~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

82 / 197
第82話 到来した最悪の夜

 ちょうど日盛りの時刻に、DDAの本部にて、大勢の攻略組プレイヤーが集結していた。その中には、DDAの幹部プレイヤーだけでなく、ディアベル達HONやアスナをはじめとするKOB、更にはギルド風林火山のメンバーやソロプレイヤーキリト、その他にも俺とユウキを含む中小規模ギルドの攻略組や攻略組プレイヤーに匹敵する高レベルプレイヤーである準攻略組の者達など、最前線で闘っているプレイヤーのほぼ全員がそこに集まっている。

 基本的に、こんなお昼時には、俺達攻略組プレイヤーはフィールドや迷宮区タワーに繰り出しているはずなのだが、ならば何故ここに集っているのかというと、それは今層のフロアボス戦対策会議を開くため…ではないだろう。まだ、迷宮区タワーの最上階にあるボス部屋が見つかって一日目だ。もう偵察部隊による情報収集を切り上げたとは思えない。

 

 ユウキ「今日はいつもよりもたくさん人がいるね。なんの集まりなのかな?」

 

 アルファ「…さぁ?それに珍しくDDAの本部で集まったわけだしな。みんなで夏休みらしいことでもするんじゃないのか?」

 

 キリト「まぁ、俺達はほぼ年中無休で働いてるから、その可能性も無きにしも非ず…」

 

 ユウキが俺にそう訊ねてくるのも無理はない。何故ならば、俺達もついさっき、アスナから至急DDAの本部にまで来て欲しい、という趣旨のメッセージが送られてきただけで、実際にここで何が始まるのかに関しては一切の情報が無いのだ。周囲にいるプレイヤー達も俺達と同じ状況下に置かれているようで、騒がしく思い思いの会話を繰り広げていた。

 しかし、アスナやDDAの幹部プレイヤーの表情は妙に硬く、とてもじゃないが夏休み休暇だなんて柔らかい提案がなされるような雰囲気では無さそうだ。招集した全員が集まったことを確認できたのか、DDAの幹部プレイヤー…俺と同じく両手剣使いのレモネードがその口を開いた。

 

 レモネード「皆、今日は忙しい中、わざわざここに集まってくれたことに感謝している!…それで、早速本題に入らせてもらうんだが……」

 

 レモネード、だなんて可愛らしい名前をしているが、顔は強面そのものだ。レモネードは本題を切り出す寸前に、その表情に険しい色を帯びさせて、唇を固く結んでから、ようやく声を発した。

 

 レモネード「……本日、ラフィン・コフィンのアジトの居場所が判明した──」

 

 その言葉に、これまでは騒めいていた周囲のプレイヤー達も、そして俺も黙り込み、緊張感を一気に高める。

 ラフィン・コフィン…それは、この世界で唯一無二の存在である殺人ギルドだ。脱出不可のデスゲーム下に置いて、そんな異常とも言えるギルドが発足したのは、今年の元旦であり、その日にラフコフの前身となる集団が、年明けを祝う為に、フィールドの観光スポットで野外パーティーをしていた小規模ギルドを虐殺したというショッキングな事実は、まだ比較的新しい記憶である。奴らはプレイヤーを殺すことを単なる遊びとして捉えており、これまでにラフコフの被害に遭い、その命を絶やした者は、判明しているだけでも実に百人以上だ。

 つい数カ月前には、準攻略組プレイヤーからもその被害者が生まれ、事態を重く見た攻略組プレイヤー達が、圏外村や圏外にある屋敷や砦などをしらみつぶしに巡っていたのだが、そこではラフコフの下請けと思われる集団や、ラフコフとは関係のない犯罪ギルドは発見できたものの、一向にラフコフ本体の居場所を特定することが出来ていなかった。

