輝日東高校にうつろいゆく光   作:こなひー

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こんなに不定期な作品を見てくれる方がいる事に感謝。


5

 今日の俺の作業は、運搬が主になった。先日確認した備品たちをそれぞれ教室に運ぶ手伝いをする役目だ。備品運び自体は主にそのクラスの実行委員がやっている。しかし、持っていく備品数の確認や備品が重い時には男手として駆り出される。

 

「じゃあお兄ちゃんよろしくー」

「いや、お前も少しはやれよ」

「ほら、力仕事をか弱い女の子に任せちゃダメでしょー」

「か弱い……?」

「こらー! 疑問に持つなー!」

 

 そして今は美也のクラスに大きめの備品を運んでいる所だ。

 

「あ、わ、私も何か手伝います……」

「いや、重いものが多いから無理しなくて良いぞ」

「は、はい……」

 

 この中多という女の子に任せるのは、どこか罪悪感を感じてしまうのは気のせいだろうか。思わず気を使ってしまった。

 

「ちょっとお兄ちゃん! 私と扱いが全然違うじゃん!」

「気のせいだろ。ほら、これくらいなら持てるだろ」

「むー……」

 

 絢辻はクラスの方で忙しくしているらしい。また倒れないかと少し気になったが、『あんたに事務作業は無理よ』と一蹴されてしまった。なので、とりあえずその言葉を信じておくことにした。

 

「いやー、ありがとねお兄ちゃん!」

「あの、ありがとうございます。……結局ほとんど運んでもらってしまって」

「まあこれが仕事だからな」

「また何かあったら呼ぶからね!」

「ああ、行けたらな」

 

 美也のクラスでの仕事が終わり、俺は一度教室へと戻ることにした。自分のクラスの教室の前に着いた。近づくと中から話し声が聞こえてくる。

 

「……絢辻さんって、あの岡崎くんと付き合ってるの?」

 

 ふと聞こえてきた言葉に思わず足が止まった。

 

「いいえ、そういう関係では無いですよ?」

「えー?そのわりには仲良さげに話してるじゃーん!」

「そうそう、この間なんて一緒に帰ってるの見ちゃったしー」

 

 ドアの窓からこっそり様子を見てみる。教室で座っている絢辻を三人くらいの女子が横から話しかけている感じだ。絢辻の表情は……いつも通りの表向きの顔を崩していない。

 

 別に俺と絢辻はそういう関係じゃない。絢辻も一度否定しているのだが、他の女子たちは納得いっていないみたいだ。俺も入って否定しておいた方が良いだろうかと少し迷う。すると絢辻の口から思わぬ言葉が聞こえてきた。

 

「……実は私、岡崎くんを創設祭に参加するように何日もかけて説得したんです」

(なんだそりゃ?)

 

 絢辻が全く覚えの無いことを良い始めていた。

 

「えー?なにそれー?」

「実行委員が始まる前に、高橋先生から岡崎くんの素行について相談されていたんです」

「確かに不良って噂だもんね」

「ええ、なので創設祭を頑張らせる事で更正できないか……という考えがあったんですよ」

「それで絢辻さん、あの岡崎を説得して引き込んだってこと?」

「そういうことです。中々苦労しました」

「そっかー、大変だったんだね」

 

(もしかして、俺は今絢辻のダシにされてるってことか?)

 

 今の話を聞く限り、絢辻は不良である俺を更正させている事になっている。俺の知らない間にそんな設定が出来ているとは知らなかった。

 

 あまりいい気分はしない設定ではある。しかし実のところ、実行委員をやっている時は周囲からの目線が緩和されているのだ。前までは教師達に厳しい目を向けられていたが、いくらかマシになっていた。つまり、今の作り話は俺としても少しだけメリットがあると感じた。ここは絢辻の顔を立てて大人しく受け入れてやるか、と考えていると、女子たちが心配そうな目線を向け始めた。

 

「てか絢辻さん、岡崎に何かされなかった?」

「そうだよ!不良の男子と一緒にいて、怪我させられたりとか……」

「もし何かされたら棚町さんにこらしめてもらったら……」

 

 学校内で俺は不良という扱いだ。だから、そんな風に言われてしまうのも今更な事だ。最後のやつは気になるが、俺にそれを止める権利は無い。そんな風に疑われても仕方がないのだと暗い気持ちになってしまう。しかし、絢辻はまたしても予想外な事を口にし始めた。

