~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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 今回は、クォーターポイントの前日譚となっております。


第34話 託せし者

 オウガ「…なんだ、眠れないのか?」

 

 サツキ「…まぁ、ちょっと」

 

 明日は第二十五層のボス戦だというのに、オレは、夜遅くまで宿屋のベランダで夜風に吹かれていた。そこから見える景色は、街々の屋根と輝く星空ぐらいで、特段いい夜景というわけではないが、オレはそこでワインの入ったグラスを持ちながら、佇んでいる。

 どれほどの時間が経過したのかは分からないが、不意に、オレの耳に、誰かが奏でる足音のリズムが聞こえてきた。そちらに顔を向けると、サツキがオレと同じようにして、片手にグラスを持ちながら、ベランダに入ってきたのだ。

 ベランダにやって来たサツキはそのまま、オレの隣に佇む。暫くの間、オレ達は無言でグラスを仰いでいたが、どちらも喋り出さない雰囲気は心地の悪いものではなかった。ふと、その静寂を破ったのはサツキだ。

 

 サツキ「…なんか、また悩んでることでもあるん?」

 

 オウガ「…」

 

 サツキ「…アタシらは仲間、やろ?」

 

 オウガ「お前も言うようになったじゃねぇか…」

 

 サツキも変わったな、と一呼吸置いてオレが再び話し始める。

 

 オウガ「オレはァ、もう限界かも知んねぇ」

 

 サツキ「どういうこと?」

 

 サツキはあくまでも、オレの言っていることが分からない、といった様子でとぼけて見せたが、きっと、オレの言葉の本質には気が付いているだろう。

 

 オウガ「サツキなら分かってんだろ?…オレのプレイヤーとしての限界ってやつをさ」

 

 サツキ「…」

 

 オウガ「オレはサツキみたいに技術を持ってるわけでも、ユウキみたいに異常な反応速度があるわけでも、アルファみたいにアイデアマンなわけでもねぇ。前線組ってのは、他のプレイヤーと比べて、何か優れた力を持ってる奴がなれるんだろうよ。…オレは、最前線に出て、そう感じたんだ」

 

 オウガ「オレは、あまりにも普通過ぎるプレイヤーだった。それこそ、この先、この世界をクリアする時まで、お前らと一緒に前線に立ち続けることが出来ないくらいに、な」

 

 オレだって、自分が特別なプレイヤーにであることを期待していたわけではない。勿論、夢見ることはあるが、現実はそう上手くはいかないものだと、これまで生きてきた二十数余りで理解している。

 

 サツキ「そんなことない。オウガだって、オウガにだけの強みが─」

 

 オウガ「あるかも知んねぇぜ?でも、オレは他の連中に比べて、反応速度が足りてないんだ。それはお前らとデュエルをしてれば、嫌でも理解できちまう」

 

 サツキ「…そっか。じゃあ、オウガはいつまで前線に立ってられそうなん?」

 

 オウガ「さぁ…。ま、この調子でいけば、五十層前ぐらいには、もう無理だと思うぜ」

 

 サツキ「…やったら、それまでに技を磨けばいい。オウガ自身のな」

 

 オウガ「…そうだな。オレとしたことが、ちょっと弱気になりすぎちまったか」

 

 少し、誰かに自分の気持ちを吐き出したことで、心が軽くなった気がする。サツキは、暫く黙りこんでから、オレに話しかけてきた。

 

 サツキ「オウガ、録画結晶出して」

 

 オウガ「あ?…まぁ、いいけどよ」

 

 サツキ「アタシが今からやる事、その録画結晶にしっかり焼き付けや」

 

 そう言ったサツキは、オウガの前で演武を始めた。その動きは全て刀で構成されていたが、突きが主体の演武だ。数分かけて終局した演武は、それは見事なものだった。

 

 サツキ「これを、オウガなりにアレンジしたら、オウガはまだまだやれると思うから」

 

 オウガ「…へっ、ありがとよ」

 

 オウガ「だったら、オレもお返しだァ!」

 

 サツキに録画結晶を任して、オウガも己の描く最高の舞を披露した。オウガでは体を動かす速さに限界があり、到達できない域だろうが、きっとサツキになら、為せる業になるはずなのだ。

 

 サツキ「へぇー、結構面白いもん持ってんねんや」

 

