~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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第72話 大海原の二面性

 現在の最前線は第六十一層、今層はフィールド全体が水に包まれており、フィールドに浮かぶ島はたったの二つしかない。一つ目は主街区<セルムブルグ>と大きな山が聳え立つ巨大島、そしてもう一つが、迷宮区タワーと主街区と同じぐらい大きな町がある島だ。

 その島と島の間には当然、決して浅瀬ではない海…もしくは湖が広がっているのだが、なんと、この層にやって来てはや二日目。未だに向こうの島へと渡る方法を攻略組のプレイヤー達は見つけ出すことが出来ていなかった。島が二つしかないことから、攻略日数は然程かからないだろう、というのが攻略組プレイヤーの当初の見解であったわけだが、そんな甘い考えは見事に崩れ去ってしまった。

 どういうわけか、この街から向かいの島までの船をどのNPCも出してくれず、これは何事かと昨日一日掛けて主街区を巡り巡った結果、如何やらこの街は向かいの島の街と緊張状態にあるらしく、それ故船を出しても大砲で撃ち落とされるのがオチとのことだった。確かに、この街には大きな城が建っており、その周囲を囲うようにして城壁が築かれた城塞都市であった。

 …俺は全面オーシャンビューと言っても過言ではないほど何処を見ても太陽を反射した煌めく海が見えるせいで、そんなことには全く注目していなかったのだが。

 しかもなんと、SAO攻略組の有識者によると、セルムブルグという名前の後半部分、ブルグは、英語で表記で<Burg>と表されることから、それがドイツ語で言う<城>に当たるらしく、納得のいく設定らしい。…まぁ、攻略組有識者というのは、アスナやヒースクリフなどの頭賢い人達のことである。自称博識のユウキさんは、ドイツ語は専門外のようだ…。

 しかし、だからと言って向島へ渡る手段を見つけられたわけでもないので、たった今も多くの攻略組プレイヤー達が必死に街を駆け巡り、その手段を探し出しているだろう。そんな中俺とユウキは、島の端っこまでやって来ていた。そこから海の様子を眺めながら、ユウキに言葉を掛ける。

 

 アルファ「これは絶対無理だ。百パーセント死ぬ」

 

 ユウキ「え~…妙案だと思ったのになぁ…」

 

 そう、ユウキが先程思いついたように、船が無いなら泳いで向こうの島まで行けばいいんじゃないのかな?だなんて言い出した為、俺は無謀だと思いつつも、一応海の様子を確認しに来たのだ。この島は何処に行っても波で周囲が削られたように切り立った崖になっており、一番低い崖でも地上から一メートルほどの高さだった。

 そしてそこから見える海はもちろん深く、到底足なんて着きそうにもない。まぁそれ自体は海で浮いてればいいだけだとしても、果たして何百メートルと先にある向かいの島まで、泳いでいられるだろうか。このゲームのことだから恐らく、開発に手を抜かず海の中にもモンスターはいるだろうし、その上波も結構荒れているように見える。

 確か第四層辺りのフィールドで採れる浮き輪の実を持ってきたとしても、向かいの島まで泳いでいるうちに波に吞まれて海の彼方へさようなら、だなんてことになってしまえば目も当てられない…ということをユウキに事細かく説明しておこうと思い、再びユウキに視線を移したのだが、ユウキは何故か海の水に手を付けて、その水をぺろりと舐めていた。そして顔を顰めて、俺に言葉を掛けてくる。

 

 ユウキ「…しょっぱい。これ海水だよ」

 

 アルファ「実際に舐めて見なくても、潮の匂いとかで分かるだろうが…」

 

 ユウキ「この海水をボトルで回収して、火にかけたら塩を精製出来たりしないかな」

 

 アルファ「是非とも試してみてくれ」

 

 確か現実で海水から塩を作ろうとすれば、海水を沸騰させて、それをろ過し、もう一度煮詰めて、更にろ過、その過程でにがりが入手出来て、残ったやつを焼けば余計な水分が飛んで塩の完成だったはずだ。…実際に作ったことが無いわけだから、知らないんだけれども。

