~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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第80話 夏の風物詩 後編

 ユウキ「お邪魔しまーす!」

 

 アスナ「ちょっと散らかってるかもだけど、ごめんね~」

 

 第六十一層主街区セルムブルグのメインストリートを抜けて、向かって東に曲がるとすぐそこに、アスナの住まいはあった。アスナの住まいはメゾネットの三階部分にあるようで、階段を登った先のドアを開けて、ボクはアスナと共にお部屋にお邪魔させてもらう。

 ボクの目の前に広がった光景は、それはもう女の子らしいインテリとオシャレな内装で溢れたお部屋だった。呆ける僕の背中を押すようにアスナが部屋を手短に案内し、ボクを適当な椅子に腰かけさせた。アスナがハーブティーとクッキーを運んできてくれたので、有難くそれを頂きながら、ボクは呟く。

 

 ユウキ「…ボクも、もう少し女の子らしい部屋にした方がいいのかな…」

 

 アスナ「内装に拘るのもいいけど、すっごいコルの支出になるから、程々にしといた方がいいかもだよ」

 

 ユウキ「どれぐらいかかってるの?」

 

 アスナ「ん~…家と合わせて四百万コルぐらい…」

 

 ユウキ「ア、アハハ…全装備オーダーメイド品にしても余るぐらいなんだ…」

 

 アスナの口から放たれた驚くべき大金に、ボクは掠れた笑い声を上げながら、自分の装備を全て更新したとしてもまだ二百万コルも残っているではないか、と身も蓋もない感想を抱く。…こういう所が、ボクが女の子らしくない理由の一つなのだろうか。

 アスナが焼き上げたクッキーは自分で作るのよりも美味しい気がして、まだアスナに料理の腕が追い付かないんだ…と熟練度だけではない技量的な面でアスナに劣っていることを理解する。ボクも負けてられないや、と心の中で闘志を燃やしつつも、ボクはアスナに話題を呈示した。

 

 ユウキ「それで、最近キリトとはどうなの?」

 

 アスナ「え~、いきなりその話から入るの~?」

 

 ユウキ「だってこれがメインみたいなもんじゃん!」

 

 アスナ「う~…」

 

 因みにだが、本日ボクは初めてアスナのお家にお邪魔させてもらっている。いつもならリズベットも合わせた三人で何処か喫茶店で話に花を咲かせているのだが、リズベットは今日はオーダーメイド品の注文に追われているらしく、この女子会に出席できていない。

 なので、せっかくだし私の部屋においでよ、とアスナが言ってくれたこともあり、ボクはそれに甘えさせてもらったというわけだ。アスナは恥ずかしそうに口をとがらせてから、ため息交じりに、最近のキリトとの関係を話し始めた。

 

 アスナ「最後にキリト君と二人で会ったのは、たまたまリズのお店で出くわした時に、無理矢理私がご飯に誘った時かな…その時も何もなかったし、それ以来は攻略会議とかで顔を合わせるぐらいで…やっぱり私もフロア的に最近前線に出たくないし…」

 

 ユウキ「あ~、確かに今はホラー系だからね…アスナもアルファと一緒だから、あんまり前線には出たくないもんね」

 

 アスナ「うん。流石に二層連続でホラー系だとは思わなかったかな…レベリングはいつもの場所でいいけど、ギルメンに言い訳するのが大変だよ~」

 

 ユウキ「…そう言えば、アルファも何かと理由を付けてボクが最前線に出よう、って言うのを阻止してくるけど…せめてクエストぐらいはクリアしておきたいんだよね…何か、アルファが前線に出るようになるいい案はないかな?」

 

 アスナ「う~ん…わたしもアルファ君の気持ちが痛いほど分かるし…やっぱり難しいんじゃないかな…」

 

 ユウキ「そっか~…」

 

 アスナとキリトの話をしていたはずなのに、いつの間にかアルファを如何にして最前線に引きずり出すか、という話に移行してしまっていた。しかし、女子会をしているボクらの間では、話が脱線することは往々にしてあることなのだ。アスナが暫く考え込んでいる様子を眺めながら、ボクはパクパクとクッキーを頬張っていると、アスナが何か思いついたように呟く。

