アルファ「…なんだ?この集まり?」
リズベット「…さぁ?」
俺の純粋なる問いに、一応の返事をくれたのはこの家…リズベット武具店の主人であるリズベットだ。
今のお昼時、午後一時ぐらいの時間帯は、狩場で生活費を稼ぐのに尽力しているお客も、ここを訪れることはほぼないであろう時間帯だから、店を閉店表示にしているのだろうが、理由はそれ以外にもあった。
リズベット武具店の店内には、リズベット以外にも、クラインやエギル、シリカやノーチラスにユナ、ひいてはこの時間は何かと忙しいであろうディアベルまでいるではないか。こんな謎の密会を開いているのだから、周りのプレイヤーを驚かせないよう配慮するのは、当然と言えば当然である。
ユウキ「シリカ、久しぶりだね!」
シリカ「あ、ユウキさん、お久しぶりです~!」
リズベット武具店…改め謎のシークレットパーティー会場に辿り着いた俺とユウキは、そこに集っていたメンバーと軽く挨拶を交わす。そして空いている席に座ろうと思ったのだが、その前にシリカが、挨拶代わりだと言わんばかりにユウキに抱き着いていた。
ユウキが嬉しそうにそれを受け止めているのを見て…いいな、俺もユウキに遠慮なくハグしたい…と思った…のはどうでも良くて、そんなことよりも俺は、隣でエギルと喋っているディアベルに話し掛ける。
アルファ「……なぁ、ディアベル」
ディアベル「なんだい?」
アルファ「ディアベルは、一体誰に呼び出されたんだ?」
ディアベル「俺は、キリトからだな」
エギル「因みに、オレもだ」
ユナ「わたしはエーくんとここまで来るようアスナからだよ」
アルファ「…なるほど」
俺とユウキは、それぞれ午後一時にリズベット武具店に集合するよう、今日の朝にキリトとアスナから連絡が入っており、何のこっちゃ分からないままそれに従って来たのだが、恐らく、キリトとアスナが個人的に仲良くしている面子がここに揃っているというのならば、それすなわち…。
俺がその答えに気が付いたのが合図であったかのように、ガチャッ、と武具店の扉が開いて、そこから現れたのは…本日の主役であろうキリトとアスナだ。
二人は少し緊張した面持ちで、適当に腰掛けている俺達の前にやって来た。そして、キリトが意を決したように、俺達に伝えてくれる。
キリト「……えっと、実は、俺、アスナと結婚したんだ」
アスナ「……だ、だから、せめて仲良くしてる人達には、ちゃんと報告しておこうと思って…」
一同「……」
キリト「…お、おい、どうしたんだよみんな…?」
キリトとアスナの口から告げられた衝撃の事実…いや、そうでもないか。多分ここにいる人達の殆どは、いつかはそうなるだろうと予想していただろう。衝撃の告白?を受けた俺達は、誰もが何も言うことなく、その口を堅く閉ざしていた。
…まぁ、俺が衝撃を受けているのは、まさかのお付き合い報告じゃなくて、結婚報告であったことなんだがな…。
しかし、その静寂の中で一番に口を開いたのは、リズベットであった。
リズベット「……も~っ!二人共ゴールインまで時間掛り過ぎよ!兎に角おめでとう!!」
クライン「…か~っ!遂にキリトにも春が来たんだな!しかもこんなに美人なお嫁さんまで見つけやがって、オレぁ感激だぜ!!」
ユウキ「キリト、アスナ、ホントにおめでとーっ!アスナの想いが届いたんだね!ボクもすっごく嬉しいよ!!」
リズベットの賛辞を皮切りに、クラインが強引にキリトの首に腕を回しながら、祝いの言葉を口にする。ユウキはお祝いの言葉と共に、アスナに抱き着き、それを全身で表現していた。エギルやユナが拍手を始めたことから、俺やノーチラス、ディアベル、そしてシリカもそれに倣う。
なんだかシリカが茫然自失としているが…そう言えばシリカって、キリトのことが好きだったんじゃ…こればっかりは、ドンマイ、としか言いようがない。次第に拍手が鳴り止むも、リズベット武具店はまるでパーティー会場のように、ちょっとしたお祭り騒ぎとなっていた。
