~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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 アンケート調査の方は今月いっぱいで締め切る予定ですので、是非ぜひご協力のことお願い致します。

 では、どうぞ!


第81話 有頂天の代償

 俺の目の前に、鈍い輝きを放つ巨大な剣刃が繰り出された。しかしそれを同じタイミングで受け止め、それに飽き足らず弾き返してしまったのは、俺の片手剣とユウキの片手剣である。そして俺達は同時に、片手剣ソードスキル<バーチカル・アーク>を繰り出して、Wを描くように赤トカゲの身体を切り裂いた。

 二人分の攻撃に大きく態勢を崩した赤トカゲは、体力をイエローゾーンにまで落とし込む。俺達の猛攻に憤りを感じているらしい赤トカゲは、果敢に両手剣ソードスキル<カタラクト>を発動させた。

 

 「グルァッ!!」

 

 アルファ「フンッ!」

 

 しかし、その渾身の一撃も俺の発動させた<ホリゾンタル>の初動により威力を相殺され、剣技を阻害されてしまう。そして再び生まれた隙にユウキの<ホリゾンタル・アーク>の二連撃を切り刻まれ、赤トカゲはその体をポリゴン片へと変化させたのだった。赤トカゲを倒し終えた俺達は、拳を軽く突き合わせて、勝利のルーティンを交わした。

 

 アルファ「…これで、マップの空白部分は左の一本道だけになったな」

 

 ユウキ「ってことは、あっちにボス部屋があるんだろうね」

 

 辿り着いた行き止まりの先には、期待していたトレジャーボックスが無くて、二人で若干の落胆感を味わいながら、俺達は反対側の通路を目指して踵を返す。俺達は今、第67層の迷宮区タワー最上階でマッピング作業を行っていた…とは言っても、半分ぐらいはトレジャーボックス狙いではあるのだが。

 先程俺達の倒した赤トカゲの正式名称は<リザードマンエリート>である。数層前には単なるリザードマンやヴァンガードリザードマンなんて奴らも出現していたことだから、その内キングリザードマンだなんて奴も出てくるのかもしれない。

 そんなこんなで俺達がマップに表示されている左側の空白を埋めるようにしてそちらを進んでいくと、次第に、迷宮区を登り始めた頃は真っ白であったはずの迷宮区全体の素材が、漆黒色を帯びていった。辺りの雰囲気が重い圧力を放っていることを肌で感じ取り、恐らくこの先にはボス部屋へと通ずる大扉があるだろうということを察する。

 そう思った矢先にやはり、俺達の目の前には巨大な大扉が現れた。扉の中央や近くの円柱には羽のようなレリーフが描かれており、この先に陣取るボスは翼を持ったタイプのボスであることを読み取った。ユウキは大扉をじっくり眺めてから、俺の方へと振り返る。

 

 ユウキ「やっぱりかぁ…どうする?もう転移結晶で帰っちゃう?それとも下層まで頑張って歩いて行く?」

 

 アルファ「もうちょいでレベル上げられそうだし、経験値稼ぎがてらに歩きで帰らないか?」

 

 ユウキ「おっけ~」

 

 というわけで俺達は、迷宮区タワーを一階まで下ることにして、最短ルートを選びながらドンドンと出入り口へ突き進んでいった。道中に何度かモンスターと遭遇することはあったが、俺達の磨き上げられたコンビネーションの前には剣の錆となるばかりである。

 因みにだが、リザードマンエリートとの戦闘から分かるように、最近の俺達の戦闘スタイルは、常軌を逸したものである。つまりはどういうことかと言うと、普通、この世界でモンスターと闘うプレイヤー達は、戦闘中にわざとモンスターに強攻撃を防御させてブレイクポイントを作り出し、その隙に仲間と交代し、モンスターのAIに負荷をかけることで戦いを優位に運ぶ<スイッチ>という技法を採っている。

 スイッチを戦闘に組み込むだけでパーティーの安定感は増すし、モンスターも倒しやすくなる。そして何よりこの世界で一番大切なことである、命を大事にした闘いを行うことが出来る。しかもスイッチは最低二人いれば行えるため、俺達みたいなコンビでも必須の技術なのだ。

