輝日東高校にうつろいゆく光   作:こなひー

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ネタとシリアス半々くらいです。


7

「……それでは実行委員の手伝いをやってもいいよという人は挙手してください」

 

 絢辻を説得した翌日のHRで、先生が実行委員の手伝いを募集した。その結果、男女数名が立候補してくれた。棚町も、そしてあの春原も挙手していた。隣の男子がそれを横目で見てかなり引いている。

 

「はい、これで人数は揃いましたね。それじゃあ明日の放課後からお願いします」

 

 とりあえず手伝いの頭数は確保できた。そこでHRは終了になり、皆帰宅準備をする。俺は先に、一つ気になったことを本人に聞いておこうと思い体を向けた。

 

「お前、気でも狂ったのか?」

「あんたいきなり失礼だな!」

「棚町、何かあったのか?」

「こいつ、昨日高橋先生に『このままだと卒業できないかもね』って囁かれてたのよ」

「そんで今日のHRで手を挙げなさいってさ、おかげで僕の放課後がつぶれちゃったよ……」

「あんたの自業自得じゃないの……」

 

 やっぱりあの人は教師としてどうなんだろうか。

 

「これじゃあ僕の優雅な一人放課後が無くなっちゃうよ」

「いつも何してるんだ?」

「ひたすらナンパに明け暮れる日々だったよ!」

「んで、成果は?」

「聞かないでください……」

「そろそろ失敗記録二桁いくんじゃなかった?」

「言わないでください!」

 

 俺がいない間にかなり不名誉な記録が更新されていたようだった。

 

 

 それから創設祭まであと一週間を切った頃、手伝いを増やしてからの準備は順調に進んでいた。絢辻はいつもの優等生ぶりを発揮し、抱えきれていなかった作業をきっちりと皆に割り振っていた。

 

「なあ岡崎、この看板なんか物足りなくない?」

「そうか?」

「どこかに僕が協力したってことをアピールしておきたいじゃん」

「いや、お前は塗り漏れをちょっと直しただけだろ」

 

 大部分は他のやつが作ったものなのだが、こいつは自分の手柄にしようとしていた。

 

「そうだ!この右下のスペースにby夜露死苦って書いとこうぜ!」

「意味わかんねえよ……。あとそれじゃ誰が書いたのかわからんだろ」

「ちぇー、カッコいいと思うんだけどなー」

 

 こいつに任せるとタライ落としとか仕込んだりしそうで危ない。もし実行されたら絢辻に怒られるだろう。俺が。

 

「……ふぃー、なんか僕ら力仕事多くない?」

「まあ、そうなると思ってたけどな」

 

 俺たちに装飾等の細かい作業は向いていないと初日で判断された。

 その結果、初日以降は二人で倉庫と教室を行き来して荷物を運ぶ役割になっていた。

 

「そういや、絢辻ちゃんとはどうなのさ?」

「なにがだよ」

「なんか面白いこと起きてないのかなーって」

「お前な……」

 

 確かに絢辻と一緒にいる間は、ある意味退屈しなかった気がする。しかしどれも人に話せない内容ばかりである。もしバラしたら絢辻に消されてしまいそうだ。

 

「例えあったとしてもお前に話す理由がないな」

「いいじゃん、僕とお前の仲だろ?」

「くたばれ」

「ひでぇ! ……まぁいいけどさ」

「くたばる事がか?」

「違うわ!」

 

 荷物運びが終わり、教室に戻る。扉の前で、何やら不穏な声が聞こえてきたので思わず足を止めた。

 

「どうした岡崎?」

「いや、なんか中の様子がちょっと変じゃないか?」

 

 扉の近くで聞き耳を立てる。今度は窓から見えない位置で中腰になる。

 

「いやー、絢辻さんほんと羨ましいわー」

「そーそー。実行委員同士でいちゃいちゃしちゃってさ」

「あたしたちにはそんないい話もないってのに、絢辻さんだけずるい」

 

「なんか、めっちゃ空気重いんすけど」

「そう、だな」

 

 あの女子たちが絢辻に因縁をつけているのだろうか。しかも内容はどうやら俺との関係のことらしい。

 

