ヒースクリフ「──では、行こうか」
「「おお──っ!」」
ヒースクリフが第四十九層の主街区ミュージェンの広場にて、今回のフロアボス戦に挑むレイドメンバー達を先導していた。レイドメンバー達も、周囲に集まった攻略組を見送りをするプレイヤー達も、今日はより一層気合が入っているように見受けられる。
それもそのはずで、今日は十二月三十一日、2023年最後の日であり、明日には新たな2024年が待っているのだ。今日の午後二時から行われるフロアボス戦をクリアし、第五十層をアクティベート出来た暁には、第五十層と言う節目の層で、大晦日の大祭りが行われることが決定していた。それ故、こんな所で死んでたまるか!とレイドメンバー達はいつも以上に意気込んでいるのだろう。
因みに、今回のフロアボスに関する情報はしっかり集めきっており、偵察部隊が何度もボスの行動パターンを把握してくれたおかげで、今回のボスは然程苦労し無さそうな、しっかりといつも通りやれば死人が出ることはないであろう闘いであることは予期されている。このボス戦に挑むレイドメンバーは、攻略組の心を掌握したヒースクリフが率いる血盟騎士団、ホープ・オブ・ナイツ、DKB、DID、という安定の面子に加えて、クライン率いる風林火山、そして、俺とユウキのスリーピング・ナイツなど、戦力も充分だ。そして勿論、俺の友であるキリトも、今回のフロアボス戦にも参加している。
キリトは俺達やクラインに話し掛けてきたりはしないけれど、その雰囲気はクリスマスの時のような、荒々しく刺々しい、いつか折れてしまいそうな危うさを孕んでいるものではなく、少し柔らかなものへと変化していた。俺は最初はその変化がアスナによるものだと思ったのだが、相変わらずキリトに対して少し厳しい雰囲気を醸し出しているアスナの様子を見ると、そうではないことが伺えた。
ユウキ「毎回思うけど、ボス部屋まで行くのも大変だよね」
アルファ「んなこと言っても、転移結晶は迷宮区には飛べないしな」
ユウキ「背中に羽が生えてたら、最上階までひとっ飛びなのにね~」
アルファ「もしそうだったら、外周から百層まで行けそうだな」
なんて、下らない会話をしながら、俺達レイドメンバーは迷宮区タワーを登り詰めていき、特に何事もなくボス部屋の前まで辿り着いた。そこでいつもの如く最終確認を行い、ヒースクリフが扉を開け放つのと同時に、レイドメンバーがその中になだれ込む。
アスナ「総員!配置について!」
アスナの指示と共にレイドメンバーは各自の持ち場に移動して、ボスの出現を待つ。現れたボスは、左腕には、その半身を覆うほどの盾を、右腕には金色に輝くバトルアックスを持ち、身体の要所要所が鎧に覆われている、全身が茶色い毛皮で覆われたミノタウロスのような姿をしていた。
体力バーは6本、標準的なフロアボスと同等の数だ。今回のフロアボスは取り巻きを出現させないらしいので、レイドメンバー全員でフロアボスに太刀打ちすることが可能となる。まずは、タンク部隊がボスに対して挑発系スキルを発動させ、ボスのタゲを取った。ボスはそのまま怒り狂うようにタンク部隊に向けてその身を横真っ二つにしてしまうようなバトルアックスによる一閃を繰り出すが、万全の状態で防御態勢を整えていたタンク部隊は難なくしっかりとボスの攻撃を受け止めた。その間にディーラー達が前へ出て、ミノタウロスに攻撃を仕掛けようとするが、ミノタウロスは左腕に構える盾を薙ぎ払うようにして、ディーラー達が接近するのを阻止してくる。それでも数人のディーラーはその攻撃を避けて、ボスにダメージを与えた。
