~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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 すいません、遅れました。
 今回のお話は、マテリアルエディションエピソード1を参考に作りました。要するに、アルファやらユウキやらその他諸々を絡めたキリアス回?ということです。

 では、どうぞ!


第60話 雪解けの時

 ユウキ「ほらっ、もっと急いで!攻略会議始まっちゃうよ!」

 

 ユウキは、俺よりも敏捷ステータスが高いからか、少し俺の前を走っている。そんな俺はユウキからすればのんびりと走っているように見えるのか、こちらを向いて急かしてくる。だが、俺が悪いわけではないだろうし、ここはしっかりと反撃させてもらう。

 

 アルファ「無理言うなよ…ギリギリまでフィールドでレベリングしようって言ったのは、ユウキだろ!?」

 

 そう、俺は攻略会議が始まる数十分ほど前に、そろそろ集合場所に向かわないか?と提案したのだが、ユウキが、あとちょっと、と言ったわけだから仕方なくユウキに付き合っていたのだ。そのせいで、俺達が時刻を再び確認した時には、攻略会議まであと十分という事態に陥っていた。

 …まぁ、時間を適宜確認しなかった俺も悪いかもしれないけど、それでも半分以上はユウキのせいだと思う。俺が噓偽りのない事実を述べると、ユウキはバツの悪そうな顔をしながら答えた。

 

 ユウキ「そうだけど…どっちみち急がなきゃ二人まとめて遅刻だよ?」

 

 アルファ「あぁ、そうだな…悪いが俺はこれが全力のスピードなんだ。ユウキはもっと速いんなら、さっさとアスナに言い訳にしといてくれ」

 

 ユウキ「…そうしたいのは山々だけど…どうやら遅刻は確定しちゃったみたいだね…」

 

 フィールドを駆け抜け、目の前に村が見えてきたその時、スピードを上げようとしたユウキの目の前に、獣人型モンスターがポップした。敵は既にアクティブ状態に移行しており、戦闘を避けられそうにもない。恐らく、遅刻はほとんど確定だろうが、僅かな可能性に賭けて、全力で敵を葬り去った。街の中へ駆け込み、そのまま集合場所までトップスピードで走り抜ける。

 遂に集合場所へと辿り着いた俺達は、もう既に会議を始めていた他のプレイヤー達の注目を集めた。そして、彼女に掛けられた言葉は、

 

 アスナ「…二人共、遅刻よ。時間には気をつけなさい」

 

 ユウキ「…はぁ~い…」

 

 アルファ「以後気を付けます…」

 

 という、しっかりとしたお小言だった。アスナは、プライベートの時はもう少し柔らかい口調で話してくれるが、パブリックな所ではこうして、他人行儀の口調で話してくる。勿論、アスナは血盟騎士団の副団長であり、そういう所にも気を遣っているのだろうが、少しだけ、寂しい気持ちが無いわけではない。

 アスナ曰く、攻略会議はまだ始まっていなかったらしいので、俺達も最初から話を聞く権利を手にすることが出来るようだ。大人しく、キリトの隣に移動した俺達は、アスナが主導する攻略会議に参加することとなった。

 攻略会議、と言っても今回の議論はフロアボスではなく、フィールドボスに関する内容だ。基本的に、フィールドボスに関する会議は、フィールドボスがフロアボスと比較すれば弱く、それほど恐れるような存在でもない為、レイドメンバーの陣形と能力の確認をするだけであり、然程時間はかからない。

 だが、今回に限ってはそういう訳にもいかなかった。何でも、第五十六層のフィールドボスは、前脚がカマキリの腕のように発達し、鋭いかぎ爪を持つ一つ目の、それでいて胴体は鋼鉄の鱗に覆われ、長く伸びた、まるで悪魔のような巨大蛇らしい。体力バーは4段と、最近のフィールドボスと比べても至って平均値だ。

 だが、脅威となるべき点はそこではないらしく、単純にスピードとパワーが並みのフロアボス級だとか。そういうわけで、今回は入念な備えをしておこうと、いつもよりも慎重なフィールドボス会議が開かれているのだ。