 

 アスナ「……ユウキがアルファ君を何か報酬で動かすって言うのはどうかしら?」

 

 ユウキ「…報酬かぁ…でもアルファって今何が欲しいんだろ…」

 

 アスナ「……サマーバケーション」

 

 ユウキ「ん…?」

 

 アスナ「そうよ!サマーバケーションを報酬に、アルファ君をおびき出せばいいのよ!!」

 

 ユウキ「…ど、どういうこと…?」

 

 アスナは名案を思い付いたのか、ボクに迫るようにして食い気味にそう答えたのだが、ボクにはその意味がよく分からなかった。…サマーバケーション?攻略をサボって夏休みを作るってことかな?ボクがそんな風に考えていると、アスナはその壮大なる計画を話してくれる。

 

 アスナ「ホラー系のフロアを頑張った報酬に、海で水着姿のユウキと水遊び…アルファ君にとってはこれ以上に無い程の報酬よ!!」

 

 ユウキ「…そうかなぁ~…」

 

 アスナ「そうに決まってるじゃない!」

 

 ユウキ「…でも、海のある層はここと三十六層ぐらいだし…それにここは泳げないでしょ?三十六層は泳げるけど、圏外だから遊んではいられないよ?」

 

 アスナ「七層のウォルプータはどうかな?」

 

 ユウキ「それでもあそこは、カジノで三百万コル分のコインと引き換えに、ビーチに入れるようになる、ってシステムだよね?流石に二人合わせて六百万コルも準備するのは、いくらボクでも無理だよ…」

 

 確かに、アスナの言う通り、アルファとウォルプータのビーチで遊ぶことで、ボクの新たな魅力に気が付けるかもしれないし、水着姿で登場するボクを見てアルファがどんな反応をするのかも気になるし、そして何よりもアルファとビーチで遊ぶのが凄く楽しそうだけれど、残念ながら、六百万コルはそう簡単に出せるものではない。

 …アスナはどれだけコル持ちなんだろうか、と金銭感覚の齟齬に衝撃を受けていると、どうやらそういう訳ではなかったようだ。アスナは微笑みながら言葉を告げる。

 

 アスナ「大丈夫よ。私とキリト君がいれば、あそこのビーチは出入り自由だから」

 

 ユウキ「へぇ、そうなんだ。…あ!そういうことか~。ボク達を出汁にして、リズが言ってた水着でキリト悩殺作戦決行するつもりなんでしょ~?」

 

 アスナ「べ、別にそういうわけじゃないけど…まぁ、チャンスぐらいはあってもいいじゃないかなって…」

 

 ユウキ「うんうん!ボクも応援するからね!その作戦で行こ!」

 

 アスナ「う、うわぁ!?…ユウキ~ありがと~!」

 

 前回の女子会の中で、リズベットがキリトを堕としてしまう手段の一つとして、その素晴らしいナイスバディを駆使してキリトをメロメロにしてしまえばいい、と豪語していたのを、アスナはかなり真面目に検討していたのだろう。

 ボクがアスナを茶化してみると、アスナは照れ隠しをするように目線を逸らしながら答えた。そんなアスナを見ているとボクの母性本能が刺激されて、思わず席を立ってアスナに抱き着いてしまう。それからボク達は気を取り直して、キリトの都合のいい日に、ボクとアルファの為、という名目でキリトを誘い出すことに決定し、アスナがキリトとメッセージを送信してから、ボク達は肝心のことを始めた。

 

 アスナ「わたしの水着はともかく…ユウキの水着はどんなのにするの?前作ったのは即興だったから、今回はアルファ君に魅せ付けるためにもしっかりと考えないとね」

 

 ユウキ「…ボクは…どうしたらいいんだろ…?」

 

 アスナ「それじゃあデザインは私が考える、ユウキに似合うデザインで作ってみよっか。色は何がいい?」

 

