輝日東高校にうつろいゆく光   作:こなひー

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「それじゃ、何であんなことをしたのか聞かせてもらうわよ?」

 

 春原の部屋に正座した男子二人とベッドに腰かけて俺たちを見下す一人の女子。どうしてこうなったんだったか、記憶を数分前に遡らせる。

 

 

 実行委員での一件の後、俺と春原は寮の部屋でだらけていた。

 

「そういや、俺たちが壊したやつってどうなるんだろうな」

「さあね。手伝いのやつらが直してくれるんじゃない?」

「いや、俺たちが直させられる可能性の方が高いだろ」

「……僕明日から冬休みってことにしちゃおうかな」

「俺もそうするか。というわけでお茶」

「どういうわけだよ!? でねーよ!」

 

 明日学校に行けばどんな責任をとらされるか、考えただけで恐ろしい。ほとぼりが冷めるまで学校には姿を見せない方が良さそうだ。そんな会話をしていた時、突然部屋のドアが思いきり開かれた。

 

「うぉっ!?何だ!?」

「……絢辻?」

「やっぱり、ここにいたわね」

 

 そこにはとても冷たい笑顔で仁王立ちをした絢辻が立っていた。

 

「上がらせてもらうわね?」

「あ、あぁ」

 

 無言の圧力に俺達は黙って頷くことしかできなかった。

 

 

 そして、今の状況に戻る。遡っても全く理解が出来なかった。

 

「あの、僕の部屋鍵かけてたんすけど」

「寮母さんに許可は取ったわ」

「いや、僕の許可がまだ」

「い い か ら、今から二人に質問をするから。拒否権は無いからよろしく」

「は、はい……」

 

 全開モードの絢辻の凄みに俺たちはただ従うしか無かった。そして現在に至る、というわけだ。

 

「で?あんなことをした理由を説明してちょうだい」

「……僕はこいつに乗っかっただけっす」

「『一発ぶんなぐってもよかったかも』とか言ってただろ」

「あってめぇ!バラすなよ!そういうあんたも賛成してたでしょうが!」

「あんた達ねぇ……」

 

 火に油を注いでしまっている気がする。これから悪い意味で冬休みを迎えることになるかもしれない、と悟ってしまっていた。しかし彼女の言葉は、予想と真逆のものだった。

 

「よくやってくれたわね! いやーあいつらの顔ときたら、ほんとスッキリしたわ!」

「……ん?」

「……はい?」

 

 絢辻の表情は、滅茶苦茶スッキリとしていた。俺たちは訳がわからず唖然としてしまう。

 

「それなら本当に一発くらいぶん殴っちゃっても良かったのに」

「なんか、思ってた反応と全然違うんすけど」

「そうだな……」

 

 春原は本性も含めてかなり戸惑っている。本性を知っている俺も、予想外な展開に拍子抜けしていた。

 

「流石にあそこで止めなきゃ収集つかなかったけど、もう少し暴れてくれても良かったのよ?」

「えっと、……委員長ちゃんも意外とワルなんだね!」

「その呼び方とニヤケ顔、気持ち悪いから即刻止めなさい」

「すみませんでした、絢辻様」

「わかればよろしい」

「お前らそれでいいのか……」

 

 きれいな土下座をする春原とそれを見下ろす絢辻。まるで以前に妄想した女王様と奴隷のような構図が出来上がっていた。

 

「正直、あんた達が動かなかったら、あたしがキレてたかも知れなかったから助かったわ」

「それはそれで見てみたかった気もするけどな」

「あんた怖いもの知らずっすね……」

 

 絢辻がキレたらもっと大変な事になっていただろう。でもそれは、絢辻がこれまで積み重ねてきた信用を全て無くす事になる。

 

「それはそれとして、あんた達にはやってもらうことがあるのよ」

「やること?」

「そ、今から学校まで来なさい」

「学校に?」

「明日じゃだめっすか……?」

「それじゃ意味が無いのよ!部屋の外で待ってるから早く着替えて来なさい!」

 

 バタンッ、と入ってきた時よりも強くドアを閉めていった。一体何をさせられるのだろうか。先の事を想像して気が重くなるが、今の絢辻には逆らわない方が良さそうだ。春原も本能的に理解したようで、渋々一度脱いだ制服に着替え直す。

 

 

 その後俺たちは春原の部屋を出て、絢辻の少し後ろを恐る恐るついていく。

 

「僕たち、これから何させられるんすか?」

「校庭に埋められるかもしれないな」

「罪重すぎませんか!?」

「いや、屋上に磔にされるとかかもな」

「マジかよぉ……、僕たち今日で死んじゃうのかな……」

 

 そんなことを話していると、絢辻が呆れた顔でこちらを向いてきた。

 

「そんな物騒なことしないわよ、ただあんたたちにやってもらうことがあるだけよ」

「やってもらうこと?」

「俺がこいつにタイキックとかか?」

「何でお前も罰与える側になってるんだよ! お前もやられろよ!」

「いい加減そういう発想から離れなさいよ!」

 

 トボトボと連行される不良二人組に、ツッコミを入れるクラス委員というとても奇妙な光景だった。

 

 

 学校についた俺たちは、絢辻の指示した通り作業に取りかかった。

 

「んじゃ、とっとと直すか」

「今日中に終わらせること!いいわね?」

「まあ、やるだけやってみるよ」

「……文句とか言わないのね」

「ま、僕たちがやったことだしね」

 

 絢辻が呼び出した理由は、壊したものの修理と片付けをするためだった。勿論全部直すのは無理なのである程度できれば良いらしい。

 

