輝日東高校にうつろいゆく光   作:こなひー

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サブタイトルを改めてつけるかどうかちょっと迷っています。
つけるならアマガミみたいにカタカナ4文字で統一するか・・・とか。


5

「あ、岡崎くんおはよう」

「ああ」

 

 二限終わりの休み時間に登校すると、田中が挨拶をしてきた。挨拶自体はもういつものことになっているのだが、一つ違和感を感じた。いつも来ている奴の席、棚町の席に姿も、鞄も無いのである。

 

「ん?あいつはいないのか?」

「うん、今日は学校お休みだって」

「マジか、珍しいな」

「私もそう思って今朝連絡してみたんだけど、『大したこと無いから大丈夫!』って」

「そうか。しかし、あいつが体調崩すとは……明日は大雪が降るかもな」

「ふふっ、それ薫が聞いたら怒りそう」

「だな」

 

 やはり三人で話す時と比べて賑やかさが減るな、なんて考えていた。しかしその直後、田中は少し神妙な顔で話を切り出した。

 

「……岡崎くん。もしかしたらなんだけど」

「どうした?」

「薫、もしかしたらちょっと悩んでるのかもしれないの」

「……そうなのか?」

「確証は無いんだけどね」

 

 そういう田中からは、冗談を言っているようには感じない。何故そう思ったかの理由を聞くことにした。

 

「連絡はとってくれたんだけど、休んだ理由については教えてくれなかったから」

「ああ……言われてみれば」

「あと、学校は休むけどバイトには行くって言ってた」

「……学校で嫌なことでもあったとかか?」

「うーん、学校で話している時はそんな様子も無かったと思う」

 

 学校で何かあった訳ではない、かつバイト先でもない。今日は学校に来ないので、話を聞くとしたらバイト先に行くのが一番良さそうだ。

 

「それなら後でバイト先に行ってみるか」

「うん、お願いね」

「って俺だけなのかよ」

 

 てっきり田中も行くものだと思っていたので少し驚いた。

 

「薫が休んだ理由、多分私にも言いづらかったことだと思うから」

「それじゃ俺でも変わらないんじゃ……」

「ううん、岡崎くんにだったら話してくれるかも」

「何でそう思うんだ?」

「親友の感、っていうやつかな」

「……なら、信じる」

「うん、信じてみて」

 

 そうして今日の放課後の予定は決まった。解散になってすぐに俺は鞄を持ってバイト先に向かった。昼休みに来て机に突っ伏したままの春原は目もくれずに放置した。

 

 

「いらっしゃいま……あ」

「よう」

 

 店に入ってすぐ、目的の背中が見えた。普通にこちらに移動してきた辺り、体調が悪いわけではないという推測は当たっていたようだ。

 

「バイト先には来てたんだな」

「今日は学校の気分じゃ無かったのよ」

「俺にはいつも早く来いって言うのにか?」

「……ごめん」

「いや冗談だよ、悪かった」

 

 いつもなら軽口で返してくるところなのだが、やはり調子が悪いようだ。

 

「ねえ、岡崎」

「なんだ?」

「後でさ、話聞いてくれる?」

「……わかった」

 

 寧ろそのために来たのだが、それは別に言う必要も無いだろう。仕事に戻る棚町の背中を見送り、俺はしばらく店内で待つことにした。棚町のシフトが終わる時間になるため、店の裏口に移動して少し待つ。すると裏口のドアが静かに開き、制服姿に戻った棚町が店から出てきた。

 

「ごめんね、待たせちゃって」

「別にいいさ、大抵暇だからな」

「うん……」

 

 やはりどこか元気が無いように見える。

 

「……今日さ、わたしの事を気にして来てくれたの?」

「あー……」

「うん、今の反応でわかったわ。……ありがとね」

 

 なんだか見透かされたようでむず痒い。一呼吸ついてから、実はね……と話を切り出し始めた。

 

「……お母さんと、喧嘩しちゃったの」

 

 棚町は母親と二人暮らしで、これまでも家庭を支え合ってきた仲らしい。喧嘩はしたことが無いと前に聞いていたが、昨日初めての喧嘩になってしまったようだ。

 

「なんでなの……? だって今まで……」

 

 喧嘩した時の事を思い出しているのだろうか。どうも今の状態では詳しい話を聞くのは難しそうだ。棚町が落ち着くのを待っていると、顔を上げて俺に尋ねてくる。

 

