輝日東高校にうつろいゆく光   作:こなひー

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引っ越しやら何やらでめっっっっちゃ空いてしまいましたが、
ようやく形になってきたので投稿していきます。


綾辻詞編
1


「ふぁ……もう授業終わってたのか」

 

 目覚めると、既に放課後になっていた。棚町も春原もすでに席にいない。先程の授業中から日差しが心地好かったためか、思いの外深く眠ってしまっていたようだ。

 

(……あの夢は見なかったな)

 

 数日前に一度見たあの夢。知らない場所、知らない制服、知らない少女。なのに何処か懐かしく感じた夢。夢は夢と言ってしまえばそれまでなのだが、心のどこかに引っ掛かり続けている。今の俺にとって必要なものがあるのではないかという気がしていた。

 

「はぁ……」

 

 少し離れた位置に何か書類を整理している女生徒が少し前の方に座っていた。確かうちのクラス委員の……絢辻という名字だった。分け隔てなく優しくて、クラスでの評判は良い奴だ。直接話したことは無いので実際にどんな性格なのかは知らない。

 

(机の上にある書類……一人であの量をやるのか?)

 

 もう放課後だというのに、クラス委員は大変だなと他人事の様に感じていた。荷物を持ち、教室のドアに向かう。

 

(……絢辻はいつ頃帰れるんだろうか)

 

 気にせず帰ろう、と思っていたのだが何故か気になってしまう。荷物を自分の席に置いて絢辻に近づいた。

 

「なあ」

「えっ?」

「それ、一人でやるのか?」

「え、えぇ、そう……ですよ。岡崎君、私に何か用ですか?」

 

 少し声が上擦っていたような気がしたが、それはきっと突然話しかけたからだろう。

 

「ああいや。それ、手伝えることあるか?」

「……えっ? 手伝ってくれるんですか?」

「どうせ暇だしな」

「ありがとうございます、それじゃあこの書類を番号順に並べてもらえますか?」

「ああ、わかった」

 

 絢辻は少し戸惑いつつも、俺にも分かるような事務的な作業を割り振られた。近くの席に座って作業を始める。

 

「……」

 

 時々強く視線を感じる事があるが、日頃の行いが悪い上に普段接点が無いやつから急に話しかけられたのだ。加えてクラス委員の仕事を手伝っているなんて状況があまりにも違和感があるだろう。

 

(まあ、変に思われても仕方ないよな)

 

 とりあえず作業を終わらせるため、作業に集中した。我ながら何故こんな行動に出たのか。これで何か変わることでも期待しているのだろうか。あの夢を思い返すと、何となくこうした方がいいと思ったのだ。

 

 

 どのくらいこの作業をしていただろうか。気づくと外はすっかり夕暮れになっていた。身体が疲労感で満たされた所で、最後の書類が片付いた。

 

「これで最後ですね」

「そう、だな」

「どうもありがとう、岡崎君。もう日が沈むのを覚悟してたんだけど、おかげで早く終わったわ」

「そりゃ良かったな」

 

 やはり一人で抱えるには多すぎる作業量だったようだ。手伝っておいてよかった、と満足感を覚えた。

 

「それじゃあ、後は職員室に持っていくだけだから手伝いはここまでで大丈夫よ」

「ああ、わかった」

 

 絢辻は書類を職員室に持っていくために席を立とうとする。しかし、歩き始める前に俺の方を向く。

 

「あの、岡崎君。どうして私の仕事を手伝ってくれたの?」

「まあ、何となくだ」

 

 正直自分でも理由がよく分からないので適当に答える。

 

「よく遅刻してるし、不良なのかもって思ったら接し方に困っちゃって」

「不良ってのは合ってるし、無理に近寄らなくても良いと思うぞ」

「ううん、私クラス委員だからクラスの皆と仲良くしておきたいの」

「クラス委員ってそこまでしなくちゃいけないのか?」

「強制じゃないけど、先生にどうしてもって頼まれちゃいまして」

 

 絢辻は苦笑いしながらそう言った。真面目すぎる奴だな、と思っていた。俺とは全く異なる世界に生きている人間だ。目の前にいる絢辻が、とても遠くにいるような気持ちだった。

 

「それじゃあ、私はそろそろ職員室に行きますね?」

「ん?あ、あぁ」

 

 ふと時計を見ると、下校時間からかなり経っていた。まあ、良い時間潰しにはなったかと思いながら帰る準備をする。廊下に向かって歩き出したところで立ち止まる。

 

「あー。えっと、余計なお世話かもしれないけどさ」

「何でしょう?」

「周囲に変な気を使いすぎなくてもいいんじゃないか? ずっと良い子ってのも疲れるだろ」

「っ!? ねえ、それって」

「まあ適度に力抜いたほうが楽だぞって事だ、それじゃ俺帰るな」

 

 鞄を手に取って教室を出る。後は提出するだけのはずだし大丈夫だろう。

 

「……気づかれてる?まさか……警戒はしておいた方が良さそうかしら」

 

 何か聞こえた気がするが、よく聞き取れなかった。

 

 

 下駄箱に向かって少し歩くと、正面側から歩いてくる人がいた。確か、担任の高橋先生だったか。ろくに朝礼に出ていないせいか、担任だったかどうかすらうろ覚えな程だ。

 

「あ、岡崎くん。今日も遅刻だったわね」

「……うす」

 

 向こうは俺の事を認識していたようだ。俺のことは問題児としてしっかり覚えていたようだ。

 