キリトやディアベルが取り出した、ワインっぽい酒類を昼間からみんなして飲んだくれたり、リズベット武具店の二階にあるキッチンを利用して、料理スキルを持っているエギルやアスナなどに作ってもらったちょっとした軽食を食べたりと、まぁ、こんなにも目出度い日は無いのだから、これぐらいどんちゃん騒ぎしても何の問題もないだろう。
…勿論、この会場の中で酒類を飲んでいないのは、俺だけなのだが…見た目的にも、俺よりも年下であろうシリカまでもが、ワイン美味しいですね!とか言っていたのには、キリトからの告白以上の衝撃を受けてしまったかもしれない。
その小パーティー会場の中で、俺はキリトに、一つ訊ね掛ける。
アルファ「キリト、何でお付き合いじゃなくて、いきなり結婚まで行ったんだよ?」
キリト「…ま、まぁ、成り行きでな…」
アスナ「え~、キリト君のプロポーズって、そんなに軽いものだったの?」
キリト「いや、結婚したいぐらいアスナが好きなこの気持ちは、相当重いものだぜ?」
アスナ「…もぅ、キリト君ったら…」
ユウキ「…これは、バカップルの誕生だね~」
ユナ「アハハ~、ユウキとアルファが言える立場なの~?」
アルファ「…おい、ノーチラス、言われてるぞ」
ノーチラス「なんで僕に話を振って来るんだよ!?」
エギル「おまえら全員バカップルだろうが。…ま、最初の内はそんなもんでいいんだよ」
キリトとアスナの浮ついたラブラブな様子を見せられて、ユウキが揶揄うように彼らに言葉を返したのだが、その言葉をそっくりそのままユナに返されて言葉に詰まった俺は、そういうユナもだろうが、という意味を込めてノーチラスに言い返しておく。
そんな俺達を眺めていたエギルが、総括するようにまとめて全員バカップルだと、そう言い放ってきた。…ま、俺とユウキがバカップルかもしれないのは否定しないが…。
しかし、キリトとの会話の中で、俺の中には、ある疑問が浮かび上がって来ていた。
…俺はいつ、ユウキに結婚申し込めばいいんだ?そもそも、俺がプロポーズしたところでユウキがそれを受け入れてくれる可能性は…百パーセントではないにしても…自分で言うのもなんだが、かなり高いとは思う。でも、かと言って今日明日にいきなりプロポーズするのも、なんだかキリトとアスナを真似したみたいだし…やっぱり、付き合って一年記念とかが良いだろうか…と、そんなことを頭の片隅で考えておきながら、俺達は小一時間ほどパーティーを楽しんだ。
最後にキリトから、「俺達が結婚したってことは、仲の良い人達にしか教えてないから、他言無用で頼む」というお願いが為された。…確かに、巷ではアスナのファンクラブだなんてものまで存在していたのだから、そういう奴らから嫉妬を買ったりすると面倒だろうし、その面で配慮するのも納得だ。
そしてその日は、キリトとアスナからの結婚報告を受けた後は、ディアベルとクラインはギルドでの活動に、エギルは商売、そして残された俺達五人はリズベットにお願いされて、鉱石集めに勤しんだのだった。
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アルファ「おはよう、ユウキ」
ユウキ「おはよ、珍しく時間通りに起きてきたんだね」
アルファ「今日は目覚めが良かったからな」
キリトとアスナからの結婚報告を受けた翌日、自室で目覚めた俺は、眠気の止まない身体でリビングまで降りて、ユウキと朝の挨拶を交わしていた。
俺がユウキに声を掛けると、彼女がソファではなくキッチンから顔を出したことから、今日はユウキが朝ご飯を作ってくれたのだろうと、期待を高める。…がしかし、キッチンからユウキが持ち運んできたその円形のものは…
アルファ「…ケーキ?」
ユウキ「うん。アスナの結婚祝いにさ、ケーキ作ってみたんだ。だから今日の朝ご飯は…ボクが最高のケーキを作るための犠牲になった、失敗作ケーキかな」
アルファ「…し、失敗作…?」
ユウキ「うん。あ、でも、いつもの失敗作とは違って、スポンジが堅かったり、クリームが甘すぎたりして最高のケーキじゃないだけで、食べられる味にはなってるよ?」
