「──頼むッ!誰か、誰かぁッ!俺の仇を討ってくれェ…」
俺とユウキが最前線へと転移した先で一番に入ってきた情報は、転移門の広場で崩れ落ちた男の悲痛な叫び声だった。
今日は、リズベットに頼まれて鉱石を採掘している間の護衛を任されたり、タイラのお使いとして素材集めを代行したりと、珍しく最前線に顔を出せないまま、日中を過ごしてしまった。
それでも一応レベリングは少しぐらいしておこう、と考えた俺達は、月が昇り始めた夜の始まりに、最前線へとワープしてきたわけだが、目の前に映し出された光景は、男性プレイヤーが土下座するようにして、それを自然と避ける周囲のプレイヤー達に懇願している様子だった。
ユウキ「話、聞いてみよう」
アルファ「…分かった」
俺個人としては、周囲のプレイヤー達と同じように、面倒事は避けたいと考えているわけだが、俺のパートナーはやはりそうではないらしい。人混みの合間を縫って早足に男性プレイヤーに駆け寄って行くユウキを追い掛けるように、俺も男性プレイヤーの下へ進んでいく。
しかし、ユウキが男性プレイヤーに声を掛けようとした寸前に、俺達の前にある人混みから現れた黒衣の剣士が、男性プレイヤーに声を掛けた。
「何があった?…アルファとユウキか」
アルファ「よ、キリト」
ユウキ「良かったらボク達にも、お話聞かせてほしいな」
ユウキが男性プレイヤーにそう言うと、男性プレイヤーは一層泣き喚く声を大きくした。三人で男性プレイヤーが落ち着くのを待っていると、泣き止んだ男性プレイヤーは萎れた声で言葉を話した。
「…悪かった…誰かが手を差し伸べてくれたのが、どうしようもなく嬉しくてな…」
アルファ「そうか…それで、どうしたんだ?」
俺がそう訊ねると、男は再び泣き出してしまいそうな勢いで顔を歪めた。しかし泣き出す所まではいかず、嗚咽交じりにポツリポツリと言葉を放った。
「……俺は、シルバーフラグス…っていう五人ギル、ドのギルドマスターをやって、たんだ…」
…シルバーフラグス?俺もユウキもキリトも怪訝そうな顔をしていた。その様子から攻略組に属するギルドではないことと攻略組を目指して活動しているギルドではないことが読み取れる。
そもそも、この男の身に付けている装備は、十何層も下、何か月か前に攻略組が身に付けていた金属装備だ。その成りからしても、ミドルプレイヤーといった所だろう。
「…それで、つい二日前…俺達は第三十八層のフィールドダンジョンで宝箱探しをしてた…」
男はそこまで言い終えると、次の言葉を繋ぐ前に、もう耐えきれないと再び涙を流した。だが、それでも絞り出すような声で話を続ける。
「……そこで、襲われたんだよ……PK集団に!」
「「…」」
その悲痛な叫びに、俺達は何も言えないでいた。男は、絶望の表情を浮かべる。
「俺以外の四人は…そこで殺された…」
アルファ「なッ…」
「俺はあいつらのお陰で、転移結晶で街まで逃げ切れたんだ…頼む、どうか奴らに制裁を加えてくれッ!」
もう一度、男は俺達に向けて、頭を擦り付けて土下座をした。そして、ストレージから濃紺のクリスタルを取り出して、未だフリーズし続ける俺達に、それを差し出す。
「回廊結晶だ…転移ポイントは黒鉄宮の監獄エリアに設定してある…奴らを、牢獄にぶち込んでくれ…力のない俺にはできない事なんだ…」
上層部でしか手に入らない中層プレイヤーに回廊結晶を手に入れる機会などそうそうないはずだ。それすなわち、この男は文字通り全財産をはたいて、それこそ借金でもしてまで、オークションやらトレードやらで回廊結晶を買い取ったのだろう。それだけでも十分、男の本気具合が伝わってくる。
