~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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 前回の復習、アルファ君とキリト君、女湯に不法侵入する。


第74話 狂化の元凶

 あれから俺達は鬼と化したアスナから逃げるように再び水中に潜り、男湯へと帰還を果たしたのだった。まさか、仕切りが実は湯船の下はありません、だなんてトラップが仕掛けられているとは夢にも思わなかった。

 百パーセントの割合でこちらが悪い訳だが、情状酌量の余地はあると思われる…という釈明を俺とキリトは必死でアスナに試みた結果、アスナがキリトにご飯一回奢ってもらうことで、チャラにしてもらうことになった。キリトが、何で俺だけ…とぼやいていたが、そりゃあアスナさんにしてみれば、俺とご飯に行くよりも、キリトとご飯に行った方が実りのある結果を呼び寄せられるかもしれないからだろう。

 兎に角、色々とあったが全体的に満足できたお風呂タイムも終了し、俺達は借りている家で夜を明かすことした。家に辿り着くや否や、アスナが俺達に訊ねてくる。

 

 アスナ「…部屋割りは、どうするのよ?」

 

 この家には、個室は二つしかなく、その二部屋にベッドが二つずつあるのだ。アスナは何を考えているのか、俺とユウキをチラチラ見ては俺達の解答を待っている。俺はそんなアスナに呆れながらも、答えてやった。

 

 アルファ「んなもん、俺とキリト、アスナとユウキの組み合わせでいいだろ?」

 

 アスナ「…え?それでいいの…?」

 

 ポカンと口を開けながら、大層不思議そうに俺を見つめてくるアスナに対して、俺は極めて冷静且つ冗談交じりに言葉を返す。

 

 アルファ「いや普通そうだろ。それともアスナはキリトと一緒にベッドインしたかったのか?」

 

 アスナ「ば、バッカじゃないの!?キリト君なんかと一緒に寝るつもりは無いわよ!!」

 

 自分の発言を深読みすれば、そうとも取れることに気が付いたアスナは、羞恥心で顔を真っ赤に染めながら、俺及びキリトに対してムキになって反論してくる。それを見たユウキが、べ、別にボクはアルファと一緒の部屋でもいいよ?アスナもキリトと一緒に寝たいんだったら、そうしたら?などと恥ずかしそうに爆弾発言もいい所のトンデモ発言をしやがった。

 …俺とユウキが同じ部屋で寝る!?無理無理無理ッ!!、今の俺は絶対間違いを犯す自信がある。それだけは勘弁してくれ。そんな、俺が心の中で大パニックを起こしている中、アスナが、付き合ってもない男女が一緒に寝るなんて大問題なの!とユウキに反論していた。

 因みにキリトは、これが青春って奴なのか…と俺の顔を見ながらサムズアップしてくる。…なんか、キリト女湯に侵入してからちょっと吹っ切れてないか?まぁ、そうは言ってもキリトもアスナと同じ部屋で寝る勇気など無いらしく、結局俺が最初に提案した組み合わせに落ち着くこととなった。

 そして、そろそろ夜も更けてきたわけだし、おやすみ~と言う時になって、ユウキが俺を指差して宣言してくる。

 

 ユウキ「…どうせアルファのことだから、侵入者が来るかもしれない、とか考えて、徹夜するつもりなんでしょ?」

 

 アルファ「な、何故それを…」

 

 ユウキ「それぐらいお見通しだよ。アルファがそのつもりなら、ボクも一晩見張りするよ」

 

 アルファ「いや、ちゃんと睡眠取れって、明日しんどいぞ?」

 

 ユウキ「じゃあアルファもちゃんと寝てよね」

 

 完全に俺の考えを見透かしていたユウキは俺の行動を全て読み当ててきた。…だって、そりゃあ圏外村なんていつ襲われてもおかしくないんだから、それに備えるのは当然のことでしょう。