「あと二人とも、分かってるわよね?」

「ああ、俺たちは絢辻に"説得"されて動いている、んだよな?」

「よろしい」

 

 これも指示通りの内容だ。説得という表現が若干引っ掛かるが、俺は触れないでおく。

 

「はは……説得、ねぇ……」

「何か文句でも?」

「ありません!」

 

 わざわざ絢辻が寮まで出向いてきたのはこのためだった。俺たちが壊したものをその日のうちに直すことで有耶無耶にしてしまおうということだ。自分達で直したとなれば、教師たちもすぐに退学なんてことにはしづらくなる。

 

 ついでに教師も手を焼いている問題児二人を説得したとなれば絢辻の評判も上がる。俺たちをキレさせてしまったクラスメイト達はすっかり縮こまっていたため、絢辻に対してこれ以上何か言ってくる事もないだろう。俺たちの行為をかばうのではなく、寧ろ利用するところが絢辻らしいと言える。

 

 

 修理作業を始めて二時間ほど経っただろうか。気づけば夕日も沈んで暗くなってきていた。絢辻が遠巻きで見張る中、春原がそっと近づいて話しかけてきた。

 

「なあ岡崎。確認なんだけど、絢辻ちゃんってあれが本性なの?」

「ああ、そうらしいぞ。俺は前から知ってたけどな」

「僕はまだ受け止めきれてないっす……」

 

 俺も初めて見た時は双子かと疑う程受け入れるのに時間がかかった。けれど、俺達は絢辻の本性を知っても嫌な気分になったわけじゃなかった。

 

「でもなんかさ、この学校も案外変な奴がいたんだねぇ」

「……ああ、そうみたいだな」

 

 嫌になるどころか、少しおかしな気持ちになっていた。俺たちは真面目な生徒ばかりの学校の中で、ずっと居心地の悪さを感じていた。俺と春原の気が合ったのもそれに関係している。

 

 今の俺たちはどうだろうか。クラスで暴れた不良二人とそれを利用する不真面目な実行委員というめちゃめちゃな関係。不思議なことに、居心地の悪さは感じていない。この場所は、思っていたほど退屈な場所でも無かったのかもしれない。単純に見えていなかっただけだったのだ。俺も春原も、今は妙な高揚感に満たされていた。

 

「つーかお前、派手に壊しすぎな。この壁から剥がした飾りとかもう直んないだろ」

「テープでくっつけたら案外いけるんじゃない? そういう岡崎だって派手にやってたじゃんか」

「お前……、俺は一応直すことも考えて程々にやってたぞ」

「あんたの投げた置物メチャメチャになってるんですけど!?」

「あれぐらいで壊れるように作った奴が悪い」

「絢辻様! こいつ最悪です!」

「どっちもどっちでしょ! ほら、口よりも手を動かしなさい!」

「へーい」

「ほーい」

 

 その後、どうにか修理を終わらせることができた。つぎはぎだらけだが、絢辻の許しをもらうことができた。俺たちが反省して直したという証拠さえ作れれば良いとのことだった。

 

 外に出ると、空はすっかり暗くなっていた。部活動をしていた生徒も既にいなくなっているため、歩いているのは俺たちだけだ。学校近くの寮住みの春原を見送って絢辻と二人帰り道を歩く。

 

「そういや、良かったのか?」

「なにがよ?」

「春原にもお前の正体バレちまったけど」

「ああ、別にいいわよ。バラす度胸もなさそうだし」

「だな」

 

 バッサリ切り捨てられていた。度胸はともかく、あいつの様子からしてバラすようなことはしないだろう。

 

「ありがとね」

「え?」

「あたしの本性を知った上でここまでしてくれた人は、あんた達が始めてよ」

 

 絢辻は少しうつむきながらそう言った。

 

「それに教室で暴れてくれたのもそう。あれが無かったらあたしはきっと……」

「気にしなくていいさ、俺たちが気まぐれでやったことだし」

「気まぐれ……、ね」

 

 本当に理由の説明ができないような、ほんの気まぐれだ。相手が絢辻だったからなのか、それとも誰でもよかったのかも分からない。

 

「あんた、あの時もそう言ってたわよね」

「あの時って……最初か?」

「そう、初めてあたしの仕事を手伝ってくれた時」

 

 教室で何となく俺が話しかけたあの時、それが最初の会話だった。絢辻のことなんて全然知らず、なんだか真面目なやつが居るという程度だった。今では肩を並べて遠慮のない会話をしている。それがなんだかおかしくて、何故か嬉しく思えていた。

 

「あんたはさ、私のこの性格でも良いと思う?」

「良いんじゃないか?俺からしたら普段の真面目モードより付き合いやすいぞ」

「ほんとに?あたしが優等生じゃなくても?」

「ああ」

「……そう」

 

 少し不安げに聞いてきた絢辻は、俺の答えを聞いて安心したような笑みを浮かべた。

 

「よかった、あんたが変な奴で」

「前も言ったが、お互い様だ」

「ふふっ、そうね」

 

 交わることの無いと思っていた二人。話している間は、今までに感じたことのない居心地の良さを感じていた。

 

 それと同時に、不安がひとつ浮かび上がった。創設祭が終われば実行委員の仕事も終わる。その時、俺たちの関係はどうなるのだろうか。

 

『何もかも、変わらずにはいられないです』

 

 もしもこの関係が、崩れてしまうようなことがあったら。俺は、耐えられるだろうか。この関係が変わることになったら、果たして受け入れられるだろうか。創設祭は、もうすぐだ。

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