アインクラッドの世界は、一応、四季を感じさせる設定になっている。そして、夏真っただ中の今の季節はアインクラッドの世界の暦では、ヒメシャラの月、というものとして扱われている。ただ、四季があるとはいっても、現実世界のように冬は寒すぎたり、夏は暑すぎたりせず、冬は少し肌寒い、夏は少し汗ばむ程度の暑さで、プレイヤーにとって過ごしやすい気温に保たれている。
…であれば嬉しい話なのだが、実際は夏は蒸し暑くて、冬は極寒だ。全身アーマーの鎧に覆われているタンクにとっては、夏はなかなか大変だとは思う。そういうわけで、俺達みたいな軽装のプレイヤーは、彼らと比べると基本的には、夏も比較的過ごしやすい。
だが、いつだって例外というものは存在する。それは四季に関係なく気温設定がなされている場合であり、少し前に迷い込んでしまった火山ダンジョンや現在の最前線、第三十六層などが筆頭に挙げられるだろう。
ユウキ「…暑いね」
アルファ「…暑いな」
俺達の視界には、見渡す限りの青い海が広がっている。広大な青い海の所々には、島々が見えていた。そして、俺達が今いる所も数ある島の中の一つである。第三十六層は、フィールドの大部分が海で覆われており、移動には街々から出向している船を利用しなければならない。そして、行く先々にある島の町で与えられるクエストを一つ一つ攻略して、迷宮区タワーのそびえ立つ島までの航路を拡大していくという、何ともRPGゲームっぽい進め方をする必要があった。
そして、迷宮区タワーに行くために必要なクエスト以外の直接攻略とは関係のないクエストも大量に存在し、俺達がこの無人島に降り立ったのも、それが原因である。俺達が受けたクエストは、何でも遥か昔に、この海を支配していた海賊の団長が、この幾つもある島々の何処かに、金銀財宝を埋めておいた、と豪語して死んでいったらしく。それ以来この層は、トレジャーハンター達が闊歩するようになったらしいという話から始まった。そういうわけで、失われし財宝が眠っていると噂される島を調査してくれないか?というものだった。
…まぁ、財宝の調査、だなんて胡散臭い話なのだから、その時点で色々と察しておくべきだったのだろうが、お宝に目の眩んだ俺達は、そんなことを考慮することもなく、二つ返事でそのクエストを引き受けてしまったのだ。
俺達の乗り込んだ船は、目的の島を目の前に、見事沈没。クラーケンらしき謎の怪物の触手に船を破壊されたのだ。そこからはユウキと共に必死に泳いで、迫る触手を己の武器で蹴散らしながら、何とか島まで辿り着いたのだ。要するに俺達は、遭難したわけである。命からがら海から上がって来てしばらく、ユウキと一緒に死んだ魚の目をしながら、こうして海を眺めているのだ。
アルファ「…俺さ、冬より夏の空の方が好きなんだよな。夏って、冬と比べて、空が青く、高く感じないか?」
ユウキ「あー、分かるかも。ボクもどっちか言うと、夏の空の方が好きかも…」
「「…」」
もうしばらく、ボケーっと海を眺めてから、俺達はとうとう、現状をどうやって打破するのかを話し始めた。
アルファ「…そろそろ、現実に帰ってこようか」
ユウキ「…これってボク達、遭難したんだよね」
アルファ「多分な」
火山の火口から落ちていくのと、広大な海で遭難するのは、一体どちらが厳しいサバイバルになるのだろうか。火山の時は、一応ダンジョンの内部という扱いだったため、入り口を目指せば街へ戻ることも出来たが、今回はフィールド自体で迷ってしまっている。どっちが東でどっちが北なのかさえ、俺には到底分からない。
ユウキ「取り敢えず、後ろの森に入ってみない?…食べ物、見つかるかも」