 故に、殺人ギルドだなんて悍ましいギルドが誕生して早八カ月、俺達は殺人ギルドの動向を歯痒い思いで見ていることしかできなかったのだ。だが、レモネードの言葉が本当なのであれば、遂に殺人ギルドを解体するチャンスが俺達に与えられたということになる。緊迫した雰囲気の中で、レモネードは言葉を続けた。

 

 レモネード「正確には、ラフコフのアジトがあるという場所の密告があっただけで、まだ実際にその目で確かめたわけではない。この集会が終わったらすぐに、その真偽を偵察しに行くつもりだ。そこで……」

 

 レモネードは一度言葉を途切れさせると、瞼を深く閉じてから、真剣な瞳で再び言葉を続けた。

 

 レモネード「もし、本当にそこにラフコフのアジトがあれば、俺達は有志を募ってラフコフ討伐部隊を作り上げたい。ゲームクリアを目指す上で、奴らは必ず障害となってくるはずだ。このタイミングでラフコフを壊滅させられなければ、俺達は安全に攻略に集中することが出来ないだろう。ただ──」

 

 ──ラフコフ討伐戦を行う。その言葉にとうとう黙り込んでいたはずのプレイヤー達は以前よりも一層騒がしくなる。しかし、そんなプレイヤー達に静粛を促すように、レモネードは野太い声を放った。

 

 レモネード「ラフコフ討伐部隊に参加するか否かは、個人の自由だ。この作戦は、ある意味ではフロアボス戦よりも危険なものになるかもしれない。そのことを踏まえた上で、よく考えてほしい。討伐部隊に参戦したいという勇敢なプレイヤーがいるのなら、午後三時に、もう一度DDAの本部に集合してくれ。…念押ししておくが、この情報は口外禁止だ。ラフコフ側にバレてしまっては意味が無いからな。では、これにて集会を終了する」

 

 レモネードが壇上から隣の部屋へと入り、他のDDAメンバーもその場を後にしたところで、再三ここに集ったプレイヤー達は騒めきだした。

 ちらりとユウキの顔を見やると、彼女もいつになく真剣な表情を浮かべており、レモネードの言葉を深く考え込んでいるようだった。そんな中、俺の隣にいたキリトが、こちらに問いを投げかけてくる。

 

 キリト「……アルファとユウキは、討伐戦に参加するのか?」

 

 アルファ「……俺は──」

 

 ユウキ「キリトはどうするの?」

 

 キリト「…俺は参加するよ。このままアイツらを放置してたら、きっと取り返しのつかないことになるだろうからな」

 

 俺は彼の質問に答えようとしたのだが、その言葉に重ねるようにしてユウキがキリトに訊ねた。キリトは怒りの炎が揺らめく瞳でそう答えると、いつの間にか近づいて来ていたクライン、エギル、アスナ、ノーチラス、ユナが思い思いの答えを呟く。

 

 クライン「キリの字が参戦するってならよ。オレ様も参加するしかねぇだろうが!」

 

 アスナ「…わたしも、血盟騎士団の副団長として、トッププレイヤーとして犯罪者を見逃すことは出来ないわ」

 

 エギル「…お前らには悪いが、俺は討伐戦には参加しないでおく…すまんな」

 

 ノーチラス「…僕は参加しようと思ってるよ」

 

 ユナ「エーくん、私も勿論討伐部隊に参加するよ?」

 

 少なくともこの中では、エギル以外は討伐部隊に参加する予定らしい。…まぁ、エギルは普段はモンスターに向けている怒りのパワーをレッドプレイヤーに爆発させてしまい、誤ってレッドプレイヤーを殺めてしまうかもしれないからだろう。それぐらい、エギルは人情に堅い男なのだ。

 しかし、彼らの意思決定を受けた俺はどうしても、ユナの討伐部隊に参加するという意思を尊重することは出来なかった。それはユナとノーチラスのことを想っての考えであり、俺はそれを言葉にする。

 

 アルファ「ユナは止めておけ」

 

