~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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 圏内事件は三本立てで終わる…そう思っていた時期が筆者にもありました。


第69話 圏内事件 File3

 アルゲードを曲がりくねり、転移門を利用して第五十六層に降り立ってから俺達は、先日パーティー会場及び舞踊場と化していたDDAの本部に向かって行った。その道中に、ユウキが、今度醬油ラーメン自作しようかな、と呟き、それを聞いた俺はユウキが本気で作る醬油ラーメンを想像してその瞬間が待ち遠しく感じたりしていた。

 数分後、やはりいつ見ても威圧感を感じさせるDDAの城に辿り着いた俺達は、門番を務める二人のプレイヤーにアスナが話している様子を横目に、何故かその近くの木陰で軽く隠蔽スキルを発動させているキリトに声を掛ける。

 

 アルファ「キリト、来たぞ」

 

 キリト「うお!アルファか…ビックリさせないでくれ…」

 

 ユウキ「どうしてそんな所に隠れてるの?」

 

 キリト「…交渉事はアスナに任せた方がいいかと思って…そう言えば、アルファはヒースクリフに何を話しに行ったんだ?」

 

 アルファ「…アルゲードそばがラーメンに分類されないと語ったヒースクリフの言い分の確認及びその弁解…」

 

 キリト「…俺もあれはラーメンじゃないと思うけどな…」

 

 不意にキリトがそんなことを訊ねてきて、俺もヒースクリフと約束した以上本当のことを答えるわけにはいかないこともあり、焦って意味不明の言い訳をしてしまったのだが、よもやその言い訳がキリトに通じるとは思いもしなかった。キリトは、俺の解答に微妙な表情を浮かべているが気にしない。

 …まぁ、今は圏内事件の真相を確かめるべく動いているわけだし、普通は俺がヒースクリフに何か助言を求めに行ったと考えるのが自然だろう…。なんて分析をしていると、お昼間だというのに、フィールドに出ずにいたらしいシュミットが全身フルアーマーの完全装備でDDAの本部から早足に飛び出してきて、街へと繰り出すように移動していくのにアスナが付いて行く。

 恐らくシュミットも、グリムロックが何者かに協力して、指輪売却反対派の三人が命を狙っているのではないかという一番有り得そうな可能性に行き着き、しかもそれが正体不明の圏内PKという手法が取られたことから、出来るだけの安全を確保するためにDDAの本部という強固な要塞に引き籠っていたのだろう。

 アスナとシュミットが俺達の前を通った時に、俺達三人も二人に合流する。

 

 シュミット「…アルファとユウキも関わってるのか」

 

 アルファ「俺は単なる頭脳担当だけどな」

 

 シュミット「…そうか」

 

 シュミットはDDA前衛隊のリーダーを務めるタンクプレイヤーである。故にフィールド、フロアボスボス攻略戦にはほぼ毎回出席しており、度々顔を合わせることもある為、シュミットとは何度か談笑する機会はあった。だが、別に特段仲が良いわけでも悪いわけでも…どちらかと言えば仲は良い方なのだが…。

 俺とシュミットの関係性を説明する上で、一番分かりやすい例えだと思われるのは多分、俺とシュミットは同じ部活で切磋琢磨する仲で、部活内では喋ることもあり、笑い合ったりもしているが、部活以外での日常生活では特に関わり合いを持っていない、オフで遊んだりすることは無い、といった関係だろうか。

 …しかし、シュミットの声色はいつもの落ち着いたものではなく、少々棘のある音色で、普段はその身に纏っている覇気も、何処となく頼りなく見えるのは気のせいではないはずだ。

 シュミレットはそこからは無言で市街地の方まで歩き続けてようやく、こちらを振り向いてキリトに、誰から聞いたんだ、と緊張気味に訊ねた。一瞬、おどけて見せたキリトだったが、その後すぐにヨルコさんから、と答えると、シュミットは天を仰いで、ふぅぅぅ、と安堵の息をついた。

 それから再びキリトが、グリムロックの居場所を知らないか?と訊ねると、シュミットは、し、知らん!ギルドを解散して以来一度も連絡していないから、生きてるかどうかも知らなかったんだ!と早口に、それでいて視線はキリトの顔ではなく、街中をグルグルと見回していた。その挙動不審な様子は、まるで辺りに圏内PKを犯した人間が潜んでいるのではないかと思わせる。