 しかし、俺達がスイッチを使わない理由は、紛れもなくその上を行く新たな技法を確立したからである。それこそが<ダブルパリィ>だ。一人では相殺するので精一杯の攻撃でも、二人で息を合わせてタイミングよく相手の攻撃を相殺すれば、こちら側が硬直することなく、モンスターの攻撃を弾き返すことが出来ることに、ある日気が付いたのだ。故にすぐさま二人で反撃に転じることが可能となり、スイッチよりも一度の戦闘を素早く終わらせることが出来るという点から、俺達はこちらの技法を採用している。

 …恐らく俺とユウキがダブルパリィを行えるようになったのは、一年以上も共に命懸けの闘いを切り抜けてきたことに加えて、コンビ時代以上に、より通じ合う心をお互いが身に付けたからなのだろう。最も、どんな敵にもダブルパリィを使用するのではなくて、例えばレイピアを使ってくるようなモンスターに対しては、一人で十分に受けきれることからスイッチを採択している。

 迷宮区タワーを後にして、かつてそこには街があったかのような、遺跡然とした緑が生い茂るフィールド地帯を通り抜け、そこでも何度かモンスターと戦闘を繰り広げながらも、とうとう俺達は一時間半ほどかけて六十七層の主街区に辿り着いた。

 圏内表示が目の前に表示されると共に、ようやく安寧の息をついた俺は、何気なくメインメニューを操作し、アルゴに向けて六十七層のボス部屋を発見したとのメッセージとそのマップデータを送付しておく。夕闇に包まれ始めた主街区には、本日の探索を終えたらしい他の攻略組プレイヤー達も街へと帰還を果たしていたり、他の層から観光目的で主街区を訪れているプレイヤーがいたりと、中々にごった返している。

 

 ユウキ「今日は何処で晩御飯食べたい?」

 

 アルファ「…できれば、ギルドホームでユウキの手料理が食べたい。勿論実験台じゃなくて、ちゃんと美味しいのが」

 

 ユウキ「仕方ないなぁ~、そこまで言うなら作ってあげないこともないよ。その代わりメニューはボクのお好みでいい?」

 

 アルファ「あぁ、サンキュー」

 

 今日はどんな料理を作ってくれるのだろうかと、ユウキの手料理に期待を膨らませていると、程なくしてアルゴから、わざわざありがとナ。今度時間ある時にオレっちもユーちゃんの手料理食べに行こうかナ、と返事があった。

 労いの言葉以上に恐ろしい文面を見て、俺は慌てて首をキョロキョロと回すと、確かに視界の左端に見える陰りのある路地に、僅かながら不自然に空気が揺らぐ違和感を感じた。多分、あそこにアルゴが潜んでいるのだろう。

 フィールドに出ているときの警戒モードならば、彼女にもすぐに気が付くことが出来るのだが、どうも圏内で気が緩み切っているときにはアルゴのストーカー行為を見落としがちだ。ニシシ、と俺の慌てぶりを見て笑っているであろうアルゴのことは放っておいて、俺達は一旦、二十二層に向かった。

 最近は二十二層の穏やかな雰囲気に惹かれたプレイヤーが数人、ちらほらと姿を現すようになっていたが、それでも街の離れでデュエルをする分には、誰にもその様子を見られることは無い。今日は珍しく俺の勝ちでデュエルが終わり、とうとう俺達はギルドホームに帰って来た。

 

 ユウキ「よーし、今から気合い入れて作るから、ちょっと待っててね」

 

 アルファ「りょーかい」

 

 俺はユウキに言われた通り席に着いて、彼女が料理を作り上げる音を楽しむことにした。ユウキはキッチンに立つと、フライパンやら鍋やらを取り出し、メニューウインドを叩いたり晩御飯の材料を取り出したりと、慣れた調子でテキパキと身体を動かしていく。鍋をグツグツと煮込む音や、包丁で材料をトントンと切り刻む音、フライパンでジュウジュウ何かを焼く音を奏でながら、僅か十分足らずで晩御飯を完成させてしまったようだ。配膳だけは俺も手助けが出来るわけで、俺はキッチンの方へと向かった。

 

 アルファ「おぉ、ハンバーグ定食的なやつか」

 

 ユウキ「そーいうこと」

 

 ユウキが今晩作ってくれたメニューはメインデッシュはハンバーグ、主食は白米、オニオンスープ?らしきものに加えて温野菜といったところだ。ふっくら焼き上がったハンバーグにワクワクしながら俺達は席に着いて、晩御飯を食べ始めた

