~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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第95話 真実か地獄か

 ユウキ「アルファ!」

 

 アルファ「おう!」

 

 ユウキが強攻撃を放ち、俺達が相手取っているモンスター…骸骨剣士が、同じく骨だけになった飛竜の背中に乗っている合体型のモンスターである<スカルドラゴンナイト>の行動を無理矢理ディレイさせる。

 その瞬間に、俺は、自身が相手取っていたもう一体のスカルドラゴンナイトに苛烈な蹴りを浴びせ、弾ける様に俺が飛び出し、ユウキとお互いの位置を入れ替える。両手剣から片手剣に、あるいは片手剣から両手剣に、突如として攻撃パターンが入れ替わった俺達に、奴らのAIは勿論追い付けない。俺達の強烈な剣技は、次々とヒットしていく。

 しかし、俺達が奴らに止めを刺す前に、更に二体のスカルドラゴンナイトが、骸骨剣士のギラギラと輝く剣、もしくはスカルドラゴンの鋭い爪を浴びせそうとしてきた。だが、それは俺達の予想通りで、俺は姿勢を極限まで低くし、ユウキは華麗にステップを踏み、それを綺麗に回避する。

 計四体存在するスカルドラゴンナイトを、それぞれ二体ずつ一か所に固め終えると、俺達は連続技ソードスキルを炸裂させた。それによって、四体のスカルドラゴンナイトは一気に撃破され、俺達の目の前にはリザルト画面が表示される。

 

 アルファ「ナイススイッチ」

 

 ユウキ「グッジョブだよ」

 

 勝利のお祝いも程々に、俺達は緊張感を高めながら、第75層の迷宮区最上階を探索していた。節目の層ということもあり、その攻略難易度は非常に高く、迷宮区タワーの内部に潜む敵も、やはり一癖も二癖もある強敵ばかりだ。

 今の所まだ死者は出ていないらしいが、この難易度であれば、いつ死者が出てもおかしくは無いだろう。それは無論、俺達も例外ではなく。ここでは普段よりも緊張した闘いが続いていた。

 ならばどうして俺達が、ついさっきも四体のモンスターに囲まれるという危険な事態に陥ったというのに、たった二人で迷宮区を訪れているのかというと、それは、キリトとアスナという攻略組のトッププレイヤーが、新婚さんとしておやすみしているからである。

 彼らの穴を埋めるべく、普段はトレジャーボックスにしか興味を示さないような俺達も、迷宮区タワーのマッピング作業を行っているというわけだ。

 

 ユウキ「…アルファ、この先…」

 

 アルファ「あぁ…」

 

 迷宮区タワーの空白部分も残り僅か、そんな時に、俺達が突き進んでいった通路で、段々とオブジェクトが重くなる前兆を感じ取った。俺達は更に緊張感を高めながら、そちらへと進んでいく。

 黒く染められた水晶のような、鏡の如く俺達の姿を映し出す回廊は、やがて足元から薄靄を発生させ、遂に大扉を出現させた。

 

 アルファ「…ボス部屋だな」

 

 ユウキ「…ようやくだね」

 

 アルファ「転移結晶で街に戻って、サッサとアルゴに知らせようぜ」

 

 ユウキ「うん。そうしよっか」

 

 二週間余りの時をかけて、ようやくボス部屋へと辿り着いた俺達は、このことを攻略組全体に知らせ、偵察部隊を送り込んでもらうために、転移結晶ですぐに街へと引き返すことにした。

 流石にこの難易度の迷宮を抜け出し、徒歩で主街区にまで帰る気にはなれない。転移結晶を使用して、75層主街区へと戻った俺達は、ガヤガヤと活気のある街の中で、取り敢えずアルゴにメッセージを送った。

 するとキッチリ三十分後、転移門から姿を現したアルゴに俺は話し掛ける。

 

 アルファ「アルゴ、久しぶりだな」

 

 ユウキ「アルゴ!久しぶりだね!」

 

 アルゴ「アー坊、ユーちゃん、久しぶりだナ。…それで、ボス部屋までマッピング出来たんダロ?幾らで買い取ればいいんダ?」

 

 アルファ「タダで良いに決まってるだろ。ほらっ、これがマップ情報だ」

 

