~SAO with Yuuki~   作:うずつるぎ

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第97話 二人の勇者

 アルファ「…」

 

 ヒースクリフ「…」

 

 俺達は一歩も動きを見せないまま、時は刻一刻と過ぎていく。…キリトの剣速に喰らい付いていた以上、奴の反応速度は俺と同等かそれ以上だと考えるのが妥当だ…ならば、最初手は…!

 遂に、ヒースクリフがこちらへと突っ込んできた。身体は盾で覆い隠されており、その初動は伺えない。俺は回り込むように足を動かして、それに合わせて予想どおり突き出された、ヒースクリフの大盾による薙ぎ払いを屈むように回避し、膝目掛けて両手剣を振り払う。

 しかし、それはヒースクリフの身躱しによって虚しくも回避された。続けて振り降ろされた剣を、俺は舞うように躱して、そのタイミングで両手剣を片手剣に変形し、ヒースクリフの顔に突き刺そうとしたのだが…ヒースクリフはそれをもギリギリで回避し、頬を掠めるに留まる。

 そこで一旦距離を置いた俺達は、再びジッと構えを取る。

 

 ヒースクリフ「…ほう、思ったよりもやるようだな。しかし、何故両手剣が片手剣に?」

 

 アルファ「企業秘密だ」

 

 今度こそ、俺がヒースクリフを殺す為に縦横無尽に剣を振るったが、それは大盾でしっかりと封じられ、代わりに奴の剣が俺を切り裂こうとしてくる。俺は剣を横腹に掠め、少量のダメージを負うも、負けじと剣をぶつけ続ける。

 大抵の攻撃は、奴のガッチリとした大盾で防がれてしまう。がしかし何度かに一度は、その盾を潜り抜けて、奴の身体に剣を捻じ込める…と思っていたのだが、奴は器用にも、右手に持つ片手剣で俺の剣をいなした。

 自ら挑んだ剣戟は、結局俺の体力を減らすだけに終わったが、それは無駄にはならない。突如として、俺がその場から逃げ出すように背を向けると、ヒースクリフは想定通り俺の背中を追い掛けてきたが、俺はその過程で足元に、複数の煙玉を投げつける!

 

 ヒースクリフ「むっ…」

 

 フロアボス戦を第一に考えていた為、いつもよりも小道具の数は少ないが、使えるものは何でも使って行く。濃煙に紛れて、ヒースクリフがいるであろう位置目掛けて投げピックを流れるように投擲し、その内の幾つかをヒットさせた。

 そのヒットした位置からヒースクリフの現在地を考慮し、片手剣を走らせると、見事に俺の剣がヒースクリフの背中を斬り付けた。直後カウンターのように放たれた奴の剣はしっかりと回避し、そこでようやく煙が晴れ始める。

 現状、俺もヒースクリフも残り体力は四割ほどだ。

 

 アルファ「シッ!!」

 

 やっとこちらの位置を把握したらしいヒースクリフには、素早く追加で投げピックをプレゼントしておいて、奴に積極的なアクションを取らせない。投げナイフには毒を仕込んであるが、ヒースクリフはタンク職だ。状態異常を期待できる相手ではないだろう。

 晴れた煙の中から姿を現したヒースクリフは、先程までの余裕気な表情をその顔から消し去り、それは真剣そのものであった。俺は再三に渡りヒースクリフに剣と剣の結びを仕掛ける…と見せかけて、ストレージの所持容量ギリギリで格納していた閃光弾を取り出し、それを爆発させた。しかし──

 

 アルファ「ガァッ!?」

 

 一時的に視界が機能しなくなったはずのヒースクリフが、何の迷いもなく俺の身体に剣を突き出してきた!?確実にこちらのペースに持ち込んでいたと思い込んでいた俺は、ヒースクリフの攻勢を想定出来ず、左腕に奴の剣を直撃する。続けて放たれた奴の剣は、緊急的にバックステップを取ることで、何とか回避に成功した。

 一気に体力が三割を切った。死を予感し、額から汗が零れ落ちる。手汗が滲み、呼気が荒くなる。だが、焦りはしない。焦燥の先にあるものそれすなわちれすなわち敗北でしかないことを、俺はPoHとの死闘で学んだのだから。

 …どうやら、ヒースクリフは大盾で影を作り出し、閃光を直接目に浴びなかったらしい。なるほど道理であの眩い光を浴びようとも、こちらの姿を捉えられたわけだ。

 …俺が使える小道具による搦手は全て使ってしまった。ならば、次に俺が繰り出す作戦は──

 

 キリト「アルファ!ダメだ!!」

 

 アルファ「…」

 

 俺は、こちらへと間合いを詰めようとしてきたヒースクリフに対して、片手剣最上位スキル<ノヴァ・アセンション>の初動モーションを見せた。

 このソードスキルは、全十連撃に及ぶ片手剣スキル屈指の連撃技で、一撃目に繰り出される上段斬りの出が非常に速いことに定評がある。俺の太陽の戎具はグリーンカラーのライトエフェクトを集約させていく。

 俺を見たヒースクリフは、その顔に嘲笑を浮かべながら、盾を構えた。キリトの叫び声が聞こえてきたが、俺は無表情を貫いたまま、それを辞めることはしない。奴の俺を見る眼は、失敗から何も学ばない愚者を見るようである。だが、俺は極めて冷静だ。俺はノヴァ・アセンションが発動する直前で…っ!

