~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

31 / 197
 もう祝日は終わりですか。
 …完全週休五日制で、給料は倍にしてください(無茶)


第31話 日常の中の非日常

 アルファ「…オウガ!」

 

 オウガ「おうよ!」

 

 次々と迫りくる亡霊兵共を大剣で吹き飛ばし、武器の性質上、接近戦が不得意なオウガに亡霊兵が近づいて来れないように対策する。亡霊兵と適度な距離を置いたオウガは、ベストポジションから片手槍スキルを発動し、固まっていた亡霊兵達を一網打尽にした。そんな俺達の背後から別の亡霊兵が数体、奇襲を仕掛けてくるが、俺達が対応するまでもなく、奇襲は阻まれる。

 背中を守ってくれるのはユウキとサツキだ。ユウキは、持ち味のスピードを活かし、亡霊兵相手に怒涛の連撃を浴びせて、瞬く間に亡霊兵をポリゴン片へと変化させる。それに対しサツキは、二体の亡霊兵が繰り出してくる斬撃を、確かな足捌きと剣の腕前をもってして、いなしていく。相手の動きが固まった瞬間に、まるで亡霊兵の身体を一刀両断するかのような鋭い一撃を浴びせて、亡霊兵の腕を切断し、相手の武器を奪った。そこからは華麗なステップと共に繰り出される芸術のような剣舞が戦場を支配し、気付いた時には、亡霊兵のHPはゼロになっていた。亡霊兵自身も何が起こったのか分かっていないような動揺を見せながら、消え去っていく。システムによって一連の戦闘が終了したと見なされ、経験値が四人に分割された。

 

 オウガ「ヨッシャ!レベルアップ来たぜ!」

 

 サツキ「お~、おめでとう」

 

 オウガはレベルアップ出来たことを喜び、拳を振り下げている。俺は時間的にも区切りが良いかと思い、最寄りの町まで帰還することを提案する。

 

 アルファ「…そろそろ、町に戻らないか?丁度みんなの目標値までレベリング出来たっぽいしさ」

 

 ユウキ「ボクはまだまだレベリングし足りないかなぁ~。…ちょっとアルファ!そんな露骨に嫌そうな顔しないでよ。冗談だから!」

 

 オウガ「いっちょ前に理由付けしてんけど、アルファはレイスが怖いからだろォ?だからいつまで経ってもガキなんだよ!」

 

 アルファ「…むぅ」

 

 …そんなに顔に出ていたのだろうか。俺達は今、21層のとある場所でレベリングをしている。因みに現在の最前線は21層だ。とある場所、と表したここは、通称「悪魔の城」と呼ばれているダンジョンのことである。悪魔の城は今の所、一番効率良くレベル上げを行える場所で、21層を攻略するために、日夜、前線組の多くのプレイヤー達がこのダンジョンを訪れている。

 確かに、必ず集団で出現する亡霊兵は経験値が美味しい上に出現頻度も高く、更には単調な攻撃しか繰り出してこないので、機械的に狩り続けるには持って来いだ。…だが、悪魔の城は名前の通りアンデット系のモンスターが多く出現し、所々に設置されている蠟燭の光以外に光源はなく、ダンジョンの雰囲気も薄気味悪い。そんな中で突然レイスに出現されると、この世界に来てから幽霊耐性の熟練度を上げ続けている俺でも、流石にちょっと怖い。…いや、相当怖い。

 

 サツキ「後ろにお化けおるで」

 

 アルファ「」ビクッ!

 

 サツキ「うそうそ~」

 

 アルファ「マジで勘弁してくれよ…」

 

 サツキはケラケラと笑いながら、随分と楽しそうだ。サツキの発言に心臓が喉から飛び跳ねてきそうなほど、胸がドキドキして、嫌な汗が流れたが、それはしょうもない嘘だったことが判明し、俺は胸をなでおろした。サツキが元気にスキンシップを取ってくれるのは、良いことなんだろうが、この場でそれをやられるのは、少々、精神衛生上よろしくない。

