「すいません。武器の研磨お願いします」
「分かりました。料金は─」
陽が沈みゆく夕刻、この時間になると、あるプレイヤーは夕食の為に、あるプレイヤーは宿屋に帰る為に、と多くのプレイヤー達がフィールドから主街区へ帰ってくる。そのせいでこの時間帯はあたしの露店も大繁盛となるのだ。事忙しく、次から次へとあたしの露店を訪れてくるプレイヤー達を捌くのには、もう何時頃からか慣れてしまった。
このデスゲームが始まったあの日、あたしは一日だけ宿屋に引き籠ったものの、翌日には、なにくそっ!と立ち上がった。だが、フィールドへ出たはいいものの、最弱モンスターフレンジーボアを一体倒したところで、この先第百層までの間ずっと、この命を賭けた戦闘を繰り返していては、あたしでは命がいくらあっても足りないことに気が付かされた。それから一カ月ほど、どうすればあたしはこのデスゲームをクリアしようと尽力する人達の力になれるのか、それを考えながら、安全な狩りを繰り返しては、日々の宿代と食事代を稼ぐ生活を繰り返し続けた。
そしてある日、いつものようにポーションの補給のために道具屋を訪れた時、アルゴの攻略本というものを目にしたのだ。あたしはそれが無料であったこともあり、徐にアルゴの攻略本を手に取った。そして、その中に記載されている驚くほど精巧な情報の数々を目の当たりにし、大変驚かされた。アルゴの攻略本のちょうど四分の三辺りのページに、生産系スキル、について記載されているのを見た瞬間、これだ!とあたしは感じ取ったのだ。あたしはそう思ったらすぐ行動に移し、これまでのフレンジーボア狩りで貯まっていた僅かながらの全財産をはたいて、ブロンズハンマーを数本購入し、レベルアップして増えていた空きスロットに、鍛冶スキルを入れ、鍛冶屋さんとしての生活を始めたのだった。
最初こそ、あたしは鍛冶屋としてどんな風にプレイヤーをサポートすればいいのか分からなかったが、兎に角、鍛冶スキルの熟練度を上げて、街中で露店を開いては、大声でプレイヤーを呼び込み、武器の修繕や作製した武器の販売などを行っていた。そうこうしているうちに、鍛冶屋としては中々板がついてきた気がする。笑顔で接客、というのはまだまだこれからなのだが、少なくとも鍛冶屋としての腕っ節はアインクラッドでの上位にいるという自信がある。スキルスロットの都合上、あたしは片手武器、長物武器、盾の3種類しか作製できず、アーマーヘルムなどの金属防具や両手剣、突撃槍などを作成するためのスキルはまだ保持できていないのだが、それでも、売上はうなぎ登りと言っていいほど、良好なものだった。
しかし、日々の生活には全く困らないほど、大量のコルを稼げていたあたしでも、届かない世界があったのだ。それと出会ったのは、数日前の第四十八層の街開きの時だ。街開きとはフロアボス戦をクリアした攻略組達が先導して行っている、一種のお祭りみたいなもので、攻略組によってアクティベートされた新層へ移動し、新たな層へ来れたことをお祝いする行事のことである。第48層の主街区〈リンダース〉はのどかな田舎町、といった印象だったのだが、その街並みの一角に、巨大な水車がガッタッン、ゴットッン、と心地の良い音を響かせる職人クラス用のプレイヤーホームが販売されていたのだ。それを見たあたしは一目惚れしてしまい、ここで店を開こう!と意気込んだのだが、お値段はなんと300万コル、とあたしの財力では到底辿り着けない領域であった。それでも諦められなかったあたしは、こうして必死に働いて、300万コルを稼ごうとしているわけだ。
勿論、あたし以外にもあの家を狙っているプレイヤーは数人いて、あたしは彼らといち早く、権利書を手に入れるレースをしている。そういうわけで、今日もかき入れ時のラッシュタイムを終えたあたしは、そろそろ店仕舞いにしようかな、と夕日が沈み、月が昇り始めた時間に、露店用のカーペットを収納しようとしていた。その時だ。二つの足音が、あたしの前でピタリと止まった。