 俺が何を言ってもユウキが引き下がりそうにないことを悟った俺は、キリトとアスナも共に協力してくれるとのことなので、四人でじゃんけんをして、キリト、俺、アスナ、ユウキ、の順番で二時間ずつ夜の番をすることに決まった。

 そして俺達は部屋に戻って各自睡眠を、キリトは一階で見張りをする。俺はしっかり二時間後に起床アラームを設定して、短い微睡に落ちたのだった。

 

 

 そして二時間後、睡眠時間が極端に短いこともあって、しっかりと目覚められた俺は静かにキリトの待つ一階へと降りて行った。するとそこには、茶色い飲み物を飲みながらしっかりと見張りをこなしてくれているキリトの姿が映った。俺の足音に気が付いたのか、キリトは顔をこちらへ向ける。

 

 キリト「あと五分ぐらいあったけど、良かったのか?」

 

 アルファ「あぁ、キリト、サンキューな。もう休んでくれていいぜ」

 

 俺はキリトにお礼を言ってから、近くの椅子に腰かけ、見張りを始めることにした。椅子に座っている状態だが、勿論侵入者が現れたならすぐさま剣を抜いて闘えるように態勢を整えている。

 しかし、キリトは五分経ってもその場を離れようとしなかったので、どうしたのだと俺は声を掛けようとした。だが、先にキリトが話し掛けてくる。

 

 キリト「なぁ…何で今日、アルファは太陽の戎具について俺達に教えてくれたんだ?自分の情報を晒すなんて、この世界じゃ命取りの行動なんだぞ?」

 

 アルファ「…キリトとアスナなら信じられるから、話してもいいかな、って思ったからだ。それ以外に理由がいるか?」

 

 キリト「お前って奴は…相当なお人よしだな。…よしっ、太陽の戎具について教えてくれたのと温泉での謝罪の意味も込めて、俺も一つアルファに教えとくよ」

 

 そう言ったキリトは、テーブルや椅子を部屋の隅へ動かし、ある程度動けるだけのスペースを確保した。何を始める気なのだろう、と俺がキリトを見つめていると、キリトは突然、背中に背負っていた二本の剣をそれぞれ右手と左手の両方に構える。

 …なんだ?二本の剣を同時に扱うことに成功でもしたのだろうか。因みに俺も、片手剣二本持ちに挑戦したことはあるが、どうも右と左で別々の動きをするのはともかく、別々の動きで剣を振るう動作に違和感を感じてしまい、ユウキとのデュエルで実戦投入出来なかったという悔しい過去がある。

 だが、キリトは俺の予想を遥かに上回って、二本の剣にソードスキル特有のライトエフェクトを纏わせた。そして、双剣限定のソードスキルであろうモーションを魅せ付けてくれる。六連撃のソードスキルを終えたキリトは、再び背中に剣を納めてから、俺に笑いかけてきた。

 

 キリト「…スキル<二刀流>だ」

 

 アルファ「……取得条件は…?」

 

 キリト「分からない。四五カ月前ぐらいに、いきなりスキル欄に現れたんだ」

 

 アルファ「ってことは…」

 

 キリト「…ユニークスキル、だろうな」

 

 おおっ!と俺が驚嘆を言葉にすると、キリトは気恥ずかしそうに、これはまだ誰にも知られたくないから、黙っててくれよ、と言って来た。俺はもちろん、と返事を返す。

 …俺のことをお人よし、だなんて言っておきながら、キリト自身も相当なお人よしじゃねぇか。俺は心の中でそんなことを思いながらも、恐らくキリトが俺にユニークスキル所持者であることを教えてくれたのは、俺のことを信頼してくれているからなのだろうと思い、なんだか心が温かくなった。

 二刀流スキルを披露し終えたキリトは、それじゃ、後はよろしくな、と欠伸をしながら部屋へと戻っていく。そして俺は二時間ほどの間しばらく、見張り役を徹底し始めたのだった。

