~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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 ほぼ説明回です。


第58話 立場逆転

 第五十層でのフロアボス戦で、十人もの死亡者を出してしまったことから、攻略組は大きく後退を強いられた。なお、攻略組の踏破スピードが落ちた原因は、死亡者が出たからだけではない。戦線からの勝手な離脱、この出来事が各ギルド内、延いては攻略組内においても、不和を呼び寄せてしまった。

 転移結晶を持っているということは、いざという時に死の危機から逃れられるという点では優秀だが、今回はそれが逆目に出て、未知の炎のデバフに怖気づいたプレイヤー達がボス部屋に残るプレイヤー達を見捨てる形で、その場から消えてしまったのだ。

 ボス戦自体はなんとか、辛勝できたものの、ボス部屋に残って竜の王との激闘を制した者達とボス部屋から逃げ出した者との間で、対立構造が出来上がってしまったことなど、言うまでもない。そのせいで、第五十一層の攻略が行われる前に、勝手な離脱を図った者達に罰を与えるギルドもあったとか。

 肝心の第五十一層の攻略も、中々周りのプレイヤーとの連携が上手く取れないせいで、攻略ペースは大きく落ちていた。…そりゃぁ、今まで無償で背中を預けていた人たちに裏切られたことを思えば、疑心暗鬼に陥ってしまうのも仕方がないのかもしれない。

 続く第五十二層の攻略では、周りのプレイヤー達が少しずつ、お互いを信じるようになったようで、段々と攻略ペースも上がって行っていた。だが、第五十二層でのフロアボス戦では、まさかのヒースクリフが欠席。

 …まぁ、あの男のことだから、万が一自分がいなくなったとしても戦線を支えられるようなタンク部隊を作り上げよう、とか目論んでいただろう。

 五十二層のボス攻略は普段通り順調に進んでいったのだが、ボスが最後の最期で、体力が七割あれば三割に、九割あれば一割に、逆に四割あれば六割に、とプレイヤーの体力ゲージの量を反転させるという、これまた謎のデバフを仕掛けてきたのだ。幸い、体力が十割満タン状態のプレイヤーはそのデバフの影響を受けなかった。

 流石に、十割を何のヒントもなしにいきなりゼロにするのは、余りにもひど過ぎると、開発陣は判断してくれたようだ。もし、その配慮が無ければ、今頃俺はこの世界から退場する羽目になっていた…。

 第五十二層でのLAを手にしたのは、ディアベルだ。ディアベルは死の淵に瀕していたリンドを救うために、ボスの攻撃に対して、捨て身とも思える無謀な防御を仕掛けたのだが、その時、ディアベルの盾が眩い黄金の輝きを放ち、ボスの攻撃を受け止め切ったかと思うと、今度は右手に持つ片手剣に碧い輝きを纏いながら、ボスを縦一閃に貫いたのだ。

 ボス戦が無事に終了した瞬間、ディアベルは、他のレイドメンバーに、色々と質問攻めされつつも、一部のプレイヤー達がディアベルを胴上げしたりと、久しぶりに騎士ディアベルが攻略組に舞い戻ってきたような感覚を抱かされた。ディアベルの話によると、手に入れたスキルは<ナイト>スキルと言うものだったようで、入手方法は第二十八層の主街区で受けられるクエストらしい。この話は直ぐにアインクラッド中に轟き、神聖剣、月光に続く第三のユニークスキルか!?と噂された。

 しかし、結果としてはユニークスキルではなく、エクストラスキルであった。だが、その習得条件が、片手剣スキルと盾スキルの熟練度をどちらも900以上にすること、ギルドマスターであること、というものに加えて、あと一つ何らかの、未だ判明していない条件を達成することで、<ナイト>スキルを習得できるという驚異の難易度を誇っていた。

 更に、同じ<ナイト>スキルでも、使用者によって最初に手に入るソードスキルが違うらしく、習得条件の厳しさも相まって準ユニークスキルと言う扱いをされている。ギルドマスター、と言う点は、ギルドを設立すれば事足りる話ではあるが、熟練度900以上、というのは、攻略組以外にはおいそれと達成できるものではない。

 武器スキルを四つ扱うという異質な性質上、攻略組の中で一番熟練度上げに勤しんでいるという自負がある俺も、両手剣スキルの熟練度は933、片手槍、カタナ、片手剣スキルはどれも800台というのが現状だ。熟練度は1000が上限らしく、各種武器スキルを熟練度1000にまで上げれば、そのスキルをマスターしたものとみなされるらしい。