アルファ「それは良かった。そんじゃあ、頂きますか」
キッチンの奥から姿を現した大量の失敗作ケーキを見て、俺は図らずともこの場から逃げ出したくなったのだが、どうやら今回は失敗作とは言えども、食すに値する代物にはなっているらしい。
なので俺は安心して、朝からケーキを食べ始めたのだが、これが思った以上に美味しい。これで失敗作というのならば、完成品はさぞかし美味なのだろう。
アルファ「失敗作なのに、すげぇ美味いんだな」
ユウキ「そうでしょ~?なんてったって、ボクは本日、遂に料理スキルをコンプリートしたからね!」
アルファ「おぉ~!」
俺が素直に失敗作ケーキの味を褒めると、ユウキはドヤ顔で料理スキルの熟練度を1000にまで上げたことを教えてくれた。恐らく、ユウキの中での完璧なケーキというのは、料理スキルがカンストした状態で作り上げるケーキのことだったのだろう。
…それ故に、料理スキルの熟練度上げとして、ケーキを大量生産したという訳か。俺はユウキに拍手を送りながら、ふと気になったことを訊ねる。
アルファ「そういや、今んとこユウキがマスターしたスキルって、何個あるんだ?」
ユウキ「えっと…料理、片手剣、軽金属、体術、月光…って感じで、色々あるんだけど、<月光>スキルだけ、マスターしたのに、何のスキルも手に入らなかったんだよね…」
アルファ「へぇ、要するに、最上位スキルが入手出来なかったってことか?」
ユウキ「そう。最上位スキルの部分だけ、空白のままなんだ」
アルファ「そんなことあるのか…。何か他の条件を達成できてない、とかじゃねぇの?」
ユウキ「かもね~」
各種スキルには、熟練度をマックスまで引き上げた際に最後の特典が貰えるのだが、どうやら月光スキルは、それだけでは条件が足りないのかもしれない。
例えば片手剣や両手剣スキルなら、熟練度をカンストさせると滅法強いソードスキルが獲得できるし、変わり種スキルである瞑想スキルだって、熟練度が1000になれば、一戦闘毎に、一度だけ状態異常を無効化するスキルを手に入れられた。
そんな会話をしながら、パクパクとケーキを食べ進め、少し苦味の効いた飲み物で一服してから、ご馳走をしたわけだ。
ユウキ「ってことで、アスナとキリトにケーキを届けるために、今からアスナとキリトのお家に行こう!」
アルファ「りょーかい。一応キリトに連絡入れてから、向かうとするか」
洗い物や食器の片づけなどを済ませた俺達は、ユウキが完成品らしい豪華なホールケーキをストレージに入れたことを確認してから、キリトとアスナの愛の巣に向かうべく、ホームから出発する。
ホームから転移門へと向かって行く最中に、俺がキリトに「今からキリトん家行ってもいいか?」と一言メッセージを送っておいた。こんなメッセージを送るのは、正真正銘現実世界で友達に連絡した以来で、なんだか急に懐かしい気分に襲われた。
俺がキリトに一応連絡を送った理由は、もし俺とユウキが急に押しかけて、キリトとアスナがイチャラブしている最中だったら、こっちも恥ずかしいし、向こうも恥ずかしいだろうから他ならない。
俺とユウキが転移門へと辿り着くころには、キリトから、「了解」との返事が返って来ていたので、俺達はキリトとアスナのホームがあるらしい第二十二層へと降り立つ。
ユウキ「まさか、ボクらがほぼ毎日来てる二十二層に、アスナとキリトのお家があるなんてね。ボク思いもしなかったよ」
アルファ「確かにな。だけど、どうやら俺達が目星付けてたログハウスとは、また別の家らしいぜ」
ユウキ「え?あそこ意外に売り出されてる物件あったっけ?」
アルファ「さぁ?ま、キリトとアスナの愛の力で見つけ出したんだろ」
ユウキ「それじゃあボク達には愛の力が無いみたいじゃん」
アルファ「勿論あるに決まってるだろ。だからこそ、今のギルドホームに出会えたんじゃねぇの?」
ユウキ「…ふふっ、そうだね」
俺達は適当な会話を続けながら、キリトが了解メールを送った直後に追加で送って来たメッセージに従って、フィールドに存在する大きな湖畔を半周し、目印となる立派な杉の木らしき巨大樹の横にある、良く目を凝らさないととても見つけられないような小道というか獣道を進んでいく。
