ネタばれにならない程度に感想を一言述べさせてもらうとすれば、コボルドロードがめちゃんこカッコよかった!ですかね。
では、どうぞ!
ユウキ「アルファ~もうそろそろ起きないと後々困るよ~!」
キリト「ったく、なんでこんな場所で熟睡できるんだろうな」
アルファ「…んん…」
誰かに馬鹿にされた気がして、俺はぼんやりと意識を取り戻した。次に聴覚が受け取った感覚記号は、左回避だッ!という誰かの指示とそれに従う数多の人間の叫び声、ド────ンッ!と地を響かせる地ならしだ。俺は薄っすらと目を開けると、そこには普段通りユウキと…キリトがいる。
…?一瞬、俺は頭の中がこんがらがった気がしたが、直ぐに只今俺の置かれている状況を思い出した。俺はゆっくりと寝袋から這い出て、大きく伸びをする。
アルファ「…ユウキ、キリト、おはよう…」
ユウキ&キリト「「おはよう」」
呑気に朝の挨拶を終えた俺達は朝ご飯でも食べようか、とそれぞれがストレージから携帯食料を取り出す。そんな中キリトが一人鍋を取り出してお湯を沸かし始めた。ユウキが、何作るの?と訊ねると、キリトはちょっとしたスープでも、と答える。
それを聞いたユウキがストレージから自作の味噌玉を取り出し、お湯に放り込んだ。それからしばらくして味噌スープが完成したのか、キリトが俺とユウキに味噌汁を分けてくれる。
キリト「…中々味噌汁に近い味だな。こんなもんが毎日食べられるなんて、アルファは幸せ者だよ…」
アルファ「…その代わりに、もれなく激マズ調味料も食べさせられるけどな。それでもいいなら変わってやってもいいぜ?」
キリト「…ハハッ…その話マジだったのか…」
ユウキ「あんまり変なこと言わないでよ。もう何も作ってあげなくなるよ?」
アルファ「いえ、申し訳ございませんでした」
干し肉、干し魚、ドライフルーツ等々を口にしながら、俺達はありふれた会話をしつつ、味噌汁を飲んで身体を目覚めさせていく。そんな中少し離れた場所から足音を響かせながら、女性プレイヤーが一人近づいてきた。
アスナ「まったく…あなた達休憩時間だからって、ちょっと気が緩み過ぎなんじゃない?」
キリト「休憩時間だからこそ、こうやってゆっくりリラックスしてるんだよ。アスナもあんまり張り詰め過ぎないようにな。…あ、味噌汁飲む?」
アスナ「くれるって言うなら、貰うわ。…うん、すっごく美味しいわね。もしかしてユウキが作ったの?」
ユウキ「そうだよ~。ボク特製の味噌玉を入れたんだ!」
アルファ「アスナが俺の胃袋を掴んだように、今度はユウキがキリトの胃袋を掴む、と…アスナさん、いいんですか?」
アスナ「な、何言ってるのよ!別に私だってその気になればキリト君の胃袋の一つや二つ掴み放題なんだからね!」
キリト「俺の胃袋は一つしかないけどな…」
少しづつ目の覚めてきた俺はアスナをおちょくって更に頭の回転を速めていく。休憩時間は後四十分程度だ。それまでに朝ご飯を済ませて、準備体操してから剣を振って身体を温めて…四十分後にはA~D隊と戦線維持の交代か…十分に時間はあるな。
そう、何を隠そう俺達は今、フロアボス戦真っ只中なのだ。ならばどうしてボス部屋の隅で朝ご飯を食べ、寝泊りする羽目になったのかと言うと、その理由は二日前に遡ることになるのだった…。
────────────────
アスナ「では、第62層フロアボス攻略会議を始めさせていただきます」
最早恒例となってしまった血盟騎士団副団長アスナが先導する攻略会議に、俺とユウキも当たり前の如く出席したわけだが、一体今回はどんなフロアボスなのだろう。基本的に節目の層以外のフロアボスは、何か特殊なボスでもない限り、油断さえしなければ死者無しで突破できる。故に俺達も肩の力を入れ過ぎずに攻略に臨めるというわけだ。
