では、どうぞ!
─十二月四日、日曜日、午前十時─
予定された時刻に、以前から攻略会議に参加していたメンバーから、誰一人欠けることなく全員が集まった。この世界で行われる、全プレイヤーの命運を背負っているといっても過言ではない初のボス戦だ。誰しもが緊張した顔で、ディアベルが話し出すのを待っている。
ディアベル「みんな、いきなりだけど─ありがとう!たった今。全パーティーの四十四人が、一人も欠けずに集まった!」
「「「うおおぉっ!!」」」
会場中に熱く野太い歓声が沸いた。アルファもそこまで熱くはならなかったが、代わりに拍手でディアベルの演説を褒め称える。
…少しばかり盛り上げすぎな気もするが、俺は、リーダシップについての熟練者というわけではないので、とやかく口を出すつもりもない。それに、士気を上げるという意味ではこれぐらいでいいのかもしれない。盛り上がった場で、ディアベルは俺達に対してもう一言加える。
ディアベル「みんな、もう俺から言うことはたった一つだ!……勝とうぜ!」
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トールバーナの街から迷宮区最上階までの道のりを、大人数で行進するというぶっつけ本番の試みであったにも関わらず、特に何のアクシデントもなく、行進は順調に進んでいた。ここに集まった四十数人は、やはり選りすぐりの強者らしく、襲い掛かってきたモブを危なげなく返り討ちにしている。その中でも特にディアベルの指揮能力は素晴らしく、リーダーとしての能力が高いことを再三思い知らされた。
道中、キリトとアスナが呑気な会話していたが、アルファは会話どころではなかった。その理由は、キバオウの装備が攻略会議1日目から全く変わってなかったからである。つまり、今俺が持っている正確な情報から推測するのならば、キバオウは命を賭した戦いを前に四万コルを装備の強化に使わずにため込んでいるというわけだ。
アルファ(なんでキバオウはコルを使わねーんだ?次の層に強い装備があるのか?いや、それならキリトの装備を買い取ったりしないはずだ。…!ま、まさかっ──」
キリト「─おい、おい、アルファ、聞こえてるなら返事ぐらいしてくれ」
キリトの呼びかけによってアルファは思考の海から無理矢理引き出されてしまう。キリトに適当な返事をしてから、再びそのことについて考え直そうとするが、一度集中が切れたせいか、上手く考えが纏まらなかった。
アルファ(あとちょっとで何か掴めそうだったんだけどなぁ)「すまん、緊張してた」
アスナ「あら、あなたは緊張とは縁がなさそうな人なのにね」
意外にもアスナからツッコミが入れられる。しかし、初めて出会った時にかけられたような冷たいツッコミではなく、どこか丸みを帯びたツッコミであった。
アルファ(昨日、風呂に入れたからか?)
なんて、くだらない想像をしているうちにボス部屋の前まで辿り着き、大扉の前でもう一度、全体を通して作戦の確認が行われる。再び四十人ほどのプレイヤー達の間に緊張が走る中、ディアベルが一歩前に出た。
そしてディアベルはそっと大扉に手を当てて、強く言い放つ。
ディアベル「─行くぞ!」
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──こんなに広いのか。
初めてボス部屋に入ったアルファは、この広大な空間を目の当たりにして、ただ純粋にそう感じた。SAOのボス戦では、戦闘が始まったことで大扉が閉まって、中に閉じ込められるという鬼畜使用ではないらしい。だが、ボスから逃走するときはこのボス部屋の広さに注意しなければならない、とのことだ。
ボスから背を向けて走るのではなく、ボスを正面においてジリジリと引いていかなければ、そこには死が待っていると、お風呂からあがった後、キリトから教えてもらった。俺たち余り者パーティーは、ボスの取り巻きである<ルインコボルド・センチネル>が、ボスを相手にしている本隊に近づかないようにヘイトを稼ぐことだ。
アルファはコボルドの手斧を、この日のために最大限強化したストーンブレードでガッチリ受け止め、はじき返す。それによってブレイクポイントを作り出した俺は、後ろに控える彼らに向けて叫んだ。
アルファ「スイッチ!」
キリトから習ったスイッチという技法を使い、後ろからキリトとアスナが飛び出して、それぞれがソードスキルを発動し、センチネルを撃破する。アルファは初めてアスナが剣を振るう姿を見たが、その正確さと迅速さを併せ持った華麗なる一閃突きに、思わず目を奪われた。
アルファ(正直言って、俺がいなくても問題なかったかもな)
アルファにそう思わせるほど、キリトとアスナの連携は息が合っており、三人で付近のセンチネルをドシドシ倒しまくっていく。少し余裕が出てくると、アルファの頭の中には再び先程の思考が蘇ってきていた。
アルファ(…恐らく、キバオウはキリトの剣を買い取る交渉を誰かから委託された可能性が高い。大量のコルは使わなかったんじゃなくて、使えなかったんだろう。こう考えれば辻褄があう。…だったらキリトの戦力を落とそうとしたということはベータ時代のようにLAを取られないよう阻止するためか?…そうだとしたら、委託人は今回のLAを狙うはず…この場で一番LAにふさわしい人は…)
キリト「スイッチ!」
キリトがセンチネルの長斧を上空に吹き飛ばして大きな隙を作ってくれたので、アルファが弱点の首元にカスケードを決める。続けて、ソードスキルで削り切れなかった残り数ドットの体力をアスナが上手く処理してくれた。
アルファ(──ディアベル、あんたがキリトの剣を買い取ろうとした真犯人なのか?)
