~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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 やっぱり遅れました。めんご。


第51話 陽の神 月の神

 ユウキ「やっほー、アルゴ!」

 

 アルゴ「おっ、ユーちゃんにアー坊!待ってたヨ」

 

 アルファ「んでまた、今日はどういったご用件なんですか?」

 

 アルゴ「アー坊は気が早いねェ~」

 

 アルゴは俺に安っぽい憎まれ口を叩きながらも、光のごとくの速さで、その辺の屋台でお魚フライを購入してきた。ユウキがアルゴの持つその美味しそうなフライを見て、同じように、こちらは突風の速さぐらいのスピードでお魚フライを購入していた。

 …やはり、スピードでアルゴに敵うプレイヤーは居ないのだろう。そんなこと思いながら、俺もそよ風ぐらいの速さで屋台に向かい、お魚フライを購入する。三人で仲良くお魚フライを頬張ってから、一息ついてアルゴが話し始めた。

 

 アルゴ「ちょっと手伝ってほしいことがあってナ」

 

 アルファ「…面倒事じゃねぇだろうな」

 

 アルゴ「それは人によりけりだと思うヨ」

 

 アルファ「…だるいんだな。理解した」

 

 アルゴに連れられて俺達が訪れた街は、第四十四層の主街区〈メッキ〉だ。メッキは整然と整えられた街並みに至る所に教会が立ち並ぶ、宗教色の強いという点が特徴的である。

 この層での記憶は、フロアボスの弱点に関する情報を得るために、街中を奔走させられたことぐらいしか残っていない。あとは、この街では確か、何とかっていう神様を崇める者達が集って出来たとかで、人族だけでなくドワーフやエルフなど、様々な種族の者たちが居住しており、伝説の聖杯とやらを求めて、日々町周辺のフィールドを探索しているとかいう設定ぐらいだろうか。

 アルゴがスイスイと、何処かへ向かって行くのを見失わないように、俺とユウキは着いて行きながら、街の奥地に辿り着いた。そこには木造建築のオンボロ民家が一軒、ポツンと点在しており、この街の建物がレンガ造りであることを鑑みると、ある意味異質とも言えるエリアだ。

 

 アルゴ「ここで受けられるクエスト、オレっちが唯一クリアできてないんだヨ」

 

 ユウキ「へぇー、どんなクエスト?」

 

 アルゴ「それが分からないんダ。ここに住む爺さんからクエストが受けられるのは分かってるんだケド、肝心のフラグの立て方が全く分からないんダ」

 

 アルファ「なので俺達を使って、そのフラグの立て方を探ろう、と」

 

 アルゴ「そういうことだナ」

 

 これは骨が折れそうだ。そんな予感を感じた俺は、アルゴに続いてその民家へと入って行った。いざ家の中に入ってまず初めに思ったことは、古臭すぎる、という後ろ向きの印象だ。例えば、日本風の建築物が立ち並ぶ、第十層の家々は、内装は古い物でも明治初期ぐらいの印象を与えるものなのだが、ここはそれよりももっと古い、鎌倉時代ぐらいの一般的な民家、といった感じだった。座敷の上で正座する老人は、アルゴの言う通り頭の上にクエストマークを浮かべている。

 

 「…おおっ!お二方は預言の剣士様でしょうか!?」

 

 アルファ「?」

 

 さて、これからどうやってクエストを貰おうか、ヒントが無さ過ぎて辛いな。などと思っていると、突然、爺さんが目を見開いてそう発言する。どういう訳かクエストのフラグは立ったようだ。

 

 ユウキ「クエスト、受けられそうだね」

 

 アルゴ「どういう条件なんダ…?」

 

 アルファ「爺さんと、話を進めてもいいか?」

 

 アルゴ「イイヨ」

 

 アルファ「…そうだ。俺のやるべきことは何なんだ?」

 

 この手のクエストを進める際には、相手方の想定するキャラクター像を演じることが必要になってくる。俺が預言の剣士であると、爺さんに伝えると、爺さんはこれまた大層なオーバーリアクションで頭を地面に擦り付けてきた。

