~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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 また一万字を越えてしまった…。ま、もう何でもいいか()


第39話 真っ暗闇に射す光輪

 アルファ「…むぅ」

 

 俺は一人、宿屋の客室に籠って唸っている。俺は昔から、悩み事を延々と考え続けるような忍耐力のある人間ではなく考えることを辞めて適当に日々を過ごしながら、事に直面するまで何もせず、行き当たりばったりで悩み事を解決する傾向にあるのだが、今回ばかりはそうやって悩み事から逃げ切ることも出来なさそうなので、こうして頭を抱えながら、色々と試行錯誤をしているのだ。

 

 アルファ「……」

 

 俺の頭を悩ませているものの正体は、約一週間後に迫ってきているユウキの誕生日をどうお祝いするのか、というものだ。俺達は攻略組であるため、少なくとも日中はレベリングや素材集め、迷宮区タワーの探索などに勤しまなければならない。となれば、落ち着いてユウキの誕生日をお祝いできる時間帯というのは、必然的に夜となるわけだ。そこまで分かっているのなら、後はユウキをディナーにでも招待して、誕生日プレゼントを渡してしまえばいいのだが、まずそこが問題だった。

何故かと言うと、ディナーに招待するといっても、俺にはユウキの好物が全く読めないでいたからだ。ユウキと出会って行動を共にし始めてから、半年ほどの月日が流れたが、それでも俺は未だにユウキの好物を理解できていない。いや、ユウキの好物を理解していないわけではないのだが、どれが一番の好物なのか、ということが分からないのだ。ユウキはどんな食べ物を食べても、まるでその食べ物を初めて口にしたかのような様子で、その美味しさに感動しながら、食事を頂いている。つまり、ユウキはどんなものを食べようとも、ほとんど同じような反応を見せるということだ。であるため、恐らく、俺が和食だの中華だの洋食だの、どんなお店に連れて行ったとしても、ユウキはいつも通り喜んでくれることは間違いないだろう。しかし、それは裏を返せば、正解を選ぶことは容易だが、大正解を選ぶことは至難の業であるということを同時に示している。一応、数多とある食べ物の中でも、ユウキは甘いものが格別に好きであることぐらいは知っているので、デザートに甘いものが食べられるお店を選ぶつもりではあるが、そこでもやはり、和菓子が好きなのか、それとも、洋菓子が好きなのかという所までは把握できていない。

そういうわけで結局のところ、ユウキが最高の誕生日を過ごせるか否かは、俺の渡すプレゼントに懸かっているといっても過言ではない。その肝心のプレゼントを何にするのか、という点は、もうある程度決まっている。しかしこれまた問題点があり、日々の合間を縫って、色々な所にそれを探しに行っているのだが、どうも俺の力では、ユウキに似合うような物を見つけることが出来ないでいた。

 

 アルファ「……仕方ない。頼るとするか」

 

 今後の展開を考えると、出来れば自分だけの力で何とかしたかったのだが、それで良いものをプレゼント出来なくては、本末転倒なので、渋々彼女に連絡を取ることにした。

メッセージを送ると、すぐに返事が来て、第二十六層の転移門で落ち合うこととなり、俺も急いで部屋を飛び出す。ユウキに見つからないよう気を付けながら宿屋を出て、俺は転移門まで走って向かった。

 

 アルゴ「おっ、アー坊、来たカ」

 

 アルファ「悪いな。待たせちまったか?」

 

 アルゴ「…まぁ、二分ほどナ」

 

 アルファ「…そこは、待ってない、って言ってくれよ」

 

 アルゴ「情報屋は時間が命だからナ。…それで、今日は何の用なんダ?」

 

 挨拶代わりに冗談を交えた会話をしてから、アルゴが本題を訪ねてきた。

 

 アルファ「えーっと、ちょっと欲しいアイテムがあってさ。それに関する情報をな」

 

 アルゴ「なるほど…。どんなアイテムか教えてくれヨ」

 

 アルファ「…首から垂らすアクセサリー系のアイテムだ」

 