アスナがつらつらと今回のボスに関するクエストNPCから得た情報を喋っていたのだが、それぐらいは俺達も把握出来ている。重要になってくるのは、これからアスナが話す、実際にボスにちょっかいをかけた偵察部隊の生情報だ。俺達はコンビで活動しているため、おいそれと二人でボスの姿を拝んでみよう、だなんてことはしない。…俺の知り合いの中で、そんなことをしようと考えるのはキリトぐらいだろか。いや、流石のキリトもそんなことはしないだろう。アスナが復習がてら既知の情報を話しを言えると、一息ついてから再び言葉を発する。
アスナ「今回偵察部隊を派遣した結果…ボスの攻撃力が非常に低く、動きも鈍足であることが分かりました。…そして同時に、圧倒的な防御力を誇っています。団長と相談したところ、恐らく、このボス戦は一日では終わらないだろう、とのことです」
…は?一日でボス攻略が終わらない、だと!?俺は心の中で、アスナの唱えた言葉の意味を真に理解できずにいた。これまでのフロアボス戦は、長くても二時間前後のタイムで突破できていたはずだ。それが二十四時間以上掛かるなど有り得るというのか。
しかし、それはここに集った攻略組プレイヤー達も同様らしく、近くにいる者同士で、どういうことだ?と騒めき始める。それを静めるようにアスナが再び口を開いた。
アスナ「…つまり、今回のフロアボス戦では、レイドメンバー全員で丸一日以上闘い続けることになる為、ボス部屋で寝食する必要が出てきます。ですので、今回はボスそのものの脅威は非常に薄いですが、我々レイドメンバー自身の精神力の戦いとなって来る…ということです」
アルファ「おいおいおいおい、マジかよ」
ユウキ「中々めんどくさい戦いになりそうだね」
再び騒めきだしたプレイヤー達に対してアスナは、ボスの性質上レイドメンバーはいつもよりも大人数で編成し、その中で数グループに分けて睡眠時間や休憩時間の確保を図ること、戦闘が一日以上続くことから、携帯食料や寝袋などの準備が必要であること、などをもう一度伝えた。そしてレイドメンバーを編成し、グループ分けをして、いつも通り明日の午後一時に広場にて集合することに決定され、攻略会議は終了した。
俺達も勿論ボス戦に参加するわけだから、回復アイテムの補充に加えて、少し多めに三日分ぐらいの携帯食料や鍋、フライパンなどの調理器具、寝袋などの準備をしっかりと行っていく。そしてお次はリズベット武具店で武器防具の耐久値の復活だ。彼女が店を構えている第四十八層主街区<リンダース>に転移し、目印となっている巨大な水車付きの店を訪れる。
ユウキ「リズ、久しぶり~!」
リズベット「おっ!ユウキじゃない、今日は武器のメンテナンス?」
ユウキ「まぁね~、明日はフロアボス戦だから、防具のメンテナンスもお願いするね」
アルファ「そういう訳だから、俺もメンテ頼む」
リズベットは二、三ヵ月前ようやく夢の職人クラス用プレイヤーホームを購入し、そこでお店の経営を始めていた。リズベットは昔からお店を経営することが夢だったらしく、オープン当日はそれはもう張り切り過ぎじゃないかと思うぐらい、気合十分であった。
店を経営し始めてから段々と、リズベットの恰好がお人形さんのようなウェイトレス風に返信していったわけだから、とうとうリズベットにも春がやって来たのだろうかと俺は思っていたのだが、その服装をコーディネートしたのはアスナらしい。
リズベット曰く、あたしの可愛さに惹かれて数多の男性プレイヤーから言い寄られたことはあるが、やっぱり自分から好きになった人と恋したいらしく、その手の誘いは断っているとか。前半部分はどうにも怪しいもんだが、相対的に見てリズベットがそれなりには可愛らしい顔をしていることは認めざるを得ない。…まぁ、ユウキと比べたら月と鼈だ。異論は認めない。と、俺は心の中で色眼鏡を通した依怙贔屓をしていると、リズベットが来店していた客との商売を一通り終え、店の奥にある工房へと俺達を案内し、メンテナンス作業を開始してくれる。
リズベット「…フロアボス戦かぁ~…二人共気を付けてなさいよ」