「えーっと、あなたがリズベット?」
ふと、カーペットの上に乗せてあった武器を仕舞う動作を辞めて、あたしは顔を上げる。するとそこには、この世界では珍しい女性プレイヤーが立っている。女性、と言っても、大人と言うわけではなく、あたしと同じかそれより少し下、ぐらいの年齢だ。髪型はショートで髪は少しこげ茶に近い黒色だ。愛嬌の良さそうな可愛らしい顔をしており、身体のラインは細い。可愛い顔に反して、装備は実用性を重んじているのか、あまり女の子らしいものではない。腰には、一本の細剣に近いぐらいの片手剣を帯刀していた。
そして、その隣には男性プレイヤーがいる。こちらも男性、というよりは少年、と称する方が相応しい。顔は丸顔で、目はパチクリ、と大きくて、鼻は高くも低くもない、普通ぐらい。髪は綺麗な黒色で、眉毛よりは下だが、目にはギリギリ掛からないぐらいの長さだ。中々に整った顔をしており、もし女性として生まれていたのなら、絶世の美女として君臨できたのではないかと思う。…まぁ、今のままでも十分美男子って感じではあるが。
リズベット「えぇ…そうですけど…何か御用でしょうか…?」
そう言えば、どうして名前が知られているんだろう。…もしかしたら、あたしの腕がアインクラッド中で噂になり始めたのかも…。と勝手なポジティブシンキングをしてから、恐る恐る、彼女に聞き返す。すると彼女は、元気よくハキハキと答えてくれた。
「剣を作ってもらいたいんだ!」
リズベット「…どんな剣を作れば…」
「えっと、細剣みたいに細い、速さを重視した片手剣を作ってほしいかな」
リズベット「はぁ…しかし、オーダーメイドとなりますと、結構値段が高くつきますけど…大丈夫ですか?」
正直言って、彼らがオーダーメイド出来るだけのお金を持っているとは思えない。そもそも攻略組なら、最前線の層で寝泊まりするか、ギルドホームを構えている層に帰るかで、ここ第15層に降りてくることはほぼ有り得ないだろう。唯一、降りてくる機会となり得ようオークションは昨日に開催されていたし、次は三日後のはずだ。今あたしは、攻略組よりも規模の大きい中層プレイヤーを相手に、物量作戦でお金稼ぎを行っている。
十五層は商業都市ということもあって、多くのプレイヤーが行き交うのだ。つまり必然的に、彼らは中層プレイヤーと言うことになってくるのだが、中層プレイヤーではオーダーメイドなど夢のまた夢の話だ。彼らはあたしを揶揄っているのだろうか。
一瞬あたしはそんなことを考えるも、少年に、目の前にコルの詰まった袋を幾つも出現させられ、言葉を失ってしまう。
「コルに関しては、問題ない。最高級の素材はあるか?」
リズベット「今はちょうど在庫を切らしてまして…」
「マジか…いつぐらいに在庫が届きそうなんだ?」
リズベット「実は、現時点での最高級のスピード系インゴットは、鍛冶スキルを所持したプレイヤーが45層のあるクエストを達成しないと手に入らないんですよ」
そのクエストが受けられる層は第45層、あたしとしても、彼らからオーダーメイドの注文を受けられれば、300万コルの目標に大きく一歩前進できるのだが、中層プレイヤーの彼らに45層に行く、と言うことは難しいだろう。
…またコツコツと修繕とかしていけば、そのうち300万コルは貯まるわよ…。そうやって、目の前に大金を諦めようとしていると、少年がトンデモナイことを言い出す。
「んじゃ、俺達とパーティー組んで、明日にでも45層に行こうぜ?」
リズベット「はぁ!?あんた何考えてんのよ!?自殺行為よ!?」
「ん?もしかして、45層は厳しいか?」
リズベット「あたしは大丈夫よ!でもあなたたち、中層プレイヤーでしょ!?45層なんて行けっこないわよ!」
とぼけたようにそんなことを言ってくる少年に、思わずお客さん向けの敬語なんて忘れて、あたしは反論していた。すると、今度は少女がこれまたトンデモナイ発言をしてきた。