 

 アルファ「ハァァァアッ!!」

 

 ヒースクリフ「な、なにッ!?」

 

 ソードスキルの発動をキャンセルし、代わりに発動したソードスキルは…発動までのタメがほとんどない突進系ソードスキル<ソニックリープ>だ。ソニックリープは技後硬直が短いというメリットがある一方で、その軌道は読まれやすい。

 だが、ノヴァ・アセンションが来ると完全に勘違いしていたヒースクリフは、その初撃に対応するために、若干盾を上向きに構えていたのだ。彼が地を這うように下段から斬り上げられるソニックリープを防ぐのには、ワンテンポ時間が必要であった。

 しかし、そんな余裕などあるはずもなく、ヒースクリフが下段へと盾を戻す前に、俺のソニックリープは奴の大盾を掻い潜って、ヒースクリフの身体に食い込んだ!

 ヒースクリフは右手の剣でその勢いを削ごうと試みるも、システムアシストによってブーストされた一撃に対しては効果が薄く、奴の体力は遂に二割に落ち込む。

 

 俺はここで一気に勝負を決めるべく、大盾の内側に入ったまま剣撃を畳み掛けようとしたのだが…ヒースクリフはこれまで使ってこなかった、体術スキルを利用した強烈な前蹴りを俺の腹にぶち込み、俺から無理矢理距離を取っきた!

 

 ヒースクリフ「フンッ!!」

 

 アルファ「ぐッ!」

 

 ヒースクリフは、これまでのフロアボス攻略戦に置いて一度も体術スキルを使ってこなかったこともあり、彼が体術スキルを持っているとは知らなかった俺は、咄嗟に対応不可であった。吹き飛ぶように後方へと宙を舞った俺は、空中で体勢を整え直した。地に足を付けて急ブレーキを掛けながら、投剣スキルを発動させ…片手剣を奴に投げ付ける!

 投剣スキルは基本的に、投げピックや投げナイフなどの小物だけが、ソードスキルを発動させる対象として認知される。だが熟練度をカンストさせると、両手剣や両手槍、片手斧に片手剣などのメインアームもその対象に加えられるのだ。

 体術スキルを発動させたせいで、僅かな技後硬直に遭っていたヒースクリフはそれを理解していようとも、回避する暇は無く、奴は無理に大盾で俺の片手剣を受け止めるが、スキルにより威力をブーストされた片手剣は思いの外重かったらしく、奴は顔を顰めながら、腕に痺れが走ったようにその動きを止めていた。

 

 ヒースクリフ「…くっ…」

 

 アルファ「ハッ!!」

 

 その間にも、俺は素手の状態で再び距離を縮め、身体の自由を取り戻したヒースクリフが、慌てて振り放ってきた剣は…恐らく、奴も知らないであろう銀色の指輪による武器の呼び戻し機能を利用した、突発的な片手剣の出現により、軌道を逸らす。

 奴の剣は俺の右肩を掠めるだけであり、致命の一撃とはならない。対する俺の突き出した剣は、ヒースクリフの喉元を──貫通することは無く、それは奴が咄嗟に首を動かしたことで、掠めるだけに終わった。

 

 ……やはり、反応速度は奴の方が上か!!

 

 お互いの体力が残り一割を切る。この死闘もラストスパートへと突入していく中で、俺は持てる力の全てを振り絞る。俺とヒースクリフの剣がぶつかり合い、火花が辺りを照らし出す。お互いが剣を躱し躱され、空気を切り裂く。

 この極限的な死闘の中で、PoHとの殺し合いで感じたような血沸き肉躍る高揚感が俺の身を包み、動きが洗礼されていく。だが、その狂熱に支配されることは是としない。心は熱くとも、頭脳は常に冷静に…俺と相対するヒースクリフの表情も、最早いつになく全力であろう。

 ヒースクリフの方が反応速度が速いのならば、俺はその一手先を読んだ動きをするまでだ!それは、俺が日々、ユウキの圧倒的な反応速度に対応するために、二年の時を費やして練り上げてきた力そのものである。その中でフェイントも織り交ぜ、二人はお互いに剣を直撃することなく、僅かに剣が身体に食い込むだけの、乱舞のような剣の応酬が続いた。

 残り18%…17%…15%…より深く死に近づいて行く中で、俺はヒースクリフの微妙な癖を把握していく。俺の剣は奴の大盾を乗り越え、だが奴の片手剣によっていなされ、逆に俺の身体には、奴の剣が触れる。それが一方的に、続いていく。

 

 アルファ「……くそッ……」

 

 ……恐らく、もしヒースクリフの武器が、頭陀袋の男のようにダガーだったり、PoHのように片手斧ほどもある包丁であったり、ユウキのような細身の片手剣であったのならば、例えヒースクリフの方が反応速度が速かろうとも、ユウキと積み上げてきた先読みの力で、十中八九で俺の勝利が確定していたのだろう。