 因みに、自慢ではないが、俺はあるスキルの熟練度をつい昨日にカンストさせた。そのスキルとは、瞑想スキルである。元々、覚醒術のクエストをクリアしたことで熟練度が最初から500も貰えていたのだが、肝心の瞑想スキル自体は使う機会があまりなく、中々熟練度を上げられないでいた。それでもボス戦やらデュエルやらなんやらで、覚醒術を使い続けてきた俺は、とうとう、恐らくアインクラッドで一番に、瞑想スキルをコンプリートすることが出来たのだ。

 瞑想スキルをコンプリートしたことで新たに加わった能力は、一戦闘ごとに一度だけ状態異常を無効化する、という、ぶっちゃけ扱いづらい能力であったが、まぁ、無いよりはマシだ。刺さる場面には刺さる能力だろう。あと、最近キリトも片手剣スキルをマスターしたらしい。それで手に入った十連撃の最上位スキルはめっちゃ強そうだった。その爽快感に見惚れたユウキも俺も、躍起になって片手剣スキルの熟練度上げに励んでいる。

 …両手剣スキルは、一撃が重い代わりに、連撃数が低く設定されがちだ。多分、この調子でいけば六連撃ぐらいが限界だろう。…と、話が逸れてしまったが、兎に角、攻略組の中で再び輝きを取り戻したディアベルは血盟騎士団のヒースクリフと共に、攻略組の中心的存在へと昇格、いや、再臨したわけだ。

 虫の良い話だが、ディアベルに命を救われたリンドや、DKBに所属していた一部のプレイヤーが再びホープ・オブ・ナイツに加入、それに合わせて、DKBは解散したが、ホープ・オブ・ナイツに加入しなかったプレイヤー達と、DID、そしてその他のギルドが合併して、アインクラッドで最強を目指すという志を掲げた、ギルド<聖龍連合>が誕生した。

 ディアベルは連日、アインクラッドで新聞を発行しているプレイヤーや情報屋達に追い掛け回されているらしい。可愛そうにも思えるが、それは俺も経験したことなんだ。何とか頑張って耐えてくれ…。…いや、俺が経験した、というよりは、ユウキが追い掛け回されているのに巻き込まれた、という表現の方が相応しいだろう。

 俺はまだ、太陽の戎具の変形機能については秘匿したままだが、それを一生公開しないでいてやろうか、と思わされるぐらいあれは大変な日々だった。恐らく、同時期にユニークスキルを披露したヒースクリフも似たような目に遭ったのかもしれないが、あちらは大手ギルドだ。護衛なども付いていたせいか、そこまでヒートアップした取材にはならず、ある日気が付いたらスキル項目に出現していた、という簡単な説明だけで事が済んだらしい。

 対して俺達は、大手ギルドでもなんでもないわけだから、当然護衛してくれる人がいるわけでもなく、何処からともなく湧いて出てきた記者モドキのプレイヤー達に後を付けられては、何処で手に入れたのか?どんなスキルなのか?女の子だったんですか!?などと質問攻めに遭い、スキルの大まかな説明と四十四層主街区のクエストで手に入ったことをユウキが伝えると、その日は何とかそれだけでお引き取り願えた。

 だが、翌日には、クエストが見つからない、とか、隣にいる美少年は誰なんですか?とか色々とどうでもいい質問をしてきたのだ。しかもそれが明日の記事になるのだから恐ろしい。ユウキは慌てつつも丁寧に彼らの質問に答えて行ったのだが、その翌日、また翌日とプレイヤーがユウキの下へ訪れてくるうちに、流石のユウキも、とうとうそれに疲れたのか、その場から一目散に逃走した。

 だが、記者共はあろうことか追跡スキルと隠蔽スキルの熟練度が非常に高く、あっちに逃げても現れ、こっちに逃げても現れ、と散々な目に遭わされた。多分、あの追いかけっこの中で索敵スキル及び隠蔽スキルの熟練度が結構上がってる…。

 どうしようもなくなった俺達は、約束通りアルゲードで店を開いたエギルの雑貨店に逃げ込んで、一時はそこからわざわざ転移結晶を使用して、ギルドホームへと帰宅せねばならぬほどだった。流石に、ギルドホームの場所までバレてしまって、安らかな平穏が脅かされてしまってはこちらとしても辛い。

 幸い、ギルドホームの場所がバレることは無く、最近は普段通りの生活を取り戻すことが出来ていたのだが、今日はある事情で、色々と身の回りが騒がしい。そういうわけで俺は今、こうしてベンチに掛けながら長々と日々の振り返りをして時間を潰しているのだが、それはようやく終わりの気配を見せてくれた。

 

 「月光ちゃん!頑張ってね!」

 