 今回のフィールドボス戦の指揮を執るアスナが、ボスに関する情報を一通り言い終えて、レイドメンバーの配置などを事細かく決めた後、肝心の作戦を皆に伝えたわけだが、

 

 アスナ「──村に、ボスを誘き寄せます。ボスがNPCを襲っている間に、私たちがボスにフルアタックを仕掛けましょう」

 

 アルファ「……」

 

 フィールドボスは、ポップする位置からプレイヤー達が離れすぎるとアクティブ状態を解除して、一瞬で体力を回復させてから、再び元に居た場所に戻る、という習性を持ち合わせている。これは開発側からの、何処かでボスを嵌め倒そうなんて考えるなよ?というメッセージなのだろう。

 だが、幸いにも今回のフィールドボスは、山々の合間にある崖に作られた村のすぐそばにポップするため、この作戦も通用するというわけだ。村や町は、基本的にはアンチクリミナルコードによって保護されているが、クエストなどでモンスターが街中に出現する場合はその限りではない。

 この村はボスが入ってこないように、巨大な木の柵を備えてあるが、もしそれを開けたままボスを誘き寄せれば、アンチクリミナルコードが解除される可能性も大いにある。むしろ、この街のすぐ近くにボスが出現するということは、開発側も暗にそれを推奨しているのかもしれない。

 アスナの提案にやはり文句があるのか、隣に立つユウキが何かを言おうとしたがその前に、キリトが一歩前に出てアスナに話し掛ける。

 

 キリト「待ってくれ…彼らだって生きてるんだ。そんなことをするわけには──」

 

 キリトが、反論し終える前にアスナが冷たい声で割り込む。

 

 アスナ「生きてる、ですって?あれは唯のオブジェクトよ。消えてもまたリポップする──」

 

 今度はキリトが、アスナが話し終える前に鋭く切り返した。

 

 キリト「おいっ!NPCだって生きている!それはお前も俺とコンビを組んでた時に体験してきたことだろッ!」

 

 アスナ「…ッ!…そんなの知らないわよ!私たちは如何に効率よくこの城を踏破できるかだけに集中するべきよっ!」

 

 キリト「いい加減にしろよお前、知らないは無いだろ…忘れたとは言わさないぞ…ッ!」

 

 アスナ「今回のフィールドボス攻略会議は私に一任されているのよ!…ふらりと前線から消えては、またふとした時に前線に姿を現したりと、そんな適当に攻略に取り組んでいるあなた達不良プレイヤーに指図される筋合いはないわッ!」

 

 バチバチと火花を散らし合わせる両者を俺は呆れ半分不思議さ半分、と言った様子で眺めていた。こうして、キリトとアスナが攻略会議にて、配置があーだこーだと、ここは右から切り込むべきだと、言い争うことは珍しくはないが、今日の口論はいつもよりも苛烈なものだった。

 これ以上は、口論ではなく口喧嘩へと発展しそうなほど、彼らの間には険悪な雰囲気が流れ始めていた為、俺はそろそろ仲裁しなければ、と動き出そうとしたのだが、その前に、クラインが口を開いた。

 

 クライン「まぁまぁ二人共…そんなにお互いの言い分を押し通したいんだったら、デュエルでもしたらどうだ?今回のフィールドボス戦は、勝った方が指揮権を担うってことで」

 

 キリト「…い、いやぁ、指揮権はなぁ…」

 

 アスナに対する苛烈な態度から一変して、レイドメンバーを動かす指揮権について渋るような反応を見せたキリトに対して、アスナは堂々と発言した。

 

 アスナ「何よ、もう勝ったつもりでいるの?…いいでしょう、その提案、受けさせてもらいます」

 

 アスナがキリトとデュエルをすることを受け入れた瞬間、そこに集まっていた攻略組の面子は、おおっ!と驚嘆を表していた。一部のプレイヤー達はキリトに、受けろよ~と野次を飛ばしたこともあり、結局今回のフィールドボス戦における指揮権を巡って、キリトとアスナのデュエルが行われることが決定した。

 …最も、彼らにとって一番重要なことは、指揮権ではないのだろうが。二人が少し広い場所に移動して、少し距離置いて間合いを取る。アスナがデュエル申請をして、キリトがそれを受託した。