それからボスは、突進攻撃を仕掛けてきたり、ボス専用と思われるバトルアックスによる連撃ソードスキルを発動させてきたりと、レイドメンバーを皆殺しにするために、俺達に襲い掛かってきた。だが、綺麗に連携の取れているレイドメンバーの前には、それも無駄なことであった。こちらはリズムを一度も崩すことなく、堅実に少しずつボスの体力を削っていく。ミノタウロスは鼬の最後っ屁と言わんばかりに体力バーをラスト一本にした時、左腕の盾から風を吸い込み始めて、それに巻き込まれたプレイヤーを地面に叩きつけ圧し潰すという新たな行動パターンを取ってきたが、その程度でレイドメンバーが半壊することもなく、今回はアスナのLAによって、フロアボスの撃破に成功した。
ワッ!っと沸くレイドメンバーの歓声に合わせて、俺とユウキもハイタッチをして、フロアボスの討伐に成功した喜びを分かち合う。
ユウキ「ま、余裕だったね!」
アルファ「あんまり調子に乗るなよ…」
今回のボス戦は、ユウキの言う通り手こずることもなく死者ゼロで乗り切ることが出来たが、次やまたその次もこうも簡単に上手く行くとは限らないのだ。ボス戦に変な慣れ方をしてしまうと、その瞬間に死は訪れる。
…まぁ、だからと言って一日中張り詰めているのも良くは無いんだけどな。要は切り替えだ。切り替えさえできるなら、こうやって調子に乗ることも問題はないはずだろう。
今回ドロップしたレアな盾装備を巡って、それを所望するレイドメンバー達の間で行われる運命のダイスロールを見ながら、俺達はアスナと談笑していた。
ユウキ「アスナ、今日の大晦日のお祭りは、どうするの?」
アスナ「う~ん…ギルド関係で何もなかったら、レベリングでもしようかな…」
アルファ「…それはワーカホリック過ぎるだろ…」
アスナ「レベル上げは大事なのよ…早く100層まで踏破して、現実世界に戻らないと…」
ユウキ「確かにそうだけど、息抜きも大事だよ?」
アスナ「…まぁ、考えとくね」
アスナ、少し焦り過ぎでは?そんなことを思っていると、ダイスロール大会も終了し、攻略組全員で第五十層の転移門をアクティベートしに行くことになった。
だが、いつの間にかキリトは姿を消しており、一人欠けた状態で俺達数十人は第五十層へと足を踏み入れた。
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アルファ「…準備はいいか?」
ユウキ「いつでもオッケーだよ?」
俺達は第二十二層の主街区にて、お互いに面と向かって、立ち合いを始めようとしていた。何故、これまでのようにそこら辺の適当な主街区ではなく、わざわざこんな辺境の土地でデュエルをおっぱじめようとしているのかと言うと、偏に俺もユウキも、全力でデュエルをする為である。ユウキは月光スキルを、俺は太陽の戎具の変形機能を駆使してその扱い方を身に付ける必要がある。秘匿していたい情報であるというのに、人の集まる場所でそれらを使ってしまっては、元も子もない。
というわけで、ここ第二十二層、何もなさ過ぎて誰も近寄らないような場所でデュエルを始めるのだ。俺が初撃決着モードを選択すると、デュエルのカウントダウンが始まった。俺とユウキの間合いはかなり離れているが、ユウキは月光スキルのお陰でそこからでも衝撃波で俺を襲うことが出来る。衝撃波を相殺するには、こちらも剣を振るうしかないし、投げピックでは押し負けてしまうので、投剣スキルを使わねばならない。
デュエル開始の合図とともに、ユウキが早速衝撃波を飛ばしてきた。俺も投剣スキルを利用して、衝撃波を相殺していく。
アルファ「チッ!」
衝撃波に沿って、こちらへ駆けてきたユウキを見た俺は、すぐさま片手剣で応戦する。何合か打ち合いが続くが、これ以上やってもキリがないと判断した俺は、片手剣を片手槍に変形させて、薙ぎ払うようにユウキの胴体を切り裂かんとした。