 ユウキ「うん!ありがと!」

 

 どこぞの馬の骨とも知れん、前線では見たことの無いようなプレイヤー、恐らく、装備からしてミドルプレイヤーがユウキに小包を渡して、その場を去っていく。今日は、今のプレイヤーのように、ユウキに小包を渡しては、何処かへ去っていくプレイヤーが大量発生しているのだ。

 その数は…数えることすらウンザリして、途中でやめてしまったが、その時点でも30は超えていたはずだ。朝起きて最前線へと繰り出せば、最前線の主街区で、お昼休憩に何処かのお店に向かおうとすればその道中に、挙句の果てには、レベリングを終えて陽が落ち始めた今の時間帯にも、ユウキに小包を渡すプレイヤーの勢いは止まらなかった。

 ようやく、最後の一人がユウキに小包を渡し終えたのを見て、俺はベンチから跳ね上がって、ユウキの下へ行く。

 

 アルファ「今の奴は戦闘力たったの3だ。やめておけよ」

 

 ユウキ「…何様?」

 

 アルファ「ユウキの保護者」

 

 ユウキ「どっちかと言えば、ボクがアルファの保護者だと思うけどね」

 

 アルファ「それだけはない…っていうか、結局何個貰ったんだ?」

 

 俺が冗談を挟んでから話を切り出すと、ユウキは自慢げな顔でニヤリと笑いながら、俺に宣言してくる。

 

 ユウキ「ざっと、100個ってとこだね!」

 

 アルファ「…へぇー」

 

 …百個かぁ~。俺もそんなに貰ってみたい人生だったなぁ~…。

 

 ユウキ「…なに?悔しいの?」

 

 アルファ「いや…」

 

 俺が心の内でそんなことを思っていると、ユウキが更にニヤニヤと楽しそうににやけながら、俺を煽り立ててくる。

 

 ユウキ「まぁ、そうだよね~。バレンタインデーなのに、男の子であるアルファは一つもチョコを貰えなくて、女の子であるボクはいっぱい色々貰えちゃったもんね~?そりゃ悔しいに決まってるよ!」

 

 アルファ「うっざ。過去一ウザイわ今の」

 

 そう、本日は2月14日。アインクラッドでの二度目のバレンタインデーだ。バレンタインデーとは本来、女性が男性にチョコレートをプレゼントする日…いや、本来はカップルが愛を祝う日であり、贈り物は何でも良いのだが、日本ではチョコレートを渡す、というのがある意味一種のプロパガンダとして、お菓子会社の策略によって築き上げられたとかなんとかだったはずだ。

 だというのに、最近では、男性が女性に対して逆チョコ、なんてものをする傾向が出来上がっていた。それは悲しい事にも、SAO内でも受け継がれていたらしく、バレンタインデーであるはずの今日に、ユウキはそれはもう大勢の男性プレイヤーからチョコなりお菓子なりを貰っていた。

 恐らくその理由は、ユウキがユニークスキルを取得したことが公になった際の新聞などで、顔写真を載せられていたことが原因にあるのだろう。

 …確かに、ユウキは結構というか相当可愛らしい顔をしているわけだし…じゃなくて、全く、本人の許可なく濫りに風貌を第三者に見せつけるなんて、肖像権とかプライバシーの権利の侵害で訴えられるぞ。

 そして、本当ならば主役であるはずの俺は、チョコなんて一欠けらも貰えていなかった。しかも今年は、去年とは違ってモンスターを倒せばチョコがドロップする、なんてことは無かった。茅場晶彦はこの世界に料理スキルの熟練度を上げているプレイヤーが増加しており、中にはお店を開いているプレイヤーも少なくないことを把握しているのだろう。

 でも、こんなことになるんだったら、今年もチョコをドロップするようにしてほしかった…。俺は言い訳がましく、ユウキに反論する。

 

 アルファ「…SAOの男女プレイヤー比率が逆だったら、絶対チョコ貰えてるから、これはあくまでも男女比率のせいだからな?」

 

 ユウキ「え~、でも、付き人とか、腰巾着なんてあだ名付けられてる人が~?」

 

 アルファ「…金魚のフンは、てめぇだユウキッ!」

 

 ユウキ「アハハ~怒った怒った~」

 

 この世界には、プレイヤー名とは別に、あだ名をつけられているプレイヤーが一部、存在する。例えば、アスナは前に紹介したように<攻略の鬼>と呼ばれているだけでなく、細剣を突き出すスピードが異常に速いことから<閃光>とも呼ばれている。

