かれこれ数時間の間、俺達は火山ダンジョンに閉じ込められていた。ダンジョンの中には、マグマが流れており、暑苦しい。登場するモンスターは、炎を身に纏ったスケルトンナイト、鋼鉄の鎧で守られた大サソリ、マグマで出来たスライム、そこら辺の岩石から生まれた人を模したの石像、だ。
スライム以外の三種のモンスター達は、斬撃に対して強い耐性を持っており、ユウキの攻撃が中々通らない。俺達の持っている武器の中で、打撃攻撃が有効なのは、両手剣の腹だ。しかしその両手剣も、先程の戦闘で完全に破損してしまい、使い物にならなくなってしまっている。そこで俺は一応、打撃攻撃として認識される面を持つ片手槍を装備し、前衛をユウキに任せていた。
やはりこのダンジョンは全域が結晶無効空間らしく、転移結晶を使うことは出来ない。勿論、回復結晶も使えない為、ポーションの残数に気を配りながら、出来るだけ相手の攻撃を回避するスタイルで、入り口を目指していた。だが、それは簡単なことではなく、ダンジョンの洞窟内は複雑に入り組んでおり、分かれ道が幾つもあるせいで、俺達は仕方なく全ての道を確かめていかなければならなかった。それを繰り返しているうちに、ダンジョンの中で何時間も経過してしまい、気が付けば午後10時を回っている。
…今回は正しい道でありますように。そう願いながら、曲がり角を左に曲がると、今回は当たりで、そこは行き止まりではなく、道がさらに先が続いていた。
アルファ「…今回は、正解だったな」
ユウキ「…うん」
ふと、その道の隣にある広めの窪みを確認すると、そこは安全圏に設定されていた。迷宮区タワーやダンジョンの中には、このように所々に中間ポイントとして、プレイヤー達が休憩できるように安全圏が設置されている。このまま進み続けても、次にいつ安全圏が見つけられるかも分からないし、そもそも、このペースだと今日中にダンジョンを脱出できるかどうかでさえ怪しくなってきた。
もし、このまま進んで体力が集中力が切れた状態でモンスター共にエンカウントし続けることがあれば、俺達の命が危ない。しばらく考え込んだ後、俺はユウキにある提案をする。
アルファ「…ユウキ、今日はここで一夜明かさないか?今日中にダンジョンの入り口に辿り着ける気がしない」
ユウキ「…そうだね。休める所で休んどかないと、いざという時に怖いからね」
アルファ「そうと決まれば、夜ご飯にしますか」
ユウキ「えっ?食べ物あるの!?」
アルファ「…ライオンの肉だけどな」
ユウキ「あー…ボクが焼くよ」
アルファ「よろしく」
さっきまで、マグマの熱気にやられて少しだるそうにしていたユウキは、食べ物があるという情報を耳にすると、一気に活力を取り戻していた。俺達は安全圏に入って適当な場所に腰を下ろし、晩御飯の準備をする。と言っても、肉の焼き加減を判断できるのはユウキなので、実質俺は調理していない。その代わりと言っては何だが、俺はこの暑さですっかり空になってしまっていたユウキと俺の水筒に水を入れていた。その水は何処から湧いて出てきたのかというと、このダンジョンに出現するモンスターである石像野郎を倒すと確率でドロップする<水の凝縮塊>というアイテムを使用することで、だ。このアイテムが無ければ、俺達は干からびる運命にあったかもしれない。
…まぁ、それはあり得ないんだがな。この世界では理論上は食べずとも飲まずとも生きていけることはもうご存じだろうが、それでも飢餓感は感じる。故に、この世界で人らしく生きるためには飲食というものは必須なのだ。あと、肉を焼くための火を生み出したものも、同じくこのダンジョンに生息する溶岩スライムからドロップする<炎の凝塊>を利用している。そうこうしているうちに、辺りに香ばしい匂いが漂ってきた。
ユウキ「もういけるよ~」
と、ユウキが俺を呼んでくれたが、俺はユウキが声を掛ける前に既にお肉を一つまみさせてもらった。
アルファ「…旨い。引き締まった牛肉って感じだ」
ユウキ「どれどれ…美味しいね!」
現実世界にてライオンの肉など食べたことは無かったが、なるほど、これは中々の美味だ。ユウキもライオンの肉を気に入ったようで、そのまま二人でバクバクと食べていく。まだ、ライオンの肉に残りはあるが、無いとは思うが、このままあと二日ぐらいダンジョンから抜け出せなければ、そこから食べることになる食料は恐らく、このダンジョンに生息する大サソリからドロップする<大サソリの腕>になってくるだろう。