「……あんたってさ、今日も遅くまで帰らないの?」

「いや、特には決めてないけど」

「帰らないならさ、わたしも連れてって」

「それは……」

「お願い! 今日だけでいいから!」

 

 縋るように頼んできた今の棚町の姿が、中学の頃の自分と重なって見えた。些細な事で親父とぶつかったあの時を思い出す。親父に突き飛ばされた後、俺はとにかく離れたいという一心で家を飛び出した。ぶつけて痛めた右肩を庇いながら、宛てもなく暗い道を進んでいった。他の事なんて何も考えられずに、ただぐちゃぐちゃになった思考を振り切るように。

 

 そうして距離を取った結果、俺と親父は他人になった。何度か関係を戻す機会はあったのかもしれない。でも、一度取ってしまった距離はもう戻ることが出来なくなっていた。もしここで棚町に俺と同じ道を進ませてしまったら。きっと俺と同じ傷を背負うことになってしまうだろう。そんなのは、駄目だ。

 

「今日はもう遅いから止めとけ。前みたいに遊べるところもこの時間じゃあまり無いしな」

「でも……」

「それに女子が夜に遊び回るってのは流石にまずい」

「わかってる! わかってるけど……」

 

 今にも泣き出してしまいそうな表情を浮かべながら、更に続ける。

 

「今日は、帰りたくない……」

 

 少しの間、沈黙が走る。気持ちはわかるけどどうしたものかと考えていると、棚町は何故か少し慌て始めた。

 

「あ……そ、そういう意味じゃなくて! 今はお母さんと顔を会わせたくないってことで!」

「? ああ、わかってるから」

 

 よくわからなかったが、さっきまでの重い雰囲気が少し薄れたように感じた。

 

 さて、どうしたものか。棚町を母親からあまり離したくはない。だけどここで突っぱねるような事もしたくない。そこで俺は、ふと思い付いた事を口にしてみた。

 

「ならさ、俺ん家に来るか?」

「……へ?」

「美也とは初対面になるか、まあ美也は平気だと思うけど」

「ちょ! ちょっと待って!」

 

 俺の意見に棚町は顔を赤くしながら慌て始めた。そこまで動揺するようなことは言っていないのだが、俺に恐る恐ると尋ねてくる。

 

「い、いいの?」

「ああ、ちょっと距離を置くくらいなら良いと思うぞ」

「迷惑じゃない?」

「いつもの無茶ぶりに比べたら大したこと無いからな」

「……それはなんか複雑」

 

 頬を膨らます姿を見て、少しだけいつもの調子に戻ったのを感じた。

 

「それで、来るのか?」

「……うん、お願いします」

「決まりだな、じゃあ行くぞ」

 

 そして俺たちは俺の家に向かって歩き出した。家に向かう道中、会話はほとんど無かった。そのためか、俺はこれまでも何度か棚町と二人で歩いた事を思い返していた。こういう時は棚町が俺を連れ回す形になっているが、今は逆だ。話をするときも、話題を切り出すのはほとんど棚町からだった。

 

 いざ棚町の元気が失われたら、こうも静かになるんだなと気づく。俺はこいつに色々と与えられていたんだという事を実感する。話しながら歩いている時は感じなかった寒さも、今日は一段と肌に突き刺さる。

 

 いつもより長く感じた通学路を経て、ようやく家の前についた。

 

「電気は……ついてるな。さて……」

「……ちょっとタンマ」

「どうした?」

 

 棚町が俺の袖を掴んで制止してきた。

 

「ちょっと心の準備させて」

「そんなに緊張することか?」

「そりゃするわよ! 男の人の家なんて初めてだし……」

「準備が終わったら言ってくれ」

「……うん」

 

 あくまで非常事態だったのであまり意識していなかったのだが、いざ言葉にされるとちょっとだけ意識してしまう。なんて、今はそういう場合じゃない。あの時に失敗したままの俺には、偉そうなことはとても言えない。しかし、だからこそ、俺みたいにはなって欲しくないと強く思っている。

 

 俺に出来ることなんてほとんど無いかもしれない。けれど、今は棚町の支えになれる事をしよう。俺が迎えてしまった悲しい結末を、棚町にも迎えさせるわけにはいかない。

 

「よしっ、いつでもいいわよ!」

「ああ、俺もOKだ」

「へ? あんたも何か準備してたの?」

「あ、いや。こっちの話だ」

「?」

 

 いつもただ棚町の気遣いに甘えていた。けど今は、俺が棚町に与える側となる。そんな小さな決意を抱き、家の扉を強めに開けた。

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