ユウキ「今回のフロアボス戦は前情報通りなら、たぶん誰も死なないと思うよ。だから安心して待っててよね」
リズベット「もしもの時は、アンタがユウキのこと守りなさいよ!」
ユウキ「残念ながら、未だにアルファはボクに守られる側の存在だからね~」
アルファ「言うなそれは。まぁ、全身全霊は尽くさせてもらうけどな」
アスナに俺とユウキが付き合っていることがバレてしまったので、もうこの際リズベットにも伝えようと、俺達は一か月ほど前にお付き合い報告をした。すると彼女は、俺達のことを快く祝福してくれたのだ。そしてあろうことか…というかいつもの、出会った時から付き合ってるもんだと思ってたわよ、という何度目かの発言も頂いている。
リズベットもタイラにかなり近しいタイプの人間のようで、俺達の惚気話をあの手この手で引き摺りだそうとしてくる。基本的には俺は何も喋らないのだが、ユウキがリズベットに惚気話をしているらしく、時たまリズベットに詰められる時があるのだ。そしてそれをなんだかんだで楽しんでいる俺がいることに最近気が付き、自分さえ気が付かなかった内面を認知して戦慄しているのは、誰にも言えないことだ。
リズベット「ま、なんにしても油断はしない事ね」
アルファ「そりゃあ当たり前だ」
リズベット「はい、メンテナンス終了よ!」
ユウキ「ありがと!それじゃあまたねー!」
それから俺達は、タイラの店を訪れてリズベットのとこでやったようなやり取りを交わし、すっかり嵌り込んでしまった鍋料理屋さんで晩御飯を済ませ、軽くデュエルをしてから…今日は負けたけど結構惜しかった…嘘じゃないからな!?ボス戦前日の夜を過ごしていた。ユウキにお風呂を先んじられたわけだが、俺もゆっくりと湯船に浸かって疲労を回復する。
身体の芯まで温めてから風呂場を出た俺は、いつも通りユウキの隣に腰掛けた。ソファの上でユウキが、明日の朝に保存食を作ってみるね~、と面白そうな構想を語ってくれたり、俺が、明日の朝の午前中にちょっとだけレベリングしないか?と提案したりしていると、段々とユウキが顔を俯かせてモジモジし出した。そして遂に耐えられなくなったのか、目線を逸らしながら俺に話し掛けてくる。
ユウキ「……その…今日もギューってして欲しいな…」
アルファ「くっくっく…」
…やっぱりそういうことか。俺は何となくユウキが俺に求めていることを察してはいたが、その恥ずかしそうに自分の気持ちと葛藤している様子を長い間見ていたくて、ついつい焦らしてしまった。俺はそんなユウキにドキドキしつつも、それ以上に笑いがこみあげてきてしまい、少し吹き出してしまう。そんな俺を見たユウキが、頬を膨らませながら抗議してくる。
ユウキ「そんなに笑っちゃうほど、ボクおかしなこと言ってるかな?」
アルファ「悪い悪い…ユウキだって意地悪したくなる時だってあるだろ?俺にだってあるんだ」
そんなユウキを見て俺はまたも頬を緩ませながら、ユウキのお望み通りぎゅっと抱き締めた。ユウキはそれに満足したような緩み切った声を上げながら、俺の耳元に話し掛けてくる。
ユウキ「…あぅ~…これ、すっごく中毒性があると思うんだ。一日一回は欲しくなるよ~」
アルファ「つっても流石にボス部屋ではやらねぇぞ」
ユウキ「じゃあ二日分ギューッてして」
アルファ「ん」
ユウキ自身、ハグに中毒性があるとは言っていたが、確かにそれは俺も同感である。ユウキの温かさに全身で触れられるのがこんなに気持ちの良いものだと知ってしまったのなら、どうしてそれを抑えることが出来るだろうか。…SAOでは基本的に三大欲求に…特に性欲に大きなブレーキが搭載されていて本当に良かった。もしそれが無ければ俺は今頃自分の欲望に吞まれてユウキを押し倒していたかもしれない。
しかし、俺は鋼の精神で己の薄汚い欲望を律するだけの決意は持ち合わせている。…彼女は一度強姦されそうにあって途方もないほどの恐怖を感じているのだ。故にそういう無理矢理なことは、俺は絶対にしたくない。それこそ、彼女に恐ろしいトラウマを植え付けることになってしまうのかもしれないのだから。