 ユナ「…どうして!?」

 

 アルファ「ユナのメインアームはチャクラムだろ?モンスターとの戦闘では遠距離攻撃はかなり優秀だけど、プレイヤー同士の戦いとなると、それは一転して不利だ。ユナの意思を無下にするつもりは無いけど、悪いことは言わないから、ユナが討伐部隊に参加するのは止めておいた方がいい。いざという時に自分の身を守れない可能性が高いだろうから」

 

 ユナ「…でも…ううん、そうかも知れないね。まだ時間はあるから、もう少し考えてみるかな」

 

 ユナは誰かの助けになりたい、という己の自己犠牲心を優先しようとしていたが、その寸前で俺の意見の合理性にも気が付けたらしい。そして俺達は一旦解散して、キリト達はアイテムの補充や耐久値の復活に向かって行ったらしい。

 俺もアイテム補充でもしようかと思っていたのだが、無言を貫き通すユウキに、半ば強制的に連れられて、ギルドホームへと帰還していた。ストンと椅子に座らされて、ユウキが沸かしてくれたお茶みたいな飲み物を飲んで、一息つく。するとユウキがようやく、俯かせていた顔を上げて、真剣な表情で俺に語り掛けてきた。

 

 ユウキ「……もし、アルファが討伐部隊に参加したくないんだったら、しなくていいからね」

 

 アルファ「…」

 

 ユウキ「…ボクはもう、アルファが誰かを殺して傷付くのを見たくないんだ…アルファに傷付いてほしくないんだ…」

 

 …まぁ、なんとなく予想は出来ていたユウキの発言ではあったが、彼女の表情は余りにも必死で、切実で、俺はすぐに返事を返すことが出来なかった。

 

 アルファ「…でも、俺が討伐部隊に参加しなかったとしても、ユウキは参加するつもりなんだろ?」

 

 ユウキ「……そうだけど、でも、そんな理由でアルファが討伐部隊に参加する必要なんてないよ。…キリト達には悪いけど、アルファが参加しないって言うなら、ボクだって参加しなくったっていいんだよ…?」

 

 アルファ「…大丈夫だ。心配するな」

 

 きっとユウキは、ラフコフ討伐戦で、レッドプレイヤーとの殺し合いになる未来を想像できたのだろう。しかも、殺人という行為によって、一度壊れかけた俺の様子を見たことがあるのだから、心優しいユウキは、俺をもう二度と同じような状態にはしたくないのだと、そう考えたのだろう。だからユウキは、こんなにも辛く悲しそうな表情を浮かべているに違いない。

 …だけど、ならばこそ、俺の大切な人、大切な仲間たちに俺と同じような思いを背負わせない為にも、その時に剣を振るうのは俺だけでなくてはならない。俺は徐に席を立って、不安感を抱いているユウキの頭を撫でて、その不安を優しく包み込んだ。

 

 ユウキ「……ホントに、大丈夫なの?嫌じゃないの?」

 

 アルファ「あぁ、俺の本心から、討伐部隊に参加したいと思ってるんだ」

 

 ユウキ「……そっか…」

 

 俺が頭を撫でていると、ユウキは席を立って俺に抱き着いてきた。その抱擁に答えるように、俺もユウキを抱き返す。俺達は、今生の別れを惜しむように、お互いの温もりを求めていたのだった。

 

 

 

────────────────

 

 

 

 午後三時。俺達は再びDDAの本部に訪れていた。そこに集ったプレイヤーは、先程集まっていたプレイヤーの三分の二ほど…数にして五十人前後であろうか。その中には、ユナとノーチラスの姿は無かった。どうやら、俺の忠告を聞き入れてくれたらしい。思ったより集まっている人数が少ないと感じているのか、周囲のプレイヤーは不安心を抱いているようだ。