流石に明日には脱出できるはずだから、その心配はないはず…。いや、ここらで一度サソリ食ってみるか?ふと、そう思った俺は徐にストレージからD級食材であるサソリの腕を取り出してユウキの持っていたフライパンの上に乗せる。
ユウキ「うわっ!…アルファ、これ食べるの?」
アルファ「ワンチャンあるんじゃね、って思ってな」
ユウキが怪訝そうな顔で俺を眺めてきた。だが、俺がそう答えると、しっかりと焼いてくれる。甲殻類はしっかり焼かないと人生終了だからな。仮想世界であってもそこは手を抜かないように…。しばらくして、こんがりと焼き上がったサソリの腕が俺の前に現れた。…匂いは香ばしい。これはもしかすると本当にイケるやつなのでは?俺は、サソリの腕をガブリと嚙み砕いた。
アルファ「…」
ユウキ「…どうだったのさ?」
アルファ「…カニみたいな味。でも、肉食べた後だと、ちょっと美味しさが霞んで感じるぜ…」
ユウキ「じゃあ、今日はやめとこうかな…」
残念そうな顔をしたユウキはそのままフライパンをストレージに収納する。…もしユウキがフライパンを持って来ていなかったら、片手槍の柄に肉を突き刺して焼いていたのだろうか。一瞬、そんなくだらないことを考えてから、俺はユウキに話し掛ける。
アルファ「…俺は寝袋とか持ってないけど、ユウキは持ってたりするのか?」
ユウキ「ううん。ボクも持ってないよ」
アルファ「…じゃあ、これ使ってくれ。ちょっとは地面の硬さもマシになるはずだ」
ダンジョンで眠る日が来ることなど想定もしていなかった俺は勿論、ユウキもそれ用の寝袋などは購入していなかった。今回の事件を戒めに、町に戻ったら寝袋を買おう。あと、携帯食料とか、ちょっとした調理器具とか、火起こしできるものとか…。そう決意した俺は、自分の装備しているレザーコートをユウキに投げ渡す。それを床に敷けば、少しはゴツゴツ感も和らぐだろう。
ユウキ「でも、それじゃあアルファが…」
アルファ「大丈夫だ。まずはユウキが眠ってくれ」
ユウキ「まずは?」
アルファ「あぁ、言葉足らずで悪かった。一応、ここはダンジョンだ。何があるか分からないから、交代交代で見張りをしないか?」
二人でここで眠ってしまい。そのうちに寝返りを繰り返して、安全圏の外に出てしまっては、ひとたまりもない。寝ている間にモンスターに襲われて死亡だなんてアホにも程がある。それに、もしかすれば、PK集団がここにやってくるという可能性も全然ありえる話だ。
その時に二人共眠りこけていれば、奴らにとって格好の得物にしかならない。それらの場合に備えて、どちらかは見張り役として起きていなければならないと俺は思っている。それをユウキに伝えると、ユウキはしっかりと納得してくれた。だが、ユウキにも譲れない所があるようだ。
ユウキ「ボクが先に見張っとくから、アルファは休んでていいよ」
アルファ「いえいえ、レディーファーストですから」
ユウキ「それとこれとは別だよ!」
アルファ「…いや、ユウキさっきまで凄いお疲れだっただろ。そんな見栄張ってないで、明日のために体力を回復させておいてくれ」
ユウキは、俺の言い分を渋々受け入れてくれた。少し後ろに移動したユウキは、俺の方を見ながら、言ってくる。
ユウキ「……今からパジャマに着替えるけど、後ろ向いちゃ駄目だからね?」
アルファ「…りょーかいです」
俺はすぐさま前を向き、モンスターがいつ安全圏を破壊してこようとも、対応できるように準備する。ポン、ポン、とユウキがメニューウインドを操作する音が聞こえてくる。お次にシャン、シャン、と装備が解除される音が聞こえてきた。恐らく、今のユウキは下着姿…。ここは全世界の紳士を代表する身として、ここで後ろを振り向かないわけにはいかないのだが、そんなことをすればユウキとの信頼関係は駄々崩れになってしまうので、しっかりと我慢させてもらう。やがて、少し間を置いた後に、再び装備音が響いた。
ユウキ「……もういいよ」