 

 アスナ「アルファ君、お疲れ様」

 

 アルファ「あぁ、もうそんな時間か」

 

 見張り役をしていたこの二時間の間、特に何もすることもなく、手持ち無沙汰のまま俺は時間を浪費していた。そして約二時間後、スタスタと階段を下りてくるアスナの足音を聞いて、俺はようやく警戒モードを解く。

 

 アルファ「悪いな、一番しんどい時間の見張りやらせちまって」

 

 普通に考えて、四時間眠って二時間起きて、その後は二時間しか寝られないなんて、睡眠のバランスが大きく崩れてしまうだろう。故に、じゃんけんで独り勝ちしたアスナがこの時間帯の見張り役を申し出た際には、アスナが善意でこの時間帯の見張りを買い取ったのだと思っていたが、ここでアスナは予想も出来なかった告白をした。

 

 アスナ「わたし、あんまり長く寝られないの。だからこれぐらいのスパンが一番いいのよ」

 

 アルファ「…そうか。…不眠症…?大丈夫なのか?」

 

 まさかのカミングアウトに、俺は一瞬黙り込んでしまうも、頭の中で言葉を選び、返事をする。するとアスナは微笑しながら、言葉を続けた。

 

 アスナ「大丈夫よ、不眠症とかじゃないからそんなに心配しなくても。案外アルファ君って優しいんだね」

 

 アルファ「別に優しい人間なんかじゃねぇよ…まぁ、身内には甘いかもだけど…」

 

 アスナ「多分そういう所も、アルファ君の魅力なんだろうね~。部屋でユウキと結構お話ししてたけど、もうすっごい甘々なんでしょ?色々聞いちゃったよ?」

 

 アルファ「…え?な、何を聞いたんだよ…?」

 

 アスナ「女子トークにつきまして、男性のアルファ君には公開できませ~ん」

 

 …なんだよ、めっちゃ気になるんだが。まぁ、ユウキと付き合い始めてはや二カ月ほどが経過した気がするが、アスナ達にバレて困るようなことは何もしていない…はずだ。

 因みにだが、アルゴがある日、俺が求めたわけでもないのに、この世界でもそういう行為が出来る方法を事細かく俺に教え込んできたのだが、未だ不純行為などは一切していない。俺達は、健全なお付き合い、というものをさせてもらっている。

 …いや、したいかしたくないかで言われたら、そりゃ勿論前者なのだけれど、こういうのは順序が、段階が大切だから!?だってまだキスとかもしたことないんだよ!?そこまでいったら色々とスキップし過ぎでしょ!?そ、それに、ユウキが求めてこない限りは、俺から襲ったりはしないよ!?そういうことはちゃんと合意の下でしないといけないからね!?…と一通り脳内で自分の欲望を暴れさせてから、俺はアスナに訊ねたかったことを言葉にする。

 

 アルファ「そういやアスナは、いつになったらキリトに告白するんだ?良かったら俺も手伝うけど──」

 

 俺は既に告白経験者なのだ。故にアスナの手助けも出来るだろう、とこの場でいつでも頼ってくれよ、という意味で彼女に言葉を掛けたわけだったのだが、アスナはいきなり取り乱してしまった。

 

 アスナ「え?え?え?…ちょ、ちょっと、何で私がキリト君を好きなことになってるのよ!!」

 

 アルファ「……いやいやいや、逆にそれで隠せてると思ってたのか?バレバレだろ」

 

 アスナ「…そ、そうなんだ…アルファ君にもバレてたんだ…」

 

 …もしかして、クラインやエギル達が当然のように俺達が付き合っていると思っていたのも、今のアスナみたいに結構顔に出てたからなんだろうか。そうだとしたら、中々に恥ずかし過ぎる。目をキョロキョロと踊らしていたアスナも、次第に落ち着きを取り戻して、俺に恐る恐る質問をしてきた。

