~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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 原作に寄れば、五十層のボスは仏像らしいですが、それだとここまでやって来た攻略組の精鋭達が追い込まれる姿を筆者には想像できませんでした。
 なので、今回は五十層のボスを変更してあります。多分、皆さんもよく知ってるアイツになっているので、誰だか楽しみながら読んでいただけると幸いです。
  
 では、どうぞ!


第56話 ハーフポイント

 アルファ「スイッチ!」

 

 ユウキ「ハァァァッ!」

 

 俺が石像男にわざと重攻撃を受け止めさせ、大きなブレイクポイントを作り出した。硬直を強いられた石像男にすかさず飛び込んだユウキは、そのまま片手剣ソードスキル<メテオブレイク>を使用して、その数七回に及ぶ華麗なる連撃を綺麗に決め切った。

 メテオブレイクは片手剣スキルの他に体術スキルをも会得していないと、使用することのできないレアなソードスキルだ。恐らく、キリトがクリスマスボスに止めを刺した際に使っていたスキルは、これだと思われる。ユウキの怒涛の連撃をモロに喰らった石像男は呆気なくその体力バーを全損させて、ポリゴン片へと変化した。

 

 アルファ「ナイス…出口はもう目の前だな」

 

 ユウキ「だからって油断はできないけどね」

 

 軽く拳を突き合わせてから、再び周囲を警戒して、足を進める。俺達は今、迷宮区タワーの一階におり、その出口を目指して歩いているのだ。現在の最前線は第50層、プレイヤーの間では、折り返しの意味も込めて、ハーフポイント、と呼ばれている。

 やはり、あの悲劇が起きた25層と同じく、50層の攻略も困難を極めていた。50層はフィールドにある罠と言えば毒の沼ぐらいで、25層と比べれば優しいもんだが、その難易度を向上させているのは、モンスターの強さにあった。フィールドにはスライムからコウモリ、キメラみたいな鳥型モンスター、首狩り族のような奴らから、ゴースト系まで、他の層とは比べ物にならないほど出現するモンスターの種類が多彩だ。

 フィールドボスはゴーレム、攻略の関係上無視できなかったフィールドダンジョンのボスは四足歩行のドラゴンと、どちらもプレイヤーの間で最も使用率の高い斬撃系の武器が効力を発揮しにくい、堅い防御力を備えた厄介な奴らだった。そして迷宮区タワーの内部には、今さっき闘っていた石像男や中身のない鎧兵などが登場し、中ボスとしては鎧の騎士が出現した。迷宮区タワーの上層部では、フィールドダンジョンに登場したボスのドラゴンの上位種が出現しており、純粋にモンスターが強力な階層となっている。

 また、この層ではトレジャーボックスに今までになかった罠が仕掛けられていて、鍵が付いていないと思ったら、トレジャーボックス自体がモンスターで不意打ちを喰らってしまうなど、そういう面でも面倒臭い。今の所、死亡者は出ておらず、25層よりはマシな難易度だと捉えられているようだが、その評価がどう変わるかは、フロアボスの難易度次第だろう。

 もう直ぐ第五十層フロアボス攻略会議が始まる時間だ。迷宮区タワーの外に出た俺とユウキは、早足に主街区へと向かって行った。集合場所の広場へ辿り着くと、黒衣の剣士と赤いバンダナの武士が挨拶してくる。

 

 クライン「よぉ、アルファ!それにユウキちゃんも!」

 

 キリト「久しぶりだな」

 

 ユウキ「二人共生きてたんだね!」

 

 キリト「フレンドリスト見たら、分かるだろ?」

 

 クライン「俺は可愛い彼女さんを見つけるまでは死ねないぜ!」

 

 アルファ「…その様子だと、仲直りできたんだな?」

 

 キリト「ま、まぁな…」

 

 クリスマスの時のような歯車のズレた間柄ではなくなっているのを見て、俺も一安心した。四人で適当に雑談していると、エギルも攻略会議にやって来た。エギルが、この層を踏破したら店を開く、と言ったことに対して、クラインが、それは死亡フラグだろうがとツッコむと、キリトとユウキは楽しそうに笑っていた。そんなこんなでこの場に全員が集合したようで、アスナが攻略会議を仕切り始めた。