 しかし、居なくなった三分の一のプレイヤーを臆病者だと罵る権利など、誰にもない。この世界だろうと現実世界だろうと、自らの命は何よりも大切なものなのだ。ここに集った人間は、将来自分がレッドプレイヤーに殺される恐れ、という憂いを消し、己の命を守るために討伐部隊に参加するだけだ。偶々間接的に他のプレイヤーを救えるだけであって、その本質は己の命の保全を優先しているだけなのだ。

 今回の討伐部隊のリーダーを務めることになったレモネードが、再び壇上に上がって言葉を発した。

 

 レモネード「皆、再びここに集まって来てくれて、どうもありがとう。ここに集った皆は、レッドプレイヤーに制裁を加えんとする勇敢なるプレイヤーであることは重々承知している。…しかし、これはあくまでも俺の個人的な見解だが、討伐戦ではレッドプレイヤーと文字通りの殺し合い、に発展する恐れもあるのだ。もし、これまで何人もの善良なプレイヤーを殺害してきたレッドプレイヤーに止めを刺すことが出来ない、心優し過ぎるプレイヤーがここにいるのなら、ここで討伐部隊から抜けてもらっても構わない」

 

 「「……」」

 

 レモネードの言葉に応じて、会場を後にする者は誰一人としていなかった。しかし、ならばここにいるプレイヤー達全員が、殺しの覚悟ができているかというと、そういう訳でもないだろう。たっぷり二十秒ほどの間を置いてから、レモネードが再び口を開く。

 

 レモネード「…では、実際的なラフコフ討伐作戦について話を進めさせてもらう──」

 

 そこから、レモネードが話した内容を要約すると、まず、隠蔽スキルをカンストさせている状態で偵察しに行ったプレイヤー達の情報によると、密告されたアジトがラフコフの根城になっている、という情報は定かであったようだ。次に、ラフコフのアジトがあった場所は、第五十一層のフィールドの隅にある、小山に生成された小洞窟であったらしい。

 …なるほど、確かに五十一層は、五十層のフロアボス戦で搔き乱されたギルド内の結託を固め直すために、いつもよりも周りに目が行ってなかったし、俺達もフィールドの隅から隅まで探索することは無かった。その上、そもそも攻略組プレイヤーの多くは迷宮区タワーにしか目を向けない。ともすれば、俺達攻略組が、フィールドの端にある小ダンジョンにラフコフのアジトがあることなどは想定もつかなかったのは致し方が無いことなのかもしれない。

 俺達が目星に付けていたのは基本的に、圏外で購入できるプレイヤーホームであったのだが、思い返せば、もし自分がレッドプレイヤーだとすれば、そんな分かりやすい所を根城にしようだなんて思わないだろう。…少し頭を使わなさ過ぎだな。もっと思考しなければ…。

 そして、ラフコフのメンバーを黒鉄宮に投獄するために回廊結晶を準備したり、レッドプレイヤーの抵抗を防ぐために麻痺毒の付いた投げナイフを投剣スキルを持つ者に配布したり、耐毒ポーションの準備などなどが必要であることを注意喚起してくれたり、と、ドンドンラフコフを壊滅させるための具体的な方策が練られていく。

 

 レモネード「──この中でも要注意人物は、ラフコフのリーダーであるPoH、骸骨仮面を被った赤目のザザ、ケープで顔を隠している兇手ノエル…前から順番に得物は、中華包丁のようなダガー、エストック、大鎌だ」

 

 レモネードが凡そ三十名ほどであろうラフコフのメンバーの中でも、特に危険人物とされている三人のプレイヤーの情報について語っている中、俺は口を割って入った。

 

 アルファ「待ってくれ」

 

 レモネード「ん?なんだ?」

 

 アルファ「兇手ノエルは大鎌だけじゃなくて、ダガーとか片手剣も使ってくる」

 

 レモネード「…それは本当か?」

 

 アルファ「あぁ…一カ月前ぐらいに襲われたからな」

 