 そんなシュミットに対して、アスナがシュミットを大きな瞳で見つめて穏やかな声で、私たちは圏内をこれまで通り安全なものにするために、圏内PKの手法を突き止めたいんです、現状一番怪しいのはグリムロックだから、彼の居場所や連絡方法に心当たりがあるのなら、教えてくれませんか?と訊ねた。シュミットはアスナに見つめられて、僅かにたじろぐ。

 …シュミット、残念だが、彼女にはもう想いの人がいるんだ。もし今ので惚れてしまった、だなんてことがあったら、潔く砕けてくれ…。だなんて下らないことを思っていると、シュミットが、居場所は分からない…でも、当時グリムロックが異常に気に入っていたNPCレストランがある。と答えてくれた。

 キリトがその店の名前を聞こうとすると、シュミットがその条件として、ヨルコに会わしてほしい、と言う。キリトとアスナがシュミットから少し離れたところで、彼をヨルコに会わせるかどうかを話し合っていたが、俺はその結論は二人に任せることにして、シュミットの傍で待機していた。

 シュミットはどうも落ち着かないらしいので、俺が護衛しているみたいな感じだ。…装備的には、シュミットが俺の護衛、と言った感じではあるが。ユウキも、その結論を二人の判断に委ねているからか、先程から黙り込んでいる。…いや、もしかしたら、圏内事件を解決するための糸口を必死に思考しているのかもしれない。

 やがて、こちらへ戻って来た二人は、ヨルコからの了承が得られたから、オーケーだとシュミットに告げた。するとまたまたシュミットは安心したような表情を浮かべる。それから俺達は、シュミットをヨルコの泊っている五十七層の宿屋に案内した。

 その途中にふと、夕焼けに包まれ、多くのプレイヤー達でごった返している街中に、異常にまでに違和感だらけの空きスペースが生まれていることに気が付いた。それは小さな教会の周辺スペースであり、恐らく、ここがキリト達が昨日目にした事件の現場なのだろう。

 キリトとアスナは一度だけそちらに視線が泳いだが、直ぐに目線を前に固定した。シュミットはそのスペースに釘付けであったが、それは俺もユウキもだ。俺は何か手掛かりになるものは無いかと目を凝らしてみたが、当然そこには何もなかった。とうとう、俺達は宿屋までやって来た。

 

 

 キリトが、安全のために双方に武器装備の禁止及びメニューウインドウの操作禁止を求めた。それに応じた二人は、軽い挨拶をしてから、ヨルコは部屋の向かいにあるソファに、シュミットはその正面にあるソファに腰を下ろした。俺とユウキは念の為にドアの前に立ち、キリトとアスナは二人の中間地点の両隣に立つ。

 ヨルコの後ろにある窓からは、心地よい風が吹いていた。ヨルコとシュミットは軽い世間話…それにしては、シュミットはやや過敏に反応し過ぎな気もするが…兎に角、遂にシュミットは耐え切れなくなったのか、身を乗り出して本題を切り出した。

 

 シュミット「訊きたいのはカインズのことだ!何で今更カインズが殺されるんだ!?あいつが…指輪を奪ったのか?GAのリーダーを殺したのは、あいつだったのか!?」

 

 そんなシュミットの叫びに対して、ヨルコは先程までの微笑を消し、シュミットを睨みつけながら言い返す。

 

 ヨルコ「そんなわけない。私もカインズもリーダーのことを心から尊敬していたわ。指輪の売却に反対したのは、コルに変えてみんなで無駄遣いしちゃうよりも、ギルドの戦力として有効利用すべきだとおもったからよ。ほんとはリーダーだってそうしたかったはずだわ」

 

 …嘘だ。ヨルコは昨日、指輪の売却に反対した理由は、前衛職を務めていたカインズが指輪を使いたがっていたのを、惚れた弱みで後押ししてしまったからだと、彼女自身がそう述べていたはずだ。と言うことはつまり、その真実を話さないヨルコは未だにカインズの名誉を想定だけで汚されることを避けたいと考えているらしい。それは昨日のKOBの本部に移動しなかったことから明らかではあったけれど。