…それはそうとして、男性も女性も同じ人間であるはずなのに、女の子ってどうしてこんなに身体がフワフワとしている言うか、すげぇ柔らかいんだろう。…って言うか、ユウキと身体を密着させていて思うことは、ユウキってやっぱりその…胸部が控えめですよね。
こんなことを口にするのはマナー違反どころか犯罪級のデリカシーの無さであることは分かっているのでそれを言葉にすることは無い。そしてそんなことを口にした日には、ユウキに切り刻まれる気がしているので、冗談でも絶対に言わない。…でも、正直なところ俺的には、ユウキなら大きくても小さくてもどっちだっていいんだ、と、色々なことを考えながらユウキを堪能し終えた俺は、ゆっくりと懐抱解いた。
アルファ「…ユウキ?俺の口に何か付いてるのか?」
ユウキ「え!?ううん、何でもないよ!?」
アルファ「…そうか…?」
ユウキの目線が俺の口元にある気がして、それを不思議に思った俺はまさかお弁当でも付いているのかと思いそれを訊ねたのだが、特段何もなかったらしい。まぁユウキがそう言うのなら、何もないのだろうと俺は一人納得した。そろそろ眠りにつこうかと、二人揃って自室へと入って行く。
…恐らく明日は中々しっかりと深い睡眠が取れないだろうから、今日はしっかり眠らないとな。そう思って布団に包まったはいいものの、何処となく熱が足りない気がして、俺は眠りにつくまでに長らく時間をかけてしまったのだった。
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…そう言えば、ユウキのことは二日分しか抱き締めてないわけだから、今日中にフロアボス戦を完了させられなければ、ユウキが暴走してここで求めてきたりするんじゃないだろうな!?流石にそれは恥ずかし過ぎるから勘弁してくれよ!?と、絶対とは言い切れないが恐らく有り得ないであろう妄想を頭の片隅で膨らませながら、俺は後十分ほどで今ボスを相手にしてくれているプレイヤー達との入れ替えをするためにしっかりと準備運動を行っていた。
仮想世界とは言えど、フィールドに出てモンスター達と闘う際には、俺は準備運動を欠かさない。屈伸運動、アキレス腱を伸ばし、軽くジャンプする。そんな俺の傍らでキリトは剣を両手持ちしながら、身体と剣を前後に振っている。
アルファ「それ、一挙動だろ?剣道部がよくやってる」
キリト「あー…そうだけど、俺は剣道部じゃないぞ。まだ小さかった頃に剣道やってたんだけど、俺はすぐにやめちゃったよ」
アルファ「へぇー…そういやここで寝泊まりするのも、何か修学旅行みたいじゃね?」
キリト「ハハッ、確かにそうだな。そう考えると少しはこの現状も楽しく見えてくる気が…しないな」
ユウキ「…しないんだ。まぁ、変に気張らずに気楽に行こうよ」
キリト「そりゃ勿論。今日のLAも俺のもんだ」
三人で身体を動かしながら、入れ替えの時を待つ。因みにアスナは、このグループの指揮を務めているため、キリトの傍を離れることを名残惜しそうに、既に血盟騎士団の元へと帰っていた。…ああいうところが、大型ギルドの面倒臭い所なんだろうか。
そして遂に、大人数での大型スイッチが始まった。入れ替わりざまに前半グループとしてボスとの戦闘を続けていたユナが、鼬の最後っ屁のように俺達に吟唱スキルによるバフを掛けてくれる。内容は攻撃力、防御力の上昇だ。ユナにボスのタゲが向かないように、後半グループのタンク部隊が流れるような洗練された動作で挑発スキルを発動させた。ユナの吟唱スキルが無ければ、このボス戦のスピードももう少し落ちていたのかもしれない。
因みに、前半グループにはユナ、ノーチラス、ヒースクリフにディアベル、後半グループには、ユウキ、アスナ、キリトにシュミットと攻略組の役割ごとの主戦力がしっかりと分配されている。シュミットが率いるタンク部隊が綺麗にボスの攻撃を受け止め、ボスの動きが鈍った隙に、すかさず俺達ダメージディーラーがしっかりとその体力を削りに行く。