 キリトは第一層でのカミングアウト以来、<ビーター>と蔑まれている一方で、黒色の装備ばかり身に付けていることから、<ブラッキー>や<黒の剣士>と呼ばれている。第五十層のフロアボス戦で手に入れたLAボーナスの魔剣<エリュシデータ>が刀身を漆黒に染めていることも、その二つ名に拍車をかけているのかもしれない。

 他にも、ディアベルは<青の騎士>、ヒースクリフは<最強の男>、<聖騎士>、<生きる伝説>等々、様々な二つ名を持っている。そしてユウキは、ユニークスキル<月光>スキルを扱うことから<月光ちゃん>という愛称を付けられたのだ。

 そんな一躍有名人のユウキとタッグを組んでいる俺も、一時は結構噂を呼んでいたらしいが、結局、特に何事もないただユウキと行動を共にしている男だった、という結論に達するや否や、俺の二つ名は<付き人>とか<従者>とか、<ボロ雑巾>だなんて呼ばれるようになってしまった。

 二つ名の後半部分に注目していただければ分かることではあるが、一体俺にどんな恨みがあって、こんなひどいあだ名を付けようというのか。俺が謎の美少年、だなんて噂されていた時期を返してほしい。ユウキは、俺が冗談でキレると、愉快そうに朗らかに笑う。ユウキがこちらを見て、不意に訊ねた。

 

 ユウキ「…ボク達ってさ、傍から見たら、どう映ってるんだろうね?」

 

 アルファ「…どうって?」

 

 ユウキ「…ほ、ほらっ、この前の新聞にさ、ボクとアルファは恋仲なんじゃ無いかって記事があったじゃん…」

 

 アルファ「あ~…そう言えばそんなもんもあったな…」

 

 確か、その新聞が発行された日は、いつも以上に記者の追手が、いや、それだけじゃなくて何だか新聞関係者じゃないプレイヤーも多く集っていた気がする。…俺達は見世物じゃないんだがな。

 

 アルファ「…まぁ、俺とユウキが恋仲に見える、なんてことはないんじゃないか?実際に、恋仲でもないわけだし」

 

 ユウキ「……そうだよ…ね」

 

 アルファ「俺達はどちらかと言うと、兄妹って感じがしないか?」

 

 俺が冗談っぽくそう返すと、ユウキはキョトンとしながら、俺を眺めていた。だがすぐに、いらんことを言い出す。

 

 ユウキ「…うん、ボクがお姉ちゃんで、アルファが弟だよね!そんな感じがするよ!」

 

 アルファ「違う、俺が兄でユウキが妹、だ」

 

 ユウキ「まっさかぁ~アルファはボクに甘えっぱなしじゃないかな?」

 

 アルファ「…」

 

 事実、俺は彼女に支えられている部分が多い気がする。俺はユウキの煽りに何も言い返すことが出来ないまま、夕食を食べに適当なレストランへ向かった。そこでイタリアン蕎麦、みたいなわけわからんものを食べながら、今日一日の疲れを癒した。

 レストランを出て、ギルドホームへ帰ろうと転移門へ向かっている最中に、俺は視界の左端に見える空間の些細な違和感に疑問を覚え、その空間の揺らめきを見つめる。するとそこから、ハイドしていた人物の姿が現れてきた。お髭のペイントに金髪の彼女だ。

 

 アルゴ「おっ、まさかオレっちのハイドが見破られるとは、アー坊中々腕を上げたナ」

 

 アルファ「毎日新聞記者に追われてたせいでな」

 

 アルゴ「流石、付き人だなんて呼ばれるぐらいダ」

 

 アルファ「アルゴもそれを言うのか…」

 

 アインクラッド一の情報屋にその二つ名を呼ばれるということは、俺の二つ名の一番メジャーなものは付き人、だということだろう。

 …俺だって、付き人だなんてあだ名じゃなくて、もっとカッコイイ、例えば<一騎当千>とか、そんな感じの二つ名が欲しかった…。いっそのこと、二つ名の為に太陽の戎具の能力でも公開してやろうか。なんてことを冗談として頭の中に思い浮かべながら、俺はアルゴに尋ねる。

 

 アルファ「それで、わざわざハイディングまでして、俺達を覗き見してた理由はなんだよ」

 

 アルゴ「オレっちはそんな悪い趣味はしてないヨ。アー坊には、渡しておかないといけないものがあるからナ」

 

 アルファ「なんか頼んでたもん、あったか?」

 

 最近はアルゴに頼みごとをした記憶は無いんだけどな、と俺は何か忘れているのかと思い、思考を巡らせる。するとアルゴは、ストレージから小包を具現化して、俺にポイっと投げてきた。俺は慌ててそれをキャッチする。

 