 アルゴ「毎度ありがとナ。そんじゃ、オレっちは責任をもって、お偉いさんたちに伝えてくるヨ」

 

 本題を切り出してきたアルゴに価格の提示を求められるも、俺は笑いながら無償でマップデータを提供する。

 …まぁ俺も、トレジャーボックスの位置情報などの希少価値の高い情報であれば、マップデータで商売する気にもなるのだが、攻略の上で必須であるボス部屋の情報までを商売しようとは思えない。

 用を済ませたアルゴは、すぐにその場を去ろうとしていたが、俺がそれを呼び止めた。

 

 アルファ「アルゴ、待ってくれ」

 

 アルゴ「なんダ?欲しい情報でもあるのカ?」

 

 アルファ「ちょっと相談したいことがあってな…」

 

 ユウキ「じゃあその間、ボク、マーケットの方行ってくるね。また戻って来るよ」

 

 アルファ「おう、りょーかい」

 

 アルゴ「…オイオイ、彼女のユーちゃんのこと放っておいて、オネーサンとイケない遊びでもするつもりカ?」

 

 アルファ「するわけ無いだろ…」

 

 市場で何かを物色するらしいユウキの背を見送っていると、アルゴはおどけたように茶々入れてくるが、俺は呆れながら返事を返し、聞きたかったこと…俺にとってはマップ情報以上の本題を切り出す。

 

 アルファ「…アルゴは、キリトとヒースクリフのデュエル見てたか?」

 

 アルゴ「見てたヨ。良いゴシップになりそうだったカラ」

 

 アルファ「じゃあ聞きたいんだけど…ヒースクリフがキリトに止めを刺す一瞬前、時間が止まらなかったか?」

 

 アルゴ「時間が止まる…?オレっちは、そんな風に感じなかったケド…」

 

 アルファ「だったら、アルゴにはなんの違和感もなく、ヒースクリフがキリトに勝利したように見えたのか?」

 

 アルゴ「そ、そうだケド…因みに、時間が停止するってどんな感じなんダ?それにアー坊の言い分だと…ヒースクリフがキー坊に勝ったのが、可笑しいみたいな言い方だケド、どういうことダ?」

 

 アルファ「…こう、俺も上手く言い表せないんだが…ヒースクリフだけが、誰も動けない停止した世界の中で、動いたんだ。…少なくとも俺の目にはそう見えたし、それさえなければ、ヒースクリフはキリトに負けるはずだった…」

 

 アルゴ「フムフム…オレっちがこの目で見たわけじゃないカラ、ハッキリとしたことは言えないケド、それがヒースクリフのユニークスキル<神聖剣>の一部なんじゃないのカ?」

 

 アルファ「…やっぱ、そうだよなぁ…情報料は幾らだ?」

 

 アルゴ「今のは情報じゃなくて、単なる推測ダ。料金は発生しないヨ」

 

 アルファ「そうか、サンキューな」

 

 アルゴ「そんじゃ、オレっちはこれで。またナ」

 

 アルファ「おう、またな」

 

 俺はどうしても、あの日以来ヒースクリフの見せた能力が気になっていたので、遂に情報屋アルゴにそれを訊ねてみたのだが、やはりアルゴも、クライン達と同じくそれに気が付かなかったらしい。

 そして得られた見解も、俺が思い付いていた「ユニークスキル説」であった。だが、なんとなく漠然としない疑問感を抱いたまま、俺はその場で待ち続けていると、すぐにユウキは戻ってきた。

 そしてそれから俺達は、日が暮れるまでの時間をレベリングに費やし、適当な店で晩御飯を食べてから、睡眠を貪ったのだった。

 

 

 

────────────────

 

 

 

 翌日、俺達は普段通り、午前中はレベリングに時間を費やしていたのだが、突如として、午後一時に血盟騎士団の本部に集合するよう、狩場にやって来た血盟騎士団の団員に告げられたのだ。