 

 アスナ「……まぁ、確かにわたしはキリト君のこと…好きだけど…その、キリト君は私のことどう思ってるのかな?アルファ君知ってたりしない?」

 

 アルファ「あ~…残念ながら、キリトはアスナのことを好きではないと思うぜ。少なくとも俺の読み取れる表面上では」

 

 ドストレートもいい所の、直球過ぎる俺の返答に一刀両断されたアスナは、少し悲しそうに、やっぱりかぁ~…と呟いていた。だが、俺の言葉には続きがある。

 

 アルファ「だけど、キリトはアスナのことを異性として意識はしてるぜ」

 

 アスナ「き、キリト君が、わ、私のことを異性として意識…!?」

 

 アルファ「あぁ、だから、後はもう今まで以上にキリトと仲良くなりつつその合間合間にドギマギさせつつ…ってとこじゃないか?」

 

 アスナ「そっかぁ~…わたしもまだまだ捨てたもんじゃないね~」

 

 キリトに己の想いが通じる可能性が大いにあることを悟ったアスナは、露骨に安堵の表情を浮かべていた。そんなアスナを見て俺は微笑しながら、彼女に別れを告げる。

 

 アルファ「ま、この二時間は見張り及びキリト攻略大作戦でも練りながら過ごしておいてくれ」

 

 アスナ「そうね。それじゃあアルファ君、おやすみ」

 

 アルファ「おやすみ」

 

 そして俺は太陽が昇ってくるまでの間、安眠を貪り尽くしたのだった。

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 翌朝、海竜の体内に迷い込んでから二日目の俺達は朝食を摂ってから、早速海神様が凶暴化してしまった原因を探るべく、街の奥へと足を進めた。そこからしばらくは特段今までと変わる様子の無い、綺麗なピンク色をした体内であったのだが、歩き始めて一時間半後ぐらいであろうか、その辺りから段々と、ピンク色だった体内が血色の悪い紫色…果てには黒色へと変化していっていた。

 恐らく、これが狂化の原因なのだろうと目星を付けながら、俺達はドンドンと体内を突き進んでいく。道中にモンスターなどは現れず、トレジャーボックスも見当たらない。俺達はお宝が無いことに不平を言いつつも、いつモンスターに襲われてもいいように、周囲を警戒していた。

 

 ユウキ「あとどれぐらい歩いたらいいんだろうね」

 

 アルファ「さぁ…んでも、ドンドンピンク色が黒に覆われて行ってるから、そろそろ終わりが見えてくるとは思うけどなぁ…」

 

 俺がそう呟いてから約三十分後、四人の索敵スキルに「何か」が引っかかった。海竜に呑み込まれて以来、索敵スキルが発動するのは初めてである。俺達は一層警戒心を高めながら、辺りを見回した。だが、何処にもモンスターは見当たらない。

 …どういうことだ?俺はそれに嫌な予感を覚えながら、必死に視界を右へ左へと動かしていた。するとアスナの切迫した叫びが飛んでくる。

 

 アスナ「下から来るわッ!」

 

 「「ッ!!」」

 

 アスナの指示が出る寸前に、俺達は足元が膨れ上がってきていることに気が付き、素早くその場から退避した。その後すぐにピンク色の肉を喰い破って出てきたのは、白色をした半透明の「何か」だ。海竜は身体の一部を喰いちぎられたせいで、その激痛から咆哮を挙げ、身体を乱暴に揺らしまくる。そのせいで俺達は、足元がふらつき、その場に立っていられなくなった。

 半透明の「何か」は喰いちぎった身体の一部の中からドンドンと姿を現し、その大量のカブトムシの幼虫のような生き物は、全員で身体を合体させた。そして現れたのは、丸いシルエットにギザギザを生やした、右手には長い槍を構え二足歩行、しかし合体が不十分なのか、時折身体から白色の虫みたいな奴を蠢かせる、見た目が最悪のモンスターだった。名前は<The root of parasitism>恐らく、<寄生虫の根源>みたいな意味だろう。