 クールビューティから元気いっぱいのおてんば娘に転身したサツキ。これまでのサツキの様子からは想像もつかない可愛らしい行動に、最近は毎日驚かされる。これが所謂ギャップとかいうやつなんだろうか。…その内、サツキがユウキに抱きつく日も近いんじゃないだろうか、などと妄想を膨らませていると、俺を除いた三人の議論が終了したようで、辛うじて、悪魔の城から町へ帰還し、今日の攻略を終えることが決定された。

 悪魔の城から脱出する道中に、何度かレイスとエンカウントすることがあったが、不意打ちでなければ、俺もビビることはない。この長い廊下を通り抜けると、もうすぐ悪魔の城の一階へと続く階段が見えてくる。そこまで行けば、もう出口は目と鼻の先だ。悪魔の城を出れば、ひとまずは安心だ。そんな風に思っていた矢先、突如として、細長く色白な腕が俺の左腕を掴んだ。

 

 アルファ「ッ!?」

 

 ユウキ「アルファ!?」

 

 なんの対処もできないまま、俺は「何か」に腕を勢い良く引っ張られ、絵画の裏に隠された人一人がギリギリ通り抜けられるぐらいの壁穴に素早く引きずれこまれていった。壁穴を乱暴に通り抜けさせられ、その先の空間に乱暴に投げ捨てられた俺は、目が回った状態の中、フラフラと立ち上がった。そして、俺はすぐさま右腕を掴んでいた「何か」の正体を確かめようと、前方に視線をやる。しかし、そこには何もおらず、古びた客室の赤く汚れた壁紙があるだけだった。辺りは静まり返っており、モンスターの気配はない。

 

 アルファ「…戻るか」

 

 その内、ユウキ達もここまで来るだろうが、俺は一刻も早くこの嫌な雰囲気が漂っている場所から抜け出したかったので、後ろを向いて踵を返そうとした。

 

 「ヒュオオオオオオオ──!」

 

 アルファ「んなっ!?」

 

 俺の背後には、レイスが潜んでいた。まるで俺が後ろを振り向くのを待っていたかのように、絶妙なタイミングでレイスが甲高い声を上げる。驚きと恐怖のあまり、俺は思わず、腰を抜かしてしまった。それを好機と見たレイスがすかさず、長い爪で俺の身体を切り裂き、俺はその攻撃によってスタン状態に陥ってしまう。

 …これはやらかしたかもな、と思っていると、突然、力強いライトエフェクトを伴った一撃がレイスの身体にポッカリと大きな穴を開けた。ライトエフェクトはそれだけで留まることはなく、どんどんレイスを貫いていき、レイスの身体を爆散させた。

 

 オウガ「おい、無事か?」

 

 アルファ「…いや~、助かった。サンキュー!」

 

 レイスを一瞬で片づけたのはオウガだった。…近くに誰かがいるというだけで、こんなにも安心感が得られるものなのか。今のオウガがいつものオウガよりも少し大きく、カッコよく見えるのは気のせいだろう。…まぁ、元から結構男らしい顔つきでカッコイイんだけどな。

 だが、こんな事を口にしたら、オウガが調子に乗ること間違いないだろうから、それは言葉にせず、感謝の気持ちを伝える。暫くするとユウキとサツキもこの部屋に入ってきた。最初こそ、ここから脱出することで頭の中が一杯一杯になってしまっていたが、いざ冷静に辺りを見渡すと、宝箱が一つ設置されていた。恐らくこの部屋は隠し部屋として用意されたものなのだろう。サツキに宝箱のトラップの有無を確認してもらい、トラップがないことが判明したので、レイスと対面した時とは違ったドキドキを味わいながら、宝箱を開けた。

 

 ユウキ「…結晶?」

 

 オウガ「そうだろうが…見たことねぇ色だぜ」

 

 宝箱の中には結晶が一つ入っていたのだが、オウガの言う通り、今までに見たことのない結晶だった。任意の主街区へ転移する転移結晶は青色、麻痺や毒状態を一瞬で解除する解毒結晶は緑色、時間経過による回復であるポーションとは違い、HPを一気に回復することのできる回復結晶はピンク色だ。

 しかし、目の前にある結晶は石英のような濁った白色をしている。取り敢えず、俺は、結晶をストレージに入れて、テキストを確認した。

 