アルファ「いやー、やっぱりコイツ硬すぎないか?」
アスナ「無駄口叩いてる余裕はないわよ?」
アルファ「こっから後何時間闘い続けると思ってんだよ。それに俺がボスの攻撃直当てされても死なねぇぐらい攻撃力雑魚なんだから、大丈夫だろ」
キリト「気持ちだけ先行しても意味ないからなぁ~」
アスナ「それはどういう意味かしら」
キリト「い、いや、リラックスしていこうぜって意味だ。俺は断じてアスナが気合入れ過ぎだなんて思ってないぞ」
アスナ「そういうことにしておいてあげるっ!」
なんだかんだで俺達は無駄口を叩き合いながら、テンポよくボスに攻撃を浴びせていく。ボスは全身を虹色に輝かせた結晶から成り立った二足歩行の怪物であり、その全長は十メートル前後程だろう。だが、その見た目に反して攻撃力は皆無であり、しかしその姿見が示すように、その動きは非常に鈍足だ。
ダイヤモンドかと思うぐらい堅い防御力は、俺達が総攻撃を仕掛けても、ボスの体力はミリほどしか減少しない程である。この三十何時間ぐらいの俺達の雨垂れ石を穿つような努力の積み重ねによって、フルで四本あった体力バーの三本目の終わりにまで差し掛かっていた。
…この調子だと、明日もボスとの闘いは続くのだろう。やはりこういう日を跨いだ闘いを経験したことのあるプレイヤーが大勢いるはずもなく、二日目にして集中力の欠如からか、ボスの攻撃を喰らうプレイヤーも段々と増えてきている。補足説明しておくと、一日目も二日目も、先に前半グループがボスとの戦闘を繰り広げているうちに、後半グループが睡眠休憩を取るというパターンを採っている。
ユウキ「これホントに終わりそうにないね~」
アルファ「今日中は無理かもな」
キリト「はぁ…まさかボス部屋で三日も過ごすことになるとは、攻略当初は夢にも思わなかったよ…」
俺達はそれからも集中力が途切れないように適当な会話を続けながら、前半グループが睡眠休憩を取っている間の番を行い続けた。俺の近くで一人のダメージディーラーが足をもつれさせ、ボスに叩きつぶされそうになったのを咄嗟に俺は割って入り、身代わりとなったのだが、やはり紙装甲と言っても差し支えのないような俺でも、体力減少は1.5割程度だった。ボスの攻撃パターンには遠距離攻撃もないので、後方に控えているプレイヤーに被害が及ぶこともない。前半グループが目覚め、軽い軽食と準備運動を始めた時、とうとうボスの体力バーがラスト一本目前にまで迫って来た。
アスナ「ラスト一本よ!総員、ボスのパターン変化に備えて!」
指揮官の指示に従って、後半グループだけでなく前半グループのメンバーもボスの行動パターンの変化に備えて臨戦態勢を整える。ユウキの月光スキル六連撃技<月下乱剣>により、ボスは最終段階へと移行した。
ボスは虹色の結晶で構成された巨体をピシピシとひび割れさせ、まるで爬虫類が脱皮をするかようにその結晶殻を破った。そこから出てきたボスは今までよりも何回りか小さい。
しかし、そのスピードは恐るべき速さだった。お疲れながらもその攻撃に反応して見せたレイドメンバー達は、ボスの鉄腕がとんできたその場から飛び退いたり、攻撃を受け止めるなりしてやり過ごす。攻撃を受け止めたタンクプレイヤーの体力減少度合いを確かめると、二割ほどだ。タンクで二割と言うことは俺が喰らえば四割程は削れるだろう。すかさずディアベルがボスに攻撃を加えると、そのボスの体力は普段通りのボス戦と同じような削れ幅だった。俺と同じように視線を向けていたキリトが呟く。
キリト「やっぱりこういうボスは、最後の最後で防御を捨てて攻撃特化になるパターンがセオリーなんだよな!」
アスナ「ボスは攻撃力と防御力を入れ替えてきた模様!今からはいつも通りの戦闘態勢に移るわよ!」
「「おおっ!!」」