アルファ「…確かに、食料の確保は必要だな。行くか」
ユウキ「うんっ!」
そうして俺達は、砂浜を後にして、ジャングルへと足を踏み入れた。一応、火山ダンジョンでの出来事を踏まえて、万が一に備えておいたので、携帯食料はそれなりに持ち合わせてはいるが、数は多くはない。どうやってこの島から脱出するのか見当もつかない以上は、食料は出来るだけ多い方が良いだろう。
ジャングルに住む強大なタランチュラ型のモンスターや毒ヘビモンスター、サルのモンスターなどが次々に襲い掛かってくる中、俺達は、それらを丁寧に迎撃しつつ、そこら中に自生している様々な植物の果実をもぎ取った。エメラルド色をしたレモンみたいな形のフルーツから、危険色な上にトゲトゲしている明らかに毒が入っていそうな果物まで、目に見える範囲で、余すことなく食べ物になりそうなものをストレージに入れていく。今回は、毒ヘビやタランチュラを倒しても、食材になりそうな素材はドロップしなかったので、彼らの肉を食べることは無さそうだ。
ジャングルに出現するモンスター達の一番厄介な点は、毒攻撃を多用してくるところだ。なるべく、状態異常に陥らないように気を付けてはいるものの、ジャングルに生い茂る木々やツタのせいで視界が確保しずらく、奇襲を仕掛けられてしまい、何度か危ない場面もあった。山の中での日が暮れるタイミングは早い、とはよく言われることだが、それは恐らく、木々に覆われている山と似たような構造をしているジャングルでも同じなのだろう。俺達が想定していた時間よりもずっと早く、辺りが暗くなり始めていた。
ユウキ「…どうしよう…」
上を見ても、ジャングルの厚い林冠のせいで、月明かりは見えそうにない。そうなれば、ただでさえ視界の効かないこの場所で、頼れるものはランタンの光源だけ。フィールドに出現するモンスターは基本的に昼間よりも夜間の方が危険度が高い。先の見えない暗がりから、モンスター達に四方八方襲い掛かられては、流石にこちらとしても厳しい。
フィールドである以上、眠りにつくわけにもいかないし、果たして本当にどうしたものか。次第にジャングルが闇に包まれていく中で、俺の心も焦りが始める。…見間違いだろうか。少し先に、二つの紫色の光が見える。
アルファ「ユウキ、前」
ユウキ「…あれ、なんだろうね」
特に行く当てもない俺達は、恐る恐る、その光に近づいていく。するとそこには、四角い遺跡のようなものが存在していた。
ユウキ「ダンジョンかな?」
アルファ「もしかしたら、中には安全圏があるかもしれない。中に入らないか?」
ユウキ「そうだね」
もしこれが、クエストNPCが言っていた金銀財宝が眠るダンジョンだというのなら、ここに何か島を脱出するのカギとなるアイテムが眠っている可能性もある。俺達は、周囲を警戒しながら、遺跡の内部に入り込んだ。遺跡の一階部分には、罠が仕掛けられているわけでも、モンスターが襲い掛かってくるわけでもなく、松明の灯りが申し訳程度に辺りを照らしているだけだった。
一階部分の真ん中には、地下へと進む階段が一つある。その階段を下っていくと、少し広めの空間が広がっており、そのド真ん中には、精巧なデザインが施された石で作られた台座の上に、法螺貝のような笛が一つ、鎮座させられていた。遺跡はこれ以上下へと続く道もなく、幸運にも遺跡自体が安全圏として設定されていたので、今晩はここで夜を明かすことに決定した。
アルファ「晩飯でも食おうぜ。携帯食、持ってるよな?」
ユウキ「もちろんだよ。アルファこそ、寝袋忘れたりしてるんじゃないの~」
アルファ「しっかり常備してます」
