…別に、タイトルを考えるのが面倒くさかったわけじゃないです。タイトルが思い浮かばなかっただけです。
アルファ「…」
ユウキ「…」
ボク達は二人で、金網を囲んで座っている。最前線は29層だけど、今は26層の主街区からちょっと離れたところに位置する中規模の街の一角にある、食事処を訪れていた。アルファはさっきから普段フィールドに出ているときよりも、よっぽど真剣な表情で何も言わずに、ずっと金網の上に乗せられたお肉を眺めている。そういうわけでボクも黙ってアルファの様子を眺めているのだ。
アルファ「…ここだっ!」
アルファが、横に準備しておいた金属トングを勢い良く手に持ち、程よく焼けたお肉を掴んだ。そして、それを二人分の取り皿に分けてくれる。二人で、いただきます、と合掌してから、この店自慢らしい特製のタレと赤身肉を絡ませて、口に運んだ。
アルファ「うんまっ!」
ユウキ「!!」
アルファは、お肉を口に入れた途端に、白米を口の中頬張りこんで、モグモグと食べてから、感嘆の声を上げた。勿論ボクも、あまりの美味しさに全く同じ行動を取っている。
アルファ「まさか、この世界で焼肉が食べられるとは思わなかったぜ」
アルファは、注文しておいたカルビやハラミ等の様々なお肉を次から次へと金網の上に置いていく。ボクももう一つのトングを使って、自分が食べてみたいお肉を置いた。
この世界では、料理をするためには、必ず料理スキルが必要になってくるのだが、その工程の中でも、焼く、というものは例外で、料理スキルがなくても、こなすことが出来る。だが、料理スキルが無ければ、大雑把にしか火加減を理解できない。その為、焼き芋とか焼きマシュマロぐらいしか料理スキルなしで出来ないのだ。その為、普通ならこの焼肉も、料理スキルを持たないアルファには、出来ないことの一つとなってくる。しかし、この店で提供される魔法のトングを使うとあら不思議、料理スキルを持たないプレイヤーでも、焼肉が楽しめるのです。
ユウキ「これ、焼けたよ」
アルファ「こっちも」
一気にお肉を並べ過ぎたのが原因か、ドンドンと焼き上がってくるお肉を食べるのに、ボク達は追われ始めた。タレで食べたり、レモン汁みたいなものに漬けて見たりしながら、二人でお肉をたらい上げていく。
アルファ「…お、これもそろそろいけるな」
そう言って、アルファは少し分厚めのお肉を自身の取り皿に入れようとしたが、ユウキは、反射的にそれを止めてしまった。
ユウキ「えっ。それまだ赤いよ?まだ食べられないと思うけど…」
アルファ「これはステーキ肉らしいから、こんぐらい赤くても大丈夫だと思うぜ」
ユウキ「…?ステーキ肉って赤くても食べられるものなの?」
アルファ「あぁ、ステーキはさ、中までしっかり焼かなくても食べられるんだ。聞いたことないか?レア、ミディアム、ウェルダンってさ」
ユウキ「…そういうことだったんだ」
昔、家族でステーキ屋さんに外食に行った時に、家族全員で、良く焼いて、って頼んでたのは、そういうことだったのか。
アルファ「俺も小っちゃい頃はさ、親に良く焼いて食べさせられてたから、レア食べ始めたのも最近なんだよなぁ。ユウキもその口だろ?」
ユウキ「……そ、そうそう。ボクの親も過保護でさ。食べたことないんだよね~」
アルファ「やっぱりか。じゃあ試しに食べてみろよ。中々に旨いぜ」
リアルのことが透けてしまうのが怖くて、適当な噓をついてしまった。それを疑いもせずに受け入れるアルファを見て、胸がチクリと痛くなる。
ユウキ「う、うん」
そう答えると、アルファが生焼けのステーキ肉をボクの取り皿に置いてくれた。でも、いざ食べるとなると、身体に影響はないだろか、と思ってしまう。
アルファ「まぁ、こっちの世界なら、お腹を壊す心配もないし、大丈夫だろ」
…確かに、この世界で食べ物を食べたとしても、実際の身体に食べ物が入ってくるわけではないか。意を決してボクはレアのステーキ肉を口に入れた。肉を噛むといつものしっかりと焼いたお肉とはまた違った、柔らかな食感と、溢れる肉汁に驚かされた。…これは、途轍もなく美味だ。
ユウキ「すっごい美味しいね!」
アルファ「だろ?」
ユウキ「残りレアは全部頂くよ!」
アルファ「なっ、そうはさせん!」