 

 「おおっ!ありがたやありがたや…」

 

 「ぜひ、こちらへ来てくだされ」

 

 爺さんが立ち上がり、土壁に隠されていた謎のレバーを引くと、ゴゴゴゴゴッと音を立てながら、居間の中心に地下へと続く階段が出現した。まるで秘密基地感満載のギミックに、俺は若干興奮している。…こういうのってプレイヤーハウスとかでも出来たりしないんだろうか。

 今度は爺さんの後について、俺とユウキとアルゴは地下へと進んでいく。暫く、右左に蠟燭が立ち並ぶ空間を進み続けると、奥に苔むした祭壇らしき何かが見えてきた。それぞれ右と左に別々の何か、恐らく信仰しているであろう神様が祀られている。

 

 「ささっ、こちらへどうぞ!」

 

 爺さんは機敏な動きで俺とユウキを魔方陣のようなミステリーサークルの上に立たせた。先ほど爺さんが発言していたお二方、というのは俺とユウキのことだったらしい。アルゴは爺さんに少し離れたところで待機させられていた。爺さんが、ブツブツと呪文のような文言を唱える。

 

 「では、どうかよろしくお願いします…」

 

 爺さんが呪文を唱え終え、俺とユウキの顔を交互に見ながら、そう言った途端に、魔方陣を中心として青く柔らかい光、転移特有の輝きが辺りを包み始める。アルゴがハッと何かに気が付いたように俺達に手を伸ばすが、間に合わない。

 

 ユウキ「なにっ!?」

 

 アルファ「おいっ!どういうこと─」

 

 そうして俺達は、祭壇から何処かへとテレポートした。

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 ユウキ「痛たたたた…」

 

 アルファ「…」

 

 スマートに層と層を移動する転移門を利用した、いつものテレポートとは違って、グニャグニャと身体を捻じ曲げられ、グルグルと洗濯機の中でかき混ぜられたような、雑多な転移によって何処かへ送り込まれた。

 しかも、転移先の座標が少しズレていたのか俺達が転移した先は、地面とは1メートルほど離れたところで、俺もユウキも着地に失敗して、尻餅をついてしまった。俺はまるで乗り物酔いをしたような、胸がむかむかして、息が止まりそうな感覚に苛まれながら、辺りの様子を確認する。

 

 アルファ「…なんだ、ここ」

 

 ユウキ「綺麗だね…」

 

 俺達の立つ場所はだだっ広い草原だった。地面からはシャボン玉のような半透明の白い光が漏れ出しており、それは天へと向かって飛んでいく。空は赤とオレンジが重なり合った黄昏時だ。その風景は、ユウキの言う通り美しい以外に表すことのできない幻想郷であったが、一つだけ、おかしな点が見受けられた。それは、俺に向かって左には太陽が、右には月が顔を出しており、太陽のように輝く星が二つ、空に存在することだった。

 

 アルファ「…空?」

 

 俺はそう、一人で何気なく呟いて、ある違和感の正体に気が付いた。

 

 アルファ「…ユウキ、ここ多分、アインクラッドじゃねえぞ」

 

 ユウキ「…え?」

 

 アルファ「アインクラッドって、上を見たら、次の層があっただろ?でもここは…」

 

 ユウキ「…あ…空が続いてる…」

 

 アルファ「…転移結晶で街に戻るぞ!…」

 

 俺は、ユウキの声を掛けてから、転移結晶でメッキへとテレポートしようとしたが、ここでは転移結晶は使用できません、とシステムからのメッセージが届いた。続いてアルゴにメッセージを送ろうとしたが、またしてもここでは無理だと、システムに弾かれる。

 なんとなく、そんな気はしていたが、ならば一体どうすればいいというのか。恐らくこの草原地帯もフィールドなりダンジョンなりであるだろうに、モンスターが一体も出現しないことだけは、唯一有り難いことだった。火山に落っこちたり、離島に遭難したり、そして今度はアインクラッドではないであろう何処かに飛ばされたり、とSAOプレイヤーの中でもトップクラスに災難に見舞われている気がする。