適当な会話をしながら、各々がストレージから携帯食を取り出した。俺が購入していたものは、パッサパサのブロッククッキーと干し肉、ドライフルーツだ。見た感じ、ユウキも同じような携帯食を持っている。
アルファ「…意外とうまいな」
ユウキ「…そう言えば、今日取ったフルーツ食べないの?」
アルファ「あぁ…食べてみるか」
ユウキに言われて、初めてジャングルに入った理由を思い出した俺は、ストレージから様々な果物を取り出した。中には明らかにヤバそうな、色鮮やかな果物もあるが、ここは安全圏なので、最悪、麻痺状態なんかになったとしても、命の安全は脅かされない。俺は、安全そうな青い果実を、ユウキは挑戦的に、危険色をした果物を手に取った。
食べる前に一応、アイテム名を確認しておくと、俺の選んだ果実は<ライモの実>と、記載されていた。…ライチとかライムみたいな味であってほしい。意を決して、俺はライモの実を口の中に放り込み、勢い良く嚙んだ。果実の中からは、果汁が溢れ出てくる。
アルファ「…苦ぇ…」
言うなれば、青汁を一気飲みした後のような、あの口の中全体に苦み成分が張り付く感覚。俺は口直しに、と今度は真っ赤な果実を手に取る。…安全そうな色でダメなら、ちょっと危なそうな色が、かえって正解というパターンだろう。
とにかく、口の中に広がる苦み成分を打ち消したかった俺は、アイテム名を確認することなく、思いっ切り果実にかぶりついた。
アルファ「…辛ッ!!」
今度は、口の中が圧倒的な辛味に支配され、俺は火を噴く出しそうな気分になる。山葵のような辛さではなく、デスソースのようなスパイシーな辛さだ。苦味よりも辛味に弱い俺としては最悪の結果だった。急いでアイテム名を確認すると、<火吹きの実〉と記載されている。
…横着せずに、ちゃんと名前を見ておくべきだった。そんなどうしようもない後悔をしていると、ユウキはゲラゲラと大笑いしながら、果実を一つ渡してくれる。
ユウキ「アハハハッ!!…これは、甘くて美味しいよ!」
ユウキから貰った危険色の果物を、俺は急いで口に入れた。そして、歯と歯で果実を嚙み切ると、中から甘ったるい果汁が漏れ出してくる。…それは、熟したミカンのような甘みで、俺の口に広がっていた辛み成分を中和してくれた。
それから俺達は、残りの果実を余さず食べる。少し酸っぱい苺のような味をした果物や食べたことの無い味だったが、中々美味なフルーツなど、当たりの果物ばかりだった。そして、未知の果物は、ラスト一種類となった。
ユウキ「ボク、それ食べたい!」
俺の手元にあった黄色い果物を指差して、ユウキがそう言う。俺はもう失敗はしたくなかったので、大人しくユウキに、最後の果物を食べる権利を明け渡した。
一応、アイテム名を確認しておくと、<ゴッチェの実>と記載されている。名前からはどんな味の果物なのかは想像もつかないが、ユウキは一度も果物ガチャに失敗していないのだから、今回ぐらいは失敗してしまえ、などと俺は思っていた。その手のひらに乗るサイズの小さな果実を一口に食べてしまったユウキは、時が止まったように何の反応も見せない。
アルファ「…ユウキ?どんな味がしたんだ?まさか、激マズだったり─」
俺が冗談交じりにそんなことを言い終える前に、突如としてユウキが、すくっとその場に立ち上がった。…が、その足元はふらついている。しばらく、焦点の合わない目であらぬ方向を眺めていたユウキだったが、不意に俺の目を見つめてきた。
ユウキ「…ありゅふぁぁ~~」
呂律が回っていないだらけた声で、恐らく俺の名前を呼びながら、フラフラとこちらに歩み寄り、俺の身体に抱き着いてきた。ユウキは、俺の胸に顔を押し付けている。ユウキの優しい匂いが、俺のいつもより近い位置から俺の嗅覚を刺激した。