 …なるほど、コイツが海竜の体内に住み着いたせいで、海竜が凶暴化してしまったということか。ボスの体力バーは三段と、普通のクエストボスにしては一本分少ない。こういう奴ほど何か面倒なことをしてきやがるんだ。俺はボスの動きに注意しながら、戦闘態勢に移る。

 まずは小手調べだと、ユウキが月光波を繰り出した。それは見事にボスに命中し、ボスの体力を大きく削る。しかしボスは、そんなことは気にすることもなく、前衛を担っているキリトとアスナにその槍を薙ぎ払った。キリトとアスナはそれを颯爽と回避し、綺麗に反撃まで決めてくれる。

 キリトは寄生虫の塊である槍にもダメージが入るのかを確かめたようだが、しっかりとダメージ判定があった。再びアスナから素早く指示が出される。

 

 アスナ「私とキリト君、アルファ君とユウキの組み合わせでスイッチ型の戦術を採るわよ!アルファ君は両手剣に持ち替えて!」

 

 アルファ「了解!」

 

 アスナの指示に従い、俺は両手剣に持ち替えて、アスナとキリトがブレイクポイントを作り出すのを待っていた。しかしその間に何もしないというわけではなく、俺は投剣スキルでユウキは月光波で援護を行う。ボス戦はあまりに順調すぎた。それに、ボスはもっと多彩な動きを取ってくるはずだというのに、コイツに至っては乱暴に槍を振り回すだけだ。俺は気味の悪い予感を覚えながらも、アスナとキリトが作り出したスイッチのタイミングで、ボスの身体を一閃し、体力バーを一本目を削り切る。

 …さぁ、次はどんな行動パターンを見せてくるんだ?俺がボスの動きに注視していると、突然頭上から剣を剣士が降って来た。しかし、剣士と言ってもその体は、寄生虫で構成されている。差し詰め、ボス本隊を形成した残りの寄生虫で出来上がったお供といったところだろう。お供に体力バーが記載されていないのは、本体と体力を共有しているといったところか。

 そのまま合体でもされたら厄介かもしれない。俺達四人は言葉にするでもなく、その考えに辿り着き、自然と俺とユウキがお供を、キリトとアスナがボスを相手取り始めた。ボスは剣を振るって俺達を殺さんとしてくるが、剣の振りがガサツすぎる。俺とユウキにはその程度の剣技は通用せず、その剣を受け止める必要もなく、ひらりと身を躱してはカウンターを決め続けた。体力を削ることのできない相手にダメージを与え続けるのは、ヘイトをしっかりと引き付ける為である。そして俺達の耳に、キリトの報告が入って来た。

 

 キリト「ラスト一本突入!」

 

 ユウキ「オッケー!」

 

 やはりボスとしては装甲が薄い方なのか、ボスの体力を削るペースが速かった。そんな中で第三の斧持ち戦士が、再び体内を突き破って登場してくる。その攻撃は俺に向けられたものであり、俺はそれを回避しようと身体を動かした。

 だが、そこで海竜が身体を喰い破られた激痛から身を捩らせたせいで、俺達の踏みしめていた体内は巨大地震のように荒れ狂い、俺達は態勢を崩す。完全に回避が間に合わなくなったことを悟った俺は、迫る斧を両手剣の腹で受け止め、首を狙われていた軌道を逸らすことに成功し、右肩を掠めるだけで済んだ。三人の様子を確認すると、キリトとアスナは二人で剣を合わせることで槍を受け止め切り、ユウキは俺と同じように剣を右太もも辺りに掠めていた。

 …例えお供が二体になろうとも問題ない。俺とユウキなら一人一体ずつ引き受けられる。俺は本隊の体力を削る役割を担うキリトとアスナに迷惑を掛けまいと、斧持ち戦士と対峙しようとした。しかしその時、不意に体が思うように動かなくなる。