完全にレアのステーキに魅了されたボクは金網に残るレアステーキをすべて回収しようとしたが、それはアルファの素早い対応によって阻止される。その後も、レアを巡る闘いが金網の上で繰り広げられていった。
────────────────
アルファ「よしッ!来たぜ!」
フィールドに現れる雑魚モンスターを殲滅し終えた俺は、天に腕を掲げて、その湧き上がる喜びを全身で表現する。
ユウキ「レベル40おめでとう!」
アルファ「おう!」
つい一昨日にレベル40に達したユウキも自分のことのように喜んでくれた。普段のレベルアップでも、ステータスが上昇することもあり、それなりに嬉しいのだが、やはり一つの区切りとなってくる大台に乗ると、その喜びも比例して大きくなる。しかし、何も、区切りの良い数字になったことが嬉しいのではない。レベル40になると、スキルスロットが一つ増えるのだ。
スキルスロットとは、その名前の通り自分の使用するスキルをセットするための枠のことを指す。スキルスロットはまずレベル1の時点では二つ存在し、そこからレベルを6、12にまで上げると一つずつスロットが増える。そこからは20、30、40、と十の倍数ごとにスロットが一つずつ増えていくのだ。その為、今、レベルが40に上がった俺は、スキルスロットが6個から7個に増加し、新たにもう一つ新しいスキルを獲得することが出来るようになったのだ。…どんなスキルを取ろうか。もう第一候補は決まりきっているのだが、それでも俺の中では、色々なスキルを使い熟してみたいという欲求が溢れ出してくる。
…料理スキルとか、楽器スキルみたいな、趣味の一環として心のリラックス効果に繋がるフレーバースキルもいいし、鍛冶スキルを取って、自分専用の武器を作り出してもみたい、他にも、薬物を自分で作り出せる投剣スキルと相性抜群の調合スキルとかもいいよな。いや、それなら投げピックの所持数を更に増やすために、所持容量拡張スキルを取るべきか?でも、軽業スキルとかも鍛えてみたんだよなぁ。いやいや、現実的に考えたら、隠蔽スキルか軽金属装備が最適解か?ユウキに声を掛けられた俺は、頭の中で滝のように流れ出てくる欲望と思考を一旦堰き止めた。
ユウキ「もう何のスキル取るか、決めたの?」
アルファ「…ある程度は、な」
ユウキ「なになに~?」
アルファ「まだ秘密だ」
ユウキ「えぇ~。…取り敢えず、もうひと踏ん張りしよっか」
アルファ「そうだな」
招かれざる客がやって来た。周囲にモンスター達がゾロゾロと集まってきている。俺達は、モンスター達に囲まれる前に、各個撃破していきながら、周囲のモンスターを殲滅し、主街区を目指して行った。主街区に到着すると、予定通り、転移門の前にはアルゴが立っている。
ユウキ「あれ、アルゴ?どうかしたの?」
アルゴ「アー坊に呼び出されたんダ。オネーサンに愛の告白をするためにナ」
ユウキ「え」
アルファ「ユウキ、真に受けるな。アルゴのジョークだ」
雷に打たれたように硬直していたユウキに、声を掛けてから、本題に入る。
アルファ「んで、頼んでおいた情報は手に入ったのか?」
アルゴ「オレっちを舐めないでほしいナ。情報料をくれヨ」
アルファ「先払いですか。これまた用心なことで」
アルゴ「職業柄仕方ないのサ」
俺は適当に硬貨を数枚渡すと、アルゴが話し始めた。
アルゴ「キー坊は、今は中層で活動してるギルドに所属しているヨ。だから前線には顔を出さないのかもナ」
アルファ「そうなのか。…ま、なんにせよ、キリトが居場所を見つけられたなら、それでいいか」
俺がアルゴに頼んでおいた情報は、最近前線で顔を見ないキリトが何処にいるのか、というものだった。アルゴの言う通り、ビーターだと周囲から蔑まれているキリトが何処かのギルドに所属出来たなら、それはきっと、そんなレッテル貼りに囚われず、キリトの内面をしっかりと理解してくれる優しい人達がたくさんいるのだろう。アスナが消えた今、キリトが独りにならなくて、本当に良かった。
アルゴ「…そうだナ。それと、明日の朝九時から、ここで攻略会議が始まるってサ」
アルファ「りょーかいだ。…あ、そうだそうだ。この前の攻略会議のお知らせ、ありがとな。情報料はこれぐらいでいいか?」
ユウキ「!!」
