輝日東高校にうつろいゆく光   作:こなひー

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 翌日の放課後になり、実行委員としての最初の仕事が始まった。

 

「今日はこの部屋にある備品の在庫をチェックしましょう」

「結構ありそうだな……」

「一つ一つやっていけばきっとすぐに終わりますよ」

「そんなもんか」

「そういうものですよ」

「仕方ない、やるか」

 

 絢辻と部屋にある備品を端から確認を始めた。

 

「岡崎君は創設祭に何か楽しみなこととかは無いんですか?」

「そこなんだけどさ……、創設祭ってそもそも何をする祭りなんだ?」

「……はい?」

 

 今一瞬絢辻の顔がひきつったように見えた。流石に俺がそれすら知らないレベルだとは思っていなかったのだろう。絢辻の見立てを下回っていたことに俺は自嘲気味な笑いが浮かんでしまった。

 

「えーっ……と、去年はどうしてたんですか?」

「去年は当日休んじゃってさ、どんな事してたか知らないんだ」

「……なるほど、そういうことだったんですね」

 

 本当はもっと駄目な理由なのだが、情けなさすぎるので伏せておく。

 

「大丈夫ですよ、創設祭はいわゆる文化祭のようなものだと思ってください」

「それでいいのか?」

「はい。基本的には私から指示しますから、深く考えなくても大丈夫ですよ」

「そりゃ助かる」

 

 あまり考えなくてもいいと聞いて、俺はホッとしていた。複雑な事を任されても戦力になれそうにないと思っていたから正直かなり助かる。そう思っているうちに、作業は佳境に移っていた。

 

「あともう少しで確認終わりますよ」

「ん、もうそんなにやったのか」

「はい。えっと、次は……そこの棚の上にありますね」

「あの辺か、わかった」

 

 棚の上にある段ボールは俺の背丈なら手を伸ばせば問題なく届く位置にある。右手を上に伸ばせれば……の話だが。

 

「……脚立使うか」

 

 脚立を登り、肩より少し下の位置になった段ボールを抱える。あまり重くはなかったので問題なく下ろす事が出来た。

 

「お、あった。これのことだよな?」

「……え?あ、そうですね」

「んで?次が最後か?」

「はい、後は……」

 

 絢辻は少し怪訝な表情をしていたが、少し強引に話題を変えさせてもらった。そこまで話す程の間柄でもないだろう。その後は特に何も起きずに作業を終えた。明日には体に筋肉痛でも起きるかもしれないと思うくらいに疲労感があった。これならば今夜はぐっすり眠れるかもしれない。

 

 

 朝早い作業が毎日あるとなったら、続けるのはキツいかもしれない。昨日はそう思っていたのだが……今日は創設祭の仕事は無いとの事だった。それをどこからか聞き付けてきた暇金髪がにじりよってきた。

 

「それなら岡崎、放課後僕についてきてくれよ」

「いいけど、後で覚えとけよ」

「何でだよ! 僕そんなに悪いこと言ってました!?」

「お前についていくという響きが何か嫌だ」

「めっちゃガキみたいな理由っすね……」

 

 しかし、いつもは適当にぶらつくだけなのだが今回は行くところがあるらしい。どうせくだらないことな気がするが一応聞いてみることにする。

 

「まあ暇だからいいけどさ、どこいくんだよ」

「図書館さ!」

「……お前が図書館?頭でも打ったのか?」

「あんたの方こそ覚えておけよ!」

「んじゃ行くか」

「来てくれるなら最初からスッと来てくれよ……」

 

 しかし春原が図書室で真面目に勉強するはずがない。それなら目的はいったいなんなのだろうか。春原がとぼとぼ教室を出ていく。俺も暇だったのでその後についていくことにした。

 

 図書室に入り、周囲の迷惑にならないよう小声で春原に話しかける。

 

「それで、図書館で何するんだ?まさか勉強なわけないよな」

「噂で聞いてしまったんだよ……ここには幻のお宝本が眠っているとね!」

「はぁ?」

「男達が求めるお宝本……って言ったらわかるだろ?」

 

 こいつはそんなことに俺を連れてきたのか、とすっかり呆れてしまった。春原の行動原理はいつだって下らないものだとわかっていたはずなのに、俺は一体何を期待してしまっていたのだと後悔した。

 

「お前、彼女探しはどうしたんだよ」

「戦いに疲れた僕には癒しを欲するものなのさ……」

 

 癒しじゃなくて卑しの間違いでは無いだろうか。

 