 アルゴ「アー坊には、ホワイトデーにお菓子を貰ったことがあったからナ。これはオネーサンからのお返しダヨ」

 

 アルファ「そういやそうだったな。ありがとな」

 

 別に、お返しを求めてアルゴにクッキーを上げたわけではないかったのだから、こんなことをしてくれなくても良かったのだが、貰えるというのなら、是非とも頂こうじゃないか。ユウキが不思議そうに、俺に質問する。

 

 ユウキ「…あれ?クッキーってボク達以外にも渡してたんだ」

 

 アルファ「あぁ、アルゴには日頃の感謝を込めて、な」

 

 アルゴ「そういうわけで、オレっちとアー坊はユーちゃんに隠れて秘密の会合をしていたわけダ」

 

 ユウキ「…ふ~ん…」

 

 アルファ「語弊を招く言い方をするな…その場にはキリトもいたからな」

 

 とまぁ、俺は何故か、ユウキに対して言い訳しておく。…何というか、ユウキにこのジトーっとした視線を向けられると、何か弁解を図らなければならない気がしてくるのだ。

 

 アルゴ「アー坊の言う通り、キー坊も一緒だったヨ。オレっちが二人にクッキー屋さんを案内してあげたんダ」

 

 ユウキ「…まぁ、アルゴがそう言うなら、信じてあげようかな」

 

 何とか、ユウキ様にお許しを頂くことが出来た。一安心だ。…いやちょっと待て、特に悪いことをしたわけでもないのにどうして俺がユウキにお許しを求めているのだ。でも話の流れ的に、これで丸く収まるならそれでいいか。

 

 アルゴ「オレっちはアー坊を奪い取るようなマネはしないヨ…ま、オネーサンにそう思わせるだけの実力はあるけどナ」

 

 アルファ「…さいですか…」

 

 アルゴは俺達にウィンクしてから、その場を疾風怒濤の速さで駆け抜けていった。取り残された俺達は、今度こそギルドホームへと戻ろうと、転移門をくぐり抜けた。

 

 

 

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 アルファ「な?男女比率のせいだろ?」

 

 ユウキ「それでもたったの一個じゃん」

 

 ギルドホームに帰宅した俺達は、ユウキが貰った大量のお菓子類を二人で食べながら、雑談していた。チョコ類からクッキー系、マフィンなど、貰ったお菓子も多種多様で、100個もあっても飽きさせない。

 こっちの世界では、どれだけ食べても太らないわけだから、遠慮なく甘味を味わっていられるのは至福である。アルゴから貰ったクッキーは少し塩味の効いたクッキーで、口休めとして最適な贈り物だった。

 

 ユウキ「アルファってさ、チョコは甘いのと苦いの、どっちが好み?」

 

 アルファ「ん~…どっちかと言うと、ビターな方が好きだな」

 

 ユウキ「りょーかい、ちょっと待ってて」

 

 アルファ「?」

 

 ユウキはそう言うと、キッチンへ向かって行く。俺は何事かと思い、ユウキの後に着いて行く。するとユウキはキッチンにて、色んな材料をストレージから具現化させては、鍋やフライパンを活用して、何かを作りあげていく。

 そして十分ほどかけて出来上がったものは、赤い色の丸い玉だった。

 

 アルファ「…飴玉?」

 

 見た目はカラフルな飴玉と言った風にしか見えない。もしくは辛みを凝縮させた香辛料といったところだ。

 

 ユウキ「口開けて?」

 

 アルファ「ん」

 

 ユウキに言われるがままに、俺は口を大きく開けた。ユウキは俺の口の中目掛けて、その赤玉を放り込んだ。

 俺はそれが飴かと思って口の中で転がしていたのだが、そこから感じる味はカカオに似た芳醇な香りと濃厚な苦味、そして微かな甘みだ。

 

 アルファ「これ、チョコだったのか」

 

 ユウキ「そうだよ!ボクからのバレンタインね」

 

 アルファ「あぁ、サンキュー。お返しには期待しないでくれよ」

 

 ユウキ「え~、結構レアな材料使ってるから、期待させてよ?」

 

 アルファ「…そういうことなら、何とか頑張ってみます」

 

 ユウキ「ん!ありがと!」

 

 今年のバレンタインは二個、か…。ユウキの貰ったお菓子の数には敵わないけれども、まぁそれでも、ユウキとアルゴの二人から貰えたんだからそれでいいか…。俺は、お返しは何しようか、と一カ月先のことを考えながら、残りのお菓子をユウキと食べていく。

 何故だか、ユウキの作ったチョコを食べた後だと、他のお菓子の美味しさが少しだけ霞んで感じた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

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