 驚いたことに、同じ狩場でレベリングをしていた攻略組のプレイヤーの中でも、招集された者と招集されなかった者で分かれたのだが、俺とユウキは、招集された側であった。

 俺はそれになんだか嫌な予感を覚えつつも、午後一時にはユウキと共に血盟騎士団本部へと足を運んでいた。結局、集ったプレイヤーは三十名前後。キリトとアスナは勿論そこにはおらず、代わりと言っては何だが、クラインとエギルがやって来てくれている。ユナとノーチラスの姿は無く、まさかのディアベルの姿までない。HONのメンバーにそれを訊ねてみると、ディアベルは現在、リアルの体調を崩してしまっているらしい。

 …しかし、三十名という人数は、偵察部隊としてボス部屋に入るには多すぎて、かと言ってボス戦本番に臨むには、少々心許ない人数だ。俺はその様子に、言い表せない不安感を更に募らせていると、血盟騎士団の幹部プレイヤー…確か、名前はウザーラだっただろうか…が、壇上に登り、三十人のプレイヤー達に語り掛けた。

 

 ウザーラ「まずは、突然の呼び掛けに応じてくれたことに、感謝する。早速本題に入らせてもらうが──」

 

 ウザーラ「本日午前十時に、五ギルド合同のパーティー二十人で送り込んだ偵察部隊の内、十名が死亡した」

 

 アルファ「なっ!?」

 

 ユウキ「…え…」

 

 ウザーラが悔しそうに発言したことに対して、俺とユウキだけではなく、ここに集ったプレイヤーの全員が、その衝撃的な事実に声を漏らした。

 それも仕方のないことで、これまでの偵察部隊は、例え節目の層であろうとも、一度に十人も死亡するほど危険なものではなかったはずだ。偵察戦による死亡者数が二桁に登るのは、今回が初めてのことである。

 固まる俺達に対して、ウザーラは続ける。

 

 ウザーラ「偵察は、慎重に行っていた。まず最初に十人が後衛としてボス部屋前の入り口で待機し、もう半分の十人が部屋の中央に到達して、ボスが出現する予兆が見えた瞬間…入口の扉が、閉じた。俺達は慌てて扉を開けようと、鍵開けスキルや武器による攻撃を仕掛けたのだが、扉は一向に開かず…ようやく扉が開いた時には、部屋にはボスも十人の姿もなかった」

 

 …有り得ない。その言葉が、何重にも俺の頭の中を反響した。

 ボス部屋の扉は基本的に閉まらず、例え閉ざされようとも、内側若しくは外側から扉を開閉することが可能であったはずだ。そのセオリーが崩れることなど有り得るはずが…いや、ある。何故ならば、74層ではボス部屋自体が結晶無効空間だったのだから。

 

 ウザーラ「消えた十人は、転移結晶で脱出したわけでもなく…生命の碑に白線を刻まれていた…」

 

 ウザーラ「団長の見解によると、ボス部屋は前層と同じく、結晶無効空間、更に、今回はボスが出現すると出入り口の扉も機能しなくなるとのことだ」

 

 ユウキ「…そんなの、無茶苦茶だよ…」

 

 アルファ「…マジのデスゲームになってきたってことか…」

 

 ウザーラの発言を聞いた残りのプレイヤー達は、誰もが絶望に打ちひしがれたかのような表情を浮かべ、数人は後ろ向きな気持ちを言葉にしているほどだった。そんな俺達を鼓舞するように、ウザーラは言葉を発する。

 

 ウザーラ「…75層フロアボス攻略戦では、偵察による情報収集が不可能な以上、選りすぐりの精鋭を集めた、統制の取れる範囲の大部隊でぶっつけ本番を行わざるを得ない。故に、ここに集ってもらったプレイヤー達は、攻略組の中でもトップ層の実力を持つ、トッププレイヤーだと自負して欲しい。ここにいる三十人余りで、フロアボス攻略戦を行おう、というのが団長の方針なのだが、何か異論はあるだろうか」

 

 そう言われては引き下がれまい、という気持ちを表すように、三十名のプレイヤー達は、「やってやんよっ!」とか、「負けてられるかッ!」など、思い思いの言葉を叫び、まるで自分に言い聞かせるように周囲の雰囲気を高揚させていった。

 ウザーラはその熱狂した場を締め括るように、フロアボス攻略戦は、明日の午後一時から行うこと、集合場所は75層主街区コリニア市ゲート前であることを告げ、緊急攻略会議は終了した。KOBの本部を後にした俺は、隣で歩くユウキに訊ねる。