それに、この男は自らの仲間が殺されたというのに、俺達に頼んだことは、殺してほしいという報復ではなく、監獄にぶち込む、という冷静なる判断だった。黒鉄宮にある監獄エリアにぶち込まれたプレイヤーは、そこで死亡するか、ゲームがクリアされる瞬間までは、そこから脱出することは出来ない。
今はアインクラッド解放軍、略称<軍>がそこを含めて第一層全体を管轄しているらしい。俺は、男の殺しを否定する意思に、敬服した。
…想像もしたくはないことだが、もし俺の知り合いが殺される現場を見てしまったら、俺が、同じ立場に立ったら、俺はそいつを殺さないでいられるのだろうか。
キリト「…分かった。俺達に任せてほしい」
「あ、アンタら…ありがとう…本当にありがとう…」
キリトが男の腕を取って、そう答えると男はまたも泣き出してしまった。しばらくして、男が泣き止んだ後、立ち話もなんだと、適当な酒場に四人で入って、適当に軽食を撮りながら、男にその事件の詳細を話してもらった。
その情報によれば、襲ってきたPK集団は、十人ほどの規模であったこと、そのPK集団はギルドを結成していたこと、リーダーは赤い髪に黒いレザーアーマーを装備していて、扱う武器はクロススピアの女性プレイヤーであったこと、そして、襲われる数日前には、その女性プレイヤーと共に行動をしていたこと、女性プレイヤーの名前は、ロザリア、だと聞いたこと、だった。
キリトが、PK集団を牢獄にぶち込めた暁には、連絡をよこすことを約束し、フレンド交換をしてから、男とその場で解散した。その場に残った俺達は、PK集団を投獄するための作戦会議を始めようとしていた。
キリト「取り敢えず、どっかの空き部屋でも借りるか」
ユウキ「あ、大丈夫だよ!ボク達のギルドホームにおいでよ!」
ユウキはきっと、善意のつもりでその提案をしたのだろうが、キリトはその発言を聞いて、呆気に取られていた。そしてやがて、発した言葉は
キリト「…え?いや、お前ら一緒に住んでるのか!?」
アルファ「…ま、まぁ、な…」
キリト「へぇ~…」
キリトの態度が急変したことに呆れつつも、俺達はギルドホームへと案内してやった。
────────────────
キリト「いい家住んでんだな~」
ユウキ「キリトもホーム購入したら?」
キリト「…いや~…色々散財してると貯まらないんだよなぁ…」
キリトが我らスリーピング・ナイツのギルドホームに訪れた時の第一声は、そんな感じの発言だった。思わぬところでキリトの浪費癖を知ってしまったわけだが、こんな情報を手に入れて喜ぶ奴なんて、アルゴぐらい…いや、アスナもだろうか。
取り敢えず、お茶で一服してから、俺達は気持ちを切り替えて、真剣に作戦会議を始めた。
アルファ「それで、まずはロザリアってプレイヤーを探す所から始めるわけだが…」
キリト「そもそも、ロザリアっていう名前が偽名かも知れないけどな…
ユウキ「だったら他には赤髪のクロススピア使いっていう情報しか…」
キリト「…使ってる武器はともかく、髪色は変わってる可能性もあるな」
アルファ「一層ずつそれらしいプレイヤーを探すしかない、か」
ユウキ「中々大変な作業になりそうだね」
キリト「いや、そうとも限らないぞ。恐らく、ああいう奴らはある程度実入りのあるギルドを見繕って、得物を決めてから実行に移すはずだ。そうなると、いいカモになりそうな中層プレイヤー達を相手にするわけだから、大体30層から40層の間ぐらいで活動していると思う」
ユウキ「確かに、下層過ぎたら…その…人を殺しても、いいもの手に入らないもんね…」
キリト「…あいつらは、人の命を何とも思っていない正真正銘のクズ共なんだ」
ユウキが、人を殺す、と言う言葉を遠慮気味に発言するのに対して、キリトは犯罪者プレイヤー達に強い嫌悪を覚えているようだった。犯罪者プレイヤー、オレンジプレイヤー、などと色々な称し方があるが、元はと言えば、彼らも、人を殺してまでアイテムを奪ったりはしていなかった。最低限度の線引きは出来ていたのだ。