キリトからは、「分かり辛いだろうから、俺が直接案内しようか?」とのメッセージも届いたが、俺は即座に、「お前はアスナとイチャついとけ」とメッセージを返して、その申し出を断っておいた。
ここ二十二層ではフィールド上でもモンスターが出現しないことに加えて、二カ月前ほどに殺人ギルドを壊滅させたこともあり、犯罪件数が大きく減少している。故に身の危険の心配が無い俺は、ユウキと腕を組んで身体を密着させながら、彼らの家を目指している。
片道二十分ほども掛けて、小道を進み、最後に低い丘を登ると、その先には、小さなログハウスが俺達の目に映った。そのこじんまりとしたログハウスは、周囲の自然に違和感なく溶け込んでおり、まるで森の中の秘密基地に辿り着いたような童心を感じさせられる。
ユウキ「ベルは無いから…ノックすればいいのかな?」
俺が彼らの家の外観に感動していると、ユウキは俺を引っ張るようにログハウスの玄関ドアの前にまで移動し、軽くドアをノックした。すると、内側からドアが開けられて、家のからはキリトとアスナがお出迎えしてくれた。
アスナ「ユウキ、アルファ君、いらっしゃい」
ユウキ「おはよ~アスナ」
アルファ「よっ、キリト、アスナ」
キリト「一日ぶりだな、アルファ」
軽く挨拶を済ませてから、とうとういざキリト達のお部屋に入らせてもらう。
キリト達の住むログハウスは、平屋の二部屋で構成されているらしく、玄関から入ってすぐの所にリビング及びキッチンの役割を果たす部屋が、そしてその奥には、彼らの寝室が…あれ?ってことはキリトの奴、アスナと一緒の部屋で寝てるのか?…ということは、毎晩そこで行われていることは?…あとでキリトに聞いてみるか…いや、それは無粋というものだろう。
俺とユウキはソファに腰掛け、アスナが出してくれたハーブ水?みたいな飲み物に口を付ける。そしてユウキが喋り出した。
ユウキ「二人共、すっごく良いお家見つけたんだね!」
キリト「そうなんだけどさ、このログハウス買いに行ったときに、何故かこの家が宙に浮かんでたんだよなぁ」
ユウキ「え!?宙に!?」
アスナ「うん。それはクエストのせいだったんだけど…その過程でアルゴさんに、わたしとキリト君が結婚したことバレちゃったんだけどね」
アルファ「ま、アルゴならむやみやたらと二人の情報を流すことは無いだろうな。…それに、こんな分かりにくい所に家があるなら、問題なくイチャイチャ出来るじゃねぇか。良かったな、二人共」
アスナ「べ、別にわたしとキリト君は、四六時中イチャイチャしてるわけじゃないんだけど!?」
キリト「そ、そうだぞアルファ!確かにイチャイチャしてることは認めるが、エンドレスって訳ではないんだぞ!?」
アルファ「お、おう…凄い喰い付き様だな…」
ユウキ「え?そうなの?ボクとアルファはホームの中だと、よくイチャイチャしてるん──ングッ!?」
アルファ「ユウキ!?余計なこと言うな!?」
アスナ「へぇー…これはあとで、じっくりと問い質す必要があるね~」
ユウキのログハウス賛辞に始まった会話は、俺のキリト達に対する揶揄いへと移行し、そして何食わぬ顔で妙なことを口走ろうとしていたユウキの口を俺が全力で抑えるも、アスナに目を付けられてしまう結果に終わる。
ハァ、と俺が心の中でため息をついていると、ユウキがここを訪れた目的である、大きなホールケーキを具現化させた。
ユウキ「ボク達がアスナとキリトの家に来た理由はね、二人のお祝いの為のケーキを作って来たからなんだ!料理スキルをコンプリートした状態で作ったから、味の保証はあるよ!」
キリト「おぉ!ユウキ、わざわざありがとう!」
アスナ「…でも、わたし達二人で食べ切るには多すぎるかもだから、ユウキとアルファ君も一緒に食べましょ?」
アルファ「あ、あぁ…分かった…」
そう笑顔で言われては、俺も言えなかった。俺は朝から大量のケーキを食しており、あと二週間程度はケーキを口にしなくても生きて行けるぐらいには満足していることを…。