 アルゴ「…?アー坊が今付けてるネックレスって確か、25層のLAダロ?性能が低くかったのカ?」

 

 そう、アルゴの言う通り、俺は何だかんだで25層のボスの二体のLAをかっぱらっている。双斧の巨人からは俺が今身に付けている琥珀色に輝くネックレスが、大盾の巨人からは鈍く光る鋼色の指輪がLAであった。

 それだけ聞くと、四分の一という大きな区切りの層のボスからドロップするLAにしては、随分とショボいもののように感じるが、その性能は破格のでものある。ネックレスはSTRとAGIを+16するという純粋なぶっ壊れ性能で、指輪は、所持容量拡張スキルの二分の一の効果とノックバック耐性の大幅上昇、更に、各種デバフ耐性をそれなりに上げてくれるという、金属装備を身に着けない俺からすれば、有難い性能だ。なので、あの最悪なボスからドロップしたアイテムではあるものの、俺はその二つを活用させてもらっている。

 

 アルファ「いや、そういう訳じゃない」

 

 アルゴ「だったら、どうして?」

 

 アルゴの純粋な疑問に、俺は言葉に詰まる。…どうせ、ユウキにプレゼントするとか言ったら、アルゴが冷やかしてくることぐらい目に見えているからだ。そういう風に考えると、何だかアルゴが俺を誘導尋問しているのではないかと思ってしまう。

 

 アルファ「……ユウキに渡すんだよ。だから、女性に似合うような首飾りが必要なんだ。勿論、性能も高いのを、だ」

 

 なんとユウキは、未だに俺がクリスマスプレゼントとして渡した、三層のLAであるロザリオを身に付けている。当時はハイスペックだったロザリオも、流石に20層ほど上になってくると、スペック的にも完全に型落ちしてしまった。プレゼントした側としては、大事にしてくれているのが伝わってきて嬉しいのだが、もっと良い性能のアクセサリーがあるのに、これからもずっと使い続けていきそうなユウキを見ていると、申し訳ない気持ちになってくるので、今回の誕生日プレゼントを首飾りにして、性能を更新してもらおうと考えているのだ、

 

 アルゴ「…なるほどねェ」

 

 アルファ「…なんだよ」

 

 アルゴ「…アー坊、ユーちゃんと結婚するんダロ?」

 

 アルファ「ファ!?」

 

 予想の斜め上を、寧ろ一周回ってど真ん中をいったアルゴの回答に、俺は言葉にならない驚きが口から漏らしてしまう。

 

 アルゴ「だったら、首飾りより指輪の方がいいと思うヨ?」

 

 アルファ「待て待て待て。何で付き合ってもないのに、いきなり結婚まで進んでんだよ。スピード婚にも程があんだろ。そもそも、俺とユウキはそんな間柄でもねぇし。…あれだよあれ、誕生日プレゼントだ」

 

 アルゴ「知らないのカ?SAOには結婚ってシステムがあるんダ。プロポーズメッセージを相手に送って、それが承諾されたら、結婚成立って感じだケド」

 

 アルファ「へぇ。そいつは初耳だぜ」

 

 アルゴ「しかし、誕生日プレゼント、カ。…まだまだアー坊とユーちゃんがくっつくには時間が掛かりそうだナ…」

 

 アルゴが小声で何かを言った気がするが、もう気にしないで置くことにしよう。

 

 アルファ「…それで、何か良い情報は持ってないか?」

 

 アルゴ「あるヨ。アー坊の所望する条件にあった首飾り」

 

 アルファ「マジか!サンキューアルゴ!やっぱり持つべきものは友だなぁ」

 

 アルゴ「因みに、今回は情報料は無しでいいヨ」

 

 アルファ「えっ、有難いけど、なんで?」

 

 最近では、自分のステータスでさえ、コルになるなら売ってしまうなんて噂までもが立ち始めているアルゴが情報料を取らないことに俺は驚かされた。

 

 アルゴ「…これから、アー坊に襲い来る試練を思うと、とても情報料なんて取る気にはならないからナ」

 