 因みに、こうして作った自然塩とよく市場で売られている化学塩は別物である。確か、自然塩の販売は1971年ぐらいの時に成立した塩業近代化臨時措置法の成立によって、化学塩を販売する日本専売公社のイオン交換膜製法に置き換えられ、市場に自然塩が出回ることは無くなったはずだ。

 だが、自然塩を求める声も多く、1997年に塩の専売制度が廃止され、そこでようやく自然塩の販売も再開できるようになったわけだが、その七年間の間に塩田がほとんど廃止されてしまっていたので、結局今も塩のシェアを担っているのは化学塩である。自然塩には化学塩からは摂取出来ない海のミネラルが摂れて健康的だとか。

 まぁ、どっちか選べるというのなら、自然塩を選んだ方が一石二鳥なのかもしれない。俺も自然塩を口にしたことはあるが、化学塩よりも塩味が柔らかで、甘みを感じられる気がする。…と俺は現実世界でのことを少し思い出していたが、どうも最近、現実世界での出来事を思い出話として、懐かしむようになってきている気がする。これは最早俺が、この世界での生活に完全なる順応をしてしまってきているからだろうか。そんなことを考えているうちに、ユウキは海水を回収し終えたらしい。

 

 ユウキ「…よし、それじゃあそろそろボク達も、真面目に向こうの島まで行くための方法を探そっか?」

 

 アルファ「…いや、その必要は無さそうだぜ」

 

 海岸部を後にしようとしたその時、ピコんっとアスナからメッセージが届いた。内容は、この街の城主に話を伺った所、主街区の後ろに聳え立つ山岳の奥深くに、向こうの島の街で大切にされていた宝玉が眠っているというものだった。

 …つまり、こっちの街の人間が勝手に宝玉を持ち出して、そのせいで両町が緊張状態になってしまったということだろう?完全なるとばっちりじゃねぇか。メッセージの一番後ろには、今から集められるだけ人を集めて、攻略組の総力を挙げて山岳ダンジョンを踏破しよう、と言う内容が記載されている。

 普段は己のギルドを強化することに躍起になっているDDAも、流石に二日も攻略が遅延するのは受け入れ難いようで、KOBやHONと協力体制を整えるつもりらしい。ピッタリ四十五分後に街の南ゲートの前で集合して欲しいとのことだ。了解…とアスナに返信してから、ユウキにその旨を話す。当然ユウキもそれを受け入れてくれた。

 みんなでダンジョン攻略大作戦!決行まで残り四十分程度と、向こうの島に渡る方策を探るためにフルパワーでクエストをクリアしていた俺達は、あと残っているのは連続クエストが二つだけだし、残り時間的にもそれをやっている暇は無さそうだし、取り敢えずフィールドでレベリングでもすることにしておいた。

 遅刻しないよう南ゲートに着く時間を逆算して、しっかりと三分前に俺達は南ゲートに辿り着いた。集った面子には、DDAやHON、KOBの他にも、風林火山をはじめとする中小規模ギルド、層が上がるにつれて攻略難易度が上昇すると共に数を減らしつつあるソロプレイヤー、フロアボス戦には参加出来ていないが、それなりにレベルの高い準攻略組など、数多くのプレイヤーがいた。

 

 クライン「よぉ、アルファ!よろしくやってるか!」

 

 アルファ「どういう意味だ。クライン」

 

 クライン「ン?オイオイ、アルファ…オレはただ、ユウキちゃんと仲良くしているかを聞いただけだぜ?なんか勘違いしたのはお前ぇじゃねぇのか?」

 

 アルファ「…そうかよ」

 

 よろしくやってる、だなんて色々な意味で捉えられる言葉をクラインに掛けられて、俺はクラインにちょっと圧力をかけたわけだが、クラインはそれを意もせず面白そうに俺を揶揄ってくれた。幸いユウキは、今の言葉の意図を掴まないでいてくれたらしい。…本当に安心した。