アスナがケーキに合うらしい飲み物を用意してくれている間に、ユウキがホールケーキを綺麗に切り分け、お皿に移してくれる。そして、二日連続で、キリトとアスナの結婚を祝ってかんぱ~い!と唱和してから、俺は気合を入れてケーキを口に放り込んでみた。
…なるほど、失敗作の五倍以上は美味しい。これならば、あと三ホールぐらいは食べられる。そんな調子で瞬く間にケーキを食べ終えてしまった俺達は、コーヒーっぽい飲み物で息をついていた。
アスナ「ユウキの生クリームの表現、わたしよりも上手だよ!どうやって作ったか教えてくれない?」
ユウキ「うん、いいよ!まずは材料なんだけどね──」
と、ユウキが俺には理解できない材料名を述べていき、アスナが何か教えて欲しいことある?とユウキに訊ねると、ユウキが醤油!と答えたのだけはしっかりと耳でキャッチしておいた。
やがてレシピ交換が済んだのか、アスナがストレージから小瓶を一つ取り出して、ユウキと俺に差し出してきた。
アスナ「二人共、これ食べてみてよ。わたしの一番の自信作だから」
そう言われて受け取った小瓶の中には、紫色のドロリとした液体が詰まっている。その見た目からして、まさかアスナまで俺を実験台として利用しようとしているのでは?だなんて疑いが浮かんでくるが、ユウキがその液体を食し、不味そうな反応をしなかったのを見てから、俺も試してみることにした。
そして俺の舌が受け取った、長らく味わっていなかったその風味は…
ユウキ「おぉ!これ間違いなくマヨネーズだよ!アスナ凄いね!」
キリト「だろ?」
アスナ「なんでキリト君が得意げなのよ…アルファ君?そんなしかめっ面してどうしたの?」
それを久しぶりに味わった俺は、しかしやはりこれは、どうにも俺の舌には合わないものだと感じ取り、その味を掻き消すようにコーヒーで口内を洗浄する。そして一呼吸分間をおいてアスナに返した答えは…
アルファ「…ごめん。俺、マヨネーズ苦手なんだ…」
ユウキ「え、そうだったんだ。ボク知らなかったよ」
アルファ「この世界じゃマヨネーズなんて無かったからな。言う必要もないかと…」
こうして、俺の意外な弱点?が露見したことで、キリトとアスナへのお祝い第二弾は終了したのだった。
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アルファ「…キリト、一体どこまで行くんだよ?」
キリト「ここだ、ここ」
ユウキのホールケーキを食べ終えた後、俺はキリトに連れられて、二十二層のフィールドを歩き回っていた。俺からすれば闇雲に森の中を歩いているように見えなかったキリトだったが、彼には彼なりの目的地があったらしい。
そこは、俺が道中に時々目にしてきた湖の中でも一際大きな湖畔であり、キリトはその近くに腰を下ろすと、隣をポンポンと叩いて来る。なので俺もそれに従って、キリトの隣に座り込んだ。
アルファ「ここで何するつもりなんだ?」
キリト「釣りだ」
キリトは徐にストレージから釣竿を取り出し、釣り針に餌をセットして、それを湖に放り込んだ。小鳥のさえずりが聞こえてくる喉かな世界の中で、ポチャン、とウキが水面にぶつかる音が響き渡る。
…何故、アスナとイチャイチャするべきなキリトが、アスナではなく俺と共に行動しているかというと、アスナがユウキと喋りたいことが沢山あるらしく、しかもそれは男子禁制ということなので、仕方なく俺とキリトはログハウスから追い出されて来た、というわけだ。
アルファ「いつの間に釣りスキルなんて登録してたんだ?」
キリト「ログハウスに引っ越してきてから、鍛えかけで放置してた<両手剣>スキルを<釣り>スキルに変更したんだ。食料だって出来るだけ自給自足出来た方がいいだろ?」
確かに、キリトの言う通りである。この世界ではともかく、現実世界では、多くの人々は常に食料を自ら生産することなく、農家やら輸入やらに頼っているが、それではいざ有事の際には、自らの生命線となる食を確保できないだろう。
