「というわけで創設祭の実行委員は絢辻さんと岡崎君でいいわね?」
「はい」
「嫌っす」
翌日のHR、俺は何故か創設祭の実行委員にされていた。数分前に創設祭の実行委員を決めるという話になったのはわかる。そこで絢辻が立候補したところもわかる。だがその直後に高橋先生の口から俺の名前が出てきた理由が分からない。HR終了後、先生に理由を聞き出すために廊下で話を聞くことにした。
「ちょっと」
「あら、どうしたの」
「いや、どうしたのって……なんで俺が実行委員になってるんだよ」
「何か不満があるの?」
「不満しか無えよ……」
そもそも実行委員は立候補した人を選ぶ方式だったはずだ。そんな中俺は窓の外を見ていて立候補の気持ちなど欠片も無い。先生は俺の様子を見て、ゆっくり口を開いた。
「確か岡崎君、前に絢辻さんの仕事手伝ったことがあったでしょ?」
「ああ、成り行きの気まぐれっすけど……」
「なら勝手がわかってる相手の方が良いと思いますけど?」
「と言ってもな……あんた俺がどういう奴か知ってるだろ」
もっともらしい理由に聞こえるが、俺の意思が無視されているのが気に入らない。先生は少しニヤケ笑いをしながら続ける。
「もしやってくれたら岡崎君のこれまでの遅刻分に配慮できるかもしれないわよ?」
「ぐっ……そ、それは」
俺の遅刻数を引き合いに出されると耳が痛い。入学してからずっと積み重なっている分だ、流石に無視できない。納得しかけてしまった俺を見てすぐさま両手をパチンと合わせて自分のペースにされた。
「はい、じゃあ決定ね!」
「くそっ……」
先生の勢いに押し負けてしまった。そこまで考慮されていては仕方ないか、と諦めをつけようとしていると先生がボソッと言った。
「まあ絢辻さん以外に誰も手を挙げなさそうだったから選んじゃったんだけど」
「は?」
「別にこないだ言い負かされた事への腹いせ、とかじゃないからね?」
「おい、それが本音じゃ」
「じゃ、明日からよろしくねー」
そう言って足早に去っていった。完全に先生の私怨で押し付けられたことを知ってしまい、気持ちの行き場がわからなくなってしまった。
「あはは……災難でしたね」
「絢辻か、ああ全くだ」
どうやら俺の後ろで今のやりとりを聞いていたようだ。
「でも、私としては一緒に作業したことある人の方が助かっちゃうかも」
「絢辻もそっち側なのかよ……」
「私と一緒に、やっていただけませんか?」
こうなってしまっては仕方ないか、と自分の中で諦めがついたように思えた。
「わかったよ、でも勝手は全然わからないぞ?」
「その辺は私が教えてあげますから、大丈夫ですよ」
「んじゃ、よろしくな」
「はい!よろしくお願いしますね!」
絢辻との話が終わり、鞄を取りに席へ戻ると、棚町が俺を見てニヤニヤしていた。
「あらあら実行委員さん、大変ですわねぇ」
「お前な……」
「せいぜい絢辻さんの足を引っ張らないように頑張りなさいよー?」
「残念だが、遅刻常習犯の俺にそんな期待をすると酷いことになるぞ」
「胸張って言う台詞じゃ無いわよそれ……」
我ながら情けない発言だと思う。朝早い仕事じゃなければ俺も頑張れると思うが、早かったらお手上げである。
「んぁ……何の話してんの?」
「あ、春原が起きたわね」
HR中に全く起きる気配の無かった春原が目を覚ました。
「こいつが創設祭の実行委員になったのよ」
「超絶祭?へぇ、なんか凄そうじゃん!」
「創設祭な、何が超絶なんだよ」
「創設ねー。何、巨大ロボでも作ったの?」
「……あんた、この学校の生徒よね?」
棚町が昨夜の美也と同じ目をしていた。昨日まで俺もこいつと同類だった事は黙っておこう。
「……てことは岡崎はしばらく放課後遊べないわけだ、そりゃご苦労さんだねぇ」
創設祭については興味無いため、俺の放課後が潰れる事だけ理解したようだ。
「何言ってんだ。仕事終わりの俺に飯を奢るという役目があるだろ」
「んな役目ねーよ!」
「あ、それあたしの分も追加で」
「あんたは働いてすら無いでしょうが!」
「なんだよ、しけてんな」
「役に立たないわね」
「あんたら僕の扱い最悪ですね!?」
奉仕しない召し使いはただの役立たず。つまりこいつが役に立たないのは事実であるはずだ。
「ちくしょー! 僕の良さを分かってくれる彼女見つけてギャフンと言わせてやるー!」
そう言って春原は教室を飛び出して行ってしまった。腹いせにと思いイジってやったのだが、こうなるのが恒例だったりする。
