SAOがデスゲーム化してから、約五か月間、攻略組は毎日休むことなく、現実世界へと帰還するために第百層の頂を目指して、コツコツと一層ずつ階層を突破してきた。攻略組は、常に危険が伴う最前線を攻略するせいで、次の階層へと続く道を守っているボスとの戦いや、フィールドでの戦闘で無念にもその命を落とす者もいる。
そんな中でも、攻略組として、最前線で闘い続けたり、攻略組を目指したりするプレイヤーは大勢いる。彼らを突き動かすものは一体何だというのか。ゲーマーとしてのプライドか、自惚れた英雄思想か、それとも、百層を攻略するという名誉か、はたまた、未だにその危険性を本当の意味で理解できていないのか。
…いずれにせよ、もう彼らの中には単純に「SAOの世界からの脱出」を目的として、攻略に励んでいる者など、存在しないのかもしれない。
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ユウキ「あ!これも買おうよ!」
アルファ「…なにそれ」
ユウキ「ん~、わかんないけど、食べてみたくない?」
オウガ「ユウキって結構ゲテモノ好きだよなァ」
ユウキ「見た目で判断すべからず!何事も挑戦だよ」
サツキ「にしても、それは結果が分かってるやろ…」
ユウキを除いた俺達三人は、比較的正常な判断力を持ち合わせており、見た目がヤバい食べ物には手を出すことは基本的にない。だが、ユウキは、見た目云々の前に自分の気になる食べ物は一度は食してみる、といったポリシーを掲げている。何がユウキをそこまでして駆り立てるのかは分からないが、ゲテモノにチャレンジするユウキの姿が、誰よりも生き生きとして見えるのは何故だろう…。
とまぁ、俺達は日が暮れ始めたわけでもないのに、こんな昼下がりから、わざわざ転移門を利用して第十一層まで降りてきて、その主街区であるタフトを観光していた。…別に俺達は攻略をサボっている訳ではない。今日は攻略組に与えられた初の休日なのだ。
というのも、現在の最前線は第二十二層なのだが、驚いたことに、二十二層ではフィールドにモンスターが出現しない。その為、攻略組は一瞬にして迷宮区タワーに行き着き、すぐさま迷宮区の攻略を始めた。しかし、迷宮区に登場するモンスターもいつもと比べてレベルが低く、あっという間にボス部屋にまで辿り着いてしまったのだ。
まずは、ボス部屋に偵察部隊が入っていったのだが、その調査によると、なんとボスモンスターまでも非常に弱いらしく、このままボス戦に挑んでも、楽々攻略できるとのことだった。そんな良い知らせから、攻略組の中では、今からでもボス戦に突入する機運が高まっていた。だが、それに待ったをかけたのは、ディアベルだ。
ディアベル曰く、周辺の村でのクエストなどは全て完了し、今回はボスに関する情報も貰えなかったことから、二十二層のボス攻略自体は簡単に終了しそうだが、この浮ついた雰囲気の中、ボス攻略を始めると、命を落とす危険があるとのことだった。更に、攻略組は階層攻略が始まって以来、一度も丸一日フリーで休んだことがないだろうから、今回の機会を利用して、明日一日を休暇としないか?とのことだった。
これまで、攻略組はディアベルをリーダーとしてやってきたこともあり、ディアベルの提案に反対する者もおらず、その提案が可決された。そういうわけで俺達は今日一日を自由に過ごしているのだ。ここタフトはレンガ造りの街並みが美しく、観光地としてプレイヤーの間でも有名らしい。ついさっきも最前線で見かけるプレイヤー達がタフトの商店街をほっついていた。
アルファ「お、これも旨そうだな」
俺は通路の右側に構えている店で売られていた緑色の丸い餅らしき食べ物を購入した。大きさはどら焼きほどであったが、かじってみると予想通り生地がモチモチで、中には餡子の代わりにジャムみたいな感じの甘い何かが入っていた。変わり種のお餅みたいで、美味しい。また、現実では食べられないような大きさに、思わずお得感を感じた。
オウガ「お前ら、花より団子って感じだな」
アルファ「やかましいわ…っていうかオウガも人の事言えねーよ」
オウガ「ハッ、ま、そうだけどよ!」