だが、その線引きを曖昧なものにさせたのが、<ラフィン・コフィン>というPK集団で構成されたギルドが出現したことに原因がある。彼らは今年の元旦に、俺達は殺人ギルドを結成したと、この世界で人を殺しても、現実世界で死ぬわけではないのだと、小規模ギルドを惨殺する映像を見せながら、全プレイヤーに向けて犯行声明を公表したのだ。
更には、ラフィン・コフィンの頭を務める男、PoHというプレイヤーがその熱狂的なカリスマ性で犯罪プレイヤーを扇動し、それによって、犯罪者プレイヤーの間では、プレイヤーを殺しても大丈夫なのだと、そんな危ない考えが蔓延し始めた。そして結果的に、プレイヤーを殺してしまうオレンジプレイヤーがその日以来急増したのだ。
…何となくだが、俺はオウガを唆した連中が、ラフィン・コフィンの前身だったのではないかと疑っている。
キリト「…二人共、もしラフィン・コフィンとか、レッドプレイヤーと遭遇したら、すぐに逃げろ。奴らは本気なんだ」
アルファ「お前、出会ったことがあるのか!?」
キリト「あぁ、何度か」
ユウキ「…分かった。取り敢えず、話を戻すと、明日から中層でロザリアらしきプレイヤーを探す、っていうことでオッケー?」
アルファ「多分、ロザリアのギルドには、グリーンとオレンジプレイヤーの両方が潜んでるはずだ。ロザリアはグリーンらしいし、明日もどっかで次なる得物を探しているってことだろうな」
キリト「今のところは、その方針でいいと思う。俺も一応、アルゴに色々聞いてみるよ」
アルファ「了解…どうせ明日も一緒に行動するんだし、今日はここで泊ってくか?」
明日からの方針も定まり、今日はお開きとなりそうなタイミングで、俺はキリトにそう提案した。だが、何故かキリトは若干戸惑いながら、返事をする。
キリト「い、いや、俺は遠慮しておく…その、邪魔したら悪いからな」
そうして、急いで俺達のギルドホームを出て行くキリトを見送ってから、俺達は明日に備えて就寝準備を始めた。
────────────────
翌日、転移門前で集合した俺達は、第三十層と第三十一層の主街区にて、ひたすらそれらしいプレイヤーを捜索したのだが、一向に見つかる気配はなく、その日を終えてしまった。しかし、収穫が無かったわけではない。キリトがアルゴから仕入れた情報によれば、今、中層プレイヤーの間で熱い狩場が、第三十五層の迷いの森、第三十八層の白の洞穴、そして少し上の第四十二層、クナラギ遺跡、らしい。
また、アルゴも合間合間にロザリアについて調べてくれるようだ。第三者であるアルゴに無茶して欲しくはないのだが、圧倒的に人手不足のこの状況では頼らせてもらうしかない。一応、無理はしないでほしいという趣旨のメッセージをユウキが送ってくれた。
というわけで捜索二日目は、俺とユウキが第四十二層を、キリトが第三十八層を担当して、一日中張り付いていたのだが、遂にはロザリアらしいプレイヤーは姿を現さなかった。だが、アルゴがその日のうちに、ロザリアが<タイタンズハンド>と言う黒い噂の絶えないギルドを束ねるリーダーであり、今は第三十五層であるパーティーに入り込んでいるという情報を提供してくれた。
俺が、どうやってそれを知ったのか、と訊ねると、前半部分は情報屋仲間から、後半部分は第三十二層から三十五層までを流し見していると、偶々第三十五層の主街区でロザリア、と呼ばれた赤髪の女性プレイヤーを見つけられたからだとか。
…勿論、それを知るために俺は高い情報料を払わされたわけだが。そういうことで俺達は、今日は第三十五層でロザリアの後を付けることに決めて、転移門前で集合したわけだ。
キリト「…やっぱり、朝は眠いな…」