 血盟騎士団が派遣した偵察部隊の情報によると、今回のフロアボスは、左手には奇妙な形をした木製の杖を持って、全身は紫紺色のローブを纏い、首からは真ん中に大きな深紅の宝石をはめ込んだネックレスを垂らした怪人のような姿見をしていたという。その魔導士然とした見かけ通りに、火球や氷の槍、雷を降らしてきたりなどの魔法系の攻撃を仕掛けてくるらしい。

 こちらは剣の世界だと聞いて、遠距離攻撃である魔法なんてものは一切使えないし、そもそもこの世界からは魔法が失われた、という設定だった気がするのだが、ボスはそんなことはお構いなしだというのだろうか、それはあまりにアンフェアではないだろうか、と思い、隣に座っていたキリトにそのことを訊ねると、どうやらこのボスは、大地切断が起きるよりも以前の古来から全身に魔力をため込んでいるという設定らしく、その魔力のお陰で魔法攻撃が出来るとか。だったら、魔力が切れるまで粘ってやろうかとも思ったが、それも無理な話だろう。

 再びアスナの話に耳を傾け始めると、氷の槍を喰らえば、凍結状態のゲージが蓄積するのと、雷攻撃は掠すればスタン状態に、直撃すれば麻痺状態に陥ってしまうらしく、出も速いことが脅威になってくるとのことだった。今回のフロアボス戦は、ハーフポイントであることも考慮して、万全を期して挑まねばならない。レイドメンバーも精鋭中の精鋭を余すことなく構成して、絶対に死者が出ないように、フロアボス討伐を成し遂げることを誓い、今日の攻略会議が終了した。

 これからの時間は、派手なレベリングなどはせず、明日の午後二時から始まるボス戦に備えて、コンディションを整えるために使うべきだろう。今からレベル上げに勤しんでも、1レベルも上げることも出来ないだろうし、いい理由付けにもなる。

 

 アルファ「…そういや、キリトってアスナに何かしたのか?」

 

 ふと、未だにキリトに対してピリピリしているアスナのことを思い出して、ここから去る際に、キリトにそう訊ねたのだが、キリトは不思議そうな顔をしながら俺に答える。

 

 キリト「…いや、そんな覚えはないけど…でも、今回のフロアボス戦はあれぐらい緊張感を持ってた方がいいんじゃないか?」

 

 アルファ「…ま、思い当たる節があるなら、謝っておけよ」

 

 キリト「…無いと思うけどなぁ…」

 

 ポリポリと頭を掻きながら、今日は用事があるから、と言ってキリトは何処かに歩き去って行った。

 俺とユウキも、いつも通り第二十二層へ転移して、いつも通りデュエルを初めて、いつも通り俺の敗北に…いや、今日は珍しく俺の敗北に終わっただけだ。

 とにかく、デュエルを終了させた俺達は、リズベットに武器防具の研磨及び強化をお願いしに行った。リズベットが一生懸命ハンマーを振ってくれたおかげか、俺とユウキの強化も無事成功し、文字通り現時点で最強の装備を整えることが出来た。

 続いてアイテムの不足をチェックするが、回復結晶や解毒結晶はNPCが販売していないため、今から補充することは出来ない。一応、プレイヤーオークションにも目を通してみたが、残念ながら結晶アイテムは売りさばかれていなかった。出来ることなら回復ポーションを全て回復結晶に取り換えてしまいたいが、それは諦めるしかない。

 俺のコートの耐久値を復活させるために、仕方なくタイラの店に寄ってやった。明日が五十層のボス戦であることを伝えると、珍しく俺達を揶揄うことなく、気をつけてくださいね、と純粋に心配された。明日は雨が降りそうだ。

 それから、俺達はユウキお気に入りのステーキ屋さんで美味しい晩御飯を頂く、ユウキはレアステーキに完全にドハマりしたらしく、初めてレアステーキを食べた日から、2週間に一回は必ずレアステーキを食べている気がする。明日への活力を付けるために、今日は少し贅沢して高めのステーキを堪能してから、俺達はギルドホームへと帰宅した。