 

 アルファ「こっから、どうする?」

 

 ユウキ「…もう一回だけレベリングしてから、今日はもうゆっくりしよ?」

 

 アルファ「…そうだな」

 

 例え俺達が、今から不眠不休でレベリングを行ったとしても、明日の集合時間までにレベルを上げることは出来ない。

 だけど、76層のことも考えて、俺達は一度だけ狩場にて経験値を蓄積させてから、その日の攻略は終えることにした。今日は早めにデュエルも終えてから、市場へと向かう。

 75層のボス部屋は結晶無効空間らしいので、俺達は回復結晶ではなく、現状最高級の回復ポーションや解毒ポーション、対毒ポーションやらを準備したというわけだ。

 次は俺のコートの耐久値を修復するために、タイラの店を訪れていた。

 

 アルファ「タイラ、コートの修繕頼む」

 

 タイラ「こんにちは、アルファ君、ユウキちゃん。今日はちょっと早いんですね。今からデートですか?」

 

 ユウキ「ううん、明日はフロアボス攻略戦だから、今日は早めに切り上げたんだ」

 

 タイラ「それは答えになってませんよ。つまり、この後デートなんでしょう?」

 

 アルファ「…おい、無駄口叩く暇があんなら、サッサと仕事しろ」

 

 タイラ「はいはい。分かりましたよ」

 

 いつも通りタイラとは軽口を叩き合いながら、しかし何故かいつもこちらの考えていることを読まれてしまうのは摩訶不思議な話だけれど、兎に角タイラには黙って仕事をしてもらうのが一番だと、俺はそう要求する。

 やがて修繕を終えたらしいタイラが、俺に支払代金を求めてきたので、俺も素直にそれを払ってから、タイラの店を後にしようとしたのだが…

 

 ユウキ「それじゃ、また今度ね」

 

 タイラ「…次は七十五層でしたよね。…気を付けてくださいね」

 

 アルファ「おいおい、明日雨降ったらどうするんだよ」

 

 タイラ「…偶には僕の善意を好意的に受け止めてほしいんですが…」

 

 アルファ「…ま、サンキュー。あんまり心配すんな。また明日も明後日も顔出してやるからさ」

 

 タイラ「…そうですか。では、頑張ってください」

 

 珍しくタイラから心配されて、こちらも明日が命日になるなのではないかとヒヤヒヤさせられてしまうのだが、まぁ、厚意は有難く受け取っておいた。でも、次に訪れたリズベットの元でも似たようなことを言われて、なんだか、いつの間にか俺のことを心配してくれる人が、この世界にも出来たんだな、と、ちょっと感慨深い気持ちになったりする。

 明日の準備を済ませた俺達は、それからは夕暮れまでの少しの間、行ってみたかった観光地に繰り出していた。やがて日暮れの時になり、今日はユウキがご飯を作ってくれるということなので、俺達はギルドホームへと戻って来ていた。

 

 アルファ「おぉ、今日はすき焼きか!」

 

 ユウキ「うん!アスナが完璧な醤油の作り方を教えてくれたからね。色んな醤油料理が作れるようになったんだ!」

 

 アルファ「では、いつの日かラーメンをお願いします」

 

 ユウキ「いいよ!」

 

 ユウキの作ってくれたすき焼きは、俺達がお気に入りの店で食べられるすき焼きよりも何倍も美味しくて、俺達は夢中で箸を進めていた。

 やがてお鍋の中もあと残り少なくなり、俺達はほぼ同時に残り一つとなった焼き豆腐っぽい何かに箸を伸ばした。

 

 アルファ「…最初はグー」

 

 ユウキ「じゃんけんポン!」

 

 アルファ「なん…だと…!?」

 

 ユウキ「遂にアルファも運の尽きだね」

 

 まさかのジャンケンに敗北した俺は、ケラケラと笑うユウキに、最後の焼き豆腐を奪われてしまった。俺はそれを悲しく思いつつも、残りのすき焼きをたらい上げて、美味しい晩御飯を食べ終えた。

 食後のティータイムをユウキと共に楽しんでいると、ユウキが思い出したように、俺に問い掛けてくる。

 

