ユウキ「…ちょっと飛ばし過ぎだよ!」
アルファ「…そうか?」
ユウキ「もう少しペースを落とした方がいいかも…」
アルファ「りょーかい」
あくまで、ユウキにいらぬ心配を掛けないように、平然とした素振りを装って、俺はユウキにそう伝えるが、その内心は焦っていた。現在の最前線は第28層。今はまだ、前線組のプレイヤー達が迷宮区タワーを探索して、ボス部屋を探している最中だが、数日後には、ボス戦が始まるだろう。
対して、二週間近く何もしていなかった今の俺のレベルでは、ボス戦に参加しても、ユウキや周囲のプレイヤーを危険に晒すだけだ。故に俺は、今となっては俺よりもレベルが高くなったユウキに補助してもらいながら、26層の効率的な狩場にて、レベリングを行い続けている。その狩場には、至る所に穴凹が点在しており、それを巣として活用している頭に一本の鋭い角を生やしたアナグマみたいなモンスターをひたすら倒している。彼らは剣などを利用して巣穴に衝撃を与えてやると、そこから一気に出てくるという習性を持ち合わせているので、レベリングにピッタリなのだ。まだ、最前線の二つ下の層ということもあり、前線組に追いつこうとしているプレイヤー達も少ない。そういうわけで、実質的には俺専用の狩場と化しているこの場所に俺は、毎日張り付いていた。それでも、中々自分が思うようにレベルを上げることは出来ない。
ユウキ「そろそろ、戻らない?」
アルファ「…あと一セットだけ」
ユウキ「ん」
ユウキから了承を得た俺は、穴凹を両手剣でガツンと叩き、そこから湧き出た大量のアナグマもどきを素早く相手取る。一対多数という一歩間違えれば、モンスター達に次から次へとスタン状態にさせられてしまう危険な戦いの中でも、今の俺が心穏やかにアナグマを対処できているのは、いざという時に高レベルのユウキが助けてくれるという安心材料があるからではない。いや、それもあるのかもしれないが、安心材料の八割方は、ユウキが命を落とすことはない、という点にある。
数分掛けてアナグマを倒し切った俺は、ユウキと共に主街区へ引き返していく。何も、レベリングさえしていれば、ボス戦に充分に備えられる訳ではない。武器防具の更新及び強化や実入りのある最前線でのクエスト報酬を得ることなども必須だ。後は、ポーション等の回復手段と、腹ごしらえ…。午前のレベリングを終えた俺達は、主街区の一角にある飲食店に入店した。
ユウキ「いいお店でしょ?美味しい?」
店内の雰囲気は、和洋折衷といった感じで、流れるBGMも心地の良いものだ。お昼のランチのお店の雰囲気としては最適かもしれない。だが、
アルファ「…これ昼飯?」
まさかのパフェ専門店。いや、パフェ自体はめっちゃ旨いよ!?ユウキは、スイーツとか甘い物大好きだろうから、いいと思うけど、育ち盛りの男の子に昼飯パフェだけって結構キツイからね!?
ユウキ「ん?そうだけど?」
…うん、悪気の無い純度百パーセントの疑問を投げかけないでください。自分が悪いことしてるみたいに思っちゃうから。
アルファ「…いや、スゲー美味しいな、このパフェ」
ユウキ「うんうん、そうだよね!喜んでもらえて良かったよ!」
ユウキが満足そうに笑顔でそう答えるのを見て、俺も気持ちだけは満たされた。…後で、屋台でなんか買お、パフェだけでは到底お腹が膨れそうになかった俺は密かにそう決意した。
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アルファ「はっくしょッ!!…寒いな」
ユウキ「こういう所は、金属装備が羨ましいね」
アルファ「…ユウキ、今日はもう、家に帰って炬燵にでも入りながら、ゆっくりしていいか?」
ユウキ「そうしたいのはボクの方だよ。グズグズしてないで、早く終わらせに行くよ」
アルファ「うっす」
第二十八層、そこは、雪が降り積もった凍える世界だった。一応、アインクラッドの世界では、プレイヤーが快適にゲームを楽しめるようにプレイヤーが感じる暑さと寒さには限度が設けられている。その為、このような極寒の地であっても、見た目ほど寒さを感じているわけではない。だが、視覚から訴えてくる雪景色と、これまで生きてきた中で経験した寒さの記憶が、脳を錯覚させ、それなりには見た目相応の寒むさを感じさせてくれる。開発陣もこうなるとは想定外だったのだろう。これも、現在の攻略が滞っている原因の一つになっていると思われる。…まぁ、それでもこれは、然したるものだろうが。