「それじゃ、二手に別れて探すぞ!僕はあっちの方な」

「それなら俺はお前の部屋にガサ入れするな」

「僕の部屋は僕の知ってる本しかねーよ!……それじゃ、解散!」

 

 散会、とでも言いたかったのだろうか。解散なら帰っても問題無さそうなので出口に向かった。出口に着いた……と思いきや別の声が俺を呼んできた。

 

「ねえ、そこの君!」

「ん?……えっと、あんたは?」

「あ、私は3年の森島はるかよ。よろしくね」

「はあ……ども」

 

 何だかコソコソしているようだけど、一体何をしているんだろうか。

 

「君、探し物を手伝ってくれないかな?とある本なんだけど……」

「どんな本ですか?」

「私も直接見たことは無いんだけど、どうもこの図書室にはお宝があるって聞いたの」

「えっ、まさか……」

 

 先程春原が言っていた男達が求めるお宝本の事だろうか。もしかするとこの人は、そういう趣味の人なのだろうか?

 

「それは探すの止めといた方がいいんじゃ」

「どうして?私そういうの大好きだから是非見てみたいの!」

「そ、そこまで……?」

「ええ!見つけるまで今日は帰らないわ!」

 

 俺には、この人の趣味趣向を理解できない。恐らくこの先も理解はできないだろう。しかし、世の中にはいろんな人がいる。それを知る良い機会になった。ここは寛容に受け止めることにしようと決めた。

 

「そう、犬の写真集を見つけるまでは!」

 

 盛大にズッこけてしまった。図書室の受付をしている奴に睨まれているのを感じて早めに体制を戻す。どうやらこの人が探している物は春原の言っていた物とは違ったようだ。

 

「君、どうしたの?」

「……なんでもないっす」

「そう?それじゃあ二手に別れましょう!私はあっちを調べるから!」

 

 さっき別の奴から聞いたような事を言って去っていった。俺は一緒に探すとは一言も言っていないので図書館を出た。

 

 

 廊下には夕日が差していた。本来ならすでに帰路につけていたのだが、今は教室に鞄を取りに行く途中だ。

 

(もしかしてこの学校には、案外変な奴が多いんだろうか)

 

 入学したとき、俺は周囲から浮いていた。やりたいことも見つけられず、今でも遅刻やサボりを繰り返している。学校にちゃんと通っている真面目な連中と自分は違う。だから同じように通っても俺には意味がない。

 

 そう思っていた俺が、何故か学校のイベントの実行委員になった。成り行きでなったとはいえ、以前の俺ならサボっていた所だっただろう。ただし俺は周囲から期待されているわけではない。きっと今抱えている変わることへの期待は、叶わないだろう。出来るだけ期待せず、暇潰し程度に考えておくことにしよう。

 

 

 教室について自分の席に向かうと、席の手前に何かが落ちていた。表紙が黒くて手のひらサイズの四角いものだった。

 

(ん?……なんだこれ、手帳か?)

 

 近づいてそれを手に取る。

 

(名前は……書いてないな、教壇の上にでも置いとくか)

 

 中身を見たところで誰のかは判別できる程、俺はクラスの奴の事をあまり知らない。次に見つけた奴に任せることにした。とっとと置いて帰ろうと思っていた。しかし、それは叶わなかった。

 

 

「それ、見ちゃったのね。岡崎くん?」

 

 

 絢辻の声だ。でもいつもよりトーンが低く、俺の知っている真面目なクラス委員のそれとは別物だ。

 

「絢辻か、これ誰かの落とし物みたいなんだが……」

 

 俺が言い終わる前に絢辻はこちらに密着してくる勢いで距離を詰めてきた。

 

「見 た の ね?」

「……いや、中は見てないぞ」

「ふーん……」

 

 絢辻の目は俺をまだ疑っていると語ったままだ。

 

「そうやってしらばっくれるつもりなんだ、いい度胸ね」

 

 ここ数日関わってきた絢辻は物腰の柔らかい優等生。だが目の前にいる絢辻と全く同じ姿で態度が全く異なる。一体どういう事なのだろうか。少し考えた結果、俺の中にある可能性が浮かんだ。そういう事ならこの違和感にも説明がつく。

 

「絢辻、お前……双子だったのか?」

「…………は?」

 

 少しの間沈黙が続く。外からは風の音と運動部の掛け声が響いていた。

 

「急に何を言い出すかと思ったら……ちなみに何でそう思ったわけ?」

「確か双子で容姿が同じでも性格が全然違ったりする事があるんだ」

 

 前にどこかで聞いたことがある。二卵性なんとか、だったら見た目がそっくりになるらしい。

 