 ユウキ「そう言えば、アルゴに相談したことって、なんだったの?」

 

 アルファ「あ~…ユウキって、ヒースクリフとキリトとのデュエルで、違和感なかったか?」

 

 ユウキ「……」

 

 アルファ「ゆ、ユウキ?」

 

 確かに、ユウキに聞いてみるのもアリだよな、と思った俺は、それを訊ねてみたのだ。するとユウキは一転して、真剣な表情で俯いた。しかし、やがて意を決したような表情で、俺に告げる。

 

 ユウキ「……うん、違和感あった。キリトがヒースクリフに止めを刺す瞬間に、時間が止まったんだ。だけど、その中でヒースクリフだけが動いてて…」

 

 アルファ「や、やっぱり、ユウキもそう見えたのか!?」

 

 ユウキ「うん。ボクにはそう見えたよ」

 

 アルファ「でもさ、クラインとエギルは気にして無さそうだったし、他の観客だってそれが見えてなかった…アルゴも気が付かなかったらしいし…やっぱユニークスキルの力か…」

 

 ユウキ「……う~ん…でも、そんな、全員が全員認知出来ないスキルだなんて、ちょっとズルくない?そんなの、対応できる人とできない人に分かれちゃうじゃん」

 

 アルファ「いや、でもそれがユニークスキルスキルだろ?ユウキだってその内最上位スキルが開花したら、そんぐらいぶっ壊れの──」

 

 その時、俺の頭に稲妻が走った。ユウキが何気なく放った、その言葉──

 

 ──全員が全員認知出来ないスキルだなんて、ちょっとズルくない?

 

 ──…ズルい?ズルくない…?……いや、そもそも、人によって認識に格差が生まれるスキルなんて、許されるのか?少なくともクラインとエギルは俺達と同じ攻略組なわけだし、レベルもスキル熟練度も十分だろう。なのに、その域を超えてまで認知を揺るがすスキルなんて…許されないのでは?

 …そもそも、SAOは公平性が限りなく追及されていると、紛れもないシステム開発陣の一人だったらしいヒースクリフがそう言っていたのに、それじゃあアンフェアじゃねぇか?あんな時間停止…ユニークスキルなんかじゃ収まらないもので…スキルとして以上のものでしか…無い?

 俺はその答えを確かめるべく、ユウキにもう一つ訊ねる。

 

 アルファ「……な、なぁ…ユウキ。ユウキなら、ヒースクリフのあの一撃、躱せたか…?」

 

 ユウキ「…ん~…目には追えるけど、多分無理だよ。認知は出来るけど、身体は動かせ無さそうかな。現にあの時、一ミリも動かなかったし」

 

 …だったら、だとしたら、あれはスキルじゃなかった?ならば、あれは…システムへの干渉?システムの開発陣だったヒースクリフなら、それも出来るのかもしれない……いや、そもそもそれが出来るのは、もうこの世界ではたった一人…茅場晶彦だけなのでは…!?

 …ま、まさか!?……待て、落ち着け落ち着け。普通に考えて、茅場晶彦がヒースクリフは可笑しいだろ。流石に考えがぶっ飛び過ぎだ。

 

 アルファ「…茅場晶彦=ヒースクリフ説」

 

 ユウキ「……え……?」

 

 アルファ「流石に、無いよなぁ…」

 

 ユウキ「……どうだろうね。確かに、あれがシステムによる瞬間移動とかだったら、ボクも納得いくけど…」

 

 アルファ「…マジ?」

 

 ユウキ「うん」

 

 ユウキの真面目な表情を受けて、俺はもう一度それを吟味してみる。

 茅場晶彦=ヒースクリフ説…確かに、この可能性がゼロであるわけではない。疑いようを持つだけの材料があるのだから。

 だが、ならば何故、ヒースクリフはあそこでシステムに干渉したというのだろうか。それを考えた時に、ふと俺の頭に思い浮かんだ光景は…夢見の館のダンジョンボス。不死の存在というシステム的な保護。

 あのボスは、体力が半分…つまり、イエローゾーンに落ち込む寸前で、保護コードを発動させた。思い返せばヒースクリフも、体力がイエローゾーンに落ちる寸前に闘いのリズムを崩した。

 ……それは、システム上の保護が露見するのを避けたかったからでは?