「あ~…大丈夫だよ!ボク達、攻略組だからねっ」
リズベット「……え!?…」
こうして、あたしは明日の九時に第四十五層の転移門前で集合することを約束することとなったのであった。
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アルファ「しっかし、15層に凄腕の鍛冶屋が居るなんてな…」
ユウキ「アルゴが言うから間違いないって、灯台下暗し、ってやつだよ」
昨日、アルゴから貰った情報によれば、この通りにピンク色の髪をした女性プレイヤーがいるはず…。夜の帳を帯びつつある主街区を歩きながら、俺達は凄腕と噂の鍛冶屋さんを探していた。出来る鍛冶屋を探している理由は唯一つ、先日の陽の神との闘いで壊れてしまったユウキのメインアームの更新の為だ。
これは後から分かったことだが、月光スキルの刀身から衝撃波を飛ばす能力を使うと、剣の耐久値が大きく減ってしまうのだ。なので、ユウキは新しく片手剣を必要としていたのだが、どうせなら、最高のものを手に入れようという話に纏まり、アルゴから最高峰の鍛冶スキルを持つプレイヤーの情報を買い取った。因みに、売れる情報は何でも売る、というのがモットーのアルゴだが、有難いことに、俺の使う太陽の戎具とユウキの月光スキルについては、オレっちの大事なお友達、ということで口外することなく、お口チャックしてくれている。
これまた後から分かったことだが、俺とユウキがクリアしたクエストはあれ以来二度と出現することがなく、恐らく限定クエストであったということがアルゴから知らされた。ということで、もれなく、俺の手に入れた武器とユウキのスキルも一度きりしか手に入らないものということが確定した。太陽の戎具は魔剣クラスである。魔剣クラスというのは、モンスタードロップで手に入る武器の中でも、突出した性能を誇るレア物のことを指すのだ。太陽の戎具は、強化をしっかり成功させれば、今後アインクラッドの世界で急激なインフレが起きない限り、80層後半ぐらいまで使っていけそうなほどの代物である。
そして、ユウキの手に入れた月光スキルだが、こちらに関しては、一応エクストラスキルと言う扱いらしい。だが、恐らく、二度と入手できないであろうし、世界にユウキしか使い手が生まれないだろうから、アルゴが、差し詰めユニークスキルってとこだナ、と言っていた。というわけで、ユニークスキルを獲得したユウキだけれども、取り敢えず、俺とユウキとアルゴで話し合った結果、月光スキルは出来るだけ使わない方針に決定された。というのも、初めはユウキもこの判断に納得がいっていなかったようだが、俺とアルゴが、ネットプレイヤーの嫉妬は激しいものなのだと、必死に訴えたことで、ユウキは緊急時以外には使わない、ということで俺達の意見を飲んでくれた。
これまでの人生でゲームはあまりやってこなかった俺がユウキに月光スキルを隠すように頼んだのは、いつかの新聞で、ネットゲームで手に入るレアアイテムを巡って殺人事件が起きた、という記事を思い出していたからだ。流石にこの状況下でそんな馬鹿なことをする奴らがいるとは思えないが、PK集団、なんて奴らが存在している以上、そういう僅かな可能性も考慮しないわけにはいかない。ユウキと談笑しながら、通りを歩いて行った俺は、とうとう、例の人物を見つけ出した。
ユウキ「えーっと、あなたがリズベット?」
俺が声を掛ける前にユウキがぬっと俺の前に出て、女性プレイヤーに話しかけた。女性というよりは、少女、と言った感じの見た目で、俺と同じかそれより少し下、ぐらいの年齢だろう。髪は染めているのか、明るいピンク色で、少々そばかすのある童顔、それなりに整った顔をしていた。だけど、それを台無しにしているのは、鍛冶屋が着るような茶色一色のごっつい服装をしているからだろう。