アルファ「!?」
ユウキ「…ありゅふぁのにおい~」
突然の事態に、数秒の間、フリーズしていた俺だったが、へにゃへにゃになったユウキの様子を見て、そう言えば、ずっと前に似たような症状を発症した人に、絡まれたことを思い出した。
…これは間違いなく、酔っぱらっている。ユウキの食べた木の実か何かが、強いアルコール成分を持ったものだったのだろう。ユウキは、俺の身体から離れようとしない。
アルファ「…ユウキ、しっかりしてくれ」
ユウキ「…ん~…?」
俺がユウキの身体を揺さぶって、ユウキを引き離そうと試みるが、ユウキは全体重を傾けて、まるで俺を押し倒すようにして、俺の身体にしがみついてくる。あまり無理矢理ユウキに触れてしまえば、アンチクリミナルコードが発動して、俺が黒鉄宮に投獄されてしまう恐れもあるので、激しく抵抗するわけにもいかない。俺が必死に呼びかけると、ユウキは俺の胸に顔を沈めるのを辞めて、とろーん、とした顔つきで俺を見上げてくる。
アルファ「……今日はもう寝ような。寝たらよくなるから。ほらっ、寝袋に入って…」
ユウキ「やりゃ~、ありゅふぁといっしょがいい~!」
アルファ「…そんな無茶なっ!」
手に負えないユウキの暴れっぷりに、俺が弱音を吐くと、ユウキが寂しそうな顔で、上目遣いに訊ねてくる。
ユウキ「…ありゅふぁは、ボクのこと、きりゃいなの?」
…不味い。もう何かが吹っ切れそうだ。俺は何とか、全身に襲い来る謎の衝動を抑え込んで、ユウキの問いに答える。
アルファ「………嫌いじゃない」
それを聞いたユウキは、途端に嬉しさ全開の惚けた顔になった。……はぁ
ユウキ「ありゅふぁ~、あたみゃなでなでして~」
アルファ「…分かった」
ユウキ「……んくぅ~」
もう、ユウキを如何にかする方法が思い浮かばなくなった俺は、ユウキの頭を優しく撫でておく。ユウキは、気持ち良さそうに目を閉じながら、そのまま眠りについてしまった。
…これで、ゴロゴロゴロ~、なんて鳴いてくれたら、ネコそっくりなんだけどな。俺は、ユウキを起こさないように、慎重に運んで、寝袋で寝かしつけてから、長い夜の番を始めた。
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ユウキ「アルファ~、もう八時だよ~」
アルファ「…ん、…もう、そんな時間、か」
とても心地よさそうに眠っているユウキを途中で起こすのは少々気が引けたが、俺も眠らないと、流石に翌日がキツイので、仕方なくユウキを起こして、夜の番を交代してもらった。ピッタリ朝八時に、ユウキに起こされた俺は、寝ぼけた目をこすりながら、寝袋から這い出る。
ユウキ「今日は、どうする?」
携帯食で、サッと朝食を済ませてから、遺跡を出る前に、今日の予定を確認する。ユウキの様子を見る限り、昨日のことは覚えていないようだ。
アルファ「…もう少しだけ、進んでみようぜ。また遺跡があるかもしれないし」
ユウキ「りょーかい!」
もしこのまま、何も見つからなければ、あのほら貝でも吹いて、助けを呼べばいいんだろうか。それとも、そこら辺の木を切り倒して、筏でも作ればいいんだろうか。俺はユウキとジャングルを進みながら、そんなことを考えていた。
道中で、何度か果実を見かけたので、ユウキが非常食に、ともぎ取っていたのだが、例のフルーツを採取しようとした時ばかりは、全力で止めさせてもらった。その時、ユウキに、どうして?と尋ねられたが、正直に答えるわけにもいかないので、適当に毒が入っててヤバかったから、と少々苦しい言い訳しておいた。ユウキは俺の言い分に納得してくれたのか、その果物だけは取らないでいてくれた。