 俺はしっかりと、兇手ノエルに関する情報を追加で伝えておく。キバオウの護衛だったことはここで言う必要のあることではないだろうし、彼の顔に泥を塗るつもりもない。

 そしてそこからは、更なる具体的な作戦内容についての決定がなされていった。ここにいるプレイヤーは、ラフコフのメンバーよりもレベルが高いだろうし、人数も三十対五十と、二倍近くの差がある。なのでまずは根城となっている安全地帯を大人数で囲い、回廊結晶で投獄してしまうという作戦を取ることになった。しかし、そこに全員が全員いるわけではないだろうから、あぶれていたレッドプレイヤーは数人がかりで鎮圧、そして動きを封じて投獄、とのことだ。

 だが、相手の抵抗が激しい場合は、最悪の場合殺してもいい、と重々し決される。殺害の可能性を思い浮かべ、誰もが声を出すことなく、静かに頷くばかりだ。作戦の決行時間は、多くのレッドプレイヤーが眠っているであろう午前三時。五十一層の主街区広場で集合するということで、ラフコフ討伐作戦会議は終了した。

 それぞれが真剣な表情でその場を去ろうとしていく中で、俺はふと疑問に思ったことを、個人的にレモネードに訊ねた。

 

 アルファ「……なぁ、さっき、密告でアジトの位置が割れた、って言ってたけどさ、その密告したプレイヤーって誰なんだ?」

 

 レモネード「…それが誰なのか、何処にいるのかまでは知らん。その情報をタダで渡してくれたのは、普段仲良くしてる情報屋だしな」

 

 アルファ「…因みにその情報屋って何処にいるんだ?名前は?」

 

 レモネード「リザレン、居場所は三十三層の主街区の南エリア一角だ。…リザレンによると、密告したプレイヤーは、殺人の罪の重さに耐えられなくなったんだってよ」

 

 アルファ「…そうか。サンキュー」

 

 レモネード「…あぁ、それじゃあ、またあとでな」

 

 …思考を巡らした結果…アジトの密告者、俺はその存在に疑問を抱いていた。この八か月間、一度も見つけられなかったラフコフのアジトがこうも容易く発見でき、しかもこちら側が完全有利な展開など、そう簡単に起こり得るものなのだろうか。

 確かにレモネードの言う通り、殺人の罪悪感を抱いたラフコフのメンバーが俺達に密告した、というラッキーな可能性もあるだろう。しかし、人間とは得てして、青天井の善意を持ち合わせている一方で、底知れぬ悪意をも孕んでいる生き物なのだ。俺はそれを、この世界に囚われて以来充分に味わって来た。

 …もし、この情報がディープフェイクで、全てはラフコフの思惑通りだとすれば…?その可能性があり得る以上、俺はそれを検証せざるを得ない。だが、討伐部隊に参加したプレイヤーを不安にさせるわけにはいかないので、こういうのは内密に行うべきである…と判断した俺は、アルゴに、至急明日の午前三時までリザレンなるプレイヤーの動向を観察して欲しい、との依頼を注文し、危なそうだったらやめてもいい、とも連絡を送った。

 するとアルゴが二つ返事で…とはいかず、高い報酬を求めながらもオーケーしてくれたので、リザレンの観察は、俺よりもその手のスキルが高いであろう彼女に任せることにする。それを済ませてから、先に本部の外で待っててくれたユウキと合流を果たした。

 

 アルファ「お待たせ」

 

 ユウキ「何かあったの?」

 

 アルファ「いや、兇手ノエルについて色々聞かれてただけだ。そんじゃあまずはリズベットの店でも行こうぜ」

 

 ユウキ「その前に、確認がてらデュエルしようよ」

 

 それから俺達は、対人戦のおさらいがてらデュエルをしてから、ポーションなどの回復アイテムを余計に補充したり、リズベットやタイラの店で武器防具の耐久値を修繕したりして、遂にギルドホームに戻った。少し早めに晩御飯を食べてから、これからのことを考えて、午前二時ぐらいまでは身体を休める。

