~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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第49話 選んだ未来

 ─まただ。また、足が動かなかった…。

 

 ユナが捨て身で僕達の囮になった時、僕は彼女のもとに駆け付けることが出来なかった。一昨日の迷宮区での出来事と同様に、ボクの手足は石化したかのように動かず、見す見すユナを死なせてしまう所だった。そんなユナの窮地を救ったのは、はじまりの日に、君は僕が守る、と、必ず現実世界に戻す、と誓ったはずの僕ではなく、何処からか現れた二人の少年少女だった。

 しかし、彼らの力は圧倒的で、彼らがボス戦に参加したことで、全滅一歩手前だった救助隊は一気に形勢逆転し直せたのだ。…もし、彼らが現れてくれなかったら、今頃僕は、あの日の約束を果たすことが出来ず、ユナを見殺しにしていただろう。最も大切な人がピンチの時に身体が竦んで動けないでいる自分が、一番大切な人のピンチを救えない自分が、僕は心底憎かった。

 …この二人のプレイヤーは、一昨日に迷宮区で目にした、黒衣の剣士や副団長、団長なんかと同じ境地に立つプレイヤーなのだろう。僕の審美眼が濁っていたとしても、少なくとも彼らは、攻略組の中でも上位の力を持っているはずだ。そんな彼らが、何故たった今行われているフロアボス戦に参加していないのかは疑問だが、これは僕に与えられたチャンスだとも言える。

 ユナを守るには、僕はまだまだあまりに弱すぎる。弱いから危険な状況で足が竦むんだ。そんな自分は要らない。僕は強くならなければいけない。そんな気持ちに駆り立てられた僕は、まだ中学生ぐらいの年齢であろう、自分よりも若いプレイヤーに対して、頭を下げた。

 

 ノーチラス「僕のことを鍛えてくれませんか!!」

 

 

────────────────

 

 

 

 

 アルファ「……は?」

 

 「お願いします!」

 

 アルファ「…いや、そんなこと言われても…」

 

 「何でもしますからっ!」

 

 アルファ「…取り敢えず、頭下げるのと、敬語やめてくれよ…。多分俺の方が年下だろうし…」

 

 「…分かりま……分かった」

 

 突然、血盟騎士団のユニフォームを纏った髪色がアッシュグリーンというか、モスグレーというか、グリーングレーの三つのうちのどれかだと思われる、緑と灰色を混ぜたような髪型をした青年プレイヤーが勢い良く頭を下げてそんなことを言ってきた。

 …一体どうしたものか。俺が困り果てていると、意外なところから助け舟が飛んできた。

 

 「ちょっとエーくん、この人困ってるでしょ!まずはお礼を言ってからにしないと」

 

 「命を救ってくださり、ありがとうございました。ほらっ、エーくんも!」

 

 「…エーくんじゃなくて、ノーくんで頼むよ…」

 

 「ありがとうございました。あなたが居なければ、僕は一生後悔するところでした」

 

 アルファ「…あぁ、そりゃあどういたしまして…」

 

 正直、こういう定型文のやり取りはあまり好きではないが、相手に合わせるのも礼儀の一つではあるだろう。ひょこっと、俺の後ろから現れたユウキが二人に話し掛ける。

 

 ユウキ「お姉さんとお兄さん、名前は?」

 

 「ユナです」

 

 「ノーチラスだ」

 

 血盟騎士団所属のプレイヤーがノーチラスで、謎の挑発スキルを使ったのがユナ、か。ノーチラスが俺に訊ねる。

 

 ノーチラス「それで…僕を鍛えてはくれないか?」

 

 アルファ「…何故?」

 

 ノーチラス「僕は、今よりもっと強くならないといけないんだっ!そうじゃないと、また今回みたいなことにッ!」

 

 ノーチラスが必死に俺にそう訴えてくる。…気持ちは痛いほど分かるが、俺に頼む理由にはならないはずだ。

 

 アルファ「…俺より強い奴なんて、山ほどいるぞ。それに、ノーチラスは血盟騎士団所属だろ?俺よりもポテンシャルは大きいはずだ」

 