 録画結晶にその演武をしっかりと保存してもらったオウガは、サツキも見られるように、と録画結晶をギルド専用のストレージに収納して、サツキの顔を見やる。しかし、その顔には憂きものが憑いたままであった。

 

 オウガ「サツキもなんか悩んでんだろ?言ってみろよ」

 

 サツキ「…」

 

 サツキ「アタシは、アタシであって、アタシではない。最近、そう感じることが多くて、ちょっと、なぁ」

 

 オウガ「…どういうことだよ」

 

 ため息交じりにサツキはそう言ったが、オレにはその意味が分からず、サツキに聞き返す。

 

 サツキ「確かに、アタシはこの世界でみんなと出会うことで、変わったんやと思う。でも、アタシが現実世界に戻った時、その時のアタシは、果たして今のアタシのままでいられるんやろうか。結局、アタシが変われたのは、仮想世界でのアタシだけで、実際のアタシは、人を信じられない人間から変化することが出来てないんちゃうやろか、ってこと」

 

 オウガ「そんな訳ないだろ?ここが仮想世界であろうと何だろうと、サツキが、オレ達が感じること全ては、本物だ」

 

 サツキ「…」

 

 何も言わず、顔を俯けるサツキに構わず、オレは言葉を続ける。

 

 オウガ「実はよ、アルファとサツキがPK集団から助けてくれた日、あの日の前にオレは、アルファをある手段を用いて殺そうとしたんだ」

 

 オウガ「でも、そんな時、オレに残る良心みたいなやつがオレを止めてくれた。アルファにそのことを白状したら、あのガキ、なんて言ったと思う?」

 

 サツキ「…」

 

 一瞬間をおいても、サツキは何も答えない。オレは更に言葉をつなげていった。

 

 オウガ「「オレを許す」って言いやがったんだ。…それからオレは、心を改めて今を生きてる」

 

 オウガ「こんなオレでさえ、変化できるんだ。お前なら、尚更だろ?」

 

 オウガ「それとも、オレの変化は現実世界に戻ったら帳消しになると思うか?」

 

 サツキ「……思わん」

 

 ようやく口を開いたサツキは、そう答えた。

 

 オウガ「なら、それはサツキにも当てはまるってことだ。オレもお前も同じ人間だからよ」

 

 サツキ「…うん、ありがとう」

 

 しおらしく頷いたサツキは、晴れ晴れしい顔でオレを見つめ、お礼を言ってくれた。

 

 オウガ「お前はやっぱり、そういう所がバカなんだよ」

 

 サツキ「…そうやったな」

 

 オレの言葉に納得したように顔を上げ、ふふっ、と微かに微笑んだ、その星々に照らし出された優美なる姿は、ベランダから見える平凡な景色に、華麗なる花を与えたようだった。

 

 オウガ「そんなもん魅せられちまったら、惚れちまいそうだな」

 

 サツキ「アンタみたいなお子ちゃまにはアタシを落とすことは出来品やろうな~」

 

 オウガ「アァ?ガキはアルファだけで十分だろうが!」

 

 サツキ「そう?今聞いた話やと、アルファの方が精神的に成熟してたり?」

 

 オウガ「てんめぇっ!」

 

 そんな軽口を挟みながら、グラスを空にしたオレ達は、お互いの部屋に戻っていった。先程までとは打って変わって、すぐに眠気が襲ってきたオレは、ベッドで安眠を貪り始めた。

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 翌朝、心地の良い眠りから覚めたオレは、いつも通りにみんなと朝食を食べ、身体を一頻り動かした後、ボス戦に挑むために、迷宮区タワーの最上階へ向かって行った。何度も階段を登り、曲がり角を曲がっていくと、とうとうボス部屋の前まで辿り着く。

 ディアベルによる全体での最終確認が行われる中、オレは一人、これまでとは一線を画す難易度を誇る二十五層のボス戦に緊張を高めていた。そんなオレの状態を見透かしたのか、サツキが声を掛けてくれる。オレは「問題ない」と答え、他のレイドメンバーと同様にディアベルが開け放った大扉の先へ突入した。

 

 ──強い。

 

 ボスと戦い始めて数分後、オレはただ純粋にそう感じた。たった一体のボスモンスター相手に、レイドメンバーは既に半壊している。この戦場を支配しているのは紛れもなくあの巨人ボスだ。もうタンクもディーラーも関係ない、皆が攻撃を躱し、攻撃を仕掛ける始末である。

