輝日東高校にうつろいゆく光   作:こなひー

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やはり話を考えるのは楽しいですが、こだわりすぎると更新が遅くなっちゃいますね。


3

「よう、今日も邪魔するぞ」

「へーい」

「お邪魔しまーす」

「へー……ヘヒィ!?!?」

「どういう声なのよそれ……」

 

 輝日東高校のすぐ近くにある学生寮、春原はそこの一室に住んでいる。いつもは俺が転がり込んで時間を潰しているのだが、今日は少し違った。

 

「何で棚町がいるんだよ!」

「何よー、わたしがいちゃ悪いの?」

「ここは男の聖域なんだよ!女子供には刺激が強いから止めときな?」

「まあ、悪影響っていう意味では確かに刺激が強いかもな」

「悪影響とか言うな!そういう岡崎もうちに来てる時点で同じ穴のクジラだろっ!」

「クジラって……(むじな)でしょ」

 

 この部屋に居すぎると主に頭に悪影響がある、という事が分かってしまった。そんな場所に何故棚町が来たのか、理由は少し前の教室での会話に遡る。

 

 

 授業時間が終わって帰ろうとした時に、棚町が俺の席に両手をついて話しかけてきた。

 

「ねえ、あんた放課後いつも春原の部屋に行ってるらしいじゃない」

「ああ」

「それでさ、わたし今日バイトが休みで暇なわけよ」

「そうか」

「……」

「……」

「いや察しなさいよ!」

「何をだよ……」

 

 話の流れから言いたいことは何となくわかってはいる。けれども正直女子をあの場所に誘うのは気が引けるのだ。数えきれないほど通った俺が言うのも変だが、あれはあまりいい場所じゃない。

 

「いいじゃない!だってあんた毎回飽きもせず行ってるんでしょ?」

「いや、飽きてはいるぞ?本当に暇を潰してるだけだ」

「そうなの? ってあいつにそういう期待はしちゃダメか」

「そういうことだ。おすすめはしないし、面白い事は何も無いぞ」

「そこまで言い切られちゃうのも可哀想な話ね……、じゃあちょっと寄るだけにするわ」

 

 家主のいないところでかなり失礼な話だが、事実なので仕方がない。棚町の好奇心を満たすため、俺と二人で様子を見に行くことにした。

 

 

 そういう訳で、俺と棚町はアポ無しで春原の部屋へ突撃したのであった。いやどういう訳だよ、とぼやく春原を無視して、棚町は部屋に上がり込んだ。

 

「うわー、聞いてた通りほんとに散らかってるわねー」

「別に僕の部屋なんだから、どうしようが勝手だろー」

「そうだけど……うっわ、これラジカセ? 再生しちゃおうかしら」

 

 再生ボタンを押すと、俺もいつかこの部屋で聴かされた曲が流れ始めた。ボンバヘッ、だったっけか。棚町の趣味に会わなかったのか、聴き始めてすぐに顔をしかめた。俺が初めて聴いた時と同じように十秒持たずに聴くのを止めた。

 

「何よこの曲……、とりあえずわたしには合わないわ」

「何ぃ!? ボンバヘッ! の魅力がわからないなんて二流だね!」

「何の二流なのよ……」

「音楽センスだよ!でも棚町ならわかってくれると思ったんだけどねぇ……」

「なんでよ?」

 

 一体どこにわかってくれる要素を感じていたのかがわからない。春原は棚町の頭を指して言った。

 

「え?だってお前の髪って爆発」

「それ以上言ったらどうなるかわかるわよね?」

「スミマセンデシタ」

 

 思っていたよりもしょうもない理由だった。笑顔だが目が全く笑っていない棚町に春原は十分くらい土下座をするはめになっていた。棚町の髪型はイジってはいけないとよく理解した時間となった。

 

 

「あーひどかった!それじゃあ次はどこに行こっか?」

 