 アルファ「…録画結晶?」

 

 サツキ「その結晶使ったら、映像が撮れるってこと?」

 

 アルファ「あぁ、テキストにはそう書いてある」

 

 ユウキ「ん~…ボク達にはあんまり使い道なさそうだね」

 

 オウガ「案外、レアもんかもな」

 

 俺は自分のことを助けてくれたお礼に、これを欲しそうにしていたオウガに録画結晶を譲った。オウガはたいそう嬉しそうにしていたので、俺が「売るのか?」と尋ねると、「これが世に出回り始めたタイミングでだな」と答えていた。確かに、現状、映像を撮ることに対する需要もないだろうし、今、誰かに売りつけたとしても、レア物だという点以外で高額になる要素がない。今売りさばけば、需要もなくて、コレクター向けな感じの物という扱いになってしまうのがオチだ。それならば、もう少し時を置いて、この世界で需要が出てくる時まで待つのが最適解か。そ

 んなことを自然と考えていたオウガには商才があるのか、それとも見た目的にも大学生ぐらいの年齢だろうし、大学や専門学校で商業に関することでも学んでいるのか…。そんなことを考えながらも、今度は油断はせずに悪魔の城の出入り口まで向かって行った。

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 ユウキ「…やっぱり、ちょっと町から遠いね…」

 

 アルファ「そうだな。これの何処が最寄り町なんだよ…」

 

 悪魔の城と最寄りの町の間には孤独の森と名付けられた深い森が広がっている。木々の葉が太陽の光が遮られることもあって、視界が確保し辛いことや、方向感覚を失いやすいこと、木々が生い茂っているせいで、死角が多く存在し、安全を確保し辛いことなどの、森林特有の面倒臭さだけでなく、そこを通り抜けるには、最短ルートを辿ったとしても、数十分はかかってしまう。

 これでは、いくら悪魔の城が効率の良い経験値稼ぎが出来る場所であったとしても、その道中のだるさから、俺とユウキが愚痴を零すのも仕方がないことだろう。しかも、孤独の森に出現するモンスターは、植物系や虫系だけで、森を保護色に存在感を消してくるため、非常に厄介だ。俺達は常に周囲を警戒しながら、町に向かって歩き続ける。ふと、俺達以外の所から、のっそりと地面を踏みしめてゆっくり歩くような足音が聞こえてきた。孤独の森では、足音の鳴るモンスターは生息していない。俺達は、特に、ユウキを除いた三人は、PK集団に襲われたこともあって、一気に警戒を強める。

 だが、幸運にも、今回はそれは杞憂に終わった。

 

 オウガ「…牛か?」

 

 サツキ「…そうやな、牛っぽいモンスターやな」

 

 少し離れた前方で、全長二メートルほどの牛型モンスターが、のうのうと孤独の森を移動していた。全身が黒く、尻尾は長い。頭部に立派な角が一本生えている点以外では、その姿は現実世界で言う黒毛和牛にそっくりだ。 

 牛系のモンスターは倒した時に大抵、肉塊をドロップする。肉の質は、そのモンスターによりけりだが、動物系のモブが出現しないとされているエリアで現われるような、所謂レアモンスターに該当するであろう牛からドロップする肉が不味いわけがないだろう。

 俺達は無言で目配せをし、何が何でもあの牛を倒すことに決める。

 

 アルファ「…もしかしたら、逃げ足が超速い、みたいなこともあり得るからさ。まずはこれで動きを止めようぜ」

 

 「「りょーかい!」」

 

 俺はアイテムストレージから、一本の投げナイフを取り出し、牛に狙いを定めて、思いっ切り投擲した。素早く投げ出されたナイフは眩い光を纏って、投剣のソードスキル、シングルシュートを発動させる。それが思った通りに牛にクリーンヒットし、牛はその場に崩れ落ちた。

 本来ならば、ここで牛はこちらの存在を認識して攻撃するなり、逃げだすなりの行動を取るはずなのだが、それは不可能だ。何故なら、俺の使った投げナイフは麻痺毒が仕込まれていたからだ。麻痺毒が塗られたナイフはクエスト報酬である。