 …まぁ、その可能性もあり得るっちゃあり得るだろうけど…SAOの理念であるフェア精神に反したアンフェア過ぎるあの出来事、この目で確かめた世界の停止、システム的保護の可能性…これら三つの要素から、ヒースクリフが茅場晶彦…あのはじまりの日に、今やこの世界をコントロール出来る唯一の人間だと宣言したことから…と考えているのだが、やはり決定的な根拠としては弱すぎる。

 故に、俺が選んだ答えは──

 

 アルファ「…よし、確かめてみるか」

 

 ユウキ「…え?」

 

 アルファ「実際に、ヒースクリフの体力が半分以下になるのか確かめてみようぜ」

 

 ユウキ「ど、どういうこと!?」

 

 アルファ「えっと──」

 

 困惑するユウキに対して、俺は今自分が考えている、ヒースクリフ=茅場晶彦説を支える三つの根拠があること、それを確かめるためにはヒースクリフの体力が半分以下になるか否かを確かめる必要があることを伝える。

 

 ユウキ「め、滅茶苦茶だけど、確かに筋が通ってるんだね…」

 

 アルファ「まぁな。ただ、もしもこの推論が正しければ、俺達は茅場晶彦の不正を見破れるわけで、そしたらアイツから何らかの補填が貰えると思う。…だって、ヒースクリフ自身が、この世界は公正に出来ているって言ったんだからさ。その公正さを自ら崩して、それを看破された以上、アンフェアを是正する必要があるだろうからな」

 

 ユウキ「…なるほど…でも、どうやって?」

 

 …そう。彼女の言う通り、確かめるにしても、肝心の方法が思い付かない。

 ヒースクリフにデュエルを申し込んだとしても、追い詰めたところでキリトと同じようにシステムに干渉されるだけだろうし、かと言って不意打ちをするにしても、ヒースクリフは血盟騎士団の団長であるため、圏外で一人行動することはまず無いだろうし、配下に阻まれるという結果に終わるに違いない。

 だからこそ、俺の無い頭で捻り出した作戦は、こうである。

 

 アルファ「明日のボス戦で、多分ヒースクリフも相当消耗すると思うから、そのボス戦終了後に、コッソリ襲撃するか。そしたら、ヒースクリフもシステムに干渉する暇が無いだろうから」

 

 ユウキ「…うん……でも、それってアルファ一人でやるの…?」

 

 アルファ「…いや、もうユウキに黙って無茶はしないって、約束したからな。俺一人じゃ無理かもしれないし、死角からユウキに斬りかかってもらいたいんだけど…もし、これが俺の単なる妄想に過ぎなかったら、俺達はトッププレイヤーから一転して犯罪者扱いになると思う。それでも良いって言ってくれるなら、俺と一緒に地獄に落ちてくれないか?」

 

 俺が笑いながら手を差し伸ばすと、ユウキはクスクスと笑ってから、しかし俺の手をしっかりと掴んだ。そして彼女は、俺に対してこう告げる。

 

 ユウキ「…最悪の口説き文句だね。でも、ボクとの約束守ってくれたこと、凄く嬉しかったよ。ボクはアルファとなら、地獄にだって行くからさ」

 

 アルファ「…そうかよ。そんじゃあ、よろしく頼むぜ」

 

 そうして、俺達は悪魔的な作戦を打ち立ててから、明日のフロアボス攻略戦に備えて、眠りについたのだった。

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 心地良い微睡の中で、ふと、俺は意識を取り戻した。朝の日差しを感じる中、ゆっくりと目を見開くと、そこには俺よりも少しだけ早く起きていたらしい彼女がいる。

 あの日以来、俺は毎晩ユウキの部屋で眠っているのだが、最早最近では、彼女無しにベッドで眠ることなど考えられないようなところにまで堕ちている気がする。

 …こう、目覚めた時に、ユウキが目の前に居て、しかもユウキの優しい香りが空間中に広がっているこの感覚が…あれ?もしかして俺って匂いフェチだったりするのか?

