~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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第73話 真・お風呂場事変

 海竜の体内のなかであるはずだというのに、街の営みをその眼に映した俺達は、当然の如く言葉を失っていた。真っ暗だったはずの明るく照らし出しているのは、海竜の体内に生えている青く揺れる海藻のような苔だ。

 恐らく海竜が呑み込んだ流木で作り上げたであろう木製の家々は、海竜の体液の上でプカプカと浮かんでいる。その体液も消化液ではなくて、何ら外の海とは変わらないものらしく、その透き通った水中には、人魚がスイスイと泳いでいた。

 そして陸地には、青色が濃く表れたエメラルドグリーンの肌の、その上耳はオレンジ色をしたエラのような形に変化した、明らかに魚人であると見える人々が不思議そうにこちらを見ている。しっかり十秒以上固まり続けた俺達の中で一番最初に口を開いたのは、ハッと何かに気が付いた顔をしたキリトであった。

 

 キリト「…そうか!ここが文献に書いてあった人魚の国なんだ!」

 

 アルファ「…マジ?」

 

 キリト「そうに違いないだろ!」

 

 キリトがテンション高めで俺の身体をぐわんぐわんと揺らしてくる。…まぁ、キリトの言う通りここが本当に人魚の国だというのなら、お宝が眠っていたりするはず…。これこそまさに禍を転じて福と為す、と言う奴なのだろう。

 アスナとユウキは、未だにその異常にも美しい光景に目を奪われている。そんな調子でいる俺達に対して、一人の男魚人が近寄って来た。そして彼は、恐る恐る俺達に言葉を掛けてくる。

 

 「……あんたら、人族か?もしかして、海神様に吞み込まれてきたのか?」

 

 アスナ「…えぇ、そうです。ここはやはり、その海神様の体内なのでしょうか…?」

 

 男魚人に話し掛けられたことで、一瞬にしてパブリックモードに切り替えたアスナが、すぐさま俺達の持つ共通の疑問を呈してくれた。男は直ぐに、確かにここは海竜様の身体の中であると答えてくれる。

 そしてアスナが、私たちは地上に帰らないといけないのだが、一体どうやって外に出ればいいのかを訊ねた。すると男はいきなりばつの悪い顔をし出して、済まないが今は外に出る方法が失われてしまっている。故にここから出ることは出来ない、と言葉を返してきた。

 そして男は、今ちょうど空いている家があるから、取り敢えずはそこで生活の基盤を整えてほしい、と俺達を少し大きめの家へ案内してくれた。そこは宿屋のような構造をしていて、一階は広いリビングルーム、二階は部屋が二部屋となっていた。

 男は、また何か聞きたいことがあったら、隣の家にいるから何時でも訊ねに来てくれ、と言い残し、家から出て行く。俺達はすぐさま各自椅子に座って、現状確認及び今後の行動指針についての話し合いを始めた。

 

 アスナ「現在分かっていることは、昔は外に出る方法があったこと、でも今はそれが機能停止してしまっていること、ぐらいかしらね」

 

 ユウキ「ってことは、当面は街の人に聞き込みをして、その機能を復活させる方法を探らないとね」

 

 話し合い、だなんて言ってはみたが、今のところ判明している情報が少なすぎて、僅か五秒で今後の方針を打ち立てることに成功した。

 そういうわけでこれから俺達は、街のNPCに手あたり次第に聞き込み調査を行い、海竜の体内から脱出する方法を探ろうということになったのだが、ここは圏外村であり、万が一の場合も想定して、四人バラバラに行動するのではなく俺とユウキ、キリトとアスナの二手に分かれて、街を探索することにした。

 俺とユウキは手短な所にいるNPCから順に話を聞いて、とうとうあるNPCが、そんなに脱出したいのなら、女王様の所に謁見に向かうんだな、と呆れながら教えてくれた。

 そして案内された先は、この街の中でも一番大きな家屋だった。その前に立つトライデントのような槍を構える衛兵モドキに事情を話し、中へと入らせてもらう。するとその家の中には、真ん中に大きな穴がポッカリと空いており、そこには深い水が張っている。

 

 ユウキ「…ボク達じゃ底に着いた頃には、お陀仏かな…」

 