 …まぁ、どうでもいい話なんだけどな。俺が呑気にヨルコのカインズに対する強い想いを考察している中、ヨルコとシュミットは白熱した会話を続けていた。

 シュミットは、売却派の中にも、コルを独占したい奴がいてそいつがリーダーを殺した可能性もあるというのに、どうしてグリムロックはカインズを殺したのか!?売却反対派を全員殺すつもりなんじゃないのか!?と両手で頭を抱えながら、恐怖で顔を真っ青にさせていた。するとヨルコが

 

 ──死んだリーダー自身の復讐なのかもしれない。圏内でプレイヤーを殺すなんて、普通のプレイヤーには出来ないし。

 

 と、儚げに微笑みながら答えた。シュミットはその衝撃的な発言に開いた口が塞がらないまま、何かを言葉にしようとしていたが、それは発声まで辿り着かない。そんな風に俯瞰している俺も、ヨルコの発言には背中をゾクリとさせてしまい、不意に視線を背中に向けてしまった。

 それに気が付いたユウキが、僅かながら獰猛に口元を歪めていたのを見て、後で小馬鹿にされることを俺は悟った。

 シュミットは放心状態で居続ける中、ヨルコが徐にソファから立ち上がり、両手を越しの後ろで握りながら、後ろの窓に向かってゆっくりと後ろ歩きしていく。

 

 ヨルコ「私、ゆうべ、寝ないで考えた。結局のところ、リーダーを殺したのは、ギルメンの誰かであると同時に、メンバー全員でもあるのよ。あの指輪がドロップした時、投票なんかしないで、リーダーの指示に任せればよかったんだわ。ううん、いっそ、リーダーに装備してもらえばよかったのよ。剣士として一番実力があったのはリーダーだし、指輪の能力を一番活かせたのも彼女だわ。なのに、私たちはみんな自分の欲を捨てられずに、誰もそれを言い出さなかった。いつかGAを攻略組に、なんて口で言いながら、ホントはギルドじゃなくて自分を強くしたいだけだったのよ」

 

 ヨルコは窓辺に腰掛けながら、言葉を続ける。

 

 ヨルコ「ただ一人、グリムロックさんだけはリーダーに任せると言ったわ。あの人だけが自分の欲を捨てて、ギルド全体のことを考えた。だからあの人には、たぶん私欲を捨てられなかった私たち全員に復讐して、リーダーの敵を討つ権利があるんだわ…」

 

 ヨルコがそんなこと言い終えると、静寂なる空間が生まれた。やがて、かちゃかちゃかちゃ、と全身のフルプレート・アーマーの接合部分を震わせながら、シュミットが呟く。その身震いは、理不尽な復讐に対する怒りから来るものなのか、それとも、恐怖故のものなのか。

 

 シュミット「……冗談じゃない。冗談じゃないぞ。今更…半年も経ってから、何を今更。…お前はそれでいいのかよ、ヨルコ!今まで頑張って生き抜いてきたのに、こんな訳も解らない方法で殺されていいのか!?」

 

 呟きから叫びへと声色を変化させたシュミットの問いに対して、ヨルコは言葉を探すように虚空を眺めていた。その時、とん、と乾いた音が部屋中に響いた。ヨルコはよろめくようにこちらへ一歩足を動かしてから、震えるように窓の外を見やる。

 風に靡いて揺れた髪の隙間からは、装備している革装備の上から、ヨルコの背中を貫いている漆黒のダガーが見えた。ヨルコは、何も言わないまま、窓の外へとぐらりと落ちていく。固まる四人を置いてキリトが手を伸ばしたが、彼女には届かなかったらしい。

 そして、俺の耳には、ぱしゃりと何かがポリゴン片へと変化した音が聞こえた。

 

 ──これが、圏内PKか!?