寒さのせいか、ユウキは少し早足にクエストが発注できる場所まで案内してくれた。内容は、主街区の近くにある泉のほとりに自生する、雪の結晶花を採取することだった。このクエストは、経験値もそれなりに貰える上に、この層で必須となる氷耐性の装備が手に入るらしい。頭上で少し弱めに輝く太陽の光を浴びながら、俺達は泉へと向かった。
ユウキ「ん~、見当たらないね」
アルファ「でも、場所はここなんだろ?」
ユウキ「そうだけど、ボクが来た時は、直ぐに見つけられたんだよ?」
アルファ「それはユウキの日頃の行いの賜物なんだろ」
ユウキ「じゃあ、アルファは日頃から行いが悪いってことだね~」
アルファ「…俺の場合はリアルラックが低いから、だ」
ユウキと雑談をしながら、手探りに泉のほとりの草原を捜索する。こんな吞気にしている暇など俺にはないのだが、これはクエストなので仕方がない、と自分に言い聞かせることで、何とか気を紛らわせる。数十分後、ちょうど俺達が入ってきた方向と真逆の所に雪の結晶花が一本、凛と咲き誇っていた。それを採取し、ストレージに仕舞った俺は、ユウキと共に来た道を引き返していく。
ふと、泉の方へ視線をやると、その中央には、氷漬けになった盾らしきものが、キラリと輝いていた。恐らく、また別のクエストの報酬として与えられるものだったりするのだろう。その神秘的な輝きに魅入られないわけではないが、俺は両手剣使いである為、盾を装備することは出来ない。少し名残惜しい気持ちになりながら主街区まで戻ってきた俺達は、クエスト報酬を獲得して、レベリングを再開するために再び26層へ向かう。ユウキが一旦休まないかと声を掛けくれたが、それをやんわりと断った俺は、結局、日が暮れるまでレベリングを続けた。正直、俺はこのまま夜通しレベリングを続けていたい。だけど、それはユウキに迷惑だろうから、主街区で、今度はちゃんとした食事を取ってから、宿屋へ向かった。
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ユウキ「…よしっ、今日はボクの勝ち、っと!」
アルファ「ユウキって後ろに目ついてんの?」
ユウキ「そんな訳ないじゃん。勘だよ。勘。アルファは無理?」
アルファ「…世界は厳しいぜ」
アルファは尻餅をついた姿勢で、空を見上げて、感慨深そうに耽っているが、それっぽいことを言われても、その態勢では、何とも言えない残念さだ。本日のデュエルが終了したボク達は、今度こそ宿屋に戻って休もうと、不意にアルファの伸ばしてきた手を払って、宿屋に向かう。
アルファ「おいっ、敗者に配慮はないのか!」
ユウキ「偉い人が言ってたよ。敗者に情けは必要ないのだ、ってね」
アルファ「明日は絶対負かしてやる…!」
後から追いついてきたアルファと共に、宿屋のエントランスに入り、それぞれの部屋へ入ろうとした。その時、メッセージの着信音が鳴る。ボクは誰からのメッセージだろうかと、確認すると、差出人はアルゴだった。
ユウキ「あー、アルファ?明日の朝、28層のボス戦攻略会議が開かれるってアルゴからの情報だよ。行く?」
アルファ「……オーケー」
ユウキ「因みにだけどね。情報料は後々アルファに請求するってさ」
アルファ「えっ」
ユウキ「じゃ、おやすみ~」
アルファ「あ、あぁ…」
してやったり。そんな愉快な気分に酔いながら、ボクはお風呂場に向かった。身体を綺麗にして、浴槽に浸かり、シャワーを浴びて、お風呂を出る。今思い返せば、この世界には歯ブラシがない。それを考えると、口の中が気持ち悪くなってくるが、それを備え付けのレモンティーで誤魔化しておく。そろそろ眠気が襲ってきたので、それに抗うことなくベッドに入ってから、目をつぶって今日の出来事を思い出していた。数日前に復帰したアルファも、最近は冗談交じりに喋ってくれたりと、以前のような明るさを取り戻してくれている気がする。…でも、その表情には、何処か陰りがある気が…。ボクは睡魔に抗えず、そこで思考を辞めて、眠り始めた。