 。ユウキが研究を続けた末に辿り着いたらしいデミグラスソースっぽい黒い液体がハンバーグとの相性抜群で、ハンバーグ自体も箸を入れれば肉汁が溢れ出し、白米や温野菜が良く進む。オニオンスープかと思われたものはどちらかと言えばコンソメスープに近い味で、面喰ったわけだけど、それもまた美味であった。そんな素晴らしい食事に夢中になっている最中、ユウキがふと、俺に話し掛けてきた。

 

 ユウキ「アルファはレベル90になったら、次はどんなスキルを取る予定なの?」

 

 アルファ「気の遠くなるような話だな…」

 

 俺はお箸でハンバーグを掴んでそう答えてから、ハンバーグを口の中に放り込んだ。現在、俺はレベル86、ユウキは87である。人によってはあと三、四レベルなんだから、すぐに上がるだろうと思うかもしれない。

 確かに、SAO初期段階ではそのように、ポンポンとステップアップ出来たのだが、段々と1レベル上げるのに必要な経験値の量が上がっていることに加えて、俺達は絶対に死なないように、本来ゲームとして遊ぶ以上にレベルの安全マージンを確保しようとしていることから、最近では一層で稼げる経験値がレベル1.5本分ぐらいしかないのだ。

 故に俺がレベル90になり、新たなスキルスロットを確保できるようになるのは第70層ぐらいだろうか。この攻略ペースでいけば、第70層に辿り着くのはあと一カ月後とかの話だろう。ユウキも俺と同じようにハンバーグをモグモグしてから、再び口を開く。

 

 ユウキ「アルファもそろそろ自分の趣味になるようなスキル取ったらどう?一緒に料理の研究するのとか楽しそうじゃない?」

 

 アルファ「…ん~、普段ユウキに実験台にされてきた分をお返しできるって考えると、それもアリかもな」

 

 ユウキ「…ボクに対して失礼な上に、動機が不純だよ」

 

 アルファ「まぁ、今んとこは<疾走>スキルか<薬剤調合>スキル取ろうかなって考えてるぜ」

 

 ユウキ「え~、アルファそういう戦闘系のスキルばっかじゃん…」

 

 俺の解答に呆れた表情を向けてくる彼女の顔を見ながら、俺はまたハンバーグを口に放り込んだ。

 これは余談ではあるが、俺が今スキルスロットに登録している11個のスキルは、両手剣、片手槍、カタナ、瞑想術、体術、投剣、索敵、隠蔽、軽業、武器防御、戦闘時回復だ。そしてついでに、片手剣スキルが未だに使っている銀色の指輪に内蔵されている。その内熟練度をカンストさせているのは、両手剣、片手剣、瞑想術、体術、索敵、ぐらいで、残りはすべて熟練度900台である。

 …正直言って対モンスター戦での実用性を考えるのなら、刀と片手槍をスキルスロットから外して、追跡、疾走、辺りを入れるのが最適解だろうが、俺には二つの武器を受け継ぐ信念があるし、それだけではなくラフィン・コフィンだなんておぞましいレッドプレイヤー集団がいる以上、対人戦を念頭に置いたスキル構成を取るのも悪くはないはずだ。

 あと、中々に使い勝手のいい所持容量拡張スキルに関しては、二十五層のLAがその代わりを務めてくれているので、俺は恐らくそのスキルを取ることは無いだろう。将来の展望についてユウキに文句を言われた俺は、お返しに訊ね返す。

 

 アルファ「じゃあそういうユウキは何取るつもりなんだ?」

 

 ユウキ「ん~、ボクは…<格闘>スキルか<暗視>スキル取ってみようかなぁ…」

 

 アルファ「ユウキこそゴリゴリの戦闘系スキルじゃねぇか」

 

 ユウキ「まぁそうだけどさ~…」

 

 ユウキがスキルスロットに登録しているスキルは、片手剣、月光、瞑想術、体術、隠蔽、軽金属装備、軽業、武器防御、戦闘時回復、疾走、料理、であったはずだ。その内いくつのスキルをマスターしているのかは知らないが、少なくとも片手剣と体術を熟練度をカンストさせていることは把握できている。

 レベル80に上がった時にユウキが索敵スキルを取らなかったのは、二人以上で行動する場合は索敵役は一人で十分だから、という理由だ。ユウキの解答にしっかりツッコミを入れておくと、彼女は不服そうな表情を浮かべていた。