 場に集まったプレイヤー達に対して、アスナが集まってくれてありがとうございます、とお礼を述べている。アスナ曰く、今回挑む山岳ダンジョンは未だ入り口が見つかっておらず、もしかしたら山頂に例のアイテムがあるかもしれないらしいので、集まってくれたプレイヤー達を分割して、山岳の全方向から山に洞穴などが無いかを確かめよう、とのことだ。

 その作戦に異論を唱えるプレイヤーはおらず、綺麗に戦力分配された結果、俺とユウキは、キリトとアスナを含むKOBのメンバー、そして準攻略組のプレイヤー達と北から山を攻めていくことになった。…本当に綺麗に戦力分配されたのだろうか?アスナがキリトと一緒に居たかっただけなんじゃないだろうか?

 なんて疑問を抱きながら、かと言ってこんなことを口に出してしまえば、アスナに正拳突きを放たれる気がしていたので、俺は静かに山を登り詰めていた。

 

 アルファ「そういやキリト、集合時間までに集まってなかっただろ?俺、知ってるぜ?キリトが遅れてやって来たこと」

 

 キリト「…いや、これには海よりも浅く、山よりも低~い深いわけがあってだなぁ…」

 

 アルファ「へぇー…是非とも聞かせてもらいたいもんだな」

 

 キリト「…この街の図書館みたいなところで、一つ言い伝えの文献を見つけたんだ。何でも、かつて二つの街はこの海の底に沈む人魚の王国から宝玉を二つ授けられたんだってさ。つまりこのフィールドの海の奥底には、お宝沢山の人魚の王国があるかもしれないだろ?そう考えたらロマンが溢れないか?」

 

 アルファ「確かにそれは好奇心がくすぐられる話だな。どっかでそれ関連のクエストが受けられるんじゃないのか?」

 

 キリト「そう思うだろ?だから俺も、クエストを探して街中を駆け巡ってたら…ちょっとだけ集合時刻に遅れた、というわけだ」

 

 そんなとりとめのない話をしながら、しかし出現したモンスターはしっかりと倒して、俺達はドンドンと山頂へと向かって行く。ユウキはアスナと雑談しているようだが、アスナは一向にキリトに話し掛けようとしない。恥ずかしがっているのだろうか。

 俺達が山岳の七割ほどを登り詰めた頃だろう、アスナが不意に俺達を呼び止めた。アスナによると、如何やら東の方向から登っていたプレイヤー達が洞穴を見つけたらしい。恐らくそこが宝玉のある場所だろうから、俺達も方向転換して、そちらへ向かって行った。

 やがて数十分後、山を登っていた全てのプレイヤーが東の洞穴…もしくは西の洞穴に集合したのだろう。俺達が東を目指して数分後、何と西でも洞穴が見つかったのだ。俺達が向かった東の洞穴は、風林火山とDDAのメンバーが見つけたものらしい。

 入り口部分は大きく、その中は自然に形成された急な階段構造になっている。踏み外さないように気を付けながら、俺達は洞穴を降って行った。洞穴は相当奥深く、山を登って来たのと同じぐらいの距離があった気がする。その中では、ガイコツとなったカニ型モンスターや巨大なフナ虫みたいなモンスターが登場した。

 大人数でこの洞窟にやって来たのはいいが、洞窟自体が狭かったら、逆効果だったのだろう。そして遂に、俺達は洞穴の最奥まで辿り着いた。俺達が向かった東の洞穴が正解だったらしく、目の前の小さな祭壇にはコバルトブルーに輝く丸い宝玉が設置されていた。

 

 ユウキ「これがあれば、向こうの島まで行けるんだよね!」

 

 クライン「ユウキちゃん、俺にもよく見せてくれよ!」

 