 珍しく、ユウキが一番風呂を明け渡してくれたので、有難く先にお風呂に入らせてもらってから、明日に備えて眠りにつく。…ことは出来ず、俺はベッドの上でなかなか寝付けずにいた。

 

 「」ピコンッ

 

 メッセージの着信音が鳴り、俺は徐にメッセージを確認する。差出人はアルゴで、内容は、ボスに関する新しい情報はなかった、という俺が頼んだ情報と、太陽の戎具と月光スキルについて新しく分かったことは無いカ?という質問だった。

 今の所、太陽の戎具には変形機能を持つ破格の武器、と言うことぐらいしか分かっていないし、月光スキルも衝撃波を飛ばすスキルと、タッグへのバフ、そして自身へのバフを乗せる、といった効果しかまだ解放されていない。バフ関連のスキルが多いことから、月光スキルは補助的なスキルという枠組みにあるのかもしれない。

 アルゴに、まだ何も分かってない、と送信してから、再び夢の世界へ入ろうとするが、やはり俺の目は冴えたままだった。いや、冴えたまま、というよりは、明日が来ることを恐れているだけだろう。

 …少し、夜風に当たるとするか。そう考えた俺は、ギルドホームの外へ出ようと、玄関に向かうためにリビングへと降りて行った。するとリビングには、ユウキが安楽椅子に掛けていた。こちらに気が付いたユウキは、眠そうに俺に声を掛ける。

 

 ユウキ「…ん…寝たんじゃなかったの?」

 

 アルファ「ちょっと寝れなくてな…ユウキこそ、そろそろ寝ないと身長伸びないぞ」

 

 ユウキ「余計なお世話だよ…アルファこそ早く寝ないと、身長伸びないじゃん」

 

 アルファ「…まぁ、そうだな…」

 

 俺がリビングを去ろうとした時に、不意にユウキが訊ねる。

 

 ユウキ「……不安?」

 

 ユウキに心の内を見透かされたことに、一瞬肩をビクつかせてしまう。…まぁ、一年も一緒に居れば、それぐらいはお見通しか…。観念した俺はユウキの問いに答える。

 

 アルファ「……そりゃ、不安だ……二十五層みたくなったら、俺は…」

 

 そうだ。不安なんだ。何とか乗り越えられたと思ってたのに、節目の第50層のボス戦を思うと、どうしても二十五層での出来事が脳裏に焼き付いて離れない。俺がオウガとサツキを死なせてしまったように、俺はまた、今度はユウキを見殺しにしてしまうのではないかと、そう思う心が消えてくれない。

 前よりもレベルは高い、装備やスキルだって大きく成長した、それに今回は、どんな慢心も持っていない。だけど、それでも、万が一、と言うことはあり得る。俺はそれが怖くて、明日が来ればその瞬間が訪れるかもしれないから、それならいっそ夜なんて明けなければいいんだと、眠れないでいるのだ。

 

 ユウキ「……大丈夫だから…安心して…」

 

 そう言って彼女は、俺の右手をその小さな両手で包んでくれた。彼女の暖かさに触れると、不思議と心のうちに渦巻いていた不安が溶けていく。

 …守ると決めたはずのユウキに守られてしまうなんて、俺はまだまだ未熟だな…。自分の弱さに呆れながらも、部屋に戻ってベッドに横たわった俺は、今度はすぐに眠りに落ちて行った。

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 ヒースクリフ「──では、行こうか」

 

 午後二時、ちょうどその時間ピッタリに、ヒースクリフは集合地点に集まったレイドメンバー達にそう告げた。ヒースクリフが右手に濃紺色の結晶を掲げて、コリドー・オープン、と唱えると、ヒースクリフの前に、青く揺らめく光の渦が出現する。

 

 ユウキ「あれが回廊結晶?」

 

 アルファ「…たぶん、そうなんだろうな」

 

 結晶アイテムには、定番の回復結晶、解毒結晶、転移結晶に加えて、記録結晶や録画結晶なども存在するが、中でも現時点で最もレアだとされているのは回廊結晶と呼ばれる結晶アイテムである。