 血盟騎士団は選りすぐりのプレイヤーだけをギルドに勧誘していると聞く、つまり、ユウキのおまけ程度に勧誘された俺とは、訳が違うのだ。今はまだ戦闘経験が浅いだけで、そのうち時間をかけて行けば、俺なんか目じゃ無い程に強くなれるだろう。

 

 ユウキ「…別にいいじゃん。鍛えてもデメリットなんてないでしょ?」

 

 ユウキが俺の方を見ながら、にやにやとそんなことを言ってくる。それは、完全に他人事の顔であった。

 

 アルファ「んなこと言うなら、ユウキが鍛えてやってくれよ。俺よりも強いだろ?」

 

 ユナ&ノーチラス「えっ!?」

 

 目の前の二人は、信じられないといった様子だった。…血盟騎士団副団長のアスナという前例がありながら、こうもまで驚かれるのか。ユウキは、二人に対して笑顔で答える。

 

 ユウキ「そうだよ!デュエルだけで言えば、ボクの方が圧倒的に強いからね~」

 

 アルファ「…ハッキリ言うな…」

 

 ユウキ「でも、ボクは指揮とかは全然だし、そこら辺も加味すれば、ボクよりも優秀だと言えるんじゃないかな?」

 

 アルファ「なんでそんな上から目線なんだよっ!」

 

 と、ついついいつもの癖で、ユウキの発言に対してノリツッコみをしていると、ユナはクスクスと、ノーチラスは若干苦笑いになりながら、俺達の様子を眺めていた。

 

 アルファ「…鍛えるつっても、俺達がやってることなんて、毎日デュエルとレベリング、んで今回は参加してないけど、ボス戦と迷宮区の探索ぐらいじゃね?」

 

 ユウキ「まぁ、そうだね」

 

 ノーチラス「だったら、僕とデュエルをしてほしい」

 

 アルファ「…まぁ、そんなんでいいなら…」

 

 俺は適当な空き地を探そうと、辺りを見まわしたが、そこで、お腹がグ~っと大きく鳴った。その音の根源は、ユウキだった。

 

 アルファ「…悪い、先に飯食ってからでいい?」

 

 ユウキ「…アハハ…そう言えば、お昼まだだったね」

 

 ユナ「じゃあ、私達が奢ってあげる。助けてくれたお礼としてね」

 

 ノーチラス「その私達って、まさか僕も…?」

 

 ユナ「当たり前でしょ!」

 

 二人の仲つつまじい会話を眺めながら、俺とユウキはお勧めのお店まで案内してもらった。

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 ユウキ「へぇー、吟唱スキルって言うんだ~」

 

 アルファ「挑発系のスキルかと思ってたぜ」

 

 ユナ「挑発も出来るけど、本分はバフを掛けることだね」

 

 俺達は、ユナとノーチラスにいいお店を案内してもらってから、そこで遅めの昼食を摂っていた。ノーチラス達は、既に昼食を済ませていたそうなので、適当に飲み物だけ頼んでいる。そこで、色々喋りながら、楽しいランチタイムを過ごしているのだが、ノーチラスは心ここにあらずと言った様子で、あまりお喋りには参加してこない。

 ユウキがユナに、モンスターのヘイトを集めたスキルについて質問すると、ユナは素直に答えた。…俺達は、ユナのスキル情報を悪用するつもりなど無いが、そういう所には気を付けた方がいいと思う。と、俺が言う前に、ノーチラスが先に注意してくれた。

 因みに、ユナの保持するスキルの正体は、吟唱スキル、という歌を活用した周囲のプレイヤーにバフを掛けるものらしく、そのスキルを習得している者は極僅かだとか。たっぷりとお昼ご飯をお腹に詰めて、エネルギーを全快させた俺とユウキは、ユナとノーチラスのご厚意に甘えさせてもらい、少しだけ代金を持ってもらうことになった。

 …流石に、前線で稼ぎまくっている俺達が、中層プレイヤーに奢ってもらうなどというマネは出来ない。レストランを後にして、適当な空き地を見つけ出した俺は、ノーチラスに声を掛けた。