「ですから、そういう、関係じゃないですよ」

「あれー? 絢辻さん泣いちゃいそうじゃん?」

「いや泣きたいのはあたしたちの方だし」

「あんたたちの仲を見せつけられるこっちの身にもなってほしい」

 

(まずいな、絢辻の本性がそこまで出かかってるぞ)

 

 今の絢辻が必死に怒りをこらえているのがわかる。でもそれを知っているのは、この場で俺だけだ。

 

「なんか手伝う気失せちゃったし、あとは幸せな二人でやっといてよ」

「はぁーあ、クリスマスって何でこんなに不平等なんですかねー」

「……!」

 

 絢辻にとってその言葉は、一番まずい。俺はたまらず扉を開いて中に入った。

 

「ひゃっ!? あ……岡崎、くん?いたんだ……」

「悪い、今の聞こえちまってな」

「あ、えっ、それは……」

 

 さっきまで笑っていた連中は俺を見るなり口をつぐんで目をそらす。俺がいないタイミングだったからさっきまで言いたい放題だったのだろう。人を見て急に顔色を変えるその態度が余計に腹立たしく感じる。

 

(こういう目線を向けられるのは久しぶりだな……)

 

 俺が不良だと言われ始めてから何度も受けてきた視線。俺を怖がるような、遠ざけんとするような圧迫感が漂ってくる。

 

(どうせなら、思いっきりやってやるか)

 

 足元に落ちていた飾りつけの小物を手に取る。

 

「後の作業は俺たちに任せるって言ってたよな?」

「あ、は、はい……」

「じゃあこの辺のものを俺がどうしようが文句ないよな?」

「そ、それ私たちが作った……え? ちょっと……」

「おらっ!」

 

 思いきり床に叩きつけると、ガシャンと音を立てて真っ二つになってしまった。

 

「ひっ!」

 

 女子達は俺の様子を見て怖がっていた。慌てて教室の隅に駆け込んでうずくまっている。他のクラスの連中も口出しできずにただ見ているだけだ。

 

「ちょっとあんた! 何やって……」

「おっ! いいねぇ岡崎! じゃあ僕もやっちゃおっか……な!」

 

 いつの間にか俺の後から入ってきていた春原が近くの看板を持ち上げて、バシンッ、と床に叩きつけた。また女子達の悲鳴が上がる。俺はそれを全力で何度も踏みつける。春原は他の飾りつけをひっぺがしていった。

 

 周囲を見ると先程の女子達は泣き始めていた。他の連中は理解できないという表情でただ立ち尽くしている。棚町は、何もせずに様子を見ている感じだ。そして絢辻は、俯いたままで表情は見えない。

 

 俺と春原の声しか響いていなかった教室に、絢辻の震えた弱々しい声が発せられた。

 

 「なんで……こんなことすんのよ……」

 

 正直に言えば、ただ腹が立ったというだけだ。しかし、俺の口から出たのは別の答えだった。

 

 「平等じゃないが嫌なんだろ?だったら全部ぶっ壊しちまえば皆平等に……」

 

 バシッッッ!!

 

 俺の言葉を遮るように絢辻に右頬を叩かれた。

 

「やめて、ください」

「……」

「どうして、ですか。岡崎君」

「お前に説得されて実行委員になったけどさ、悪いけどもう飽きちまったんだ。それに、こんな連中と一緒にいるのはもうごめんだからな。俺は抜けるぞ」

「ついでに僕も抜けるよ、なーんかつまんないし居心地も悪いからねー。……せっかく手伝ってやってるってのにさ」

 

 馬鹿な不良二人は、結局変わることは出来ないようだ。変わろうとしても、周囲の目はそれを許してくれない。先に出ていった春原の後で俺も教室から出た。追うものは誰もいなかった。

 

 

 扉を閉めて教室から離れる前に、教室から見えない位置で少し立ち止まる。

 

「……皆さん、大丈夫でしたか?」

「あ、うん……絢辻さんこそ大丈夫だった?」

「怖かった……やっぱり不良は不良だったね……」

「ごめんなさい、絢辻さんのこと誤解していて……。私が変な事言ったから……」

「気にしないでください。説得しきれなかった私のせいでもありますから」

 