 回廊は転移結晶と同じようにプレイヤーを何処かの空間へ転移させる代物なのだが、転移結晶と違う点は街中やダンジョンなどを問わずに指定した任意の座標へ移動できることと何人でも移動できることだ。

 そんな超レアアイテムを使うとは、ヒースクリフもあんな余裕気な顔をしていながらも節目のフロアボス戦を脅威と見なしているから他ならないだろう。

 

 ヒースクリフ「ポイントはボス部屋の前に設定してある、付いてきてくれ」

 

 ヒースクリフに続いて、レイドメンバーの面子が張り詰めた緊張感を醸し出しながら、青い渦へと進んでいく。俺とユウキも同じように転移すると、すぐ目の前にボス部屋を表す大扉が見えた。

 今回のボス戦でも指揮を執るアスナが、アイテムなどの最終確認をしているレイドメンバーに向かって危険なポイントを再三伝えていく。そして、遂にその時が来た。

 

 アスナ「総員、配置に!」

 

 ヒースクリフがいつもと何ら変わらない様子で開け放った大扉に、レイドメンバーがドタドタとなだれ込む。素早く配置についたレイドメンバーは恐らく、これまでの中でダントツに強いであろう第五十層のフロアボスが出現するのを、心臓をバクバクさせながら、今か今かと待ち構えていた。

 すると、四方八方から青い光が集まって行き、頭の左右をブーメランのようにとがらせた、青い顔に黄色い目をした怪人が現れた。

 

 「わしが、王の中の王であるッ!」

 

 ユウキ「しゃべった!?」

 

 突然、ボスが言葉を放った。NPC戦では、相手も言葉を話してくることもあるが、フロアボスはこれまでには一度も言葉を使うことは無かったのだ。ハーフポイントのボスとは、それだけ特別な存在であるということだろう。

 ボスが言葉を放ち終えると、体力バーが五本出現した。だが、何故か名前が表記されるところは空白のままであった。いつもとは違う様子に、俺は不吉な予感を覚えつつも、臨戦態勢に入る。

 早速、名無しのボスがまるで小手調べだと言わんばかりに火球をレイドメンバーに向けて数発放ってくる。ある者はそれを受け止めて、ある者はそれを回避した。ボスは隙を見せることなく、今度は地を這う黄金に輝く炎で攻撃してきた。レイドメンバー達は、これもまた回避するなり、盾で受けるなりして、その場を凌ぐ。ボスは痺れを切らしたのか、宙に冷気を収縮させ、俺達の頭上に氷の槍を飛ばしてきた。そこで力を使い切ったのか、一瞬、ボスの攻撃の手が緩む。

 

 アスナ「今よッ!」

 

 優秀な指揮官であるアスナがそれを見逃すはずもなく、氷の槍に対処しきったレイドメンバー達に指示を出した。ディーラーはボスの身体に張り付いて、ソードスキルを決める。魔術師風のボスとは言っても接近戦もこなせるようで、右手に持つ杖で足元を薙ぎ払ってきた。ディーラーはそこで一旦タンクの後ろへ引いて、次のブレイクポイントを待つが、出来るディーラー数人は薙ぎ払いを上手く躱してから、もう一撃加えてこちらへ戻ってくる。

 再び防御態勢を整えた俺達に向かって、ボスは雷を落としてきた。確かに出は速いが、避けられないほどでもない。何人かは雷を掠めてしまったようでスタン状態に陥った。ボスがすぐさま火球による追撃を試みるが、動けるタンクがスタン状態のプレイヤーを庇うという連携プレーで応戦する。

 俺達はそのまま、ボスとの緊張の一戦を繰り広げていく。体力が半分になった時に雷攻撃を三連続で行うという新たな行動パターンを見せ、それによって陣形を崩され、少々危ない展開に陥るも、レイドメンバー達は何とか持ち直して、果敢にボスに攻撃を仕掛けていった。

 体力バーがラスト一本となったところで、フィールドダンジョンのボスとして君臨していたドラゴンの亜種を召喚し、レイドメンバーの戦力分断を強いられたが、そこも何とか切り抜けた。ボスとレイドメンバーの間で、一進一退の攻防が繰り広げられる。

