~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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 やっぱり木曜日中には投稿できませんでした。ごめんなさい。明日さえ乗り切れば週末ということもあって、無敵モードの筆者は勢いで書き終えました。
 ちょっと投稿が遅れちゃったことに対する謝罪の意味も込めまして、今回は過去最大の文字数となっております。

 では、どうぞ!


第75話 お誕生日デートっ!

 ユウキ「よーし、それじゃあ今日も勝負といこうか」

 

 アルファ「二日連続、俺の黒星にしてやんよ」

 

 そんな軽口を叩き合いながらボク達はいつも通り、閑散とした第二十二層の広場にて、デュエルを始めようとしていた。昨日はアルファの搦手に嵌り、実に七連勝の快進撃に歯止めを掛けられたわけだが、今日からは再びボクの連勝記録を伸ばさねばならない。ボク達は既に定位置に着き、デュエルが開始するまでの僅かながらの時間で精神統一に入っていた。

 …デュエルをする時ばかりは、ボクにとってアルファは好きな人、ではなくて、共に剣技を鍛え上げるライバルとして認識される。アルファもボクと同じようなもので、その瞳には勝利を渇望する炎が燃え滾っていた。

 デュエル開始の合図が鳴り響くや否や、ボク達は素早く剣を斬り結んだ。が、剣とは言っても、アルファが初手に選んだ武器は片手槍だ。

 …どういう作戦だろう。普段のアルファは、最初手は必ずと言っていい程刀を選んでおり、闘いの過程で両手剣や片手槍に切り替えるというのがセオリーのはずだ。ボクはまたまたアルファが魅せてくれる新たな戦法に胸を躍らせながらも、その場から一歩引いたアルファを追いかけるように、上から斬り込んだ剣を冷静に今度は下から斬り上げる。

 しかし、アルファはこちらの想定の斜め上を突く防御態勢を選択していた。彼は片手槍の刃に一番近い柄の部分を両手持ちし、ポールの部分でボクの剣を受け止めたのだ。そしてそのままボクを打突するように柄の部分を突き出してくる。ボクはそれを余裕気に躱すも、次の瞬間にはアルファが懐に入り込んでいた。片手槍は無造作に捨て去られており、彼は丸腰状態だ。

 そして彼は、そのまま左拳の縦拳でボクの顔にアッパーを繰り出してきた。ボクは若干アルファの拳を頬に掠めながらも、なんとか顔を逸らすことで直撃を免れる。しかしアルファは流れるように右脚で鋭い回し蹴りを放ってきた。ボクはそれを宙返りで回避し、その勢いでその場を退却する。

 距離が生まれたことから、ボクは月光波を使おうとしたが、既にアルファがボクに投げつけていたダガー数本を躱し、迎撃する作業に手間を取られた。その隙に今度は刀を構えてボクの間合いに飛び込んできたアルファに対して、ボクも剣戟に応じるように片手剣を激突させる。

 

 ユウキ「今日はやけに積極的だねっ!」

 

 アルファ「攻撃こそ最大の防御ってやつだよっ!」

 

 珍しく、アルファが自ら剣戟を挑んできたことに驚きつつも、ボクはそれを丁寧に捌いていく。ガキン、ギャリン、と剣と剣がぶつかり合う音を大気中に振動させながら、ボク達は何度も何度も剣と剣を重ね合った。

 …右と見せかけて下から斬り上げっ!遂にアルファの繰り出す剣の軌道を見切ったボクは、アルファの剣の軌道に沿うように、それでいてその軌道を逸らし、逆に己の剣をアルファの身に当てようと、彼に斬りかかる。

 だが、アルファはその行動さえ読み切っていたようで、半身を一歩引かせてボクの一撃をやり過ごした。そのまま刀でボクの右太腿辺りを一閃しようとしてきたが、ボクも負けじと弾き返した。段々と剣戟のスピードが速まっていき、ボクの剣がアルファの身体を捉え始める。しかし、それでもアルファはいつものように搦め手を使わず、ボクとの剣戟を続行してきた。

 …確かに、普段のアルファよりもボクの剣速に喰らい付いて来ている…これは油断できないね。ボクが勝負を決めるべく、トップスピードでアルファに剣を振るおうとした時に、彼の右手から輝く何かが零れ落ちた。

 そしてそれは、カッ!と眩い輝きを放ち、一瞬でボクの視界を奪った。一時的に視界を潰されたボクは、本能的に聴覚に全神経を集中させる。そして、前方から飛んでくる…音の大きさ的には片手剣?を躱す…となると、アルファ本人は…背後ッ!ボクは半ば勘で、しかしその勘は的中し、背後から彼の拳と思われる拳圧を感じた。

 ボクは姿勢を低くすることでそれを躱し、そしてそのまま、脳裏に思い浮かべるアルファの身体を切り裂くように、自らの片手剣を一閃する。ザンッ、とアルファの身体を切り裂いた音がしたことから、これでデュエルはボクの勝ちだと一安心した。やがて視界が戻り始めると、ボクの目の前にはウィナー画面が表示されており、目の前にいたアルファは大層不満そうにボクを眺めている。

 

 アルファ「…見えてなかったはずだろ?何で分かんだよ…」

 

 ユウキ「音だよ音。ボクは地獄耳を持ってるからね、それぐらいは余裕なんだ」

 

 アルファ「そうか。……だったら次は、目潰しだけじゃなくて、爆薬でも使って耳も潰すか…」

 

 ユウキ「怖いこと言わないでよね、それはやり過ぎ」

 

 アルファがそんな恐ろしいこと言うもんだから、ボクがしっかりと歯止めをかけておくと、アルファは冗談冗談、と笑いながら答えた。…アルファの場合、ボクを倒すためなら本当にそんなことでもしてしまいそうだから怖いのだ。