 ユウキ「…薄い紫色がいいかな」

 

 アスナ「りょーかいよ」

 

 私服デートをした時に、アルファがユウキって紫色めっちゃ似合うんだな、と褒めてくれたことを思い出して、ボクは紫色を選んだ。アスナが引き出し収納型ストレージから、注文通りのオーキッド色をした布と血盟騎士団のロゴマークのような赤色、そして半透明の白色の布を取り出した。その三つの布を見やりながら、アスナは顎に手を当てて思案している。そして、考えが纏まったのか、裁ちばさみを手に持って布を切り、裁縫針で布を組み合わせていった。

 そして出来上がったのはオーキッド色のビキニを半透明の白いフリルとスカートで覆った、ボクみたいなぺたぺたのお胸を持った女の子でも可愛く着こなせる水着であった。同じく赤い布をベースに作り上げたアスナの水着は、ボクのフリルビキニよりも若干胸部を露出できるように設計されている。

 

 アスナ「はい、完成~。私とユウキの水着、お揃いにしてみたんだけど、どう?」

 

 ユウキ「最高だよ!ありがとね、アスナ!…それに、お揃いって言っときながら、ちゃっかり自分だけ大人っぽいデザインにしてるんだね~」

 

 アスナ「う~…そんな眼で見ないでよ!私はユウキと違ってお胸があるんです!」

 

 ユウキ「あ!言ったな!ボク怒っちゃうぞ!」

 

 アスナ「ユウキは怒ったって可愛いだけだよ~」

 

 ポカポカとアスナの身体を叩き付けるボクに対して、アスナはそれを笑って受け止めていた。そうこうしているうちに、キリトから明後日なら空いている、とのメッセージが返って来たらしく、アスナはそのメッセージを見て嬉しそうに返事をしている。そうして、ボク達は明後日に作戦を決行することに決めて、その日の女子会を終えたのだった。

 

 

 そして来るべき二日後の今日、ボクは予定通りアルファを最前線に連れ出して、その報奨と称してビーチにまでやって来ることが出来た。キリトは不思議そうにしているアルファを見て、何処か納得がいったような表情を浮かべていたが、彼自身もまた、その対象であることには気が付けていないようだ。

 アスナとキリトの持つ謎の権力を利用して、本来ならその権利を持たないはずのボクとアルファも門をくぐり、白砂青松の美しい光景をその目に焼き付けた…とはいっても、ここのビーチには松林が生えているわけではないので、いうなれば白砂青海といったところだろうか。

 

 アスナ「それじゃあ、更衣室で着替えよっか。ちゃんとキリト君とアルファ君の水着も作ってきてあげたから」

 

 キリト「え?俺達もビーチで過ごすのか?」

 

 アスナ「当たり前でしょ?ユウキとアルファ君を置いて行ったらここを出るときにどうするのよ。それに、前は陽の光を浴びれなかったわけだし、今回は陽の下でバケーションってのもいいんじゃない?」

 

 キリト「…まぁ、確かにそれもそうだな。今日はもう、ゆっくりするか」

 

 キリトの説得にも成功し、アスナと彼らに見えないように後ろを向いて控えめにハイタッチをしておく。アルファはようやくご褒美が何か、ということを理解したようで、その表情からは何だかワクワクというような抑えきれないテンションの上がりようが見えた。

 ボクはそれを面白く思いつつも、更衣室に入り、アスナが手掛けてくれた水着をその身に纏う。…やっぱり、アスナにはそのボディ的魅力は及ばないが、だったらボクは別のところで勝負するのだと、気合いを入れ直す。

 

 ユウキ「…ドキドキするなぁ…」

 

 アスナ「大丈夫大丈夫。ちゃんと似合ってるから、アルファ君もイチコロに決まってるよ!」

 

 今からアルファに魅せる姿は、一カ月ほど前の受動的な水着の披露ではなく、積極的にアルファを堕とすために身に付けた…言わば勝負水着というわけだ。今更ちょっとした不安感に襲われ始めたボクの背中をアスナに押されて出て行く。