いつユウキの方を向けばいいのか分からない俺を慮って、ユウキがわざわざこちらの近くにまで来て、肩を叩いてくれた。俺は徐にユウキの方を見やると、そこには、紫色に近いピンク色をした、少しサイズが大きめのパジャマを身に纏ったユウキが立っていた。…確かに、ブレストプレート付けながら寝るのとかしんどそうだもんなぁ。
アルファ「……」
ユウキ「……な、なに?」
しばらく、いつもとは違ったユウキの姿に見惚れていると、ユウキが少し恥ずかしそうに身体を縮めながら、訊ねてくる。そこで我に返った俺は、とにかく、何かしらのコメントをしようと、頭の中にいる俺を総動員させた。
アルファ「……パジャマ、凄い似合ってるな」
それによって導き出された答えはこれだ。すると、ユウキはプイっと顔を背けて、そのままレザーコートを敷いた場所まで移動していく。…これはユウキを怒らせてしまったのか?頭をフル回転させて導き出した答えがこの結果に終わるとは、何とも情けない話だ。俺は諦めて、見張り役に徹することにする。数分後、ふと、ユウキが声を掛けてきた。
ユウキ「…ねぇ、アルファ」
アルファ「どうした?」
ユウキ「もし、このままダンジョンの外に出られなかったらさ、どうする?」
アルファ「ハッ、そうなったら、ここで暮らしていけばいいんじゃねぇの?幸い、飲食には困らなそうだしな」
もしかしたら、ユウキはダンジョンで一日を終えることに不安を抱いているのかもしれない。俺は出来るだけ勇気を不安がらせないように、顔を向けないままで、冗談を交えて返事を返す。
ユウキ「フフッ、そんなことしてたら、ボク達がこのダンジョンのモンスターになっちゃいそうだね」
アルファ「このダンジョンにやって来たプレイヤー達を襲ったりしてな」
ユウキ「まずここに来るプレイヤーがいるのかどうかだよ~」
アルファ「間違いないなぜ。でも、万が一にもダンジョンから脱出できないなんてことはないだろうから、安心しろって」
ユウキ「うん、分かってるよ」
ユウキが一呼吸おいて再び口を開いた。
ユウキ「……パジャマ、褒めてくれてありがとね。…嬉しかった」
アルファ「お、おう…」
ユウキ「じゃ、おやすみ…」
アルファ「…おやすみ」
それからはユウキが俺に話し掛けてくることはなく、スピー、スピー、と可愛らしい寝息が聞こえてくるだけだった。…俺、夜更かしとかあんまりしないから、やっぱり深夜帯はキツイか。ちょっと見え張り過ぎたかもな。俺は何度も寝落ちしそうになりながらも、なんとか気を引き締めて見張りを続けていった。
────────────────
「副団長!今週のギルドメンバーのレベリング成果に関する資料、ここに置いて置いておきます!」
アスナ「ええ、分かったわ」
「ハッ、では、失礼いたします」
私の目の前には、ギルドのことに関する資料が山積み状態であった。私は、それを一つ一つ手に取って目に通し、最終確認を行う。基本的に、各部門の幹部がこういった資料にはしっかりと目を通してくれてはいるのだが、だからといって私がチェックを怠る理由にはならない。取り敢えず、今日中に半分は目を通しておこう。私はそう決定し、次々に資料の内容を把握していく。そういう単純作業を続けていると、頭の中では別のことを考え始めていた。
それは、今日行われた攻略会議についてだ。今日の会議の結果、明日の朝からフロアボス討伐戦を敢行することに決まったのだが、その会議には、キリト君は勿論、とうとうアルファ君やユウキまでいなくなってしまっていたのだ。普段の私ならば、アルファ君とユウキにも、何か外せない用があったのだろう、と納得できていたのだろうが、今の私にそんな冷静な判断は出来なかった。というのも、キリト君は、今は中層にてミドルプレイヤーと共に活動しているという話は、アルファ君から聞いていた。そして、それを聞いた私は、何だか少し寂しく感じつつも、キリト君がようやく居場所を見つけられたことを嬉しくも思っていた。
でも、つい先日、レイピアの強化素材集めのために中層へ降りた時に、私は見てしまったのだ。そう、キリト君が女性プレイヤーと一緒に仲良さげに歩いている所を、だ。幸い、キリト君たちからは、私の姿を認識出来ていなかったようで、キリト君に私のことを見られることは無かったが、その光景を見た瞬間、──女性なら誰でもいいのか。そんな、得も言われぬ名前のない黒い感情が私を襲ってきた。それ以来、私の心は冷え込み、彼に対して冷たい感情を持ち始めていた。そんな矢先に前線からアルファ君とユウキの姿も消える。そうなってしまえばもう、私の心の中では、──二人も私を置いて何処かへ行ってしまうのか。そんな意味のない焦燥に駆られてしまった。