 俺も眠りにつきたかったのだが、アルゴからのメッセージがいつ届くか分からない以上、おちおちと眠りにつくことは出来ず、眼を閉じて気休め程度の休息を取るだけだった。タイラやリズベットは、今日はやけに攻略組プレイヤーが修繕を求めてきていることを不審がっていたが、事情を話すことは口止めされているので、何も言うことは出来なかった。しかし、彼らも何となく俺達の張り詰めた空気に気が付いているのか、無茶だけはするな、と優しい気遣いをしてくれた。

 そして午前二時、一応設定していた強制起床アラームが鳴る前にその設定を解除し、ベッドから降りる。結局アルゴから入って来たメッセージは、午後七時ぐらいにレモネードがリザレンに感謝を告げていた、ぐらいであり、それからは何の連絡もなかったため、俺の危惧していたようなパターンではなかったらしい。

 俺が一安心してから部屋の扉を開けると、遅れてユウキの部屋の扉も開かれた。ユウキは微睡んでいたのか、少しまだ眠そうな顔をしている。

 

 ユウキ「…アルファ、珍しくちゃんと起きたんだね…」

 

 アルファ「まぁ、流石に今日は、な。」

 

 俺とユウキは外に出て、剣を振ったり屈伸運動したりすることで凝り固まった身体をほぐしてから、集合場所へと向かって行った。少し早めに到着したはずだったのだが、既に広場には、思いの外多くのプレイヤーが集まっていた。彼らも皆、ラフコフ討伐作戦に緊張して寝てなどいられなかったのだろうか。その顔つきも、フロアボス戦さながらの緊迫感を感じさせられる。

 そこにはアスナやキリト達もいるが、レイドメンバーでお馴染みのアイツがいない。まさかギリギリまで眠ってるとかじゃないだろうな…と、俺はその疑問をアスナにぶつけてみる。

 

 アルファ「アスナ、ヒースクリフは来ないのか?」

 

 アスナ「う、うん…団長は討伐戦には参加しないって…」

 

 アルファ「マジか…」

 

 あの徹底した合理主義者なら、ゲームクリアを目指す上で害となるレッドプレイヤー壊滅作戦に参加しないはずがないと思っていたのだが、まさか不参加とは。…もしかしたらヒースクリフは、人に剣を向けることの、真の恐ろしさを理解しているのかもしれない。故に、合理的判断を欠いてでもレッドプレイヤーに剣を向けたくはなかったとかだろうか。

 アインクラッド一の剣士<伝説の男>であるヒースクリフの姿が見えないことから、皆若干の不安を感じているようだが、準ユニークスキル持ちのディアベルが来たことで、その不安感も和らいでいるようだった。

 時刻は午前二時四十分、あとはDDAのメンバーを待つのみ、という時になって、ピコンッとメッセージ着信音が聞こえた。俺はまさか、と思い、急いでメッセージボックスを開けるとそこには、リザレンが圏外すぐ近くのフィールドで、ローブを被ったオレンジプレイヤー二人組と何かやり取りをしてるゾ!という、これままでの安心感を不安感にひっくり返すような恐ろしい内容のメッセージが届いた。

 俺はキリト達と軽く話していたユウキに、矢継ぎ早に、しかし要らぬ心配は掛けぬように落ち着いて伝えた。

 

 アルファ「…ユウキ、なんか今、アルゴに呼び出されたからさ。多分すぐに戻ってこれると思うけど、もし俺以外の奴らが全員集まったら、先行くように言っといてくれねぇか?」

 

 ユウキ「あ、アルファ?」

 

 アルファ「そんじゃ、ちょっと三十三層行ってくるわ。頼んだぜ!」

 