 この様子なら後は上手くやりそうだ。離れたところで待っていた春原と合流して教室を後にした。

 

 

「いやー、気持ちよかったねー。あいつらに思い知らせてやったよ!」

 

 教室を出た後、俺たちは学校を出て町をぶらついていた。

 

「にしても岡崎、中々悪いこと思い付くじゃん」

「何がだ?」

「従順な実行委員になったと見せかけて皆が油断したところを思いきりぶっ壊すなんてさ!」

「あー、それは……」

 

 ああするしかなかった、と言いたいのだがどう話したら良いのかわからない。

 

「……なんてね、委員長ちゃんのために動いたんだろ?」

 

 こいつは、何となくだが俺の意図を感じ取っていた。その上で俺と同じ行動を取ってくれていたのだ。

 

「わかってたのなら先に言えよ……、別にお前まで乗る必要は無かったんだぞ?」

「……あいつらを見てたらさ、サッカー部の連中の事を思い出したんだよ」

「サッカー部をか?」

「ああ、僕らがいないところでグチグチ言ってた所が、ね」

「そうか……」

 

 俺たちはかつて部活に精を出していた。俺はバスケ、春原はサッカー。

 

 春原は一年の時、他校との練習試合中に揉め事を起こした。

それが暴力沙汰にまで発展して、春原はサッカー部を辞めることになった。

 

 きっかけはそれだが、そもそもそれ以前から部活への居づらさを感じていたようだ。

 他の部員達が、春原にメンバーから外れてほしいという目線を送り続けていたのだ。

 

「あいつら直接僕に言う勇気も無いのにさ。気に入らないやつを外そうとしてた。そんな奴らを見るとムカつくんだ。あの時は僕の方から離れてやったけどね」

 

 さっきのはただの腹いせなんだけどね、と笑いながら言った。こいつなりにも思うところがあったということだ。

 

「もっと言うとあいつらを一発くらいはぶん殴ってやりたかったけどね」

「そこまでやってたら一発で退学だったかもな」

「だろうね。でもあいつらやりかえす度胸も無さそうだし、張り合いなかったなー」

「俺は絢辻から良いのを一発貰っちまったけどな」

「ははっ、ほっぺた腫れてるじゃん。だっせー」

「よし、お前も今から同じ状態になってもらうぞ。なあに友達だろ?」

「不必要な暴力は止めましょうね!? しかも何でグーで構えてるんだよ!」

 

 お互いにさっきまで張っていた気が少し緩み、気づけばいつも通りのトークになっていた。

 

「にしても岡崎さぁ、せっかくポイント稼いでたのにまた逆戻りだね」

「ああ、これで卒業できるかどうかがまた怪しくなっちまったな」

「だったらさ、もう放課後に実行委員の作業をやる意味もなくない?」

「……確かに」

 

 あの空気にしてしまった俺たちが作業に戻る場所はもう無いだろう。ポイント稼ぎはさておき、手伝おうにも手伝えないからどうしようもない。いっそ開き直って遊びに行ってしまう方がお互いにとって良さそうだ。

 

「ならまた僕と遊べるじゃん! いやっほぅ!」

「ああ、これでまたお前の部屋の物をこっそり持ち出してどこまでばれないかで遊べるな」

「んなことしてたのかよっ! 今すぐ返せ!」

「悪い、全部売っちまったから買い戻してくれ」

「もう何が無いのか思い出せねえよ! 弁償しろよな!」

「冗談だよ」

 

 俺は、俺がやるべきだと思うことをやった。これまでの信用を全部台無しにする結果となってしまったが、後悔は無かった。

 

「んじゃ、とりあえず僕の部屋来る?」

「ああ、そうするよ」

 

 これまでと同じように学生寮に向けて歩き出す。今日の一件で俺はきっと委員から外されるだろう。絢辻の方は立ち直って元通りになっていくはずだ。怠惰な不良と優秀なクラス委員が一緒にいたこれまでが変だったのだ。

 

 面倒事が無くなって安心するかと思っていたのだが。これで絢辻との関係が終わってしまったという事実だけは拭えない。今まで感じたことの無い寂しさが俺の心に染み付いていた。




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