 これまでの経験から、焦ってもどうしようもないことを悟っていた俺とユウキは、暫くその美しい情景を眺めていた。

 

 ユウキ「取り敢えず、何処に行こっか」

 

 アルファ「太陽と月の真ん中」

 

 ユウキ「りょーかい」

 

 俺は神秘的な景色に見惚れながらも、見るべきところはしっかりと見ていた。それは、どれだけ時間が経っても、太陽も月も微動だにしない、ということである。それはつまり、この世界では太陽と月は北極星のように一定の方角を示す指針となるということだ。

 俺の提案に従ってくれたユウキと共に、その方角へ進んでいくこと数分、少し離れた前方に神殿らしき構造物が見えてきた。恐る恐る、神殿へ近づいていくと、神殿の内部へと続く扉は、赤く錆びた鎖によって固く閉ざされており、神殿の前に造られた噴水の前には、巫女さんのような恰好をした女性NPCが静かに祈りを捧げていた。俺達の足音に気が付いたのか、巫女さんは顔をこちらに向けて、綺麗に頭を下げる。

 

 「お待ちしておりました」

 

 アルファ「あ、はい」

 

 どうやら、こっちの道を選んで正解だったらしい。俺は答えてくれるかは分からないが、巫女さんに気になっていることを訊ねた。

 

 アルファ「…なぁ、ここは一体どこなんだ?どうやったら元の場所に帰れるんだ?」

 

 「…そうですね、まずは順を追って話していきましょう」

 

 「まず、ここは、かつて大地切断が起きる前の世界で、世界の中心地として機能していた神聖なる場所なのです」

 

 ユウキ「…大地切断…」

 

 確か、大地切断が起きたせいで、浮遊城アインクラッドが形成され、それに巻き込まれた様々な種族達から魔法が失われた、というのが俺達が囚われているSAO創世のお話だったはずだ。しかし、大地切断が起きる前のことなんて考えたこともなかったな。

 …もし大地切断が起きてなかったら、魔法使いとかいうスキルも有り得たんだろうか。

 

 「そして、この神殿では、生きとし生ける者達から慕われていた陽の神と月の神がおられました。陽の神と月の神は神々の頂点に立つ偉大なる存在だったのです」

 

 「しかし、大地切断が起きたあの日、世界はバラバラに崩壊しました。それはつまり、この地も例外ではありませんでした」

 

 「多くの民は、浮遊城アインクラッドに囚われ、そこでの生活を余儀なくされました。そして新たな居住地に君臨した、偽りの陽の神と月の神を信仰し始めたのです」

 

 「もちろん、初めの内は、それは間違いだと、真の陽の神と月の神を信仰している者もおりました。しかし年月が経つにつれて、次第に人々の心からは、真の陽の神と月の神の存在が忘れ去られていったのです」

 

 「そしてついに、真の陽の神と月の神を慕うものが居なくなったあの日から、陽の神と月の神はご乱心なさったのです。何故、我らを崇めぬのか、何故、我らを忘れるのか、と…」

 

 巫女さんが心苦しそうにそこで言葉を止めたタイミングで、ユウキがコソコソっと俺の耳元で囁く。

 

 ユウキ「…ごめん、どういうこと?」

 

 アルファ「…俺も詳しくは分からんが、多分、土着の神が外来の神に侵略されたお話をモデルにしてるんだと思う」

 

 それが良いことなのか悪い事なのかは分からないが、外国だろうと日本だろうと、この手の土着神が異端であると見なされ、後から来た神が土着信仰を排斥してしまうことは珍しくない。バールの神話や国譲りがその例になってくるだろう。

 だが、俺個人としては、お互いに共存していけばいいと思うのだが、そう上手くはいかないものなのかもしれない。

 

 ユウキ「…ここにいた陽の神様と月の神様が、元々の神様ってこと?」

 

 アルファ「あぁ」

 

 「どうか、陽の神と月の神を鎮めてはもらえませんか?…恐らく、あなた方がここから元の場所へ戻るためには、彼らを鎮め、この空間に溢れる力を落ち着かせなければなりません」