「あいつの良さ……?」
「少なくともあんな事言ってるうちは無理でしょうね」
春原のいない教室で、背中を刺しまくられていた。
学校で特にすることも無くなったので、どうするか考えながら校門に向かっていた。靴を履き替えている時に後ろから声をかけられた。
「あ、岡崎くん」
「ん?」
誰だろうかと顔を向けると、桜井が近づいてきた。
「えーと、桜井か」
「うん、今帰り?」
「ああ」
「そうなんだ……あの、もし良かったら一緒に帰ろうよ」
「別にいいぞ」
「ほんと!?じゃあ行こう!」
ほんわかした雰囲気の彼女は桜井梨穂子。小学校から同じ学校だったけど、そこまで話す機会は多くない。たまに見かけて、とりとめのない話をする程度だ。しかし、高校で不良になった俺にも普通に話しかけてくるのが少し変わっていると言える。どこか抜けているというか、何というか。
帰り道は晴れているが、一段と寒い。少し身を縮込ませながら校門を出た。通学路を並んで歩いていると、ふと桜井が話し始めた。
「そろそろ創設祭だね」
「ああ、そうらしいな」
「あれ?楽しみじゃないの?」
「そもそもどういうやつなのかわからないからな」
「あ……そっか、去年はその日休んでたんだよね」
おおよそ同じ学校の生徒の会話とは思えない内容になっていた。
「でも岡崎くんって実行委員になったって聞いたよ?」
「ああ……遅刻日数を盾にされちまって、嫌な事件だった」
「そうだったんだ……あれ?それって自業自得のような……?」
明日から放課後が忙しくなると思うと正直憂鬱になる。
「つーか、なんで実行委員になったこと知ってるんだ?」
「絢辻さんから聞いたんだよ。すごく意外そうに言ってたな」
「まあ、意外だろうな……」
俺も意外だと思ってるし、ちなみに未だにやる気は沸いてこない。
「絢辻がいたら俺の出番無いんじゃないかって気がするな……」
「そ、そんなことないよ!絢辻さんも岡崎くんのこと頼りにしてるって言ってたよ!」
「マジか……真面目なんだな」
「ほんとだよねー。立派すぎて私が情けなく見えちゃうなー……」
絢辻は皆から評判が高く、悉く俺とは正反対だ。そうこう話しているうちに、分かれ道に着いた。
「それじゃ、実行委員頑張ってね」
「ああ」
「あ、あと……」
足を止めてこちらに向き直した。
「何か困った事があったら、力になるからね」
真剣な眼差しからは、強い意思が伝わってきた。こんな俺を気にかけてくれるなんて、優しい奴なんだなと改めて感じた。
「ああ、ありがとな」
「う、うんっ!それじゃあね!」
そう言って桜井は去っていった。
その後、寒さのせいでどこかに遊びに行く気力が起きなかった。大人しく家に帰ると、美也がこたつで丸くなっていた。
「って猫みたいに言わないでよ!」
「悪い、口に出てたか。次は思っても言わないように気を付けるな」
「なんかズレてるよそれ!」
んもー、と言いながら体を起こす。
「今日は帰り早かったね」
「この寒い中出掛ける気にならなかったんだ」
「うん、みゃーも今日はそんな感じだったよ……」
俺もこたつに足を入れる。そして暖かさにすっかり取り込まれてしまった。
「はー……、みゃーは今日からここで暮らすよ……」
「いや、ここ自宅だからな」
「もー、ノリ悪いなー」
「ボケのいる所にはツッコミが必要なんだ。片方だけだとバランスが崩れて世界が崩壊する」
「何言ってんのさ……」
「ノリ悪いな」
「いやいや、今のはムリでしょ」
「だな」
外の寒さとこたつの暖かさで頭が回っていない。まあ、そうでなくとも普段の会話はこんなもんだけど。
「そだにぃに、結局創設祭は参加しないの?」
「あぁ、そのことなんだが……」
俺が言い淀んでいるのを見ると、美也は何かを察したようでいたずらの笑みを浮かべた。
「ふっふっふ、さては先生に参加するように釘を刺されたんでしょ!」
「おお、ほぼ正解だ」
「にっしっしー、わっかりやすいなぁ」
「その答えにプラスで実行委員にされた、まで言えたら完璧だったな」
「ぶっ!それは逃げられないねーあっははは!」
成り行きでなってしまった実行委員。でも、もしかするとこんなことが変わるきっかけになるのかもしれない。
(ま、他にやることも無いしな)
これでサボったら後味が悪い、やれることはやってみることにする。仕事が朝に集中していない事を祈りながら、明日からの作業に思いを馳せた。