今日から三日間はリアルが忙しいので、投稿が遅れるかもしれません。
では、どうぞ!
アルファ「…朝か、」
ベッドの右横にある窓から朝日が差し込んできたことで、アルファは、否応なしに夜が明けたことに気が付く。まだ寝ぼけている体で身支度を整え、朝食は─結局、その安さに抗えず、我慢して黒パンを食べることにした。
ホルンカの村を出る前に、昨日のキリトとの共闘で耐久値が減ってしまったビッグソードを武器屋で買い換えた。キリトによると、ブロンズロングソードは耐久値が脆く設定されているらしく、クエストで両手剣を新調するまではビッグソードの方が優秀らしい。
忘れずポーションも補充してから、キリトが教えてくれた俺が向かうべき街、トールバーナに向けて出発する。道中で何度かエンカウントがあったが、キリトのアドバイスに基づいてモンスターと戦うと驚くほど簡単に倒せた。
…無理してでもキリトについていくべきだったな、と今更ながら後悔しつつ、キリトに言われた通りの方角へ向かっていくと一際大きな街が見えてきた。
街中に入ってみると、目の前にはトールバーナと表示され、目的地に着いたことからか、一気に肩の力が抜ける。
???「背中には気を付けなヨ。」
アルファは突然の背後からの声に驚き、急いで振り返った。
するとそこには、自分よりも背丈の低い女の子が立っているではないか。金髪の女の子はフードを被っており、顔の全容は伺えないが、頬に描かれた左右対称の三本線が特徴的だ。
???「ニャハハ、そう警戒しないでくれヨ。オレっちはアルゴ。情報屋ダ。」
と、笑いながら女の子は名乗る。
アルファ「俺の名前は、「アルファ、ダロ?」」
アルファ「なん!?」
この場で初めて出会ったはずのアルゴが、自分の名前を言い当てたことに困惑し、俺は言葉にならない驚愕を表してしまう。しかし、一度冷静さを取り戻して、アルゴに恐る恐る、その訳を尋ねてみた。
アルファ「…初対面のはずだ。なんで知ってるんだ?」
アルゴ「キー坊から聞いたからナ。将来有望なニュービーがいるってナ!」
アルファ「キー坊?」
そんな奴とは出会ったこともないんだが…。そう思ったアルファは、オウム返しのようにアルゴに聞き返す。
アルゴ「キリトのことダヨ。アルファは…アー坊だな!」
アルファ「あぁ、キリトのことだったのか。…ってアー坊だと?変なあだ名付けんじゃねーよ」
アルファは、ケラケラと楽しそうなアルゴに対して、俺は呆れ気味にそう言葉を返す。
アルゴ「気にするナ。…それはそうと、オネーサンはアー坊にプレゼントを持ってきたんだゾ。」
アルファ「ぷ、プレゼント?」
正直言ってプレゼントと言われるとあの忌まわしき手鏡を思い出してしまうため、少しばかり、身体が勝手に身構えてしまう。…あまり期待はできないが、まぁ、キリトの知り合いなら安心できるだろうと、俺は思った。
アルゴ「これダ」
アルファ「アルゴの攻略本…?」
表紙に「アルゴの攻略本」と書かれた厚めの本を受け取ったアルファは本をペラペラめくり、内容を確認する。
なんとそこには、キリトが話していたことはおろか、それ以上にたくさんの情報が記載されているではないか。アルファは流石にこんなものがタダで手に入るとは思えず、反射的にアルゴに確認を取った。
アルファ「すげーな、これ。でもいいのか?無料でもらっちまっても」
アルゴ「オレっちは情報屋だからナ、これくらい朝飯前ダヨ。…それに個人的に、アー坊には期待できそうだからナ」
アルファ「サンキューな。大事に使わせてもらう。…アルゴもキリト同じベーターテスターなのか?」
アルゴ「…そうだゾ。今回は初回利用の特別扱いダ。情報料はタダでいいヨ」
アルファ「そ、そうか」
先程の情報屋発言は、初対面の人に対してのユーモアかと思っており、まさか本気で情報屋で生計を立てているとは思っていなかったので、アルファは呆気に取られてしまう。
アルゴ「じゃあオレっちはそろそろ行くヨ」
アルファ「待ってくれ」
自らの前から去って行こうとする情報屋アルゴを、不意にアルファは引き止めた。
アルゴ「なんダ?オネーサンを口説くのカ?」
アルファ「…ちげーよ、情報が欲しい。黒パンみたいに安くで食える美味しい食べ物はあるか?」
これからの朝昼晩の三食を黒パンで済ませるというのは耐えられそうにないし、かと言って今の経済状況では、街にあるレストランに入ることさえ出来ない。
アルファは自称情報屋のアルゴになら、その手の情報にも精通しているのではないかと考え、物は試しにアルゴに聞いてみたわけだ。