ユウキがそのままこちらに飛び込んできても良いように、拳を構えて体術スキルの準備はしておく。それを嫌ったのか、ユウキが一歩後ろに後退した。今の間合いなら、ユウキが衝撃波を出したとしても、俺の槍の方が先に届く。
予想通り、ユウキが間合いを詰めるべくこちらへ飛んできた。俺はすぐに片手槍を刀に変形させて、再びユウキとの剣戟を繰り広げる。刀は片手剣よりも、受け流すことに特化しているため、剣戟自体は刀の方がやりやすい。
ユウキが段々と、剣速のボルテージを上げつつあるその時、俺は勝負に出た。不意に俺は、ユウキの剣を弾いてから、ユウキに背を向けて全力で走る。
ユウキ「逃がさないよ!」
ユウキは、俺に距離を取らせまいと、こちらに向かって一気に詰めてきた。俺はそこを突いて、全身に急ブレーキを掛け、その反動でユウキの真上をバク宙した。その瞬間に刀を両手剣に変えて、一気に振り下ろす。
アルファ「もらったァ!」
俺は勝利を確信していた。だが、ユウキが俺の両手剣による全力の一撃を片手剣で受け止めたのだ。
ユウキ「…それはこっちのセリフだよ?」
アルファ「…お、終わった…」
完全なる隙が生まれた俺は、そのままユウキに閃打をぶち込まれた。デュエルは俺の敗北で終了し、お互いに剣を納めてから、ユウキが俺に訊ねてくる。
ユウキ「あれ、軽業スキルでしょ?」
アルファ「ご名答。そういうユウキこそ、武器防御スキルだろ?」
ユウキ「当ったりー」
アルファ「やっぱりか」
俺のレベルは64、ユウキは65とクリスマスボスに備えた地獄のレベリングによって、俺達はレベルを60の大台に乗せていた。レベル50の時には、ユウキは月光スキルを、俺は隠蔽スキルを取得していたのだが、今回のスキルスロットに何を入れたのかは、まだお互いに話していなかった。
ユウキの細い片手剣で俺の両手剣による重攻撃受け止め切れたのは、武器防御スキルによるもので、逆に俺が軽快な動きでユウキを翻弄できたのも、軽業スキルのお陰と言うことだ。
…にしても、ユウキにはその奇襲さえもギリギリのところで反応されてしまったのだが…。やっぱりユウキは規格外か。
…もうすぐ日も暮れそうだ。そろそろ時間かもな。そう思った俺は、ユウキと一緒に転移門へ向かい始めた。
ユウキ「ってことで、今回はボクの勝ちだから、アルファの奢りだねっ」
アルファ「手加減してくれよな…」
…そう言えば、一年前も俺がデュエルに負けて、ユウキに屋台を奢ってたような…。そんなことを思い出して、少し苦笑いしながら、俺達はお祭り会場の第五十層へと転移していった。
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ユウキ「うわぁ!いっぱい人いるね!」
アルファ「そりゃ年に一度の一大イベントだからなぁ」
転移先に指定した、第五十層の主街区アルゲードの第一印象は騒がしい街、というものだった。見た目は家の上に家が建てられた構造の建築物が、隣り合わせにぎゅうぎゅう詰めで雑多に並べられている猥雑、と言った様子で、それに伴い忙しく行き交うプレイヤー達の威勢も良い。周囲に展開されている出店からは様々な香ばしい香りが俺達の鼻を突いてくる。
本日はアルゲードがお祭りの舞台となっているから、と言うせいもあるだろうが、この繁華街のような雰囲気を好むプレイヤーも一定数存在すると思われる。その時、不意に後方から大きな声が響き、客引きをしているプレイヤーがいることに気が付いた。しかもその声は、俺達には馴染みのあるものだ。ユウキもそれに気が付いたようで、颯爽と転移門の後ろに続く道を小走りする。