 「心配するな。人族が我々のように水中呼吸できないことぐらいは知っている。どれ、まじないを掛けてやろう」

 

 案内役を買って出た初老の男が俺達にそう言うと、何やら聞き取れない言葉をぶつくさと唱え、俺達に人型のシルエットに薄い膜が張られているマークの謎のバフを付与した。

 男の筋骨隆々な見た目に反して、そういう叡智的なおまじないをも使えることに驚きつつも、俺は恐る恐る、しかし大胆に水面に飛び込んだ。ユウキは俺の突拍子もない行動に度肝を抜かされていたようだが、俺がそんなユウキを見て笑いながら手招きすると、ユウキも勢いよく水中に潜り込んでくる。

 

 アルファ「このバフすげぇぜ!水中でも息が出来るどころか、会話までできるなんてな!」

 

 ユウキ「これは革命だよ!ボク達もこのおまじない覚えられたりしないのかなぁ…」

 

 「残念だが、このまじないは人族には使えんものさ。俺達からすれば、人族の使う<幻書の術>も中々羨ましいもんだ。ま、友持つ真珠は光る、だけどな!」

 

 俺とユウキがダンジョン攻略に大いに役立ちそうな水中呼吸バフに興奮していると、ガハハハッ!と男は一人豪快に笑った。男の発言した慣用表現は、話の流れ的には隣の芝生は青く見える、の魚人族バージョンといったところだろうか。

 因みに、<幻書の術>というのは、アインクラッドに住む各種族に残された魔法の残余…つまりそれがまじないに当たるわけだが、ともかく、俺達人族が扱う魔法の名残は、システムウインドウのことを示している。確かに、システムウインドウ一つ開くだけで、周囲のマップ情報を確認出来たり、誰かにメッセージを送れたり、アイテムを収納、装備の変更など、汎用性の高さは圧倒的なわけだから、これ以上何かを求めるのは少々欲張り過ぎなのかもしれない。

 水中で地に足つけながら歩くという稀有な体験をしながら、辺りで揺らめく海藻や美しいサンゴ礁、見たこともない魚達を横目に、俺達はドンドンと奥へ進んでいく。

 そして数分後、俺達の前には例えるとするのなら、あのかの有名な竜宮城が建てられていた。その周りを優雅に泳いでいる人魚たちは、女性も男性も存在する。一体どこを見て性別を判断しているのかと言うと、胸部が貝殻で覆われているか否か、である。

 …その、女性の方は凄く目のやり場に困ります…。なんだか、ユウキから冷たい視線を向けられている気がするが、気にしない気にしない。

 俺は鋼鉄の精神で、竜宮城へと足を踏み入れた。意外にも玉座はすぐ目の前にあり、俺達は近づいて案内役の男と同じように頭を項垂れる。すると、前方から美しくも威厳を感じさせる清らかな声が響き渡った。

 

 「ガイラン、何故人族をここへ連れてきた」

 

 「…僭越ながら申し上げさせて頂きます。この者達は、海神様に呑み込まれてしまったそうです。ですので、彼らが外へと出たいというのなら、それを達成できるよう尽力するのが……我々の責務ではないでしょうか?」

 

 「……面を上げよ」

 

 声の主にそう言われて初めて、俺達は顔を上げた。その視線の先には、黄金に輝く玉座にどっしりと構えた女王様がいた。声の荘厳さからも感じ取れたことだが、その透き通るような蒼色の瞳は、魚人族の長としての迫力を増強させていた。

 …加えて、胸部がすっごく大きいのは、海の母性、母なる海を象徴してのことなのだろうか。さっきと比べてもより一層、俺の隣に跪いているユウキから向けられる視線の温度が下がっている気がする。

 それからは女王様が自ら、現状についての説明をしてくれた。なんと、海神様は普段は温厚な性格で、この海の守り神として君臨しているらしいが、なんでも三カ月ほど前に、海神様の体内に侵入してきた「何か」が、海神様を狂化させてしまったようだ。

 その「何か」は海神様の体内の更に奥深くに住み着いているのだが、唯一その「何か」に対抗できる女王自身は、今はまだそのエリアが陸地であるせいで、近寄れないでいたらしい。あと一年ほど時間が経過すれば、満潮となり女王もそちらに出向けるとのことだったが、何せ俺達はあと一年も呑気にここで生活しているわけにはいかないのだ。