 アルゴが呆れた顔でそう言ってきた。…例えどんなに面倒くさいお使いクエストであったとしても、俺は必ず成し遂げて見せる、と気合を入れて俺はアルゴの後に着いて行った。

 

 

 

────────────────

 

 

 

 アルファ「ここか?」

 

 アルゴ「そうだヨ」

 

 アルゴが俺を先導した先は、27層の主街区からフィールドに出て、約20分後に見えてきたドでかい山脈の麓にある中規模の街ランベルだった。ランベルは目の前にそびえ立つ山脈で取れる石炭などの鉱石を安定して採掘するために作られた街、という設定だった気がする。

 この街のことがあまり記憶にないのは、受けられるクエストがほとんどなく、更に次の圏内村の近くに迷宮区タワーがある為、そっちに気を取られていたからだろう。アルゴはランベルに入ると、クネクネと道を曲がっていき、遂には、漆黒のオークで建築された家屋に案内した。中に入ると、一階には何もなく、地下へと続く階段が一つある。

 

 アルファ「よくこんな場所見つけたな」

 

 アルゴ「フロントランナーは迷宮区にしか注視しないからナ。こういう場所を調べてみようとも思わないんダロ?」

 

 アルファ「ごもっともだ」

 

 薄暗くランタンで照らされる階段をしばらく下りていくと、そこには、横幅6メートル、奥行き20メートルぐらいの縦長に設計された何かの修練場のような空間が広がっており、その横には、バーのマスターっぽいNPCが一人、カウンターでグラスを拭いていた。しかし、そのNPC以外に人はおらず、そのNPCにクエストマークも表示されていない。

 

 アルファ「どこでクエスト受けられるんだよ?」

 

 アルゴ「…オレっちがいつクエスト報酬って言った?ちょっとそこで見てナ」

 

 …そう言えば、アルゴの口からクエストなんてことは一度も聞いていなかったな。俺を制止したアルゴはNPCに近づいて話し掛ける。

 

 アルゴ「的あて、一回」

 

 「難易度はいかがなさいますか?」

 

 アルゴ「チャレンジモード」

 

 「承知いたしました。この投げピックを持って、あちらでお待ちください」

 

 10本の投げピックを手にしたアルゴは、修練場に引かれた白いラインに立って、ジッと構える。

 

 「では、始め!」

 

 NPCの合図と同時に、修練場の至る所から中心が赤く塗られた丸い的が順に出現していった。その大きさは大小様々で、的自体が当てづらいだけでなく、奥の方に出現したり、天井や横からから的が出てきたりしている。更には、的が現れてから消えるまでのスピード間隔も異常に早く、結局アルゴは的を二つしか当てることが出来なかった。

 

 アルゴ「…チャレンジモードで全て的の中心を当てることが出来たら、その景品として、これが手に入るんダ」

 

 アルゴが差し出してきたNPCから貰ったポスターを受け取ると、難易度別に合わせた報酬が提示されていた。アルゴが挑戦したチャレンジモードは最難関で、全ての的の中心を当てるという条件も同じく最難関だった。そしてその条件を達成した暁には、絆のペンダントというアクセサリーアイテムが手に入るようだ。

 翡翠を削って作られたようなチェーン部分と、その先のペンダントトップには、透き通った瑠璃色に輝く勾玉が付けられている。その美しさは、写真越しでも十分に伝わってきた。気になるスペックは、AGI+12、STR+4、ソードスキルの技後硬直時間を15%減少させるという素晴らしい性能だ。

 

 アルファ「俺も試しにやってみるか」

 

 そう思ってNPCに話し掛けると、一回200コルと、しっかりお金を取られる。結構頑張って、次々と現れる的を狙って投げピックを投擲してみたが、結果は5本的中、その内2本が中心に、という結果だった。今日から毎日挑戦すれば、何とかなったりしないだろうか。

 

 アルゴ「ま、アー坊は投剣スキル取ってるんダロ?…毎日一時間ぐらいやってたら、間に合うんじゃないのカ?」

 

