ギルドホームを購入して早一ヶ月ほどの月日が経過するが、やはり、決まった帰る場所がある、という状況は、人間の心を落ち着かせてくれるらしい。宿屋を転々とする日々からギルドホームで眠りにつく生活に切り替えたことで、ベッドが毎日同じものを使うようになってから、睡眠の質が向上した気がする。
睡眠とは大変重要なもので、夜更かしや一日徹夜なんてしてしまえば、それだけで寿命は大きく減少するし、身体の免疫機構も弱体化するし、脳の記憶力とかも低下するしで、全くいいことは無いらしい。最近ではこのギルドホームに帰らないと、何だか落ち着かないようになってきている気がする。
…と寝起きの俺はそんなことを頭の片隅に考えながら、睡眠は大事なんだから、二度寝も必然的に大切になってくるのだと、尤もらしい言い訳をしてから、再び眠りに着こうとしていた。実は、もうすぐ強制起床アラームが鳴る時間なのだが、目覚ましが鳴る少し前に目覚めてしまったのだ。みんなにはそんな経験はないだろうか。
兎に角、後十分ほど睡眠を取ろうと、意識を暗転させようとした時、唐突に俺の部屋のドアが勢い良く開かれた。このギルドホームに住まう人間は、俺とユウキだけだ。つまり必然的に、これはユウキの仕業ということになる。
…ノックぐらいしてくれよ。寝起きで少々機嫌の悪い俺は、ユウキに注意しようと、顔だけドアの方へ向けて、重い瞼を開いた。
アルファ「…朝はもうちょっと静かに─」
ユウキ「お、お菓子くれなきゃイタズラしちゃうぞ?」
アルファ「」
何だろう。ここはもしかして、自覚のある夢の世界だったりするのだろうか。俺の部屋に突入してきたユウキは、何故か魔女っ娘の格好をしながら、とんがり帽子を被って、ステッキを片手に、妙なポージングを取っている。
ユウキは普段はスカートの丈が長いタイプの装備を付けているのだが、今日は何故かしっかりとミニスカートを履いている。普段とは違ったキュートな装いだ。
ユウキ「…あ、アルファ…?」
アルファ「」
ユウキは、自分の行動に耐えられなくなったのか。見る見るうちに顔を赤く染めていく。…なんだこの可愛い生き物は。一瞬、邪な欲望に支配されかけた俺だったが、寝ぼけた身体と頭のお陰で、正常な判断を下すことに成功する。
アルファ「…おはよう、今日はハロウィンか…」
ユウキ「…お、おはよう」
アルファ「…今日もレベリング、頑張りますか」
ベッドから飛び起きた俺は、固まるユウキを置いて、自室を出ようとする。だが、ユウキが俺の寝間着の裾を掴んで、呼び止める。
ユウキ「…お菓子は?」
アルファ「…えっ…?マジでお菓子所望してんの?」
ユウキ「…」コクッ
ユウキは、無言のまま頷く。
アルファ「そう言われても、お菓子なんて持ってねぇし…」
ユウキ「…じゃあ、イタズラしちゃうよ?」
アルファ「えっ」
一体この状況で、どんなイタズラをされるというのだろうか。これ寧ろ、お菓子あげるより悪戯された方がお得なんじゃね?そんなことを考えながら、ユウキがリビングへ手を招いてくるので、俺はそれに従って、一階へ降り、ユウキに言われた通り、テーブル席に座らせてもらった。
しばらく、手持ち無沙汰にその場で欠伸でもしていると、ユウキがオーブンから何かを取り出した。そのちょっと焦げてそうな物体からは、見た目に反して甘い匂いを漂わせている。
ユウキ「これがボクからのイタズラだよっ!」
ユウキがそう言って、俺の前にそれを置いてくれた。…見た目だけではただの失敗作だと思われたが、その匂いからして恐らく、パンプキンパイだ。
アルファ「おおっ!スゲー!ありがとな!」
ユウキ「でしょ?ユウキ特製パンプキンパイモドキだよ!」
アルファ「…モドキ?」
ユウキ「そっ、えーっと、材料は確か…ビックリ南瓜と真っ黒なバターっぽいやつ、黄色い甘い液体にカッカーの卵…それから、生クリームらしきものと青いマーガリンに色んな白い粉としょっぱい木の実だねぇ~」