 そして遂に、ボスに生まれた隙を突いて、総攻撃を仕掛けたことでその体力バーを全損させることに成功した。ボスはその巨体をポリゴン片に変えて、四散していった。目の前にはリザルト画面が出現する。一瞬、ボス部屋に静寂が訪れるも、次の瞬間には歓喜の絶叫が鳴り響いていた。

 

 「「うおおおおおおお──ッ!!」」

 

 いつもより一層騒がしいのは、鬼門とされていた第五十層のフロアボスで死者を出さずに攻略に成功したという事実から来ているのだろう。だが、俺にはどうも妙な違和感が身体にこびり付いていた。

 …二十五層のボスは、こんなもんじゃなかった。もっとこう、レイドメンバーに絶望を叩き付けるような悍ましい強さを誇っていた。今回のフロアボスよりも数倍強く感じていたのだ。

 …ボスが弱く感じたのは、俺達が成長したから?それともレベルも装備も情報も万全の状態で挑めたから?違和感の正体はリザルト画面に表示されるコルとアイテムのショボさが原因なんだろうか。

 独り歓声も上げず、ただその場で固まっている俺を心配したのか、ユウキが声を掛けてきた。

 

 ユウキ「アルファ?どうかしたの?」

 

 アルファ「……いや、何でもない…」

 

 …そうだ。ただの気のせいなんだ。俺達はあの頃よりも何倍も強くなって、フロアボスに挑んだのだから、これぐらい簡単に感じても可笑しくはないのだ。俺はそうやって自分を納得させて、ユウキと生き残れたことを喜び合おうとしたその時、全身に電撃が走り、俺は違和感の正体に気が付く。

 

 ──コングラチュレーションの文字が表記されていない!?

 

 まさか──

 

 キリト「みんな、まだ終わってないッ!!」

 

 俺がその答えに気が付いた瞬間、キリトがその答えを叫んだ。だが、周囲のプレイヤーの歓声にキリト一人の声は搔き消されてしまう。そして、周囲に四散したはずの青いガラス片が次第に中央へ集まっていき、ボスが出現した。

 

 「グルラァァアア──ッ!!」

 

 柔軟さと硬質さを併せ持った鱗、長く太い尻尾、二足歩行の両手両足には、何かを切り裂くために生えているであろう黒いかぎ爪、全身は紫色の鱗で覆われており、腹部は橙に近い黄色、目は赤く染まり、背中には黒い翼が、頭に生えた二本の角は炎色で、鼻の上からは角がもう一本生えてきていた。

 体力バーは五段で、名前は<Doragon Load>竜の王といった所だろう。多くのレイドメンバーにとって、この事態は想定外だったらしく、大多数の人間が竜の王が醸し出すその圧倒的な風格を見つめたまま、動けないでいた。

 

 ヒースクリフ「固まるな!距離を取れ!」

 

 ヒースクリフが鋭い声を上げ、レイドメンバー達に指示を出す。恐らく、彼がボス戦に参加して初めて、周囲のプレイヤー達に指示命令の類のものを出したのではないだろうか。

 固まっていたレイドメンバー達は、意識を取り戻して動き出そうとしたが、もう遅い。竜の王はその長い尻尾を振り回して、周囲のプレイヤーを吹き飛ばした。俺とユウキはそこから少し離れた場所にいた為、何かしらのアクションを取る必要はなかったが、中央の方に居たプレイヤー達は極僅かの者しか、回避行動を取れていなかった。

 その攻撃は重かったようで、三人のプレイヤーが即死する。

 

 アルファ「ッ!」

 

 変身だか、復活だか、はたまた最初からこっちが真のボスだったのかは分からないが、とにかく、ハーフポイントのフロアボス戦はまだ終わっていなかったということだ。俺は一気に緊張感を高め、ボスとの第二ラウンドを覚悟する。

 竜の王は未だに混乱状態にあるレイドメンバーを踏みつけたり、切り裂いたりと先程までの戦いは前哨戦であったと言わんばかりにやりたい放題している。そして、一人のタンクプレイヤーをヒョイっと器用に宙に投げたかと思うと、その鋭い牙を生やした口を大きく開けて、タンクプレイヤーを嚙み砕いた。