 …何でアルゴも俺のスキル把握してんだよ。という疑問は口には出さず、この場所を教えてくれたことに感謝を述べた俺は、腕を上げるためにここで練習を始めることにした。アルゴは去り際に、偶には様子見に来てやるからナ、と言い残してから、その場を去っていく。そうして俺は、ユウキの誕生日までにひたすらこの修練場を訪れることとなったのだった。

 

 

 

────────────────

 

 

 

 本日の攻略も無事に終了し、晩御飯を食べ終えたボク達は、宿屋に向かっていた。その道中、ボクは今日こそは、とアルファに声を掛ける。

 

 ユウキ「アルファ、今日はこの後、一緒にデュエルでもしない?」

 

 アルファ「あー、…悪いけど、今日はパスで」

 

 アルファは申し訳なさげな表情でボクの誘いを断る。でもボクは、そのアルファの言動にカチンときた。

 

 ユウキ「今日は、じゃなくて、今日も、でしょ?最近はどこ行ってるのさ?」

 

 この数日、アルファは晩御飯を食べると、そそくさと単独行動を取っていた。いつもなら晩御飯を食べた後は、ボクとデュエルとか技の練習とかして夜を過ごしているのに、最近は全くのご無沙汰だ。

 

 アルファ「…大人のお姉さんとデート、的な?。ってことでまた明日!」

 

 ユウキ「あ!ちょ、ちょっとっ…!」

 

 ボクの追及を、のらりくらりと冗談っぽく逃れたアルファは、ダッシュで主街区の中心へと走っていく。今から全力でアルファを追いかければ、AGI的にも充分追いつける範囲だろうが、ボクはアルファを追いかけることは無かった。それは、アルファの顔つきが以前のような焦燥を帯びたものではなく、何かに真剣に取り組む真面目な顔をしており、その様子から危ないことをしているのではないと理解できたからだ。

 一人取り残されたボクは仕方なく、一人でテクテクと今晩の宿に向かう。物の数分で借りている客室まで辿り着いたボクは、部屋にある安楽椅子で船乗りしながら、今日の攻略で手に入れたアイテムの整理を行った。それが終わると、今度はメインアームや防具の耐久値などをもう一度確かめておく。そこで特にやることがなくなったボクは、サツキとオウガが残してくれた記録結晶に保存されている技の練習でもしようかと思い、部屋を出た。宿屋から少し離れた場所で、彼らの技を再現しようと、見様見真似で剣を振るうが、やはりしっくりこない。

 …こういう時に、アルファが居てくれたら、客観的な欠点を指摘してくれるのに…。次第にボクの頭の中は、先程のアルファの言葉で覆われて行った。…何が大人のお姉さんとデート、だ。あれはアルファが適当な言い訳として言っただけだとは思うが、どうしても、万が一、ということを考えてしまう。やっぱり、アルファは大人っぽい人の方が好みなのだろうか。もしそれが本当だったら、ボクはどんな顔をしていればいいのだろうか。そんなことを考えていると、何だかむしゃくしゃしてきた。…別に、最近アルファがボクに構ってくれないとか、そういう訳ではない。…ボクも誰かとデートでもしてやろうかな…。そんなアルファに対する謎の対抗心を燃やしながら、ボクはひたすらに技の研究を続けた。

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 アルファ「ユウキ。今日はちょっと案内したい店があるんだけど、晩御飯はそこでいいか?」

 

 ユウキ「…好きにしたら?」

 

 アルファ「お、おう…」

 

 一日のレベリングも終了し、後ろには沈みつつある太陽が俺達の背中を暖かく照らしている。前方には、これからは俺達の時間だと言わんばかりに、月を中心として、深い青に染まりつつある大空に星々たちが輝き始めていた。今日は5月23日、ユウキの誕生日だ。何とか昨日までに的あてのチャレンジモードをクリアして、ユウキへのプレゼントを手に入れた俺は、その足であるレストランを予約し、明日の準備は万端となっていた。因みに、的あてで投げピックを投擲しまくったせいで、俺の投剣スキルの熟練度は大きく上昇している。…まさか、的あて如きに、覚醒術の超集中を使わされるとは思わなかったがな。