 これも余談ではあるが、格闘スキルとは、体術スキルをコンプリートした者が、第52層の岩山に出現する格闘マスターとの組み手で認めてもらうことで、取得チャンスが与えられるエクストラスキルなのだが、前身となる体術スキルをスキルスロットから外してしまうと格闘スキルももれなく消えてしまうという仕様なのだ。何故そんなことが判明しているかは気になるが、きっと、その被害に遭ってしまった悲しいプレイヤーがいるからなのだろう…。

 …しかし、ユウキが格闘スキルを取ろうとするなんて、デュエルで俺が近接戦を仕掛けてくるのが、そんなに鬱陶しいのだろうか。今日も拳で初撃を勝ち取ったわけだし…。俺は近い未来、ユウキに格闘スキルでボコボコにされる未来を思い浮かべてしまい、ガクガクとテーブルの下の足を震わせてから、晩御飯を完食した。いつも通り食器を洗おうとしていたのだが、ユウキは俺に声を掛けてくる。

 

 ユウキ「今日は、め、ず、ら、し、く、アルファがデュエルに勝ったんだから、もう先にお風呂入ってきなよ。食器はボクが洗っとくからさ」

 

 アルファ「…こうも言葉に含みが感じられると、素直に感謝申し上げたくねぇな…あ、り、が、と、う」

 

 ユウキに余計なことを言われたので、子供っぽく憎たらしいお礼を返してから俺はお風呂に入り、今日一日の疲れを癒したのだった。

 

 

 

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 数十人のプレイヤーが、螺旋状に蜷局を巻く迷宮区タワーを登り詰めていく。その顔つきは何処か真剣だが、過剰な緊張感は感じられない。その数十人のプレイヤーの中にはヒースクリフ、アスナ、キリトなどの攻略組の中でも抜きんでた実力を持つプレイヤーを始めとして、クラインやリンド、ディアベルにシュミットなどの実力派攻略組プレイヤーも見られる。

 その中には俺とユウキも勿論いるわけで、彼らと共に歩みを進めていた。やがて辿り着いた最上階、ボス部屋の目前でいつも通り、俺達はアイテムや作戦などの最後の確認作業を行う。

 

 ヒースクリフ「では、行こうか」

 

 ヒースクリフの簡素な、しかし力強い一言と共に、大扉を開け放たれた。そしてボス部屋の中に突入した俺達はすぐさま陣形を固めて、ボスの出現及び初動に備える。

 部屋の中央、床から二メートルほど離れた位置にポリゴン片を収縮させたボスは、二翼の黒々とした巨大な翼を背中から伸ばし、以前は純白色であっただろう肌は灰色で、その身には翼と同じ暗黒色のローブを被っている。あのローブの色さえ深紅色であれば、それはまるではじまりの日に茅場晶彦が乗り移っていた巨大な赤いローブにそっくりである。

 左手には、得物の柄の白い両刃剣を持っていて、ボスの体力バーは五本、表示された名前は<The Fallen Gods>堕ちた神族…見た目をも考慮するのならば、さしずめ堕天使といった所だろう。堕天使は既に理性を失っているのか、グらぁあァあぁアアァぁ──ッ!!と、声にならない獣のような咆哮を響かせ、それが開戦の合図となるように、俺達の第六十七層フロアボス攻略戦が始まったのだった。

 

 

 

 

 

 俺がマップデータを提供して数日後、遂にフロアボス対策会議が開かれた。対策会議が開かれるということは、ほぼ確実に明日にはフロアボス攻略戦が行われるということである。今回も、フロアボス戦を先導する血盟騎士団のギルド本部にて、フロアボス戦に参加する意思と実力を持つ者達が集っていた。

 メンバー全員が集まったことが確認出来たのか、アスナが挨拶も手短に、早速ボスの情報について話し始める。俺達は基本的に黙ってそれを聞いているわけだが、時たま質問が投げかけられたり、お互いの方向性の違いが原因で言い争いになったりすることもある。

 しかしそれは、単に攻略組の中枢を担っている血盟騎士団を引き摺り下ろそうとか、そんな醜い欲望から生じるものではなく、フロアボスに完全に勝利することをそれぞれのプレイヤーが考え抜いたが故なのである。

 

 アスナ「──次に、偵察部隊を送った結果、判明したボスの能力についてお話させていただきます」

 

 アスナが一息ついてからそう言うと、ここに集まっていたメンバーも、更に気を引き締めた。勿論クエストなどから手に入る情報も大切ではあるが、やはり実際にボスと相対したことで得られる、生の情報の方が攻略戦に直結してくるわけだ。