 因みに、ボクも搦手を使おうか悩んだ時期はあったのだが、結局今までに一度も使ったことは無い。何故かというと、もしボクが搦め手を使ってアルファを倒したとすれば、それは何だかアルファに負けた気がするからだ。要するに、ただの自己満足である。

 お互いに武器を納め、ギルドホームまで歩いている中で、ボクは不意にアルファに話し掛けた。

 

 ユウキ「じゃあ、今日の勝利特権なんだけど…」

 

 アルファ「やっぱり、忘れてないよなぁ…」

 

 ボクが勝利特権に関する話題を出すと、アルファは露骨に嫌そうな顔をしてくれる。だが、今日ボクが彼に対して突き付けるある種の命令は、いつもとは少し違ったものだ。

 

 ユウキ「あと一週間後、ボクの誕生日でしょ?…その日は、アルファの一日分の命をボクの自由にさせてほしいんだ。これが今日の勝利特権ってことで」

 

 アルファ「…つまり、一日ユウキに従えってことか?」

 

 アルファはボクの言ったことをあまり理解できなかったようで、疑問気に言葉を返してきた。ボクはそれを見て彼に意味を説明しようかとも思ったが、何となく面倒くさくなってきたので、適当に伝えておいた。

 

 ユウキ「ん~…そうとも言えるけど、そうじゃなくて…ま、アルファは何もしなくていいってこと。ボクが予定を立てるから」

 

 アルファ「え?自分の誕生日なのに?」

 

 ユウキ「うん、ボクがそうしたいんだ。だからその日は、アルファをボクの好きにさせてよね」

 

 アルファ「お、おう…」

 

 ボクがアルファの瞳を見つめながらそう言うと、彼はほんのりと頬を染め、視線を逸らした。何が彼をそうさせたのかは分からないが、これがボクの持つ魅力だったりするのだろうか。

 兎に角、ボクはあと一週間後に迫ってきた自分の誕生日を心待ちにしながら、残り日々を過ごしていったのだった。

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 ──とうとうこの日がやって来てしまったか。

 

 俺は一人トイレの中で…いや、この世界にはトイレなど無いわけだから、実際にはベッドの上で胡坐をかきながら目を閉じて、今更ながら事の重大さを悟り始めていた。凡そ一週間前、俺はユウキに、今日五月二十三日…つまりユウキの誕生日のである日に、ユウキの命令を何でも聞く約束をした。

 しかしそれすなわち、誕生日のプランをお祝いされるはずの本人に丸投げしてしまったということなのだ。一応誕生日プレゼントだけは用意しておいたものの、これは恋人として…というかお祝いする側の人間として到底許されるべき行為ではないだろう。

 …一体どうしたものだろうか。今からでもプランを即興で組み立てるか?いやいや、そんな適当なことをすれば、かえってつまらない一日を提供することになってしまうかもしれない…。俺が色々と考え込みながらベッドの上で唸っていると、ユウキが勢いよくドアを開けて、俺に声を掛けてくる。

 

 ユウキ「アルファ、もう起きてよ~…って、珍しくもう目覚めてたんだね。だったら早くリビングに降りてきてよ」

 

 アルファ「あ、あぁ…悪い悪い…」

 

 ユウキ「今日はね、色々予定立ててあるから、早く出発しないと今日中に消化し切れないかもだよ!朝ご飯ももう作ってるから、早く行こうよ!」

 

 随分と上機嫌なユウキに腕を引かれて、俺は二階の自室から一階のリビングへと移動した。するとテーブルの上には、小麦を焼き上げたような香ばしい香りを漂わせる茶色い物体たちが俺を出迎えてくれる。その正体は、見た目通りパンだ。ユウキが作る朝ご飯は基本的に、米を主食とするパターンが多かったが、まさかパンも作れるようになっていたとは…。俺とユウキは席に着き、合掌してから朝食を頂き始める。

 まずはクロワッサンみたいなパンを手でちぎり、欠片を口に放り込む。イイ感じに塩っけの効いた、その上内側の生地はしっとり、表面部分はカリッと焼けた塩パンだ。次は緑色の何かが練り込まれたパンを…これはパン生地がもっちもちで、外側の皮部分はトースターで焼き上げたばかりのようなサクサクさ、緑のクリームみたいなものは口の中に広がる甘さの、チョコデニッシュみたいなパンだ。またまた隣の縦長のパンを取って、俺はそれにかぶり付く。思った以上にパンが堅く、嚙みちぎるのにかなりの顎の力を使わされた。しかし、その堅い生地に塗り込まれたバターとガーリックのようなパンチのある旨味が俺を激震させた。

 …これはガーリックパンだ!俺がパンの中でもトップクラスに好きなものが、ガーリックパンである。あの歯ごたえの良さとにんにくの香りと濃い味が染み込んだパン生地が最高に好きなのだ。しかし、俺がSAOに囚われる寸前に、近くの店でガーリックパンの販売が打ち切られてしまうという悲しい事件が起きてしまった。

 …一体どうしてガーリックパンの製造を辞めたというのだ。全国のガーリックパン信者でデモ行進を起こすぞ、と当時抱いていた俺の物騒な憤怒を思い出しながら、俺はユウキの作ってくれた様々なパン類を味わい、朝食を済ませた。いつも通りの装備に着替えてギルドホームを後にした俺とユウキは、普段通り転移門まで向かって行く。

 

 ユウキ「今日はクエストから始める?それともレベリングから?」

 

 アルファ「ん~…レベリングに一票」

 

 ユウキ「うん!それじゃあ一日はデートにしようか!」

 

 俺が二つの選択肢に迷った末、楽そうな方を選ぶと、ユウキは満面の笑みで第三の答えを出した。その提案自体は凄く嬉しいのだが、対して俺は若干申し訳ない気持ちを滲ませながらユウキに返事をする。

 

 アルファ「え?俺は全くのノープランなんだけど…」

 