 ユウキの誕生日お祝い計画における最大の問題を解決出来たので、これで計画は大成功間違い無しだと思っていたのだが、当日になってある問題が浮上してきた。それがユウキの、この反応なのだ。何故かはわからないが、ユウキは今日、凄く俺に冷たい。一応、返事とかはしてくれるのだが、目は合わせてくれないし、自分から喋り掛けてくることもない。日中の間に、何とかユウキの機嫌を直そうと、あれやこれやとしてみたのだが、不機嫌の理由が分からない以上、どうしようもなかった。

 …別に、ユウキが隠していた冷蔵庫のプリンを食べたわけでもないのに…などと、最早俺には、現実逃避をすることぐらいしかできない。それでも誕生日は誕生日だし、冷たいながらも案内したいお店には付いてきてくれるらしいし、こうなりゃやけくそだ、と俺は、自暴自棄になりながら、レストランに先導することにした。

 

 アルファ「すいません。予約していたアルファです」

 

 「二名様でご予約のアルファ様ですね?ご案内致します」

 

 まさかこの世界に来てまで、店の予約などするとは思っていなかったが、この店のいいとこの席は予約制らしかった。…何となく、前日に下見に来ておいて良かった。ウェイトレスに着いて行くと、星空満点のテラス席に案内された。

 

 ユウキ「うわぁ…」

 

 トゲトゲしかったユウキもこのテラス席のまるでプラネタリウムのような幻想的な夜の演出に感嘆の声を漏らしている。

 

 アルファ「どうだ?綺麗だろ?」

 

 ユウキ「ま、まぁね…」

 

 感動の様子から一転して、ユウキは冷たげな反応を見せてくれる。そんなユウキの変わりようを見て、俺は思わず苦笑してしまいそうになったが、そんなことをしては、せっかくこのテラス席の力によって浮上してきたユウキの俺に対する態度が、急降下していく気がしたので、何とか堪える。二人で席に着くと、ウェイトレスがメニュー表と呼び鈴を置いて、元の位置に戻っていった。

 

 アルファ「ここは、ハンバーグが美味しいらしいぜ」

 

 ユウキ「ふぅん…」

 

 俺が選んだ店は、ハンバーグが名物の洋食店だ。ここは洋食店であるが故に、付いてくるご飯ものがライスではなくパンになってしまうのが俺としては惜しい所だが、それでもここを選んだ理由は、偏にデザートの種類が豊富であるからだ。今日はユウキの日なのだから、ユウキの好みに合わせるのは当然である。

 俺の話に耳を傾けてくれたのか、ユウキはハンバーグプレートを注文した。俺も同じくハンバーグプレートを注文し、料理が到着するのを待つ。プレゼントを渡すタイミングは、食後といこうか。しばらくすると、料理が到着した。鉄プレートから漂う濃厚な肉の匂いに惹かれて、俺達はハンバーグに手を付けた。

 

 ユウキ「…!」

 

 ハンバーグをナイフで切ると中から肉汁が絶え間なく出てくる。その肉汁を逃すまいと、早急にこの店特有のソースと絡めて、一気に口へ放り込む。肉を嚙むたびに中から更に肉汁が飛び出てきて、お肉はホロホロと口の中で溶けていく。

 

 アルファ「めっちゃ美味いな!」

 

 ユウキ「…う、うん。それなりには…」

 

 ユウキに話し掛けると、これまたユウキはあくまでも俺に対して塩対応を取ってくる。だが、ハンバーグの圧倒的な美味しさに押されて、少し笑顔が零れているのもまた面白い。

 そこからは、俺達は目の前のハンバーグに集中し、十数分後には、パンやスープなども含めて、完食してしまった。呼び鈴でウェイトレスを呼び、二人でデザートを頼むと、ウェイトレスが調理場へ向かって行った。

 

 アルファ「…俺、なんかユウキに悪いことしたか?もし何か気に食わないことがあったなら、言ってくれ」

 