 そして、アスナ曰く、今回のボスは呪いブレスを連発してくるとのことであった。呪いブレスを喰らうと石化デバフが蓄積していくらしく、石化が発動してしまえばその場から動けなくなり、誰かに浄化結晶でデバフを解除してもらうまでは、何も出来ないようだ。

 そして最も厄介だと思われるのが、体力バーを一段減らすと残りの体力と同じボスの分体が出現するという能力である。これは単純にボス本体に割ける戦力が分散されてしまうわけで、しかもボスと何ら変わりない性能を誇っているというのは、これまでのボス戦には見られなかった面倒臭さだろう。

 

 ヒースクリフ「──偵察部隊の下調べでは、体力バーを一段減らす所までしか確認できていない。ともすれば今回のボスは体力バーを削る毎に、ボスと全く同じ強さの分身が出現する恐れもあるだろう。故に、今回は大人数による攻略を行うべきだと考えているのだが、何か異論はあるかね?」

 

 ヒースクリフが珍しく対策会議で発言したことからか、誰もその口を開こうとはしなかった。しかし、のそりと左手を上げて、発言許可を求めるプレイヤーが一人いた。

 

 キリト「ちょっといいか?」

 

 ヒースクリフ「私の考えに何か問題があるだろうか?」

 

 キリト「いや、異論を唱えたいわけじゃなくて、その分身から倒すことって出来ないのか?例えば一本削ったら、四本バーの分身Aが出現するってことだろ。だったら次の一本を削って三本バーの分身Bが出現する前に、分身Aから倒しておけば、相手にするのは本体と分身Bだけになって、少なくとも三体のボスに囲まれるっていう状況には陥らないと思うけど」

 

 ヒースクリフ「なるほど、確かにその可能性もあり得るな。しかし偵察部隊だけでボス本体と分身Aを相手にするのは些か厳しいだろう。ならば大人数でフロアボス戦本番を行い、その過程でキリト君の推論を確かめてみるのはどうだろうか?」

 

 キリト「あぁ、出来るだけ多い人数でフロアボス戦に挑むことには、俺も賛成だ。その方針で頼む」

 

 アスナ「…ほかに何か意見がないようでしたら、レイドメンバー編成に移りたいと思いますが、宜しいでしょうか?」

 

 アスナがそう言うと、特にこれ以上誰も発言をしなかったため、そのままレイドメンバーの編成及び陣形の構築を行ってから、その日のボス対策会議は終了した。予想通り、明日の午後一時に主街区の広場にて集合することに決定し、解散となる。それぞれのプレイヤーが様々な方角へと進んでいく中、俺とユウキも街の人混みへと紛れ込んでいく。

 

 ユウキ「明日は頑張らないとね」

 

 アルファ「あぁ、そうだな」

 

 ユウキが何気なく微笑みながら放って来た言葉に、俺も答えるように微笑み返してから、まずは明日のボス戦に備えて武器防具の耐久値を復活させるために六十七層の主街区を後にした。

 

 

 

 ──結論から言えば、キリトの推論は正しかった。まずはボスの体力バーを一段削ってから、体力バー四段の分身Aに総攻撃を仕掛け、その間は、ボス本体に対しては、ひたすら防御態勢とヘイト稼ぎをするだけの部隊を配置することで、先に分身Aを撃破してから、ボス本体の体力バーを更に一段減らすことに成功した。

 すると、ヒースクリフの想定通りボスは体力バー三段の分身Bを生み出したのだが、戦況は変わらず二対二だ。俺達レイドメンバーが更なる戦力の割譲を余儀なくされることは無かった。そこからの俺達は、ボスのタゲを引き付けながら、分身を先に葬る、という全く同じ作業を繰り返していく。実質的には体力バー31本分を削り切るわけだから、戦闘は長時間に及び、レイドメンバーの中には疲労から判断力を低下させ、ボスの攻撃を直撃してしまう者や石化デバフに陥る者も出てきた。

 しかし、63層の時のように、休憩時間が取れるほど悠長に闘うことも出来ない為、彼らにはもう少しだけ辛抱してもらう必要がある。ボスはその両翼を広げ、羽をダガーのように降らしてきた。それを躱す者は回避し、防御する者は受け止めて、ボスの攻撃をやり過ごす。翼を閉じて地上に降りてきたボスに対して、ディアベルがボスの身体を斬り込み、そこでボスの体力バーは最終段階を迎えた。

 