アルファ「んなこと言っても仕方ねぇだろ。気合入れてこうぜ」
ユウキ「そう言うアルファも、ギリギリまで布団にしがみ付いてるけどね~」
キリト「…お前…」
アルファ「…面目ない」
ユウキに痛いところを突かれながらも、俺達は必死に目を凝らして、それらしいプレイヤーを探し続ける。すると、お昼過ぎ頃だろうか、俺達が適当に出店で購入したホットドッグにかぶり付いているときに、赤毛のクロススピア使いが、右手へ向かって行くのが見えた。
ユウキ「…今の!」
アルファ「あぁ、ビンゴだ!」
キリト「二人共、ここからは万が一を考えて、隠蔽スキルを発動させよう」
ユウキ「りょーかい」
キリトの指示に従って、俺達も隠蔽スキルを発動させて、等間隔を保ちながら、ロザリアの後を付けていく。街中で隠蔽スキルを発動させるという行為は、マナー違反ではあるが、今回ばかりは仕方が無い。
隠蔽スキルはその性質上、熟練度が高ければ高い程、その効力を増していき、隠蔽スキルを看破するには索敵スキルの熟練度で相手の隠蔽スキルの熟練度を上回らなければならない。
最も、中層プレイヤーであると思われるロザリアに、攻略組である俺達の隠蔽スキルを看破できるはずがない、と踏んでの実行だ。ロザリアはそのまま、五人のプレイヤー達と共に、主街区を出て、そのまま迷いの森へ向かって行く。
キリト「…まさか、今日もあのプレイヤー達にPKを仕掛けるつもりじゃないだろうな」
アルファ「もしそうなら、アイツらを牢獄にぶち込むいいチャンスになるぜ」
が、数時間経過しても、ロザリアが彼らをPKを仕掛けることは無く、順調にダンジョン攻略がなされていた。彼らは中層プレイヤーとしては中々の強さで、かなりの数のトレジャーボックスを発見していた。そんな彼らの中でも、俺が一番注目してたプレイヤーは、茶髪のツインテールの女の子だ。彼女は短剣使いで、機敏な動きに磨きがかかるその小さな体とは相性抜群だ。
…と言うことは、正直どうでも良くて、俺が注目していたのは正確には、そのプレイヤーの従える小さな青色のドラゴンである。そのドラゴンは泡のブレスによる錯乱や索敵能力、ヒール能力などを持っていた。キリトにあのドラゴンが何なのか、と言うことについて訊ねると、小動物型モンスターに限って、稀にモンスター側から友好的な興味を向けられるというイベントが発生するらしく、その際に好物を与えてテイミングに成功すると、使い魔としてプレイヤーをアシストしてくれるようになるらしい、と答えてくれる。
巷ではそういうプレイヤー達を<ビーストテイマー>と呼んでいるようで、流石にユニークスキルには及ばないが、ある意味では、俺やキリトが所持している魔剣と同等のレア度を誇っているとも言える。そんなモンスターを従えることが出来る、という事実に文字通り目を輝かせて、明日にでもテイムにチャレンジしに行こう!と言わんばかりのワクワクをその顔から溢れ出させていたユウキだったが、キリトの、同種のモンスターを倒し過ぎていると、イベントが発生しなくなる、という情報を聞いた瞬間に、大きく落ち込んでいた。
…因みにだが、、俺も一瞬だけ、ドラゴン系のモンスターをテイムして<竜騎士>だなんてカッコイイ二つ名を夢見た。そして特段、夕暮れ時まで何事も起こることがないまま、彼らのパーティーは迷いの森を引き返そう、という流れに落ち着いた。だが、そこであろうことか、そのツインテールの女の子とロザリアが口喧嘩をおっぱじめて、終いにはツインテールの女の子は一人で森を抜ける、と言い残し、その場を去って行ったのだ。
…まぁ、今日一日の動きを見ていた感じでは、例えソロであっても、充分に迷いの森を抜けられるレベルは在りそうだし、大丈夫だろう。俺はそう思って、ロザリアの動向に集中しようとしていたが、不意にキリトが動いた。