 ユウキが、待ってましたと言わんばかりに宝玉を掴んだ。クラインがその輝きに魅入られたようにそう言って来たのをユウキは素直に受け止めて、宝玉をクラインに向けてポイっと投げつけた。クラインは一瞬、ギョッとするも、慌てて宝玉を掴み、何とかそれを落とさずに掴み取る。

 用も済んだしそろそろ街に戻るか、と、ここにいるプレイヤーがその場を後にしようとしたその時、突然、ドーンッ、と洞穴全体が外からの衝撃を受けたように大きく揺れた。プレイヤー達は、驚きながらも武器を構え、何が起きてもいいように身構える。だが何も起こらず、それでもこの場は危険かと早足にその場を後にしようとした。

 しかし、再び大きく洞穴が揺れ動き、洞穴の側壁が一気に崩れ落ちた。そこから大量の海水が雪崩れ込んでくる中、一匹の巨大な海蛇…もしくは海竜が口を大きく開けてこちらに迫って来ていた。不幸にもちょうどそのド真ん中に位置していたユウキは、海蛇の捕食を逃れはしたが、勢いよく流れ込む海水の水流に吞まれていく。

 

 アルファ「ユウキっ!!」

 

 そのまま海中へと流れていきそうなユウキの腕を、俺は無我夢中で掴んだ。しかし海流と言う自然の圧倒的な暴力に逆らうことなど到底出来ず、俺の身体も水中へと吞み込まれ──る寸前に、キリトが全力で俺の腕を引き上げようとした。

 それでもやはり無駄な徒労で、キリトの身体も呆気なく波に吞まれていく。その最中アスナが、必死になってキリトの腕を掴み、彼女も俺達と同じく大海へと放り出制止されてしまった。クラインが俺達を助けようとこちらに向かおうとしていたが、冷静なギルドメンバーの制止に拒まれ、藻掻くことしか出来ていなかった。

 そして目に入って来たのは大量の海水。だが、眼を開けていても不思議と痛みは感じなかった。辺りを見回しても深い海中は薄暗く、しかし頭上には太陽の光が見えていた。この世界では水中に頭を鎮めてから二分後に、窒息状態として徐々に体力を削れていく仕様となっている。今から全力で水面へと泳いで行っても、間に合うかどうかは分からない。

 …クソッ!こんなことなら乗馬だけじゃなくて、SAOでの水泳の練習もしておくんだった!と苦しみ紛れに俺は自分自身を苛みながら、近くにいたキリトに身振り手振りで伝える。

 

 アルファ(キリト、上に上がるぞ!)

 

 キリト(あぁ!)

 

 水中では口を開いて言葉を発することが出来ない為、俺は上を指差して水面に上がることを伝えた。するとキリトは大きく頷いてくれる。ユウキやアスナも俺達の近くに近寄ってきており、その指示に従ってくれた。はぐれないよう四人で固まって動きながら、俺達は全速力で水面を目指した。

 だが、不意に右の海水がグイと動いた。先程までは、そこにはキリト達が居たはずなのに、今は巨大な鱗が動いている。…海竜!?キリトとアスナは…!?

 俺はその可能性を考えて、背中がゾクリと急激に冷え込んでいくのを感じ取った。左にいるユウキも同じように、顔面蒼白状態である。俺はユウキの手を掴んで、一心不乱に水面を目指した。だが、海竜はそれを追いかけるようにして、俺達の下から大きく口を開けて、俺達を捕食せんと迫って来る。

 …クソ、まさかこんな終わりを迎えるとは夢にも思わなかったぞ!そして俺達は、闇に吞まれたのだった。

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 「──ファ!──ルファ!…アルファ!」

 

 闇に包まれた世界で、誰かが俺の名前を呼んでいることに気が付き、俺は覚醒した。瞬間的に瞼を開けると、そこは真っ暗闇ではなく、ぼんやりと二つの光源が見えた。俺を揺れ動かしていたのは、キリトだ。俺は飛び起きて、キリトに対して矢継ぎ早にまくしたてる。

 

 アルファ「キリト!?おい、ユウキは!?アスナは!?ここは!?」

 