 俺達が女王様の代わりにその「何か」を討伐することを提案すると、女王は快くそれを受け入れてくれた。そして俺達は竜宮城を後にして、再び村へと戻って来たのだった。キリト達にもこのことを知らせねばならないので、俺はすぐにメッセージを送った。

 十数分後、キリト達が俺達が借りている家に戻って来たのだが、俺とユウキが何かを言い出す前に、アスナがキラキラと顔を輝かせながら、口を開いた。隣にいるキリトは、若干バツが悪そうな顔をしている。

 

 アスナ「聞いて聞いて!なんとびっくり、この街で温泉見つけたの!しかも男女で別れてるっぽいし、後で温泉行こうよ!」

 

 キリト「…すまん、アスナがあんまり温泉に夢中になってたもんだから、全然聞き込みできなかったよ…」

 

 アスナ「あー!私だけのせいにしちゃって!キリト君だって買い食いばっかりだったじゃない!」

 

 キリト「いーや、トータルではアスナの浪費した時間の方が遥かに多いぞ」

 

 アスナ「いいえ、キリト君がどっかに行っちゃってる時間の方が長かったわよ」

 

 ユウキ「…どっちもどっちだよ…ボク達、結構頑張ったんだけどね?」

 

 キリト&アスナ「「…ご、ごめん…」」

 

 二人が漫才を繰り広げてから、息を揃えて俺達に対する誠意を見せてくれたので、俺の大好きな温泉を見つけてくれたこともあり、キリトの買い食い事案は不問ということにしておいてやった。そして俺が女王に聞いたことをそのままキリト達に話し終えるた時には、もう時刻は午後六時半となってしまっていた。

 夜ということもあってこれから、どれほど時間がかかるかも分からない海竜の最奥を目指すのは危険だと判断し、俺達はまずは晩御飯を食べることに決定する。まさかのキリトの買い食いが功を為して、中々美味しい魚の塩焼き等々で満足に腹を満たすことが出来た。

 魚人族が魚を食べているなんて、共食いなのではないかとも思ったりしたが、俺達人間だって哺乳類を食しているのだから、似たようなもんかと折り合いをつけておく。

 そしてとうとうアスナさんお待ちかねの、温泉の時間がやって来た。何故かは分からないが、この温泉の中だけは圏内として扱われている。俺とキリトは男湯に、ユウキとアスナは女湯へと進んでいった。俺とキリトは脱衣所にて、アスナが渡してくれた水着?みたいなものに身を包んだ。

 アスナ曰く、入り口は分かれていても、中は一緒って可能性もあるから、一応ね、と若干キリトの方を睨みながら、そんなことを言っていたのだ。なので俺達は万が一を考えて、水着に身を包んでいる。キリトは黒色、俺は紫色の海パンだ。

 

 アルファ「しっかし、ここが圏内で良かったぜ。そうじゃなきゃ、誰かが見張りしてなきゃいけなかっただろうしな」

 

 キリト「…生き物の体内の中に海があって、更には温泉まであるなんて、こんなの設定上許されるのか…?」

 

 アルファ「細かいことは気にすんなって…人魚の国を見つけ出したご褒美とでも捉えればいいんじゃないか?今はゆっくり羽を伸ばそうぜ」

 

 キリト「それもそうだな」

 

 そして俺達は、湯煙の中へと足を踏み入れたのだった。

 

 

 

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 ユウキ「…水着?」

 

 アスナ「そそ、もしかしたら温泉は混浴かもしれないからね。ちゃんと対策しとかないと、後々大変なことになっちゃうよ~。何色がいい?」

 

 ユウキ「ん~…水色かな」

 

 アスナ「おっけ~」

 

 脱衣所にて、ボクが一頻り悩んでから答えを出すと、アスナはストレージから淡い青色の布地を取り出し、物凄いスピードで裁縫針を走らせた。そして瞬く間に完成したワンピースの水着を、ボクにプレゼントしてくれる。料理スキルだけではなく、裁縫スキルまで身に付けているアスナの女子力の高さに驚かされつつも、ボクはそのシンプルなワンピースを受け取った。