 ユウキ「だ~か~ら~、ボクに任せてって言ったでしょ?今日はもう何するか決めてるんだから、アルファは付いてきてくれるだけでいいの!」

 

 アルファ「…りょーかい。んじゃ、ユウキのデートプランに従わせてもらうとするか」

 

 ユウキ「ん、それじゃあまずはタイラのお店に行こう!」

 

 全身で喜びを表すようにウキウキとスキップを踏んでいくユウキの後姿を眺めながら、俺達は転移門まで辿り着き、第十層へと降り立つ。

 そしてそのままタイラの店の前まで進み、ドアを勢いよく開けた。店内にはタイラ以外にも、この店を訪れるうちに何度か顔を合わせたことのある固定客や見たことのないプレイヤーが数人、店内で革装備をあるいは普段着や鞄などを物色していた。

 

 ユウキ「おはよ~!」

 

 「「ユウキちゃん、おはよう!!」」

 

 ユウキが店内で元気よく挨拶をすると、店内にいたプレイヤー達…その全員が男性なわけだが、彼らは鶴の一声のようにユウキに笑顔で挨拶を返す。

 …たぶん、俺がユウキと同じように挨拶したとしても、こんなに気持ちよく返事をしてくれることは無いんだろうなぁ…きっとユウキの持つ元気っ子パワーのお陰なんだろうなぁ…悲しいなぁ…と、俺が無駄な憂いを嘆いていると、タイラが珍しく屈託のない笑顔でユウキに言葉を掛けた。珍しく、これ重要だ。

 

 タイラ「おはようございます、ユウキちゃん。例の物はちゃんと仕上げときましたよ!結構な労力が掛かりましたが…」

 

 ユウキ「ホント!?わざわざありがと!あ、アルファはちょっとそこで待っててね!」

 

 アルファ「おう」

 

 タイラに手招きされたユウキは店の奥へと消えていく。何やら店の奥からは、時折ユウキの嬉しそうな声が聞こえてくるが、タイラから誕生日プレゼントでも貰ったのだろうか。ユウキはまだ店の奥にいるようだが、タイラはすぐにこちらへと戻って来て、プレイヤーとの売買を再開していた。

 …このポーチ、今よりも容量が大きくて便利そうだな…大きさもさして変わりないし、そろそろ乗り換えてもいいかも…。俺はユウキがこちらへ戻ってくるまでの間、客として装備品を物色していたのだが、遂に数分後、ユウキがこちらへ戻って来た。

 

 ユウキ「アルファ~…お、お待たせっ!」

 

 アルファ「」

 

 店の奥から現れたユウキは普段身に付けている戦闘用装備とはまったく違う…つまり、いわゆる私服をその身に纏っていた。ロングスカートの代わりに黒のボトムスを、軽金属装備とその下に纏う布装備の代わりにストライプ柄をした白いセーターを、そしてその上にベージュの羽織を重ね、極めつけにはマロン色のキャスケットを被っている。

 店内にいた野郎どもは皆口を揃えて、おおっ!とその圧倒的オシャレ又はユウキの可愛さ若しくはその両方に舌を巻いているわけだが、天から振り落とされた落雷のせいで、俺はその場で固まることしかできなかった。そんな俺を見かねてか、ユウキが恐る恐るといった様子で俺に訊ねてくる。

 

 ユウキ「…ど、どうかな…?」

 

 アルファ「…えっと…凄く似合ってると思う。…めっちゃ可愛い」

 

 ユウキ「っ~!?……あ、ありがと…」

 

 …どうもこうもあるか。ユウキがオシャレした姿を見て可愛い以外の感想など抱くわけがない。というか、その恥ずかしそうに照れながら、どうかな?とか、ありがと、って言ってくる言動自体に破壊力がありすぎる。周囲にいる野郎どもは、俺達を茶化すようにヤジを飛ばしているが、もう今更気にしたところで仕方がないだろう。俺もユウキも顔真っ赤なんだろうし。

 …しかしなるほど、タイラの店に寄ったのは、タイラに私服を作ってもらってたからなのか。…あれ?俺と誕生日プレゼント被ってない!?いや、系統が違うしセーフか…?俺が別の意味で焦りを感じながら、いつも通りタイラの店を後にしようとすると、ユウキが俺の腕を掴んでその行動を制止してくる。

 

 アルファ「…どうしたんだ?」

 

 ユウキ「…今日はアルファもオシャレするんだよ?だから、向こうで着替えてきてよ。タイラが色々準備してくれたみたいだし」

 

 アルファ「…いや、俺はオシャレとかそういうのは…」

 

 ユウキ「今日はアルファのこと、ボクの自由にしていいって約束だよね?」

 

 アルファ「…はい。分かりました」

 

 そう言われてしまえば仕方がない。約束を守ることは大切だ。俺はタイラに招かれながら、店の奥へと足を進めた。するとそこには、タイラが手掛けたであろう様々な服が綺麗に整頓されている。

 …しかし、今度こそ一体どうしたものだろうか。俺はこの世界に来るまで、オシャレなんかとは無縁の生き物だった。友達と遊ぶときに着ていた服は母さんか姉貴が選んだ服を適当に着てたわけだし…。俺は綺麗に畳まれた服を眺めながら、そうやって困り果てていると、タイラが、これとこれの組み合わせなんてどうですか?と幾つか提案してから、再び売買へと戻って行った。

 俺は一通り吟味してから、結局は自分の思う服装をセンスで選ぶことにした。もしそれでユウキに笑われたなら、もうその時はその時だ。俺は真っ白の薄いTシャツの上にグリーンっぽいブルーの青緑色をしたTシャツを重ね着し、ベージュ色の緩めのロングパンツを身に付けた。最後にいつも身に付けているネックレスを首に掛けて、準備完了だ。俺が店先に出てくると、ユウキが少しオーバーなリアクションをしてくれる。

 

 ユウキ「わぁ!アルファってやっぱりオシャレなんだね!」

 