 

 アルファ「ッ!?」

 

 俺はその事態に焦るも、視界の右端にはうねるミミズのマークが描かれた、見慣れないデバフアイコンが付いていた。…なんだこのアイコンは!?俺がその答えに行き着く前に、ユウキとアスナの混乱したような叫び声が聞こえた。

 

 アスナ「ちょ、ちょっと!?ユウキ!?」

 

 ユウキ「か…カラだが勝手二動くんダ…」

 

 突然、ユウキがアスナに向けて剣を振るった。アスナはギリギリでその異常事態に気が付き、ユウキの剣を躱すも、ユウキは壊れかけの機械のように体を軋ませながら、アスナへと迫っていく。その様子は、まるでユウキはそんなことをするつもりが無いのに、その意に反して身体を何かに操られているようであった。

 そして俺の身体も、次第に制御権を失い、独りでに動き出すようになり始めた。…どういうことだ!?俺は必死に頭を働かせながら、キリトに呼び掛ける。

 

 アルファ「…避けロ!」

 

 キリト「おい、アルファ、どうしたんだ!」

 

 発声の自由すら奪われ始めているのか、俺の放つ言葉はカタコトだ。キリトが剣を躱したのに合わせて、俺の身体はそれを追うように剣を振るう。キリトは器用にその剣を斬り返してくれたが、その背後に控えていたボスの槍を横腹に掠めてしまう。

 俺の視界にはユウキと剣のお供の攻撃を何とか躱し続けているアスナを見て、俺は全滅の予感を感じ取り、背中をゾクリと凍り付かせる。その時不意に、俺の右肩に蠢く寄生虫の姿が見えた。それを見た俺は、全ての答えに行き着き、キリトに叫ぶ。

 

 アルファ「キリト!オれの右腕ヲ切り落トせ!早くシないト取り返しノつカなイことになルッ!」

 

 キリト「…クソッ!分かったよ!」

 

 …恐らく、今の俺はこの寄生虫に体の主導権を握られている。ならば、その寄生虫が巣食う右腕は切り落としてしまえばいい。このデバフの発動条件は寄生虫たちから攻撃を喰らうことだろう。となると、キリトももうすぐ寄生虫に乗っ取られるはずだ。そうなってしまえばもう、残るはアスナだけになり、全滅は必至となるだろう。

 俺の必死の意図を感じ取ったのか、キリトが思いっ切り俺の右肩に剣を振り下ろした。普段ダメージを受けている際に生じる不快感と比べ物にならないほどの鈍痛に襲われたながら、俺の右腕は見事に斬り落とされ、大きく体力が減少し、欠損ダメージも発動してしまった。だが、幸いにも俺の目論見通り、謎の寄生デバフは消えている。

 身体を自由に動かせるようになった俺は、すぐにキリトに巣食おうとしている寄生虫のいる横腹を、両手剣を変形させ、刀で抉った。

 

 キリト「がぁ…ッ!?」

 

 アルファ「悪いキリト!我慢してくれ!」

 

 何とか、キリトの寄生虫を除去し終えた俺は、困惑するキリトに対して手短に事情を説明し、一気にボスを叩く必要があることを告げた。俺はアスナを救出しに、キリトはボスにソードスキルを決め切ることに決定し、すぐさま俺達は各自の行動を起こす。

 ボスの耐久力の無さからして、キリトの持つ片手剣スキル最上位ソードスキルならば、キッチリボスを倒し切れるはずだ。俺はキリトをマークしていた斧持ち戦士を乱暴に吹き飛ばしてから、アスナの元へ急行する。

 

 アスナ「あ、アルファ君!?腕ッ!?」

 

 アルファ「アスナ!取り巻きを頼む!」

 

 ユウキ「ア…アルファ…来ちャだメだヨ…」

 