 それからアスナは、早く温泉行こうよ!と素早く全装備を解除し、自前の黒い水着を装備する。その合間に見えたアスナの出るべきところ所はしっかりと出た、それでいて引き締まった見事なボディには、女の子であるボクも先のアルファのように思わず無言で凝視してしまう程だった。

 しばらくアスナの姿に呆気に取られていたボクは、早く早く!と手招きしてくるアスナに急かされて、急いで装備を水着に変更し、彼女の後を追った。アスナのナイスバディを目にした後だと、いつもに増して自分の身体の貧相さを実感させられる気がする。

 まずは身体を清めて、それからいざ湯船に浸かる。二人揃って、ほわぁ~とだらしない声を上げながら、全身の力を抜けさせた。男湯と女湯はお風呂の中でもしっかりと別れており、湯船は相当広く、あと十人ぐらいやって来てもゆったりとしていられるほどであった。

 ボクはこの広い空間で泳ぎたい!という気持ちと必死に葛藤していたのだけれど、アスナが何かニヤニヤしながら、ボクに話し掛け来た。

 

 アスナ「ユウキさ、この前アルファ君と付き合ったって言ってたでしょ?」

 

 ユウキ「う、うん」

 

 アスナ「実際毎日どんなことをしてるのか、私気になるなぁ~?」

 

 ユウキ「え!?べ、別に何も特別なこととかはして無いけど…」

 

 アスナ「…ホント~?」

 

 ユウキ「う、うん…よく手を繋いだりはするけど…べ、別にホントにそれ以外は……その、好きだって言ったらアルファも返してくれたり…」

 

 アスナ「ひゃう!?」

 

 …アルファとは、毎日前線で闘い続けて、寝食を共にして…要するに同棲しているわけだけど、それ自体の流れは付き合う前とは特段変わっていることなど無いのだ。ということは実質的には、ボクとアルファは付き合う前から疑似恋人生活を送っていたことになるんだけど…。

 まぁ、変わったことと言えば、主街区にいるときは、二人で手を繋いだり、ギルドホームのソファで一緒に身体を寄せ合ったりするぐらいだ。…というか、それだけでもボクは十分すぎるほどの幸せを甘受しているんだけどね。

 なんだか、自分の惚気話をするのは凄く恥ずかしくて、ボクはアスナから目を逸らしながら最近のアルファとの生活を言葉にした。ボクが一通り話し終えると、アスナはすっごく顔を赤くしながら、両手でその顔を隠すように、その手の隙間からボクのことを眺めていた。

 …そんな風にしたいのはボクの方なんだけどね。過剰とも思えるほどの反応を見せたアスナを見て、少しだけ余裕を取り戻したボクは、アスナに少し聞きたかったことを思い出し、それを訊ねてみる。

 

 ユウキ「……ねぇ、ちょっとアスナに聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

 

 アスナ「いいけど…どうしたの?」

 

 ユウキ「……やっぱり男の人って…胸が大きい方がいいのかな…?ボクは小さいから…ダメなのかな…?」

 

 本日一番衝撃を受けたのは、海竜に呑み込まれてしまったことでもなく、人魚の国にやって来たことでもなく、紛れもなく、アルファが女性人魚のそのふくよかなたわわに釘付けになっていたことだ。

 そんなアルファを見た瞬間、ボクという恋人がいながら他の女性に興味が注がれるなど、一体どういうつもりなのだと問い詰めてやりたかったが、よくよく考えれば、確かに持つべきものを持っていないボクが悪いのではないかと思い、それを言葉にすることは出来なかった。

 ナイスバディを大人らしい黒色の水着で更なる色気を醸し出しているアスナなら、何かわかるかもしれないと思って、ボクが勇気を出してそのことをアスナに伝えると、アスナは自分の中の何かが爆発したのか、勢いよくボクに飛びついてきた。

 

 アスナ「あ~もう!やっぱりユウキは可愛いなぁ~!」

 

 ユウキ「アスナ!?」

 

 …本当に、プライベートで会う時のアスナは、これでもかと言うぐらい女の子らしかった。アインクラッドの世界には、アスナのファンクラブなんてものも存在するらしいが、そのメンバー達がこのクールビューティの欠片も感じさせないアスナを見た時、どんな反応を見せてくれるのだろうか。