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リンド「今回のボス戦のリーダーは俺がッ!」
キバオウ「なに言うとんねん!お前は前の層でやったやろ!今回はワイの番ちゃうか!?」
リンド「あれはじゃんけんで決めたんだから。順番なんて関係ないだろ!それに、前の層で俺のリーダーシップは充分に伝わったと思うが?」
キバオウ「やったらワイにもリーダーシップを発揮する権利があるんちゃうんか!?」
ディアベル「…二人共、一度冷静になって─」
「「ディアベルさん(はん)は黙ってて下さい(くれ)!」」
攻略会議。そう呼ぶことさえおこがましい。これはただの言い争いだ。一応、攻略会議という名目で多くの前線組がここに集ったのだが、これまでのように、流れるような滞りの無い会議が行われることは無かった。二十五層以来、ホープ・オブ・ナイツが瓦解したとの噂は耳にしていたが、まさかあのディアベルが求心力を失うほどだとは思いもしなかった。
ホープ・オブ・ナイツはリンド、キバオウの二グループに分かれてしまい、それぞれでギルドを立ち上げるまでに至っている。リンドはリソースをトッププレイヤーに集中させ、攻略を充実させると言い、キバオウは全プレイヤーにリソースを分け与え、攻略を充実させると言っているらしい。ホープ・オブ・ナイツに残った僅かな人員は、ディアベルを信じる者と穏健派といったところか。リンドの立ち上げたギルドはドラゴンナイツ・ブリゲード、キバオウの立ち上げたギルドはアインクラッド解放軍という名前らしい。掲げる主張のせいか、リンド側に実力派のプレイヤーが多数所属することになったようだ。
攻略が思うように進まない最大の原因は、攻略における絶対的リーダーが不在であることか。…そして、それに加えて、前線組の中でも一二を争う実力者キリトとアスナがいないことだろう。アスナは新興ギルドに所属したのだから、そちらに手がかかるといった理由だろうが、キリトは何故?今度、アルゴに聞いてみよう。
アルファ「…何とかならないか?」
エギル「…コイツは厳しいぜ」
この惨状は流石のエギルさんでもどうしようもないようだ。結局、言い合いに言い合いを重ねた結果、今回はキバオウがリーダー役となることに決定した。今日と同じ時間に、明日もここに集合してから、ボス戦に臨むことに決めてから、攻略会議が終了した。その後、俺は明日に備えて、延々とレベリングを続けて、その日を使い切った。
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陽もとっくに落ち、常闇に包まれた世界を俺は宿の窓から眺めていた。日々のレベリングが功を奏し、俺のレベルはとうとう38にまで上がっている。ボス戦の安全マージンとして広く共有されている階層+10レベルを満たしている俺は、明日のボス戦に何の不安も抱く必要はないはずなのだ。だが、そんな客観的な事実に反して、俺の心の焦燥感は時間が経つにつれて、ドンドン大きくなっていく。どれだけ頭の中で、落ち着け、と念じても、それは留まることを知らなかった。
明日のボス戦のことを考えると、どうしても、あの日の出来事が、俺の脳裏に焼き付いて離れない。…もし、明日のボス戦でユウキが死んでしまったら、そう考えるだけで、身体が小刻みに震える。もし、そんなことが現実に起きてしまったら、きっと、もう自分が完全に壊れてしまうことを俺は確信できる。幾ら俺が安全マージンを獲得しているといっても、それは己の身を己で守るために必要なレベルであって、誰かを守るためのレベルではない。
つまり、俺の今のレベルでは、万が一の場合に、俺の力ではユウキを生かすことが出来ない、という悲痛な現実を突きつけてくれる。…もっとレベルが、力が必要だ。何があってもユウキを助け出せる程の。そんな気持ちに後押しされるように、俺は不意に扉を開けて、自室から出た。目指すはフィールド。今からでもレベリングを開始すれば、少しはマシになるかもしれない。つかつかと足を動かして、俺は宿屋を出る。
ユウキ「…アルファ、どこ行くの?」
だが、何故か宿屋の前に居たユウキが俺の行く手を阻んだ。
アルファ「…レベリングだ」
ユウキ「夜はモンスター達が活性化するから、危険だよ」
…そんなことは、分かっている。だけど、俺にはもっと力がなければ…ッ!