 アルファ「ちょっと痛いだろうけど、我慢してくれよ」

 

 俺が隻腕であることに驚いているアスナに、俺が鋭く言葉を返すとアスナはそれに従い、取り巻きのタゲを取ってくれた。

 ユウキは俺に剣を向けながらそんなことを言ってくるが、寄生虫に操られているせいで、本来の十分の一も力を発揮できていないユウキの剣を避けることなど、普段からユウキと戦闘をこなしている俺からすれば余裕綽々であった。

 左から右へと振られたユウキの剣をその流れと同じ向きにステップ回避した俺は、ステップの最中にユウキの右太ももを大きく斬り付けた。その傷口から見えた白色寄生虫を斬り返すように一閃し、寄生虫を撃破する。

 

 ユウキ「あぐぅ…」

 

 ユウキのデバフを解除し終えた俺は、すぐさまキリトの方を見た。キリトは俺の予想通り片手剣最上位スキル<ノヴァ・アセンション>を繰り出していた。だが、僅かにボスの体力を削り切るには至らなかったようで、ボスの目の前で硬直してしまう。

 …クソッ!もう一巡する必要があるか!俺がそう思い、再び斧持ち戦士を相手にしようとしたその時、いつの間にかキリトの前へと飛び出していたアスナが、細剣基本ソードスキル<リニアー>を繰り出して、ボスの体力を削り切った。フロアボスではないため、辺りからファンファーレが鳴り響いたりはしなかったが、リザルト画面が表示され、暫く待っても追加のボスが現れる気配も感じられなかった。

 綱渡りのボス戦を何とか攻略し切った俺達は歓声を上げることさえも出来ず、その場に倒れ込んだ。俺は尻餅をつきながらも、ユウキにポーションを投げ渡す。

 

 ユウキ「…さっきはありがと、助かったよ」

 

 キリト「俺もサンキューな。アルファがあのデバフの発生原因について気づいてくれなかったら、今頃俺達は全滅してたんだろうな…」

 

 アスナ「流石にボス戦なんて、四人でやるもんじゃないわね…」

 

 アルファ「まぁ、これで何とかクエストクリアってことだろ?全員生き残れて一件落着だな」

 

 体内に蔓延っていた病的な黒ずみは綺麗さっぱり消え去り、体内は綺麗なピンク色を取り戻していた。

 …まったく、アスナの言う通りだ。いくら何でも最前線のフィールドダンジョンボスをたった四人で攻略しようだなんて、自殺行為にも程がある。しかし、今回ばかりは外部からの救助の可能性も見込めなかったわけで、俺達四人でボス討伐を為さなければならなかったのだから、仕方のないことだ。

 …にしても、相当厄介なボスだった。恐らくだが、寄生虫がプレイヤーの自由を奪うという能力はこれが初めてのはずだ。俺達の軽装なせいで、ボスの攻撃で身体に傷を負いやすいという所が嫌に嚙み合ってしまった。今後こういうボスを相手にするときは、全身フルアーマーじゃないと厳しいだろう。同士討ちの危険性が高まってしまう上に、味方が敵に転じるなど、最悪の事態だ。

 一息ついた俺達は、人魚の街へと踵を返し始めた。その直前に俺は回復ポーションを使って体力を回復させ、暫くすると欠損した右腕も復活した、しかし、どうにも無くなったはずの身体の一部がすぐに動かせるようになるという現象には、無いはずのものがある、もしくはあるはずのものがなくなってしまったような違和感を覚えさせられる。

 それから俺達は、二時間ほど掛けて、人魚の街へと帰還した。人魚の街が圏内村として扱われていたのは、プレイヤー同士での闘いが生じることを念頭に置いていたからなのだろう。俺とキリトのカーソルは、今は犯罪プレイヤーと同じオレンジ色になっている。