 

 アルファ「どっちが勝つんだろうな」

 

 ユウキ「…ん~…やっぱりキリトだと思うなぁ~」

 

 エギル「だが、デュエルだと片手剣よりも細剣の方が有利だろ?」

 

 クライン「そこはキリの字のセンスで何とかしてもらうしかねぇだろうな」

 

 キリトとアスナの周りに群がる俺達を含めた攻略組の面子は、騒めきながらも彼らの行く末を見守っていた。そして、デュエルが開始したのか、二人は中央にて激突する。まるで小手調べだと言わんばかりに、二人は探り合いをするようにお互いの剣をぶつけ合っていた。攻略組の面子は、彼らの剣戟に魅入られたように、今度は黙り込んでデュエルを見守る。

 そして、数分経過したとき、遂にアスナが勝負を仕掛けに行った。アスナがキリトに対して、細剣による高速の突き攻撃を何度も繰り返し、キリトの身体に剣先をヒットさせようとしたのだ。その様子は、まるで目の前に無数の壁が生まれたかのようにも見える。この圧倒的な細剣を扱うスピードこそ、アスナが<閃光>と呼ばれる所以か。

 

 ユウキ「アルファ、もしアスナとデュエルしたら、勝てないんじゃない?」

 

 アルファ「…いや、勝算はある…」

 

 クライン「オイオイ!キリトの奴押されちまってるぞ!」

 

 クラインの言う通り、キリトはアスナの剣を避けるので精一杯で、反撃に転じることが出来ていなかった。しかも、所々にアスナの剣を掠めた痕も見える。

 まだシステムにはそれが初撃だと判断されていないらしいが、どちらにせよ初撃決着モードは、先に体力が半減してしまった方が負けという扱いになってしまう。

 キリトもそれを理解しているのか、アスナが正面に作り出した細剣による障壁を避けるように、上空へと飛び上がった。アスナは勿論、上空から右手で剣を振り下ろしてくるキリトを迎撃するために、剣を上向きに構える。

 しかし、その時キリトが、背中に納めていたもう一方の剣を、左手で抜刀しようとした。SAOでは両手に別の武器を持つことは出来ない為、その行為はイレギュラー見なされ、攻撃力は格段に落ちる。

 だが、確かに、イレギュラー装備の状態でも、システム上初撃と認識されるほどの威力は出せるのだ。アスナは、そちらに気を取られ、迷った挙句、左手から繰り出される剣を迎撃しようとしていた。しかし、それはキリトのブラフだったようで、ガラ空きとなった右半身にキリトの右手から繰り出される剣がクリーンヒットする。

 そしてデュエルは勝者キリトで終了した。

 

 「「おぉ…!」」

 

 アスナの剣速にも、キリトの見事な作戦にもどちらにも感心したように、声を漏らしている。キリトは、何とも言えない表情で、アスナは、何かを堪えるような無表情だった。

 

 アスナ「……今回は、あなたにボス攻略を一任するわ…好きにしてちょうだい…」

 

 キリト「お、おい…」

 

 アスナは、短くそう言い終えると、一人で何処かへ向かって行く。

 攻略組の面子は、それを無言で見つめつつも、暫くするとキリトの勝利に盛り上がり始めた。クラインはキリトに抱き着き、エギルはそれを見て呆れている。数人のプレイヤー達が今回限りの新たなる指揮官の誕生を祝ってキリトを胴上げしており、それを眺める周囲のプレイヤー達も騒めいている。

 

 ユウキ「…アスナ…大丈夫かな…」

 

 ユウキが、アスナが去って行った方角を眺めながら、心配そうにそう呟いたのを見て、俺はユウキに訊ねる。

 

 アルファ「ユウキは、キリトとアスナの意見の、どっちに納得がいったんだ?」

 

 ユウキ「ボクは、キリトかな…」

 

 アルファ「だったら、アスナのことは俺に任せてくれ。ユウキはキリト達と一緒にボス攻略の方法でも考えておいてくれ」

 