 アルファ「やっぱりってなんだよ。…俺今日初めてオシャレしてみたんだけどな」

 

 ユウキ「…才能の差を感じるよ」

 

 ユウキはなんだか少しがっかりしちゃっているが、俺にはその訳が全く分からない。俺がタイラに服はいくらするのかを訊ねると、今日はユウキちゃんの誕生日ですから、いいものも見れたことですし、タダで提供しますよ、と太っ腹な一面を見せてくれた。

 さぁお次は何処へ行こうかと、俺達が店を出ようとした時に、タイラがとんでもない発言をする。

 

 タイラ「…アルファ君は、女装とかも似合いそうですね~、どうです、今度はユウキちゃんと双子コーデでもしてみますか?」

 

 アルファ「は?てめぇしばくぞ。絶対やんねぇから」

 

 俺の怒りのツボに触れてしまったタイラにはしっかりと空手チョップによるお灸を据えようとしたその時、俺の耳にユウキの危なげな囁きが聞こえてきた。

 

 ユウキ「……アルファの女装……いいかも…」

 

 アルファ「え」

 

 ユウキの最強オシャレファッション以上の衝撃を受けた俺は、ユウキの変な性癖が目覚めてしまわないうちに、早々にタイラの店から脱出したのだった。

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 タイラの店を後にした俺達はアルゲードの街を訪れていた。何でもユウキによれば、この後十時半から行かなければならない場所があるらしく、ここはその時間までの暇つぶしなのだとか。俺とユウキは手と手を繋ぎながらアルゲードのまだ見ぬ世界へ繰り出しているわけだが、何だかいつもよりも胸のざわめきが激しかった。

 恐らく、俺なんかがお洒落しているからだと思う。…こう、いつもと違う格好のせいで俺が小恥ずかしく感じているというか、妙に自分の恰好に自信が無くてむずかゆいというか…。そんな俺の気持ちとは裏腹に、ユウキは四角形の形をした怪しげな木の実を持ってくる。

 

 ユウキ「こんな木の実見たことないけど、もしかしたらいい結果になるかもしれないね~」

 

 アルファ「大方実験は失敗に終わり、俺はその被害者になるんだけどな」

 

 ユウキ「そんな元も子もないこと言わないでよ。…あ!そろそろ時間だよ!早く行かなきゃ!」

 

 ユウキは時刻を思い出したようにテキパキと店主と木の実の売買契約を結んでから、俺の腕を掴んで走り始めた。何処へ行くつもりなのか全く分からないまま、俺はユウキに先導されていく。ユウキはそのまま転移門広場へと舞い戻り、第三十五層主街区<ミーシェ>へと転移した。そこからもユウキは小走りに整然とした街を右に曲がり左に進み、そしてとうとうユウキの目的地らしい場所に辿り着いた。

 そこは、派手にデコレーションされた中規模の店だ。しかし、その店はまだ開店していないらしく、更には店の前には長蛇の列が作り出されている。そしてユウキは俺の腕を引いてその長蛇の列の最後尾に並ぼうとしていた。俺は開いた口がふさがらない中、ユウキと共にその列の最後尾へと足を進める。

 

 アルファ「…これ何なんだ?」

 

 ユウキ「えっとね~、ここはアインクラッド初のプレイヤー経営のお菓子屋さんだよ。すっごく美味しいって噂だから、一度は来てみたかったんだ」

 

 アルファ「へぇ、そりゃ楽しみだ」

 

 ユウキ「開店は後一時間後なんだけど、みんなもっと早くから並んでたんだ…もうちょっと早く来たら良かったかもね」

 

 アルファ「マジか…」

 

 まさかこの世界にも開店前に行列を作り出す程の名店が登場するなど、誰が予想できただろうか。ユウキと他愛もない会話をしているうちにも、俺達の後ろにゾロゾロとプレイヤー達が並んでくる。前も後ろも、身なりからして中層プレイヤーなのだろう。この名店も、中層プレイヤーの拠点として機能している<ミーシェ>で店を開くとは、商売の才能も十分にある人物なのかもしれない。

 …しかし、ここで綺麗に整列しているプレイヤー達は皆律儀なもんだ。その気になれば剣を使い、暴力で脅すことだってできるのに…。そうしないのは彼らの善性ゆえなのだろうか。とまぁ、そんなことを考えながら、俺はこの一時間を、もし更に待ち時間が発生するなら一時間半ほどの時間をどう過ごそうかと考えていた。そんな中ユウキは、不意にストレージから何かを実体化させる。

 

 ユウキ「そう言えば、さっきお店で買ったものが幾つかあるんだけど、これは中に何が入ってるかお楽しみの石なんだって!二つ買ったから一緒に割ろうよ!」

 

 そう言ってユウキが差し出してきた丸い石は、拳ほどの大きさがあった。

 …これ、専用のツールとかが必要なんじゃねぇの?俺が果たして如何にして丸い石の中からお楽しみを取り出そうか、剣で真っ二つにしてみるか?などと考えているうちに、ユウキは石を地面に置いて、体術スキルで思いっ切り叩きつけた。ドガンッ!!という強烈な音と共に石は粉々に砕け散り、中からは半透明の結晶が出現する。

 ユウキは一人、お~!と歓声を上げているが、前後に並んでいたプレイヤー達はユウキを見てギョッと凝視していた。…そりゃそうだろ。まさかこんな可愛い女の子が石を素手で叩き割るだなんて、乱暴な手法を選ぶわけが無いのだから。

 

 ユウキ「…どうしたの?」

 

 アルファ「い、いや、何でもない。俺も割ってみるとするか」

 

 イマイチ自分の行ったことの影響力を理解していないユウキは不思議そうに俺を見つめてきた。…若干、並ぶプレイヤー達と俺達の間に大きな溝が出来ている。俺は彼らを怖がらせないように、両手剣の柄の部分で石を叩き、中から小さな金塊を取り出した。…これは、当たりなのだろうか?