アルゴが次の攻略会議の日程を知らせてくれたことで、ユウキが言っていた情報料のことを思い出して、硬貨を数枚取り出した。だが、
アルゴ「ん?オレっち、その情報では商売していないヨ?…まぁ、くれるってなら貰うケド」
──えっ、マジで?じゃあ今後とも無償でよろしく。
俺がそう言葉にする前に、アルゴは疾風のごとく俺の手に握られた硬貨を掠め取った。
アルファ「…ユウキ。あれはウソだったのか?」
ユウキ「ア、アハハ…」
ユウキの方を見ると、引き攣った顔で苦笑いをしている。
アルファ「アルゴ!それは詐欺だ!窃盗だ!泥棒だ!」
俺の必死の訴え虚しく、俺の硬貨は奪い取られてしまった。…まぁ、アルゴには日頃からお世話になっているので、これぐらい構わないが。
アルゴ「それよりもユーちゃん、この前言ってたあの情報、買うつもりはないのカ?」
ユウキ「買う買うっ!!」
アルファ「なんの情報なんだ?」
ユウキ「ア、アルファはちょっと何処か行っててほしいなっ」
少し慌てた様子でユウキがそう言った。…もしかしたら、男の子は聞いちゃいけない話なのかもしれない。そう考えた俺は、要件が終わったらメッセージしてくれ、と言い残してから、野暮用のある武器屋に向かった。
────────────────
アルファ「…今日も来たぜ」
ちょうど、武器屋で用を済ませた頃にユウキからこっちも用が終わったという趣旨のメッセージが届いたので、転移門前で待ち合わせして、それから第一層の生命の碑にやって来た。俺は立ち上がった日から、ユウキはそれよりも前から、こうして一日に一回は、生命の碑を訪れて、オウガとサツキに祈りを捧げている。
俺は、死者に祈りを捧げる際の決まり事みたいなものはよく知らないが、兎に角、生命の碑の前で跪き、両手を合わせて祈っている。心の中で思うことは、今日はこんなことがあっただとか、あんなものを見つけたとかいった日常の報告だ。勿論、彼らへの懺悔も忘れはしない。
アルファ「じゃ、また明日も来るからな」
俺はお別れの言葉を送って生命の碑を後にしようとした。すると、後ろからユウキが俺に声を掛けてくる。
ユウキ「あっ!そう言えば、七個目のスキル、何なの?まだオウガとサツキに伝えられてないんだけど」
アルファ「あぁ、そうだったな。…じゃあ見せてやるよ。お前ら!しっかりとその目に焼き付けろよ!」
オウガとサツキにも聞こえるように、大声でそう言った俺は、あるものを実体化させる。俺は、レベル40になるまで、スキルスロットには、両手剣、体術、瞑想術、索敵、投剣、戦闘時回復、の五つをセットしていた。片手剣スキルは指輪に保存したままだ。残りの一枠には、疾走を入れていたのだが、メインアームが両手剣で、完全な片手剣使いのようにAGIに振り切ることが出来ないので、あまり上手く活用出来ていなかった。故に、今回のスキルスロット枠増加を機として疾走を外して、空きを2枠作った。その2枠にセットしたスキルは、
ユウキ「……片手槍と曲刀…」
アルファ「俺は、オウガとサツキの想いを受け継ぐ。これはその証だ」
左手に曲刀を、右手に片手槍を装備した俺は、その両腕を天に掲げてクロスさせた。そう、今回選んだスキルは、オウガのメインアームである片手槍とカタナスキルの前身となる曲刀スキルだ。正直言って、この二つのスキルを取るメリットは皆無だ。どちらのスキルもメインアームとして機能するものだから、既に両手剣使いとなった俺には不要なものになってくる。
今回の2枠には、耐久の上昇を目的として、多少無理できるように軽金属装備スキルを、そして、隠蔽スキルや調合スキルとかの組み合わせが一番実用的だろう。それでもなお、俺がこの二つを選んだのは、言葉の通り彼らから託された想いを受け継ぐ為なのか、それとも、ただの傲慢か。
ユウキ「……ねぇ、これ見て欲しい」
アルファ「…録画結晶?」
ユウキがそっと差し出した録画結晶を俺は覗き込むようにして見つめる。ユウキが記録の再生を始めると、そこにはサツキが映し出された。サツキはその中で己の剣舞を披露している。続いてオウガも自分の持てる力で理想の剣舞を表現しようとしていた。…これがいつ記録されたものなのか、俺は知らない。でも、これを見ていると、自然と胸の内が熱く燃えてくる。