ボスは能力値の全てを攻撃に託してきただけあって、腕を叩きつけた地面を中心とした円形のエリアに結晶の刃を放出するという範囲攻撃を新たに加えてきたりしたが、これでようやくボス戦から解放される!という気持ちでやる気を満ち溢れさせたレイドメンバーは、それに怯むことなくボスに総攻撃を仕掛け続けた。
そして遂に、実に四十二時間十四分の超長期戦の末、誰かの一撃によって俺達攻略組は第63層の完全攻略を果たした。ようやくボス戦を終了させられたという喜びも束の間、俺達は疲れ果てて歓声を上げることさえせず、その場にへたり込むものが多数であったほどだ。
時刻は午後八時過ぎであったこともあり、今日はもう精神的に攻略は無理だと、そう思わずにはいられなかった俺とユウキは、六十四層主街区の観光も後日に回すことにして、お気に入りのNPCレストランで晩御飯を済ませてから早々にギルドホームへと舞い戻った。二日ほどもこの家には帰って来ていなかったわけだが、やっぱりこの空間が一番落ち着く気がする。今日はデュエルさえもする気力が残っていなかったため、拳と拳を構えて人類共通の最終手段に出た結果、俺がグーのユウキがチョキで俺の勝ちとなり、先にお風呂に入らせてもらった。
二日ぶりのお風呂をしみじみと思い耽りながら堪能した俺は、風呂場を出てから安楽椅子で船漕ぎをしつつ、今日手に入れたアイテムなどを一人、おぉ~と声を上げながらチェックしていた。ユウキが風呂から上がってきたようだ。普段は元気ハツラツのユウキも、流石に疲労の限界に達しているのか、今日はもうおやすみ~、と目をゴシゴシしながら呟く。ユウキが寝るなら俺も寝ようかと、リビングを後にしようとした時に、ユウキが後ろから俺をハグしてきた。
ユウキ「…補給かんりょ~」
僅か三秒ほどでユウキは俺から離れ、俺のことを追い抜いて階段を登ろうとしていく。…え?今日はもう終わりなのか?……俺はもっとユウキの温かさに触れていたかったんだけど…。そんな俺の欲望をトレースしたのか、ユウキがニヤリと口元を狂暴に歪めて、俺に話し掛けてきた。
ユウキ「…もしかして、もっとボクとくっついていたかった?」
アルファ「…」コクッ
…一体さっきまでの眠そうな顔は何だったんですか。それ程にまで愉快そうに俺のことを眺めているユウキを見て、しかし俺は自分の心底にある欲望に逆らうことが出来ず、静かに頷いた。するとユウキは、照れるような表情を、そして何処か恍惚とした表情を浮かべながら、俺の近くまで歩み寄る。
ユウキ「…どーぞ」
俺の目の前までやってきたユウキが、そう答えるや否や、俺はすぐさまユウキの身体をしっかりと抱き締めていた。…やっぱり、凄く落ち着くし、同時にビックリするぐらいドキドキしている…。たっぷり十秒ほどの間、俺はユウキの温かさを感じ取ってから、ようやくその拘束を解いた。一緒に各自の部屋まで向かう途中にユウキが、アルファって意外に積極的だったりするの?と訊ねてくるもんだから、俺は、さぁ…?と答えることしかできない。
部屋に入ってベッドに横たわった俺は、睡魔に襲われ、微睡に堕ちていく最中、つい先ほどのユウキとの出来事を思い出していた。そこには、…なんだかんだ言って、ユウキを俺の虜にするどころか、結局ユウキに骨抜きにされているのは俺の方だな…と冷静な自己分析を下す俺がいたのだった。
というわけで今話は、心の温度にてキリト君がリズベットに語っていた冒険譚の一つから、着想を得たものでした。
そう言えば、前書きで書くのを忘れていましたが、筆者の物語にミトが登場する予定は、残念ながら今のところはありません。あれだけの情報量だと、とても筆者の執筆力では彼女を活躍させることが出来なさそうので…。
因みにですが、筆者はミトが嫌いだから、お話に登場させないわけではないです。ネット上では様々な解釈が為されていましたが…個人的には中々に好きなキャラクターになりました。
あれこれ書きましたがともかく、次回の投稿日は明日となります。
では、また第77話でお会いしましょう!