しばらく、ジャングルを突き進んでいくと、次第に木々が開けていく。そして、波が浜に打ち付ける音と共に、目の前に、数人のNPCが現れた。
アルファ「え?」
数人のNPCだけではない、そこには、小規模の村が形成されていた。NPCの内の一人が何処かに駆けて行ったかと思うと、杖をついた老人を連れて来る。そして、老人が俺達に話しかけてきた。
「新しい遭難人じゃの?…ようこそ、アンショウの村へ」
ユウキ「遭難人…?」
「お主ら、海でクラーケンに襲われたんじゃろ?」
ユウキ「う、うん…」
「この村は、そういう者達が集まって出来たのじゃよ」
老人が俺達に、ついて来い、と村へと向かって行く。俺達はそれに従って、老人の後に着いて行った。老人は、この村の中で一番大きな木造づくりの家に入っていく。どうやらこの老人は、村の長だったようだ。老人改め長老は俺達を部屋に案内して、ピンク色の飲み物を出してくれた。
ユウキ「…甘い…」
「それはカボンの実を使っておるからのぉ…」
老人は、丁寧に手入れされた長い白髪の髭を撫でながら、穏やかに答える。
アルファ「…いきなりですが、すいません。俺達は、主街区シンチに戻りたいんですけど…」
「それは無理な話じゃ」
俺がすべてを言い終える前に、長老は諦めたような顔つきで、そう言い放つ。
アルファ「なぜ?」
「…この村が、クラーケンに襲われた人達の生き残りが作り出したことは、さっき話したじゃろう?」
「この島の近海では、クラーケンが暴れまわっておるのじゃ。そのせいで、ワシらは船を出すことが出来ん」
ユウキ「方法はないんですか…?」
「…一つだけ、ある。この島の中心に生い茂る、ジャングルの何処かにあると言われている古代の遺跡に行き、そこにあると言う、言い伝えの、やすらぎの法螺貝を使うという方法じゃ」
「やすらぎの法螺貝を吹けば、たちまちクラーケンの気性も穏やかになるという伝承じゃ。…じゃが、この村の者達ではジャングルに潜むモンスター達に太刀打ちできなくての。そこでお主らに─」
アルファ「これじゃないの?」
「なんっ!」
長老が長い話を終える前に、俺は素早くアイテムストレージを開いて、やすらぎの法螺貝らしきものを実体化させた。…万が一を考えて、法螺貝を持って来ておいて良かった。
長老は、驚きを隠せない様子で、三度パチクりと瞬きをしてから、法螺貝をまじまじと眺めて、部屋を出て行った。謎の絵巻を抱えながら、すぐに部屋に戻って来た。長老はテーブルに絵巻を広げる。そこには、眠るクラーケンと俺が持って来た法螺貝を吹く少年が描かれている。
「ほれっ、そっくりじゃ!…これが伝説のやすらぎの法螺貝…」
長老は若干興奮にしながら、何度も法螺貝と絵巻を交互に眺めていた。そして、しばらくして落ち着きを取り戻してから、再び話し始める。
「…この島に遭難した御先祖様は、皆、この宝を求めて島を目指したトレジャーハンターだったらしい。…ワシが法螺貝を見て、興奮してしまったのも、この身に流れるトレジャーハンターの血のせいなのかのぉ…」
アルファ「…兎に角、これがあるなら、シンチに帰れるってことか!?」
「そうじゃ!明日の朝には、船を出向させようかの!」
「今日は宴じゃぁ!!」
ユウキ「やったーっ!」
それから、村に住む者達を集めた長老は、法螺貝が見つかったから、明日からは船を出せるようになること、そのほら貝を見つけ出してくれた俺とユウキが英雄であること、今日は祝いの祭りを行うことを村民達に伝えた。村民達もようやく、船を出して、別の島々に行き交うことが出来るようになることが嬉しいのか、皆で大騒ぎしていた。