アルファ「確かに、かぼちゃパイに似た、新たな何かだな…」
…黒く焦げたように見える原因はバターのせいだったのか。黄色い液体は多分蜂蜜みたいなもんだから大丈夫そうだけど、青いマーガリンってなんだよ。それ絶対マーガリンじゃねぇぞ。しかも色んな白い粉とかいう表現は、色々と間違いを誘うような危ない印象を与えてくれる。多分、薄力粉とかだから問題はないはず…。
まぁ、匂いからして旨そうだし、ユウキも最近料理スキルの熟練度が上がって来てるって言ってたし、ノープロブレムだろう。そう思って、俺はパンプキンパイに手を出そうとした寸前に、その手をピタリと止めた。
アルファ「…待て待て。なぁ、ユウキ、もしかして今回も隠し味とか入れてるんじゃないだろうな…?」
俺が恐る恐る、ユウキにそう訊ねると、ユウキは大変愉快そうに笑いながら、俺の問いに答えてくれる。
ユウキ「入れたに決まってるじゃ~ん!そうじゃなきゃ、イタズラにならないでしょ~?」
アルファ「……マジ、か」
ユウキはこうして時たま、俺に料理を振舞ってくれることがあるのだが、その隠し味のせいで、完成した料理がボロボロに崩れ去ることが多い。味見の段階では、これめっちゃうまくね!?ってなる料理でも、いざ完成すると、激マズになっていたりする。
他方で、その隠し味のお陰で、更に素晴らしい料理が完成することもあるのだが、その可能性は失敗する確率の何分の一なのだろう。普段から、その失敗作を食べさせられている俺としては、隠し味が入ってることを知らせられると、どうしても警戒心が高まってしまう。しかも、ユウキは隠し味が失敗することを知った上で、味の最終確認もせずに、これをやっているのだから尚質が悪い。
だとしても、せっかく作ってくれたものを一口も食べないというわけにもいかない。鬼が出るか蛇が出るか、それとも神が降臨するのか。俺は意を決してパンプキンパイを口に運んだ。
アルファ「……苺?」
口の中で広がったその味は、まるで甘酸っぱい苺そのものだった。濃厚な甘さとそこに弾ける酸味が絶妙な旨味を作り出している。これはホントに美味しい。
ユウキ「どれどれ…。おー!これは苺だねっ!」
アルファ「こりゃ成功だな!」
ユウキ「タイラさんにもお裾分けしよっと」
アルファ「待て、俺の取り分がっ!」
ユウキ「アルファにはまた作ってあげるよ!」
アルファ「マジで!?」
ユウキ「…今度はまた違った隠し味でね」
アルファ「…そりゃねぇぜ…」
残り少なくなってきたパイを、俺とユウキは取り合いながら食べ進めていった。
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タイラ「いやぁ~、わざわざありがとうねぇ~」
ユウキ「いいよいいよ!仮装セット作ってくれたお礼だからっ!」
アルファ「やっぱりタイラだったのか…」
パンプキンパイをペロッとたらい上げた俺達は、タイラにお裾分けのパイ届けるために、朝っぱらからタイラの店にやって来ていた。ユウキのあの魔女っ娘の恰好は、ステッキ以外は全て布装備だったので、これ程のものを作り上げられる腕の持ち主はタイラぐらいしかいないだろうとは思っていたが、やはり俺の予想は的中していたらしい。
タイラはユウキとニコニコ笑いながら、会話をしてから、俺の方を見てこれまたニコニコして、訊ねてくる。
タイラ「アルファ君、どうでしたか?ユウキちゃんの姿は」
アルファ「どうって…」
タイラ「何か感想ぐらいあるでしょう?例えば、可愛かっただとか、綺麗だっただとか」
例えにしては、直接伝える言葉としてはあまりに恥ずかし過ぎるものだろう。俺は少ない頭の引き出しから、何とかユウキに掛けるべき最適な言葉を見つけ出す。
アルファ「……まぁ、似合っていたと思う…」
タイラ「…そうですか。良かったですね~ユウキちゃん」
ユウキ「ふぇ!?ボ、ボクはそういうつもりじゃなくてっ─」
