~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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第79話 夏の風物詩 前編

 アルファ「ご馳走様でした」

 

 ユウキ「お粗末様でした!」

 

 今日はユウキがわざわざ朝ご飯を作ってくれたので、俺達は食卓に着いて、朝ご飯をいただいていたわけだ。今日ユウキが作ってくれた朝ご飯は白米、味噌汁、鮭みたいな謎の魚の焼いたやつ、そして野菜の炊きもの、とオーソドックスな朝ご飯メニューであった。

 ついでに食べさせられた青色のソースみたいな調味料は見事に不味かったわけだが、献立自体は美味しかったので差し引きゼロといった所だろうか。俺が食器を下げてお皿を水で洗い、新品同様のお皿に戻していると、ユウキが声を掛けてきた。

 

 ユウキ「アルファ、今日は──」

 

 アルファ「絶対に、嫌です」

 

 ユウキ「…ま、まだ何も言ってないじゃん…」

 

 アルファ「だって、何を言うか分かってるのに、最後まで聞く必要なんて無いだろ?」

 

 ユウキ「…むぅ」

 

 ユウキが何かを俺に伝えようとしていたが、俺は彼女がそれを言い終える前に、横入りするようにその言葉を一刀両断した。ユウキは口をとがらせて俺に文句を言ってきたが、俺がすぐさま言い返すと、頬っぺたを膨らませて俺を睨みつけてくる。

 そんな彼女を横目に、お皿を洗い終えた俺は、キッチンに備えられている収納スペースにお皿を直していく。するとユウキが、諦めることなく再び俺に物申してきた。

 

 ユウキ「…でも、もう彼是三日も同じ狩場でレベリングしてるじゃん。そろそろボクも最前線に行きたいなぁ~」

 

 アルファ「…いや、それでも現状最効率の狩場は、第64層の<人喰らいの樹林>だぜ。ここでひたすらレベリングしてた方が良くないか?」

 

 ユウキ「いやいや、少なくとも最前線にある主要なクエストぐらいはクリアしておくべきだと思うよ?クエストなら経験値も入ってくる上にアイテムまで手に入るじゃん。一石二鳥だとボクは思うけどね。だ、か、ら、なんにしても今日はクエストをクリアしに行くべきだと思うなぁ~?」

 

 アルファ「…むぅ」

 

 ユウキにド正論をぶつけられ、俺は何も言い返すことのできなくなってしまう。なので今度は、俺がさっきのユウキのように唸る番だ。

 俺の言う通り、レベリング最効率が叩きだせるのは、最前線よりも二個下の層である、人喰らいの樹林というフィールドエリアであることは疑いようのない事実なのである。人喰らいの樹林には、その名の通り好戦的な攻撃特化のモブばかりが出現し、そのリポップも速い。故にレベリングをするうえでは最適な場所として確立されているのだ。

 しかし一方で、ユウキの言う通り最前線のクエスト報酬によるアイテムには、貴重なものが混じっていることも多々あり、その上経験値まで入ってくるとなるのなら、クエストをクリアしない理由は無いことも明白であった。

 俺はレベリングとクエスト報酬、そして己の心の精神性と相談していると、ユウキが俺に媚びるように目線を上向きに向けながら、俺の心に揺さぶりをかけてくる。

 

 ユウキ「……ダメ…?」

 

 アルファ「……い、いいけど……いや、やっぱり無理だ!上目遣いなんかしても、無理なもんは無理!!」

 

 ユウキ「…え~…」

 

 ついついユウキの策略に堕ちそうになっていた俺であったが、何とかその術中から抜け出して俺は最前線に出ることを拒否することに成功する。

 確かに、ユウキの上目遣いは俺に対して効果抜群ではある。しかし、今回ばかりはその可愛さよりも己の精神的安全性の方が優先されたのだ。俺が勢いよく答えると、ユウキは何処か驚いたようにボソリと独り言を喋っていた。

 

 ユウキ「あれ?おかしいな~…ボクの魅力はこうやってアルファの眼を見つめること…これをしたらアルファは百発百中でボクの虜になってたはずなのに…」

 