ディアベルの方に視線をやろうとしたその時、彼の声がボス部屋中に響いた。
ディアベル「ラスト一本だ!みんないけるぞ!」
そう言いながらディアベルは、バーサーク状態のコボルド王の初撃を捌こうと、周囲のプレイヤーよりも一歩前に出ていた。コボルドロードは斧を投げ捨て、腰からタルワールを引き抜く。
…なんだか、アルゴの攻略本に載っていた武器の大きさよりも、一回りぐらい小さい気がする。例え些細な違和感であっても、ボス攻略においては重大な問題であるはずだ。この違和感をディアベルに伝えるため、アルファは本隊に向かって走り出した。センチネルはキリトとアスナのコンビネーションなら心配ないだろう。
アルファ「悪い、キリト、センチネルは任せたぞ!」
キリト「お、おい!アルファ、どういうことだ!」
キリトの静止を振り切ってアルファは急いで本隊に向かって行く。しかし、アルファが本隊に辿り着く前にその違和感が正体を現した。
コボルド王が、攻略本に載っていないソードスキルを放ったのだ。技の軌道から見ても、恐らく範囲攻撃であり、コボルドロードを囲っていた六人の体力を、一気にイエローゾーンにまで持っていく。その上不味いことに、その六人はスタン状態となってしまっていた。
コボルド王がその中の一人であったディアベルに狙いを定め、又もや未知のソードスキルを発動させる。エギルを含む数名が救助に向かおうとするが間に合わない。誰もが終わりを予感した。
アルファ「と、届けえええ──ッ!!」
アルファは無我夢中でコボルド王の剣を目掛けて、アバランシュを発動させた。ソードスキル同士がぶつかり合い、甲高い金属音と共に大量の火花が散り、ソードスキルを相殺したかに思われた。しかし、経験不足のせいかアルファが押し負けてしまい、スタン状態に陥ってしまう。
コボルド王はターゲットをアルファに定め直して、無情にも次のソードスキルを発動させた。
アルファ(いやー、ここで終わりか。…まぁ俺とディアベルの命を天平に掛けた結果だ。今の攻略組には俺よりもディアベルの方が必要とされてるからな。胸張って死のうぜ)
アルファはそのまま目をつぶって自らの体力がなくなる瞬間を待った。
しかし、いつまで経ってもアルファの身体は、これまでに何度も見てきたモンスターが死亡した時に発生する無機質なポリゴン片に変わることはなかった。恐る恐る目を開けると、そこには、キリトがコボルド王のソードスキルを相殺している姿が映った。
キリト「アルファ!大丈夫か!スタン状態が終わったら、出口方向に避難してポーションで体力がしっかり回復するまでは下がってろ!」
アルファ「…キリト、サンキューな。後は頼んだ。」
そう言ってアルファはディアベルと共に後方へ下がり、ポーションを飲んで体力の回復を待った。低級ポーションでの長々とした体力回復を待ちながらキリト達のボスとの戦闘を眺める。
キリトが幾度となくコボルド王のソードスキルを相殺し、その隙にアスナが<リニアー>を打ち込むという連携アタックを何度も繰り返すことで、微量ながら確実にボスを追い詰めていた。更には、キリトが皆に指示を出して場を纏めている。
だが、流石のキリトも集中力が切れたのか、相殺に失敗してしまう。キリトがコボルド王のソードスキルに呑まれそうになる寸前に、エギルがソードスキルで相殺したことで、事なきを得る。
ディアベルは体力を回復し終えたようで、前線に戻る前にアルファに礼を述べた。
ディアベル「…アルファ君、だったかな?助けてくれてありがとう。礼を言うよ」
アルファ「気にすんな。…一ついいか?」
ディアベル「なんだい?」
アルファ「キリトの剣を買収しようとキバオウに委託したのは…ディアベル、あんたか?」
ついさっきまでは涼しい顔をしていたディアベルも、この言葉を聞くと、動揺を隠せていなかった。一瞬、ディアベルは黙り込んで目をつぶった後、その口を開いた。
ディアベル「……そう、だね。集団の中で優位に立てるだろうLAに目がくらんでしまったよ。…すまなかった」
ディアベルは、己の犯した行為が許されることではないと分かっていたが、誠心誠意、アルファに対して謝罪する。
アルファ「謝罪はキリトしてくれ。それに…ディアベルは<ナイト>やってるんだろ?次からは騎士様らしく、正々堂々LAを勝ち取ってくれよな」
アルファはディアベルに対して笑顔でそう言った。
ディアベル「アルファ君…」
アルファ「そろそろ体力も回復したろ?攻撃に参加しに行こうぜ!」
ディアベル「…あぁ。そうだね」
キリトの必死の斬り込みによってコボルド王は転倒状態となっていた為、ボスへのアタックチャンスが生まれていた。他のプレイヤー達が一気に攻撃を仕掛けている様子を見て、アルファとディアベルも急いでソードスキルを仕掛ける。
全員でソードスキルを炸裂させたが、残り数ドットの体力が削り切れず、プレイヤー達に好き放題やられて憤慨したコボルド王が転倒状態から復帰しようとしていた。その瞬間、コボルド王の右わき腹に素早い突き攻撃のソードスキルが放たれた。
キリト「お……おおおおおッ!」
その雄叫びと共に、僅かに遅れてキリトのソードスキル<バーチカル・アーク>がコボルド王に撃ち込まれる。
キリトの気迫の籠った一撃を受けたコボルド王は不意によろめき、細高い咆哮を上げると、その巨体に無数のヒビを入れてから、幾千ものポリゴン片にその身を変えて、その場から消え去った。
そして目の前の何もない空間に『Congratulation』の文字が出現した。
プログレッシブ準拠とか言っときながら、ディアベルを生存させてますね…。
ほんと、この筆者は呼吸するように嘘をつきます。
そんな筆者ですが、今後ともよろしくお願いいたします。
では、また第8話でお会いしましょう1