 だが、不幸かな。奴の装備は、片手剣と大盾…それは、俺が今までに相対したことの無い装備パターンであった。それだけが、唯一俺の見落としていた点であったのだ。

 しかし、そのたった一つが致命的だ。先程までは焦りを募らしていたはずのヒースクリフの表情に、勝利を確信した得意げな表情が浮かび上がる。

 

 ヒースクリフ「…認めよう、アルファ君。君は確かに強かった。…だが、一番必要なもの…反応速度だけが、足りなかったのだ」

 

 俺は、ヒースクリフの鉄壁を破れなかった。これまで相対してきた彼らは、盾持ちでは無く、攻撃特化であった。片手剣一本で闘うユウキとのデュエルが、無意識のうちに、俺の頭から盾持ちという存在を排除してしまっていた。

 が故に、俺は盾持ちとの殺し合いというものを、理解できていなかったのだ。だからこそ、反応速度に劣ろうとも、予測力で上回るはずの俺の剣は、鉄壁の防御を誇るヒースクリフに直撃を与えられない。ジワジワとこちらの体力が削られていく。

 遂にヒースクリフが俺の動きの癖を捉え、奴はあと体力を一割残した状態で、残り5%程しか体力の残っていない俺に剣を振り放った。

 ……その時、俺の剣は、無情にもヒースクリフの大盾に弾かれていた。

 

 防御が、間に合わない。

 

 回避も、間に合わない。

 

 最善は、尽くした。

 

 だが、俺の負けだ。

 

 やがて、ヒースクリフの剣が俺の身体を深く斬り裂き、俺の体力がゼロへと至る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒースクリフ「……なんだ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ことは、なかった。

 

 何故かは分からない、だが俺の身体は、先のヒースクリフのように見えない障壁…ではなく、半透明の障壁に覆われており、俺に振り放たれた致命の一撃は、それに弾かれる形で、完全に無効化されたのだ。

 ……一体、何が起きた?目の前にいるヒースクリフも、謎のバリアを発動した俺も、まるでその状況が理解できなかった。

 

 だが、不意に「それ」を目にする。

 

 急速に減少している一本のHPバーが一つ、俺の視界に入ってきた。しかしそれは俺のものではない。

 ………それは、彼女のHPバーであった。数秒のタイムラグの後に、それに気が付いた俺は、ヒースクリフとの死闘など忘れ去り、死闘の中で高まり続けた高揚感など瞬時に離散してしまい、真っ先に彼女が居るであろう方角へと、駆けた。

 

 アルファ「ユウキッ!?ポーションだ!は、早くっ!!」

 

 僅かながらの移動時間の間に、素早くストレージから取り出した回復ポーションを、遂に間近にまで寄り添ったユウキに差し出す。

 しかし、麻痺状態で動けない彼女は、俺に手を伸ばすことが出来ない……いや、そもそも、手を伸ばそうとしていない。俺を真っすぐと見つめる彼女の瞳が、そう言っている。HPバーの下降は止まることを知らず、それはやがて、極自然にゼロへと至った。

 

 ………なん……で?

 

 理解できない、理解したくない事実が、それに伴って響き渡る疑問符と共に、俺の頭の中で暴れ回る。そんな俺の顔を、ユウキは随分と穏やかに眺めていた。

 ユウキは変わらず俺に微笑みかけながら、いつも通り俺を茶化すように、ゆっくりとその口を動かした。

 

 ユウキ「……言ったでしょ?アルファが死んじゃったら、どうなっても知らないよ、って…」

 

 アルファ「……噓……だよな…?」

 

 ユウキ「…アルファ、ヒースクリフに勝──」

 

 パシャーン。

 

 俺がこの世界に来て以来、何度も何度も…もう、何十回、何百回、何千回と耳にしてきたそのポリゴン片が崩壊する音は、今この時だけは、特別な音色に聞こえた気がした。

 これまで幾度となく、俺がなぎ倒してきたモンスターや殺害してきたプレイヤー達と同じく、彼女は虹のように美しいポリゴン片へと変化し、その場から跡形もなく消え去った。

 必死に彼女の残滓を掴もうと腕を伸ばすが、ポリゴン片は俺の腕を透過していく。

 

 頭が真っ白になった。

 

 もう何も考えられない頭の中で、しかし彼女の名だけは、その空っぽの頭に浮かび上がってくる。まるで彼女に返事を求めるように、酷く枯れた声で、俺は彼女の名を呟く。

 

 アルファ「…………ユウキ……?」

 

 だが、彼女はもう、何も答えない。

 

 だって、彼女はもう、死んでしまったのだから。

 

 俺はその事実を、そこでようやく認識した。

 

 ……還魂の聖晶石……は、俺なんかのせいで、もう無くなったんだった……。

 

 じゃあ、もう彼女は本当に、戻ってこない……?

 

 俺のせいで……?