 アルファ「…魅力ってのは、本人が気づいちまったらその瞬間にその魅力は半減する…意図的に作り出す魅力は天然物には敵わないんだよ」

 

 ユウキ「ア、アルファ!?聞こえてたの!?…それじゃあ、これからは自然な形でやってみるねっ!」

 

 アルファ「お、おう…」

 

 ユウキの怖すぎる独り言が耳に入って来たもんだから、ついつい俺の自論を語ってしまっていると、ユウキが驚きながらも俺の言葉をアドバイスとして捉えてしまったようだ。

 …あれ?これはヤバくね?これ以上ユウキの魅力に磨きが掛かったらホントに俺はユウキから逃れられなくなるんじゃね?いや待て、そもそも俺は今までユウキの上目遣いに百発百中でやられてたのか!?…もうちょっと、耐性を付けないとこれは不味いことになるな…と、俺が頭の中で様々なことを思考していると、ユウキが俺に念押しするように訊ねてくる。

 

 ユウキ「それじゃあ今日も六十四層でレベリングするんだね?」

 

 アルファ「あ、はい、出来ればそうしたいんだけど…」

 

 ユウキ「…残念だなぁ~…もしもアルファが頑張って最前線に出てくれたら、ご褒美があったのになぁ~」

 

 アルファ「ご、ご褒美…?どんな?」

 

 なんとか本日も最前線に出なくて済むことに安堵しながら、俺がユウキの確認に返事を返すと、ユウキは聞き捨てならない発言をしてきた。俺はそれに釣られて、思わず訊ね返してしまう。

 

 ユウキ「うん、ご褒美。どんなご褒美かは秘密だけど、きっとアルファなら…喜んでくれる…はず。…でも、最前線に出てくれないならそれは無しになっちゃうなぁ~」

 

 アルファ「…ぐ…」

 

 …なんだなんだそのシステムは!?意地でも最前線に出て最低限でもクエストをクリアしたいらしいユウキは、謎の飴と鞭システムを導入して、正体不明のご褒美によって俺の心を揺れ動かさせる作戦に出た。

 …ご褒美というぐらいなのだから、きっと俺にとって嬉しいものであるはず…ならば、少しぐらい気概を振り絞って最前線に出るべき…か?俺がひたすらに心の中で葛藤を繰り返している中、ユウキは俺の方をチラリチラリ眺めながら、ご褒美無しになっちゃうけどいいのかな~、と圧力をかけてくる。そして俺の出した答えは──

 

 アルファ「…分かった。今日は最前線のクエストをクリアしに行こうぜ」

 

 ユウキ「よしっ!それじゃあ早速最前線に行こうか!」

 

 話が纏まったことから、ユウキは勢いよくギルドホームを飛び出していく。俺はそれに呆れながらも、地獄へと足を進めて行ったのだった。

 

 

 

────────────────

 

 

 

 最前線、第六十六層。それは、俺がこの世界に来て心をへし折られた二度目の瞬間であった。俺が何故心を折られてしまったのか、それを説明するためにはまずは、その一つ前の第六十五層について説明しておく必要があるだろう。

 第六十五層は、超が付くほどのホラー系フロアであった。マップ全体は常に薄い霧に覆われていて太陽の光は薄っすらとしか届かず、視界の確保もし辛い。フィールドの大部分は主街区と迷宮区タワーさえも呑み込んでしまった巨大な古城迷宮が占めており、その他のエリアも荒廃した大地に古びた墓が広がるだけの荒んだ風景であった。

 そんなフィールドに出現するのは勿論、アンデット系のモンスターばかりだ。古城を守るフィールドボスであったガーゴイルや腐りつつある鳥型モンスター、腐蝕スライム、スケルトンナイトはまだしも、グールにゾンビ、スペクターにレイスが頻繁に登場し、夜間にはゴースト系のモンスターまで顔を出してくるのだ。