 さぁ、アルファはどんな反応を見せてくれるのか。ワクワクドキドキ高鳴る心臓に掌を添えながら、ボクは意を決して更衣室から一歩踏み出した。すると、目の前にアルファ達はおらず、代わりに更衣室から少し離れたところで、カニみたいな生き物を捕まえて遊んでいるアルファとキリトがいた。

 

 アルファ「キリト、コイツに挟まれてみてくれ」

 

 キリト「嫌に決まってるだろ。…ただ、美味しそうではあるよな」

 

 ユウキ&アスナ「……」

 

 …ボク達の水着姿よりもカニとの戯れを優先するだなんて、完全にボクらのことを馬鹿にしているに違いない。呆れ三割怒り六割、そして、ボクもカニと遊んでみたいという子供っぽい心が一割の中、ボクとアスナは彼らに歩み寄って行った。

 ボク達の足音と陰に気が付いたのか、二人同時に視線をボク達に向けてくる。たっぷり十秒、いや、二十秒ぐらいアルファはボクを、キリトは一瞬ボクを見るもすぐにアスナの姿を見続けた。アルファがアスナのナイスバディではなく、ボクだけを注視してくれていたことに若干の嬉しさを感じていると、彼らは二人顔を見合わせて口を開いた。

 

 アルファ「……キリト、遠泳でもしないか?そう言えばどっちが速く泳げるかの勝負、お預けだったろ?」

 

 キリト「あぁ!もちろんだ!俺の方が速いってこと証明してやる──」

 

 二人が肩をグルグル回しながら海へと入って行こうとする。しかしそれを阻止したのは、当然ボクとアスナだ。ボクはアルファの腕を、アスナはキリトの腕を掴んで、真剣な表情で問い掛ける。

 

 ユウキ&アスナ「ボク(わたし)の水着姿を見た感想は?」

 

 彼らは一瞬、ボク達の尋常ではない気迫に気圧されつつも、どうにもこうにもこの質問から逃れられないことを悟ったのか、まずはアルファが、そしてキリトも答えを口に出した。

 

 アルファ「…いや、すっげぇ似合ってるぜ?だけど…その、普段と違って露出度が高いから…こう、目のやり場に困るというか…」

 

 キリト「…うん。アスナも凄い綺麗だな。あとはアルファの意見に以下同文だ」

 

 アスナ「っ!…そう言うのはね、最初に言いなさいって前にも教えたじゃない!!」

 

 キリトの真っすぐな回答に顔を真っ赤にさせたアスナは、プイっとそっぽを向いてしまった。因みにボクは、アルファに褒めてもらえたことが嬉しくて、たぶん赤面している。

 だけどボクは、アスナよりももう一歩踏み出して、アルファの前に歩み寄った。アルファは未だに視線を泳がせているが、その視線をボクの瞳だけに固定させるように、アルファの顔に両手を添えて、言葉を伝えた。

 

 ユウキ「褒めてくれてありがと。ボク嬉しいよ」

 

 アルファ「」バタンッ

 

 ユウキ「あ、アルファ!?」

 

 ボクは今自分が抱いている途方もないほどの嬉しさを伝えたくてこの行動を取ったのだが、何故かアルファは無言のまま倒れ込んでしまった。キリトもアスナも何故かボク達の様子を眺めるばかりで、特に何のアクションも起こさない。ボクが慌ててアルファの傍にしゃがんで彼の身体を揺さぶると、彼はしゃがれ声で答える。

 

 アルファ「…ちょ、ちょっとタンマ、一回深呼吸させてくれ」

 

 ユウキ「う、うん」

 

 すーぅ、はぁ~と大きく息を吸い込んでは、それを深く吐き出す動作を三度ぐらい繰り返してから、アルファは再びボクの方を見やり、もう大丈夫だ、と答えてくれた。それからアルファは、ボクから目線を逸らしたりすることは無くなり、普段通りのアルファに復帰していた。…どうしたのかな?と未だにアルファが倒れた理由が理解できないまま、ボクはビーチでの一夏を楽しみ始めたのだった。