 

 ユウキ「そういうことなら、やるしかないよね?」

 

 アルファ「やっぱり面倒ごとだったなぁ…ま、やるしかないんだけどな」

 

 「ありがとうございます!どうか、お願い致します…」

 

 「では、今から神殿の封印を解かせていただきます」

 

 巫女さんがそう言って、呪文を唱えると、鎖が粉々に砕け散った。…そんな力があるなら、アンタが何とかできたりしないのかな?と、くだらないことを考えながら、俺とユウキは神殿の内部に侵入した。怒り狂った、と巫女さんからは聞いていたが、神殿の内部では生活感は感じられず、嫌に綺麗な状態に保たれている。

 何度か扉を開きながら、奥へ奥へと進んでいくと、一際大きな、太陽と月の描かれた鉄扉に直面した。恐らく、この先に陽の神と月の神がいるのだろう。俺とユウキは息を吞んで慎重に、扉を開いた。

 

 ユウキ「…誰もいないね」

 

 アルファ「気は抜くなよ」

 

 俺達が足を踏み入れた先は、また神殿の内部のある種の緊張感高まる空間とは違った、青い空に星々が輝いているという、何とも不思議な空間だった。上も右も左も下も、どこもかしこも空であり地面である。…平衡感覚が失われそうだ。

 しばらく空間を進み続けると、前方で二つの何かが一際大きく輝いた。輝きは次第に弱まっていったが、それでも身体には光のオーラを纏っている。

 

 「…何故ここに来た」

 

 アルファ「…元居た世界に帰るためだ」

 

 「我らはそれほど器量の狭い存在ではない。どれ、どの世界か言ってみろ、我らがそこへ戻してやる」

 

 身長が2.5メートル程の人間よりも大きな体格でありながら、見た目は人そっくりの陽の神と月の神であろう男と女が俺達の前に立っている。男の方が俺に、元の世界に戻してやる、と言ったとき、有り得ない話だが、俺は、現実世界に戻れないか?と反射的に訊ねようとしていた。だが、俺がそれを言葉にする前に、ユウキが男に話す。

 

 ユウキ「えーっと、アインクラッドの世界です」

 

 ユウキの発言を聞いた二人は、途端に顔を酷く歪ませ、憎悪の煮えたぎった声で俺達に問い掛ける。

 

 「貴様ら…我らを見捨てた者達なのか…」

 

 アルファ「いや、俺達は─」

 

 「問答無用ッ!ここで消し炭にしてくれるッ!」

 

 アルファ「んなッ!」

 

 陽の神と月の神が敵対した。それを表すように、彼らの頭上には二本ずつHPバーが出現する。HPバー二本と言えば、ダンジョンボスと同じぐらいで、比較的簡単そうに感じるかもしれない。だが、今回はそれが二人分、しかもこちらも二人しかいない。故に、一対一の勝負になる。

 俺とユウキも、この絶望的状況に覚悟を決め、どっしりと剣を構えた。…先に仕掛けてきたのは月の神、俺に構うことなく、ユウキに向かって突撃していった。月の神が片手剣でユウキに斬りかかり、それを受け止めたユウキが衝撃で後方に吹っ飛ぶ。

 

 「よそ見している暇はあるのか?」

 

 アルファ「チッ!」

 

 陽の神もいつの間にか俺の目の前にまで迫り来ており、得物の両手剣を振り上げていた。両手剣、と言っても、2.5メートルの巨体に合わせたサイズであるため、俺が持つ両手剣よりも数倍大きいサイズだ。受けきることは出来ないと判断した俺は、即座に右へと回避し、陽の神の攻撃を躱しながら右脚を斬り付ける。僅かながら体力を削ることに成功した。

 陽の神は、俺が斬り付けた右脚をそのまま蹴り上げてくる。何とかそれを躱した俺は、再び両手剣で攻撃を仕掛けるが、陽の神はそれよりも前に、俺に両手剣を振り下ろしている。剣と剣がぶつかり合ったとき、何か衝撃波のようなものが俺に飛んできて、後方へ吹き飛ばされるのと同時に、体力を二割ほど持っていかれた。