キリト「悪い、俺、あの子のこと追いかけてくる。なんかあったらメッセージくれ!」
アルファ「お、おい!追い掛けるってどうするんだよ!」
キリト「フィーリングだ!」
ユウキ「…キリトらしいね…」
もうすぐ、彼女がこの場を去って一分が経過する。キリトの敏捷ステータスなら一分以内に次のエリアに向かうことは出来るだろうが、それでも彼女の選んだエリアと同じ場所に行けるのは四分の一の確率だ。かと言って俺達がここを離れたら、万が一今からロザリアがPKを仕掛けてしまえば、また命が失われることになる。
取り敢えず、俺とユウキは目の前の彼らに集中することにして、隠蔽スキルを発動させながら、後を付け続けた。結局、幸いにも、日が暮れる頃には、彼らは無事に主街区へ辿り着けた。彼らは、そのまま道具屋に向かい、手に入れたアイテムの換金を済ませる。道具屋を出て、広場に向かう途中に、ロザリアはふと、足を止めて、通り掛かるプレイヤーに声を掛けた。それは、ツインテールの少女と、キリトだ。
俺達は未だハイドしたままなので、キリトには俺達の姿も見えていないだろうが、何となく、キリトは俺達に気が付いているようだった。ロザリアはシリカと呼ばれるツインテールの少女に嫌味ったらしく彼女の使い魔が死んだことを嘲笑っていた。俺もユウキも、そして恐らく目の前にいるキリトも、今すぐコイツをぶんなぐってやりたい気分だったが、タイタンズハンドを一網打尽にする必要がある為、ここはグッと堪えた。
キリトはロザリアに構うことなく、その場を去って行ったが、俺の真横を通った瞬間、もう少し後を付けてくれ、と小声で呟いていた。了解、と俺も呟いて、言葉を返しておく。
俺とユウキは、緊張しながらも、ロザリアの後を付けて行った。ロザリアは転移門で第四十三層に移動し、そのまま路地にある空き部屋に入って行った。
アルファ「…どうする?ここらでやめとくか?」
ユウキ「もうちょっとだけ、頑張ってみよ」
ユウキにそう言われた、俺はそっと空き部屋のドアに近づく、ドアにそっと耳を当てて、中で行われているであろう会話に耳を澄ませてみるが、聞き耳スキルを取得していない俺達では、意味のない行動だった。俺達はそこで諦めて、キリトに四十三層の主街区にタイタンズハンドの拠点らしきものがあったことをメッセージで伝えておく。
とはいっても、オレンジプレイヤーが大半であるはずだから、あそこに集まるのはグリーンの構成員だけで、本拠地は圏外村とかにあるのだろうが。しばらく、キリトから返信が無かったので、俺達は適当な場所で軽く晩御飯を済ませていると、午後十一時ぐらいにようやくキリトから連絡があった。
…俺はもう、活動限界時間だ。風見鶏亭という食事処と宿屋が一体化している建物の一階で、キリトと落ち合うと、キリトが口を開いた。
キリト「…多分、タイタンズハンドの構成員に俺とシリカが思い出の丘に行くことを知られた」
ユウキ「え!?じゃあどうするの?」
キリト「だから、それを逆手にとって、彼女を囮にすることで思い出の丘でタイタンズハンドを一網打尽にしようと思う」
アルファ「なるほど…それは名案だな」
使い魔蘇生用アイテムは思い出の丘で入手できるらしく。それは中々の値段で取引されているらしい。タイタンズハンドの奴らも、わざわざキリト達の情報を聞き耳スキルで盗み聞きしたのなら、それはシリカを次のターゲットに定めたという証拠他ならない。
狩るタイミングは、そりゃぁアイテムをゲットした瞬間だろう。明日は、俺とユウキが今日と同じように、少し離れた場所からキリトとシリカを護衛する、と言う作戦を決行することに決めた。
そうして、俺とユウキはギルドホームへと戻り、明日に備えて眠りについたのだった。
────────────────
アルファ「来たか…」