 俺はそれだけでも、毎日最前線に出るのが嫌過ぎたのだけれども、十日間ぐらいの辛抱だから頑張ろ?とユウキに励まされたので仕方なく、ここは男気を魅せるべきかと思い、何度も心身に鞭打って攻略組としての務めを果たしていたのだった。幸いにもフロアボスはフランケンシュタインみたいな奴で、それ程俺は心的ダメージを受けなかったのだが、問題はそこからだ。

 ようやく、この悪夢から解放されるのだ…やっと陽の光を浴びた健全な攻略と再会できる!と俺は途轍もない困難に打ち勝ったような爽快感と達成感を胸に、六十六層へと続く螺旋階段を登り、遂に希望溢れる六十六層へと足を踏み入れたのだ。しかしそこに広がっていた光景は、六十五層とそっくりの陰気なフィールドであった。

 瞬間的に俺は、あれ?ここは六十五層だったのか?とマップを開いて層数を確かめたのだが、やはりそこは六十六層に違いが無かった。なんと二層続けてのホラー系フロア、その事実を認識した瞬間、俺は泣きだしたい気持ちで一杯になっていた。

 俺は無言のままふらりと地面に両手をついて、また十日間ほどこの地獄が続くことを理解し、絶望したのだ。そして俺はそこから逃げ出すように、ユウキに声を掛けることさえ忘れて、転移結晶でギルドホームのある第十五層へと転移した。

 翌日からは、情けない事にも俺はユウキにお願いして、六十四層に引き籠るようになった。そこで発覚した衝撃の事実と言えば、オバケが苦手なアスナも最前線に出ることなく、その狩場に毎日足を運んでいたことだ。俺もアスナも、双方の心情を深く理解し、傷口を舐め合うように慰め合っていた。…いくら今が四季で言う夏に当たるからといっても、いくらこれまでにホラー色の濃いフロアが少なかったからといっても、二層連続で似たようなテーマを設定するのはいかがなものかと思わずにはいられない。

 そんなわけで、六十六層が解放されて以来、俺は一度もそこに足を踏み入れていなかったのだが、今日という日に再び六十六層へとやって来たのだ。昼間だというのに辺りは暗く、主街区もその暗闇に溶け込むような影色をした建物ばかりだ。その所々から放たれる黄色い光は幻想的なことに違いは無いが、今の俺にはそんな風情を楽しんでいる余裕など、当然ない。

 

 アルファ「や、やっぱり、やめとかないか?」

 

 ユウキ「ここまで来て今更何言ってるの?早くクエスト終わらしちゃおうよ」

 

 アルファ「今の俺には、ユウキが地獄へと誘う悪魔に見えるぜ…」

 

 ユウキ「それじゃあ、いつものボクは天使に見えてるってことなんだ」

 

 軽いジョークも程々に、怖気づく俺の手を引っ張りながら、ユウキはドシドシと重要なクエストがあるらしい場所まで案内してくれる。俺は途端に鉛のように重くなった足を無理矢理動かしながら、ユウキの後に付いて行った。

 その道中のユウキの説明によると、この層でクリアしておきたい最低限のクエストは9個のようで、そのどれもが連続クエストではなく、単発クエストらしい。連続クエストとなると連日六十六層へと足を運ばねばらな無かったが、単発物なら、普通のペースでこなしていければ、今日の昼間には終わるはずである。

 クエストの配分は、主街区に三つ、隣町で二つ、次の村で一つ、そして迷宮区タワー最寄りの街で三つとなっているとのことだ。なので俺達は、まずは主街区で受けられるクエストをクリアしに向かった。クエストの一つ目は、街で迷子になった息子を探してきて欲しい、という捜索系クエスト。二つ目は、街の北区エリアで落としてしまったネックレスを探してきて欲しいという拾い物系クエスト、そして三つ目は南区の何番地に住んでいるおばさんから預かったアイテムを、隣町まで届けてほしいというお使い系クエストだった。

 俺のせいで、この街を訪れるのが二回目だったこともあり、この手のクエストには苦労するかと思われたが、有難いことに、ユウキが事前に情報収集しててくれたようで、難なくそれら三つのクエストを消化することが出来た。