 少し申し訳なさそうにそう言ったユウキを見て、俺はそう伝えてから、アスナが去った方角へ向かって行った。

 

 

 

────────────────

 

 

 

 キリト「…しっかし…どうすればいいんだ?」

 

 ユウキ「え?何も考えてなかったの!?」

 

 キリト「…いやぁ…」

 

 エギル「全く、それじゃあお前が指揮官になっただけじゃねぇか」

 

 クライン「人生行き当たりばったりなんだよ。まぁ、今から考えればいいんじゃねぇの?」

 

 俺の周囲に残った三人に、さんざん言いたい放題されてから、俺は再び口を開く。

 

 キリト「なんかいい案ないか?」

 

 「「……」」

 

 が、返事が返ってくることは無かった。俺は参ったなぁ、と頭を掻きながら暫く考え込み、思い付いた作戦を口にしてみる。

 

 キリト「…ボスを村の直前まで引き寄せて、両脇の山の上から投げピックでチクチク削るってのはどうだ?」

 

 クライン「出費がバカになんねぇよ、ンなことしたら、攻略組全員で一斉破産だぜ?」

 

 キリト「そうなるよなぁ…」

 

 エギル「俺が大量に投げピックを仕入れて、キリトに売り捌いてやるよ」

 

 キリト「そこは無料で配布してくれよな」

 

 俺がエギルやクラインといらぬ言葉の投げ合いをしていると、これまで口を閉ざしていたユウキが発言する。

 

 ユウキ「じゃあ、フロアボスと闘う時みたいに、しっかりと陣形を整えれば、死者ゼロでボスを倒せるんじゃない?」

 

 キリト「それが出来たら苦労しないけど、この村を出たばかりの所は横幅が狭いせいで、上手く陣形を作り上げることが出来ないはずだ」

 

 ユウキ「だったら、どっちにしてもダメだね…」

 

 キリト「ただ、このまま何も思いつかなかったら、気合を入れていつも通りやるしかないんだと思う…」

 

 ユウキ「…取り敢えず、この街で何か情報が無いか調べてみようよ!そんなに強いボスなら、ギミック系かもしれないし」

 

 キリト「…そうだな。よし、手分けして街中で情報を探ろう!取り敢えず一時間半後に、ここでもう一度集合だ!」

 

 クライン「任せとけ!」

 

 エギル「おう!」

 

 二人が威勢の良い返事を返してから、エギルは右へ、クラインは左へと街へ消えていく。俺も何か情報を集めようかと思い、前へと向かおうとしたのだが、それをユウキに引き留められた。

 

 ユウキ「待って」

 

 キリト「どうしたんだ?」

 

 ユウキ「…どうしてキリトはそんな浮かない顔してるの?」

 

 ユウキにそう指摘されて初めて、俺は自分の心がいつもよりも少しだけ、沈んでいることを自覚した。

 …どうしてだろう。俺はアスナに自分の気持ちを押し通せたはずなのに、心の内のモヤモヤが晴れない。そもそも俺は、どうしてアスナに対して苛立ちを覚えたのだろうか。

 …そうだ、彼女にNPCが唯のオブジェクトだと、そう言い切られたことに大きなショックを抱かされたのだ。それで、俺はムキになって彼女に声を荒げてしまったのか…。

 

 キリト「…俺は、アスナが俺と過ごした、NPCにも心があるんだと思い知らされた日々を忘れてしまったんじゃないかと思って…それで、そんなアスナにイライラしてたんだろうな…」

 

 そんな弱音を、ユウキに吐いてどうこうなるわけでもないというのに、俺は何故かユウキに自然とそんなことを話していた。

 …昔、アスナとコンビを組んでいた時期は、こうして隣に立っててくれたアスナに弱音を吐いたこともあったっけ…。

 ユウキは意外にもキッパリと、俺の弱音を一刀両断した。

 

 ユウキ「それは違うよキリト…アスナは、キリトと過ごした日々を忘れたりなんかしてない。ハロウィンの時だって、キリトのこと凄く心配してたんだよ?だから、そんなことは絶対有り得ないよ。アスナは攻略に精一杯なだけだよ」

 

 キリト「…そうか…」

 