 

「……岡崎君はそんな人じゃ無いですよ」

「え?」

 

 少し強い口調で、絢辻はそれを否定していた。

 

「私の話をちゃんと聞いてくれたし、朝遅刻するのは単に起きられないだけだ、って言っていたんですよ」

「そうなの?」

「ですから、不良というほどでは無かったんです。話してみたら、ちゃんと私の話を聞き入れてくれました」

「そうなんだー!よかったー」

「喧嘩もしてるって噂もあって怖い人かなと思ってたけど、だらしないだけだったんだねー」

 

 最後の一言はさておき、今のフォローには少し違和感を感じた。俺を更正させるという話なら、悪い奴で進めてもよかったはずだ。誰にでも優しい優等生という設定だからだろうか?先程の絢辻はいつもの表向きの顔が少し崩れていたような気がした。

 

(何か、入りづらくなっちまったな)

 

 教室を後にして、他のクラスを回って仕事を探すことにした。

 

(ふぅ……思ったより重労働だったな)

 

 今日の分の仕事が終わる頃には、自分のクラスには誰もいなくなっていた。自分の鞄を持って帰る前に、席に座って一息ついていた。数分休んでいると、教室のドアがゆっくりと開けられた。

 

「あら、まだいたのね。おつかれさま」

「ああ、絢辻もおつかれさん」

 

 絢辻の作業も終わったようだ。外はかなり日が沈んできている。そろそろ帰ろうかと考えていると、いつのまにか近づいていた絢辻に話しかけられた。

 

「ねえあんた、さっきのここでの会話聞いてたでしょ」

 

 ドキッとした。何と答えようか迷っていたが、間髪を入れずに言葉を続けてくる。

 

「ドアの窓からあんたの後頭部が見えたわよ。サボるなんて良い度胸じゃない?」

「……サボったわけじゃないぞ」

「冗談よ、あたしたちが話しているのを聞いて入りづらくなったんでしょ」

「……その通りだ」

 

 俺の考えは全部お見通しだったようだ。

 

「そういうわけで、あんたはあたしに更正されているっていう設定になったから。よろしくね」

「めんどくせえ……別にいいけどさ」

「返事!」

「はいはい……」

 

 恐らく俺の意見は通らないだろうと思い、諦めることにした。

 

「……ひとつだけ気になったんだけどさ」

「何?」

「最後に俺のことをフォローしたのはなんだったんだ?」

「そ、そうだったかしら?」

 

 あの時かなり違和感を感じたからはっきりと覚えている。

 

「俺を更正させるって話なら俺が悪い奴だと思われてた方がいいだろ」

「そ、それは……」

 

 あの女生徒たちからの俺の評判は既に低かった。それならそのままにするかより悪くする方がより効果的なはずだ。絢辻は何か言おうと少し迷った後、目を逸らしながら言った。

 

「ムカついたのよ。あんたのことを悪く言われてるのが」

 

 絢辻は言い終わってから何かハッとした顔になった。

 

「何も知らない連中が勝手な事を言ってるのが、何であれ許せなかったのよ! それだけだから!」

「そういうことか、わかったよ」

 

 何故か顔を赤くして、凄く何か言いたげな目線を向けてきた。それがどういう理由なのかは、俺にはわからなかった。

 

「とにかく! 明日からも真面目に参加してもらうから、覚悟しときなさいよ!」

「へいへい」

「それじゃ! また明日!」

 

 駆け出すような勢いで教室を出ていってしまった。

 

(俺も帰るか)

 

 さっきよりは軽くなった体を動かして教室を出る。

 

 

 ここ数日は今の実行委員の作業はそれなりに真面目に取り組めていると思う。早く起きるためにまっすぐ帰ってきて眠る。

 

(夜更かしと寝坊、すると後が怖いからな)

 

 昨日美也に体調と頭を心配された程だ。怠惰に過ごしてきた俺でも、こうも変わるものなんだなと思い耽っていた。絢辻に更正されたという急遽作られた嘘の設定も、案外嘘でも無くなっているな、と自嘲気味に笑った。それでも、気分は悪くないと感じていた。

 

 空はすっかり暗くなっていて、進む先が見えづらい。だけど俺の道は何だか明るく照らされているような、不思議な満足感で満たされていた。

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