アルゴ「ニャるほど、アー坊は美食家なんだナ。そういうことならひとつ前の村で受けられる<逆襲の雌牛〉ってクエストをクリアしてみナ。情報料は10コル、ダ。」
アルゴに手を差しだされて、アルファも今度はしっかりと情報料を払う。…後から分かったことなのだが、このクエストについては攻略本にしっかりと載っていた。まぁ、要するにカモられたわけだ。
アルゴ「…オレっちはその内、第1層を攻略するためのレイドが結成されると思ってるんダ。アー坊もボス戦に参加したいなら、しっかりレベル上げしとくんダヨ。」
その言葉を最後に、アルゴは機敏な動きで何処かへ走り去っていった。
それからアルファは、逆襲の雌牛クエストをクリアして黒パンにつけるためのクリームを入手し、日々の食事を少しだけ豪華にしたり、アルゴの攻略本やキリトに教わった狩場でレベリングしたり、目的だったトールバーナでの両手剣クエストを受けて<ストーンブレード>を手に入れ、強化したりしながら、約一か月間を過ごしたのだった。
────────────────
アルファ(ん?キリトからのメッセージか)
そんなこんなで、一カ月ほどこの世界で安全なレベリングをしながら生活を繰り返していた俺は、久しぶりにメッセージ着信音を耳にした。そこには『今日の夕方、トールバーナで第1層フロアボス攻略会議が開かれる』と記されている。
それを見たアルファは、これがアルゴの言っていた奴なのだろうと目星をつけ、キリトに「了解」と短く返事をし、ボス戦に参加するために攻略会議が開かれる場所に向かうことにした。
────────────────
会場であるトールバーナの噴水広場に到着すると、すぐそばに見慣れた男がいたので、アルファは声を掛ける。
アルファ「おい、キリト、久しぶりだな!」
キリト「お、アルファか、無事だったんだな。アルファも攻略に参加するのか?」
キリトは俺がここに来たことに驚いているようだ。だが、この世界から脱出するためには迷宮区タワーの最上階に居るフロアボスを倒さねばらならないようなので、勿論俺もそれに参加するつもりなのだ。
アルファ「当ったり前だろー。…それに、今日まで生き残れたのも、キリトの教えがあってこそだぜ」
しばらくキリトとの談笑を楽しんでいると、キリトの少し後ろにいるケープを被った人物がこちらに喋り掛けてきた。ケープの被り方はアルゴよりも深く、口元しか見えない。
「あなたも攻略会議に用があるの?」
アルファ「あぁ。ボス戦に参加したくてな。キリトの知り合いなのか?」
ケープの人物は黙り込んでしまう。何かまずいことでも聞いてしまったのだろうか?だが、声色から女性であることが推測できた。
キリト「…さっき迷宮区で知り合って、成り行きでここまで一緒に来たんだ」
アルファ「おいおい、俺を差し置いて女の子をパートナーにしたのか?キリトも隅に置けねえなぁ」
キリト「ち、違う。そんなんじゃない!」
ちょっと茶化しただけなのに、キリトはものすごい勢いで反発してきた。…なるほど、キリトはイジリ甲斐のあるタイプの人間だな。次はどんな風におちょくろうかと、頭を回転させ始めたが、それはアッサリと阻止される。
「あなた、お調子者ね」
とケープの女の子から冷たい一言。流石にそこまで冷静な判断をされると、茶化しても何も面白くもない。
「ところで、たくさんの人が集まったのね。全滅する可能性もあるはずなのに…」
キリト「いや、どうかな…自己犠牲精神の発露っていうよりも最前線から遅れたくないって考えから来てる人も多いと思うぞ。俺もそっち側のほうだからさ…」
「それって学年十位から落ちたくないとか、偏差値70をキープしたいとか、そういうのと同じモチベーション?」
「「…」」
キリトと俺は絶句せざるを得なかった。例に挙げた偏差値からして、本人は偏差値70相当に位置しているのだろう。偏差値なんてクソくらえな残念な頭を持ったアルファは、途端にこの女の子に頭が上がらない気がしてきた。
「はーい!それじゃ5分遅れだけどそろそろ始めさせてもらいます!俺の名前はディアベル、職業は気持ち的にナイトやってます!」
突然壇上に飛び込んだ、青い髪をしたイケメンは、俺たちを含む周囲のプレイヤーに呼びかけているようだった。
アルファ(なんであいつはあんなにイケメンなんだ?まさかアバターのままなのか?そんなわけないか。…にしてもズルい、世の中は不公平だ。)
などと悪態をついていると、何の前触れもなく、ディアベルの澄んだ声とは真反対の濁った低い声が、会場に響き渡る。
「ちょっお待ってんか、ナイトはん」