 

 うん、俺のせいで。

 

 …そうだ。俺のせいで、彼女は死んだんだ。俺が弱かったから。俺が強くあれなかったから…俺が、ユウキを殺したんだ。

 …あんなに、精一杯世界を生きていたのに、とっても楽しそうに毎日を過ごしていたのに、その掛け替えのない全部を、壊したのは紛れもない俺だ……。

 

 深い、深い絶望へと誘われそうになる。

 

 彼女の名を、無性に叫びたくなる。

 

 獣のように慟哭を上げたくなる。

 

 だけど、こんな俺に絶望する資格なんて無いから、彼女の名を呼ぶ資格なんて無いから、泣きじゃくることなんて許されないから。俺はこれからずっと、この空っぽの心を抱いて──いや、俺はきっと耐えられない。

 …だって、俺はどうしようもない程に、弱いから。この空虚と罪の重さには、耐えられない。……だから、もう、終わりにしよう。

 

 ヒースクリフ「…本当に、今日は驚かされてばかりだ。キリト君の洞察力といい、君やアスナ君の行動といい、ユウキ君の見せた謎の力といい……。<月光>スキルには、あのような性能は無かったはずなのだがね」

 

 ヒースクリフはまるで、ユウキの死そのものが、娯楽の対象でもあるのか思えるほど、大袈裟な身振りで両手を広げ、大層愉快そうに薄く笑っている。

 ……コイツが、ユウキを殺したのでは?あぁ、コイツが、ユウキを殺したんだ!!お前のせいで、ユウキが死んだんだ!!

 そんな情けない責任転嫁により、止め処もない激昂が、俺の身体の淵から浮かび上がって来た。そしてそれは、俺の頭の中を真っ赤に染め上げ………られない。頭の中は、依然としてがらんどう色だ。

 

 もう、そうしてまで、己を奮い立たせる原動力が、無いんだ。

 

 俺は、何にしても、君の為に生きていたんだ。

 

 だから、君のいない世界では、俺が生きる理由を見つけられない。

 

 アルファ「…ハハッ…」

 

 心と行動が乖離していた。

 

 心が、崩れる音がする。

 

 君の為に生きていた俺が、最後には君を殺してしまって…こんなことが、有り得て良いのだろうか。笑って、嗤って、哂うしかない。最愛の君を殺したのが自分自身だと知って、心が甲高い悲鳴を上げている。それを直視すれば、耐えられなくなる。だから哂って誤魔化そう。

 

 ねぇ、答えてよ。いつもみたいに、俺の隣で笑ってよ。嬉しそうな顔を見せてよ。愛を囁いてよ。なんでもない話で良いんだ。だから、俺にその声を聞かせてよ。

 

 ねぇ……ねぇ…………お願い……お願いだから……もう一度だけでいいから……そうしたら、俺、あと少しだけ頑張れる気がするんだ……。

 

 ヒースクリフ「……さらばだ。アルファ君……」

 

 決して涙は流せない。だけど、涙を流す以上に凄惨な表情を浮かべながら、俺は君が最期に居た場所に、何もつかめなくとも手を伸ばしていた。いつの間にか膝から崩れ落ちていたらしい身体は、もう動かない。

 失念したような表情を浮かべたヒースクリフは、心の死んだ俺に、安直に剣を振り降ろそうと、剣を高々と掲げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──刹那。俺は、彼女が最期に残した言葉を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ヒースクリフに勝って──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルファ「……そうだ……そうだっ!俺はッ!俺はまだッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルファ「闘えるッ!君に闘う意味を見出せるッ!!」

 

 ヒースクリフ「…ほう…」

 

 …そうだとも!!

 

 まだ俺に生きる意味はある!彼女が俺に託した最期の願いを履行するまでは、俺はまだこの命を諦めるわけにはいかないのだ!今ここで燃え尽きてしまっては、それこそ彼女の意思と命を蔑ろにすること他ならないのだからっ!

 

 アルファ「らああああああッ!!」

 

 俺はただ、彼女が送ってくれた言葉を果たすためだけに、再び剣を握り、ヒースクリフに剣を振り抜いた。俺の持てる限りの想いと力を、このヒースクリフとの剣戟に込める。間違いなく、俺の人生で最高の一撃、二撃、三撃……俺は、最初で最期の全力を注いだ。

 だが、それでもヒースクリフの反応速度には、追い付けない。ヒースクリフの喉元に、俺の剣は届かない。俺に止めを刺すべく薙いで来るヒースクリフの剣を躱し、掠め、俺の命を燃やす炎の猶予は刻一刻と迫る。

 

 アルファ「…クソがッ…!」

 

 ヒースクリフ「もう諦め給え。君に勝利は無い」

 

 ──ダメだ。

 

 こんなんじゃ駄目なんだ!やっぱり、俺の速さじゃヒースクリフに届かない……ならばせめて、俺にもう一本剣があれば?…いや、二本なんかじゃ足りない…俺はキリト程、速くはない。……だから、だからっ!

 

 ──だから俺には!三本必要なんだッ!!