 

 …ヨルコが何者かに殺された。その事実を受けて、俺の意識は一気に戦闘態勢に移行する。背中に収めていた両手剣を引き抜き、何処から襲い掛かられようとも対応できるよう、万全の態勢を整えた。

 ヨルコがダガーを撃ち込まれたであろう窓の外に何かを見つけたのか、隣で片手剣を構えていたユウキが窓に向けて飛び出す。と同時に、キリトも窓の外に飛び出していた。

 

 ユウキ「アルファ!シュミットは頼んだよ!」

 

 アルファ「お、おい!」

 

 キリト「アスナ、後は頼んだ!」

 

 アスナ「キリト君、ダメよ!」

 

 ヨルコは中層プレイヤーであったとは言え、相手はたったの五秒程でその命を削り切ったのだ。高レベルプレイヤーであるユウキも、相手から二撃でも貰えば、たちまちその体力バーをゼロにしてしまうかもしれない。俺の全身はユウキを追い掛けたい気持ちに駆られた。

 だが、残念ながら俺には、窓の外から家々の屋根に飛び移れるだけの敏捷値は無い。ならば、俺の為すべきことは、ユウキに任された通りに、シュミットの護衛を務めることだ。ヨルコの身体にダガーが刺さった以上、圏内PKなるものが存在することはこの目で確認できた。

 もし、犯人がそのままシュミットを襲いに来たら?…その時は俺が殺るしかない。キリトを追いかけようとしたアスナの腕を掴んで、俺は素早く指示を出す。

 

 アルファ「アスナ、俺達はシュミットを守るぞ!剣を抜け!」

 

 アスナ「…ッ!了解よ!」

 

 俺の声に冷静さを取り戻したアスナは扉の前を、俺は窓の外を警戒する。

 

 アルファ「シュミット、盾を装備しろ!」

 

 ソファの上で身を丸めて、ぶるぶると震え続けるシュミットに俺はそう叫んだ。だが、確実に自分の命が狙われていることを確信した、極限状態に至っているであろうシュミットには俺の声が聞こえていないのか、何のアクションも起こさないまま身を丸めるだけだ。

 窓の外には、家々の屋根を飛び回るユウキとキリトが、恐らくこの事件の犯人であろう黒いケープを身に纏った何者かを捕らえようとしていた。しかし、犯人はその直前でテレポートし、確保には至らない。そこまでの一部始終を見終えた俺は、アスナに窓を施錠してもらう。

 しかし、俺達はまだ警戒態勢を途切れさせずに剣を構え続けていた。やがて、ガチャリ、と扉の開く音がし、廊下からユウキとキリトが姿を現した。

 二人を見て一旦安堵した俺とアスナは、二人に事の経緯を訊ねた。するとキリトが、テレポートで逃げ切られた。男か女かは分からなかったが、あれがグリムロックなのかもしれない、と悔しさを滲ませ、握る拳に力を込めながら答える。すると、シュミットが震える声で呟いた。

 

 シュミット「……違う。違うんだ。あれは…屋根の上にいた黒のローブは、グリムロックじゃない。グリムロックはもっと背が高かった。それに…それに…あのフード付きのローブはGAのリーダーのものだ。彼女は、街に行くときはいつもあんな地味な格好をしていた。そうだ…指輪を売りに行く時だって、あれを着ていたんだ!あれは…さっきのあれは、彼女だ。俺達全員に復讐に来たんだ。あれはリーダーの幽霊だ」

 

 シュミット「幽霊ならなんでもアリだ。圏内でPKするくらい楽勝だよな。いっそリーダーにSAOのラスボスを倒してもらえばいいんだ。最初からHPが無ければ、もう死なないんだから」

 

 シュミットはタガが外れたように、まるで見えない何かを見つめながら、はははははは、と薄ら笑いを浮かべていた。

 キリトは、犯人を捕らえられなかった自分に苛立ちを覚えているのか、彼の答えに納得がいかないのか、ヨルコを殺したダガーを放り投げ、幽霊なんかの仕業ではない、とシュミットに説明した。

 続くアスナも、もし幽霊の仕業であるとするのなら、今まで死んでいったプレイヤー皆が幽霊として化けて出てくるはずだ、と幽霊説を否定する。

 俺とユウキは何も言わないでいたが、俺はどうにも、亡きオウガとサツキの声を聞いている以上、幽霊を否定する気にはなれなかった。

 …もし、この世界にオウガとサツキの無念の魂が彷徨っているのならば、俺は彼らと出会ってみたい。これ以上に無い程自分勝手な話だが、俺は彼らに罵倒されながらも、懺悔をして、許しを乞いたいのだ。そうでなければ俺は、例え彼らの遺志を受け継ごうとも、あの日を後悔することを辞めはしないだろう。