オウガが俺に対して嫌味じゃない嫌味を言ってきたが、それはオウガにも言えることだ。オウガの右手には魚のフライの串がしっかりと握られていた。目を凝らしても、川魚か海魚かなんて見分けることもできないが、旨ければ何でもいい、と心の何処かで思っている自分に心の中で呆れる。
ユウキに至ってはオウガの発言を嫌味だとさえ捉えなかったようで、「ボクは花も団子も好きだけどね~」と笑っていた。…そう言えば、さっきまでオウガの隣にサツキがいたはずなんだが、いつも間にかその姿を消していた。あちらこちらに視線をやってサツキを探していると、背後から声を掛けられる。
サツキ「ごめんごめん、ちょっと色々買ってたわ」
後ろを振り向くと、サツキの両手には、りんご飴のようなフルーツを砂糖で固めた棒や焼き鳥風の串など、様々な串焼きが何本も握られている。如何やら、このギルドで一番の欲張りさんはサツキだったらしい。
俺はその事実に耐え切れず爆笑してしまう。
アルファ「ハハッ!マジか!?一番楽しんでのはサツキか!」
サツキ「…なに、その含みのある言い方」
アルファ「いや。含みなんてないって。純粋な感想だ。感想」
サツキ「今日は戻ったら、アホほど稽古したるわ」
アルファ「え?冗談だよな…?今日はせっかくの休みなんだから…」
ユウキ「ボクも一緒に頑張るから、ね?」
アルファ「…」
取り敢えず、今を楽しもう。後のことはそれから考えればいい。俺はまるで、オフだと思っていた日に部活の予定が入ってしまったかのような、何とも言えない感覚に陥りながら、みんなと一緒に観光を続けた。
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キリト「…よし、出来たな」
隣の彼は真剣に焚火を見つめながら、タイミングを見計らって素早く焚火に剣を刺し込み、中から焼き芋を取り出した。
キリト「ほいっ、これアスナの分な」
アスナ「…ありがと」
そう言って彼は私に向けて焼き芋を投げてくる。私も自然と片手で焼き芋をキャッチして、彼と同じくホクホクで甘~い焼き芋を食べ始めた。
以前の私なら、食べ物を投げつけてくる彼に対して、一言二言文句を言っていただろうが、今となってはもう慣れてしまった。…きっと現実世界でこんなことをしていたら、マナーを守りなさい、と母さんに怒られてしまうだろう。
攻略は明日から再開すると、前回の攻略会議で決定されたので、一刻も早く現実世界に戻りたい私自身の心は逸るが、その気持ちをなんとか抑えて、こうして彼と二十二層の湖のほとりでまったりと過ごしているのだ。…だが、こうしている間にも私は、同い年の人達からドンドンと引き離されている。この生活が始まって五か月ほど経過するが、ここに来てまだ二十層辺りであることを考慮すると、単純計算でいってもゲームクリアに後二年近くはかかってしまう。そうなってしまえば、最早、良い高校、大学に通って、質の高いキャリアを形成し、母さんが望む私になることはほぼ不可能だろう。
私は、この世界に来るまでは、あんなに明確に視えていた将来のビジョンが、今となっては靄が掛かったように、目の前にあるはずなのに、視えないような感覚に陥っていた。少し視線を落としてしまう。
キリト「…焦る気持ちは分かるけどさ、俺は、今日一日ぐらいは、ゆっくり過ごしたって神様は怒らないと思うな」
アスナ「…そうね。息抜きも大切なことだわ」
初めこそ、彼からSAOの世界に関する知識を学ぶために一緒に行動していたが、私にとっては今は少し違っていた。彼はこうしてよく、私の心の中で燻っている暗い感情を汲み取っては、綺麗に洗い流してくれる。そんな彼とだからこそ、私は一緒に攻略を続けたい。そう思うようになっていったのかもしれない。
二十二層の木々に囲まれた景色を眺めながら、そんな風に物思いに耽っていると、不意に彼が祖父の姿に重なって見えた気がした。
アスナ「……この場所は、私のおじいちゃんとおばあちゃんが住んでいた場所に似ているの。…まぁ、湖と焼き芋はなかったんだけれど」
キリト「…そうなのか。俺はこういう自然が溢れた場所には住んでないからな。こういう所は羨ましく感じるよ」