 十五分ほどフィールドを移動して、隣町に到着した俺達は主街区で受けたお使いクエストをクリアしてから、更に二つのクエストを受託する。一つ目はフィールドに出現するグールとアンデットを十体ずつ葬り、その魂を浄化して欲しいという教会からのスローター系クエストで、二つ目がゾンビたちからドロップする腐肉を提供して欲しいという怪しげな魔術師風の男からの収集系クエストであった。

 

 アルファ「…遂にフィールドでモンスター狩りか…はぁ~…」

 

 ユウキ「でもここのクエストクリアしたら、ご褒美まであと半分だよ?」

 

 アルファ「だったらここでクエストを切り上げて、頑張った分だけご褒美ってのは?」

 

 ユウキ「そんなズルいことは認めないからね!」

 

 教会でそれぞれの武器を祝福してもらいながら、俺がため息を吐いて妥協案を提示するも、それは呆気なくユウキに却下されてしまった。

 魔法要素が排斥されてしまったSAOの世界において教会とは、こうして武器に祝福してもらい神聖属性を付与することで、アンデット系のモンスターに対する特攻効果を発揮すること出来るだけでなく、アンデット系のモンスターやバジリスクなどの一部のモンスターが使用してくる特殊攻撃<呪い>の解除を担っていたリ、更には教会に一定金額寄付することで、二階の小部屋を宿屋として利用できるようになったりと、それなりに重要な施設として存在している。

 祝福が完了すると、俺達はいざフィールドへと出向いた。薄い霧が立ち込める荒野の中で、のっしりとした足音が前方から二つほど、視界の右側には盛り上がる地面が一つ、そこからは地を突き破るように、病的な腕が一本伸びてきている。

 こちらに気が付いたのか、俺達目掛けて走り込んでくる前方のグールに背筋を凍らせながらも、俺とユウキはそれぞれの遠距離攻撃手段でその動きを牽制した。グールたちの動きが鈍った隙に、俺は近くに迫って来ていたゾンビの身体を両手剣で力強く一閃する。別にゾンビから攻撃を貰ったとしても、それで自分もゾンビに感染してしまうわけではないのだが、本能的にゾンビには近寄られたくないのだ。

 俺とユウキは上手く三体のモンスター達を誘導し、一か所に固まらせた。そしてそのタイミングで俺が、両手剣最上位スキル<ネオ・エスペランサ>の驚異の七連撃を叩き込む。大地を抉るような振り回しで相手の足を奪ってから、斬り上げ斬り下げ左右に二閃三閃斬り返し、とどめに大きく剣を突き出し、一気に三体撃破する。このスキルは両手剣の破壊力と攻撃範囲の広範さを活かした最高の技ではあるが、その分技後硬直時間も長めに設定されている。しかし、その間俺の背中を守ってくれる人が居るわけで、こうして俺は惜しみなく大技を発動させられるのだ、

 それから俺達は、クエストを達成する為にフィールドで狩りを続けた。暫くの時間を掛けて無事にクエストをクリアし、今は次の村に行くまでに適当な店で腹ごしらえをしている。

 

 ユウキ「随分とげんなりしちゃったね」

 

 アルファ「誰のせいだと思ってるんだ」

 

 ユウキ「ご褒美に釣られたアルファ自身のせいじゃないの?」

 

 アルファ「…全くその通りだ。そして思ったよりも精神負荷が辛い」

 

 俺達がそんな会話をしながら啜っている食べ物は、刻み卵やキュウリなどが添えられている、麵に絡むように甘辛いタレがぶっかけられた冷やし中華みたいな料理だ。しかし実際には、麺は中華麺ではなく、そうめんみたいな感じの麵であり、どこかボリューム感に欠けるような商品となっていた。ユウキは一度麺を啜ってから、俺に問い掛けてくる。

 

 ユウキ「…そう言えば、中華麺ってどうやって作るのか、知らない?普通に小麦を練っただけだと、うどんとかと一緒になっちゃうんだよね…」

 

