輝日東高校にうつろいゆく光   作:こなひー

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先生プレイを避ける以上オリジナルな部分が多くなっております。


4

 中多が家に来た翌日の昼休み、おぼつかない足取りで春原が登校してきた。

 

「なあ岡崎……」

「どうした? 随分やつれたな、お前」

「へっへっへ、あれからひたすら探し回っていたからね」

「何を?」

 

 目が充血するほどに何を探していたのか、全く思い付かない。俺に心当たりが無いとわかると、春原はいやいやいやと大声で話し出す。

 

「いやわかるだろ! 金髪高身長高飛車高身長スレンダーお嬢様転校生だよ!」

「急に大声出すなよ……、あと高身長って二回言ってるからな」

 

 昨日その話をしていた事をすっかり忘れていた。中多と全く異なる特徴を教えた結果、遭遇せずに済んでいるようで何よりだった。関係ないが、春原の背後で先程の叫びを聞いた近くの女子が思いきり引いていた。

 

「岡崎ー、ほんとに転校生のイメージこれで合ってるのー?」

「本当によく探したのか?」

「探したっての! でも金髪すらヒットしなかったよ……」

「そうだな……。何か出会うための条件でもあるんじゃないか?何個かの教室を正しい順番で回るとか」

「そんなアクションゲームみたいな条件あるかよ!」

 

 金髪高飛車高身長スレンダーお嬢様転校生なんて条件もそうそう無いと思う。はぁ、と春原は肩を竦めて何か悟ったような表情になる。

 

「はぁーあ、ぶっちゃけ僕の事を好きな人がいてくれたらそれでいいんだけどねー」

「お前完全に身も蓋も無くなってるぞ」

「なんか無いのかなー、『僕の事を好きな人がわかるおまじない!』とか?」

「そんな都合の良いおまじないなんてあるわけ……」

 

 もしもそんな物が本当にあったのなら、既に大勢の奴が試しているはずだ。特に恋愛話が多いこの学校で広まっていないはずが無いだろう、と思っていたのだが俺たちの会話に入ってきた棚町の言葉で流れが変わることとなった。

 

「ねえあんたたち、この雑誌に丁度そのおまじないが書いてあるわよ」

「マジ!?」

「なんであるんだよ……」

 

 棚町が見せてきた雑誌には『☆恋のおまじないコーナー☆』という胡散臭い題字があった。題字の下を見ると確かに『自分を好きな人がわかるおまじない』の手順が書いてある。俺が内容を見る前に春原が勢いよく身を乗り出した。

 

「それで!? どうすりゃいいの!?」

「食い気味すぎて怖いわよあんた……えーっと何々……?」

 

 おまじないの方法を読み進めて春原が実践する。

 

 おまじないの手順はこうだ。両手の親指と人差し指でハートマークを作り、『思い思われ振り振られ』と三回唱えて校舎を一周する。最初に自分に話しかけてきた人が自分の事を思っている人らしい。方法を聞いた春原はすぐに思い思われ振り振られ、と般若の形相で唱え始めた。但し三回で良い所を十五回程唱えたところでスタートダッシュの構えをとる。

 

「よっしゃーぁ! 行ってくるぜぇぇーー!!」

 

 手順を終えた春原は教室のドアを思いきり開けて、全力疾走で飛び出していった。俺と棚町は呆然とそれを見送った。

 

「あれじゃ誰も話しかけてこないでしょうね」

「いや、男の先生に取っ捕まるかもしれないぞ」

「あっはは! ある意味運命的じゃないの!」

 

 もしそうなってしまうと生徒と教師で男同士の禁断の関係が始まってしまう。面白いけど俺の見えない所でやってほしい。

 

「で、次はあんたの番ね」

「いややらねえよ、興味無いし」

「いいじゃない、減るもんじゃないんだし」

「俺の時間が減るんだが」

「あんたどうせもて余してるじゃない! ほらさっさとやる!」

「わかったよ……」

 

 あまりにせっつかれたため、仕方なくやることにした。俺は別に運命の相手なんて興味無いんだが、こうも棚町にせっつかれては止むを得ない。渋々と呪文を三回唱えた。

 

「……思い思われ振り振られ。これで一周してくればいいんだよな」

「おっけー、結果楽しみにしてるから」

「あんまり期待すんなよ」

「あと自販機の前通ったらわたしの分のジュースよろしくねー」

「お前そっちが目的だろ!」

 