 

 アルファ「ノーチラス、ここらでデュエルしようか」

 

 ちょうど、第41層の主街区が解放されたため、ただでさえ陰気なこの主街区は、閑散としていた。故に、俺達のデュエルが見世物になる心配もないだろう。

 

 ノーチラス「…分かった。初撃決着モードでいいか?」

 

 アルファ「あぁ…」

 

 俺達は、お互いに適度な距離を置いた。もうしばらくで、デュエルのカウントダウンが始まる。そして、目の前にカウントダウンの数字が表記されたその時、ノーチラスは想定外の行動を取ってきた。

 

 アルファ「……ん?」

 

 ノーチラスはまだカウントが十になったばかりだというのに、既に中段に剣を構えたのだ。…何かの引っ掛けか?俺は一瞬、そんなことを考えたが、それはない、とすぐに冷静な判断を下す。恐らく、ノーチラスは対人戦には慣れていない。対人戦の経験が浅いからこそ、こうしてカウントが始まった直後から、相手に構えを見せてしまっているのだ。

 俺の予想通りなのか、ノーチラスは一向に両手剣を構えない俺を怪訝そうに眺めていた。だが、だからといっても、そう簡単に勝利を掴み取れるわけでもないだろう。ノーチラスは血盟騎士団から直々にオファーを受けたプレイヤーだ。気を引き締めていかなければ、負けるのは俺かもしれない。カウントダウンが終了する直前、俺は颯爽と両手剣を上段に構えて、ノーチラスに向けて飛び出した。ちょうど俺がノーチラスの目の前まで迫った時に、デュエル開始の合図が鳴る。

 俺は思いっ切り、両手剣を振り下ろすが、ノーチラスは左手に持つ盾でこちらの攻撃を受け止める。

 

 ノーチラス「…ぐっ…」

 

 だが、ノーチラスの持つ盾は、あくまでディーラーが使うような小型の盾で、タンクが装備するような大型の盾ではない。なので、俺の全力の両手剣による攻撃を受け止め切れない。ノーチラスはその衝撃を後ろに逃がすように、バックステップを取った。俺はすぐさま距離を詰めることは無く、その場から投げピックを投擲する。

 ノーチラスはその投げピックを盾を使って綺麗に防ぎきるが、そちらに意識を集中させ過ぎてしまったノーチラスは俺の接近に気が付くのが遅れた。しかし、ノーチラスも負けじと俺が飛び込んでくるであろう箇所に目を付けて、そこに片手剣を空打ちする。

 

 アルファ「やるな」

 

 俺は一旦、距離を取ると見せかけて、今度はノーチラスに急接近する。両手剣を盾に、無理矢理ノーチラスと鍔迫り合いに持ち込んだ俺は、武器と武器の隙間から、左脚でノーチラスの身体に蹴りをぶち込んだ。

 

 ノーチラス「ぐはっ!?」

 

 ノーチラスはそれを警戒しておらず、俺の蹴りがクリーンヒットした。そして、ノーチラスの体勢が崩れたその一瞬のスキを逃さずに、俺は両手剣で彼の身体を切り裂いた。デュエルのリザルト画面が表示されてから、俺はノーチラスに向けて、回復ポーションを投げる。

 

 アルファ「お疲れさん」

 

 ノーチラス「…アルファは強いな」

 

 アルファ「…俺は、まだまだ未熟だ」

 

 ノーチラスから頂いたお世辞を適当に躱しておく。すると、ユナがノーチラスに向かって駆け寄って行った。

 

 ユナ「エーくん!大丈夫なの!?」

 

 ノーチラス「あぁ、初撃決着モードだからね。心配ないさ」

 

 ユナ「…そっか、良かった」

 

 遅れて、呑気にこちらに向かってきたユウキは、口を開くや否や、俺に嫌味を言ってくる。

 

 ユウキ「アルファ、手加減してあげなよ?あれじゃあ弱い者いじめだよ?」

 

 アルファ「だったら、俺にも手加減してくれよ」

 