 それから俺達はしばらくの間、色々なことを話し続けていた。ほぼ二十四時間一緒に過ごしているというのに、話のネタは尽きることを知らなかった。そしてとうとう十二時過ぎぐらいの時間帯に、俺達は店内に入ることが出来た。ウェイトレスの案内に従って、二人席に腰を掛ける。

 

 ユウキ「ごめん、お昼ご飯はここになりそうだね。夜は多分美味しいとこ案内するから、許して~」

 

 アルファ「そういうことなら、期待しておくぜ」

 

 二人でメニュー表を眺めると、確かにそこには現実世界で見慣れた名前の表記と見た目で様々な種類のスイーツが描かれていた。しかも、ここでは洋菓子だけでなく、和菓子も一部取り扱っているらしい。和菓子が好きな俺からすれば、なんて素晴らしい店なんだ、と思わずにはいられない。

 俺もユウキも一通り悩んでから、注文に移った。俺はどら焼きとシュークリームにチョコケーキ、そして飲み物はカフェオレを、ユウキはイチゴケーキにクレープ、今川焼きにバームクーヘン、飲み物はコーヒーと俺よりも欲張りな注文であった。ウェイトレスが去っていくのを見送ってから、俺はユウキにどうでもいいことを話す。

 

 アルファ「今川焼きって、大判焼きとか回転焼きって呼ぶ人もいるよなぁ」

 

 ユウキ「アルファはなんて呼んでるの?」

 

 アルファ「ん~…俺は大判焼きか今川焼きって言ってるな。母さんは回転焼きって言ったりもしてたけど」

 

 ユウキ「それじゃあアルファのお母さんは近畿出身なの?…あ、ごめん、リアルの話は厳禁だったね…」

 

 アルファ「それぐらいならいいだろ。…確かそうだったと思うけど、母さんはあんまり自分のルーツについて教えてくれなかったなぁ」

 

 ユウキ「へぇ~…スイーツも届いたことだし、頂きますしよっか」

 

 アルファ「そうだな」

 

 下らない会話をしているうちに、飲み物と共に美味しそうなスイーツが届けられた。シュークリームは粉砂糖がふりかけられたザックザクの生地に甘さ控えめのカスタードクリームが、チョコケーキは濃厚なチョコとカカオの苦み、そして生クリームの甘さが絶妙なバランスを誇っていた。どら焼きは生地はふっくら中の餡子も洋菓子とはまた違った和的な甘さを醸し出しており、粒あんの食感もまた美味しい。

 見た目だけでなく、味まで限りなく現実に近しいスイーツが表現されており、圧巻の一言だ。俺もユウキもお喋りを忘れてひたすらスイーツを食べ続け、頼んだ量だけでは飽き足らず、追加でもう一品ずつ注文をしてしまった。お互いにスイーツが届くまで飲み物を口にしていたのだが、ここでユウキが再び俺に話し掛けてきた。

 

 ユウキ「……アルファって、ボクの何が好きなの?」

 

 アルファ「んがっ!?ゲホゲホ…」

 

 ユウキ「だ、大丈夫?」

 

 ユウキがなんの前触れもなくいきなりそんなことを聞いて来るもんだから、俺は優雅に嗜んでいたカフェオレを気道に入れてしまい咳き込んだ。ユウキが俺を心配してくれたのだが、これは完全にあなたのせいなのです。しっかりと反省してください。

 俺はもう一度カフェオレを口にしてから、ユウキの質問に答えるべく思考を巡らせた。

 

 アルファ「……」

 

 ユウキ「……もしかして、特に無い…?」

 

 …逆逆、寧ろその逆のあり過ぎで困ってるんです。だが、全部が好きだと伝えるのはあまりにも在り来たりな答えかと思って、俺は頭を働かせて、それを綺麗にまとめ上げようとしていた。

 …なんだ?店内にいる客から鋭い視線を感じる気がするが、気のせいだろうか?俺はユウキの瞳を見つめながら、その答えを出す。

 

 アルファ「…やっぱり、一緒に居ててすげぇ楽しいし、落ち着くから…それに、ユウキの芯の強さとか、その中で魅せてくれる女の子らしい可愛さとか…まぁ、そういうの諸々だ」

 

 ユウキ「…え、えへへ~直接言われると照れるな…」

 

 結局、俺の気持ちを上手くまとめ上げれなかったのだが、ユウキには充分すぎるほど伝わったらしい。分かりやすくポッ、と顔をほんのり紅潮させながら照れ笑いをしているユウキに心をぶち抜かれながらも、俺は平静を保ちながらカフェオレを口に含んだ。

 …あれ?なんかさっきよりも甘くないか?俺達を見つめていた周囲の客たちは、これは甘すぎる、とか、やっぱ最高に尊いわ、とかそれぞれが意味不明の言葉を呟きながら、ブラックコーヒーを注文していた。そして俺達は、追加注文のスイーツを食べて、濃厚な甘味に満足してから、この店を出たのだった。

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 午後一時半前に最高のスイーツ店を後にしたボクは、今度は第四十九層の主街区<ミュージェン>にアルファを案内した。さっきのスイーツ店でアルファが、今日は誕生日なんだから、とボクの分まで奢ろうとしてくれたので、ボクも今日ぐらいはその厚意に甘えさせてもらった。

 …さっき、勇気を振り絞ってアルファに、ボクの好きな所はどこ?だなんてバカみたいな質問をしてみたけど、アルファは想像以上に身が悶えるような答えを返してくれた。純粋に凄く嬉しい…。第四十九層に案内した理由は唯一つなのだが、それが始まるのは三時からだ。三時までは後三十分ほどなので、ここのマーケットエリアで時間潰しをしようというわけである。