 棚町におまじないを悪用されていた。別に結果が気になるわけでも無いが、こうも背中を押されては仕方ないので腰を上げた。ドアへと向かう前に一つ、棚町に頼みを思い出したので言っておく。

 

「あ、そうだ棚町」

「どうしたの? まさかわたしに話しかけて欲しいなんて、素敵な提案でもしてくれるのかしらー?」

「じゃなくて、今日はこの後バイトか?」

「うん、放課後からすぐ行くけど……それが何よ?」

「なら後で行くから、お前にバイトの事で相談したいってやつがいるから聞いてやってくれ」

「あんたからそういう話を振るなんて珍しいわね……うん、わかった!」

「それじゃ、頼むわ」

 

 約束はできたので、後は中多が今日空いてるかどうかを後で聞くとしよう。俺はトボトボと校舎を歩き出した。

 

 

 かくして校舎を半分くらい回ってみたのだが、特に話しかけられることは無かった。知り合いの顔すらも見ない。元々話す相手もそんなにいないからこんなものだろう。一度だけ、後ろから猛ダッシュですり抜けていった金髪がいたが気にしないでおいた。既に棚町の分の飲み物も買ってあるし、戻ろうと思ったその時。

 

「あれ、先輩?」

「うぉっ!」

「ひゃっ!」

 

 突然後ろから話しかけられてしまったため、うっかり飲み物を落としそうになってしまった。無事を確認してから振り返ると、そこには驚いて身を縮こまらせた中多がいた。

 

「な、中多か……どうした?」

「えっと……歩いていたら先輩の背中を見つけたので……」

「そ、そうか……」

 

 そういえば今の俺はおまじない中だ。一応、女の子に話しかけられたという扱いになるのだろうか。いやまさか、と思いはするのだが、意識してしまうと途端にそのことしか考えられなくなってしまう。

 

「あの、どうかしたんですか?」

「いや! なんでもないぞ!」

 

 おまじないなんて信じていない、と言いたい所だが俺は彼女からの反応に思いっきり動揺してしまう。彼女が話しかけてきたのはあくまで俺という知り合いがいたというだけのはずだ。だが、誤魔化そうとすればするほど余計に意識してしまう。

 

「そうですか……? でもなんだかいつもと様子が」

「そうだ中多! 例のバイト先に勤めてる棚町ってやつに、この後相談に行く約束が出来たんだ。今日行けそうか?」

「本当ですか! はいっ、行きます!」

「あぁ、ならよかった! それじゃ放課後な!」

「は、はい……?」

 

 不審に思われただろうが、今は気持ちの整理をしたくて直ぐにこの場を離れた。教室に早歩きで戻った俺を見た棚町がニヤニヤしていた。ムカついたのでさっさと頼まれた飲み物を渡した。ただ戻ってくるまでに振ってしまっていたようで泡だらけのお茶になっていた。文句を言われてしまったが気分が良くなかったので聞き流した。

 

 

 その日の放課後、中多と合流して例のファミレスに着いた。中多はずっとガチガチに緊張していて、同じ方の手足が同時に出て躓きそうになっていた。本番じゃないんだから落ち着けよ、と背中をさすってやる。すると少し安心できたようで、彼女は一呼吸おいてから意を決して入口のドアを開けた。

 

「いらっしゃいませー……あ、来たわね」

「よう」

「は、はじめまして……」

「その娘が相談したいっていう中多さんね?」

「ああ、そうだ」

 

 一先ず中多と棚町を会わせるという目的を達成できた。落ち着かない様子で店内を見回す中多を見た棚町が、俺と肩を組んで中多に聞こえない程度の小声で話しかけてくる。

 

「ねぇあんた、もしかしておまじないで話しかけてきたのってこの娘だったりするわけ?」

「……一応。おまじないなんて信じてないけどな」

「もー照れちゃって~。ねどう思います彼女さん?」

「なんだそのキャラ付けは……」

 

 この鬱陶しいノリが終わって欲しい。中多にもとっととスルーして本題に入ってほしいと思っていたのだが、中多はどうもこういうセリフを真に受けてしまうようで、顔を真っ赤にしていた。

 

「か、かの……」

 

 中多の反応が気に入ったのか、棚町は『へぇー、これもしかして本当に脈あり?』と呟きながら悪戯じみた笑いを浮かべた。俺は更に居心地が悪くなっていく。

 

「これは相談の前に色々聞かせてもらわないと……」

「おい店員さん、早く席に案内してくれ」

「おおっとそうだった、二名様ご案内しまーす」

 

