

 

 アルゴはそう言って俺達を先導してくれる。この街はレンガ造りの建築物が等間隔に立ち並んでおり、西欧の街並みを想起させるデザインだ。

 ここならお菓子売りも周りの雰囲気とマッチしていてる上に、観光地としても優秀なので、売上も見込める、とお菓子売りのプレイヤーは考えているのかもしれない。

 案内の途中、何度かアルゴが欠伸をしているのを見て、もしかしたらアルゴも朝に弱いタイプなのかなぁ、などと思った。…俺は朝に弱いだけでなく、夜にも弱くて、徹夜なんてしたこともないんだがな。

 

 アルゴ「あのプレイヤーダ」

 

 アルゴが指さす方向を見ると、青年らしきプレイヤーの前に大勢の人々が列をなして集まっていた。恐らく、あのプレイヤーが例のお菓子売りなのだろう。売り切れてしまっては、一巻の終わりになってしまう。俺達も急いで列に並んだ。

 お菓子を買いに来ているプレイヤー達は皆、装備からしてミドルプレイヤーだろう。お菓子を購入した彼らの顔は笑顔で満ち足りていた。この世界に幽閉されてからはや四カ月ほどの時が過ぎたが、このように、前線に出ていないプレイヤー達も生活を楽しむ余裕が出来たようで何よりだと思う。

 

 キリト「お菓子売りのプレイヤーが居るから、みんなが笑顔になれるんだろうな」

 

 アルファ「…そうだな。ありがたい話だ」

 

 そうこうしているうちに俺達がお菓子を購入できる番がやって来た。幸いにも、どの商品もしっかりと残っており、俺達は選り取り見取りの中、お菓子を購入することが出来た。どの商品を買うか結構悩まされたが、後ろに並んでいるプレイヤーが大勢いるので、直感的に色とりどりのクッキーを7枚購入した。キリトとアルゴも各々買い終えたようなので、お菓子売りのプレイヤーにお礼を言ってから、その場を去る。そして、そのまま俺達は、攻略に戻るために転移門へと向かった。

 

 アルファ「まずはキリトにバレンタインのお返しな」

 

 キリト「マジか!?サンキュー!」

 

 アルファ「あぁ、キリトも俺にチョコ分けてくれたしな。それと、アスナにも渡しておいてくれないか?」

 

 キリト「了解だ」

 

 7枚クッキーを購入した理由は、性別に関係なくバレンタインの日に俺にチョコをくれた人全員にお返しをするためだ。つまり、キリト、オウガ、アスナ、ユウキ、サツキ、の五人分。そして、あの美味しそうな見た目を見ると、ちょっと自分でも食べてみたくなったので、俺自身に一つだ。そうなると計6枚となり、一枚余ってしまう計算になるのだが、俺にはもう一人クッキーを渡さなければならない人物がいた。それは…

 

 アルファ「そんで、アルゴにもクッキーやるよ」

 

 アルゴ「お、いいのカ?オレっちはアー坊にチョコあげなかったはずだったケド?」

 

 アルファ「いいんだよ。アルゴが言ってただろ?『チョコってのは頑張った証ダ』ってさ。いつも情報屋としてこの世界のプレイヤーのこと、支えてくれてありがとうな」

 

 アルゴは一瞬、目をぱちくりとさせてから、俺の差し出したクッキーを受け取った。

 

 アルゴ「…ふ~ん、ま、ありがとナ。今日の遅刻で見損なったケド、ちょっと見直しちゃったかもナ」

 

 アルファ「そりゃあ良かった」

 

 アルゴ「こんなことして、オネーサンのこと落とそうとでも考えてるのカ?」

 

 アルファ「まさか、俺にはそんな実力はねぇーよ」

 

 アルゴ「それは謙遜だと思うヨ。…ま、アー坊にはユーちゃんがいるからナ!そんなことすると怒られちゃうゾ!」

 

 アルファ「はいはい…」

 

 もうこの手の煽りには慣れてしまったので、適当にあしらっておくと、アルゴは大層つまらなそうにしていた。

 

 キリト「ユウキに飽き足らず、アルゴにまで手を出すなんて罪深い男だなぁ~」

 

 アルファ「…」

 