 兎に角、牛が麻痺状態に陥っている間に仕留めなければ、元も子もないので、俺達は急いで牛の元へ駆けつけて、無情にも無抵抗の牛を蹂躙した。目論見通り、牛から手に入った肉はAランク食材に該当する高級品だったのだが、何というか、仮想世界とは言えども、モンスターとは違って、無抵抗の存在を殺めるという行為に心は虚しく感じた。本来、人間というものは狩猟に頼って生活を送る生物だったのに、文明が発達した今となっては、逆に狩猟を行うことに対して疑問を抱いてしまうようになった。感情とは時に不合理で不便なものだ。そんな俺達に出来ることは、己の血肉となる食物に感謝し、祈りを捧げること。そんな古く昔から当たり前に行ってきたことなのではないか、と俺は自然と考えていた。

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 アルファ「…結局、この食材、どうする?」

 

 ようやく、孤独の森を通り抜けて街に戻ってきた俺達は、取り敢えず今日の宿屋に向かい、俺の借りた部屋に集まってドロップした牛肉の活用方法に関する議論を開こうとしていた。牛を倒してドロップしたのだから、大量の肉塊がドロップして欲しいものなのだが、実際にドロップした量は、僅かステーキ一人前分程度であった。

 勿論俺も、最初はこの高級肉を味わうことばかり考えていた。しかし、俺達の中で料理スキルを持っている者はいない。その事実に街に帰ってきてから気づいてしまったのだ。この世界では、どれだけ現実世界で料理が得意でも料理スキルがなければ食材を調理することすら許されない。だからと言って、今から料理スキルを取得したとしても、Aランク食材のような、レベルの高い食材を扱うこともできない。…この牛肉を、売り払ってコルにするしかないというのか。高品質な食材を味わうことができないのは口惜しいが、どうあがいてもそうせざるを得ないだろう。

 

 ユウキ「…ボク、ちょっと前に料理スキル取ったから、調理できるかも」

 

 オウガ「お、マジか!?」

 

 サツキ「じゃあ、ステーキ食べれるってこと?」

 

 ユウキ「うん、そうだよ~」

 

 これこそ正に、棚から牡丹餅、開いた口へ団子、ヒョウタンからコマである。…しかし、まさかユウキが料理スキルを取っていたとは…。でも、一体、何時の間に取ったのだろうか。そんな疑問が俺の頭を渦巻き始めていたが、オウガのある一言で、吹っ飛んでしまう。

 

 オウガ「もちろん、このオレが頂かせてもらうぜ」

 

 サツキ「いや、いつも頑張ってるアタシやろ」

 

 ユウキ「違うよ、ここはギルドマスターのボクが…」

 

 は?いや、ちょっと待ってくださいよ。一人前分あるんだから、少なくなるけど四人で分け合った方がみんな幸せになりません?そんな俺の意見は瞬間的に淘汰され、誰がAランクの牛ステーキを食する権利を掴むに値するかをお互いにアピールし合っていた。もっと和を大切にしましょうよ。…いつもの見事な協力関係は何処に行ってしまったのだろうか。

 

 ユウキ「もうキリがないよ!こうなったらデュエルで決めよ?」

 

 オウガ「お、オイッ、オレに勝ち目がないじゃねぇか。他の方法で…」

 

 サツキ「アタシも賛成かな。アルファは?」

 

 アルファ「…ハァ…まぁ、他の方法なんて思いつかないし、それでいいんじゃね?」

 

 ユウキ「じゃ、多数決で決定だね!」

 

 オウガ「これが多数者の専制か…」

 

 オウガには不満が残る結果になったようだが、この国で生きる以上はどんな形であったとしても、多数決は絶対なのだ。俺達は、宿を出て、適当な場所を見つけ出し、デュエルによる総当たりを始めた。

 

 オウガ「こうなっちまった以上は全力で行かせてもらうぜ」

 

 アルファ「そいつは楽しみだな」

 