 ユウキ「アルファは弱くはないから、弱い者いじめじゃないの」

 

 アルファ「…褒められてるのか、貶されているのか…」

 

 そんなユウキの無茶苦茶な理論に振り回されていると、ユウキがユナに質問していた。

 

 ユウキ「そう言えば、エーくんのエーって何処から来てるの?」

 

 確かに、それは俺も気になっていたところだ。ユウキにそう訊ねられたユナは、若干申し訳なさそうに答える。

 

 ユナ「…実は、エーくんの本名から…」

 

 ノーチラス「…実は僕とユナは、幼馴染なんだ」

 

 アルファ「へぇ~、通りで仲良いわけだな」

 

 ノーチラス「…まあ、ね」

 

 ユナ「…何その含みのある返事は」

 

 ノーチラス「いや、特に何も含みを持たせてはないけど…」

 

 ユナ「ふんっ」

 

 そんな、今日何回目かのノーチラスとユナのやりとりを微笑ましく眺めてから、俺達は、今日は解散することにした。今日は、というのは、ノーチラスがどうしても、俺達のレベリングの様子などを見たいらしく、明日は俺、ユウキ、ノーチラス、ユナの四人でフィールドに出ることを約束したからだ。一応、本日で最前線は41層となったが、安全性を考慮して、39層でレベリングのやり方を実演するつもりだ。

 それから、俺とユウキは第41層に赴き、主街区を見て回ったり、フィールドに出て見たり、美味しそうなクエスト探したりしてから、晩御飯を食べて、ギルドホームに帰宅した。

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 アルファ「ノーチラス、どうしたんだ?」

 

 ノーチラス「…」

 

 ギルドホームに帰宅してから一時間後、そろそろお風呂にでも入ろうかとしていたところに、突然ノーチラスから、四十層の主街区に来てくれないか、という趣旨のメッセージがが送られてきた。ユウキに、ノーチラスに呼び出されたことを伝えてから、俺は第40層の主街区へ移動する。

 昼間でも薄暗い雰囲気の主街区は日が暮れた夜では、ますます気味の悪い街と化していた。転移門の近くにあるベンチに座っているノーチラスを見つけた俺は、声を掛けたのだが、ノーチラスは顔を俯けたまま、返事をしない。しばらく間が空いて、ノーチラスが話し始める。

 

 ノーチラス「…僕は、どうしても、最前線で闘い続けたいんだ。アルファの強さの秘訣を教えてくれっ!!」

 

 アルファ「話が見えてこないぞ。それに、言った通り、俺は特に何も変わったことはしてないぜ。レベリングとデュエルと─」

 

 ノーチラス「だったら、どうして僕は、強くは在れないんだッ…!」

 

 アルファ「…なんかあったのか?話なら聞くぜ」

 

 俺が、冷静にそう言うと、視えない何かに追い詰められていたノーチラスは、落ち着きを取り戻した。

 

 ノーチラス「……さっき、団長と副団長の二人と、僕の今後について話し合ってきたんだ」

 

 ノーチラス「…そこで、僕にはFNCの可能性があると、告げられた…」

 

 アルファ「FNC?一体どこが?俺とデュエルしてる時はそんな風には感じなかったけど」

 

 FNCとはフルダイブ不適合を略した言葉で、超微弱なマイクロウェーブを利用した脳とナーヴギアの間でのやり取りに何らかの不具合が生じていることを表す。中には、その接続不良からフルダイブさえ出来ない人々もいたらしいが、ノーチラスもこの世界にやって来てしまった以上は、接続不良になるほどの不適合ではないらしい。

 

 ノーチラス「…僕は、理性よりも本能の方が優先されるような不具合があるらしいんだ…。だから、僕は自分の死にそうな状況に陥ると、身体が動かなくなってしまう…」

 

 アルファ「…だから、ボス戦の時、変な格好で固まってたのか…」

 

 ノーチラス「…あぁ…」

 

 アルファ「…だったら、残念だけど、攻略組を目指すのは止めといた方が─」

 