「それなら姉がゴリラで妹がハムスターみたいな性格というのもあり得る」

 

 この例えが出てきた理由はわからない。絢辻の表情は読みにくいが、気のせいか青筋が立っているように見えている。

 

「つまり今俺の前にいる絢辻は、昨日の絢辻の姉か妹ということだ。どうだ?」

「……へーえ。つまり今のあたしがゴリラみたいな性格だ、って言いたいわけ?」

「滅相もございません」

 

 背筋が凍る様な殺気を感じてすぐに謝った。絢辻は呆れた顔でどうしたものか考え始めた。

 

「なんかめんどくさいわね……場所を変えるわよ」

「あ、あぁ」

 

 ここでは話しづらいのだろうか、とりあえず従っておくことにした。

 

 

 絢辻に連れられて、学校から出て少し歩いたところにある神社に着いた。自分が住んでいる町にも知らない場所があるんだな、なんて呑気な事を考えていた。そんな俺の目を覚まさせるかのように、絢辻の鋭い目付きが突き刺さる。

 

「とりあえず色々と確認が必要みたいだから、順を追って聞かせてもらうわね」

「あ、あぁ」

 

 俺に向き合って仁王立ちする姿は本当に別人に見える。

 

「まずあんた。本当に手帳の中身は見ていないのね?」

「ああ、そもそも絢辻のだと知らなかったからな」

「そうみたいね……流石に知ってたらあんな素っ頓狂な事は言わないわね」

 

 絢辻はそう言いながら大きなため息をつく。

 

「次に、あたしは双子とかじゃないわよ。……姉はいるけど全然似てないわ」

「双子じゃなかったのか。ってことは……」

「そう」

 

「優等生を演じているの。今のあたしが本当の絢辻詞」

 

「そうだったのか……」

「クラスの連中もまんまと騙されてくれてほんと助かってるわ」

「今の台詞絶対クラスの奴には聞かせられないな」

「そんなヘマしないわよ!」

 

 俺とのやりとりはヘマじゃなかったというのだろうか。

 

「さっきの手帳の件はお前の早とちりだろうが……」

「あれは……、あんたはクラスに馴染んでないからセーフよ」

 

 クラス委員にクラスから省かれてしまった。

 

「手帳にはあたしの気持ちをいっぱい書いちゃってるから、見られるわけにはいかないのよ」

「んなもん落とすなよ……」

「あんたがあれを拾っちゃったのが悪いんじゃない!」

「無茶言うなよ!」

 

 流石に拾っただけでこの言われようはひどいと思う。絢辻も多少ムキになって言っているように見える。

 

「とにかく、この事は一切他言無用よ!約束しなさい!」

「言わねーよ、言う相手もいないしな」

「本当に?棚町さんとか金髪とかに言わないか心配ね」

「どうすりゃいいんだよ……」

 

 別に言いふらす気は無いのだが、どうも信用に足らないらしい。ただ、内容が内容なだけに絢辻にとっては死活問題なのだろう。少し考えたあと、何か思い付いて不適な笑みを浮かべた。

 

「そうね……じゃあ次の台詞を言ってくれたら信じることにするわ」

「台詞?」

「『絢辻さんは裏表の無い素敵な人です』、ハイ復唱!」

「なんだよそりゃ……」

 

 自分に裏表があるって認めてるようなものなのだが、それでいいのだろうか。

 

「いいから!復唱しなさいよ!」

「はぁ……絢辻さんは裏も表もスキの無い無敵なゴリラで」

「お か ざ き くん?」

「絢辻さんは裏表の無い素敵な人です」

「わかれば良いのよ」

 

 俺を睨む目があまりにも本気だったから従っておいた。こんな寒い中冷や汗を引いたのは初めての経験だった。

 

 

 絢辻と別れて一人で帰り道を歩く。さっきまで着いてこれていなかった思考がようやく追い付いてくる。

 

(あれが絢辻の正体だったとはな……)

 

 目的のために優等生を演じているなんて、実際にいるんだなと感心していた。

 

 しかし、大きな秘密を抱えてしまったことに疲れてしまった。遊びに行く気力も起きないのでまっすぐ帰ろうと思ったが、少しだけ春原のいる寮に寄った。

 

「来るの遅かったじゃん、何かあったの?」

「ああ……なあ春原」

「なんだよ?」

「女って……怖いな」

「……ほんとに何があったんだよ」

「それは言えない、じゃあ帰るわ」

「気になりすぎるわ!何だったんだよ!」

 

 憂さ晴らしが済んだので今度こそまっすぐ帰った。

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