 …後でカルマ浄化クエストやんねぇとな、と思いながら、ガイランと呼ばれていた案内人の男に、海神様を凶暴化させていた元凶を討ったことを伝えると、すぐさま俺達を女王の元へ案内してくれる。

 案の定キリトが人魚に見惚れている様子を、アスナは不愉快そうに眺めていた。そして俺達は女王に事の顛末を申し上げた。すると女王は、穏やかな笑みで答える。

 

 「なるほど…随分と苦労を掛けたようだな。人族の剣士たちよ、我らからの心ばかりの謝礼として、この国に伝わる品々を一品、そなたらに授けよう」

 

 女王がそう言うと、女王の両脇に控えていた人魚たちが、何処からか大きな木箱を持ち運んできた。その中には、数々の武器防具、アクセサリーなどが入っており、それを目の当たりにした俺達はそれはもう大層悩まされた。

 その末俺は結局、水中抵抗の大幅軽減と水中で活動できる時間が十分にまで延長される効果を持った<魚人族の加護>という大海原を模したリレーフの上に海を凝縮したような宝石が嵌め込まれた指輪を頂くことにした。その十分後一番悩みに悩んでいたキリトもクエストリワードを選び終えたようで、俺達は遂に海竜の体内から出るために、女王様の力を借りることになった。

 女王様と護衛と共に、海竜の口元へと向かっている中、女王が思い出したように俺達に訊ねてきた。

 

 「人族の剣士ということは、やはりそなたらも天柱の塔を登り、守護獣に挑むのか?」

 

 アスナ「えぇ、その通りです」

 

 アスナが丁寧に返答すると、女王はふむ…と一人考え込んでから、俺達に言葉を返す。

 

 「…恐らく、海神様に巣食っていた寄生虫共は、その守護獣の一部であったはず…ならば、そなたらには寄生虫共への対抗手段が必要だろう?」

 

 そう言った女王は、護衛の魚人族に何かを命じて洋紙に何かを書き込ませ、それをアスナに託した。女王曰く、そこに書かれている素材を調合すれば、寄生攻撃を阻害できる丸薬を作成できるらしい。俺達が女王様にお礼を言うと、女王は気にせんでも良い、と寛大な心を示してくれた。

 …もしこのダンジョンに訪れていなかったら、フロアボス戦は困難を極めていたのだろう。海竜の体内に迷い込めたのは、何だかんだでラッキーだったのかもな…。そして、口元へと辿り着くと、女王が綺麗な音色で歌を歌い始めた。その歌を聞いた海竜は海面にまで上昇し、その口を開いた。

 久しぶりに陽の光を見た俺達はそれを眩しく思いつつも、目の前に陸地が広がっているのを見て気分を高揚させる。魚人族にお別れの挨拶をしてから、俺達は陸地に降り立った。程なくして、再びその巨体を海の奥深くへと潜らせていく様子を眺めてから、俺は言葉を発する。

 

 アルファ「取り敢えず、俺とキリトはカルマ浄化クエストを受けてくるから、ユウキとアスナで丸薬のこと伝えてきてもらってもいいか?」

 

 ユウキ「うん、任せてよ!」

 

 そうして俺達は暫し別行動を取ることとなった。俺とキリトはフィールドを歩き回って七面倒臭いカルマ浄化クエストをクリアし切り、ようやく街へと戻れたのは夕暮れ時であった。アスナはギルドに報告などなどがあったようで、俺達を出迎えてくれたのはユウキだけであった。アスナがいないせいで、キリトの顔は若干寂しそうに見えたのは気のせいではないだろう。

 兎に角、ボス戦に関する有力な情報が集まったことで、第61層のフロアボス討伐戦は何の被害もなく無事に終了することが出来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回の投稿日は、11月11日木曜日…だといいんですけど、もしかしたら12日の金曜日になるかもしれません。出来るだけ、木曜日に投稿できるように頑張ります。

 では、また第75話でお会いしましょう!
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