 

 ようやくその答えに至った俺は、ふと頭の深奥にある日の出来事を思い浮かべ、不意に大声で叫んだ。

 

 アルファ「オウガァ!サツキィ!居るんだろ!?だったら俺に力を貸してくれェ────ッ!!」

 

 ヒースクリフ「──なッ!?」

 

 まるで、俺の心からの叫びに答えたかのように、突如として俺の両隣には、在りし日と同じ姿をしたオウガとサツキが、温かい光を纏いながらそこに現れた。彼らは何も言わず、ただ彼らの得物である片手槍と刀で、ヒースクリフの片手剣と大盾の動きを止めてくれる。

 ……オウガ、サツキ……ありがとう。俺は心の中で彼らに多大なる感謝を捧げ、今日一番の驚愕を露わにしたヒースクリフのガラ空きの身体に、剣を一閃走らせた。

 …だが、ヒースクリフは体力を残り僅か残し、命を繋ぎ止める。いつの間にか、オウガもサツキも居なくなっていた。

 ……あとはもう、一人でやらねぇと……大丈夫。怖くなんかない。俺もただ、みんなの所に行くだけなんだから。

 最早俺とヒースクリフは防御を捨てて、お互いに全身全霊の一撃をぶつけ合う。

 

 アルファ「うおおおおおおお!!」

 

 ヒースクリフ「……」

 

 俺達は、お互いの胸に剣を突き刺し合った。そしてお互いがほぼ同時に、目視出来ない程、残り僅かしかなかった体力をゼロにする。

 ふと、ヒースクリフの顔を見やると、彼は穏やかな笑みを、俺に向けていた。そして、ヒースクリフの身体がポリゴン片へと変化するのに1コンマ遅れて、俺の身体もポリゴン片へと変化していく。

 やがて拡散していく意識の中で、キリトやクライン、エギルにアスナなどなど…俺がこの世界で仲良くやってきた人たちの声が聞こえた気がした。

 

 ──……オウガ、サツキ……ごめんな。……俺、二人との約束、なにも守れなかった……

 

 俺が最期に思ったことを言葉に出来たのかは分からないが、俺はそこで、終わりを迎えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 気が付くと、そこは絵にかいたような夕焼けに包まれていた。

 

 その色合いは黄昏時、或いは彼者誰から夕闇へと移行していくような鮮やかなグラデーションを描いており、俺もここまで美しい夕焼け空は、終ぞ見たことが無かった。

 その光景に暫く目を奪われていると、ふと、足元は透明な水晶板が広がっており、俺の身体もヒースクリフとの死闘を共に乗り越えてくれた装備のままで、半透明に透き通っていることに気が付く。

 …ここは、天国なのだろうか。…いや、人を殺めたような人間が、天国に行けるはずが無いだろう。俺は地獄行きの片道切符しか持っていないはずだ。となると、ここは恐らく…。

 俺が試しに右指を軽く振ると、思った通りウインドウが出現する。やはり、ここはまだSAOらしい。ウインドウには簡素に「最終フェイズ実行中、30%」と表示されており、恐らくこれが、俺が現実世界でナーヴギアにより、脳を焼き切られるまでの時間なのだろうと理解する。

 

 「……アルファ」

 

 不意に、俺の耳に、もう二度と聞こえないはずだった声が響き、俺は鳥肌が立つような感動と共に、すぐさまそちらを振り向いた。

 するとそこには、俺と同じように身体を半透明に透き通らせながら、穏やかに微笑みを見せた…彼女が居た。

 …胸から込み上げてくる熱い気持ちと共に、今すぐ、泣き叫びたい。その細い体を力の限り抱き締めて、全身で君を感じ取りたい……だけど、もう、俺にそれは許されないから。俺は彼女に深く頭を下げたんだ。

 

 アルファ「……弱くて、ごめん」

 

 アルファ「……死なせて、ごめん」

 

 アルファ「…殺して、ごめん」

 

 アルファ「守るって誓ったのに、結局守れなくて、ごめん」

 

 アルファ「約束破ってばかりでごめん」

 

 アルファ「ごめん…ごめん…ごめんなさい…ごめんなさい。ごめんなさいごめ────」

 

 俺は、彼女に謝らなければならなかった。謝っても仕方がない事なんて、分かっていた。もう取り返しが使いないことぐらい、知っていた。それでも、いま謝らなければ、俺はもう二度と彼女に顔を見せられない気がして、俺は彼女を裏切った分だけ、ひたすらに謝り続けようとした。

 だが、その無数の懺悔は、突如彼女に唇を塞がれたことで、無理矢理俺の腹の中へと逆流してくる。そして彼女は、しばらくしてから唇を重ね合わせる行為を終えると、俺に聖母のような微笑みを向けてから、答えた。

 

 ユウキ「……もう、良いんだよ。…でも、これだけは言わせて……最期に、約束守ってくれて、ありがとう」

 

 アルファ「……でも、俺は…っ!ユウキとの約束も!結局守れなくてっ…!」

 

 ユウキ「…ううん、そんなこと無い。アルファは、ちゃんとボクとの約束を守ってくれたよ?…ねぇ、アルファもここに来たってことは……やっぱり、死んじゃったの?」

 

 アルファ「……あぁ、ヒースクリフと相打ちだった。オウガとサツキが助けてくんなきゃ、犬死だっただろうな…」

 

 ユウキ「ばかっ…アルファまで死んじゃったら、なんにも意味ないのにっ…」

 

 アルファ「……ごめ…ふぐぅ!?」

 

 ユウキ「もう謝るの禁止!」

 

 俺がヒースクリフと共に討ち死にしたことを伝えると、彼女は酷く悲しそうな顔をした。それを見た俺は、また彼女を悲しませてしまったのかと、謝罪の言葉を発しようとしたのだが、それは再び、いきなりユウキにキスされることで、それは言葉にならなかった。

 ユウキに軽く怒られて、だったら、ユウキからのキスを貰うために、わざと謝ってやろうか、だなんて普段の俺なら考えたのだろう。だが、どうにも、今はそういう気分には成れなかった。