こんな私の歪んだ思い込みを修正してくれる人は何処にもおらず、ますます私の心は歪曲していく。そして最後には、──最近の私は、誰かに甘え過ぎていたのだ。独りでも生きていけるように、強くならねば。誰にも頼らなくていいように。その為に、血盟騎士団に入団したのだから。そんな思いが、私を支配した。
アスナ「……現実世界に早く戻らなきゃ。私は、攻略だけに集中しないと…」
そう何度も、言葉にして自分に言い聞かせることで、私はただ冷徹にこのゲームをクリアしていくためだけに、己の心を凝り固めていくのだった。
────────────────
右から飛び出してきたアナグマを横目で捉えた俺は、体の向きをそちらへ向けないまま、右脚で鋭い蹴りを打ち込み、アナグマが俺に突撃してくる寸前に奴の身体を後方へ吹き飛ばす。その間に前方から向かってきたアナグマ二匹に対しては、片手剣ソードスキル、シャープネイルを叩き込み、一気に二体撃破した。後方から迫りくるもう一体のアナグマに対しては、体術スキル弦月を使用してソードスキルの恩恵を授かった威力の上昇したサマーソルトキックを命中させる。
だが、アナグマはそれに怯むことなく、自慢の長いかぎ爪で俺を攻撃しようとしてきた。俺は、それを躱して、再び片手剣ソードスキルを使い、ようやくすべてのアナグマを撃破した。と思ったのだが、如何やら一体討ち漏らしていたようで、俺から見て左側の方から瀕死のアナグマが決死の特攻を仕掛けてきた。俺は技後硬直で動けず、迫るアナグマの頭から生えた鋭い角による攻撃を受け止めざるを得ない状況になってしまった。俺は覚悟を決めて、襲い来る特有の不快感に備える。しかし、その寸前にアナグマは謎のクロー使いによる奇襲によってその命を終えた。
「……危ない所だったナ」
頬におひげのペイントをした金髪の少女は、俺にそう言ってきた。月明かりに照らし出されたその姿は、普段とは違った美しさを放っていたが、今の俺にとっては、それは他のプレイヤー達と同様に、有象無象としか映らなかった。
…俺にとって、輝いて見えたのは、彼女だけだ。彼女の問いかけに対して、何も答えない俺に、続けて話し掛ける。
アルゴ「…こんな夜中にフィールドなんて危険だヨ?」
キリト「…俺の勝手だろ」
彼女に対して、俺は短く、冷たく言葉を返す。
アルゴ「今だって、アナグマからダメージ貰いそうだったロ?」
キリト「別にあの程度で死ぬわけじゃないだろ。それに、バトルフィーリングの熟練度上げにもなったのにな…」
俺は嫌味ったらしく彼女の援護射撃を非難した。すると、彼女は一気に黙りこくる。…出来れば、そのまま何処かに消えていてほしい。今は一人でいたい。だが、俺の願望とは裏腹に、彼女は再び話し掛けてくる。
アルゴ「……キー坊の所属していたギルドが、壊滅したってのは本当なのカ?」
キリト「…ッ!」
彼女の発言に、俺は強く反応せざるを得ない。だが、俺はそこで、──俺のせいでギルドメンバーが全滅した、と彼女に伝えることが出来なかった。そんな俺に呆れたのか、彼女は俺から背を向けた。
アルゴ「…中層じゃ、ギルドが壊滅するのはよくあることサ。…別に、キー坊は悪くないヨ。だから、せめて夜ぐらいは寝ナ…」
彼女はそれだけ言い残して、夜の闇と同じように、フィールドへ消えて行った。俺は、俺の傲慢がこの結果を呼び起こしたのだと、最後の最後まで言葉にすることが出来ず、その場で立ち尽くしていた。そう、俺の思い上がりが、身勝手さが、月夜の黒猫団に、サチに、本来はあり得なかったはずの死を呼び寄せたのだ。例え誰が、それは違う、と言おうと、その事実だけは変わらない。それでも、この期に及んで怠慢である俺は、サチが死んでしまったのは、この世界のせいであると、そう己の心に思い込ませて、この世界を創り出した元凶である茅場晶彦に全ての憎悪を向けて、今もなおこの世界で藻掻き続けることを決意したのだ。