 デザートが届くまでの間に俺は、ユウキに不機嫌の理由を尋ねる。すると、ユウキは若干下を見ながら、小さな声で答えた。

 

 ユウキ「…えっと、その、…最近アルファとデュエルの練習とかできてなかったから、それで…」

 

 正直言って、俺はもっと何か重大なやらかしをしてしまったのでないかと危惧していたのだが、そんなことだったのか。…いや、何に重点を置くのかなんてその人次第だ。ユウキにとっては、毎晩のデュエル決闘は大切なものなのだろう。にしてもそんなことで…。

 

 アルファ「それは悪かった。明日からはもう大丈夫だから、毎日デュエルしような?」

 

 ユウキ「…もうデートはいいの?」

 

 ユウキが下に向けた顔を少しだけ起こして、目を合わせて尋ねてくる。俺は一瞬、何のことだと思ったのだが、よくよく思い出してみれば、昨日修練場に行くための言い訳として、そんなことを言っていた。真に受けていたらしいので、しっかりと訂正しておく。

 

 アルファ「え?…あー、うん。あれはジョークだから、大丈夫だ」

 

 ユウキ「…そっか!」

 

 それを聞いたユウキは途端にいつもの様子に戻った。…そんなに俺がモテるのが嫌なのか。もし本当に誰かとデートにでも行ってたら、ガチで引かれそうだな。まぁ、あり得ないんですけどね。そんな自虐を考えていると、デザートが到着する。俺が頼んだものはライチ風味のシャーベット、ユウキが頼んだのは、モンブランみたいなものだ。

 …あれだけ食べたというのに、何処にそんな余裕があるのだろう。俺はユウキと談笑しながら、デザートを食べ、遂に完食した。締めの紅茶を飲みながら、ゆっくりと時を過ごす。さっきまでとは打って変わって元気ハツラツなユウキを前に、俺は、ここだろう、と思う。

 

 アルファ「ユウキ…」

 

 ユウキ「ん?どうしたの?」

 

 アルファ「誕生日、おめでとう!」パーンッ!

 

 ユウキ「ひゃっ!?」

 

 つい先日買ったクラッカーを鳴らしながら、誕生日をお祝いすると、目論見通りユウキはその音に驚いてくれた。

 

 アルファ「今日は5月23日、ユウキさんの誕生日です!」

 

 ユウキ「あ…そう言えば、そうだったね」

 

 ユウキは本当に忘れていたような反応を示した。この世界では曜日感覚が失われやすいが、せめて自分の誕生日ぐらいは覚えていたいものだ。

 

 アルファ「おいおい、忘れてたのかよ」

 

 ユウキ「アハハ~、にしてもよく覚えてたね」

 

 アルファ「当たり前だろ?…もしかして、ユウキは俺の誕生日忘れてたりして…」

 

 ユウキ「…」

 

 アルファ「ウソだろ!?」

 

 ユウキ「11月24日でしょ?ボクもちゃんと覚えてるよ!」

 

 アルファ「そりゃどうも。…そんで、これが俺からの誕生日プレゼントだ。ホントは包装とかできたらよかったんだけどな」

 

 俺はストレージから絆のペンダントを実体化して、ユウキに手渡した。ユウキはペンダントを手に取ると、その輝きに魅入られたように、まじまじと見つめていた。

 

 ユウキ「…凄く綺麗。…性能も凄いね!?こんなの貰ってもいいの!?」

 

 アルファ「それ取るの、結構苦労したんだぜ」

 

 そう言うと、ユウキが何かを感づいたような顔で質問する。

 

 ユウキ「…もしかして、最近アルファがどっか行ってたのって、これのため…?」

 

 アルファ「あぁ、黙ってて悪かったな」

 

 ユウキ「ううん…すごく嬉しいよ。ありがとうっ!」

 

 アルファ「…どういたしまして。」

 

 ユウキの満面の笑みを見ると、何だかこれまでの苦労が報われた気がした。絆のペンダントを装備しようとしたユウキは思い出したかのように呟く。

 