 俺が自分の意外なる一面に気が付こうとしていると、ユウキが微笑みながら話し掛けてきた。

 

 ユウキ「おはよ、アルファ。ボクはまだアルファの寝顔見足りないから、もうちょっと眠っててもいいんだよ?」

 

 アルファ「おはよう、ユウキ。人の寝顔なんて見るもんじゃねぇよ」

 

 朝の挨拶を交わすも、お互いに真逆の答えを返してから、俺達はお互いのおでこをコツンとくっつけて、真正面に向かい合う。

 俺が優しく髪を撫でると、ユウキは気持ちよさそうに俺の胸に顔を埋めた。ひとしきり二人だけの時間を過ごして、俺達はようやく布団から身体を動かし、ベッドに座り込んだ。

 …今日は、75層のボス戦か…。俺は当日になってようやくその事実を認識し、25層、50層以上に厳しい戦いとなるであろう戦場を予感して、その時には既に、自然と口から言葉が零れ落ちていた。

 

 アルファ「なぁ…もう、ボス戦に参加するの、辞めないか?」

 

 ユウキ「…どーしたの?」

 

 恐らく、俺の心中を察しているであろうユウキは、いつもよりも優しい声色で、俺に訊ねてくる。俺は彼女の優しさに甘えて、言葉を続けた。

 

 アルファ「…やっぱりさ、最前線に出てたら、多かれ少なかれ中層で活動するよりも死亡率は高いだろうし…それに、今回のボス戦なんて、偵察もろくに出来てない状態で挑むだろ?しかもボス部屋から逃げ出せない仕様だなんて、もしかしたら…俺も、ユウキも死ぬかもしれない……俺は、ユウキが死ぬのが怖い。死んでほしくない。だから、もう攻略組だなんて危ないことは辞めて、中層でゆっくり暮らさないか?…ずっと、こうやってさ、ゆっくり、穏やかに…」

 

 ユウキ「…アルファ…」

 

 長々と情けない言葉を放ち、逃げ腰を見せた俺に対して、ユウキはそんな俺の弱さをも包み込むように、自らの胸に俺の顔を抱き寄せた。そして、俺の背中をゆっくり摩りながら、穏やかに言葉を送ってくれる。

 

 ユウキ「……アルファがそう言ってくれて、ボクも嬉しいよ。ボクも、出来ることなら、ずっと、アルファとそうやってゆっくり過ごしてたいんだ。ちょっと前まではね、ボクもそれを切り出そうか迷ってたんだよ?もう、ずっとこの世界で暮らしてても、いいかなって…。…でもね、ボクは最前線に立ち続けないと、ダメなんだ。きっと、この世界には、現実世界に帰りたい人たちもいるだろうし、現実世界でこの世界にいる人達のことを待っている家族とか、友達がいる人も居るはずなんだ。……だから、ボクは今日も、フロアボス攻略戦に参加するよ」

 

 まるで、自分はそれに該当しないような言い回し。しかし、俺はそれに気が付くことなく、ユウキの決意を聞いて思ったことをそのまま、口に出した。

 

 アルファ「……ユウキは、強いんだな…」

 

 ユウキ「…確かに、ボクは強くなれたのかもしれない。…でも…この強さをくれたのは、アルファなんだから。アルファは、ボクなんかよりもずっと強いよ…」

 

 …そうだ。俺は、ユウキの為に剣を振るうのだ。オウガとサツキは、俺にユウキを守れと、ユウキと共に生きろと、そう俺に託したのだ。であれば、ユウキが最前線に立ち続けるというのならば、俺も共に最前線で闘い続けよう。

 俺は、彼女の小さいながらも柔らかい感触を感じる胸から顔を離して、彼女の瞳を真っすぐ見つめて、答える。

 

 アルファ「…サンキュー。俺、ちょっと弱気になってた」

 

 ユウキ「どういたしまして。それに、今日はボス戦後にもやることあるんだから、ちゃんとフロアボス攻略戦には参加しないとね」

 

 アルファ「だな」

 

 そうして、俺達はベッドから降りて、朝ご飯を食べたり、予備の装備で軽いウォーミングアップをしたりしながら、午後一時を迎えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 さて、アルユウの作戦は成功するのかどうか…。

 次回の投稿日は、十二月十八日の土曜日となります。

 では、また第96話でお会いしましょう!
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