 ハロウィンといえば、まだ俺が荒れていた時期だ。確かあの日は、アルファとユウキと共に行動していたアスナに対して、冷たい言葉を掛けた気がする。だというのに、アスナは俺のことを心配してくれていた…。独りよがりだったのは、俺の方だったのだろう。

 

 ユウキ「アスナはきっと、いつか攻略に疲れちゃうと思う…その時は、キリトがアスナを支えてあげてね?」

 

 キリト「…あぁ…分かった。約束するよ」

 

 …次、アスナと話す時間が出来たら、ちゃんと謝らないとな。そんな風に決意し、心の曇りを晴らした俺は、情報を集めるために街へと繰り出した。

 

 

 

────────────────

 

 

 

 ──負けた。彼と決別して以来、私は私なりに、日夜レベリングに励んで、技を磨き、アバターの動かし方も熟知して、確実にあの時よりも強くなったという自覚があったというのに、彼には届かなかった。

 …どうして、彼は真面目に毎日攻略に勤しんでいるわけでもなく、適当な所で時間を潰しては、遊んでいるというのに、私よりも強く在れるのだろうか。どうすれば、彼のように在れるのだろうか。やっぱり、私には到底届かない所に位置する人なのだろうか。

 彼とのデュエルに敗北し、その場から逃げるように噴水広場までやって来た私は、その場に腰掛けながら、そんな強い虚無感と敗北感に襲われていた。すると、一定のリズムを奏でながら、こちらへ向かってくるプレイヤーが一人、現れた。

 

 アスナ「…何の用よ」

 

 アルファ「なにって、アスナが落ち込んでるかなー、って思ったから様子を見に来てやったんだよ」

 

 アスナ「…」

 

 アルファ「無言は承諾とみなさせてもらうぞ」

 

 …彼とよく行動を共にしている、この人なら、あの強さの正体に迫ることが出来たりするだろうか。私は、それを訊ねるために口を開こうと、彼の顔を見たのだが、その横顔は少し険しいものだった。

 それを見た私は、喉から出かかった言葉を、自然と腹の中に納めてしまう。

 

 アルファ「…アスナは、キリトが言ったことは正しいと思うか?」

 

 一瞬、何事かと思ったが、恐らく、私と彼がデュエルをするきっかけになった会話のことを指しているのだと、気が付いた。私は、噓偽りのない気持ちを言葉にした。

 

 アスナ「…私は、やっぱり納得できない…NPCを囮にして、早急に攻略が進むのなら、私はそっちを選ぶわ…」

 

 アルファ「…そうだよな。俺も似たような考えだ」

 

 アスナ「え?」

 

 アルファ「どうした?」

 

 アスナ「…何でもないわよ…」

 

 まさか、彼が私と同じような考えを持っているとは、微塵も思っていなかった。彼とつるむ人間は、軒並み彼と同じような思考を持ち合わせていると思っていたのだが…。

 彼は、少し困ったような顔をしながら、話を続ける。

 

 アルファ「アスナとちょっと違う所は、俺はユウキやキリト、クラインにエギルに、アスナ等々…俺が大切に思っている人が死ぬくらいなら、NPCを犠牲にした方がマシだって思ってるんだ…こんなこと、キリトとかユウキに話したら、怒られるだろうけどな…」

 

 アスナ「…」

 

 アルファ「…だけど俺は、NPCの中にも生きている奴らが居ることは理解している…それは、アスナも分かってんだろ?」

 

 アスナ「…」

 

 アルファ「NPCは唯のオブジェクトだと、そうレッテル貼りをするのは駄目だ。それはキリトだけじゃなくて、アスナがキリトとコンビを組んでた時期を否定することに他ならないぜ?」

 

 アスナ「……私は、あの人に負けたくなかった…」

 

 私は、彼の言葉に胸の痛いところを突かれたのと同時に、彼に対して、自然と私の胸の内を言葉にしていた。彼はそれを黙って聞いていてくれる。

 …そうだ。私は彼に勝ちたかった。私はこれだけ成長したのだと、もうあなたの強さに甘えているだけの存在ではないのだと、それを証明したかったのだ。そして、彼に向けられる私の熱い胸の内を打ち消してしまうためにも…。