 ユウキ「あ…でもロザリオどうしよう…」

 

 アルファ「それはもうスペックがキツイからな。煮るなり焼くなり捨てるなり、好きにしてくれ」

 

 そう言うと、ユウキは少し怒ったような素振りでこう言う。

 

 ユウキ「捨てるわけないでしょ!大切に仕舞っておくよ」

 

 アルファ「そうか。それならロザリオも俺も嬉しいな」

 

 ユウキ「うん!」

 

 アルファ「あと、アルゴからプレゼント。ペンダント探しの時に、アルゴにユウキの誕生日バレちまった…すまん」

 

 ユウキ「…これも凄いなぁ、アルゴに今度お礼言わないとね」

 

 なんやかんやで毎日俺の的あて練習を見に来てくれていたアルゴは、的あて最終日に、これオレっちからのユーちゃんへのプレゼント、と袋入りのティーパックを俺に渡してくれた。それをストレージに直すときに、そのアイテムの効果が見られたのだが、一杯飲む度にAGIを1増やすとかいうヤバすぎる効果だった。

 それから俺達は、しばらくの間色々なことを話し合っていたのだが、突然、ユウキが少し神妙な顔をした。

 

 ユウキ「……実はさ、ボク自分の誕生日、あんまり好きじゃないんだよね」

 

 アルファ「…そうなのか」

 

 ユウキ「うん、当たり前だけど、誕生日が来るってことは、一歳年を取るってことじゃん。だから、誕生日が来ると、ボクはあと何年生きられるんだろ、って考えちゃうんだよね」

 

 アルファ「…」

 

 ユウキ「自分が死ぬ時が、刻一刻とまた迫ってきていることが実感できて、怖くなる。もしかしたら、明日になったら、ボクは死んじゃうんじゃないかって。そんな風に思うなら、いっそのこと明日なんて来なければいいのに」

 

 ユウキのそのやけに真剣な表情を前にすると、年寄みたいな考え方だな、と冗談っぽく茶化すことは許されない気がした。だから俺は、必死に頭を動かして、彼女に掛けるべき言葉を探す。そして、ふと、俺の頭の中に、ある言葉が浮かんできた。

 

 アルファ「前を向いて生きること、それが生者の努めだ。…ユウキが俺に送ってくれた言葉だ」

 

 ユウキ「…」

 

 アルファ「正直な話、俺は未だにユウキにとっての、この言葉の意味が分からない。でも、少なくとも、俺が思う、前を向いて生きるっていうのは、今のユウキみたく、死に着目して生きるんじゃなくて、生に着目して生きることなんだと思う」

 

 ユウキ「!」

 

 アルファ「確かに俺達は、明日、モンスターに殺されるかもしれないし、それどころかPKされてしまう可能性だってある。そんでも、そのことばかり気にしていても、仕方がないだろ?だから俺達は、明日はどんな楽しいことが待っているだろうか、どれだけ世界は輝いているだろうか、そうやって希望を持って生きていくんだ」

 

 ユウキ「…希望、かぁ…」

 

 アルファ「あぁ、明日を生き抜くために、俺は今日を生きている。それが俺にとっての、前を向いて生きる、なんだと思う」

 

 ユウキ「明日を生きるため。…そうだね、そうだったね。…ボクも同じように志して生きてきたのに。…ちょっと弱気になってたかも」

 

 ユウキは少し晴れたような表情でそう言ってくれた。ユウキの力になれたのなら、何よりである。

 

 アルファ「ちょっと前の俺よりは、ユウキは全然強いぜ」

 

 ユウキ「アハハ!あの時のアルファは確かに情けなかったね~」

 

 アルファ「ハッキリ言い過ぎだ…」

 

 すっかりいつも通りに戻ってしまったユウキを何だか恨めしく思いつつも、その様子に少し安心している俺が、心の何処かに存在していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ようやくユウキの誕生日まで書けた…。クリスマスに渡したロザリオをずっと使ってくれるなんて、やっぱりユウキはいい子ですね。

 では、また第40話でお会いしましょう!
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