それから、リズベットにユウキの望む剣の様態を教えると、それにはクエストで手に入るインゴットが必要だと言われた。しかも、そのクエストは鍛冶スキルを持つ者が同行しなければならないらしい。俺が明日一緒に行こう、と声を掛けると、途端に声を荒げて反論されて、これまでの丁寧な喋りとは違う様子に俺は驚かされた。
…だけど、冷静に考えてみれば、俺と同じ年齢ぐらいなら、きっとまだ敬語なんて使う機会はそうそうなかったはずだ。こちらが自然体なのだろう。ユウキが、俺達が攻略組であることを伝えると、リズベットは目を丸くしていたが、そこからは勢いで、明日にクエストを攻略することを決定した。
ユウキ「ボク達と同じぐらいの年齢だったね。結構意外だったよ」
アルファ「俺もタイラみたいな奴が出てくると思ってた」
ユウキ「タイラみたいな奴、って悪意あるんじゃないの?」
アルファ「悪意しかない」
ユウキ「あ~あ…今度伝えとこっと」
アルファ「やめてください」
そんなくだらない会話をしながら、俺達はギルドホームへと戻って行った。
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ユウキ「リズベット!お待たせ!」
リズベット「…いえ、大丈夫です…えっと…」
ユウキ「あ!ごめん!まだ自己紹介してなかったね。ボクはユウキ」
アルファ「俺は、アルファだ」
リズベット「ユウキさんにアルファさん…」
ユウキ「敬語は無しでいいよ!同じぐらいの年齢だろうしね」
リズベット「…分かった。だったら、あたしのこともリズって呼んでちょうだい」
ユウキ「りょーかい!よろしくね、リズ!」
翌朝、久しぶりに戦闘用の服装に着替えたあたしは、少し早めに待ち合わせ場所に来ていた。待ち合わせ時間ちょうどに、昨日の二人組が姿を現す。少女の方は元気よくあたしの名前を呼んでくれたが、こちらはまだ二人の名前を知らなかったので、どうしようかと悩んでいると、二人が名乗ってくれた。少女はユウキ、少年はアルファ、と言う名前らしい。
一応二人はお客様なので、敬語で対応していると、ユウキが自然体で良い、と言ってくれた。正直、敬語はあまり好きではないので、有難い申し出だ。クエストを貰える民家まで向かう途中に、どうしてあたしの名前を知っていたのか、について聞くと、なんと、かの有名な〈鼠〉があたしのことを腕の良い鍛冶屋だと教えてくれたらしい。あたしも自分の腕には自信はあったが、まさかアインクラッド一の情報屋と言っても過言ではない〈鼠〉にそう評されるとは思いもしなかった。
ウキウキ気分でクエストを貰ってから、クエストボスが出現する場所へと移動していく。
リズベット「そう言えば、ユウキとアルファって、何処のギルドに所属してるの?」
ユウキ「スリーピング・ナイツだよ~」
リズベット「聞いたことないわね…」
クエスト発生地へ向かう道中、フィールドに出現するモンスターを手玉に取るように相手にする二人を見て、攻略組とはこれ程の強さを誇っているのか、と感心させられた。これ程の腕の持ち主なら、血盟騎士団にでも所属しているのかと思っていたが、ユウキから返ってきた返事は、普段から情報屋が発信する新聞を読んでいるあたしでも聞いたことの無いギルド名だった。ユウキの言葉に補足するようにアルファが口を開く。
アルファ「まぁ、ユウキがギルドマスターだからな」
リズベット「え!?そうなの!?」
ユウキ「え~、そんな意外そうな反応されると凹むなぁ…」
アルファ「…見た目が子供だからな。ギルドを束ねるような人間には見えねぇんだろ」
リズベット「それはアンタもでしょ」
アルファ「…男の子の成長はここからなんだよ…」
ユウキ「だったらボクもこれからだよ!」
二人と話していて分かったことが二つある。それはまずはユウキが第一印象通り、明るくていい子だということ。この短時間であたしに今後とも友達として仲良くやっていきたいと思わせるほど、他人の懐に入ってくるのが上手だ。そしてもう一つはアルファは第一印象とは少し違っていたことだ。顔に似合わずガサツな言葉遣いをしていて、見た目ほど可愛げがない。