 一通り話し終えた頃には…勿論、後半部分は話していないのだが、私の心は普段よりも少しだけ、軽くなっていた気がする。すくりと、ここへ来た時とは違って、確かな足取りで立ち上がった私に、彼は声を掛けてきた。

 

 アルファ「…仲直りしに行くのか?」

 

 アスナ「…それは、一日置いてからね…お互い、心の整理もしておかないと…」

 

 アルファ「そうだな…それと、息抜きも忘れんなよ」

 

 …息抜き。確かに今の私に足りないものは、それもあるのかもしれない。彼にお礼を言って、その場を去ろうとしたのだが、そのタイミングでこの町に住んでいるであろう幼女NPCが私達に声を掛けてきた。

 

 「おねーちゃん、元気になったね!」

 

 アスナ「え、えぇ…」

 

 こんな会話パターンもあるのか…いや、きっとこの子は、命のあるNPCだ。私の彼と過ごしてきた日々の中でであった生きるNPCとの出会いが、それを容易に分からせた。

 

 「悲しい時にも、元気な時にも!この歌を聞くといいよ!」

 

 そう言って、幼女は歌を歌い始めた。その音色は何とも美しいものだったが、その歌詞は、どんな凶暴な怪物でも眠らせてしまう歌、という意味合いだった。歌を聞き終えると、幼女の頭にキーマークが表示される。

 キーマークとは、ボス戦に置いて重大な情報を提供してくれるNPCを表す標識みたいなものだ。それに驚いた私たちは急いで幼女に話を聞くと、どうやらこの町に古くから伝わる伝承によれば、街の近くをうろつく怪物は、この歌を聞いた途端に眠りに落ちてしまうらしい。

 …今回のフィールドボスはギミック系だったのね!頭の中でパズルが完成したような気持ちの良い衝撃に襲われながら、私はその喜びを表現するように、彼に笑顔で話し掛ける。

 

 アスナ「アルファ君!」

 

 アルファ「あぁ!みんなに知らせてくる!」

 

 そうして、私は血盟騎士団のメンバーに、アルファ君は他のメンバーにその情報を伝えに向かったのだった。

 

 

────────────────

 

 

 その情報が攻略組の間で知れ渡ると、一気に攻略組の雰囲気が明るくなった。超強力なフィールドボスを弱体化する寳保が見つかったのだから、それもそのはずだ。ただ、問題はその歌の歌い手が見つからないことだった。

 幼女はこの町に住むNPCであるため、この街の外に出てボスの目の前に行くことは出来ない。だからと言って、街中にボスを引き寄せようだなんてマネをしたら、キリトとアスナがデュエルをした意味もなくなるし、そういう訳にもいかない。…最も、今のアスナは、そんな非情な作戦を決行しようとは思ってもいないのだろうが。

 別に歌を歌わなくても、楽器演奏スキルがあれば効果を発揮できるらしいが、それも楽器演奏スキルをマスターしている、つまり熟練度を上限まで上げ切っている必要があるらしく。明日は一旦主街区に戻って、楽器演奏スキルマスター者を探すことに決定された。

 だが、何たる幸運か、このパ二の村に、二人のプレイヤーが現れたのだ。それは俺とユウキの知り合いでもあり、一部の風林火山のメンバーやアスナも良く知っている人物であった。

 

 ユウキ「ユナにノーチラス!久しぶり!」

 

 ユナ「やっほー、元気にしてた?」

 

 アルファ「あぁ、元気にしてたとも」

 

 ノーチラス「待たせたね。僕達もようやく前線に追いついたんだ」

 

 その人物とは、元血盟騎士団のメンバーであるノーチラスと、吟唱スキルの使い手、ユナだった。ノーチラスに、FNC判定は大丈夫なのか、と訊ねると、ノーチラスは、僕自身の気持ちの捉え方に問題があった。それが解決された今は、もう大丈夫だと、自信をもって答えてくれた。

 ユナは、俺達がアドバイスしたようにチャクラム使いとしてビルドを構成し直したようで、剣とは違ってブーメランみたいで扱いやすい、と大好評だった。やはりユナはこちらの方が向いていたらしい。