アルファ「それでも、俺はレベルを上げないとッ」
ユウキ「どうして?アルファは安全マージン確保できてるよ?」
アルファ「…行かせてくれ」
ユウキが俺を阻んで逃がさないことは、その揺るがない瞳を見れば、分かることだ。しかし、俺もここで引くわけにはいかない。…俺はオウガとサツキが託してくれた想いに答えなければならないのだから。
ユウキ「……ねぇ、どうしてそうやって、一人で抱え込むの?どうしてボクには何も話してくれないの?」
ユウキが悲しそうに俺にそう問い掛けてきた。その表情に一瞬、俺の胸はチクリと痛むも、構わず続ける。
アルファ「…これは、俺の問題だから」
ユウキ「……ボク、分かってるよ。アルファが明日のボス戦を怖がってること」
アルファ「ッ!」
ユウキ「今日のアルファ…ううん、あの日からずっと、辛そうな顔してたよ?」
アルファ「…」
隠していたつもりだったのに、ユウキにはすべてお見通しだったのか。そう、別に俺はあの日から立ち上がりはしたが、あの日を乗り越えられたわけではない。それでも、彼らの想いを受けて、俺は進まなければならないのだ。それが、俺にとっての、生きる者の義務であり、俺の生きる理由なのだから。
ユウキ「…お願い。一人で抱え込まないで。辛いことは何でも言って?…ボクも、アルファを支えるから」
真摯なる顔つきで、そう言ったユウキが、一歩、俺の方に歩んできた。俺はその場から一歩後退りしたい気持ちに駆り立てられたが、それではいけない、と一歩踏み留まる。そして、何故かは分からない、だけど、俺は小さな声で胸の内を彼女に明かしたんだ。
アルファ「…あぁ、そうだ。俺は怖い。あの日みたいに、ユウキが、死んでしまうんじゃないかって、すげぇ怖い……」
ユウキ「…大丈夫だよ」
ユウキが、穏やかにそう言ってくれるが、俺は俺自身の、意思をユウキに伝えようとする。
アルファ「ユウキを死なせるわけにはいかない。だから、俺はユウキよりうんと強く在らないと──」
ユウキ「それは違うよ」
アルファ「え?」
俺の言葉を遮って、ユウキが放った言葉に俺は純粋な疑問を持つ。だが、それはユウキがすぐに解決してくれた。
ユウキ「…ボク達はコンビなんだよ?辛いことは二人で分け合って、一人じゃ出来ないことは協力し合って、そうやって二人で一人なんだから」
ユウキが優しくそんな言葉を送ってくれた。その時、俺の頬に一筋の涙が流れる。
アルファ「あぇ…なんで?」
どうにかしてそれを止めようとしようとも、涙は止まらず、俺は両手で目頭を押さえながら、嗚咽交じりにユウキに何かを伝えようとした。その時、
アルファ「……ぁ…」
突然、ユウキが俺の頭をそっと抱えて、胸にふんわりと引き寄せた。俺とは違って柔らかい手が俺の背中を、頭を丁寧に撫でてくれる。
ユウキ「だいじょうぶ。ボク達二人なら、何処までもいけるよ」
アルファ「…そうだと、いい、なぁ…」
ユウキ「泣きたいときは、泣いていいんだよ?」
アルファ「……うん」
…あぁ、俺はいつまで経っても弱いままだ。それに最近は、泣き虫にまでなってきている気がする。素直に、ユウキの心地良い優しさに身を任せた俺は、しばらくそのまま、ユウキの抱擁に甘えながら、涙を流し続けた。
────────────────
キバオウ「己ら、気張ってくでー!」
「「ウィ!!」」
ボス部屋の前にまで辿り着いたレイドメンバーはいつもの如く、そこで最終確認を始めた。25層でレイドが半壊してしまったせいで、見ない顔の者が半数ほどを占めている。だが、道中のモンスターを相手にしている様子を見る限り、少し動きは堅いものの、実力充分であることは伺えた。
キバオウが場を盛り上げる為に、威勢よく声を上げたが、それに応じたのは、三分の一程だ。恐らくここにいる三割程度のプレイヤーがキバオウ派ということだろう。リンド側に属する者たちは、逆にキバオウ派を恨めしそうに眺めていた。これまでの攻略とは違って、お互いがお互いを出す抜かんとする気概が溢れており、士気が大きく上がっている。しかし、ボス戦では、プレイヤー同士の協力が不可欠であるため、この調子で大丈夫なのかと、少し心配になったりもした。
…赤の他人の心配をしている余裕のなど、この俺にあるというのだろうか。もうすぐ、ボス戦だ。今この瞬間も、あの日のことが目の前にフラッシュバックして、全身から嫌な汗が噴き出し、俺の鼓動は急速に速まっていく。ユウキが、死んだら、俺はどうしたら──
ユウキ「アルファ、落ち着いて」
アルファ「ユウキ…」