 

 「……ぁ…助け──」

 

 そのプレイヤーは最後まで言葉を続け終える前に、その命を散らした。この世界には流血表現などはないが、もし仮に流血表現がなされていたのなら、竜の王の口からは赤黒い鮮血が流れているはずだ。

 そして、竜の王はまるで流血を表すかのように、口の中から煮えたぎるような赤と黒の血煙を漏らし始めていた。竜の王は姿勢を前傾姿勢に変えて、口から燃え盛る灼熱の獄炎を吐き出す。

 

 ヒースクリフ「防御態勢を取れ!」

 

 このボス部屋全体を覆いつくすほどの勢いで獄炎が迫ってくる。それはもちろん俺とユウキが居る場所も例外ではなく、近くにいたタンクプレイヤーの大盾の後ろに隠れさせてもらってその上ソードスキルの風圧で獄炎を切り払う。

 まるでさっき召喚されたドラゴンが吐き出していた炎はただの火の粉だと、そう思わされるほどの熱さと威力を兼ね揃えている。十数秒に渡る灼熱の獄炎が終了したとき、異常が起きた。

 

 「うわぁぁぁぁぁぁぁ──炎が、炎が消えないッ!?」

 

 目の前で、俺達を支えてくれていたタンクの男が、目を血走らせながら、そんなことを叫んだ。男の身体をよく見ると、所々から炎が滲み出る様なエフェクトを纏っている。──新手のデバフか!?

 

 アルファ「状態異常回復アイテムを使えッ!」

 

 俺が慌ててそう答えると、男は思い出したようにストレージを開き、解毒結晶や状態異常回復ポーションを取り出した。そして男は、解毒結晶を使おうとしたり、ポーションを飲んでみたりとするが、炎のエフェクトが消えることは無い。

 

 「効かない…どれも効かないッ!?」

 

 アルファ「─なッ」

 

 解毒結晶は毒系のデバフしか解除できないことは理解できるが、ポーションの類まで何の効果もないというのか。それでは打つ手がないじゃないか。男は俺のコートを掴んで、救いを求めるように俺に縋りついてくる。

 

 「なぁ助けてくれ!?俺はアンタのこと守ってやっただろ!?なぁ、頼むよ!?死にたくねぇ!!」

 

 男の必死に生を求めて藻掻き続けるような瞳を見た俺は、何も言えなかった。周囲を見渡すと、この男のように炎のデバフを喰らった奴らが何人もいるようで、レイドメンバー全員が半狂乱のパニック状態に陥っていた。

 そんな中でも竜の王はお構いなしに暴れており、中央に居座るプレイヤー達やスイッチが出来ないディーラー達をドンドン殺しまわっている。僅かながらのプレイヤーが竜の王の足止めを行っているが、それも時間の問題といった所だろう。

 その時、ふと誰かが叫んだ。

 

 「──転移だッ!転移して圏内に戻れば、デバフが解除されるはずだッ!」

 

 そう言い終えてその曲刀使いは、一目散に転移結晶を使って、何処か主街区へ飛んで行った。それを見たほかのプレイヤーも我先にと転移結晶を使用していく。俺とユウキの前に居たタンクの男も、希望を見たようにアルゲードへ転移していった。

 

 アスナ「ダメッ!そんなことしたら戦線がッ!」

 

 「もう無理だ!俺は離脱する!」

 

 「悪く思うなよ!仕方ないんだ!」

 

 このフロアボスの指揮を担当するアスナの指示にも従わず、次々とレイドメンバーがボス部屋から転移していった。取り残されたまだ無事なプレイヤーも、これ以上ここに居ても竜の王に殺されるだけだと、次から次にこの場から離脱していく。

 そしてこの場に残ったレイドメンバーは僅か二十人足らず、いや、今の竜の王の攻撃でまた一人死んだから十数人、か。この人数では、とてもじゃないがボス攻略なんて無理難題だ。レイドメンバーの全滅も、もう目の前まで迫ってきている。