昼間の間に、料理や飾り付けなどの準備を俺達も協力しながら終えて、日が落ちる頃には、大きな篝火を囲って、まるでキャンプファイヤーのようにして、村中がお祭り騒ぎ状態となっていた。俺もユウキも、彼らと同じように飲めや歌えやのバカ騒ぎをしている。少し、騒ぎ疲れた俺は、村の外れにあるビーチへと向かった。そこには誰もおらず、俺は一人で月を眺めながら、さざ波の音と共に、その場に佇んでいた。
「あ、英雄君じゃない?」
後ろから、誰かに声を掛けられた。そちらの方へ振り向くと、スタイリッシュなお姉さんが、立っている。
アルファ「…俺は、英雄なんかじゃねぇよ」
「あらっ?そんなことは無いわよ?あなたのお陰で、私達は島を出られるんだから」
お姉さんが俺の方へ一歩近づいてきた。…どうしてそんな露出度の高い服装をしているのだろうか。目のやり場に困る。
「あれ?今どこ見てたのかしら?」
アルファ「べ、別に何処も…」
「フフッ、可愛らしいわね…私とイイコトしちゃう?」
アルファ「ふぁ!?」
突然、お姉さんが前かがみになって、顔を近づけながら、そんなことを言ってきた。…これホントにNPCなのか!?年齢制限付けろよ!?俺は、若干パニック状態に陥るも、なんとか切り返す。
アルファ「…しないにきまってるだろ」
「…やっぱりそうだと思ったわ」
アルファ「やっぱり?」
「英雄君には、可愛いあの子がいるじゃない~」
アルファ「…別に、そんなんじゃねぇよ」
恐らく、お姉さんが言う人物はユウキのことだろう。だが、決して俺は、ユウキにはそういう感情を持ち合わせてはいない。俺にとってユウキは、家族のようなものだ。時に俺の行く未来を切り開いてくれる姉のような存在で、時に俺に駄々をこねながら甘えてくる妹のような存在なのだ。そして同時に、俺の大切なコンビである。だから、俺はユウキのことを好きだとか、そんな気持ちを持っているつもりは……ないはずだ。この気持ちは、そういう類のものでは、ない。
「自分の気持ちに素直じゃないのね。それじゃあ、私はこれで。機会があれば、イイコトしましょうね?」
アルファ「…しねーよ」
少々口うるさかったお姉さんが消えてから、しばらく波打ち際でゆるりと休んで、再び俺は村へと戻っていった。
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「英雄殿、ワシらは、何時でもあなた方の旅路の幸福を願っております」
アルファ「あぁ、爺さんらも達者でな」
ユウキ「お祭り、楽しかったよ!」
翌朝、出向する船の最終点検を終えた村では、お別れの時が迫って来ていた。たった一日しか、共に過ごしてはいないとは言え、別れというものは少し胸の内に感傷をもたらしてくれる。しばらく、別れの余韻を味わった後、俺達はとうとう島を発った。
沖合辺りに来たときだろうか、突然、二日前と同じように、巨大な触手が俺達の乗る船を難破させようと、襲い掛かってくる。だが、その直前に、乗組員の一人がやすらぎの法螺貝を吹いたことで、触手はたちまち力を失い、海へ沈んでいった。法螺貝万歳だ。
数十分掛けて、ようやく主街区シンチがある島へ辿り着いた俺達は、船乗りにお礼を述べてから、その場を後にした。
ユウキ「…後二時間後に、攻略会議があるらしいよ」
アルファ「えぇ…。今日はもうやめとかないか?」
ユウキ「ダメだよ。みんなに迷惑掛かるでしょ!」
アルファ「…分かった分かった。…取り敢えず、腹ごしらえに行こうぜ?」
ユウキ「そうだね!行こう行こう!」
俺達は休憩がてらに、久しぶりに帰ってきた主街区の一角にあるレストランで食事を取ろうと、早足に向かって行った。
おや、アルファの様子が…。
では、また第45話でお会いしましょう!