 例えば、遠近感覚に問題のあるFNC判定のプレイヤーはいるのだが、彼はチャクラムという遠距離武器を使うことで、その短所を克服し、今では攻略に大きく貢献している。

 だが、ノーチラスが言った通りの症状が発症するのなら、常に死の危険が伴う最前線には立つべきではないだろう。俺はそれをノーチラスに伝えようとしたが、ノーチラスが言葉を重ねる。

 

 ノーチラス「それは、出来ない。…あの日、僕はユナに、君を守って見せると、必ず現実世界に戻して見せると、約束したんだッ…!」

 

 アルファ「…そうか」

 

 …約束。俺も似たようなことはしたし、似たようなものは受け継いでいる。だけど…

 

 アルファ「…だとしても、実際問題どうするんだ?」

 

 ノーチラス「…分からない…。でも、このままじゃ僕はユナを守れない!そんな僕は、必要ないんだっ!だけど、どうしても身体が動いてくれないんだよッ!…アルファ達が来てくれなきゃ、きっと僕は、ユナを見殺しにしていた。…僕はもう、同じような過ちを繰り返すわけにはいかないんだ…。だから、僕はもっと強く─」

 

 アルファ「一回落ち着け」ベシッ

 

 ノーチラス「痛っ…」

 

 ドンドンと、自分の中の煮えくり返る想いでヒートアップしていくノーチラスを落ち着かせるために、俺はノーチラスの頭を片手チョップした。それを喰らったノーチラスは、頭を押さえながら、一度黙った。

 

 アルファ「…まず、強くなりたければ、もっとユナに頼れ」

 

 ノーチラス「……は?」

 

 ノーチラスは理解不能といった様子で俺を眺めるが、気にせず続ける。

 

 アルファ「一人で抱え込んだって、何も解決しない。ノーチラスはユナにこの症状のこと、伝えてないだろ?」

 

 ノーチラス「あ、あぁ…」

 

 アルファ「ノーチラスがユナを守りたいと思っているのと同じように、ユナもノーチラスのことを守りたいと思っているはずだ。違うか?」

 

 ノーチラス「…分からない…」

 

 アルファ「支えるだけじゃなくて、支えてもらって、そうやって支え合って生きていく、それが二人で一人ってやつなんだ」

 

 いつか、ユウキが送ってくれた言葉を思い出す。

 

 ノーチラス「二人で、一人、か…」

 

 アルファ「あぁ、いい言葉だろ?…ま、俺もユウキから教えてもらったんだけどな」

 

 ノーチラス「教えてもらった?」

 

 アルファ「そうだ。…俺もちょっと前に、仲間を死なせてしまってさ、それで一人で悩んで、今のノーチラスみたく力を渇望してた。そんなときに、ユウキがそう言ってくれたんだ。だから、きっとそれはノーチラスにも当てはまると思うぜ」

 

 ノーチラス「…そうかな…」

 

 アルファ「…兎に角、明日にはちゃんと話せよな」

 

 ノーチラス「…分かった」

 

 アルファ「…それと、ノーチラス、お前自分のこと嫌いだろ?」

 

 ノーチラスは今度は驚いたような顔をしたが、それは一気に自虐的な表情へと変化した。

 

 ノーチラス「そうだよ。大切な人を守れない僕なんか─」

 

 アルファ「強くなりたければ、自分を拒否するな。弱い自分も受け入れなきゃ、一歩前に進むことは出来ない」

 

 ノーチラス「弱い自分を…受け入れる…」

 

 俺の言葉を聞いたノーチラスは、真剣な表情で言葉を反復させている。

 

 アルファ「弱い自分を受け入れて、それでも自分の可能性を信じるんだ。…俺はそうやって、過去の自分よりも、成長してきたんだと思う」

 

 ノーチラス「…確かに、僕は間違っていたのかもしれない。…まずは自分の弱さを認めなきゃ、その先には進むことは出来ないよな…ありがとう…アルファ、お陰で目が覚めた気がするよ」

 

 アルファ「礼はいらねぇよ。困った時はお互い様だろ?…それに、ノーチラスのFNCを解決できるわけでもねぇしさ」

 