 やっぱり、慣れたとか言ったのは噓ってことでお願いします。キリトにそういうこと言われちゃうと、なんか、まずはアスナとラブラブな自分の身の上のことを理解してから言ってくださいね、って感じのことを言いたくなる。

 だが、今回はそうは言わない。…何度も同じようなことを言っていると耐性が付いてしまうからな。こういうのは緩急が必要なんだ。そして今回はそれ以上に強烈なカードがある。

 

 アルファ「キリト、一つだけ言っておく」

 

 キリト「ん?」

 

 アルファ「俺は今日、アルゴに日々の感謝を伝えた。しかし、お前はアルゴに感謝していても、それが相手に伝わる形で届けられていないのだ。…つまり、それが出来た俺とお前との間では、アルゴから貰える情報の質に大きな差が生まれるのだよ!」

 

 キリト「なん、だと…」

 

 アルゴ「あ~、確かに、ちょっと贔屓はするかもナ」

 

 キリト「…俺、クッキーをもう一個買ってくる」

 

 せっかく転移門の前まで来たのに、キリトは高ステータスを悪用した音速の速さで来た道を引き返していった。それを見たアルゴはその場で笑い転げている。俺はアルゴに別れの挨拶をしてから一足先にユウキ達の元へ戻る。

 …尚、キリトはあの後、アルゴにクッキーを献上し、アスナと合流して、バレンタインのお返し大作戦を成功させたようだが、後日アルゴがアスナに、キリトからホワイトデーにクッキーをいきなり貰った、という噓すれすれの情報を無償で提供し、それを邪推したアスナさんに問い詰められたという話はまた別の機会でお話しするかもしれない。

 

 

 

────────────────

 

 

 

 ユウキ「もう!アルファ!何処に行ってたの!」

 

 アルファ「いや、ですからちょっと野暮用に…」

 

 ユウキ「そんな見え見えの嘘はボクには通用しないよ!さぁ、白状して!」

 

 結局、みなが待つ宿屋に帰ってくると、宿屋の玄関の前でユウキが仁王立ちして待っていた。そして俺の姿を見つけると、すぐさまこうやって質問攻めにあってしまった。まぁ、当初の目的は達成できたので、もう白状するとしようか。

 

 アルファ「わかった!わかったから…取り敢えず、皆を集めよう」

 

 ユウキ「…ん、じゃあサツキとオウガ呼んでくるね。…その隙に逃げようとしても無駄だからね!」

 

 アルファ「どんだけ俺は信用ないんだ…」

 

 俺はユウキに腕を掴まれてグイグイ引っ張られていく。階段を登って俺の部屋に入ると、サツキとオウガがくつろいでいた。サツキは愛剣を磨いており、オウガはベッドの上でゴロゴロしている。…一応、ここは俺が借りた部屋なんですがそれは…。

 

 サツキ「お、アルファやん。どこほっついてたん?」

 

 オウガ「ったく、メッセの一つぐらい送れっての。みんな心配してんだからよォ」

 

 アルファ「…そうだったな、悪いことをした」

 

 そういえば、つい最近、PK集団に襲われたばかりだった。確かに、俺が圏内にいることぐらいは知らせておいた方が良かったかもしれない。その点については反省しつつも、俺はこれからみんながどんな反応をしてくれるのかが、楽しみで仕方がない。

 

 アルファ「実はだな…」

 

 俺はストレージから紙袋を取り出した。袋の中からはバターとは少し違うが香ばしい香りが漂う。それに惹かれて、サツキとオウガもこちらにやって来た。

 

 アルファ「今日はホワイトデーです!みんなにお返しを買いに行ってました!」

 

 ユウキ「えっ、ホント!?ありがと~!」

 

 サツキ「中々ええサプライズやん」

 

 オウガ「何買ってきたんだ?」

 

 アルファ「聞いて驚け…クッキーだ!」

 

 そう言うと皆の顔に衝撃が走った。やはりよもやこの世界でクッキーのような嗜好品が食べられるとは思っていなかったのだろう。ワクワクを隠し切れない三人の表情を一通り楽しんでから、クッキーを手渡していく。まずはユウキに、次はサツキ、そして最後のオウガにはクッキーの代わりに装備の強化素材をプレゼントした。

 

 オウガ「…えっ、お、オレの分は…?」

 

 アルファ「え?オウガはクッキーとかより、強化素材の方が喜ぶかなって」

 