 まるで一つ目のアトラクションが終わったような言い方だった。そして部屋を出る時にしれっと俺も連れ出されていた。

 

「というか春原は連れ出さなくて良かったのか?」

「ああ、それなんだけどね……今日は岡崎に用があったのよ」

「そうなのか?」

 

 なんだかちょっと申し訳無さそうに話を切り出す。

 

「恵子のためのあの作戦で、あんたに迷惑かけちゃったから……」

「ああ、そのことか」

 

 どうやらあの作戦の後、俺に変な噂がついてしまったことを気にしていたらしい。今日俺を連れ出したのは、そのお詫びをしようと考えていたとのことだ。

 

「別に気にしなくても」

「気にするわよ! だってわたしの思い付きのせいなんだし……」

「俺は気にしてないんだけどな」

「あんたがそうでもわたしが気にしてるの!」

「それはもうお前の都合じゃないのか……?」

 

 何か致命的にズレているような気がする。

 

「だから!わたしの気が済むまで付き合ってもらうってことで!」

「もう好きにしてくれ……」

「よし!じゃあ今日は存分に遊ぶわよー!」

「はいはい……」

 

 

 棚町に勢いよく腕を引っ張られて連れられた俺は、近場で遊べるような施設をいくつか回った。ゲーセンに行ったり、ビリヤードやダーツ等、正直俺は、棚町の行動力にひたすら連れまわされていた感じだった。

 

 棚町が自分の飲み物を買いに行っている間、俺は一旦休憩したいと言い、ベンチに座っていた。一息ついた俺の目の前に、バスケのフリースローで得点を競うゲーム筐体が置かれていた。

 

(……もう、離れてからしばらく経つな)

 

 かつて俺が全力で打ち込んでいたものだった。でも、今の俺にはとても色褪せて見えた。あの時俺が持っていたはずの情熱は、もう影も形も無くなっていたのだ。呆れた笑いが出てしまう。

 

「おまたせーって……どしたの?あれやる?」

「……いや。もう、出来ないからな」

「あ……。確かあんた、肩痛めちゃったのよね。それで……」

「ん? ……お前にこの話しをしたことあったか?」

「あ、えっと……うん、前に聞いた」

「そうだったか」

 

 気づけばそれなりな付き合いになっているし、どこかでポロっと言っていたのかもしれない。空気を切り替えるように棚町が強めに手を叩き、音にハッとした俺の腕を掴む。

 

「はいっ、休憩おしまい!次あっちに行くわよー!」

 

 そう言ってフリースローの筐体から俺を引き離していく。前にも思った通り、勢いで動く事は多いけど気を使ってくれるタイプだ。嫌なことを思い出してしまっていた俺にとって、その気遣いはとてもありがたかった。

 

 

「もう日が暮れてきちゃったわね」

「そうだな……。体がもう限界だ」

「あはは!あんた足プルプルしてるわよ!」

 

 結局その日は今までに無いくらいに動き回った。この町の遊べる施設を全部やりつくしたのではないかと錯覚する程だ。棚町はまだ元気そうだが、俺はかなりクタクタになっていた。

 

「それじゃあ、わたしは今からスーパーで夕飯の買い物をしにいかなきゃだから」

「マジかよ……。あんだけ動き回った後でか……?」

「そういうあんたはもう限界そうね」

「明日の学校は昼からにするか……」

「あららー、その様子じゃ登校すら出来るかもわからないわねー」

 

 いつもの調子で話していると、俺の家とスーパーの分かれ道が見えてきた。

 

「ほんとにあっという間だったな……。それじゃあ、また明日……だよね」

 

 そう言う棚町の顔は、なんだか寂しそうだった。普段明るく振る舞っている奴なだけに、いつもと違う悲しそうな表情に心がざわついた。疲労だらけの身体を、もう少しだけ動かす気になった。

 

「……今日はお前の気が済むまで付き合うって話だったけど、もう済んだのか?」

「え? そうだけど……っ! ……い、いいの?」

 