 アルファ「確か…かん水ってのを加えれば、中華麺みたいに黄色くなった気が…でも、俺も肝心のかん水が何なのかは知らないんだけどな」

 

 ユウキ「それじゃあボクのラーメン作りはまだまだ先になりそうかな。これからも毒味役よろしく頼んだよ」

 

 アルファ「自分で毒味って言ったらもうアウトだろそれは…ってか、ご褒美ってユウキがなんか作ってくれるんじゃねぇの?」

 

 ユウキ「それよりももっと素晴らしいご褒美だよ。だから、残りのクエストも気合い入れて頑張ってこー!」

 

 アルファ「おお~…」

 

 残るクエストも四つと、折り返し地点を越えたことからかユウキは元気よく俺を鼓舞してくれる。だが、完全に先程のゾンビ狩りで精神的に参っていた俺はやるせない返事を返すばかりだった。

 この世界で生活を始めて以来、アンデット系のモンスターには慣れてきたと思っていたが、それは俺の単なる思い込みに過ぎなかったらしい。奴らに対して拒絶反応がなくなったわけでもないし、何よりも襲い掛かられるのが本当にキツイ。

 そんな俺の心の内などユウキは露知らず、俺的にはまぁまぁだったNPCレストランを後にして、次の村へと向かって行った。その村での受託できたクエストは、次の目的地であった迷宮区タワー最寄りの街まで、商いを生業としている男を護衛することで、男のペースに合わせながら、なんなくに護衛の仕事を達成した。

 そして最後の街では、レイスの討伐という俺が最も嫌いなモンスターとの戦闘を余儀なくされたり、お使い系のクエストかと思ったら最後の最期でスペクターがサプライズ登場し、俺が思わず大声を上げてしまったり、ガイコツの骨を集めさせられたりと、俺の心身を更に疲労させたことに疑いはないだろう。しかしユウキの選んでくれたクエストでは、当分は替えの効かなそうな素材アイテムやレアな強化素材、今まで使っていたランタンよりも扱いやすい上位互換品を入手出来たりと、実入りがしっかりあったのも事実ではある。

 全てのクエストを終えた俺は、掠れた声でユウキに感謝を伝えつつも、その手に転移結晶を握る。

 

 アルファ「…ユウキ、必要最低限のクエストだけで勘弁してくれてマジでサンキューな…。俺はもうフィールドに出たくないんだけど、よかったら…と言うか頼むから転移結晶で帰らないか?」

 

 ユウキ「…そんなにオバケ嫌いなんだ…でもなんでそんなにオバケが苦手なの?確かにいきなり出てきたりしたらビックリするけど、別にそこまで恐怖を感じることは無いんじゃないのかな」

 

 アルファ「……昔、見たことがある。グール系は生理的に無理。これだけ言っておこう」

 

 ユウキ「へぇ…それはぞっとする話だね。でも、もしほんとにオバケがいるなら、ボクもオバケに会ってみたいな。…まぁ、もう十五時だし転移結晶で一旦帰ろうか」

 

 アルファ「本当にありがとうございます。んじゃ、さっさとこんな場所はおさらばしようぜ」

 

 無事に転移結晶を使っても良いという許可を得た俺は、ユウキと共にギルドホームがある十五層へと転移結晶によるテレポートで移動していったのだった。

 先程までの霧で覆われた世界とは違って、気持ちが良い日の光を差し込ませている十五層の主街区に降り立った俺は、生きた心地を実感しながら、深くため息をついて、大きく背伸びしていた。ユウキも同じように身体をほぐしながら、俺に問い掛けてくる。

 

 ユウキ「それじゃあご褒美タイムにしよっか?」

 

 アルファ「あぁ…そう言えばそうだったな。それで、どんなご褒美なんだ?」

 

 ユウキ「それは辿り着いてからのお楽しみだよ」

 

 ユウキはこの期に及んで俺を焦らしながら、笑顔でそう返事をしてきた。そしてそのままユウキが何の突拍子もなく第七層に転移していくので、俺も慌ててその後を追う。第七層に来るのは、凡そ一年半ぶりぐらいだ。主街区に降り立つも、そこは閑散としていた。