翌朝、いつもよりも少しだけ早めに目覚めた俺達は、朝食も早々にキリトが宿を借りたという第八層の転移門前でハイドしていた。こうも二日間、ハイドしっぱなしで生活していると、何だか自分が風景の一部となったような奇妙な感覚に襲われる。
しばらくして、少女とキリトが思い出の丘という名前のフィールドが存在する四十七層へと転移した。俺達も追いかけるようにして、四十七層へ転移する。
俺達を出迎えてくれた光景は、転移門の前に広がる色とりどりの鮮やかな花々達だった。丁寧に花壇に植え付けられた赤や黄色、青の花は転移門を貫く十字路を除いた辺り一面に広がっている。
ユウキ「いつ見ても綺麗だね」
アルファ「その癖して、フィールドの難易度は高めだよなぁ~」
少女が様々な花々を眺めている様子を、キリトは穏やかに眺めていた。しばらくして、キリトと少女はフィールドに向かって歩き始めた。
俺とユウキも、その後を付けていくわけだが、周囲には腕を組んだ男女二人組が街を闊歩している。どうやらここは、その美しい景観からデートスポットみたいな扱いになっているのだろう。
ユウキ「腕を組むのと、手を繋ぐのってどっちがいいんだろうね」
アルファ「…さぁ…」
ふと、ユウキが退屈そうに欠伸をしながら、そんなことを訊ねてきたが、残念ながら俺には男女複数人の仲良しグループで遊びに行くことはあったとしても、女の子と二人でデートしたことなど無いため、その手の質問には答えることが出来ない。
俺はユウキに適当な返事を返しておいて、自分なら、どっちが良いだろうかと頭の中で考える。
アルファ「…個人的な意見としては、後者だな」
ユウキ「…へぇ」
そんなどうでもいい会話をしながら、とうとうキリト達がフィールドに出た。なのでそこからは気持ちを切り替えて、俺達も真剣モードに移行していたのだが、フィールドに出て数分後、ハプニングが発生。少女が、大きな口と長い舌、頭には黄色い花を載せた巨大な茎を操る、趣味の悪い花型モンスターに襲われた。
キリトは、少女にこのフィールドで出現するモンスターとの戦闘に慣れさせようと、少女の補佐に徹底していたようだが、今回はそれが裏目に出てしまった。
少女は、その歩く花のようなモンスターの茎に足を取られて、宙で逆さま状態に陥ったのだ。不幸にも、もしくは幸運にも、少女はミニスカート装備を装着していたせいで、重力に従ったミニスカートが捲れ、その隙間からパンツが見え隠れしている。
俺は一瞬、呆気に取られてその様子を眺めていたわけだが、
ユウキ「何見てるのさ!」
アルファ「うわぁ!?」
と、ユウキに一喝されてしまい、そのままユウキの両手で目を覆われた。俺も最小限の声で驚きを現してしまい、そのせいでハイドボーナスが少し下がってしまったが、少女やキリトがそれに気が付く様子はなかった。
無事に?キリトが少女を救出して、思い出の丘を目指して更にフィールドを進んでいく中、ユウキが何とも表現し難い声色で、俺に声を掛ける。
ユウキ「…下着なんか見て、嬉しいものなの?」
アルファ「い、いや、条件反射的にだな…」
ユウキ「ハイドしながら覗き見なんて、ただの犯罪者だからね」
アルファ「…すいませんでした…」
ユウキの冷徹な眼光を受けて、俺は平謝りをする。それから一時間ほどかけて、遂に思い出の丘が見えてきた。少女が早足に丘を登っていくのに、キリトは着いて行ったわけだが、俺達は違う。
アルファ「…ユウキ、多分、後ろに居るよな?」
ユウキ「うん、多分11人ぐらい、ハイドしてるね」
恐らく、キリトと少女を待ち伏せしているタイタンズハンドだろう。索敵スキルも隠蔽スキルもこちらの方が上のようで、彼らにバレることなく近くの木々に隠れながらも、彼らのハイドを見破ることに成功していた。その中には、ロザリアと思しき赤毛のプレイヤーもいるため、予想的中に違いない。