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 美しいビーチに辿り着いて、アスナが俺に海パンを差し出してきた瞬間に、俺はユウキが与えてくれるご褒美が何なのかを、直感的且つ本能的に悟った。しかし、いくらユウキの水着姿が気になるとは言っても、確実に可愛いのだとしても、馬鹿正直にユウキの水着姿を期待している阿呆な姿を見せる気にはなれなかったため、恐らく俺と同じような心境であろうキリトと、カニさんを捕まえることで気を紛らわせていたのだ。

 だが、やはり彼女たちが俺達のことをそう容易く見逃してくれるはずの無く。沖へと逃げ出そうとしていた俺達は見事彼女たちに捕まってしまったのだ。なので仕方なく…と言うかようやく合法的に、俺はユウキの水着姿を拝んだのだが、それはもう兎に角ヤバすぎた。この前温泉で見てしまったユウキの水着はワンピースであり、普段と違う点と言えば太もものラインが見えているぐらいで、色気よりも食い気…ではなくキュートさが全面に出ているだけだったのだ。

 一方で、今日ユウキが身に付けていた水着は、ビキニに可愛らしさを付与したようなもので、太もも以外にもお腹周りとか控えめな胸元とか…普段は見ようにも見られないユウキの隠し持っていた色気が溢れ出ていて、俺はそれだけで既に悩殺されかけていた。しかしそんなノックアウト寸前であった俺に追い打ちをかけるように、彼女は俺の顔の至近距離で、照れ恥ずかしそうな顔をしながら、囁いてきたわけだ。そんなことをされれば俺はもう完全にユウキに魅了されたわけで、得も言われぬ気持ちを抑えるのに深呼吸をしなければならない程であった。

 そして俺は今、一度頭を冷やすために、キリトと遠泳大会を開いていたのだ。

 

 キリト「くそ…まさか水泳にはSTRにより多く振っている方が有利だったとは…」

 

 アルファ「違うぞ。これはあくまでも実力だ」

 

 悔しそうに大海原で浮かんでいるキリトに対して、俺は同じく空を眺めながらそう言い返しておく。恐らくだが、STR値の高さに比例して、水をかき分ける際に発生する水中抵抗が軽減されるのだろう。それ故に両手剣使いである俺は、一応片手剣使いであるキリトよりはSTR多めのステータス配分となっているため、今回の遠泳大会に勝利したというわけだ。

 因みに、遠泳大会を始める前に、俺、ユウキ、アスナはキリトから海の上で浮かぶ方法を伝授してもらっていた。ユウキとアスナは、今は砂浜に近い場所でプカプカと浮かび、遊んでいる。幸いにも、この海は何処まで行っても圏内として扱われており、海の底から手が伸びてきて、足を引っ張られる、だなんて心霊現象や水中モンスターに襲われたりすることは無い。

 俺とキリトはこの海が何処まで続いているのだろうかということが気になり、最果てを目指して泳ぎ続けたのだが、その途中にシステム的障壁が発動して、それ以上先へと進めなくなってしまった。…まぁ、確かに世界の果てまで泳げてしまったら、気づけばアインクラッドの世界から投げ出されて、転落死によるゲームオーバーだなんてことにもなりかねない。

 俺達はゆっくりと背泳ぎの真似事で浅瀬へと戻っていくと、ユウキとアスナが浜辺で手招きしてくる。俺達は何だろうとそちらへ近づき、訊ねた。

 

 キリト「どうしたんだ?」

 

 アスナ「あのね、今からスイカ割りでもしようかな~、って思ったんだけど、この世界じゃスイカがあったとしても、それを割っちゃったら。耐久値の関係でスイカ丸ごと消えちゃうじゃない?」

 

 キリト「確かになぁ、まさかそんな所にSAOの不便さが隠れていたとは…」

 