 キリト「お、落ち着け!ユウキはまだそこで寝てる!アスナが起してる!ここは…俺にも分からないけど、恐らくあの巨大海蛇の体内…だと思う」

 

 アルファ「……ふぅ…取り敢えずは良かった…」

 

 薄暗い空間の中で、確かにユウキとアスナがそこにいることに気が付いた俺は安堵して、一気に身体の力を抜けさせ、ペタンと尻餅をついた。手早くメニューウインドウを操作し、ランタンを取り出す。再び立ち上がってランタンを掲げながら辺りを照らし出すと、そこは確かに生物の体内のようなピンク色をしていた。

 …あの海竜に喰われてゲームオーバーってわけじゃなかったのか。一命をとりとめたことに関して、俺は少しだけ安心しながらユウキが起きるのを待った。暫くするとユウキが目覚め、彼女も同じように生きているという事実に放心しているようだった。

 そして俺達は、今度こそはぐれないように四人で固まって周囲の様子を伺ってから、その場に座り込んで話し合いを始める。

 

 アスナ「まず、ここがキリト君の言う通りあの海蛇の体内、っていう説は確かだと思うわ。実際私たちは、あの海蛇に吞まれたわけだし」

 

 キリト「それで…皆が気絶している間に色々と確かめたんだけど、まずはここではメッセージ機能が一切使えない。ということはつまり、ここはダンジョンと言う扱いになっているってこと。二つ目はここは結晶無効空間だということ、この二つぐらいかな」

 

 アルファ「…ということは、このダンジョンをクリアすれば、俺達も外に出られるのか」

 

 ユウキ「…となると、さっき見つけた食道みたいな所に移動しないといけないんだろうね。例えここで剣を打ち付けたとして、海竜がボク達を吐き出したとしても、また食べられちゃうかもしれないし、そうじゃなくても今度はもっと深い所から水面を目指さなきゃいけないかもしれない…」

 

 アルファ「そんな分の悪い賭けに出るぐらいなら、このダンジョンをクリアしてみてから決めればいい、ってことだな」

 

 キリト「そういうことだ。…このダンジョンをクリアするまでの間は、俺達は運命共同体ってことだから、取り敢えずは臨時でパーティーを組もう」

 

 そんな俺達の今後の命運を司る真剣な作戦会議をしていたというのに、突如としてアスナがフフッ、と吹き出した。この中で一番現状を重く見ていそうなアスナが笑い出すとは、最早アスナはこのダンジョンをクリアすることさえ諦めてしまったのかと思って、俺は彼女を心配に思う。

 キリトやユウキも不思議そうにアスナを見つめていた。するとアスナが、愉快そうにその理由を話してくれた。

 

 アスナ「ごめんごめん…だって、普段は誰ともパーティーを組もうとしないキリト君が、自分からパーティーを組もうって言ってくれたのよ?そんなの笑っちゃうに決まってるじゃない~」

 

 キリト「お前なぁ…」

 

 アルファ「ま、確かにそうだな。ボッチソロプレイヤーのキリトが、自らパーティー申請をするなんて、明日は吹雪かもしれねぇなぁ~?」

 

 キリト「アルファまでアスナの味方かよ…ユウキ!ユウキは勿論俺の味方──」

 

 ユウキ「残念だけど、ボクはアスナの味方だよ~」

 

 アスナと俺に揶揄われ、ユウキに僅かながらの希望を見たキリトだったが、結局それはユウキの満面の笑みによって打ち砕かれていた。恨めしそうに俺達を眺めるキリトのことは取り敢えず置いておいて、俺達は再び今後について話し始める。

 

 アルファ「──で、肝心の陣形だけど、どうする?」

 

 アスナ「…そうね…」

 

 この四人でパーティーを組んだはいいが、次点の問題としてこのダンジョン内で出現するであろう未知のモンスター達に対して、一体どのような陣形を整えるのか、ということが浮上してきた。