…住んでる地域は焼き芋が名産なのに自然が身近にない…。じゃあ、鹿児島県の市街地とかに住んでいるのかしら?でも、それらしい方言が出たこともないわね…。私の脳内に潜む名探偵アスナが彼の住所を突き止めようと、これまで彼が開示してきた情報のパーツを搔き集めて、必死に頭の中の日本地図を調べ上げた。だが、同世代の人達よりは豊富であろう私の知識をもってしても、彼の居場所に確信を持てない。名探偵アスナは「今日はもうお休みの時間よ」と言わんばかりに職務を放棄してしまった。
いっそのこと本人に聞いてしまおうかと思ってしまうが、それはこの世界における最大のタブーであるため、グッと堪えた。
アスナ「焼き芋、ご馳走様。さっ、今日は休みの日なんだから、何処か観光にでも出かけましょう?」
キリト「あ、あぁ…」
アスナ「何よ」
彼は珍しく歯切れの悪い調子で私の言葉に返事をした。もしかして、私と観光に出掛けるのが嫌だったのかも。そう考えてしまった私は少しキツめに彼に問いかけてしまう。
暫く、彼は黙って私の顔を見つめていたが、やがて意を決したように、その口を開いた。
キリト「……俺達は、いつまでコンビを組み続けるんだ?」
アスナ「いつって…」
私は彼が投げかけてきた質問に答えることが出来なかった。
キリト「俺なりに、SAOの世界に関して、伝えられることは全て伝えきった。だったら、もう俺とコンビを組む必要もないはずだ。…それに、アルゴから聞いたぞ。ギルドに勧誘されたんだってな」
アスナ「!!」
彼の言う通り私は先日、血盟騎士団という名前のギルドに勧誘された。ギルドの方針や実際にどのような活動をしているのか、ギルドの雰囲気などを学校説明会のような形で見学させてもらい、最後には「血盟騎士団に入る気になったのならば、後日連絡をよこしてほしい。我々はいつでも門戸を開いている」と少々堅苦しい言い方で勧誘の意を示された。
私は見学を通して、血盟騎士団というギルドがディアベル率いるホープ・オブ・ナイツに次ぐ攻略組の中核となるために、日々精進しているのがヒシヒシと伝わってきた。この環境に身を置けば、私も今よりも、もっと強くなれるとさえ思わせるほどだった。だが、私の心は血盟騎士団に入隊することを拒否している。
その原因はきっと、目の前にいる彼に違いない。彼と攻略に励んでいる内に、私の中で彼の与える影響はドンドン大きくなっていった。…そう、私は彼は彼の持つ人柄やユーモアに友愛を、そして、彼の持つ優しさに敬愛を抱いていたのだ。この世界に来て出来た数少ない私の尊敬する友人。そんな彼を置いて何処かのギルドに所属するなど、今の私には考えられないことだった。
アスナ「……私は、これからもキリト君とコンビを続けていきたい。…キリト君から情報を得る為とかじゃないわよ。私の純粋な気持ちだから」
私はそんなことを言葉にしたが、途中で恥ずかしくなり、顔をそむけて、横目で彼を見ながら話し続ける。…これは、あくまでも友愛で敬愛。決して恋愛感情などではないのだと、何故か自分に言い聞かせる。
彼は大層意外そうな顔をしてから、「じゃあ、これからもよろしくな」と握手を求めてきた。私もそれに応じて、握手をしてから、早々にそっぽを向いて「観光に行くわよ!」と言い放つ。…あれ以上、彼と面と向かっているのは、恥ずかしくて限界だった。
今はまだ、彼と二人で最前線の攻略に挑んでも、特に問題なく、安定して闘っていられる。…でも、これからもっと最前線の難易度が上がっていったら?二人ではどうしようもない難易度になってしまったら?…いずれその時が訪れることはゲーム初心者の私にも分かる。それは私の実力不足なのか、システム上の限界なのかは分からない。でも、せめて、その時が来るまでは彼と共に過ごしていたいのだ。観光に向かう中、私は無意識にそう感じていた。
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アルゴ「…ここも外れカ…」
オイラは自作したマップに書き込んであるポイントを一つ塗りつぶした。残されたポイントはあと半分ぐらいだ。ふと、時刻に目を向けると午後二時過ぎ、お昼時はとうに過ぎ去っている。これまでは、自分のやるべき事にばかり集中しており、お昼ご飯のことなど頭の片隅にさえなかったが、実際に時刻を意識してしまうと、オイラの美味しいものが大好きなお腹の虫が暴れ始めた。
…ちょっとぐらい、自分にご褒美をあげても、いいかナ?