 オレもボスに何度か目を付けられることはあったが、何とかその動きに喰らい付き、プレイヤーがドンドン減っていく中で、まだ生き残ることが出来ていた。…まだ、いける。この程度なら、オレは生き残れる。ボスと戦闘を繰り広げる最中にオレはそう確信していた。確かに、このボスは異常な強さを誇っているが、それはオレが追いつけなくなる境地ではない。まだまだ、オレは最前線で闘えるのだ。そんな自信がオレの身体に漲ってきた時、突然、ボスがこちらをロックオンした。

 

 オウガ「く、来るぞ!」

 

 共に行動しているアルファとユウキにボスが接近していることを伝える。だが、そんなことぐらいオレが声に出さなくても、二人は分かっていた。既に二人は、ボスが起こすアクションを見極めるために、その場でどの方向にも回避できるように準備している。巨人が右手を後ろに引く動作を見せたので、オレ達は瞬時に鉄球による薙ぎ払いが来ること察し、次の攻撃に備えて右後ろに回避する。

 だが、あろうことか、ユウキは左後ろに後退していた。アルファが必死にユウキに向かって叫ぶも、時すでに遅し、ユウキは鉄球攻撃の風圧によって体勢を崩す。ユウキが持ち直す前に、巨人は既に斧を振り下ろすモーションを描いていた。恐らく、紙装甲のユウキがあの攻撃を直撃すれば、ヒットポイントを全損するだろう。かと言ってオレが行っても、それは同じだ。ここでアルファが行っても、ギリギリ生き残れるか否かといった具合だろう。いつものアルファなら是が非でもユウキの方へ走り出す。だが、軽いパニック状態に陥っているアルファはその場から動けないでいるようだ。刹那の思考。決断。勇気。実行。覚悟を決めたオレはアルファに一声かけてから、墓地に向かうことにした。

 

 オウガ「ユウキのこと、任せたぜ」

 

 まるで、これから起こることの全てを理解したかのような顔をしたアルファは目をあり得ないほど開き、オレを止めようとする。だが、オレはアルファの静止を振り切って、ユウキの元へ駆けた。…間に合ってくれ。祈るような気持ちで持てる力の全てを出し切ったオレは、直前のタイミングでユウキの前に躍り出ることが出来た。もうこのタイミングでは、ユウキをここから連れ出して、彼女の白馬の王子様になることは出来ない。オレに出来ることは、彼女の未来を紡ぐことだけだ。

 

 ユウキ「オウガ…」

 

 オウガ「─オレは、王城海斗だ。ユウキ、アルファと幸せにな」

 

 一瞬間、僅か一刻程の時。オレはその瞬間が永遠にも思えるほど、長く感じた。オレの身体に迫りくる巨大な斧、後ろに居る、死を受け入れたかのような、覚悟を決めた顔をしていたユウキ。そして、オレの言葉とオレの登場に、素直に驚愕と疑問を浮かべたユウキ。オレを身体を半分に一閃した斧。吹き飛ぶ身体。ユウキがオレに伸ばす腕。そして、死───

 

 気が付くと、視界はブラックアウトし、空間さえ認知できない、色のない世界にオレはただ一人突っ立っていた。恐らく、ここはもうSAOの世界ではない。…オレは死んだのか。小説の一節に出てくるとしたら、ただのサブキャラ、決して主人公にはなれない存在。…でも、例えそうであったとしても、ついちょっと前までは、遅めの反抗期が故に親のお節介に腹が立ち、大学では適当に授業に出て、繰り返す毎日はバイトと友人とのお酒。そんな、誰のためにもならない、クズ大学生の一人として生きているだけだったオレが、最期に己が愛する人を守り、己を変えてくれた人に恩返しが出来た。…それだけで、オレはァ、満足だ。いい、人生だった。オレは今、以前とは違って、胸を張ってそう言える。突如として現れた黄金の光によって全身が浄化されていく中、オレの心は、そんな清々しい気持ちで溢れていた。

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 ────オウガが死んだ。

 

 アタシのいる場所からやと間に合わんかったから、仕方ないか。なんてことで、蘇ったアタシの信じる気持ちが収まる訳が無い。そんな熱い思いとは裏腹に、頭は至って冷静だ。ボスの次のターゲットにされたアタシは、暫定パーティーを組んでいるキリト、アスナと共にボスの猛攻に備える。