後、気になることと言えば、二人がどういう関係なのか、と言う点だ。だけど、それを口に出すのは無粋かと思い控えさせてもらっている。そうこうしているうちに、とうとう、奥の方に浅い洞穴のある崖に囲まれた円形の広間にやって来た。
アルファ「リズベット、転移結晶を渡しとくから、危なくなったらすぐ逃げろよ」
リズベット「これぐらい大丈夫よ、道中でのアタシの強さ、ちゃんと見てたでしょ?」
ユウキ「…それでも万が一は考えないといけないからね。…リズは自分の身を守ることだけに集中しててね」
リズベット「…了解よ」
あと数歩進めば、クエストが進行されたと認識され、クエストボスが出現するだろうところで、これまでのんびりとした雰囲気を纏っていた二人が、やけに真剣にそんなこと言ってきた。…これが攻略組。その雰囲気は、日々命を賭けてレベリングを繰り返し、死力を尽くしてフロアボスの踏破に挑んでいることをその肌で感じさせてくれた。あたしは、二人の指示に従って、防御に専念することを誓う。
アルファとユウキが、あたしから三歩程前に出ると、前方が青い光に包まれて、4メートル程のオオカミ型のクエストボス〈ライトオブジェクツ・コレクター〉という鍛冶屋関連のクエスト定番の名前が表示される。名前の通り、このボスがあたし達の求める輝くインゴットを後ろの洞穴に隠し持っているのだ。ボスの体力は1.5本と他のネームドボスと比べて、比較的優しい。
リズベット「こいつは特殊攻撃とかは持ってないわよ!突進、蹴り、回転蹴、爪攻撃、噛み付き、とか!」
アルファ「サンキュー!」
周囲は閑散としており、遮蔽物は一切ないため、あたしが何処かに身を隠して二人がボスを倒し終えるのをただ見守ることは出来ない。基本的にアルファとユウキがタゲを取ってくれているが、時折ボスがこちらに向かってくることもある。そういう時はユウキに言われた通り、防御姿勢を取っていると、その内に二人がタゲを取り直してくれた。
ユウキは軽快にボスの周りを駆けまわり、細身の片手剣で次々と攻撃を決めていく、アルファは両手剣で着実にボスの攻撃を受け止めながら、反撃の隙を突いて力強い一撃をぶち込む。一見、二人は独立して個人プレイを行っているようにも思えるが、実はその完璧なる戦闘術は、二人の連携によって生まれていることをあたしは不意に理解した。二人の相性が抜群なのは素人目のあたしからしても十分すぎるほど伝わってくる。
ボスの体力バーが残り僅かとなった時、あたしは。きっと二人なら、このままボスを押し切ってしまうだろうと思っていた。そう思っていた矢先、突然ボスが大きく飛び上がるというこれまでに見たこともない行動パターンを取ってくる。しかも、ターゲットはあたしだ。あまりに想定外のことにあたしは回避することなど忘れて、その場で固まってしまった。この一撃ぐらいで死ぬことは無いとは思うが、巨大な怪物が自分の頭上から落ちてくるという恐怖があたしの身体と心を支配する。
ユウキ「リズ──ッ!」
その時、ユウキがあたしの名前を呼んだ。あたしは助けを求めるようにユウキを見つめると、ユウキは刀身に白い半透明のオーラを纏わせて、それを放ち、ボスの身体を切り裂いた。そしてボスは、あたしの身体を押し潰す前に、その体をポリゴン片に四散させたのだった。リザルト画面をなんてすぐに消して、ユウキの元へ駆けたあたしは、お礼を言う。
リズベット「…ユウキ、ありがとう」
ユウキ「うん、どういたしまして!…ごめんアルファ、使っちゃった」
アルファ「…今のは緊急事態だからな、しゃーねぇよ」
ユウキ「…ってことでリズ、今のは見なかったことにしてくれないかな…?」
一瞬、二人が何を言っているのかよく分からなかったが、よくよく考えてみれば、さっきユウキは剣から衝撃波を発していた。アイテムなのかスキルなのか、何を使ってあんなことを実行できたのかは分からないけれど、あたしを助けてくれた人の情報を誰かに流したりなどするつもりは無い。