 ユウキ「だから、スイカ割りは止めておいて、ビーチバレーでもしようよ!って話になったんだけど…」

 

 アルファ「ボールもなければネットもない、と」

 

 ユウキ「あ、ボールはちゃんと持参してきたよ!」

 

 アルファ「用意周到だなおい」

 

 ユウキがストレージからソフトなボールを取り出したのを見て、俺は思わずツッコミを入れてしまう。辺りの様子は見渡す限りの白い砂浜で、何処かにビーチバレー用のコートがあるとは思えない。いやしかしネットなんて無くてもビーチバレーは出来るのではないかと、そういう結論に至った俺達は足でコートの線を引いて、それぞれの頭の中でネットを思い浮かべて、試合を開始することにした。チームは俺とユウキ、キリトとアスナの配分である。

 

 キリト「行くぞ!」

 

 キリトが気合十分でトスを上げ、サーブを放った。それを拾ったユウキのボールを、俺がセッターの役割を果たし、ユウキにアタックしてもらう。ユウキのアタックは相手コートの右奥に鋭く飛んで行ったのだが、閃光という異名に恥じない素早い動きでアスナがそのボールを拾った。そこからキリトがボールの軌道を安定させ、速攻の要領で再びアスナが俺達のコートにボールを打ち返してきたのだが、俺も負けじとボールを拾い返す。

 ユウキが挙げてくれた完璧なトスを、俺は右に体を引っ張るようなフェイクを交えながら、腕だけは流して左側にボールを叩き付ける。見事俺の策に嵌ったキリトとアスナは反応が遅れ、ボールに手が届かなかった。ポイントを獲得したことでハイタッチをしてる俺達に対して、アスナがいちゃもんを付けてくる。

 

 アスナ「ちょっと、今のネットよりも低い弾道だったんじゃないの?」

 

 アルファ「いやいや、今のはちゃんとネットを越えてたぜ?悔しいなら俺達に勝ってみろよ~」

 

 アスナ「…キリト君、絶対に勝つわよ…ッ!」

 

 俺がアスナをほれほれ、と煽ってやると、アスナは闘争心を剥き出しにした。それからは両チーム一歩も譲らない戦いが続き、結局は一点差で俺達の勝利となった。アスナの頭脳プレーとキリトの超絶反応速度が恐ろしいコンビネーションを生み出していたが、俺の駆け引きとユウキの超絶反応速度がその上を行ったのだ。

 ビーチバレー勝者特権ということで、彼らに適当な出店で小腹を満たす何かを買ってきてもらうことにして、俺達は二人、陽が傾き始めた海を眺めていた。そんな中ユウキが、思いがけない発言をする。

 

 ユウキ「ねぇ…アルファのSTRなら、ボクをおんぶして泳いだりできないの?」

 

 アルファ「…さぁ?試してみるか?」

 

 ユウキ「うん」

 

 ユウキにそう言われたので俺は、背中にユウキを背負って海へと身体を進めた。思いの外、俺のバタ足で二人分が浮かび上がることに成功し、俺はユウキをおぶりながら、まるで竜宮城に向かう浦島太郎と亀のように海を泳いでいく。

 

 ユウキ「重くない?」

 

 アルファ「羽のように軽い…とは言えねぇな」

 

 ユウキ「そこは素直に羽のように軽いって言って欲しいんだけどね」

 

 アルファ「よし、そろそろUターンするか」

 

 ユウキ「なぅ!?アルファ!?」

 

 ユウキが呆れながら俺に返事を返してきた。そこで俺は不意に、身体を反転させて背中に捕まっていたユウキを抱きかかえる。ユウキは俺の突然の行動にビックリしているようだが、俺はユウキをお姫様抱っこしたまま、お構いなしに今度は砂浜へと戻って行った。海から上がって砂浜を歩きながらも、俺はユウキを抱きかかえ続けた。いつの間にか俺の首に腕を回していたユウキを優しく下ろし、答える。

 