そんな全身に不安が纏わりつき、何も考えられなくなりそうな俺の心中を見抜いたユウキは、穏やかな笑みを浮かべて、俺を心を宥めようとしてくれる。俺は、大丈夫だと、ユウキに虚勢を張ることさえ出来ず、小刻みに手足を震わせていた。
ユウキ「二人でなら、大丈夫だよ」
ユウキはそう言って、震える俺の指先を、両手で包んでくれる。ユウキの暖かな手に触れた俺は、不思議と震えが収まり、少しずつ落ち着きを取り戻していた。…そうだよな、俺達は、二人で一人なんだ。
キバオウ「ヨッシャ!んじゃいっちょ行くで!」
その時、キバオウが大扉を開け放った。なだれ込むようにレイドメンバーがボス部屋に入っていく中、俺達も遅れずそれに着いて行く。その間、俺はユウキの耳元に、ありがとう、と呟いてから、ボスの出現を待った。
────────────────
キバオウ「お前ら!ラスト一本や!気ィ抜くなよッ!」
28層のフロアボス戦は、驚くほど順調に進んでいる。いや、今までの層もいつもはこんな感じだった。ただ、25層が異常だっただけだ。28層のフロアボスである、氷の鎧に覆われたゴーレム、所謂、アイスゴーレムはHPバーをラスト一本の所まで減らしていた。
アイスゴーレムは新たな行動パターンを繰り出し、その巨大な両腕を地面に打ち付け、床を氷結させる。こちらの足元が滑りやすくなり、危険な状態であるというのに、アイスゴーレムはこれこそが自分のホームであると言わんばかりに、自在に動き回り始めた。
キバオウ「今はタンク中心に、ボスの攻撃から身ィ守ることだけを意識せぇ!」
キバオウの適切な指示がレイドメンバーに伝わり、兎に角その場を凌ぐ為に、俺達は皆、防御態勢に入る。キバオウの指揮は悪くはないが、やはりディアベルと比べると、見劣りする面が多い。最も、キバオウ派とリンド派の間で競争関係が生まれていることから、レイドメンバーの士気が大幅に向上しているため、以前よりも、攻略に勢いがついてはいる。
防御態勢を取り始めて数秒後、クエストで手に入れた氷耐性の装備が真価を発揮し始めた。氷耐性のバフが付き、そのクエストをしっかりとこなしていたレイドメンバーは、次第に凍った床を自由に動けるようになった。すぐに陣形を立て直して、ボスに攻撃を仕掛けていく。するとボスは、周囲に氷の鎧兵を召喚する。
ユウキ「…来たよ!」
アルファ「あぁ!」
俺達の役割は、ランダムに出現する氷の鎧兵を仕留めることだ。鎧兵がポップした傍から、俺とユウキは、すぐさまその場に移動して斬りかかる。鎧兵は氷で出来た盾で俺の両手剣を受け止めるが、ユウキがその隙間を縫って、ダメージを稼いでくれた。次いで振り抜かれる氷の剣を相殺し、またユウキの攻撃を通す。それらを繰り返して、氷の鎧兵を一体撃破した。
ユウキ「しゃがんでッ!」
突然、ユウキが俺の目を見てそう叫ぶ。俺はそれに従って、姿勢を低くする。すると後ろから、横一線に氷のサーベルが飛んできた。
アルファ「サンキュー!」
俺は身体を縮めた姿勢から、バク宙をするようにして、体術スキルを発動させた。それがクリーンヒットし、態勢を崩した氷の鎧兵その2にユウキが連撃技を決めて、撃破する。ユウキが技硬直で動けなくなり、そこを狙った両手槍を持つ、最後の氷の鎧兵の重い突き攻撃を俺は両手剣の腹でいなして、身体が密着したゼロ距離地点から拳を腹に打ち込んだ。その勢いを利用して、取り巻きから距離を取った俺は、硬直の解けたユウキとスイッチをする。そしてそこから、再びユウキとのコンビネーションを作り出して、最後の氷の鎧兵を撃破した。その時、ちょうどアイスゴーレムも撃破されたようで、ボス戦が終了する。
ユウキ「お疲れ様っ」
アルファ「お疲れ」
ユウキが左手を挙げた。俺も右手を挙げて、パシン、とハイタッチする。そしてユウキが、満足気に笑いながら、俺に言葉を掛けてきた。
ユウキ「ね?ボク達は二人で一人だったでしょ?」
アルファ「…あぁ、そうだな」
ボス戦が始まってからも、俺の中では、あの日の記憶が絶えなかった。それでも、足を止めることなく闘い続けられたのは、きっと、ユウキが俺の傍にいてくれたからだろう。今日のボス戦の勝利体験で、俺の心はまた少し軽くなった気がするが、それでも完全に25層での出来事を乗り越えられたわけではないはずだ。
…だけど、俺達は二人で一人なんだと。それが真のコンビというものであるのだと。そのことに気が付けたことによって、俺は明日からもこの世界を生き抜いていけるような気がした。
今度こそアルファ完全復活です。ユウキにぎゅってしてもらえて良かったですねぇ。
では、また第37話でお会いしましょう!