 オウガ「…そりゃあねぇぜ兄貴…」

 

 アルファ「…ハハッ、冗談だよ。ほらっ、オウガも分も勿論ある」

 

 オウガ「兄貴ィ~、一生ついていくぜ!」

 

 オウガの絶望から希望へと顔を変化させるのを見て思わず俺は吹き出してしまった。みんなが俺のサプライズに喜んでくれたようで何よりだ。そう思った矢先、俺は隣にいるユウキの顔が全く笑顔でないことに気が付いてしまった。あのユウキがこの状況で笑っていないだと!?俺は重大なミスを犯してしまったのかもしれない。そう感じた俺は脳みそを総動員してある一つの答えを導き出した。

 

 アルファ「ユウキ、ごめん、もしかしてクッキー嫌いだった?」

 

 ユウキ「えっ、あ、いや、…ううん、違うよ」

 

 相変わらずユウキの表情は動かない。俺の考えは間違っていたようだ。もう一度考え直してみようと、頭を捻らせようとした段階で、サツキが笑顔で発言する。

 

 サツキ「アレやろ、ホワイトデーに渡すクッキーって『お友達のままでいましょう』って意味やん。ユウキにとってそれはなぁ~」

 

 アルファ「…それは初耳だ」

 

 これまでの人生の中で、チョコのお返しをしたことは何度かあるが、全てクッキーで返してたぞ。だったら、今までのチョコにはワンチャンあったってことか。おい、俺の青春の可能性を返してくれよ。…ま、貰ったチョコは全部義理なんですけどね。

 兎に角、ユウキがクッキーの意味を知っていて、それにショックを受けてしまった。これは紛れもない事実だ。…落ち着け、俺、ユウキの意図を考えろ。

 

 アルファ「……ま、そうか。俺達は、友達以上の計れないほどの絆があるもんな」

 

 サツキ「ふ~ん、それはどういう意味で?」

 

 アルファ「どういう意味って、…そりゃあ、コンビ?パートナーとして?」

 

 サツキ「…じゃあ、友達止まりではないとすると、恋仲に発展する可能性も理論上あり得ると…」

 

 ユウキ「!!」

 

 アルファ「まぁ、理論上はあり得…ってオイ!何言わせようとしてんだ!」

 

 サツキ「ん?ユウキも満更じゃないって感じやけどな~」

 

 アルファ「ユウキ!コイツになんか言ってやってくれ!」

 

 ユウキ「う、うん。ボク達には強い絆があるんだ!だからクッキーだとちょっと違うなって思うのは普通だよ!」

 

 …そうですか。次の機会があれば、クッキー以外のお菓子をお返しに選ぶことにしようか。

 

 サツキ「…因みにアルファさんはユウキさんと恋仲になる可能性はゼロではないとおっしゃっていましたが、」

 

 アルファ「俺はそんなこと言ってないぞ」

 

 サツキ「ユウキさんとしてはアルファさんはアリなんでしょうか?」

 

 ユウキ「ふぇ!?」

 

 ユウキは、顔を真っ赤にして、オーバーヒートしてしまった。これはしばらく再起不能だろう。

 

 アルファ「サツキぃ~悪ふざけも程々にしとけや!」

 

 サツキ「あはははッ!やっぱ人いじるんはおもろいな~」

 

 固まってしまったユウキを放っておいて俺はサツキに空の紙袋を投げつけた。しかし、サツキはひらりと身をかわす。サツキが俺達に心の悩みを打ち明けてくれた以来、サツキは以前とは違って、笑顔を見せることが多くなり、ことあるたびにユウキと俺をいじろうとする人間に進化してしまった。だが、サツキは俺達以外のプレイヤーをに対しては相変わらず信頼をおいていないようで、以前のような何処か一歩引いた接し方をしている。

 …クールビューティだったサツキが少し…いや、相当手の付けられないヤンチャ娘になってしまった気がするが、そんなサツキの方が今を楽しんで精一杯生きているように見える。そして、俺達の絆もまた一段と強くなった気がしていた。こうやってこれからも四人で仲良くやっていければ、それだけで俺は幸せだ。今はただひたすらにそう感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 息抜き程度に書き終えるつもりだったのに、結局いつも通りぐらいの文章量になってしまった…。

 では、また第31話でお会いしましょう!
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