何故だろう。タイラはさっきと変わらずニコニコしているだけなのに、俺の目にはどうしても、タイラの表情が、ニヤニヤというか、ニタニタというか、とにかくニコニコとは違った意味合いの笑顔を見せているように映る。
…これ以上、ユウキを困らせるのはやめなさい。ハァ、とため息をついた俺は、もうこの店には用はないと、店外へ出ようとした。
タイラ「あれ?アルファ君、もう行くんですか?」
アルファ「誰かさんのお遊びに付き合ってられるほど、暇じゃないもんでね」
タイラ「そうですか。それは残念です。…クリスマスには、ミニスカサンタの衣装でもプレゼントしてあげよと思ってたんですけどねぇ~」
アルファ「なにッ!?」
タイラの聞き捨てならない発言に、俺は思わず背を向けていたはずのタイラに、顔を向けていた。一瞬、タイラの口元が歪んだように見えて気がするが、この際そんなことはどうでもいい。
タイラ「アルファ君はそういうのが趣味なんですか…」
アルファ「いや、趣味とかいう訳じゃないけど…」
タイラ「ユウキちゃんがそういう格好をしている姿を見て見たい、と…」
アルファ「…いや、ちが─」
タイラ「どうですか?ユウキちゃん」
俺が反論し終える前に、タイラはユウキに訊ねてしまった。
…別に、ユウキがサンタコスしてるところが見たいわけじゃない。ユウキがサンタコスしているところが見て見たいのだ。だって気になるじゃんか、普段はあんまり女の子っぽい恰好しないユウキが、そういう風な格好をするのは。これは誰だって気になる事項だろう。などと、俺は訳もなく頭の中で意味不明の言い訳を並べている。
ユウキ「……ど、どうだろうね……」
タイラ「…クックック…ま、気長に待ってますよ」
アルファ「じゃ、俺達はレベリングして来るぜ」
タイラ「ええ、充分に気を付けてくださいね」
ユウキ「うん、じゃあ、また来るね!」
こうして俺達は、訪れる毎に気疲れしてしまう、だけど何だか憎めないタイラのお店を発って、本日のレベリングを行いに最前線へと向かった。
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アルファ「なぁ、やっぱりやめとこうぜ?」
ユウキ「どうして?攻略組が最前線でレベリングするのは、普通のことだよ?」
アルファ「…四十二層の方が、効率がいいぞ」
ユウキ「今日は四十三層の方が、効率がいいよ~」
アルファ「…むぅ」
俺は、現在の最前線、四十三層の主街区にて、何とかユウキを言い包める言葉を探してみたものの、嫌に楽しそうな様子の、ユウキのド正論には全く歯が立たず、重い両足を一歩ずつ、フィールドに向けて動かしていた。
今のところ、普段なら、四十二層のとあるフィールドダンジョンに出現する、比較的狩りやすく、経験値も美味いモンスターを相手にすることが、一番効率よくレベリングを行えるエリアとして君臨しており、そこには、攻略組から後続組まで誰もが訪れるような、ある種のスポットとなっている。
しかし本日限りで、その狩場は静まり返っているに違いない。今日だけは、四十三層に出現するモンスターの経験値量が1.5倍になっているのだ。今日の朝から至る所のNPCが、四十三層に生息するモンスター達に霊気が満ちている、などと訳の分からないおとを口走ったらしく、それを確かめに向かったあるプレイヤーがホラー系のモンスターの経験値がいつもの1.5倍になっていることに気が付いたらしい。
四十三層には、レイスやアンデッド、スケルトンなどホラー系のモンスターだけが出現し、そういうのがあまり好きじゃない、というか苦手な俺としては、今すぐ四十二層のフィールドダンジョンに引き返したかったのだが、こんなに美味いイベントを逃すわけにはいくまい、という攻略組の端くれとしての意地が何とか俺を突き動かしていた。