 ノーチラス「…いいや、もう大丈夫さ。僕が本当にやらなければいけないことが、やっとわかったから」

 

 揺るぎない決意を宿した瞳で、ノーチラスはそう答えた。…この様子なら、もう何の心配もいらないだろう。

 

 アルファ「…そうか。そんじゃ、また明日な」

 

 ノーチラス「あぁ!」

 

 そうして、すっかり憂きものが取れたようなさわやかな顔をしたノーチラスは血盟騎士団のギルドホームがある第三十九層へと転移していった。俺はノーチラスを見送ってから、ギルドホームに再び戻り、お風呂で体をリラックスさせてから、寝床に着いた。

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 ユウキ「ノーチラス、遅いね…」

 

 ユナ「…エーくんが待ち合わせに遅れるなんて、滅多にないんだけど、一体どうしたんだろう…」

 

 翌日、約束通り第三十九層で、レベリングの実演を行うつもりで、第三十九層の主街区で待ち合わせをしていたのだが、時間になってもノーチラスは一向にその姿を現さない。ユナは心配そうにノーチラスの到着を待っている様子だった。十分ほどしてから、とうとうノーチラスが小走りにこちらへ向かってきた。

 

 ユナ「エーくん、遅いよ!心配したんだからね!」

 

 ノーチラス「ごめん…」

 

 ユウキ「何かあったの?」

 

 ユナに小言を言われたノーチラスは申し訳なさそうにユナに謝っていた。次にユウキがそう訊ねると、ノーチラスは途端に真剣な表情を浮かべて、ユナの方を見やった。

 

 ノーチラス「…ユナ、聞いてほしい事があるんだ。いいかい?」

 

 ユナ「改まってどうしたの?」

 

 ノーチラス「今日、僕は、血盟騎士団を脱退してきた」

 

 ユウキ「えっ!?」

 

 アルファ「ほうほう」

 

 ユナ「…どうして?エーくん、血盟騎士団に勧誘されたとき、凄く喜んでたでしょ!?」

 

 ノーチラス「…僕が血盟騎士団を脱退した理由は、二つあるんだ」

 

 ここまで、ユナと一度も目を離さずに会話をしていたノーチラスは、いきなりユナに頭を下げた。

 

 ノーチラス「…僕は、軽度のFNCの疑いがあって、命の危険を感じると、その場から動けなくなってしまうんだ。……だから、僕は、ユナを現実世界に戻す為に、直接最前線に出てボスを倒すことは出来ないんだ。……ごめん」

 

 ユナ「……」

 

 ノーチラスは、顔を上げて、今度はユナの目から視線を逸らさずに、真っ直ぐユナを見つめて、言葉を放つ。

 

 ノーチラス「それでも僕は、ユナを守り抜くために、剣を握り続ける。…だから、君の隣で、君のことを守らせてもらえないか…」

 

 これは単なる俺の想像だが、きっとノーチラスは、自分が万が一、本当にFNC判定で場合ことを考えて、それでも何よりも一番大切なユナを守ることに専念することにしたのだろう。ノーチラスの決意に、ユナはノーチラスを見つめたまま何も言わない。しばらくして、ユナがクスクスっと微笑みながら、ノーチラスに話し掛けた。

 

 ユナ「…何それ、私に告白してるの?」

 

 ノーチラス「い、いや、そういう訳じゃなくてっ……」

 

 ユナの思いがけない言葉にノーチラスはタジタジなって弁解をしていた。…まぁ、正直俺も告白か何かだと思っていたんだがな。

 

 ユナ「…ま、別になんだっていいよ。……エーくんなら、私は構わないけど、ね…」

 

 ユナが最後に、少し顔を赤く染めながら、小声でそんなことを言うと、ノーチラスは完全にテンパっていた。ユウキは、その様子を見て顔を赤らめている。…一体俺は、何を見せられているんですか。まぁ、見ていてすごく心が温まるものなので、ぜひぜひ続けてくださって結構ですけどね。