 アタシは、キリトとアスナのことなど気にせず、一人でボスの攻撃を捌き、一人で攻撃を仕掛けていった。機械によって生み出されたような一朝一夕の存在が、人間の積み重ねてきた技術に敵うわけがない。本気になったアタシの動きに、たかが機械の木偶の坊がついて来られるはずもなく、戦場の一幕はサツキが完全に支配した。暫くすると、ボスは標的をアタシから他のプレイヤーに変更し、別の場所へと移動していく。

 

 サツキ「ッ!逃げるなッ!!」

 

 アタシは猪突猛進にボスを追いかけようと地面を蹴り出したが、途中でその動きをアスナとキリトに阻まれた。

 

 サツキ「二人共、そこどいて!」

 

 キリト「待て!気持ちは分かるけど、冷静になってくれ!」

 

 アスナ「これは団体戦よ。今サツキさんが行っても、他のプレイヤーのペースを乱すだけよ。分かって欲しいの」

 

 サツキ「……そうやな。ちょっと熱くなりすぎたわ」

 

 まさか、少年少女に止められなけらばいけないほど、感情に揺さぶられ、暴走してしまったとは情けない。闘いでは、先に冷静さを失った者から死んでいくのだ。戦場での基本を思い出したサツキは、一旦クールダウンし、冷静さを取り戻した。…だが、アタシの大切な人達を傷付けたアイツだけは、必ずアタシの手で殺す。アタシは改めてそう決意し直しておいた。

 そこからは死者を出しながらも、ボスの体力を減らし、HPバー最後の一本の所まで押し切った。アタシとしては、アルファとユウキの心の状態が心配だったが、二人も今は考えることを中断して、目の前に集中できているようだった。…後で心のケアをしてあげなければ、アタシのように心を閉ざしてしまう可能性もあるだろう。そんな風に考え事をしながら、ボスが動き出すのを待つ。しかしボスは、直ぐに動き出すことはなく、自らの胴体を真っ二つに切断し、二体の巨人として生まれ変わった。一体はアルファとユウキの方へ、もう一体はアタシ達の方へやって来る。スピードを上げながらドシドシと勢い良く向かってくるボスは、左手に持つ面に鋭いトゲを張り巡らせた巨大な盾を前に突き出し、全身を覆い隠したまま、こちらに突進してくる。

 

 サツキ「…めんどいな」

 

 鉄壁の盾。アタシが闇雲に攻撃を仕掛けても、こちらの刀が折れてしまうのがオチだろう。ここは丁寧に盾の間に入り込んで、攻撃を決めるべきか。そう判断したアタシは、しっかりと突進を躱すための態勢に入った。想定通りに突っ込んできたボスの背後を取ったアタシは、すかさずその巨体を刀で切り裂く。振り向いた巨人が絶妙な距離で鉄球を振り回してくるが、それを難なく躱して、再び刀で斬り付ける。アタシの動きに合わせてくれたキリトとアスナと共に、それを何度か繰り返していると、アタシ一人でボスを相手取っている間に、攻撃を決めてくれた他のレイドメンバーにタゲが移った。

 空白の時間が生まれた為、アタシは直ぐにアルファとユウキの様子を確認した。…アルファが双斧による攻撃を躱し、その隙にユウキを筆頭に他のレイドメンバーがダメージを稼ぐという完璧な流れが形成されていた。今の所は何の問題もなさそうだが、こちらの巨人に比べて、攻撃性に偏ったあちらの巨人は危険だ。鉄壁と猛攻の巨人がコンビネーションを取れていないこの状況は吉か。今すぐアルファ達に合流して、双斧のボスを速攻で倒すべき?それとも、コンビネーションを取れないようにこちらの巨人に攻撃の手を緩めないべき?アタシは、その判断に迷ってしまい、それが運命を決定づける。この時、アタシが迷うことなくアルファの元へ行けていたら、未来は違ったのかもしれない。

 

 キリト「サツキッ!ここは俺達に任せて、アルファの所へ!」

 

 サツキ「ッ!了解!」

 

 キリトの言葉に背を押されて、アタシは彼らの元へ走り出した。だが、アルファの元へ辿り着く寸前に、異常が起きる。不意に、アルファのリズムが崩れ、ボスの攻撃を避けることが出来なかったのだ。両手剣で相手の斧を受け止めるも、その両手剣は粉々に砕け散る。アルファの体力では、次の攻撃を受け止めることは出来ない。ならば、アタシのやるべき事は唯一つだけだ。