…勿論!オネーサンはみんなのために頑張ってるんだから当たり前だヨ!
些細な自問自答の末、お昼ご飯にありつくことに決定すると、オイラはトップスピードで主街区まで走っていく。第二十二層のフィールドはモブが一切湧かない仕様になっているので、モンスターにエンカウントすることを恐れずに風を切りながら森の中を自由に走り回れるのは、何だか自分がチーターに生まれ変わったのかのような気分を味合わせてくれた。
主街区に到着したオイラは、入り口のすぐ隣にある木造建築のレストランに入った。カウンター席には巨漢の男が座っていて、体のサイズに椅子が合っていないように見える。オイラが隣に腰かけると、男はオイラに気が付いた。
エギル「よぉ、アルゴか。久しぶりだな」
アルゴ「そうカ?二日ぶりぐらいだと思うゾ?」
エギル「…久しぶりの感覚なんて、人それぞれだろ?」
他のプレイヤーにそんなことを言われても、何とも思わないだろうけど、この男の背格好とバリトンボイスで言われると、何だか納得させられてしまう。
エギル「そういや、今日は攻略の休暇だろ?どんな風に暇を過ごしてるんだ?」
アルゴ「情報料を払ってくれヨ?」
エギル「…好きなものを頼め。俺がもってやる」
情報料として飯を奢る。そういう意味だと解釈したオイラはこの店お気に入りのチーズがたっぷり入ったパスタを注文した。エギルは肌の色やガッチリとした体格からして外国人のように見えるが、彼が話す日本語は日本人と変わらないほど流暢だ。エギルの生まれは何処なのだろうか?そもそも、人種は何だろう?オイラの中の情報屋魂が熱く燃え上がってきた。
アルゴ「…エギルはハーフだったりするのカ?」
エギル「いや、俺はハーフじゃないぜ。確かに、アフリカンアメリカンの血は流れてるけどよ」
アルゴ「…なるほどナ」
…日本語が上手で、言葉の引き出しが多いのもそういうわけか。
エギル「そんな情報集めてどうすんだ?俺の情報なんて売れっこねぇだろ?」
アルゴ「そんなことないゾ。エギルのファンも結構多いからナ。今日もその内の誰かとデートでもするんじゃないかと思ってたヨ」
実際、最前線に立っているプレイヤー以外に、中層にいるプレイヤーやフロントランナーを目指すプレイヤーの中にもエギルの逞しい筋肉なんかに惚れている女性プレイヤーは大勢いる。
オイラの予想で言えば、この世界で生きる数少ない女性プレイヤーの四割ほどはエギルファンだ。…それは言い過ぎだけどナ。
最も、その男らしさに憧れて、エギルに熱中している男性プレイヤーも一定数存在している。エギルは言わば、この世界におけるアイドルみたいなものだ。一方で女性プレイヤーのアイドル候補と言えば、アスナやサツキ、ユウキが挙がってくる。…まぁ、その内の二人にはもう意中の相手がいるのかも知れないけどナ…。
エギル「俺は既婚者だ。そんなことしたら、奥さんに怒られちまう」
アルゴ「…それは中々衝撃の事実だったヨ」
オイラの目から見ても、エギルは見た目が若い。年を取ってたとしても、20代後半といったぐらいのはずだ。まだまだ遊び惚けてると思っていたが、まさかもう結婚までしていたとは。
エギル「…オイ、まさかこのことも情報として誰かに売ったりすんじゃねぇだろうな」
アルゴ「大丈夫ダ。オレッちはリアルの情報については一切取り扱わないからナ」
エギル「そいつを聞いて安心したぜ。…で、そろそろ俺の質問にも答えてほしいもんだな」
アルゴ「あぁ、オレッちは二十二層のクエストを攻略しまくってるヨ」
それを聞いたエギルは、目を丸めてオイラを眺める。
エギル「今日は休暇だろ?たまにはゆっくりと過ごしてもいいんじゃないのか?」
アルゴ「オレッちはフロントランナーじゃなくて、情報屋だから、今日も通常運転ダ」
アルゴ「それに、これだけ簡単に攻略できるってことは、ボスは超強いかもしれないダロ?だから、何かしらの情報が手に入らないかと思ってナ」
エギル「お前…。…よし!俺もクエストを手伝ってやる!」
アルゴ「…どういう風の吹き回しダ?」