 アスナ「ラスト一本!あと少しの辛抱よ!!」

 

 …さぁ、お次はどんな行動パターンを取って来るんだ?レイドメンバーはボスの新たな攻撃に備えて、疲労の蓄積した身体に喝を入れて、しっかりと身構える。

 するとボスは、これまでと変わらず、体力バー一本分の分身を一体…いや、四体も繰り出してきた…!?体力バー一本とは言え、ボスと同等の能力を持つモンスターを五体同時に相手することなど、流石に誰にも想定できなかった。俺達の一瞬の動揺の内に、ボスたちは瞬時に俺達を囲み、そして、五体同時にその口から石化ブレスが放たれたのだ。

 

 アルファ「ユウキ、前だッ!」

 

 ユウキ「うんッ!」

 

 その場に居座っては不味いだろうと瞬間的に判断した俺達は、すぐさま前へと飛び出し、呪いブレスを吐きだす堕天使の股を潜り抜けるようにその背中へと回り込んだ。周囲を見渡すに俺達と似たような判断が出来たプレイヤーは一定数いたようだが、全員が全員というわけではないらしい。

 俺とユウキがボスの分身体のアキレス腱を断裂するように剣を薙ぎ払うと、分身体は呪いブレスを吐きだすのをやめ、こちらにヘイトを向けた。分身体が繰り出してきた上段斬りを受け止めることは、いくら何でも出来ないので、大人しくステップ回避し、更にもう一撃加える。

 視界の奥では、四方八方から襲い来る五重に重ねられた呪いブレスを直撃して、一瞬にして全身を石のように固まらせてしまったプレイヤーが、無情にも堕天使の剣により切り裂かれ、その体をポリゴン片へと変化させているのが見えた。

 …きっとユウキは彼らを助けに行きたいという気持ちに駆られているだろうが、今は目の前の分身体を倒すことに専念せねばならない。不幸中の幸いにも、ボス及び分体がこれ以上の行動パターンを変化させてこなかったので、俺達ならば充分、分身体を引き付けていられるはずだ。その間に、他の集団にボスを倒してもらえばいい。

 

 アルファ「今はタゲを取ることだけに集中しろ!そうじゃないともっとひどい結果になるぞ!」

 

 ユウキ「…分かってる!」

 

 そして約十五分後、俺達が分身体の体力バーを削り切り、他の分身体に手間取っているプレイヤー達に助け舟を出し始めた時に、とうとうボス本体が撃破されたことで、他の分身体も同じようにポリゴン片へと変化していった。

 フロアボス自体の攻略には成功し、次の層へと至ることは出来るようになったとは言えども、死者が五人も出てしまったことから、誰しもがいつものように歓声を上げることは無かった。そしてそのまま生き残った全員で第68層の転移門をアクティベートしに向かう。転移門が解放されるのを、今か今かと待っていた中層プレイヤーのお祝い組も、俺達の悔し気な雰囲気から察して、普段よりは静かな、ささやかなお祝いが行われるのみだった。

 俺もユウキも、特に喋ることがないまま転移門を利用して生命の碑まで向かって、今日散っていった五人のプレイヤーにその場で祈りを捧げる。そしてしばらくしてから、生命の碑を背にゆっくりと歩き始めると、ユウキが俺に言葉を掛けてきた。

 

 ユウキ「…ボクさ、最近はボス戦は死者無しで乗り越えられるのが当たり前なんだって、そんな在りもしない幻想に浸ってたんだ…」

 

 アルファ「…そうだな。俺もそれが普通なんだって思って、死者ゼロで乗り越えるのが絶え間ない努力の末にあるものなんだってこと、忘れてたぜ…ちょっと天狗になってたんだろうな」

 

 ユウキ「…ホント、その通りだよ…また、気を引き締め直さないと…明日は我が身だね」

 

 アルファ「あぁ、また今日から気合い入れ直していこうぜ」

 

 このデスゲーム下の置いて、最前線のフィールドに出て、迷宮区タワーを登り、フロアボスを討伐するという過程を、己の命一つで乗り切るということが、どれ程難しい事なのかを、66回も繰り返される日々の中で、忘れ去ってしまっていた。

 当たり前という形骸化の波に溺れ、そして同時にそれを達成するための心構えを蔑ろにしていた気がする俺達は、この苦い経験を胸に、これからの攻略に対する気持ちを心機一転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回の投稿日は23日の火曜日となります。

 では、また第82話でお会いしましょう!
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