 …デートプランを綿密に組み立てるのって、大変なんだね~、と心の中でアルファが以前立ててくれた完璧なデートプランを思い出していた。現在アルファは、怪しげな骨董屋さんで古びた刀を眺めている。もう太陽の戎具という強力な武器を持っているというのに、どうしてそんなに骨董に惹かれているのだろう。結局アルファは、その刀を購入するのは辞めたようで、少し離れたところでその様子を見守っていたボクの方へと近づいてきた。

 

 アルファ「やっぱりやめとく。お金の無駄遣いな気がした」

 

 ユウキ「でもそんなことしてたら、貯まっていく一方なんじゃないの?」

 

 アルファ「たまには散財してるから、そんなことはねぇよ」

 

 なんて下らない会話をしながら、でもこんな会話が愛おしくて、ボクはアルファとの限られた時間を一秒一秒大切に過ごしていた。アルファは普段通りボクの手を強く優しく包み込んでくれているが、是非とも今日は一味違ったことをしてみたいと思っていたところだ。故に、ここでそれを言葉にする。

 

 ユウキ「アルファ、今日は腕を組んでみたいな」

 

 アルファ「え?」

 

 ユウキ「…ダメ…?」

 

 アルファ「イエスマム」

 

 ボクがそれを提案すると、アルファは面食らったように固まる。それを見たボクは不安になって訊ね返すと、アルファは機械のように定型文を返してきた。

 …なんとなく、アスナの言っていたボクの魅力っていうのが分かってきた気がする。アルファは多分、こうやって目を見つめてお願いされるのに弱いのだ。こうするとアルファは必ず目を逸らしたり硬直したりしてしまう。なんて自分の武器を見つけ出しながら、ボクはアルファと腕を組んだ。

 …いつもよりもアルファと触れ合う部分が多くて少し恥ずかしいけど、アルファの温かさをより一層感じられる気がする。ボクはそのままアルファと腕を組みながら、予定地である広場にアルファを案内した。そこには、四十人ほどの観客とステージ上にはNPC音楽団に、センターを飾る女性が一人、近くには騎士のように彼女を見守る男性が一人いる。

 

 アルファ「次のデート先は、ユナのステージってことか?」

 

 ユウキ「そうだよ!どんな歌うたってくれるのか、楽しみだね!」

 

 アルファ「あぁ!」

 

 ユナはこうして、何処かの主街区広場で歌を披露することがよくあるらしく、彼女自身もそれを楽しんでいるらしい。実は三日ほど前に、五月二十三日には何処でステージを開くのかをメッセージで訊ねたのだが、その答えが午後三時にミュージェンの広場で、ということだったのだ。

 ユナのステージはかなりの知名度らしく、今からフロアボス攻略戦でも行うのかと言う程の人数が集っていた。歌を披露する直前に、ユナはボク達に気が付いたらしく、笑顔で手を振ってくれる。ボクも大きく手を振ってそれに応えると、ユナが歌い始めた。

 普段から、ボス攻略の際にユナの吟唱スキルによる歌を聞くことはあったが、ステージ上でNPC音楽団と共に織り成す透き通るような歌声は、普段とは比べ物にならないほど感動的なものだった。歌詞の意味や、他の楽器が奏でる音楽から一歩頭出たその美声に聞き惚れているうちに、ユナは二曲三曲と歌い終えてしまった。ボクは夢中になって大勢の観客たちと共にアンコールを唱えると、彼女は更に二曲、合計五曲もの歌を披露してくれた。ステージを終えたユナにボクは駆けていく。

 

 ユウキ「ユナ、ホント~に凄かったよ!ボク、歌でこんなに感動したの、初めてだよ!」

 

 ユナ「ありがとう、ユウキ。そう言ってもらえると、嬉しいかな」

 

 ボクがユナの手をブンブン振りながら歌に感動したことを伝えると、ユナは優しく微笑んでくれた。後からやってきたアルファも、マジで凄かった!特に三曲目が好きすぎる!と彼女の歌声に虜になってしまったようだった。

 …あれ?大丈夫だよね?ユナにアルファの気持ち奪われたりしないよね!?ボクが謎の不安感に襲われていると、ノーチラスが訊ねてくる。

 

 ノーチラス「にしてもこんなお昼時にミュージェンに…それも二人共私服ってことは、デートか?」

 

 アルファ「まぁ、そんなとこだな」

 

 ユナ「え~!私服デートいいなぁ~。エーくん、私たちもオシャレしてデートしよ!」

 

 ノーチラス「わ、分かったよ。そんなこと人前で言うことじゃないだろ…」

 

 物理的にユナに迫られて、ユナに身体を揺さぶられているノーチラスは、その心も大きく揺れ動かされているようだった。

 …なるほど、こんな魅力の出し方もあるんだ…流石は恋愛の先輩だよ…。とユナの巧みな恋愛術を勉強しながら、ボクも恋愛スキルの熟練度上昇に努める。そんなこんなでボク達の邪魔にならないように、と彼らとは転移門広場でボク達とお別れをした。次は何処に行くんだ?と声を掛けてきたアルファに対して、ボクは再び転移先へと先導する。

 

 アルファ「…第六十一層か…」

 

 ユウキ「ここは色々あったせいで、あんまり向こうの島の街は散策出来てなかったからさ、景色もきれいだし、いいかなって」

 

 アルファ「120点の選択だと思います」

 

 ユウキ「何様なの?」

 

 アルファ「経験ゼロの恋愛評論家」

 

 ユウキ「…頼りないなぁ…。それじゃあ、一度海を渡らないといけないから、あそこの空き家で装備を交換しようか。…覗いちゃダメだからね?」

 

 アルファ「ダメだと言われたら、やりたくなってしまうのが人間の性だぜ?」

 

 ユウキ「じゃあ覗いて…ってそんなわけないじゃん!覗いたら普通に斬っちゃうよ?」

 

 アルファ「冗談だって~」

 