リズベット「大丈夫よ、あたしは口が堅いから!」
アルファ「自分でそう言う奴ほど、信用ならないっていうな」
ユウキ「アハハ!でもリズなら心配いらないやっ」
リズベット「取り敢えず、インゴット回収しに行くよ!」
本来の目的であった、最高級のスピード系のインゴットを回収し終えたあたし達は、主街区まで戻った。ちょうどいい時間になっていたので、三人でお昼ご飯を食べてから、あたしは持てる力の全てを出し切って、ユウキの為の剣を鍛え上げる。カンカンカンッ!と熱したインゴットを全力で叩きながら、素晴らしい作品が出来るよう祈った。これ程必死に、真剣になって、誰かのために剣を作り上げたいと思ったのは初めてかもしれない。
武器を作成する際には、インゴットを叩く回数が多ければ多い程、良い逸品が出来上がるのだが、今回初めて、ちょうど130回叩けた。これまでが100前後止まりだったことを考えると、あたしの最高傑作を作り上げられたことは間違いない。インゴットが輝きを放ちながら、その形を変形させていく。そして、最高級のインゴットとトップレベルの鍛冶スキルの持ち主と、そして、ユウキへの感謝と想いを合わせた、最高峰の剣が誕生した。
刀身は深い青、コバルトブルーのようだが、水晶のように透き通って見える。柄は淡い紫色で、ユウキの要望通り、細剣のように細い片手剣を作り上げることが出来た。
リズベット「…名前は<モーントシャイン>…あたしの最高傑作よ」
ユウキ「…すごく軽い…!ありがとうリズ!」
リズベット「うわ!?」
ユウキが剣を一振りして、その美しい刀身に魅入られたように剣を見つめてから、あたしの目を見て感謝の気持ちを伝えてくれた。そしてそのまま、あたしに飛び込んできたユウキに驚きつつも、あたしはしっかりと受け止める。アルファはその様子を微笑ましそうに眺めていた。やがて、ユウキはアタシの身体から離れて、訊ねてくる。
ユウキ「えーっと、いくら払えばいいかな」
リズベット「あぁ、そう言えば…ま、お代はいいわよ」
ユウキ「え!?でも、そういう訳には…」
リズベット「いいのよ、アタシのこと助けてくれたお礼」
ユウキ「…う~ん…」
アルファ「…ユウキ、納得いかないんだったら、口止め料として料金を払えばいいんじゃないか?」
リズベット「アンタはどんだけあたしのこと信用してないのよ…」
アルファ「信用はしてないけど、信頼はしてるぜ」
信頼してるけど、信用はない。友人リズベットとしてなら嬉しいのだが、一商売人である鍛冶屋リズベットとしてはなんだか複雑だ。
ユウキ「…そうしよっか。…十五万コルぐらいでいいかな?」
リズベット「え!?そんなに!?」
あたしは、十万コル前後のつもりであったので、想定外の高額に驚いてしまった。だけどユウキは、のんびりと返事を返してくる。
ユウキ「ボク達は貯まっていくことが多いからね~」
リズベット「じゃあ、しっかり受け取らせてもらうわ。あたしには、お店を経営するっていう夢があるからね!そのための貯金にさせてもらう!」
ユウキ「おおっ!何処でお店を構えるの?」
リズベット「一応、リンダースの一軒にお店を構えようと思ってるわよ」
アルファ「ま、頑張れよ」
リズベット「言われなくても勿論!」
それからあたしは、二人とフレンド交換をしてから、かき入れ時の夕方に備えて準備を始めた。ユウキとアルファに夢を語った以上、何としてでもあの家を手に入れて見せる!ぼんやりとしていた目標をハッキリとしたビジョンに切り替えたあたしは、通りかかるプレイヤー達に、いつもよりも気合を入れた呼び込みを始めたのだった。
というわけで今回は、リズベットさん登場回でした。
アルファとユウキの容姿についてのおさらいも入りましたが、皆さんの想像する彼らと乖離しているなら、皆さんが想像する二人をご自由に思い浮かべておいてください。
では、また第53話でお会いしましょう!