 

 ユウキ「……アルファ、こっち来てよ」

 

 アルファ「…ん…」

 

 ふと、ユウキが俺の手を引いて、向こう側へと案内し出したので、俺は彼女に素直に従った。まるで水面の上を歩くように、透明の水晶板の上を進み、やがてその端に辿り着いた俺は…その光景に絶句した。

 水晶板の切れ目から、遥か遠くに離れた空中に、百にも及ぶ層を重ねながらも、その先端の尖った円錐形を創り上げた…まさしく俺達が生き抜き、そして死に果てた地である巨大浮遊城…

 

 アルファ「…アイン、クラッドか…?」

 

 ユウキ「うん、ボクもパッケージでしか見てないけど、多分あれがアインクラッドなんだろうね」

 

 俺の呟きに、ユウキは物柔らかな声を返す。俺達は無言で手を繋ぎながら、低層部から崩壊し行く浮遊城を眺めていた。

 俺達が初めて出会った第一層は、俺がここを訪れる随分前に空の彼方へと旅立っていたようで、俺が崩壊を見守り始めたその時には、それはもう第十層にまで及んでいた。

 …そして、第十五層が崩壊し始めた。奈落へと堕ちていく、或いは天へと昇華していくその光景の中で、俺達が過ごしたあの家も、同じく何処かへ消え去っていく。俺もユウキも何も話さないまま、ただその様子を何処か感慨深げに眺めていた。

 

 「なかなかに絶景だな」

 

 忽然として、俺の隣から声が聞こえてきた。俺もユウキもその声の主が居る方向へと目を向けたが、その顔には見覚えが無い。…だが、白いシャツにネクタイを締め、長い白衣を羽織っているその学者のような姿と、その特徴的な金属的な瞳が、なんとなく彼を想起させた。

 

 アルファ「……ヒースクリフ?」

 

 俺の懐疑的な呟きに次いで、ユウキが「あっ!」と声を上げる。

 

 ユウキ「…アルファ!この人茅場晶彦だよ!」

 

 アルファ「…あ~…確かに…テレビでチラッと見た時こんな顔していた気が…」

 

 そんな俺の覚束ない反応に、茅場晶彦は苦笑を漏らした。

 

 茅場晶彦「…私はこれでも、それなりに著名な方だと自覚していたのだがね…流石にそんな反応をされるとは、思わなかったよ」

 

 アルファ「悪い悪い…」

 

 不思議と、茅場晶彦に怒りは湧いてこなかった。それは、茅場晶彦の身体も俺達と同じく、半透明に輝いており、ヒースクリフというアバターの死と共に、彼の肉体本体も死を迎えようとしていることが伺えたが故の運命共同体のような親近感であり、加えて、最後まで俺達プレイヤーと同じ制約の中で闘い抜いたという茅場晶彦への敬意から由来したのかもしれない。

 そんな彼は、俺とユウキに穏やかな表情を見せると、遂に口を動かした。

 

 茅場晶彦「──ゲームクリアおめでとう、アルファ君、ユウキ君」

 

 アルファ「……あぁ、そう言えばこれ、ゲームだったんだな…」

 

 彼の言葉に、この世界こそが己の生きる世界であると、二年間の間そう信じて生きていた俺は、その当たり前過ぎる事実に気が付かされ、今度は俺が苦笑する番であった。

 …だが、例えこの世界がゲームの中でしかないものなのだとしても、俺はここで精一杯生き抜いた。その一点には、何も恥じることは無い。胸を張っていられる。

 

 茅場晶彦「アルファ君。君との約束通り、先程、生き残った全プレイヤー六千四十九人のログアウトが完了した」

 

 アルファ「……そうか。…サンキュー…」

 

 茅場晶彦が、子供みたいに怒り散らかして、ゲーム続行だなんて可能性も無いわけではなかったが、彼は最後の最後までフェアネスを貫き通してくれたらしい。やはり、そういう意味でも茅場晶彦は尊敬するに値するだろう。

 ……そう言えば、キリトやアスナ、エギルにクライン…タイラ、ノーチラス、アルゴ、リズベット……誰彼の名前を上げ始めるとキリが無い程、思い返せば俺は、この世界で出会った沢山の人達と大切な時間を共有してきたらしい。

 ……あぁ、タイラやリズベットには、また明日顔を出すって、言ったのにな。また、約束破っちまったなぁ…。キリト達には、お別れの挨拶できなかったな…。でも、アイツらが生きて帰れて、ホントに良かった…。

 俺が、胸に走る僅かな痛みと、途端に溢れ出してきた感慨に満たされていると、突として、茅場晶彦が俺達に訊ねる。

 

 茅場晶彦「……アルファ君、ユウキ君…君たちにとって、この世界はどんなものだったか、教えてもらえないだろうか」

 

 アルファ「……」

 

 すぐには、答えられなかった。この二年間で経験した一日一日が、俺の脳裏に浮かんでは沈み、思考が上手く纏まらない。そんな中で、隣にいた彼女は一足早く、茅場晶彦に答えた。

 