 …まぁ、この層のメインとなっているのは、ここ主街区ではなくフィールドの先にある、カジノ併設のウォルプータなのだから、当然と言えば当然か。ユウキは迷うことなく主街区を出て、追い風の道を選んだ。

 

 アルファ「懐かしいな。俺達、ここでしょうもない喧嘩したんだっけ」

 

 ユウキ「…そうだね。向かい風の道か追い風の道のどっちを選ぶかで、アルファと初めて喧嘩したんだよ。因みに今回はウォルプータに行きたいから選ぶルートは追い風なんだけど、別にイイよね?」

 

 アルファ「おう、好きにしてくれ」

 

 あれからユウキとは一年以上一緒にやってきたわけだけど、結局あれ程大喧嘩したのはこの一回が最初で最後だった。もし今後ユウキと喧嘩することがあれば、今度はどれほどの大喧嘩となるのだろうか。それこそ剣で斬りつけ合う、現実世界なら御法度もいい所の大喧嘩になる気がする。…まぁ、そんなことは起きないに越したことは無いのだけれど。

 俺達は駆け足にフィールドを進み、以前とは比べ物にならないほどの速さで、己のステータスの成長を実感しながらウォルプータの街に到着した。道中に一度だけヤリカブトなる昆虫系モンスターとエンカウントしたが、その堅い甲殻を無視して真っ二つに一撃粉砕した際の爽快感といったら、それは最高であった。

 

 アルファ「…なぁ、そろそろご褒美が何なのか、教えてくれよ」

 

 ユウキ「もうちょっとで分かるだろうから、我慢して欲しいな」

 

 愉快そうに笑いながら、俺の隣で街を歩いているユウキを眺めて、俺はご褒美が何ぞや、ということを思案し始めた。

 …ウォルプータということは、ここは高級料理店もあるわけだし、その中のどれか一つを奢ってくれたりするのだろうか。それとも、カジノで散財しまくることで俺の満足感を誘おうとしているのだろうか。はたまた、俺の知らない何かを以前ユウキが単独行動していたこの街で見つけ出したのだろうか。俺が色々なパターンを吟味していると、ユウキが突然俺の手を引いて、カジノまで真っすぐに向かっていたその歩みを左九十度に方向転換し、駆け出した。

 

 ユウキ「アスナー!キリトー!久しぶり~!!」

 

 ユウキが一人大きな声でそう言うもんだから、俺は思わずユウキと同じ方向を見上げてしまう。するとそこには、最前線から遥か離れたエリアであるというのに、純白の階段の先に佇むキリトとアスナが俺の視界に入って来た。

 俺は状況がイマイチ掴めないまま、AGIとSTRを駆使して何段も階段を飛ばしながらアスナ達の方へと進んでいくユウキを追うように、階段を駆け上がって行った。階段を登った先には、少し高めの城壁と、外へと通じているであろう巨大な門。そしてその門を守るように衛兵が二人立ちふさがっていた。

 

 キリト「…まったく、俺も暇じゃないんだぞ。アルファとユウキの為にここまで来てやったことに感謝してくれよな」

 

 アルファ「…はい?俺達の為…?」

 

 キリト「…ん?アルファは何も聞かされていないのか?」

 

 アルファ「…まぁ、ユウキからご褒美が貰えるとしか…」

 

 キリト「なるほどなぁ…」

 

 キリトに愚痴を垂れ流されて、何のことだか全く身に覚えのなかった俺は、疑問符を浮かべながらキリトに事情を話すと、何やら彼は心得たような表情を浮かべてきた。キリトとアスナがついて来い、と言わんばかりに俺達を先導して、門番の方へと向かって行く。

 …この先には何があっただろうか?…確か、この街に来たときは、何かが原因で入れなかったはずなんだが…ん~、思い出せねぇな。そして、重々しく閉ざされた扉の先で俺の瞳に映ったものは、青い海と白い砂浜であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回の投稿日は、20日の土曜日となります。

 では、また第80話でお会いしましょう!
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