…茅場晶彦は世界観を優先するために、直接メッセージを送るのではなく、NPCを利用したのだろうか。というか、このハロウィンのタイミングでホラー系のフロアとか、絶対仕組んでんだろ。そうして、茅場晶彦に向けて悪態をつくことで、俺は気を紛らわせながら、主街区を出ようとした。
ユウキ「…あれ?…あそこにいるの、アスナじゃない?」
アルファ「…アスナだな。でも今日は例の制服着てないぜ」
ユウキが指差す方角を眺めると、そこには主街区とフィールドの間にそびえ立つ門の前で、何かを考え込むように眉間に皺を寄せながら、俯いているアスナが居た。服装は、白と赤のド派手な血盟騎士団のユニフォームではなく、黒いスカートに白いタイツ、キラリと銀色に輝く胸当てに、その上から真紅のケープを纏っている。
…アスナって赤と白が好きなんだろうか。もしかして、ユニフォームの色合いを決めたのは、アスナだったりするんだろうか。そんなことを考えていると、ユウキがアスナの元へ一目散に駆けて行った。
ユウキ「アスナっ!久しぶりだね!」
アスナ「…えっ…ユウキ!?」
アスナは、ユウキが出没するのは想定外だったらしく、少し驚いて見せていた。
アルファ「久しぶりだな」
アスナ「アルファ君も久しぶりね」
アスナは、攻略会議をしているときや、みんなの前に立っているときには、俺達のことを他人行儀に扱うが、こうして三人だけになると、こうしていつも通り、柔らかい会話してくれる。ユウキはみんなの前でも構わずいつも通り接してほしいとアスナにお願いしているけれども、アスナとしては、公と私は使い分けたいらしい。
ユウキ「アスナもレベリングしに来たの?」
アスナ「う、うん…」
アルファ「ギルドの奴らとは、レベリング一緒にしてないのか」
アスナ「うちはレベルのノルマとかはないから、そういうのは自由にやっていいの」
ユウキ「じゃあ、これからボク達とレベリングしに行こうよ!」
アスナ「え」
ユウキ「…ダメ?」
アスナ「ううん、大丈夫だよ。い、行こっか…」
アルファ「…アスナ、待ち合わせとかじゃなかったのか?」
アスナ「えぇ…」
俺は、珍しく歯切れの悪いアスナの様子と、門の前で佇んでいた様子を勘案して、アスナが誰かと待ち合わせでもしていたんじゃないかと、ユウキが無理に誘ってしまったのではないかと思い、アスナに確認を取ってみたが、どうやらそうではなかったようだ。
…流石にアスナにまで、オバケが苦手なことを悟られるわけにはいかない。俺は気を引き締めて、ユウキとアスナと共にフィールドに出た。
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アスナ「スイッチ!」
ユウキ「ハァッ!」
アスナの初級ソードスキルとは思えないほどの威力と重さを兼ね揃えたリニアーが肩の盛り上がった歪なグールにクリーンヒットする。その攻撃でグールが怯んだところを、ユウキはアスナと入れ替わるようにその場に突撃し、グールの左腕を斬り付けた。グールは突然の動きの変化に着いてこられず、ユウキが次々に繰り出す剣技をその体に浴びる。
グールの体力がゼロになった途端、肩から飛び出てきた謎の芋虫みたいな寄生虫を俺は片手槍でうまく突っつき、撃破した。リザルト画面で確認できる経験値は、確かにいつもより多い。
ユウキ「アルファ、すっごく嫌そうな顔するね…」
アルファ「だって寄生虫とかグールとか、気持ち悪いだろ?」
俺達が訪れているダンジョンは、太古から病の元凶だとされてきた薄気味悪い洞窟だ。出てくるモンスターは、グールにスケルトン、それにレイスと俺があんまり相手にしたくない奴らばかりで溢れている。その上、ダンジョン内には寄生虫みたいなうねうねした害虫が出現し、寄生虫に支配されたグールは普段よりもステータスが強化されていて面倒臭い。
俺はレイスみたいなザ・オバケって感じのホラー系は苦手なのは勿論、ゾンビみたいなのも結構苦手だ。だって、ゾンビに食われたり、追いかけられたりするの、みんなも怖いだろ?あとついでに、病気とか未知のウイルス系の映画とかも見たくはない派の人間でもある。もし自分が感染したら、とか考えてしまうせいで、フィクションとして楽しめないのだ。