 …今ならまだ、ここからユウキを連れて何処かに転移する余裕がある。ユウキを死なせない為には、他の誰を犠牲にしてでも俺は、俺自身が──。

 徐にポーチに手を伸ばした俺は、その中にある転移結晶を握って、ユウキに、ここから逃げよう、と声を掛けようとしていた。だが、先にユウキが俺を制止した。

 

 ユウキ「…駄目だよ。闘わなきゃ」

 

 アルファ「で、でも──」

 

 ユウキ「ボクは、誰かを犠牲にしてまで生き残るわけにはいかない…ボクはボクの、やれることをやるだけだよ」

 

 アルファ「……そうだよな。ワリィ、ちょっと弱気になってた」

 

 ユウキ「うん!行くよ!」

 

 アルファ「おう!」

 

 ユウキはメニューウインドをいじるような手の動きをしている。恐らく、月光スキルを使うつもりなのだろう。

 …俺は、ユウキが前線に立ち続ける限り、ユウキを守り切ると、オウガとサツキに誓ったのだ。ならば、ユウキの意思を無視して、ユウキを守り切っても、それは彼らの遺志を果たしたとは言えない。

 両手で頬を叩いて、気合を入れ直した俺は、ボスのタゲを取るために駆けようとした。だが、その瞬間に血盟騎士団団長、ヒースクリフがその身を覆い隠す程の巨大な盾を構えて、ボスの攻撃を受け止め切ったのだ。

 

 ヒースクリフ「私が時間を稼ぐ!その間に陣形を立て直して、誰かが補充の部隊を呼んできてくれ!」

 

 ヒースクリフはそれだけ言うと、長身の剣を構えて、見たことの無いソードスキルを繰り出した。それにボスが怯んでいる間に、再び防御態勢を取り直す。

 …まさか、ヒースクリフもユウキと同じようにスキルを隠し持っていたのだろうか。

 

 ヒースクリフ「恐らくこのボスは、囲めば範囲攻撃を、離れすぎるとブレス攻撃を仕掛けてくる頻度が上がるはずだ!出来るだけ適正な位置を保て!」

 

 ヒースクリフはあろうことか、たった一人でボスの攻撃を捌き続けていく。周囲に残ったプレイヤー達は、一瞬、その圧倒的な強さに目を奪われるも、すぐさま動き出した。血盟騎士団に所属するプレイヤーが補充の部隊を呼んでくる、と転移結晶を使用してこの場を離れた。

 残りのプレイヤーの半数は、回復に専念している。炎のデバフは時間による解除のようだ。動けるプレイヤーは、ヒースクリフがボスのタゲを取り続けている間に、攻撃を仕掛けに向かった。キリト、アスナ、エギルにクラインが、竜の王の足元に斬りかかる。それを不快に感じ取ったのか、竜の王は尻尾を振り回してきた。

 だが、それをヒースクリフがまたしても、一人で受け止め切る。そこで生まれた隙を突いて、俺もソードスキルを尻尾にぶち込んだ。

 

 ユウキ「スイッチ!」

 

 ユウキの掛け声を聞いて、俺はその場から引くと、ユウキが半透明の衝撃波を剣から放ち、ボスに確かなダメージを蓄積させる。

 

 キリト「な、なんだあれは!?」

 

 アルファ「後から説明してやるよ!」

 

 アスナ「何としても、持ち堪えるわよ!」

 

 そこから援軍が駆け付けるまで、ボスのタゲは延々とヒースクリフが取り続けた。その時間は、凡そ十分間といった所だろう。そしてその間に、的確にダメージを与え続けられたのは、ユウキの月光スキルのお陰だ。援軍が到着してからは、再び陣形を立て直して、竜の王の討伐に挑む。

 数十人による攻撃だというのに、闘いは一時間にも及んだ。補充の部隊から数人、死者が出たものの、キリトの一撃によって竜の王は討たれた。

 そしてこの日を境に、ユニークスキル<神聖剣>を保有するヒースクリフと同じくユニークスキル<月光>を手に入れたユウキの名は、アインクラッド中に轟くこととなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ハーフポイントは、ユウキとヒースクリフのユニークスキルのお披露目会と化しました。

 では、また第57話でお会いしましょう!

 
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