 ユウキとキリトは共に片手直剣使い、アスナは細剣使い、そして俺も両手剣使いと、ここにいる全員が揃いも揃ってダメージディーラーとしての役割を担うビルド構成となっていた。

 一応、俺の両手剣で疑似的な盾役を担うことは出来なくはないが、それをするぐらいならフルアタック構成でいい気がする。どうしたものかと俺が悩んでいると、アスナが俺に訊ねてきた。

 

 アスナ「そう言えば、アルファ君って片手槍使えたよね。今、片手槍持ってたりしない?それがあるならアルファ君に後衛を担ってもらって、全員ディーラーよりもちょっとはマシな編成を組めると思うんだけど…」

 

 アスナにそう言われて、キリトとアスナには悪いが俺は一瞬だけ、彼らに何と返事をするか迷ってしまった。確かに、太陽の戎具の変形機能を以てすれば、この場に片手槍使いとして彼らの役に立つことは出来る。しかし、彼らが俺の剣の秘密を守ってくれるという保証はない。ならば、俺の切り札の一つである変形機能を彼らに知らせたくは無いと、そう思ってしまった。

 だが、結局俺は彼らを信じることに決めた。俺は徐に背中に背負っていた両手剣を引き抜き、それに念じて淡い橙色の輝きと共に両手剣は片手槍へと変化した。キリトとアスナはその様子を、無言のまま驚き顔で見つめている。

 

 アルファ「問題ない。片手槍ならここにある」

 

 ユウキ「…アルファ…よかったの…?」

 

 アルファ「あぁ、別にキリトとアスナなら、構わないだろ。…一応念押ししとくけど、このことは黙っててくれないか?今はまだ周りに知られたくないんだ」

 

 アスナ「…え、えぇ…私は勿論誰にも言わないけど…」

 

 キリト「勿論俺も誰にも言わない。約束するよ。…ただ、色々聞きたいんだけど、いいか?」

 

 アルファ「二人共、サンキューな。自分の胸の内に収めておいてくれるなら、別に根掘り葉掘り聞いてくれていいぜ」

 

 キリト「マジか…!じゃあ、そ、それって新しいユニークスキルだったりするのか!?」

 

 やっぱり、信じてよかった…。俺がキリトに気前よくそう答えると、キリトは食い気味に俺に反応してきた。

 

 アルファ「いや、ユニークスキルではないな…この太陽の戎具っていう武器の持つ特性だ。この武器はどの武器スキルにもカテゴライズされてなくて、自分の持っている武器スキルに応じて、その形を変化できるんだ。だから俺なら、両手剣に片手槍、カタナに片手剣の四つだな」

 

 キリト「そ、そうか…にしてもとんでもない武器だな。それこそ真の魔剣じゃないか!…それを知ってしまった以上、俺の持ってるエリュシデータなんて、魔剣にも思えなくなってきたな…」

 

 俺の説明を聞いてキリトは若干残念そうな様子だった。そして、アスナとキリトが前衛を、俺が基本的に後衛を、そしてユウキが月光スキルの衝撃波で疑似的な後衛を担ったり、前に出たりとリベロ的な役割を果たすことに決定して、圏内事件以来初めて四人でパーティーを組んだ俺達は、慎重に海竜の体内を降っていく…もしくは昇っていく。

 しかし、思いの外俺達が警戒していた未知のモンスターなどは一切出現せず、一度もモンスターにエンカウントすることの無いまま、俺達はドンドンと体内を進んでいく。すると何故か、真っ暗な体内の中には俺達四人の持つランタンの光源しかないはずなのに、向こうから強い光を感じた。自分たち以外からの光、ということもあって一瞬緩みかけた心を、いやいや罠の可能性もあるのだと、引き締め直す。

 俺達は油断せずに、その強烈な光の方角へと進んでいった。そして俺達の眼には、人魚や耳がエラの形をした魚人が住む小さな街が広がっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回の投稿日は明日の日曜日となります。

 では、また第73話でお会いしましょう!
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