…兎に角、今のところは、アスナの前で情けない姿は見せていないので、俺が幽霊嫌いだと悟られてはいないはず…。
アスナ「アルファ君、片手槍なんて使えたんだ」
アルファ「まあな、お陰で、安定したパーティーになってるだろ?」
アスナ「それもそうね。後衛が居るだけで、パーティーは安定して闘えるし」
今回のパーティーでは、アスナ、ユウキがそれぞれ前衛を担当し、一応長物を扱える俺が後衛を担当している。俺は後衛職をこなすのは初めてだが、何というか、両手剣を使って闘っているときよりも、周りの様子が見れて動きやすいというメリットがある一方で、モンスターと剣を交える機会が少なくなり、少々退屈気味になってしまうというデメリットもあった。
…一体いつから俺は、こんな戦闘狂になってしまったのだろう。俺がアスナと話していると、不意に、ユウキが俺の後ろ辺りを指さして、声を掛けてきた。
ユウキ「アルファ。後ろ居るよ」
アルファ「なぁんッ!」
ユウキにそう言われて、確かに何だか背中がゾクリとした感覚に陥り、完全に背後にレイスが居ると感じた俺は、頓狂な声を上げながら、勢い良くその場を離れる。だが、背後には何もおらず、すぐにユウキに嵌められたことが理解できた。
アルファ「ユウキぃ…ッ!」
俺はユウキに対して、怒りをあらわにするが、ふと、アスナの方へ視線をやると、今度は本当に赤い血濡れのレイスが佇んでいる。
アルファ「アスナっ!後ろ!」
アスナ「私はそんなのには引っ掛からない──」
俺が必死に訴えるも、アスナはまるで俺のことを相手にせず、ケラケラ笑いながら、後ろを振り向いた。アスナは、レイスを見ると一瞬、カチンと固まり、やがて
アスナ「いやぁぁぁ──ッ!」
絶叫を上げた。
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アスナ「二人共、本当にごめんね?」
ユウキ「ボクこそごめんね。アスナがオバケ苦手だって知らなくて…」
アルファ「アスナ、お前の気持ちはよーく分かる…オバケ、怖いよな」
アスナの絶叫によって、周囲のモンスターが引き寄せられてきたこともあり、俺達は大量のモンスターとの戦闘を強いられた。
最初の方はレイスの突発的な出現のせいで、アスナが戦意喪失しており、俺とユウキで力戦奮闘していたのだが、次第に状況を飲み込めたアスナが、戦線に復帰してくれたおかげで、なんとかモンスター達を倒し切れた。少々危ない場面ではあったものの、モンスターを一網打尽出来たおかげで、大量の経験値を稼ぐことが出来た。
一石一鳥ぐらいの価値はあるはずだ。
ユウキ「それにしても、オバケ苦手だったり、お風呂が好きだったり、アスナとアルファって似てるよね」
アルファ「あー…確かに」
ユウキが思いついたようにそう言ったことで、俺もその事実に気が付かされた。もしかして、アスナとは遠い親戚だったりするのだろうか。遺伝子が似てるとか?俺がそんなことを考えていると、アスナが思わぬ発言をする。
アスナ「そうね…いっそ、アルファ君とコンビ結成しよっかな?」
アルファ「え?」
アスナ「意外と、息ぴったりかもしれないでしょ?」
アスナが冗談っぽく、そう問い掛けてくるが、俺はなんと返せばいいのか分からなくて、暫く返答に困ってしまった。その隙にユウキが身体ごと、俺の前に立って、両手を広げてアスナに立ちはだかる。
ユウキ「ダメっ!アルファはボクのものだよ!」
アスナ「…ふぅん、ユウキって、独占欲強いんだね~」
アスナが、まるで得物を見つけたライオンのように、その目をギラリと輝かせて、ユウキを煽り始めた。
ユウキ「えっ!?いや、そういうことじゃなくて─」
ユウキは、慌ててアスナに弁解しようとしてるが、その前に、一言だけ言わせてもらいたい。
アルファ「…もの扱い、やめてくださいよ…」