するとそこには、やはりピンクの髪色をした少女が周囲のプレイヤー相手に武器防具を売りつけていた。
ユウキ「リズ!今日はここでお店開くの?」
リズベット「そうね。今日はフィーバータイムよ!」
アルファ「金の亡者じゃねぇか」
目の中にコル硬貨を浮かべそうな勢いで闘志を燃やしているリズベットに若干引きながらも、確かにリズベットの剣や盾を手に取っては、それを購入するプレイヤーが一定数存在することから、腕だけは確かなことは伝わってくる。リズベットがプレイヤーに片手剣を販売しながら、ユウキに話し掛ける。
リズベット「ユウキ、そのヘアバンド似合ってるね。ヘアバンドが似合う女の子なんて中々いないんじゃない?」
ユウキ「えへへ、ありがと…」
リズベット「それ自分で買ったの?」
ユウキ「ううん、アルファから貰ったんだ」
リズベット「…ほぉ?」
ユウキがそう答えたのを聞くと、突如リズベットが豹変し、ニヤニヤと俺の顔を見つめてくる。
…コイツもまた、人を揶揄うのが好きな人間なのか。俺が出会う奴らは、本当にどいつもこいつもそういう奴らばっかりだな。よし、今後出会う人間は、おちょくるのが大好きな人間なのだと先入観を持つことにしようか。
などと、無駄なステレオタイプを持つことを決心してから、俺からの何らかの返事を待つリズベットに言葉を返してやる。
アルファ「…あれは、クリスマスプレゼントだ。俺もユウキから貰っている」
俺がそう言って、左腕に付けている紫色のミサンガをユウキから貰ったのだと説明してやると、リズベットはまたしてもニタニタと口元を歪めながら、顎に手を当てて思考を始めていた。
因みに、ユウキから貰ったこのミサンガは熟練度上昇に大きなブーストを掛けてくれるという、四つの武器の熟練度上げに勤しまなければならない俺に相性抜群の性能を誇っている。
リズベット「…ふむふむ…なるほどぉ~…」
アルファ「…なんだよ」
リズベット「ま、頑張んなさいよ!」
バシッ、バシッ、っとリズベットが俺の背中を豪快に叩いてくれた。
…何を頑張るんだよ。異性への不適切な接触としてハラスメントコード発動させて牢獄にぶち込んでやろうか。そんな物騒なことを考えるが、勿論ハラスメントコードは発動していない。ハラスメントコードはプレイヤー間の親密度によって、発動する限界が変わってくるらしい。どうやって親密度を計っているのかは想像もできないが、お互いが友達だと思っているのであれば、異性同士の接触でも軽いスキンシップ程度なら、システムに認められるというわけだ。
つまり、ハラスメントコードが発動しないということは、不本意ながらも俺はリズベットのことを、そしてリズベットも俺のことを友であると認識しているが故である。これ以上長居しては、リズベットの商売の邪魔になるであろうと、俺とユウキは研磨だけお願いしてから、今度は反対方向へ向けて歩き出した。
途中途中に見つけた屋台でユウキが、食べたいっ!と言った物を約束通り買ってあげながら、ドンドン通りを歩いていく。そして、突き当りを曲がったところで、これまた意外なプレイヤーと遭遇した。
エギル「おう!お二人さんはデートか?」
アルファ「違ぇよ…俺はユウキのお財布だ」
エギルがこれまた俺達を煽るようにそんなことを言ってくれるが、只々ユウキに屋台を奢り続けるだけのこのイベントを、デートだと捉えるには厳しいものがある。俺が冗談でエギルにそう言うと、ユウキも呆れたように俺に言い返す。
ユウキ「…人聞きの悪いこと言わないでよ。約束なんだから」
アルファ「…すいませんでした」
ユウキ「それで、エギルはそんなところで、何してるの?」