 たっぷり二十秒の間、ボクに抱き着いてお胸を押し付けていたアスナは、ようやくボクから離れて、そして意外な言葉を発してきた。

 

 アスナ「大きくても小さくても、どっちだっていいのよ。その人にはその人なりの、魅力の出し方があるんだから」

 

 ユウキ「…ボクの、魅力…」

 

 アスナ「私的には、ユウキの魅力は…全部だね~」

 

 ユウキ「そう言えば、アスナはいつになったらキリトと付き合うの?」

 

 アスナ「へ!?べ、別に私はキリト君のことなんか──」

 

 ユウキ「それぐらい、バレバレだよ~」

 

 アスナ「…そ、そうかな…」

 

 ボクだけの魅力。それがいったい何なのかは、これからじっくり考えていくことにして、ボクはお返しとしてアスナの恋模様を探ることにした。案の定キリトの名前を出すと、アスナはほんのり顔を赤らめて口をとがらせる。

 そんなアスナを見てボクは、なんて可愛い女の子なのだと、アスナ同様今すぐ彼女に抱き着きたい衝動に駆られたわけだが、それを抑え込んでアスナの現状をしっかりと把握することにした。するとアスナは、少し悲しそうにボクに恋話をしてくれる。

 

 アスナ「…私も、色々キリト君の好みとか、よく行く場所とか把握して、努力してるんだけど全然……やっぱり、ダメなのかなぁ…」

 

 ユウキ「…確かに、ボクらと違ってアスナは一日中キリトと一緒にいるわけじゃないもんね。単純にもっと会う回数増やしてみたらどうかな?」

 

 アスナ「う、うん…頑張ってみる──」

 

 アスナが燃え滾る乙女心を胸に、強固な決意を固めようとしたその瞬間、ザブン、と浴槽の右手から音が聞こえてきた。そちらに視線を向けると、黒の海パンを履いた、キリトがいるではないか。

 一体どういうことなのだろうと、頭を働かせ始めた矢先、キリトが足元のお湯に勢いよく手を突っ込み、水中から誰かを引き上げた。

 …その正体は、アルファである。キリトに対して焦りながら何かを喚くアルファに対して、キリトは何故か全てを諦めたような清々しい表情で語りかけていた。不意に、ボクの隣にいるアスナから、おぞましいほどのオーラを感じ、危険を察知したボクは急いでその場を離れる。そして彼らはアスナの怒りの右ストレートをぶち込まれたのだった。

 

 

 

 

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 アルファ「…しっかし、温泉は最高だな…」

 

 キリト「あぁ…俺は温泉大好きってほどじゃないけど、やっぱり温泉は気持ちいいと思うな…」

 

 かぽーん、と温泉特有の音が聞こえてきそうな湯煙立ち込める白乳色のお湯に身を沈めて、俺とキリトは極楽湯を堪能していた。意外にも温泉内に魚人族達はおらず、このだだっ広い湯船は俺とキリトだけのものと化している。向かって左側は岩壁が、右側には木で編み込まれた壁が建てられており、恐らく右側には女湯があるのだろう。

 時折、このデスゲームをクリアするために最前線で闘い続けている彼女たちが、年頃の女の子らしくキャッキャッと騒ぎ立てるであろう声が聞こえてくる。…何の話をしているのだろう、とかなり向こうの様子が気になりはするが、今はそれよりも目の前にいるキリトの方が気になりすぎる。

 

 アルファ「…にしても、お前温泉の楽しみ方間違ってないか?」

 

 キリト「…そうかな?」

 

 アルファ「絶対にそうだ」

 

 キリトは何故か全身を脱力させ、湯船の上にプカプカと浮かんでいた。俺はそれを見ながら肩まで身体をお湯に浸けて、全身を脱力させている。…それは、海とかプールとかでする遊びなんじゃないだろうか。

 

 アルファ「俺はそれ出来ないんだよなぁ…」

 

 キリト「へぇ…だったら、もしかして泳ぎも下手だったりするのか?」

 

 アルファ「いや、泳ぎはそれなりには出来る。俺が海の中でしっかりと泳げてたの、見てただろ?」

 

 キリト「じゃあ、どっちが速いか勝負といこうぜ?」

 

 そんなしょうもない会話をしていると、キリトが岩壁の方まで移動していった。そして水面を叩いて、俺にこっちに来るよう促してくる。俺はキリトの生意気な挑戦状を受け取って、キリトの隣まで平泳ぎしていった。

 

 キリト「ルールは時計が三十分を指した時にスタート、こっから向こうの壁までどっちが先に辿り着くか、でいいか?」

 

 アルファ「勿論だ。東洋のイクチオステガと呼ばれた俺の水泳力を見せてやるよ」

 

 俺もキリトも至って真剣に構え、時刻を見据え続けた。そして来るべき三十分、俺達はほぼ同時にその場からクロールを始めた!