 一旦、一呼吸分置いて、少しみんなでクールダウンしてから、ノーチラスとユナは冷静さを取り戻した。

 

 ユナ「…エーくんが悩んでたことって、そのことだったんだね。気が付かなくて、ごめんね」

 

 ノーチラス「いや、僕の方こそ、何の相談もせずに、一人で抱え込んでごめん」

 

 ユナ「いいよ。…それに、FNCって決まったわけじゃないし、もしそうだったとしてもエーくんなら、きっとそれを乗り越えて最前線で活躍できるようになるよ!」

 

 ノーチラス「…ユナ…」

 

 ユナ「その時は私も一緒に前線に…って言いたかったんだけど、私、昨日始めてボス戦に挑んだ時に気づいちゃったんだ。剣が使えない私だと、最前線は厳しいって…」

 

 ユナは少し悲しそうな様子で、ノーチラスにそう答えた。

 

 ノーチラス「そんなことはッ!」

 

 ユナ「いいんだよエーくん。…私も本当は、最前線に立ちたかったけど、こればっかりは仕方ないから…」

 

 アルファ「…剣が駄目なら、両手槍とか、後衛系の武器はどうなんだ?」

 

 俺がふと、そう訊ねると、ユナは微妙な表情を浮かべながら、答えた。

 

 ユナ「メインアームを決める時に、色々試してはみたんだけど、私には全然扱えなかったよ」

 

 アルファ「…んん~」

 

 確かに、もしユナが最前線に出れば、ユナは全体バフを掛けられる貴重なバッファーとして攻略組では重宝されるだろうが、メインアームが短剣では、少々心許ない。

 短剣はソードスキルがコンパクトだったり、クーリングタイムが他の武器と比べて短かったりと扱いやすい性能の武器ではあるのだが、逆に言ってしまえば器用貧乏である。対人戦では短剣のような小回りの利く武器は強く出れるだろうが、モンスター相手だと、スタン蓄積量や一発のダメージ量が他の武器と比べて少ない。

 攻略組として活動するとなれば、メインアームの変更は必須となるだろう。後衛系の武器が駄目となると…。俺は代替案が見つからず、暫く唸っていると、突如ユウキが何かを閃いたように、俺の顔を見てくる。

 

 ユウキ「…あっ!アルファ!あれだよあれ!」

 

 アルファ「何か思いついたのか?」

 

 ユウキ「あの、なんて言うのかな、手裏剣みたいなやつ!」

 

 アルファ「そうか!チャクラムか!」

 

 ユナ「…チャクラム?」

 

 アルファ「あぁ!投剣スキルと体術スキルがあれば、使えるようになるブーメランみたいな遠距離武器だ。それならユナにも使いこなせるんじゃないか?」

 

 ノーチラス「ユナはフリスビー得意だっただろう?それと同じ要領さ」

 

 ユナ「それなら私も出来そうかも!」

 

 ユナがチャクラム使いに転向することを決心したので、俺達は体術スキルが獲得できるあの修練場にまで案内してあげた。案の定、頬っぺたに髭のペイントを喰らったユナを見て、爆笑させてもらった俺達だったが、ノーチラスがユナがクエストを攻略し終えるまで、ここで付き添うと言った為、そこで俺達はお別れをした。

 第四十一層のフィールドに行くまでの道のりで、俺はユウキに話し掛ける。

 

 アルファ「…ノーチラスとユナは、最前線にまで来れると思うか?」

 

 ユウキ「うん、きっと二人ならいつか攻略組に追い付くと思うよ」

 

 意外にも、あっさりとそう回答したユウキに俺は啞然とした。そんな俺の様子を見て、ユウキがケラケラと笑いながら、答えてくれる。

 

 ユウキ「愛の力は凄いんだよ?ノーチラスとユナはきっと、いいコンビに成れるよ」

 

 アルファ「それもそうだな」

 

 そうして、四十一層のフィールドに辿り着いた俺達は、息ぴったりのコンビネーションでフィールドモンスター達を相手取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 これにて、ノーチラスとユナがメインになる回は終了となる…と思われます。

 では、また第50話でお会いしましょう!
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