声の主は関西弁でサボテン頭だ。彼が今から何かを発言するつもりらしい。
「わいは<キバオウ>ってもんや。この中に十人くらい、死んでいった二千人にワビぃ入れなあかん奴がおるはずや」
ディアベル「それは元ベーターテスターのことかい?」
キバオウ「決まっとるやろ。ベーターテスターが新規見捨てて、情報を独占したから二千人ぐらいの人間が死んだんやろ。どう考えてもベーターテスターのせいやないかい!ここで土下座して、金やアイテム吐き出してもらわな、パーティーメンバーとして命を預けることはできん」
その無差別な発言を聞いたアルファは居ても立っても居られない思いに駆られる。アルゴはベーターテスターだが、アルゴの攻略本という形で情報を皆に無料提供し、キリトだって右も左も分からない俺を助けてくれた。
この女の子も、きっとキリトに助けられたのだろう。だというのに、キバオウは集団概念を用いて彼らを否定したのだ。胸からこみ上げてくる怒りに任せて、俺は大声で彼に語り掛ける。
アルファ「ちょっといいか?」
キバオウ「なんや、ワレ?」
アルファ「俺はアルファだ。あんたの言う二千人の死亡者における、新規とテスターの死亡割合は知ってるか?」
キバオウ「…知らんけど、それがなんやねん」
アルファ「ベーターテスターの死亡率は40%、新規は18%、だ。つまり既にベーターテスターの約半分が死亡している。恐らく他のゲームでトップを張っていた人たちがこの中に入ってるはずだ。この状況でベーターテスターを責めるのはナンセンスだと思うんだが、あんたはどう思う?」
先日、偶々俺はアルゴからこの情報を得ていた。なので偶然にも、感情論ではなく一見的を得た意見で、キバオウの主張に対して反論することができた。しかし、俺の見た目が子供っぽいせいなのか、キバオウは眉間に皺を寄せて俺に反論しようとしてきた。
キバオウ「あぁ?ワ「発言、いいか?」」
キバオウ「!?」
しかし、それは徐に立ち上がった大男によって遮られる。キバオウは彼の大きく発達した筋肉と彫の深い迫力のある顔つきに気圧されたようだ。
「俺の名前はエギル。キバオウさん、金やアイテムはともかく情報はあったはずだぞ。このガイドブック、あんたは貰ったか?」
キバオウ「…もろたで」
エギル「このガイドは行く街ごとに無料配布され、その情報は正確だっただろう。正確かつ迅速に情報を提供できるのは元ベーターテスター以外にはありえないはずだ。いいか?情報はあったんだ。俺が思うに多くのプレイヤーが死んでいった理由はSAOを他のゲームと同じ物差しで測り、退くべきポイントを見誤ったからだ。オレたち自身がそうなるかどうか、それがこの攻略会議に左右される。オレはそう思っているんだがな」
エギルの筋の通った発言に、キバオウは反論することなく、ただ、エギルを睨み付けるばかりであった。
ディアベル「キバオウさんの言うこともわかるけどテスターを排除して攻略が失敗してしまっては意味がないだろう?今は皆が一丸となって攻略に臨もうじゃないか」
さすがはナイトといったところか、上手く場をまとめてくれる。
こうして一日目の会議は進展することなく終わってしまった。
────────────────
キリト「アルファ…ありがとうな。テスターの魔女狩りが始まりそうで言い出せなかった。」
会議が終わった後キリトはすぐさまそう言ってきた。自分の気持ちを代弁してくれた俺に感謝しているらしい。最も、あの状況でテスターを名乗り、発言することは明らかな危険行為だったので、キリトの判断は間違っていなかっただろう。
アルファ「気にすんなって、俺もキリトとアルゴを馬鹿にされた感じでイラついちまっただけだからよ」
「あなた、ただのお調子者じゃなかったのね。少し見直したわ。」
ケープの女の子からの、まさかの高評価にアルファは少し驚かされた。そして、まだ彼女から肝心なことを聞いてないな、と思った俺は、彼女に一つ訊ねる。
アルファ「そういや名前はなんていうんだ?」
「…アスナよ。貴方は?」
アルファ「アルファだ」
彼女は少し間を置いてから、単調な声色で返事を返し、俺に質問返しをしてきたので、俺は今度はリアルネームと間違えないよう気を付けながら、この世界での己の名前を告げた。
各々、今晩の宿屋は確保してあるということなので、俺達はそれぞれ帰路に着くことにしたのだった。
聡明なる読者の方々はもうお気づきかもしれませんが、これからのお話は、プログレッシブ小説版準拠でいこうと思います。
では、また第6話でお会いしましょう!