 …剣を受け止めるのは悪手か。そう判断した俺は、すぐさま両手剣を片手剣に持ち替えて、向かってくる陽の神の追撃に備えた。

 

 「われにもそれぐらい出来るぞ」

 

 アルファ「?」

 

 こちらへ向かいながら陽の神がそんなことを言うと、奴の持つ両手剣が輝きを放ち始めた。…さっきの衝撃波が来る。そう確信した俺は、初動を見てから回避しようと剣の出始めを見極めようとしていたが、それは大間違いだった。両手剣が形を変え、両手槍へと生まれ変わったのだ。勿論リーチも陽の神仕様で、その場から突き出してきても、充分俺の身に届く。

 素早く突き出された太い切っ先を、俺は陽の神に接近しながら回避した。やがて俺が距離を詰め終えると、陽の神の武器は今度は片手剣に変化している。衝撃波のことを考慮すると、受け止めるわけにはいかないので、俺は奴の剣を必死に回避しながら、合間合間に剣を当てて続けた。しかし、それを続けていると陽の神が体中から謎の衝撃波を発し、俺はその範囲攻撃に吞まれて吹き飛ばされる。HPが減ったタイミングで、ポーションを飲もうにも、陽の神はその隙を与えてくれない。貴重な回復結晶を使って、ヒーリングを間に合わせていくが、これもいつまで持つことやら。

 陽の神は高度なアルゴリズムを搭載しているのか、同じ行動パターンを繰り返すことがなく、また逆に同じ行動パターンばかり取っていると、動きを読まれてしまう。そんなこんなでフェイントを掛けたり、武器を変えたりしながら、緩急付けて、まるでユウキとデュエルをしている時のような動きを取りながら陽の神との戦闘を続けた。こちらに集中するので精一杯で、ユウキの様子を確認することは出来ていないが、HPをしっかりと確保していることだけはパーティー表示から読み取れた。

 最近ようやく手に入れられたカタナスキルを使って、陽の神のHPバーをラスト一本の所まで追い詰める。

 

 「…なるほど、太陽たる素質は持ち合わせているのか…」

 

 アルファ「はぁ?」

 

 ラスト一本だというのに、陽の神はまるで何の問題もないような落ち着いた振る舞いを見せてくれる。陽の神は先程から、戦闘中に俺に対して何度も意味の分からないことを問い掛けてきている。男の中心は女だとか、女の中心は男だとか、だから俺は、性的マイノリティの話なのかと思い、そう訊ね返すと、陽の神は、それとはまた違う、これは万人の持つ特性だとか言ったのだ。

 神様の言うこと考えることはよくわからない。でも、だからといって考えることを辞めるわけにもいかない。このどれぐらい時間が経っているのか分からない戦闘の中で、俺はなんだか少し賢くなったような気がしていた。その時、不意に陽の神が声を荒げる。

 

 「…だがッ!まるで足りんッ!!」

 

 アルファ「ッ!」

 

 一瞬、陽の神の姿がズレたかと思うと、次の瞬間には俺の後ろにその気配を感じた。頭上に剣の風圧を感じた俺は、すぐさまその場から離れるが、剣が俺の身体を掠め、ダメージを喰らった。

 …今までは全力じゃなかったのか!?

 

 「太陽とは、万人から崇められる存在ッ!万人のために輝く存在ッ!」

 

 アルファ「…クソッ!」

 

 俺も負けじと陽の神に食らい付き、剣を避けたりいなしたりしながら、着実に陽の神へ反撃を加えていくが、俺の体力が減るスピードに比べて、陽の神の体力の減るスピードは緩やかだ。次から次に繰り出される剣戟に、俺は次第について行けなくなる。あと二撃三撃喰らったら不味い、そんな段階で、俺は最後まで取っておいた奇策を自身の体力回復の為に使わされた。