ユウキ「……これ、ギルド共有タブに入ってたんだ。ボク達はさ、ギルド共有タブなんか、全然使わなかったから、さっきボクが間違えて開かなかったら、ずっと仕舞われたままになってたかもね」
アルファ「…俺、この二つの剣技、絶対にマスターしてやる。それがオウガとサツキへの償いになる気がする…」
ユウキ「…そっか。じゃあ、早速適当な場所見つけて、二人で練習しようよ!ボクもマネできる箇所ありそうだし!」
少し、俺の雰囲気が沈んだせいか、ユウキは努めて明る振る舞ってくれる。
アルファ「よしっ、いっちょやるか!」
俺も両手で顔を叩き、気合を入れ直して、練習できそうな場所をユウキと探しに向かった。
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リンド「今回は俺だ!」
キバオウ「いーや、ワイや!」
リンドとキバオウはお互いを睨みつけ合いながら、火花を散らし合っていた。俺が攻略会議に参加するのは、これで二回目だが、毎回この調子で飽きないのだろうか。壇上で激しい闘いを繰り広げる二人を横目に見ながら、俺は隣のエギルに話し掛ける。
アルファ「なぁ、エギル。いっその事、今回のリーダー役、買って出たらどうだ?」
エギル「バカ言えッ!この状況でそんなこと言ったら、数十人のプレイヤーにタコ殴りにされるに決まってんだろッ!」
ユウキ「確かに、この状況でそんなこと言える人はいないと思うなぁ」
俺の左隣にいるユウキも、エギルに同調した。…一応言っておくが、俺も、リンドとキバオウのどちらが今後の前線組の中で、もっと言えば、この世界の中で覇権を握るのかが掛かっているこの状況で、エギルがリーダー役に買って出たところで、はいそうですか、となるとは思っていない。
アルファ「…ま、そうだよな。俺は今回もクジ引きでキバオウがリーダー役になるのに1000コル賭ける」
エギル「だったら俺は、リンドに1000コルだ」
ユウキ「ボクは…ディアベルに1000コル!」
流石に今の前線組の雰囲気では、ディアベルがリーダー役になることはまずないだろうが、理想としては、ディアベルのような確固たる絶対的な指揮者が居てほしいものだ。そうなれば、ボス攻略の安定性もグッと上がってくるだろう。実のところ、25層で死亡者が多く出てしまったのは、ディアベルのせいではない。
寧ろ、ボスの圧倒的な強さに恐怖し、ディアベルの最適な指示に従えなかった多くのレイドメンバーにあるのだ。このまま攻略が進んでいけば、いつの日かレイドメンバーがあの日のことを本当の意味で反省し、再びディアベルがリーダーに返り咲く日も近いだろう。そんなことを考えながら、三人でお遊びの賭け事を始めると、突然、後方から声が飛んできた。
アルゴ「じゃあオレっちは、アーちゃんに1000コル賭けるヨ」
アルファ「はぁ?アスナは今日いないぜ?」
その時、俺はアルゴの言ったことを只の阿呆な妄言としか捉えなかったが、次の瞬間、その意味の全てを理解した。後方から、十数人のプレイヤーが足並みをそろえて壇上に向かってやって来た。その先頭には、白を基調とし、真紅のラインが入った服装、それも、ミニスカート風の制服を身に纏ったアスナが真剣な顔つきで構えている。壇上の一歩手前で立ち止まったアスナは、壇上にいる二人に向かって、ハッキリとこう告げた。
アスナ「今回のボス戦、私たちのギルドに主導権を頂いてもよろしいでしょうか」
ここに集まったプレイヤーは騒めき始めた。リンドかキバオウか、その二択に絞られていたはずの選択肢が三つに増えたのだから、当然だ。
リンド「…アスナさんがこのギルドのリーダーなのか?」
アスナ「いえ、私は副団長です」
アルファ「ふ、副団長ぅ!?」
開いた口が閉じないまま、俺は啞然としてアスナ達を眺めていた。すると、最後尾の方から一人の男が中央を歩いて行く。その男はアスナを越え、先頭にまで来ると口を開いた。
「私がこのギルド、<血盟騎士団>の団長を務める、ヒースクリフだ。今回のボス戦、我々任せてもらいたい」
威風堂々とヒースクリフと名乗った男は、そう言い放った。
血盟騎士団及びヒースクリフさん、ここで登場です。
では、また第38話でお会いしましょう!