ユウキが不思議気にエギルにそう訊ねる理由も分かる。何せエギルは、生産系スキルを取得しているようなプレイヤーが商売に使うカーペットを敷いて、行き交うプレイヤー相手にポーションやら素材やらを売りつけようとしているのだ。
きっとエギルのことだから、仲の良い誰かに頼まれて店番でもしているのだろう。俺は脳内でそう結論付けていたのだが、張本人からとんでもない回答が返ってくる。
エギル「何って、商売だよ。俺はこの街に店を構えることに決めたぜ?」
アルファ「なッ…!?職人クラスに移行するのか!?」
エギル「まぁな」
アルファ「ボ、ボス戦は…?」
エギルはなんだかんだで第一層から攻略組を支えてきてくれた歴戦の戦士なのだ。エギルが抜ければ攻略組の戦力も落ちる。それを不安に思っていた俺を見たエギルは、笑顔で返事を返してくれた。
エギル「あぁ、勿論攻略には変わらず参加させてもらうぜ。ボスからレアアイテムが手に入れば、タダで仕入れて安くで売れるからな」
ユウキ「そこは高く売らないと意味ないじゃん~」
アルファ「そいつを聞けて安心したぜ…」
エギル「良かったら、何か買って行ってくれてもいいんだけどな」
アルファ「…品揃えが良くなれば、な」
エギル「そうかよ…」
残念なことに、エギルの取り扱っている商品の中で俺達に必要なものは無かったので、今回は購入をパスさせてもらった。
それから暫く、道を進み続けては、色んな屋台で食べ物を買ったり、輪投げみたいなミニゲームで勝負したりしているうちに、俺達は来た道を覚えないまま、街を進んでいってしまったのだ。
それに気が付いた俺達は、こっちから来たのか、それともあっちだったか、いやいや、そもそもさっきの道を左に曲がるべきだったのでは、と闇雲に試行錯誤した。そしてしまいには─
ユウキ「…迷子になっちゃったね…」
アルファ「…まさか、街に閉じ込められるとは…」
火山ダンジョンに負けず劣らず、寧ろそれ以上に複雑に入り込んでいるこの街アルゲードの中で、俺達は完全に迷い込んでしまった。
…街で迷子になるなんて、幼児や小学生低学年じゃないんだから、こんなことは有り得ないとは思っていたが、ここはまるで迷宮だ。転移結晶を使えば、すぐにここから脱すること自体は可能だったが、流石にこんなしょうもないことに、高級なアイテムを使う気にもなれず、俺達は再びこの迷宮に挑み始めた。
幸い、今日はお祭り騒ぎとなっているため、プレイヤーの声が響いてくる方向へ向かえばいいのだけは分かる。だけどそちらに近づいてはまた離れ、中々転移門の近くに出ることが出来ずにいた。
ふと、曲がり角を右に曲がると、そこには、一人のプレイヤーが立っていた。背丈は俺と同じぐらいか俺より少し小さい、全身を黒で包んだソードマンだ。彼は俺達に気が付くと、驚きながらも、自発的に口を開いてくれた。
「…アルファとユウキか…」
アルファ「ようキリト、お前もお祭りに参加してたんだな」
キリト「…まぁ、な…」
ユウキ「ボク達ちょっと迷子になっちゃってさ、良かったら転移門近くまで案内してくれないかな」
キリト「……実は、俺も迷子なんだ…」
ユウキ「…」
アルファ「んじゃ一緒にここから脱出しようぜ?」
まさかキリトもここで迷子になっていたとは…。まぁ、三人にして迷うことなし、だ。三人でなら、何とか転移門の近くにまで辿り着けるだろう。
そう思った俺は、キリトにそう提案したのだが、何故かキリトは何も言わずに、その場で立ち尽くしていた。
アルファ「…キリト?」
何かを思い詰めているような表情を浮かべていたキリトを見て、心配になった俺は声を掛けると、キリトが俺の目を真っすぐに見つめて、口を開いた。
キリト「……アルファ、クリスマスの時は、ごめん。俺、アルファに酷い事一杯言った…本当に、ごめん…」