エギル「なーに、皆のために頑張ってる奴を過労死させるわけにはいかないだろ?」
アルゴ「…あんがと。じゃ、今日はオネーサンのバイトってことでヨロシク」
エギル「おう。任せてくれ!」
…なるほどナ。エギルは見た目だけのカッコよさじゃなくて、中身もナイスガイってことカ。キット、美人で聡明な奥さんを見つけたんだろうナ。
あの後、残り半分のクエストをエギルとエギルの呼び出しに応じてくれた彼の仲間に協力して貰ったお陰で、結果としてはクエスト報酬としてボスに関する情報を手に入れることはできなかったが、日が暮れるまでにクエストを終わらせることが出来た。そして、明日までの余暇が生まれたオイラは明日になるまでの時間を快適に過ごすことが出来た。
…エギルは信頼に足るイイ奴ダ。オイラは頭の中にある情報屋メモに優しく書き足しておいた。
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キバオウ「あかへん!まずはギルド全員を強化して、ゆくゆくはアインクラッドに住むプレイヤー全員が戦えるようにするんが、百層を攻略するんに必要なことや!」
リンド「違う!一部の優秀なプレイヤーにリソースを集中させて、そのプレイヤー達が残りのプレイヤーの為に攻略に尽力する。これが最適解だ!」
二人の議論はドンドン熱を帯びてヒートアップしていく。わざわざ二人で俺の泊っている部屋まで来て、何を言い出すのかと思えば、またその話か。俺は二人に呆れつつも、これ以上言い合いが続いてしまえば、取り返しのつかないことになる恐れもあるので、止めに入った。
ディアベル「…二人共、やめてくれ」
リンド「…!すいませんでした」
キバオウ「…ワイも悪かったな」
ディアベル「二人が言い合っていた件については、この前も話した通り、しばらくは一軍メンバーの強化に焦点を当てていこうと思う。ただ、出来るだけ、キバオウの考えも尊重していくつもりさ」
どちらとも俺の下した決断には納得がいっていないようだが、構わず俺は二人に尋ねる。…今回の攻略休暇は、彼らに自らの行き過ぎた思想を見つめ直してもらうという意味でもあったのだが、そう上手くはいかなかったか。
ディアベル「それで、何の用があってここに来たんだ?」
リンド「…それは、リソースの配分の見直しについてで…」
ディアベル「それは今言ったとおりだ。変更するつもりは無い」
キバオウ「…そうか。じゃ、失礼するでディアベルはん」
リンド「…失礼します」
ディアベル「…ハァ、」
二人が完全にこの部屋から出て行ったことを確信してから、俺は大きなため息をついた。…こんなはずではなかった。そんな言葉が俺の頭の中で反響する。
現在、ホープ・オブ・ナイツの中では、リンドを中心とするトッププレイヤーにリソースを集中させたいと考える派閥とキバオウをリーダーとしたリソースを均等に分配しようとする派閥、そして、俺に従う穏健派の三つ巴状態になってしまっている。
ギルドを発足した当初こそ、何もかも順調に進んでいたのだが、人員が増えていくにつれ、俺一人で出来ることが限られるようになっていき、役割分担の為にリンドやキバオウなどの幹部に権限を分割していった。すると今度は幹部たちが力を持つようになっていき、俺が出来ることがどんどん少なくなっていった。
今はまだ、俺のボス戦での指揮力が秀でているため、皆は俺がいないと攻略が成り立たないと思っているせいか、なんとか彼らの気持ちを抑えることが出来ている。だが、もし今後、俺が攻略に置いて、失態を犯すようなことがあれば、瞬く間に彼らは俺の元を離れていくだろう。
…俺には、人を惹きつける魅力はあったかもしれないが、組織をまとめ上げる為のカリスマ性は持ち合わせていなかったのだろう。俺はそんな自虐めいた思いを胸に、窓の外で煌めいている星々を眺めていた。
プログレッシブって、今後どうやってキリトとアスナ引き離すんですかね。それが気になりすぎて、執筆に手が付かない…という言い訳でした。
では、また第33話でお会いしましょう!