 わざと剣と剣をぶつかり合わせて、衝撃波を喰らい、俺はその勢いで後方へ移動する。即座に投げピックを数本投擲し、陽の神がこちらに来るまでの時間稼ぎをしたつもりだった。だが、陽の神は宙に剣を振り、そこから生まれた衝撃波で俺を攻撃してくる。俺はそれを避けながら、最後の回復結晶を使用した。

 俺の体力は全開で、陽の神の体力はあと半分だというのに、その半分が途方もなく遠きものに感じる。…破れかぶれに剣戟を繰り広げれば、ギリギリ生きるか死ぬかといった所だろう。最初から全力で戦っていた俺は、覚醒術なんて当の昔から使っている。妙策も使い切った。この時、俺にはもう切れる手札が一つもなかった。

 しかしその瞬間に、視界の左側から、淡い光を纏った衝撃波を飛ばす、無限の可能性を秘めた手札が舞い降りてきたのだ。

 

 ユウキ「ごめん!遅れた!」

 

 アルファ「ユウキ!?月の神は!?」

 

 ユウキ「さっき倒したよ」

 

 「なッ…月の神が!?…いやしかし、その月波は…」

 

 陽の神が驚きを孕んだ声を上げるが、驚きたいのは俺の方だ。俺が陽の神を倒し切る前にユウキが月の神を倒してしまう可能性はユウキの実力を考慮すれば大いに有り得る話ではあったが、どうして、ユウキが陽の神が使うような衝撃波を纏った剣を振るえるのだろう。

 武器はいつもの少し青みがかった黒の片手剣だ。だが、その剣身には、半透明のオーラが纏わりついている。

 

 アルファ「その衝撃波は…?」

 

 ユウキ「月の神を倒したら、〈月光〉っていうスキルが手に入ったんだ。これはその一部だと思う。…兎に角、やるよっ!」

 

 アルファ「そうだな!」

 

 そこからはユウキの独壇場だった。ユウキが圧倒的な剣速で陽の神を上回り、俺がその隙を突いて、陽の神に攻撃を決めて行った。体力をドンドンとこれまでの二倍以上の速さで減らしていった陽の神は、死に際に、我は認めんぞッ…、という謎の言葉を残して消えて行った。そのせいなのか、俺には陽の神からスキルが貰えることは無かった。

 その代わりに、陽の神からは〈太陽の戎具〉という半透明の橙色をした武器が入手できた。太陽の戎具は両手剣や片手剣、細剣などのどの武器のカテゴリにも属していないという見たこともない武器だ。性能は、使用者の任意に応じてその形を変える、というもので、具体的には所有者の持つ武器スキルに応じて、と言うことらしい。性能も顎が外れるほどのぶち壊れステータスで、なんと使用者の力に合わせて、能力を高める、という成長機能も付いていた。武器の姿を変えられる、と言う性能は、四つの武器を使う俺にピッタリの代物だ。

 

 ユウキ「武器いいなぁ~」

 

 アルファ「スキルの方が絶対レアだろ。俺もスキルが良かった…」

 

 ユウキ「…ないものねだりだね」

 

 アルファ「そういや、ずっとバフついてんだけど、これも月光スキルなのか?」

 

 バフの名前は月の守護、内容は攻撃力と防御力上昇、武器防御率とクリティカル率アップに、バトルフィーリングの強化、クーリングタイムの減少と体力に少々の倍率…とこちらもあり得ないほどのぶっ壊れのバフだ。

 

 ユウキ「…!え、えっと、そ、そうだよ」

 

 アルファ「これ、何人に掛かるんだ?」

 

 ユウキ「……アルファだけ…」

 

 アルファ「あー、コンビ専用とかそういう奴か…」

 

 ユウキ「う、うん…」

 

 クエストとかでも偶に、コンビ限定だったり、四人限定、ソロ限定と人数制限が課されているものもある。今回のクエストも、俺とユウキだけがここに送り込まれたわけだから、手に入るスキルも二人にしか掛からないバフなのだろう。…というか、これだけのバフが全員に掛かったりしたら、今後の攻略がヌルゲー化しそうだ。

 