 ユウキ「……ボクにとっては、綺麗で、優しくて、希望に溢れた、そんな世界だったかな……。ボクはこの世界で、現実世界以上に人らしく在れたんだ……だから、ボクにとってこの世界は、とっても良いものだったんじゃないかなって、今はそう思うよ」

 

 アルファ「……俺にとっては、この世界は時に美しく、時に残酷なものだった……。勿論、楽しい事、嬉しい事ばっかりじゃなくて、それ以上に辛い事、苦しい事だってあった。…だけど、こんなに濃密な人生を送れたのは、間違いなくこの世界に来られたからなんだと思う。もし、俺がSAOに参加していなかったら、これ程までには人としては成長出来なかったんじゃねぇかな…」

 

 茅場晶彦「…そうか。そんな風に受け取ってもらえたのならば、私も満足だ…」

 

 アルファ「……なぁ、なんでこんなこと、したんだ…?」

 

 言葉の通り、俺達の言葉に満足感を抱いているようだった彼に、俺は図らずともそれを訊ねていた。……ゲームクリアをしたプレイヤーから、こんな言葉を聞くためだけに、彼はデスゲームを開催したのだろうか。しかし、それだけではどうにも根拠に欠けると思えた。

 彼は、俺の言葉に僅かな沈黙を置いた。

 

 茅場晶彦「なぜ──か。私も長い間忘れていたよ。なぜだろうな。フルダイブ環境システムの開発を知った時──いやその遥か以前から、渡しはあの城を、現実世界のあらゆる枠や法則を超越した世界を創り出すことだけを欲して生きてきた。そして私は……私の世界の法則をも超えるものを見ることができた…」

 

 茅場晶彦はまず俺とユウキに視線を送り、次に、キリトがアスナと結婚する以前に根城にしていた第五十層の崩落を眺めてから、言葉を再開した。

 

 茅場晶彦「子供は次から次へいろいろな夢想をするだろう。空に浮かぶ鉄の城の空想に私が取り付かれたのは何歳の頃だったかな……。その情景だけは、いつまで経っても私の中から去ろうとしなかった。年を経るごとにどんどんリアルに、大きく広がっていった。この地上から飛び立って、あの城に行きたい……長い、長い間、それが私の唯一の欲求だった。私はね、アルファ君。まだ信じているのだよ──どこか別の世界には、本当にあの城が存在するのだと──……」

 

 ユウキ「……きっと、そんな世界もあるよ…そんな世界があったって、良いと思うな…」

 

 アルファ「あぁ…そうだな」

 

 彼の言葉を肯定した彼女に合わせて、俺も茅場晶彦の求めた世界を思い浮かべ、いつまでも、いつまでもあの城の中で暮らし続ける俺と──ユウキの姿を描き、小さく頷いた。

 すると彼は、何処か感慨深そうな表情を浮かべ、俺達に背を向けた。コツリ、コツリと水晶板を鳴らしながら何処かへと向かって行こうとした彼は、最後にふとその足を止め、背を向けたまま再び言葉を放った。

 

 茅場晶彦「──やはり、私の作り出した世界なのだから、私が定めた勇者こそが、魔王を打ち破る唯一無二の存在だと思っていたのだが…そうではなかったようだな。世界を打ち砕けるのは、いつだってその世界の法則の外側にいる者だけなのかもしれない……それが、君だったということだ。アルファ君。……君こそが、真の勇者だったのだろう」

 

 それだけ言い残して、茅場晶彦は再び歩み始めようとした。だが、それを止めたのは、俺の言葉だ。

 

 アルファ「──違うぞ、茅場晶彦。言っておくが、俺は勇者なんかじゃない。勇者ってのは、どんな状況でもハッピーエンドを生み出せる、そんな存在だ。……俺には、そんな物は似合わない。……それに、もし俺が勇者だって言うんなら、それは最期に俺を助けてくれたオウガとサツキもそうだし、命を賭けて俺を守ってくれたユウキだってそうだ。…要するに、勇者なんて、誰にだって成れる。誰もが、勇者としての素質を備えてるんだ。…きっと、俺があの時キリトを助けなくても、アイツなら、お前を倒しただろうさ。……それだけだ」

 

 茅場晶彦「………そうか。では、私はそろそろ行くよ」

 

 突然、俺達と彼の間そよ風が吹き込んだ。それに攫われるように、彼は忽然と姿を消した。

 最早この空間には俺とユウキしかおらず、それは、この夕暮れ時のように、もう残された時間は少ないのだろう。俺とユウキは、ついには訪れることの出来なかった、七十六階層以降の街々が砂時計のように崩れ去っていく様子を眺めながら、水晶板の端に、腰を下ろした。

 ……ずっと、ずっと、この時が続いてほしい。この時が、終わって欲しくない……。俺もユウキも、言わず語らずの内に、お互いの手を握り締めながら、その気持ちを共有し続けた。

 でも、時間は進む。未来から過去へ、或いは過去から未来へと、時間は進み続ける。そして遂に、その時がやって来た。アインクラッドの最上部、本来ならば、魔王の根城として俺達の前に立ちはだかる筈だった真紅の宮殿は、最上層が崩落しようとも、俺達の気持ちに応えるかのように、しばらく浮遊し続けた。