だが、俺のそんな呟きは彼女たちには届かず、俺はしばらく置いてけぼりの気分を味合わされた。
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ユウキ「いやー、中々イイ感じの経験値稼ぎになったね~」
アスナ「うん、これならもうすぐレベルも上がりそう!」
俺達は、そろそろ日も暮れそうな時間帯になっていることに気が付き、洞窟ダンジョンから脱出しようと、入り口に向かっていた。
出現するモンスターを倒しながら、曲がりくねり、薄暗い洞窟を潜り抜け、後出口まで百メートルぐらいか、といった所になって、直ぐ近くから、剣を振るう音が聞こえてきた。剣戟の響く音からして、これはソロプレイヤーか。俺達は静かに、洞穴を左に曲がりながら、その身を隠すようにして、そのプレイヤーの様子を伺った。
アスナ「…キリト君…」
洞窟の暗がりよりも、更にいっそう深い黒色のコートに身を包んだプレイヤーの正体は、俺とユウキの友であり、アスナの元コンビでもあるキリトだった。キリトは圧倒的な剣捌きで、迫りくるスケルトン兵を蹂躙していた。
キリトの完全なる死角から、一体のグールが襲い掛かろうとしている様子を見て、キリトを助けようと、俺達は一気に飛び出す。だが、キリトはまるでお前たちの力など借りなくても、俺は問題ないのだと、そう示すかのように、死角から襲い掛かってきたグールを一刀両断してしまった。
キリト「…アルファか…」
アルファ「キリト、久しぶりだな」
キリト「それにユウキに…アスナ…」
アスナ「…」
アルファ「旅は道連れ世は情け、ってことで今日はアスナと暫定パーティーを組んでんだ。どうだ?良かったらキリトも─」
キリト「俺は一人でいい。お前たちはもう帰れよ」
俺がキリトにそう言い終える前に、キリトは強くそう言い張った。その刺々しい物言いからして、俺はキリトの地雷を踏んでしまったのかもしれない。これ以上は何を言っても仕方がないと思った俺は、もう目の前の出口を目指そうとしたのだが、そこでアスナが口を開いた。
アスナ「何よその言い方。アルファ君は貴方を心配してっ!」
キリト「…俺は一人でいいんだ」
アスナが、キリトに怒気を織り交ぜながらそう言うと、キリトはそう言い残してから、洞窟の奥へと進んでいった。その場に取り残された俺達は、取り敢えず洞窟の外に出ることにした。そして、主街区に向かって歩いている途中に、キリトが去ってから無言を貫いていたアスナが、とうとう口を開いた。
アスナ「…何なのあの人、人が折角心配しているのに、あんな無碍な態度取って…」
ユウキ「…まぁ人間は誰しも、ああなっちゃう時もあるんだよ」
アスナ「…私、決めた」
アスナ「…私はあんな人に、負けない。あんなマナーの悪い人には絶対に負けない!」
アスナが、その両目に燃え盛る炎を宿して、キリトに対抗心を抱いていた。…もしかしたら、どれだけアスナが素晴らしい指揮を取ろうとも、日頃からLAを搔っ攫っていくキリトに対して、アスナにも思うところがあったのかもしれない。アスナが主街区一歩手前の所で、俺とユウキを見ながら、地獄みたいなことを言ってきた。
アスナ「ユウキ、アルファ君、ご飯食べたら、レベリング夜の部再開よ!」
ユウキ「うんうん!頑張ってこー!」
アルファ「…ま、マジで?」
ユウキは乗り気のようだが、俺は全く持ってそんなことはしたくはない。アスナは笑顔で返事を返してくれる。
アスナ「当たり前よ。取り敢えず、経験値倍率が掛かる今日の12時までは狩りを続けるつもりよ」
アルファ「噓だ…俺の安眠ライフが…」
ユウキ「一日ぐらい大丈夫だよ!ここは仮想世界だよっ?」
…これが攻略の鬼、か…。俺は改めて、アスナの二つ名の恐ろしさを実感しながら、三人で腹ごしらえに向かった。
キリトとアスナの隔絶が広がってゆく…。後で何とかします。
では、また第51話でお会いしましょう!