 アルファ「羽のようには軽くないけど、いつでもユウキを誘拐できるぐらいには軽いな」

 

 ユウキ「アハハ!なにそれ~全然カッコ良くないよ~」

 

 アルファ「べ、別にカッコつけようと思ったわけじゃ…」

 

 キリト「お~いお二人さん!買って来たぞ~!」

 

 なんかカッコイイ言葉を探してみたけれど、俺の少ない記憶メモリーの中からは特に何も引きだすことが出来なくて、結局ユウキに笑われる嵌めになってしまった。そんな調子でいると、キリトとアスナがビーチに戻って来る。

 …俺達と同じように、キリトとアスナも二人きりでいる間に甘い時間を過ごしたりしたのだろうか。キリトとアスナの仲に進展があればそれでいいんだけど…。そんな俺の気持ちなど気にしない様子でキリトが渡してくれたのは、ハンバーガー程の大きさのある大きなパン生地の食べ物だった。俺はそれにかぶり付いてみると、中からカスタードのような甘いクリームが溢れ出してきた。それぞれ三人共中身が違ったようでユウキはチョコ、キリトは餡子でアスナはホイップクリームみたいなものだ。そして、アスナは何を思ったのか、キリトに声を掛ける。

 

 アスナ「…キリト君、それ一口くれない?」

 

 キリト「あぁ、いいぞ」

 

 キリトから許可を得たアスナは、控えめにキリトのアンパンモドキにかぶり付いた。うん、美味しい、との感想を残し、代わりにアスナも自分の菓子パンをキリトに一口分け与えていた。俺はその様子を眺めて、ついつい耐え切れずニヤニヤ顔を抑えられないまま口を挟んでしまう。

 

 アルファ「お前ら間接キスじゃねぇの?お熱いね~?」

 

 キリト「なッ!?」

 

 アスナ「っ!?アルファ君!?」

 

 俺が二人を揶揄ってみると、案の定キリトとアスナは顔を真っ赤にしてしまった。二人はお互いに違うのだと、意味の分からない言い訳を重ねていたが、俺はその様子がつつましくて、何だか保護者的な気持ちで二人の様子を眺めていた。そんな中、ユウキが俺の腕をツンツンしてくる。

 

 ユウキ「…ボクもカスタードのやつ食べてみたいな…?」

 

 アルファ「…へ?」

 

 ユウキは俺の右手の中に握られていた菓子パンをヒョイと取り上げると、そのまま一口かぶり付いてしまった。俺は思考停止状態でそれ見つめていると、ユウキはお返しだと言わんばかりに自分の菓子パンを俺に差し出してくる。俺は徐にそれを受け取ったはいいものの、さてどうしたものかと硬直していた。

 

 ユウキ「…早く食べてよ」

 

 アルファ「いやぁ…でも、間接キスになるって分かってた上で食べるっていうのはなんか…恥ずかしいだろ?」

 

 ユウキ「アルファはボクと間接キス、嫌…?」

 

 ユウキにそんな不安そうな顔をされてしまえば食べないわけにもいかない。俺はユウキの菓子パンを一口食べてから、再びユウキと菓子パンを交換し、それに食らい付いた。

 …なんかさっきよりも甘く感じるのはなんでだ?まだ口の中にチョコの甘さが残ってるからか?ユウキは今にも顔を爆発させそうなぐらい紅潮させながら、大人しく菓子パンをパクパクと食べ進めていた。…だめだ。俺の心が完全にユウキの魅力にいかれている。

 いつの間にかアスナとキリトは冷静さを取り戻しており、俺達を眺めて顔を赤らめたり、南極の氷が解けちまうぜ、だなんて小学生がやりそうな茶々入れをしてきたりと、今度は俺達が観察される番になってしまった。

 そしてそれからは、日が暮れるまでは四人で素潜りして、そこに埋まっていた宝石類を取り出したり、砂浜で中当てしたりと何年振りかの楽しいサマーバケーションを過ごしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回の投稿日は明日です。

 では、また第81話でお会いしましょう!
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