…もう二日ほど寝ずにレベリングを行っているだろうか。だが、そうでもしなければ、長らく中層で甘んじていた俺と攻略組の差はいつまでも埋まらないだろう。睡眠なんてダンジョンの安全圏で取れる微睡だけで十分だ。今の俺の心にあるものは、茅場晶彦に向けた燃える怒りと、彼らを死に至らしめた原因であるビーターの俺は、もう誰にも関わらないで生きるという決意だけだった。…あと少しだけ、レベリングを続けよう。そう考えた俺は、再びアナグマの住処を襲いに向かった。
────────────────
アルファ「ここも行き止まりか…」
ユウキ「もしかしたら、今日もここで一夜明かさなきゃならないかもね」
アルファ「…勘弁してくれ」
午前4時に寝ぼけたユウキを苦労しながら起こし、見張りを交代してもらった俺は、そこから四時間ほど眠りにつかせてもらった。…と言っても、最初の三十分程度は、ユウキが眠りこけそうになる様子と地面に敷いた俺のコートに残っていた、いつもとは違う優しい香りが気になって眠れなかったんだけどな。
そこからピッタリ四時間後、ユウキに思いっ切り頬っぺたをつままれた俺は、直ぐに目を覚ました。朝食は昨日と同じく、残っているライオンの肉を食べて、俺達は再び出口を探しにダンジョン探索を再開した。何度も行き止まりにぶつかり、時にはまた同じ場所に戻ってきたりしているうちに、お昼はとっくに過ぎて、夕刻を迎えていた。ダンジョンを探索しているわけだから、モンスターとの戦闘は避けられず、ジワジワと回復ポーションが少なくなっていくことに、徐々に心が焦り始める。
行き止まりや道の端に宝箱が設置されているため、そこから手に入ったアイテムはレア物からガラクタまで様々だが、宝箱から手に入る回復アイテムは全て結晶であるという明らかな嫌がらせ仕様だ。これまでの安全圏の設定感覚からして、そろそろ次の安全圏が見えてくるはずだ。俺はそう思いながら、行き止まりを引き返し、もう一方の道へと進んだ。すると、肌に、涼しい風が当たるのを感じる。
アルファ「これって…」
ユウキ「うん!外だよ!」
ユウキもそよ風を感じ取ったようで、それは凄い笑顔だった。俺達は段々早足になりながら、洞窟をグイグイと進んで行く、目の前にポップしたスケルトンナイト一体は、俺達の疲れを感じさせない見事な連携によって為す術もなく撃破される。
そのまま一本道を左に曲がると、俺達の目には赤く輝く夕焼けの空が出迎えてくれた。
ユウキ「…や、やっと出られた…」
ユウキは洞窟の外へ一歩踏み出すと、へなへなと地べたに座り込んだ。…ここはフィールドだから、まだ気を抜くな。と言ってやりたいところだが、俺の身体にもドッと疲れが押し寄せてきて、思わず洞窟の側壁にもたれ込む。
しばらくしてから、現在地を確かめると、ちょうど、俺達が訪れた温泉街と反対の場所であった。そして、ダンジョンを出たことで見られるようになった昨日からのメッセージを確認すると、差出人はアルゴで、詳細は、昨日に攻略会議があったこと、今日の朝からボス討伐があったこと、フロアボスの討伐は無事に成功し、第32層が解放されたこと、俺達は今どうしているのか、大丈夫なのか、などなど、様々なメッセージで溢れていた。
アルファ「32層行けるようになったらしいぜ」
ユウキ「ボク達が迷い込んでる間に?」
アルファ「そうだな…今から32層のフィールド行くか?」
ユウキ「流石にもう無理だよ。今日はゆっくり休もうよ~」
アルファ「ハハッ、冗談だ」
ユウキ「…疲れた体に温泉は最高なんだから、早く村に戻ろうよ!」
アルファ「これはとびっきりの予感だ!」
俺達は、再び気を取り直して、村を目指して歩き始めた。一日ぶりに見る太陽は、何だかいつもよりも眩しい気がする。そうして、俺達の第31層での攻略は、幕を閉じたのだった。
…なお、この先ずっと後になって、この火山ダンジョンが、アホ程長いうえに、全域が結晶無効空間、更に、何故かダンジョン内の宝箱は全て開封済みになっているせいもあって、ある日の新聞記事の、攻略したくないダンジョンランキング第3位にランクインしたのは、また別のお話である。
キリト君とアスナさん、少し無理矢理ですが、ここら辺で一旦仲違いしてもらいます。じゃないと攻略会議で喧嘩してもらえないですから…。
では、また第42話でお会いしましょう!