 俺がユナに、ボスを弱体化させるための歌を歌ってくれないか、と頼むと、二つ返事で引き受けてくれた。それを攻略組の面子に知らせると、最初はノーチラスの事情を知っていたアスナが止めに入ったのだが、ノーチラスの、自分を見捨ててくれても構わない、という強い意志を表明したことで、アスナが大人しくノーチラス達をレイドメンバーの中に組み込んでくれた。

 結局、総指揮はキリトではなくアスナが担うことに決定し、明日のフィールドボス戦に備えて、各自ゆっくりと夜を過ごしたのだった。

 

 

 

────────────────

 

 

 

 フィールドボス戦は驚くほど順調に進み、異例のスピードで終了した。その理由はなんと、幼女から教わった歌の効果が、誇張表現ではなく本当にボスを眠りにつかせてしまったからである。

 吟唱スキルという珍しいスキルを使うユナ、というプレイヤーが歌を歌い終えるまでは、ボスの猛攻を耐え忍ぶ必要があったのだが、それも僅か一分ほどのことであった。唯一の懸念点であったノーチラスも以前とは見違えるように、ボスに対して恐怖することなく、自由にフィールドを動き回れていた。

 何がノーチラスのFNCを克服させたのかは分からないけれど、その一つの要因はノーチラスとユナの薬指にお揃いの指輪の意味なのではないかと私は思っている。無事にフィールドボス戦が終了したことを祝って、今はパ二の村で祝宴が開かれているのだが、私は一歩、勇気を振り絞れずにいた。

 

 アルファ「ほらっ、今ならキリトはフリーだぞ、行って来いよ」

 

 ユウキ「うんうん!言いたいことがあるならちゃんと伝えなきゃ!」

 

 二人に背中を押されるようにして、私は、街の片隅に佇む彼の下へと歩いて行く。心臓が嫌に五月蠅いが、この際気にしてはいられない。

 

 アスナ「……お疲れ様」

 

 キリト「…あ、あぁ…お疲れ」

 

 第一声に何を言うべきか散々迷った私は、結局、一番在り来たりな言葉を選んだ。彼も、私に話し掛けられるとは思っていなかったのか、返事が堅い。私は、勇気を振り絞って彼に話し掛ける。

 

 アスナ「……その、ごめんなさい。…私、攻略を優先するあまり、大切なことを見失っていた…」

 

 そう謝罪して少し目を伏せると、彼は、ギョッと驚いたように、半歩引く。だが、すぐに自分を取り繕って、態勢を持ち直した。

 

 キリト「…俺の方こそごめん…きっと、アスナを傷つけるような言葉、たくさん使ったと思うから…」

 

 まさか、彼から謝られるとは思ってもみなかったせいで、私は思わずフフッ、と吹き出してしまった。彼は不服そうに、…なんだよ、と訊ねてきたので、正直に話してあげる。

 

 アスナ「まさかキリト君に謝られるなんて思ってなかったから…でも、これで仲直り出来たかしら?」

 

 私がそう言うと、彼は微笑みながら答えてくれる。

 

 キリト「…そうだな。しっかり仲直り出来たな…それと、アスナが俺のこと、キリト君、って呼ぶのなんか久しぶりだよなぁ」

 

 アスナ「…何よ?」

 

 キリト「いやいや…ただ、やっぱあなた、とかよりもそっちの方が落ち着くなぁって思ってだな…」

 

 アスナ「…ふぅん…まぁ、次のデュエルは負けないわよ」

 

 キリト「あぁ、いつでも受けて立つぜ」

 

 私はそう言い残すと、騒めく胸の内を誤魔化すように、早々に彼の下を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ここでようやく、アスナはキリトに対する自分の気持ちを真正面から受け止められるようになりました。
 …アルファ君とユウキちゃんは、一体いつになったら自分に正直になってくれるんでしょうか…。
 なんかコッソリと、ノーチラスとユナが結婚していますが、気にしないで下さい、彼らなら当然の帰結です。

 では、また第61話でお会いしましょう!
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