 初戦は俺とオウガで、お互いに十分に離れてから、デュエルを開始した。オウガの持ち味は片手槍による中距離からの素早い突き攻撃だ。俺がデュエルで使う片手剣よりもリーチが長いため、不用意に近づけば、俺が攻撃を当てる前に、オウガの攻撃がヒットしてしまう。基本的に長物系の武器は懐にまでさえ入ってしまえば、こちらが圧倒的に優位に立つことが出来るのだが、オウガは体術スキルを会得しているため、至近距離での戦闘も一応こなせる。故に、片手剣使いからすれば、オウガみたいなタイプのプレイヤーは天敵とも言える存在なのだ。

 だが、俺は例外だ。デュエルが始まるや否や、俺は速攻オウガに向かって投げナイフを投擲し続ける。一応、投げナイフでも、相手にしっかりとヒットさえすれば、こちらの攻撃は有効判定になるのだ。オウガもそれは知っているので、丁寧に投げナイフを処理していく。俺は投擲をしつつ、少しずつオウガと距離を縮めながら、まだ片手剣が届かない位置から片手剣を振りかぶった。

 

 オウガ「そんなんバレバレなんだよ!」

 

 オウガは俺の作戦の一部に気が付いていたようで、少し後ろに移動する。俺の頂点まで振りかぶった片手剣を両手剣に変更して、リーチを稼ぐ作戦は失敗し、俺の両手剣は地面を叩いた。その隙を的確に突いたオウガの一撃が俺の胸元にまで迫ってくるが、俺はその一撃を無理矢理両手剣で相殺する。お互いの力と力がぶつかり合う衝撃は凄まじく、お互いに武器をファンブルしてしまった。

 

 オウガ「ッ!」

 

 しかし、ここまでが俺の作戦の内である。問題はここからだ。お互い武器を失い、丸腰になった状態で俺はオウガに急接近し、体術スキルで勝負を仕掛けに行く。オウガも同じ考えだったようで、俺達は、ほぼ同時に閃打を繰り出した。

 

 オウガ「…クソッ、負けかよ」

 

 結果は俺の勝利であった。俺の作戦とはオウガと体術スキルでの勝負に持ち込むことだった。いくら投剣スキルがあったとしても、オウガの片手槍のリーチを活かした守りを破ることは中々難しい。以前のオウガ相手になら、それも出来たのだが、PK集団との一件以来、オウガはデュエルにも磨きがかかっており、それは不可能だと俺は判断した。

 それでも、付け入るスキがあるとするのなら、攻略において、オウガは、俺達のギルドでは、基本的に後衛みたいな役割を果たしているので、体術スキルを使うタイミングが俺と比べて極端に少なく、熟練度が俺よりも低いはずだ、という点ぐらいだった。それ故、同時に閃打を発動しても、より熟練度が高い俺の閃打の方が速く強く繰り出された、というわけだ。

 

 アルファ「作戦其の一、ゴリ押し」

 

 オウガ「何処がゴリ押しなんだよ。しっかりオレの突破できそうなとこ考えてんじゃねーか。…ちきしょうが、勝てると思ったのによォ…」

 

 アルファ「多分、この調子だと、次は俺が負けるぞ」

 

 オウガ「ま、そうだな。次まで首洗って待っとけよ」

 

 俺はオウガと固い握手を交わしてから、続く第二試合、サツキとユウキのデュエルを眺め始めた。開幕早々ユウキがサツキに向かって怒涛の連撃を仕掛ける。対してサツキもユウキの剣戟に対抗するように素早く剣を合わせて、ユウキの攻撃を無効化する。暫くの間サツキとユウキの剣がぶつかり合い続けたが、遂に決着の時が訪れた。  

 ユウキは、これまでの単純な速さに身を任せた直線的で単純な軌道ではなく、揺さぶりや滑らかな剣筋などの技術を身に着けており、サツキもそれに手を焼いているのが、見て取れた。このまま、ユウキがサツキを押し切る。そう考えていたのだが、ユウキにはまだ足りないものがあったようだ。

 それは足の動かし方、つまり足捌きである。どれだけ上半身の動きが良くても、それに足が伴わなければ、真の意味での剣技は完成しない。この世界に来る前に、何処かでそんな言葉を見聞きした覚えがある。それを示すかのように、サツキは足捌きの流暢さで次第にユウキを圧倒した。何処に足を運べばいいのか分からなくなり、足のもつれたユウキの一瞬のを逃さずに一撃を加える。そうして第二試合はサツキの勝利に終わったのだった。