 そんな、俺の犯した過ちを胸に刻んでいるうちに、話はどんどん進んでいった。キリトがシュミットにグリムロックが通っていた店の詳細と、他の黄金林檎の…GAのギルメンの生存確認のために、彼らの名前を、メモ用紙に記載してもらっていた。

 そしてそのメモ用紙をキリトに差し出しながら、シュミットは自虐気味に告げる。

 

 シュミット「……攻略組プレイヤーとして情けないが…オレはしばらくフィールドに出る気になれない。ボス攻略パーティーは、オレ抜きで編成してくれ。それと……これから、オレをDDAの本部まで送ってくれ」

 

 すっかり、いつもの豪傑なる覇気を失わせてしまった彼を、俺達四人は厳重に警備しながら、DDAの本部まで送り届けたのだった。

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 ヨルコの死をこの目で見た俺とユウキは勿論、カインズの死さえもその目で見ていたキリトとアスナは今まで以上にこの現状に危機感を募らせ、これ以上に被害者は出させまい、とすぐさまシュミットが教えてくれたNPCレストランの張り込みを始めたのだった。

 その噂のNPCレストランは第二十層主街区の下町の複雑な小路の先にあるこじんまりとした酒場だった。先程のケープの人物がグリムロックだとするのなら、キリトとユウキの顔が割れている可能性がある為、彼が訪れるであろう酒場で待ち伏せするわけにもいかない。

 なので俺達は、酒場を見通せる位置にある宿屋の一室にて、酒場に出入りするプレイヤーを監視することに決定した。二手に分かれず四人で同じ部屋に張り込むという効率の悪い方法を選択した理由は、この部屋以外に酒場を視界に入れられる部屋が無かったことと、長期戦になることを見越して、交代制のシステムを作り上げるためだ。

 ふと、アスナが思い出したように言葉を発する。

 

 アスナ「…ねぇ、張り込みはいいけど、わたしたち、グリムロックさんの顔、知らないよね」

 

 ユウキ「確かに…どうしよっか?シュミットは精神状態的にも駄目そうだし…」

 

 キリト「…身長と体格には覚えがあるから、それらしいプレイヤーが来たら、ちょっと無茶だけどデュエル申請で確認する」

 

 アルファ「なるほど…」

 

 キリトの言葉を聞いて、数あるデュエル申請の方法の中に、視界に入っているプレイヤーにデュエルを申請する、と言う方法があったことを俺は思い出した。

 …普段ユウキとデュエルをしている時は、相手の名前を打ち込む方式を選んでいるから、そんな方法があることはすっかり忘れていたな。なんて考えつつも、午後六時四十分、と夕食時に入り、ボチボチとプレイヤーが入店していく様を眺めながら、この酒場は毎日のように通うほどの名店なのか、と俺の脳はまた要らぬことを考え始めていた。

 俺もユウキも、ユウキが何かを作ってくれる時以外は、基本的にはNPCレストランを利用することが多く、これまでのSAO内の生活の中で数多のNPCレストランを巡って来た。だが、それでも俺達が気に入って毎日のように通ってもいい、と思える店は、これまで挑んできたNPCレストランの数の実に5%ぐらいではないだろうか。実際、俺達がお気に入りの店だけで食生活の献立を立てるのなら、一週間のうちに同じ店に足を運ぶことになるだろう。

 俺がそんなことを考えていると、キリトのお腹がぐぅ~っと鳴った。それを見たアスナは、メニューウインドを操作して、美味しそうな匂いを漂わせる白い包みを四つ取り出す。アスナが有難い事にも、俺達にそれをプレゼントしてくれたので、俺達は感謝しながらその包みを開いた。

 中には、カリッと焼けた二枚のパンの中に、これでもかと野菜やローストビーフを挟み込んだ一品だ。いただきます、と唱えてから、俺はその食欲をそそるハンバーガーらしいものにかぶり付いた。温かいパンはサクッ、フワッという食感で、中に入っているローストビーフはジューシーかつ歯ごたえアリ、少し濃い目で製作されたであろうスパイシーな味付けを優しく包み込むのは、紫色をしていた葉野菜だ。野菜の甘さと特製のタレが絶妙なバランスを生み出している。

 

 アルファ「美味いな…!」

 

 俺は夢中でハンバーガーを貪っていると、不意にユウキが訊ねてきた。

 