 何とか、その瞬間に間に合ったアタシは、カタナスキルで相手の斧攻撃を相殺することを試みた。だが、やはり、アタシの刀は根元から折れてしまう。一撃、続く二撃の重攻撃をその身に受けたアタシは、衝撃で後ろに吹っ飛んだ。地面に全身が打ち付けられ、鈍い衝撃がアタシを襲う。

 

 ユウキ「サツキッ!」

 

 アルファ「は、早く回復結晶でっ!」

 

 まるで、流星のような光の速さでアタシの傍までやって来た二人は、悲痛な表情を浮かべている。アルファが虎の子の回復結晶を差し出してくるが、もうHPが全損してしまっていることを、この時間は、一瞬で体力が一気に削られてしまったことでラグが生じた表示が正しく反映されるまでのアディショナルタイムであること悟っていたアタシは、柔く断る。

 

 ユウキ「……」

 

 アルファ「な、何でだよ!」

 

 サツキ「…アタシはもう間に合わんから」

 

 アルファ「そんなこと言うなって。な?…ヒール!」

 

 聞き分けの無い子供のようにアタシの言葉を聞き入れないアルファは、ひたすらに回復結晶を使用し続けるが、悲しいことに思った通り効果はない。逆にユウキは何も言わず、その時が訪れるのを覚悟して待っているようだった。その瞳には、絶望、恐怖、そしてその他に、諦念も含まれているように見える。

 

 サツキ「アルファ、ありがとうな。でも、もう終わりやから、さ」

 

 二人を落ち着かせるために、あくまでも気丈に振舞おうと、微笑を浮かべて、そう言ってはみるが、アタシの声の震えは止まらなかった。きっと、微笑を浮かべているつもりの顔も、本当は微笑なんて浮かべることすらできず、二人に救いを求めるような、縋るような表情を浮かべているのだろう。…そりゃぁ、アタシだって、死ぬのは怖い。もう二度と、彼らの暖かさに触れられない気がして、また自分が一人になってしまう気がして。

 …でも、こんな気持ちを思い出させてくれた、二人がこれからも生き続けてくれるなら、それで充分だと思える。そして、どうしてアタシがこのパーティーに入りたかったのか、今になってようやく分かった。別に、あの時のアタシなら、何処のパーティーに属そうと、何の問題もなかったはずだ。それでもこのパーティーを選んだのは、きっと彼らの人柄に無意識のうちに惹かれていたのからだ。今日この日まで、呪いだとしか思わなかった、アタシを縛り続けてきた元凶でもある剣の才がそんな彼らの命をつないでくれた。ならばこそ、この呪いも案外悪くはなかったと、今となってはそう思える。

 

 アルファ「なぁ…そんなこと言わないでくれよ…」

 

 アルファは、愈々その時が迫ってきていることを認識し、弱々しく、そう呟く。

 

 サツキ「……アルファ、ユウキ、…二人は、絶対にこの世界を生き抜いて、な」

 

 リミットがもうないことに気が付いたアタシは、アタシの中に残る、唯一の願いを、二人に伝えた。

 

 ユウキ「……サツキの想い、受け取ったよ」

 

 ユウキはしっかりと、信念の宿った瞳でそう返事を返してくれる。アルファは、この現実を受け入れたくないような、力の抜けた絶望の表情でアタシの最期を見守っていた。…ユウキは、今後苦労しそうな予感やなぁ。そんな冗談交じりのことを思い浮かべることで、二人の負担にならないよう、涙を零さないように努力する。遂に自身のHPバーが尽き、その時が来た。

 

 サツキ「……う、ん。じゃあ、ね」

 

 最期の瞬間、アタシは最早自分を取り繕うことさえ出来ずに、口調が戻った喋り方で、お別れの挨拶をする。そしてアタシは青いガラス片となり、消えゆく体と二人の様子を見守りながら、その命を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─あぁ、それでも、願わくば、まだ、アルファと、ユウキと、オウガと、四人で、この世界で、暖かい毎日を過ごしたい。

 そんな叶うはずのないアタシの願いは、虚空と共に溶けていった。

 

 

 

 

 




 感情表現とか絶望の演出がもっと上手になりたいと思う筆者です。

 では、また第35話でお会いしましょう!
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