ロザリア達は、モンスターエンカウント率がうんと上がる、橋を越えて先の思い出の丘へは向かおうとせず、木陰に潜んでキリト達が戻ってくるのを待っているようだった。回廊結晶を預かっているのはキリトだし、俺達がここで飛び出しても、全員を確実に捕らえられる保証が無いと判断し、キリトがこちらへ戻ってくるのを待つ。
数十分後、キリト達がこちらまで戻ってきた。そのタイミングで俺とユウキは、レベル五の麻痺毒が付着した投げピックで静かに二人のPKを行動不能にさせておく。レベル五ならば、十分は動けない。
キリト「──そこで待ち伏せている奴、出てこいよ」
キリトが、タイタンズハンドのハイドを看破して、そう無人の空間に向かって言葉を放つと、彼らを代表してかロザリア一人が出ていった。少女は、その場で初めてロザリアがPK集団であることを知り、衝撃を受けていた。
それから、キリトとロザリアの押し問答が始まり、ロザリアは残りの構成員に向かって、出てきな、と声を掛ける。しかし、その場に出てきたのはたったの六人、ロザリアは啞然としている。
ロザリア「四人はどこ行ったのよ!?」
ロザリアに一泡吹かせたやったところで、俺とユウキもハイドを解除して、姿を現す。
ユウキ「四人はそこで倒れてるよ」
アルファ「あいつらは麻痺毒で動けないぜ?」
ロザリア「あ、アンタら誰!?」
ロザリアが想定外の事態に慄いている間に、構成員の一人が俺達を見て顔を青くしながら、ロザリアに進言する。
「や、やばいよロザリアさん…この黒ずくめの男は、ビーターあがりの<黒の剣士>…あっちのヘアバンドの女は<月光>、どっちも攻略組だ!…もう一人の奴は、知らねぇけど…」
…いや、せめて<付き人>とかでもいいから、認知していてほしかった。
その男以外は、何が攻略組だと躍起になって俺達に襲い掛かろうとしてきたが、そこでキリトがお前らなんか俺一人で十分だ、と彼らを煽ると、思いの外煽り耐性の低かったタイタンズハンドのメンバー全員がキリトに襲い掛かって行った。
勿論、圧倒的なレベル差のあるキリトに対して、彼らの攻撃が通るはずもなく、キリトが、回廊結晶を使用して、投降を呼びかけると、大人しく従う者、最後まで抵抗する者など様々ではあったが、結局、全員を牢獄にぶち込むというミッションは果たせた。
キリトが、シリカのことは俺に任せて、男にタイタンズハンドを投獄できたことを伝えてきてくれ、と俺達に頼んだので、俺達はそれに従って、男と待ち合わせの第38層へと転移した。転移広場の前には、男が今か今かと俺達が到着するのを待っていたようだ。
男は恐る恐る、俺達を見ながら口を開く。
「……本当に、本当に奴らを捕えることが出来たのか…?」
ユウキ「うん…一人残らず回廊結晶で監獄エリアに投降させたよ」
ユウキの言葉を聞いた男は一度、目をギュッと強く瞑ってから、再び俺達を見て、深々と頭を下げた。
「……ありがとうございました。これでアイツらも、少しは安らかに眠ることが出来ます…」
アルファ「……そうか。アンタも、気を付けてくれよな」
「あぁ…」
ユウキ「それじゃ、またどこかでね」
「待ってくれ、せめてお礼に食事にでも!」
アルファ「気にすんな、弔いの酒代にでも使ってくれ」
別れの余韻を惜しむこともなく、俺達は早々にその場を後にした。
…PK集団、この世界には、厄介な奴らが居るな…俺達も気を付けないとな。と胸の内でそんなことを考えながら、前線から離れてしまった日数を取り戻すように、俺達は最前線のフィールドへと向かって行った。
今回はシリカ登場回でした。主人公がハーレムする予定は今のところはありません。キリト君にはしっかりと原作通りでいてもらいます。
では、また第60話でお会いしましょう!