 続く第三試合は俺とユウキのデュエルだ。ユウキとのデュエルの勝率は四割と完全に負け越しているのだが、今回は何故かユウキに勝利することが出来た。恐らく、先のユウキ対サツキの試合を眺めていた時に、ユウキのスピードに目が慣れていたかもしれない。

 そして、第四試合、サツキとオウガ、第五試合ユウキとオウガの組み合わせは、どちらもオウガの敗北に終わった。ついさっき「俺は例外だ」とか抜かしていたが、訂正しよう。サツキとユウキが例外なのだ。オウガ相手に純粋な剣技で勝負して、更には勝利するとかもうわけわからん。軽く人間スペック越えてるだろ。…そろそろ、現実逃避はやめようか。俺とサツキのデュエル、これが総当たり戦ラストであり、実質的な決勝戦だ。

 

 サツキ「悪いけど、勝たせてもらうで」

 

 アルファ「…そう簡単に行くかな?」

 

 デュエル開始の合図が鳴り、緊張感は一気に最高潮にまで達する。俺達はお互いにジリジリと間合いを詰めながら攻撃のタイミングを伺う。…ここはダメ。あそこもダメ。俺はサツキの隙らしい箇所を必死になって探すが、それっぽい箇所は全てサツキによってわざと作り出された隙だ。こちらに攻撃を誘わせて、逆にカウンターを決めるつもりだろう。攻撃の起点となる場所を見つけられない俺は、攻めあぐねていた。

 

 サツキ「こうへんねんやったら、こっちから行くわ!」

 

 アルファ「ッ!」

 

 サツキは素早く俺の右肩を牙突のように貫こうとして来た。俺は焦って右半身を逸らすが、そのせいで左半身が前に出過ぎる。サツキは俺の体勢が崩れた瞬間を見逃すわけもなく、手首を返して俺の上半身を斬り刻もうとしてきた。このままサツキに斬りかかっても、サツキの攻撃の方が先に命中するので、俺は身体をわざと後ろに倒し、弦月を発動させて、サツキの攻撃を牽制した。

 サツキが剣を手元に戻す前に、すかさず俺はサツキに攻め入った。だが、俺はユウキのようなスピーディーな剣速を持っていないせいで、サツキには悠々と剣をいなされてしまう。そんな状況に焦りを感じた俺は、少しばかり力を込めて剣を振ってしまった。力んだ剣の軌道は必ず利き手の方にズレる。俺は利き手が左なので、左側に剣がずれてしまった。それをチャンスだと捉えたサツキは俺のガラ空きの右半身に一撃を加えようとしてくる。俺もそれには気づいており、直ぐに後退して、サツキ攻勢の流れを断ち切ろうとした。しかし、サツキはすぐさま俺に向かって、突撃してくる。

 …まだ未完成だが、やるしかない!俺は軽めに剣を構えて、自分の足とサツキの剣の動きに集中した。サツキは二段階のフェイントを織り交ぜながら、最終的には俺の左太もも辺りを目掛けて攻撃を仕掛ける。俺はそれに合わせて、サツキがいつもやるように足を運んで剣で相手の斬撃をいなす…否、いなしきれず、中途半端にサツキの攻撃を喰らいながら同時にサツキの右腕に斬撃を加えた。両者の動きはそこで止まる。後は結果を待つのみだ。…デュエルの結果は、意外にも引き分けだった。システムによると、お互いの攻撃は本当に同時にヒットしたらしい。勝負を終えた俺達は剣を納めた。サツキは驚いた様子で俺に尋ねる。

 

 サツキ「…それ、アタシの技やんな?」

 

 アルファ「あぁ、デュエルの毎にサツキの動き覚えて、コッソリ練習してたんだ。…まぁ、ミスったけどな」

 

 本当はカッコよく決めて見せたかったのだが、やはり一朝一夕で完成するようなものではなかったようだ。

 

 サツキ「…白崎流」

 

 アルファ「え?」

 