 ユウキ「このハンバーガーとボクの作る料理、どっちが美味しいかな?」

 

 アルファ「…え?」

 

 …ヤバい。こういうのってどう答えるのが正解なんだ?ユウキの作る料理の方が美味しいな、って答えるべき?…でも、正直な所、このハンバーガーの方が美味しさと言う点で勝負すれば、僅かにこっちに軍配が上がるんだけどな…。

 俺が返答に迷っていると、ユウキが俺にグイと近寄り、俺に問い詰めてくる。キリトとアスナは変わらず酒場の見張りを続けているが、どうも片目だけをこちらへと集中させているらしい。…なんでそんな見てくんだよ。

 

 ユウキ「正直に、答えてほしいな?」

 

 アルファ「……このハンバーガー、です…」

 

 俺が観念したようにその答えを出すと、ユウキは、はぁ~…とため息をついた。キリトとアスナは、有り得ないんですけど!?と言った目で俺を見ている。

 

 ユウキ「…まぁ、ボクもこのハンバーガーの方が美味しいって感じたから、いいんだけどね……これ作ったのって、アスナだよね?」

 

 アスナ「え!?そ、そうだけど…」

 

 アルファ「マジか!?アスナやるなぁ~」

 

 ユウキ「…ボク、アスナに負けちゃったね~」

 

 俺がまさかの事実に驚愕しているうちに、アスナがユウキを見て、彼女を揶揄うようにとんでもないことを言い出す。

 

 アスナ「あ~あ~…私がアルファ君の胃袋掴んじゃったかもね~?」

 

 アルファ「アスナさん!?」

 

 別の意味でまたまた驚愕した俺を、ユウキの次なる発言が更に俺を焦らせる。驚天動地とはまさにこの瞬間の為に作られた言葉なのだろう。

 

 ユウキ「…別にいいもん。ボクはもう、アルファの心を鷲掴みにしちゃってるもん」

 

 アルファ「ユウキ!?」

 

 …今ここで言うことなのかそれは!?いや、確かにユウキの魅力に射抜かれていることは否定しないけども!?

 ユウキが小悪魔的に俺の胸辺りをトン、と人差し指で差してきた。俺はその行動に心臓をバクバクと高鳴らせ、後ろにぐらりとよろめいたわけだが、アスナもキリトも、最早酒場に目など向けておらず、こちらにその両目をきっちりと向けながら、その光景を見てほのかに顔を赤く染めている。

 

 アスナ「……ゆ、ユウキ…大胆だね…」

 

 アルファ「おいお前ら!しっかり酒場見てろ!」

 

 俺の一喝が正しい意見であったため、皆、直ぐに我に返って、再び監視を始めてくれた。数分後アスナが、もしキリト君が黄金林檎のメンバーだったら、指輪をどうしてた?とキリトに質問し、キリトは、やっぱり俺も売却派になると思う、と言葉を返していた。

 そしてキリトが、アスナに同じ質問をし返す。するとアスナは迷うことなく、ドロップした人のものであると、SAOには戦闘記録が残らないから、隠匿とかによるトラブルを避けるためには、ドロップした人のもの、と言う制度をKOBは採っているのだ、と答えた。そしてアスナは、その表情に情景を浮かべながら続ける。

 

 アスナ「……そういうシステムだからこそ、この世界での<結婚>に重みが出るのよ。結婚すれば二人のアイテムストレージは共有化されるでしょ?それまでなら隠そうと思えば隠せたものが、結婚した途端に何も隠せなくなる。逆に言うと、自分にドロップしたレアアイテムを一度でもネコババした人は、もうギルドメンバーの誰とも結婚できない。ストレージ共有化って、凄くプラグマチックなシステムだけど、同時にとてもロマンチックなシステムだと私は思うわ」

 

 …ぷ、プラグまちっく、ってどういう意味だ?ロマンチックは何となく意味は分かるが、前者は全く意味が分からない。多分、文脈的に反対の意味を孕んでいるであろうことは理解できるが…。

 そもそもSAOでは色んな外国語が使われ過ぎだ。俺みたいにちゃんと勉強していない人には厳しいんだよなぁ…と一人悲しみを嘆いていると、何を思ったのかキリトが慌てて口を開く。

 

 キリト「そ、そっか、そうだよな。じゃ、じゃあ、もしアスナとパーティー組むことあったら、ドロップねこばばしないようにするよ俺」

 