 突然の出来事に上手く状況を呑み込めていなかったユウキを置いて、俺は転移門へと急行した。素早く三十三層へと降り立ち、隠蔽スキルを発動させながらアルゴに、今は何処にいる?とメッセージを打つ。

 返事はすぐに返って来て、その指示に従いながら、転移門広場を南に進んで二つ目の突き当りを右に曲がった。そこにはアルゴが俺と同じように、路地裏で身を潜めており、俺はアルゴに近づいて声を掛ける。

 

 アルファ「アルゴ、リザレンは?」

 

 アルゴ「今はこのお店に入ったようだヨ。ちょっと危ない匂いがしたカラ、話の内容までは聞き取れなかったナ」

 

 アルファ「サンキュー、それで充分だ」

 

 NPCレストランの中を覗くと、そこにはリザレンらしき人物しかいない。二人組は既にフィールドに消えて行ったということなので、俺はアルゴを手招きして、NPCレストランに入り、リザレンの前に立ちはだかった。

 

 リザレン「なんだ?俺に用でもあるのか?」

 

 アルファ「単刀直入に聞く、さっきオレンジプレイヤー二人組と何喋ってやがった」

 

 リザレン「…はぁ?何か勘違い──」

 

 ドガンッ!!と爆発が起きたような轟音を鳴らしながら、リザレンは俺の両手剣による一撃によって吹き飛ばされる。

 ここは圏内であるため、俺がどれだけ剣を叩き付けようと、リザレンはアンチクリミナルコードによって保護され、その体力を減らすことは無い。しかし、こうして剣による圧力をかけることは可能だ俺は極めて冷徹なる眼で尻餅をついたリザレンを見下し、口を開いた。

 

 アルファ「早く本当のことを言え、時間がない」

 

 リザレン「なッ…てめぇ!なにしやがんだ!俺が誰かわかってんのか!?この情報をばら撒いてやってもいいんだぞ!?」

 

 アルファ「アルゴ、コイツを圏外に出すぞ。手伝ってくれ」

 

 アルゴ「…分かったヨ」

 

 リザレン「おい!てめぇら!?」

 

 俺はリザレンを引き摺るように店から連れ出し、そのまま圏外へと向かって行く。アルゴには一応、コイツが逃げ出さないように見張ってもらっているが、リザレンはレベルが低いのか、俺に抵抗しようにもSTR値の差があるせいで、碌に抗えていなかった。俺は圏外に出て、リザレンに最後の質問をする。

 

 アルファ「このまま白を切るつもりなら、俺はお前を拷問してでも情報を抜き取るつもりだ。…これは、痛い思いをしなくて済む最後のチャンスだと思え。お前、二人組と何喋りやがった?」

 

 リザレン「……俺は何も知らな──」

 

 再び鳴り響く轟音、俺の蹴りがリザレンの身体を貫き、その衝撃で二転三転リザレンの身体は跳ねた。驚くべき速さで片手斧を構え、反撃に転じてきたリザレンの身体に麻痺付きダガーを投擲したのは、アルゴだ。アルゴのダガーが横腹に突き刺さり、麻痺状態に移行したリザレンは地に伏せる。

 俺達はどちらもオレンジプレイヤーになってしまったが、まぁ、五十一層の圏外村に転移すれば何も問題ない。俺はリザレンの左肩に剣を突き刺して、俺は言葉を放つ。

 

 アルファ「…さぁ、お前の命が散るか、それともお前が口を割るか、どっちが速いんだろうな」

 

 リザレン「…ぐ…分かった。分かった!言う、言うから待ってくれ!!」

 

 リザレンはようやく観念したのか、大声でそう喚いた。俺は剣を肩から抜いて、ストレージからあるアイテムを取り出してそれを使用し、リザレンの言葉を待つ。

 

 アルファ「早くしろ」

 

 リザレン「……俺は昨日の夜、あの二人組に脅されて、今日攻略組のお得意様にラフコフのアジトをリークするように言われたんだよ。…攻略組がアジトに訪れる時間を教えることまでセットでな」