 今日一しょうもない会話を繰り広げてから、ボクは近くにあった空き家で装備をいつもの戦闘用の物に変更した。島から島へを繋ぐ船の上にモンスターが飛び乗って来る、だなんて話は聞いたことは無いが、やはり圏外に出るときは細心の注意を払わねばなるまい。私服の新鮮さも良かったが、やっぱりこっちのほうが落ち着く気がする…。

 ちゃんと外でガードしてくれていたアルファと交代して、アルファも普段の装いに変身した。空き家から出てきたアルファは、なんだか少し寂しそうにボクを眺めている。それに気が付いたボクは、もしやと思い、アルファをおちょくるように笑い掛ける。

 

 ユウキ「…どうしたの?…もしかして、まだボクの私服姿見てたかったの?」

 

 アルファ「……」

 

 途端に黙り込んでしまったアルファを見て、ボクの問いかけが図星で会ったことを悟り、ボクはニヤニヤしながらも更なる追撃を仕掛けた。…ってことは、アルファはボクの私服姿が大好きってこと!?

 

 ユウキ「ん~?どうなのかなぁ~?」

 

 アルファ「…そうだよ」

 

 ユウキ「…フフッ、素直な子は好きだよ。また向こうの島に着いたら、私服デートの続きしようね」

 

 アルファ「…」

 

 ボクにおちょくられ、何も言えなくなったアルファを見て、ボクの胸のトキメキと背中がゾクリとするような高揚感が急上昇した。

 …こう、なんというか、時たまアルファの気持ちに気が付けたときには、ボクは無性にアルファのことを揶揄いたくなってしまうのだ。アルファを揶揄ったときに魅せてくれる、この恥ずかしそうに素直な気持ちを述べてくれる様子が、最高に可愛いくて仕方がない。

 向こうの島へと出航する船に乗り込み、まだ頭上で輝いている太陽の光と潮風を浴びながら数分船に揺られ、ボク達は向こうの島の街に辿り着いた。約束通り空き家で装備を変更してから、港町や城下町の観光を始めた。アルファと腕を組みながら、あれやこれやと色んな店を巡ったり、買い食いしたり、灯台っぽい所に登ってオーシャンビューを楽しんだりするのは、とてもとても楽しかった。

 やがて夕暮れ時、海の底へ沈みゆく夕陽を眺めながら、ボクとアルファはベンチに腰掛けて、お互いに体をくっつけ合いながら、その美しい情景を眺めていた。

 

 ユウキ「…ちょっと早いけど、夜ご飯食べに行こっか」

 

 アルファ「了解。因みに何処に案内してくれるんだ?」

 

 ユウキ「この島の港町にあるお店なんだけど、きっとアルファが気に入るよ~」

 

 そう言ってボクは、事前にアルゴから仕入れた情報通りの道順を辿って行き、港町の一角にあるNPCレストランにやってきた。

 店内に入るとそこには個室が幾つもあるようで、ボク達もその一つに案内される。個室の中は畳が敷かれており、靴を脱いで、ボク達は座布団の上に座った。ボクは物珍しそうにあたりをチラチラと見ているアルファに対して、得意げに答えた。

 

 ユウキ「ここはね、鍋料理屋さんなんだ!すき焼きがおススメらしいよ!」

 

 アルファ「港町なのに、魚じゃなくて肉なのか。それってユウキが肉食いたいだけなんじゃねぇの?」

 

 ユウキ「ち、違うよ!?…ホントだからね!」

 

 アルファ「…そんじゃ、すき焼き頼んでみるかな」

 

 なんだかボクの思考が見透かされて、慌てるボクを見ていたアルファは半信半疑と言った様子でそう返事を返してきた。ボク達は店員さんにすき焼きを注文して、料理が届くのを待つ。すると前菜だなんてものが届いて、この店お高いんじゃないかなぁ…と少し不安になったりした。コルは潤沢に持っているけれど、やはり高級店と言うものは緊張するのだ。

 そんなことを考えながら前菜を味わっていると、遂にすき焼きが届けられた。お肉は脂っこ過ぎず、あっさりとした食べやすい赤身肉で、堅めの焼き豆腐と白ネギの甘さ、白菜やしらたきには醬油をベースにしたと思われる煮詰まった出汁が上手く染み込んでおり、絶品としか言いようがない。これほどまでに再現度の高いすき焼きがNPCレストランで食べられるとは驚きだ。

 

 アルファ「これは美味すぎる。明日は魚介鍋に挑戦しねぇか?」

 

 ユウキ「うんうん!味噌鍋なんかも美味しそう!」

 

 ぺろりとすき焼きをたらい上げたボク達は、〆のうどんで更にすき焼きの美味しさを堪能してから、店を出た。会計は思った通り少しお高めになってしまったが、これぐらいなら週に何回かは通うことも出来る。アルファがここも奢ると言ってくれたけど、それじゃあ流石に申し訳ないので、自分の分は自分でしっかりと払わせてもらった。

 ギルドホームに帰るまでの道中も、ボクはアルファと腕を組んでいたのだが、そこで、そう言えばアルファから手繋ごうとか、腕組もう、だなんて言われることがほとんどないことに気がついた。…アルファは、ボクにそういうことは求めてないのかな?それとも…ボクが求め過ぎなのかな?…でも、たまにはアルファから積極的に行動してほしいな…と色々な感情が胸の内で乱れながら、ボク達はギルドホームへと帰って来たのだった。

 

 

 

────────────────

 

 

 

 ホームへと帰還を果たした俺達は、まずは家のポストみたいな所に小包が置かれているのに気が付き、徐にそれを手に取った。

 それには手紙が付随しており、差出人はアルゴ。内容は、ユーちゃん誕生日おめでとー!アー坊とオシャレしてデート楽しかったかナ?個包装の中にはオネーサンからのプレゼントとアー坊とユーちゃんの熱愛写真が入ってるヨ!と記載されており、ユウキが慌てて小包を開けると、何かが記録されているであろう記録結晶とアルゴからのプレゼントであろう黒い粒が幾つも入った袋が入っていた。