 ガタン、とその言葉にアスナは椅子から飛び退いた。アスナは表情をころりころりと変えているが、それもそのはずだろう。今のキリトの発言は、間接的かつ実質的に、キリトがアスナに気があるから、アスナと結婚できる可能性を追求しよう、という発言とも取れ得るのだ。

 恐らく、というかほぼ百パーセントキリトのことを好きであろうアスナが、この発言を聞いてオーバー過ぎる反応をすることも仕方のない事なのだ。アスナが、何十年たってもそんな日は来ないのだと、照れ隠しをするようにキリトに色々と捲し立ててから、ふんっ、とそっぽを向いてしまった。

 …そんな日は来ない、と否定しておきながら、その後すぐに、そんな日と言うのがキリトとパーティーを組む日、だと弁解し、見事キリトとの結婚までを否定しなかったアスナの饒舌さに、俺は感心した。キリトは、何処か傷ついたように再び酒場への監視に集中し始める。

 ユウキは今までアスナの作り上げたハンバーガーをちょっとずつ食べながら、その味を研究していたようだが、キリトとアスナの一幕はしっかりと目撃しており、随分と愉快そうに二人を眺めていた。

 だが、そうこうしているうちにアスナの作ったハンバーガーの耐久値がゼロになってしまったようで、突然ハンバーガーがポリゴン片へと変化する。

 

 ユウキ「…あ…やっちゃった…」

 

 アルファ「…」

 

 その、ハンバーガーが消え入る光景を見て、俺はふと違和感を覚えた。

 …まるで、プレイヤーが死亡した時に、ヨルコが死んでしまった時に発生したエフェクトと酷似している…。そう言えば、何故、システムの全てを把握しているであろうヒースクリフに、圏内事件の手法が思い当たらなかったのか。あの男なら、自分のシステムに欠陥など有り得ないように設計するだろうし、もし欠陥があったとすれば、自分の中で組み立てたシステムと今回の圏内事件の手法との乖離点を見つけ出し、答えに辿り着けたはずだ。

 なのに彼はその答えを見つけ出すことが出来なかった…いや、見つけ出す必要が無かったのではないだろうか。例えば、これは圏内のシステムの保護をすり抜けたものではなく、保護に則ったものだと考えるのなら?

 …つまり、もし、今回の圏内事件が演出でしかなかったのだと考えるのなら、ヨルコとカインズは何かしらの方法で耐久値が尽きた際に発生するエフェクトを利用したのではないだろうか。その場から消えたように見えたのは、移動のために転移結晶を使ったと考えればいい。

 …しかし、この理論はあまりに大雑把か。だったらどうしてキリトが貫通継続ダメージの検証をした時に、貫通継続ダメージが圏内で発生しなかった?さっき自分で考えた通り、圏内ではプレイヤーを保護するためのコードがあるのだ。

 故に圏内にて耐久値が尽きる現象は起き得ない…ことは無い。現に目の前でハンバーガーは消えた。まさか、圏内においてはプレイヤーは保護されるが、その他のオブジェクトに関しては保護の範囲に入らない…?

 確かに、貫通継続ダメージの検証の時には、キリトはグローブを外してその実験をしていた。ならば、グローブの上から突き刺さった状態なら?防具の耐久値は、そのまま減っていくのでは…?

 俺の思考が、僅かな事件解決の可能性へと至った瞬間に、キリトが大声を上げた。

 

 キリト「あぁ…あぁ…!?そうか…そうだったのか!!」

 

 アルファ「キリト!お前も気が付いたか!!」

 

 キリト「アルファ!?お前もか!!」

 

 アスナ「何よ、いったい何に気が付いたの!?」

 

 ユウキ「…ボクも分かんないかなぁ」

 

 俺とキリトが二人だけで笑みを浮かべながら、事件の真相に辿り着いた心地よさを味わっていると、アスナとユウキは何が何だか分からない、と言った様子で俺達を眺めている。そんな二人に対して、俺とキリトは得意げに答える。

 

 アルファ&キリト「「圏内事件は、ただの演出だったんだ(よ)!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 明日休みはマジで神ってやつだと思います。なので明日も投稿させていただきます。

 では、また第70話でお会いしましょう!
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