 ユウキ「そろそろ、巫女さんの所戻ろうよ」

 

 アルファ「そうだな」

 

 俺達は、主のいなくなった空間を後にして、神殿の外へと出た。すると頭上に広がる大空には、太陽と月の姿が消えていた。しかし、空の色は変わらずきれいなオレンジ色だ。巫女さんに事の顛末を説明すると、巫女さんは、ありがとうございました、と深々と頭を下げて、礼を言ってくる。

 

 アルファ「それで、俺達は、元の場所に戻れるのか?」

 

 「はい、こちらから帰還できます」

 

 巫女さんが呪文で噴水の水をせき止めると、底にはここに来るのに使った魔方陣とそっくりのサークルが描かれていた。俺とユウキがそこへ入ると、巫女さんはスラスラと呪文を唱える。巫女さんの呪文と共に、足元の魔方陣がゆっくりと動き出す。やがて、巫女さんが呪文を唱え終えると、魔法陣がカッ、と輝いた。

 

 「貴方方の旅路が弥栄えんことを─」

 

 そうして俺達は、ここに来た時と同じように、柔らかい転移の光に包まれた。

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 アルファ「ふぅ…」

 

 ユウキ「よっと」

 

 帰りの転移も、座標が地面から少し離れていたが、俺達は今度は尻餅をついたりすることなく、綺麗に地面に着地した。

 

 アルゴ「無事だったカ!?」

 

 アルファ「何とか、な」

 

 珍しくアルゴが取り乱したように俺とユウキの心配をしてくれる。俺達を送り込んだ元凶である爺さんは、感無量と言った様子で、涙ぐんでいた。

 

 「ありがとうございます!これで陽の神と月の神は、安らかに鎮まることでしょう…。これでワシの役目も、終わりじゃの…」

 

 アルファ「!」ビクッ

 

 爺さんが満足気にそう言うと、次第に爺さんの身体が透けて、そのまま消えて行った。なるほど、この世に未練が残っていた魂、みたいな扱いだったのだろう。クエスト達成のお知らせが届く。

 

 ユウキ「アハハッ!アルファビビってる~」

 

 アルファ「…アルゴ、クエスト達成出来たぞ」

 

 アルゴ「これはコンビ専用クエだった、ってことカ。どんなものが手に入ったんダ?」

 

 ユウキ「え~っとね──」

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 「……馬鹿な……」

 

 ある部屋の一室で、一人の男は頭を抱えながら、頻りに左手でメニューウインドを叩いて、あり得べからざる事態に大きく困惑していた。

 

 「何故だ…全プレイヤーの中で最も反応速度の高いプレイヤーは、No7205のはずだ…」

 

 男はその事実を受け入れられず、何度も同じ画面を行き来する。しかし、プレイヤーNo7205は既に優先度2のエクストラスキルを所持していた。

 

 「No7205が二刀流スキルを取得するはずなのではないのか…月光スキルとは一体なんだ…」

 

 男は、この世界の最終ボスとして君臨する魔王に対抗する為の手段として、10のエクストラスキルを用意していた。その十個のエクストラスキルは他のエクストラスキルとは違い、唯一人しか獲得できない設計を施していた。故に、と同じ優先度のエクストラスキルを保持したプレイヤーは、その十個のエクストラスキルのいずれも習得不可となってしまう。

 男は、この世界で最も反応速度の高いプレイヤーには二刀流スキルを授けるつもりでいた。それがNo7205なのだ。しかし、イレギュラーが発生した。本日いきなり、優先度2のエクストラスキルが二つ誕生したのだ。そのうちの一つが月光スキルだ。そして不幸にも、二刀流スキルを得るはずだったプレイヤーに月光スキルが習得されてしまった。こうして、男の計画には一つ、歪が生じてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ということで、ユウキは無事にユニークスキルを獲得しました。
 …え?アルファ?
 筆者「主人公にはユニークスキルなんぞやらん」(鬼畜)
 まぁ、代わりに魔剣クラスの武器プレゼントしてあげたので、それで我慢してください。

 では、また第52話でお会いしましょう!
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