 やがて、破壊の波が、容赦なく真紅の宮殿を包み込んだ。宮殿は、無数の紅玉となって、空へと消えて行く。とうとう浮遊城アインクラッドは完全消滅し、残るのは俺達の腰掛ける、小さな水晶の浮島のみとなった。

 

 アルファ「………」

 

 何か、彼女に言葉を掛けたかった。でも、無数に溢れ出すその気持ちは、口から放たれる前に泡となって消え入り、決して言葉と化すことは無く、俺はただ彼女の瞳を見つめるばかりだ。

 対する彼女は、俺に送る最期の言葉を見つけたようで、ゆっくりと口を動かした。

 

 ユウキ「……アルファ…ありがとう」

 

 ユウキ「……ボクね、生まれた時からずっと……ボクが生きる意味を…探していたんだ…。死ぬために生まれてきたボクは、何のために生きているんだろう…この世界に存在する意味は、なんだろう……って…。……でも…でもね、ボクはこの世界にやって来て、色んな人達と触れ合って…そして、君と出会って、恋して、二人で愛を育んで……ようやく、ようやくたった一つだけ…答えを見つけられたんだ……」

 

 ユウキ「──君が……アルファが…ボクにとっての…生きる意味になったんだ…ううん…きっと…最初から、アルファだけが、ボクにとっての生きる意味だったんだ……だから……ボクをこんな気持ちにしてくれて…本当に、ありがとう…」

 

 アルファ「……」

 

 瞳を潤ませながらも、彼女は満面の笑顔で俺に感謝を告げてくれた。

 ……どうして、こんな俺に、感謝するのだろうか。俺は、君を殺してしまったというのに……。だけど、だけどどうしようもない程に、君のくれた言葉が、俺の胸の奥に響くんだ……。

 

 思い出したのは、俺が君に恋心を抱いたあの日……それは、俺が恋心に気が付いた、剣を持つ意味を見失い、闇に呑まれかけたあの日ではない。あの日は、自分の中の本当の気持ちを見つけ出すきっかけとなっただけだ。今思い返してみれば、俺が君に恋したのは、もう、そのずっと前からだったのだろう。

 ……それは、君と初めて過ごした年明け……君が、「生きたい」と、そう願ったあの瞬間だったのだ。俺は君の魅せた、その強く美しい表情を見て、俺も、そんな君の為に、そんな君の隣で、これからを生きていきたいのだと、そう願っていたんだ…。だからこそ俺は、君に生きて欲しいと祈りを捧げ、君を必ず守り切ると、君に誓った。……その、はずだったのに…俺は…ッ!!

 

 アルファ「……俺は…もっと、もっとユウキと生きていたかった…!…ユウキのおかげで、今やっと気が付けた気がしたんだ!…俺が……今日の日まで生きてきた意味を……!」

 

 ユウキ「…ア、アル…ファ…」

 

 俺の静かな叫びに、彼女は、涙をほろりと頬に伝わせていた。それと同時に俺も、目尻に溜まった涙が粒となり、零れ落ちる。視界が滲んだ。だけど、例え世界が歪んで見えようとも、君の姿だけは、とても綺麗に映っていた。

 

 ユウキ「……ボクも、ずっとずっと、アルファと生きていたかったな……でも、こんなに綺麗な終わり方、この世界の何処を探しても、きっと、見つけられないよ……ボクとアルファだけの、特別なお終い…」

 

 世界の終焉は、もうそこまで迫っていた。夕焼け空は既に、白妙に煌めく輝きに包まれ、俺とユウキがいる場所さえも、辺りからは白い光の粒が溢れ出していた。俺はユウキを抱き締め、ユウキも同じように俺を抱き締め、お互いに顔を見合わせる。

 

 アルファ「愛してる…ユウキ…俺はずっと、ユウキを愛している…」

 

 ユウキ「ボクも、愛してるよ。アルファを、ずっと愛してる…」

 

 最期に、お互いに一番伝えたかった気持ちを言葉にして、俺達は情熱的なキスを交わした。呼吸など当の昔に置き去りにして、俺もユウキも、ただ貴方と二人でこの命を燃やし尽くすために、ひたすらにお互いを感じ取り、お互いの身は固く抱き寄せる。

 

 そして遂に、二人の身体が白光に包まれた。

 

 二人は、愛する人の温もりを混ぜ合うように重なり合う。

 

 魂が溶けていく。

 

 二人の輪郭が一つになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 え~、ということで、SAO編完結でございます。出来れば切りよく100話まで書きたかったんですけど、まぁ無理でした。
 本来は、筆者の描く物語でも、キリト君にヒースクリフを討伐してもらおうかなと考えていたのですが、今後の展開を想定すると、アルファ君にやってもらわないわけにはいかなかったので、こういう形に落ち着きました。
 SAO編全体を通して言えることですが、アルファ君、主人公力は高めです。一方で素の戦闘力はそんなに高くありません。(多分、比較対象となる周りが凄すぎるだけですが…)
 なのでこうして、亡きオウガとサツキに助けてもらう展開は、筆者が最初から想定していて、故に二十五層で退場してもらったのだったり、そうじゃなかったり…。
 次回からどうなるやら、と言った感じで、SAO編は締め括らせていただきたいと思います!

 次回の投稿日は、十二月二十一日の火曜日となります。

 では、また第98話でお会いしましょう!
 
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