 距離はおおよそ二十メートルほどだ。何が水泳における最適な短期決戦用の泳ぎ方なのかは知らない為、俺はクロールを選択した。バタフライの方が速いのかもしれないが、俺はバタフライの泳ぎ方を知らない。バシャリバシャリと飛沫を上げながら、両者一歩も譲らない戦いが続いた。

 …だが、何かおかしいな。俺的にはもうそろそろ女湯と男湯の仕切りに手を付けられてもいいはずだと思うのだが、何故か一向に仕切りは現れない。隣で泳いでいたキリトも、異変を感じ取ったのか、その場で立ち上がった。その時、何故かユウキの間抜けな声が聞こえてきて、俺はまさか、と思い、すぐにその場を引き返すべく水中での方向転換を試みた。

 …今ならば、まだユウキ達に俺の姿は見えていないはずだ。ここは全てキリトのせいにして、俺は知らぬ存ぜぬを貫き通せばいい。しかし、そんな俺の腕を豪快にキリトが掴んできた。水中抵抗のせいで俺は、両手剣使いである故にキリトに勝っていたはずのSTRを、遺憾なく発揮することが出来ず、キリトに無理やり引き摺りだされてしまった。

 視界の先には、ワンピース姿のユウキが俺達を凝視している様子が見える。…うん、めっちゃ可愛いな。だなんて現実逃避も程々に、俺はキリトに文句をぶつける。

 

 アルファ「おいキリト!何で俺を巻き込むんだ!?あのままキリトさえ犠牲になってくれれば、俺だけは無事に済んだってのに!」

 

 キリト「…俺達は運命共同体だろ?生きる時も、死ぬ時も一緒だ…」

 

 アルファ「…え?」

 

 いつだって困難に立ち向かっていく、ネバーギブアップなキリトが珍しく、達観したような表情を俺に向けてきた。一体どうしたのだと、俺が訊ね返す前に、その理由を悟ってしまう。

 すぐ目の前にいたはずのユウキは、いつの間にか遥か後方へと脱出しており、その代わりに俺達の目の前には、ゴゴゴゴゴゴ、と周囲の大気を震わせそうな程に絶対零度の笑顔を浮かべたアスナがいた。

 

 アスナ「……ねぇ…どうして君たちが、女湯にいるのかな…?」

 

 キリト「いや、違うんだ。これには深いわけが──」

 

 アスナ「この変態ッ!!」

 

 キリト「がぁ!?」

 

 絶体絶命の状況を何とか好転させようと、キリトがアスナに弁解を試みたが、その全てを言い終える前にキリトはアスナの驚異的な速さで繰り出された右ストレートを顔面に喰らい、吹き飛んだ。

 …なるほど、こういう事態を見越して、ここ温泉エリアだけは圏内設定を加えたということか、流石はヒースクリフだ…だなんて、さっきまでとは比べ物にならないほどの現実逃避をしてから、俺は現実を甘んじて受け入れることにした。アスナは、変わらず笑顔を顔に張り付けたままで、俺に最期の言葉を掛けてくれる。

 

 アスナ「……あのねぇ…ここは公共の場なのよ?そういうのはギルドホームでやりなさいッ!」

 

 アルファ「なんっ!?」

 

 普段のアスナの出すAGIの二倍ほどの瞬発力で繰り出された右ストレートを俺が避けられるはずもなく、キリト同様俺も仕切りまで吹っ飛ばされていった。…そういうのってなんだよ!アスナの一撃によって宙を彷徨う中、俺はそう思わずにはいられなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回の投稿日は、11月9日の火曜日となります。

 では、また第74話でお会いしましょう!
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