 俺の身体を見て遠慮しつつも聞いていた棚町に、俺は黙って頷く。

 

「ううん!もうちょっとだけ済んでない!」

「なら買い物も付き合わないとな」

「うん、うん!それじゃあ、今日の最後のイベントはわたしと一緒に買い物ね!」

「りょーかい」

 

 少し足取りが軽くなった棚町に追い付くため、俺はすっかり重くなった足を動かした。

 

 その後は無事に目的の品を買い終えて、今は帰り道についていた。道中高校の購買よりも壮絶なタイムセールという闘いを目の当たりにした。おかげで俺の体力は完全に使いきってしまっていた。

 

 すっかり暗くなったスーパーからの帰り道を、大きめの買い物袋を1つずつ持って、2人で並んで歩く。

 

「なあ棚町……」

「どうしたの?荷物重い?」

「お前んち2人なんだよな……こんなに食うのか……?」

 

 俺は何度も買い物袋を持つ手を変えているのだが、棚町はその様子もなく平然と俺の少し先を歩いている。俺の疑問に何かを察したのか、歩きながらこちらを少し呆れた目で見てくる。

 

「あんた……さては家事全然やってないでしょ?」

「そ、そうだな……」

「バイトが無い日は大体わたしが買い物してるし、今日はちょっと抑え目な方よ?」

「……マジか」

 

 俺は今初めて家事の大変さの一端を知った。今までほとんど美也に任せていた事が凄く申し訳なくなってきた。もしかすると俺より美也の方が体力があったりするのだろうか。男として、というよりも人として劣っているという悪い気分を味わってしまった。

 

「あ、そろそろ家に着くからここまででいいわ」

「あ、あぁ……」

「それじゃ、今日は最っ高楽しかった!……付き合ってくれて感謝するわ!」

「ああ」

 

 今の笑顔が見られたなら、ボロボロの身体を引きずった甲斐があったのかもしれない。

 

 それじゃ!と棚町は俺が苦労して持っていた買い物袋をサッと受け取り、小走りで帰っていった。それを見送った俺には、家に帰る以外の選択肢はとても考えられなかった。

 

「ただいま……」

「あれ?みゃーが起きてるうちに帰ってきた」

「まあ、ちょっとな」

「ってなんかヘトヘトだね?」

「まぁ、な。……慣れない事はするもんじゃないな」

「えぇー?何してきたらそうなるの?」

 

 俺は棚町の買い物に付き合った事を話した。すると美也は俺の肩に手を置いて語り始めた。

 

「ようやくみゃーの苦労がわかりましたか!」

「ああ……」

「にぃにがちょっとやっただけで諦めちゃったせいでぜーんぶ美也がやってたんだからね!」

「ああ……」

「にぃにに気づかせてくれた棚町さんって人にはいつかみゃーからもお礼を言わなきゃ!」

「ああ……」

「これからはちょっとずつ手伝って……って、にぃに聞いてる?」

「ああ……」

「……ただ返事してるだけ?」

「ああ……」

「ありゃりゃ、ほんとに疲れきっちゃってる」

 

 その後の事はあまり覚えていない。気づいたら自分の布団の中にいて、時刻は朝になっていた。

 

 時計を見るともう十時、全く起きなかったというかいつ寝たのかも覚えていない辺り、完全に気絶していたようだ。棚町はこの上朝ちゃんと学校に行っているのだろう。あいつの事がかなりすごい奴なのではないかと思えてきた。

 

(……これが何もしてこなかったツケ、ってやつなのか)

 

 今の怠惰な生活から抜け出す事がより一層遠くに感じる。俺が何か変わるとしたら、その道のりはかなり険しい坂道になりそうだ。今日も登校時間には間に合いそうにない。




本編で棚町が家事をこなすシーンってアニメでは無かったような・・・?
ゲームではあったのかな・・・?
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