「お説教は後にするとして、どこかで絢辻さん見てないかな?」

「絢辻なら教室にいますよ。これから職員室に書類を出しにいくみたいっすけど」

「あら、じゃあ職員室に戻って待っときますか」

 

 絢辻の仕事は高橋先生に提出するもののようだ。俺は先ほど疑問に思ったことを聞いてみることにした。

 

「絢辻に頼んでる仕事、あれ一人じゃ多いんじゃないすか?」

「あー、絢辻さんって私より仕事できるからつい頼んじゃって……」

「あんた教師としてそれでいいのかよ……」

「うっ……岡崎くんだって授業まともに出てないじゃない!」

 

 どちらも人のことを言えないレベルだった。と思ったが、ここで引き下がると絢辻はまたあの仕事量を抱えてしまう。

 

「あんたのは生徒である絢辻が被害受けてるでしょ」

「そ、それはそうだけど……」

「自分の仕事くらいは出来ないと大人としてどうなんすかねー」

「ううっ、生徒に言い負かされるなんて……」

 

 少し涙目になっていた。担任がこんな感じだから、俺の遅刻も放置されていたのかもしれない。

 

「ちょっとは自分でやるようにした方がいいですよ」

「はい……」

 

 生徒に言い負かされて落ち込む担任の背中を見送った。これで絢辻の負担が少しは減るだろうか。

 

 

 春原の部屋に行くと、少し遅れた理由を聞かれたので先程の事を話してみた。

 

「絢辻ちゃんってクラス委員だっけ?僕まともに話したこと無いや」

「だよなあ」

「学級委員長って大変そうだよねぇ」

 

 露骨に興味が無い態度を取っている。

 

「でもさ、ああいう真面目ちゃんって実は猫被ってたりするんじゃない?」

「はぁ?」

「実は裏で全世界を支配する女王様!とかさ」

「なんだそりゃ」

 

 学校の人達を踏み台にして鞭を持って高笑いする絢辻を想像してみる。

 

 

「皆私の表の姿にまんまと騙されて……滑稽ね」

「愚民ども!私にひれ伏しなさい! おーーーっほっほっほ!!」

「ははーっ!! 絢辻様ばんざーーいっ!!」

 

 

 あまりに現実味が無さすぎる妄想になってしまった。春原の部屋で開いていた漫画の台詞を当てはめてみたが違和感がありすぎた。

 

「春原の方は違和感無いんだけどな……」

「何が?」

「いや、なんでもない」

「なんだよ!気になるだろ!」

 

 その後は特に何も起こることなく時間は過ぎていった。

 

 

 夜、美也も寝ている時間に俺は家に帰ってきた。家の中は静まり返り、リビングも電気が消えている。いつも通りだな、と割り切って、冷蔵庫にある夕飯をいくつか取り出して食べる準備をする。その時、ふと冷蔵庫の横に貼ってあるカレンダーを見た。とある日付に何か小さく書き足されている。

 

『創設祭 当日』

(創設祭?何かの祝日か?)

 

 どういう予定なのか全然ピンと来ていなかった。心当たりを少し考えていると、後ろから足音がした。

 

「んぅー……ぁ、にぃにおかえりー」

 

 美也が眠そうに部屋から出てきた。

 

「ああ、ただいま。起こしちゃったな」

「もぅー、そう思うなら早く帰ってきなよー……」

「まあ、考えておく」

「むぅー……それ直す気ないやつじゃん……」

 

 俺の曖昧な答えに不満そうだ。半開きの目を袖で擦りながら、リビングの椅子に座る。引き返して寝直すわけでは無く、このまま会話に移るつもりのようだ。なら丁度良いと思い、さっき気になった単語について聞いてみることにした。

 

「なあ美也」

「なーに?」

「創設祭って、何だ?」

「……へ?」

 

 美也が固まってしまった。眠そうな眼が少し驚いた位に開いていた。

 

「にぃに、流石に冗談だよね?うちの学校の大きいイベントだよ?」

「学校の行事だったのか、そりゃ初耳だな」

「そんな訳ないじゃん! みゃーより一年長く学校にいるのにそれはおかしいでしょ!」

「確かにおかしいな、何で俺の記憶には全く無いんだ……?」

 

 去年の俺は創設祭の日に何をしてたか思い返してみる。しばらく考えて、思い出した。

 

「その日は創設なんとかって聞いて、学校が休みなのかと思って寝てたんだった」

「にぃに……」

 

 無気力だった俺は、適当に行かない理由をつけて休んでいたんだった。

 

「もー、にぃにのせいで目が覚めちゃったよー」

 

 とぶつぶつ言いながら俺の夕飯の準備を手伝ってくれている。ありがたい反面、少し悪いと感じてしまう。

 

「次の創設祭は参加するの?」

「そもそもどんな感じかもわかってないからな……どっちでも良い」

「みゃーは最近出来た友達と一緒に参加するつもりだから、にぃにと一緒には行けないんだよねー」

「尚更行く気しないなそれは……今年も不参加だな」

 

 家でまたぐうたらしていよう。そう思うっていると美也がハッとした顔になる。

 

「待ってにぃに、そもそも参加するしないとかじゃ無いからね!?学校行事だよ!?」

「え?学校行事って自由参加じゃないのか?」

「だーめだこりゃ……」

 

 とても呆れられてしまった。この時の自分は、創設祭はあまり自分には関係ない行事だと思っていた。しかし、それは近いうちに覆される事をまだ知る由も無かった。

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