 サツキ「仮にもアタシの家系の技使うんやったら、流派の名前ぐらい覚えとき」

 

 アルファ「…分かった。…ってことは今日から俺はサツキの門下生ってことか」

 

 冗談交じりにそう言うとサツキが「じゃあこれからビシバシ鍛え上げるわ」と真顔で言ってくるのに、俺は若干の恐怖を覚えた。一応、この勝負は引き分けに終わってしまったので、もう一度仕切り直しにするかをサツキに尋ねると、引き分けのままでいいとのことなので、ステーキはサツキと俺で半分ずつすることに決定した。俺達は宿屋にキッチンがあったことを思い出し、一旦宿屋に戻る。

 ユウキがキッチンに牛肉を焼きに行っている間に、オウガが「俺も善戦したんだから、一口ぐらい、な?」と懇願してきたが、勝負は勝負なので、今回は諦めてもらうことにする。暫くするとユウキが本当に申し訳なさそうな顔をしながら、謝ってきた。両手で運んできたお皿には、黒ずんだ「何か」が乗っかっている。

 

 ユウキ「…ごめん。ボクにはAランク食材を扱えるほどの熟練度はなかったみたい…」

 

 アルファ「…まぁ、何事も経験だからな…」

 

 美味しいステーキが食べられなくなったことに少々落胆してしまうが、丸焦げになってしまった肉塊から漂う香ばしい香りから、もしや、と思い、俺は肉の一部を口に放り込んでみた。

 

 アルファ「…D級のお肉って感じ。それなりには美味しいぞ」

 

 こうなってしまっては、最早ステーキ獲得の権利どうこうの話ではなくなってしまったので、俺はサツキだけでなくオウガやユウキにも黒焦げのステーキを味合わせた。

 

 ユウキ「…悪くはない、かな」

 

 オウガ「安い焼き肉屋の肉って感じだ」

 

 アルファ「サツキ、悪いな。結局みんなで食べちゃって」

 

 サツキ「ええよ。みんなで食べた方が、美味しく感じるから」

 

 サツキは笑顔でそう言ってくれた。こうして全力で笑うことの無かったサツキが笑顔でいる姿を見ると、どうにも可愛く思えてしまう。…まさか、これがギャップ萌えという奴なのか?

 

 サツキ「…なに?アタシに見とれてんの~?」

 

 サツキが冗談っぽくそんなことを言ってくる。しかし、俺はまるで自分の脳内思考を見透かされたかのような、狐に包まれた感覚に陥って、つい、返す言葉に詰まってしまった。

 

 サツキ「あ~あ、ユウキ拗ねちゃったで?」

 

 ユウキ「…そんなことないよ」

 

 明らかに不機嫌そうなユウキの様子を見て、俺は何故か焦り始める。…こういう時は、相手を褒めてあげるといいって、なんかの雑誌で読んだことある気がする。兎に角、俺はユウキに思ったことを正直に伝えた。

 

 アルファ「ユウキの笑顔も、可愛くていいと思う」

 

 ユウキ「か、可愛い!?」

 

 サツキ「…お~、アルファは素直やな」

 

 オウガ「なんだよこの甘々の展開。南極の氷が解けちまうぜ!」

 

 アルファ「…いや、南極は不味いだろ」

 

 そんな感じでノリツッコみをしていると、ユウキが南極の氷が解けたらダメな理由をここぞとばかりに説明してきた。随分とこの問題に熱心なようで、早口に喋っていく。そんなユウキを見て、オウガはゲラゲラと爆笑し、サツキはユウキに向かって「やっぱユウキは可愛いな~」と言いながら頭を撫でまわしている。

 …こんな毎日が今の俺にとっての日常だ。だが、この世界に来る前とは違って、繰り返される日常に飽き飽きすることは無い。どれもこれも、俺の周りにいる人達のお陰なのだろう。願わくば、この世界から脱出した後も、みんなと仲良くしていきたい、そんな気持ちがまた新たに俺の中で生まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 やっぱり、ほんわか回は心が落ち着きますね。小説を書いている時、筆者自身の心にダメージが来なくて安心します。

 では、また第32話でお会いしましょう!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。