そう言い終えたキリトは、俺に向かって深く頭を下げてきた。多分俺はこの時、豆鉄砲を喰らったような顔をしていたんだと思う。すぐに気を取り直した俺は、頭を下げ続けるキリトの肩を掴んだ。
アルファ「なに、気にすんなよ。俺達は友達だろ?これからも頼むぜ?」
キリト「…許して、くれるのか…?」
アルファ「当ったり前だろ~」
キリト「…ありがとう…」
アルファ「おうおう、サッサと広場に戻って、旨いもんでも食おうぜ!」
萎れているキリトを励ましながら、俺とユウキとキリトの三人で、あちらこちらを動き回り、十数分後にようやく転移門の近くにまで辿り着くことが出来た。キリトは、これからクライン達にも謝りに行ってくる、と言って何処かへ向かって行った。
なので俺とユウキは、またまた美味しそうなものを食べながら、ゆっくりと時を過ごしていた。そして、ユウキが何処かの屋台で黄金色に透き通った飲み物を二人分買ってきてくれた時、今年の終わりを告げる、そして新たなる年の始まりを告げる、カウントダウンが始まった。俺もユウキも周囲のプレイヤーと同様に、ノリノリでカウントを刻んでいく。
「3!2!1!…」
アルファ&ユウキ「ハッピーニューイヤー!」
周囲のプレイヤー達と声をハモらせながら、俺とユウキも息ぴったりに新年をお祝いする。ユウキが買ってきてくれたグラスで祝盃を上げ、俺はその飲み物に口を付けた。
すると口の中には、特有のあの苦味が一気に広がる。俺は顔をしかめながら、ユウキに質問した。
アルファ「…ユウキ、これアルコール?」
ユウキ「そうだよ」
アルファ「やっぱ俺は、アルコールはダメだな…」
ユウキ「えぇ~一年前から成長してないね~」
アルファ「うるせぇよ…」
…アルコールなんて、未成年の飲むものじゃないんだよ。例えゲームの中であっても法律は遵守すべきだ。などと言い訳を並べながら、アルコールが苦手な俺を見て愉快そうに笑うユウキを眺める。
…もしかして、アルコールが得意と言うことは、ユウキは成人してたりする…いや、見た目的にもその線は薄いな。なんて、失礼なことを考えていると、ユウキが話し掛けてきた。俺はまたまた心の内が読まれたのかと思い、胸がドキリとする。
ユウキ「アルファ…今年の抱負は?」
…今年は先に聞かれてしまったか。だけど、エスパーじゃなくてよかったぜ…。
アルファ「…そうだな……俺は、また来年まで生き残ることを、抱負にするかな」
ユウキ「そうだね。ボクもまた、来年まで生きることを目標にするよ…」
どうしてだろうか、上手く言葉に出来ないのだが、やっぱり、ユウキは俺よりも生きるということがどういうことなのか、ということを深く理解しているように見える。俺が曖昧に生きたい、と願っているのに対して、ユウキは生きる、と言う目標がより具体的なような、そんな意思を感じさせる一声なのだ。
俺がそんなことを思っていると、ユウキが再び話しかけてくる。だが、先程とは違って、その笑みと話し方は何処か意地悪だ。
ユウキ「……今年は、ボクのこと守ってくれないの?」
…なるほど。確かに去年は、俺が守ると約束していた。あの時の俺は、まだまだ考えが未熟だった。それ故の誓いだったのだろう。その代償としてたくさんのものを失ってしまったけれど、何とか約束を果たすことは出来たのか…。
オウガとサツキの遺志を継いだ俺が、ユウキを守りきることを放棄するわけがない。
アルファ「…それはもちろん言葉にせずとも。だけど、ユウキも俺のこと守ってくれよな」
ユウキ「…!もちろん!ボクもアルファを守るよ!」
俺もユウキと同様に笑いかけてそう返事を返すと、ユウキは輝く笑顔で言葉を返してくれた。