 

 アルファ「その話は本当か?」

 

 リザレン「あぁ……がぁ!?」

 

 リザレンが俺の問いを肯定するや否や、俺は彼の左腕を斬り落とした。リザレンは苦痛を滲ませた声を上げる。しかし、リザレンが死んでしまう前に回復結晶を使用し、彼の体力を全回復させた。

 俺がそんな残虐な行為をした理由は唯一つ。俺の使用したアイテム<真実の眼>が赤く光ったからだ。真実の眼は、一度だけ相手方の言葉の真偽を確かめることが出来るという謎なアイテムだった。真ならば緑色に光り、偽ならば赤く光る。

 …どのようにして真偽を確かめているのかも分からないし、使いどころもないだろうと思っていたが、まさかここで役立つことになるとはな。

 

 アルファ「下手な嘘は止めろ、俺はこのアイテムでお前の言葉の真偽が分かる」

 

 リザレン「……」

 

 俺の言葉には、一度きり、という言葉が欠落していたが、俺のブラフが通じたのか、リザレンは表情を落とし、黙り込んだ。しかし、やがてリザレンは不気味な笑い声を上げながら、俺達に衝撃の事実を語る。

 

 リザレン「ケ、ケ、ケ…ッ、もう遅いぜ…もう遅いんだぜ!?」

 

 アルファ「何が遅いんだっ!!」

 

 …やはりこの討伐作戦は、良くない方向に動くのか!?一気にユウキやキリト達の安否が気掛かりになり始めた俺は、苛立ちを隠さないまま、リザレンに訊ね返す。

 

 リザレン「…そうだな。せっかくだから教えてやんよ。ボスはな、攻略組を血濡れの殺人鬼に堕とすのが目的なんだよ。この情報を流したのもボスだ!全ての舞台は整ったと、ボスはそう言ってたさ…キャハハハッ!お前らがこの事実に気が付いたって、もうそれを止めることは出来ねぇ。地獄の殺戮ショーの始まりだァ!!」

 

 リザレンが、俺達に右腕に彫ったラフィン・コフィンのタトゥーを見せびらかしながら、狂った笑い声を響かせている。アルゴはその事実を受けて、顔を青くしていた。

 …どうする?どうするんだ、俺!?オレンジプレイヤーは、グリーンプレイヤーとのメッセージやり取りが禁じられる。故に、俺もアルゴも仲間に今すぐこの事態を知らせることが出来ない。既に午前三時は過ぎ去っており、もう討伐隊もラフコフのアジトに勇み足を向けているだろう。

 俺は考え抜いた末、黒鉄宮に繋がる回廊結晶を取り出し、リザレンをそこに投げ入れた。そして、未だに固まったままのアルゴの肩を揺らし、告げる。

 

 アルファ「アルゴ!転移結晶で五十一層の圏外村<サダナク>に転移するぞ。そこから真っすぐ東に進めば、ラフコフのアジトがある小洞窟に辿り着くはずだ。主街区から向かうよりは早く着くだろうから、もしかしたら討伐隊がラフコフに奇襲される前に、このことを伝えられるかもしれない。俺より足の速いアルゴなら、その可能性も高いはずだ」

 

 アルゴ「…あぁ、分かった。オレっちに任せてクレ!」

 

 アルゴも何となく俺達がラフコフの討伐を行おうとしていたことを察したのか、普段のふざけた様子からは想像もできないほど、真剣な表情を浮かべていた。そして俺達は、僅かながらの希望に賭けて、転移結晶を使用する。…これが、アインクラッド最悪の夜と呼ばれる、あの日の始まりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 <真実の眼>は、PoHの悪巧みを暴くために使用されました。今日から数話掛けて、ラフコフ討伐戦を描いて行きます。

 次回の投稿日は、25日の木曜日です。

 では、また第83話でお会いしましょう!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。