 記録結晶には、俺とユウキがイチャラブしながらベンチでゆったりしている写真が入っており、傍から見たらこんなカップルらしく見えてるのか…いや、それ以前になんでアルゴは俺達が今日デートしてるって知ってるんだよ。情報屋の皮を被ったストーカーじゃねぇか、と心の中でツッコミを入れざるを得なかった。

 アルゴからの誕生日プレゼントであった黒い粒の価値は、俺には全く分からないのだが、ユウキ曰くこれは中々手に入らないレアな香辛料らしく、それは大層喜ばれていた。そして俺達はかわりばんこにお風呂に入り、今日一日である意味疲れた身体をほぐした。

 風呂から上がってきた俺は、ソファでくつろいでいるユウキの隣に腰を下ろす前に、アイテムストレージから彼女への誕生日プレゼントを取り出した。

 

 アルファ「ユウキ、誕生日おめでとう!これは俺の心からの誕生日プレゼントなんだけど…」

 

 ユウキ「…これは…服…?」

 

 アルファ「あぁ…アシュレイさんに頼んで作ってもらったんだけど……その、タイラと被ってごめん…」

 

 俺は一カ月ほど前から、最高級の布素材を集め始め、ユウキの誕生日の二週間前にようやく素材を集めきったのだ。ユウキの姿が載っている新聞を手に、アシュレイさんにこの子に似合う服を作って欲しい、と頼むと、この子は素材がいいから腕が鳴る、とやる気十分で服を作り上げてくれたのだ。

 そんなアシュレイには申し訳ないが、誕生日プレゼントが被るなんて、本人からしたら最悪だろう。もっと別の物の方が、リアクションだってしやすかったはずだ。俺はユウキに申し訳なくて、誠心誠意謝罪させてもらう。するとユウキは慌てて俺に声を掛けてきた。

 

 ユウキ「え?どうして謝るの?ボク、凄く嬉しいよ!…それに、どんな誕生日プレゼントでも、誕生日をお祝いしてくれること自体が嬉しいんだって言ってたのは、アルファだよね?」

 

 アルファ「…そういやそうだったな。喜んでくれて何よりだ」

 

 ユウキ「…でも、こんな可愛い感じのボクに似合うかな…」

 

 アルファ「絶対に似合う。これは断言できる」

 

 アシュレイの、その人その人に合わせた最高のオシャレ装備を作り上げる才能は本物だった。

 …本当に悔しい話だが、一年以上ユウキと共に過ごしてきた俺よりも、アシュレイの見抜いたユウキに似合うものが何か、という審美眼の方が優れていたのだ。

 アシュレイが手掛けた装備は、黒タイツにミニスカート、そして上半身はパーカーと実に緩いファッションだ。しかし、その姿のユウキを想像するとそれだけで、俺の全身が雷に打たれたような衝撃を受け、破壊力は抜群だった。しかもそのパーカーは淡い紫色であり、紫色というものがユウキに凄く似合うことも思い知らされたわけだ。ユウキは俺にお礼を述べてから、わざわざリビングを出てその服装に着替えてきてくれた。

 

 ユウキ「おー!流石はアシュレイさんだね~、何かしっくりくるよ」

 

 …やっぱり、ヤバすぎるだろこれは。ユウキのその圧倒的なキュートさに心を打たれている俺を横目に、ユウキは再びソファに腰掛けた。何だか今日は、この姿然り、ユウキの私服姿然り、腕組みや上目遣いだったり、ユウキの小悪魔的な揶揄いだったり、兎に角ユウキの可愛さの暴力に押しつぶされている気がする。

 …恋人関係と言うものは、与えるだけでも駄目であり、与えられるだけでも駄目なのだ。お互いに与え与えられ、双方が同じだけ満足している必要がある。故に俺は、今日と言う一日はユウキに与えられてばかりなのだから、俺もユウキに何か与えなければならないのでは?いや、与えなければならないのだ!そうやって俺は自分の欲望を正当化して、ユウキの隣に座った。

 

 アルファ「……ユウキ…せっかくだから、もう一つだけ誕生日プレゼントやるよ」

 

 ユウキ「…?ふぇ!?あ、アルファ!?」

 

 呆けた顔をしていたユウキを俺は強く抱擁した。ユウキは状況が呑み込めていないようで、え?え?え?と混乱を俺の耳元で囁いていた。俺は長い間ユウキを抱き締めてから、ようやく欲求を満たし終えて、やがてゆっくりと抱擁を解いた。まだユウキの温かさを全身で感じてはいたかったけれど、一度心を落ち着かせる。

 

 アルファ「…これが俺のもう一つの誕生日プレゼントだ」

 

 ユウキ「……ぁぅ…」

 

 アルファ「ユウキ、顔真っ赤だぞ?」

 

 ユウキ「……そう言うアルファだって、すっごく顔赤いよ…」

 

 これまでに無い程、それこそ面から火が出そうな勢いでユウキは顔を紅潮させていた。だが、ユウキから見た俺も似たようなものらしい。ユウキは、惚けた顔で俺に話し掛けてくる。

 

 ユウキ「……これ、今日一番、嬉しかったかも…ねぇ、もう一回…ううん、何回でもボクのこと、ギューって抱き締めてほしいな…」

 

 アルファ「あぁ、何回でも抱き締めてやるよ」

 

 その様子でユウキにそう言われた俺は、貪るようにユウキの身体を抱き寄せていた。そして今度はユウキも俺の背中に腕を回して、俺のことを抱き締めてくれる。俺達はお互いの心と身体の温もりを共有し合いながら、暫くの時間を過ごしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 アルファ君とユウキちゃんは、このあと滅茶苦茶セッ〇スし……てません。

 次回の投稿日は、13日の土曜日となります。

 では、また第76話でお会いしましょう!
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