国家の食料自給率をほぼ百パーセントにすることもだが、国家が破綻してしまった時や、戦火に塗れ国内の農家に頼れなくなった時にでも、食料を確保できるように自分自身で農作物を栽培する必要があるだろう…とまぁ、そんなことは置いておいて、俺はキリトに笑い掛けた。
アルファ「お前両手剣スキルなんて取ってたのか。…まさか、俺に憧れたのか?」
キリト「……まぁ、そうかもな…」
アルファ「え?」
キリト「……そ、そんなことはどうでもいいだろ!?ほら、アルファも釣りしてみろよ!」
アルファ「いや、めっちゃ気になるんだけど、教えてくれよ!?」
キリト「無理だ!!」
俺が冗談半分どころか完全に冗談で言ったはずだったのだが、よもやそれが大当たりで。小恥ずかしそうにストレージからもう一本の釣竿を差し出してきたキリトは、俺がそれから何度尋ねかけても、知らぬ存ぜぬを貫き通しやがる。
なのでまたまた仕方なく、俺はキリトから受け取った釣竿を湖に投げ入れ、魚が掛かるのを待つことにした。…言っておくが、俺は釣りスキルをスキルスロットに登録していない為、魚が釣れることはほぼ無いと思われる。
しばらく無言でウキを眺めていた俺達だったが、ふと、キリトが呟いた。
キリト「……俺達も、随分と遠くまで来たよな…」
アルファ「…と、言いますと?」
キリト「このデスゲームに囚われて早二年。俺はそれまではさ、学校と家を往復するだけの子供だったのに…いつの間にか仲の良い友人が何人か出来て、好きな人も出来て、その人と結婚までしたんだ。…なんだか、現実世界のことが遥か遠い過去のみたいに感じるんだ…」
アルファ「…なるほどなぁ…」
キリトの言わんとすることが、俺も分からないでもなかった。
この二年間の間で、俺はこの世界こそが自分にとっての現実世界であり、元居た世界は、それこそ前世のような遠い昔の記憶であるようにも思える。
しかも最近では、現実世界でのことを思い出す頻度が少なくなったことはおろか、現実世界での記憶を過去のことのように、懐かしむようになり始めていた。
アルファ「…俺も、初めはキリトとアスナが結婚するだなんて、思いもしなかったぜ?ただ、初期から息ぴったりだったから、お付き合いとかはするだろうかと思ってたけどな」
キリト「おいおい、最初からは言い過ぎだろ。そんなこと言ったら、俺だってアルファが初めてユウキを紹介した時、アルファどっかでナンパしたんだな、って思ってたぜ?」
アルファ「ナンパってお前…いや、実際、ナンパみたいなもんだったかもな」
キリト「え?マジなのか?一体どんな出会いだったんだ?」
キリトに笑いながらそう言われて、俺はユウキと初めて出会ったあの日のことを想起し、そう言えば、一度彼女が断りを入れたところに、俺が食い下がって無理矢理彼女とコンビを組んだことを思い出した。
キリトが興味津々にそれについて訊ねてくるので、俺も苦笑いしながら、その当時は攻略組に居たくなかったこと、攻略組から距離を遠ざける合理的な理由として、悪く言えばユウキを利用していたこと、攻略組のヘイトを全てキリトに背負わせてしまったことを悔いていたことなどを交えながら話す。
そしてお返しに、俺もキリトに訊ねたかったことを聞いてみた。
アルファ「キリトって、アスナの何処が好きなんだ?」
キリト「…答えないと、ダメか?」
アルファ「当たり前だ。等価交換だろ。いや、寧ろ俺の方がまだ天秤が上だ」
キリト「……そ、そうだな……一緒に居て楽しかったり、落ち着いたり、顔だけじゃなくて仕草とかがいちいち可愛かったりするのもあるけど…やっぱり一番は、アスナの持ってる芯の強さ、なのかな」
アルファ「…ほぅ…お、ユウキから、女子会終わったって連絡来たぜ。そろそろ愛しのアスナの元へ戻るか?」
キリト「…一言余計な気がするけど、戻ろうぜ」
結局、俺もキリトも大公望を気取るも、餌を無駄にするばかりで一匹も魚を釣り上げないまま、ログハウスへと戻っていくのだった。
次回の投稿日は、12月14日の火曜日となります。
では、また第94話でお会いしましょう!