 店員として先導して歩く棚町の後ろ姿は、やはりウエイトレスとしては様になっている。中多も同じ事を思っていたようで、彼女の姿を見ていいなぁ、と声を漏らしていた。制服への憧れは、やはり本気のようだった。

 

 

 窓際の四人席に案内してもらい、俺と中多は向き合って座る。座った後にいつもメニューを持ってきてもらうのだが、棚町は俺たちの前から動かない。

 

「店員さん、メニューが無いんだが」

「ご注文はわたしからの質問に答えた後のみ承りまーす」

「職権乱用だろそりゃ!」

「いいから答える! それで、二人はどういう関係?」

 

 こうなったら正直に答えるまで本当にメニューを渡してくれなさそうだ。別にやましい関係でもないのでここは普通に関係を話した方がいいだろう。

 

「最近転校してきた一年の中多。俺の妹の美也と友達で、その関係で俺も知り合ったってところだ」

「は、はい。先輩は私が移動教室で迷っていたところを助けてくれたんです」

「へぇーあんたも良いところあるじゃないのー」

 

 ニタニタしながら俺を見てくるのがかなり鬱陶しい。

 

「それより、中多から聞きたいことがあるんだが時間取れそうか?」

「そうねー……うん、今お客さんほとんどいないから大丈夫よ」

「それは店として大丈夫なのか……?」

「この時間は大体この位だから平気!それで、用があるのは中多さん、だったわよね?」

「は、はいっ!えっと……」

 

 中多がウエイトレスをやってみたい、という事を棚町に伝えた。交友関係の広い棚町はこういった相談には慣れているようでうんうん、と聞き終える。

 

「なるほどね、中多さんもここでバイトしてみたいけどできるか不安なのね」

「はい! でも私に勤まるかどうかが不安で……」

「ウエイトレスってどういう事をやるんだ?」

「そこまで難しい事はしないわよ? 接客と料理運びに、後片付けが多いわね」

「接客……うぅ」

「あー、接客が苦手なのね」

「そういうことだ」

 

 中多が俯いていく様子から、棚町も理解してくれたようだ。

 

「うーん、接客も結局は慣れって感じなのよねー」

「慣れるまでが勝負、ってことか」

「でも言う事はほとんど同じだから、わたしはそこまで緊張しなかったかも」

「まあお前はそうだろうな」

「ちょっとそれどういう意味?」

「なんでちょっと怒るんだよ……」

 

 俺としては褒めてるつもりなのだが、何か勘違いされている気がする。

 

「言う事はほとんど同じ……ですか?」

「そう! やってみちゃえば意外に簡単だから、中多さんもすぐに出来るようになると思う!」

「ほ、ほんとですか!」

「うん! だからきっと大丈夫!」

 

 棚町は思っていたよりも親身になって教えてくれた。俺の人選は間違っていなかったようだ。

 

「それに中多さん可愛いからちょっとくらいミスしたって許されるわよ!」

「変なこと吹き込むなよ!」

 

 前言撤回、ちょっと間違っていたかもしれない。

 

 

 その直後に客が来始めたため相談はここまでになった。何も頼まずに出ようかとちょっと考えたが、棚町からの『うちで冷やかしなんて良い度胸ね……?』という圧に肝を冷やしてしまった。適当にコーヒーを頼んで飲み、店を出た。

 

「棚町の話聞けて良かったな」

「はいっ! 棚町さんみたいになれるように頑張ります!」

「そ、そう……だな」

 

 中多が棚町みたいになる、というのは応援するべきか止めるべきか少々迷ってしまった。とはいえ気合いが入ったようだし、後は頑張り次第といったところだろう。これで俺の役目は終わっただろう。後は棚町と上手くやることができれば目的は達成できたも同然だ。

 

「えっと、先輩。今度私の練習に付き合ってくれませんか?」

「え? 俺か?」

「え? はい、そうです」

 

 まるで当然かの如く俺に頼んできた。

 

「まあ暇だしいいけど、俺がいてもあまり意味無い気が……」

「そんなことないです!」

「うぉっ!」

 

 急に大声を出されたために驚いてしまう。

 

「あっ、す、すみません。だめ……ですか?」

「い、いや……いいけど」

「ありがとうございます!」

 

 中多は嬉しそうに笑顔を向けてくる。接客練習に付き合うという約束をして、その日は解散した。帰り途中にさっきまでの中多の行動を思い返していた。バイトの練習なんて俺にできることはないだろうに、彼女は俺を頼ろうとしてくれている。それだけ信頼されている、ということなのだろうか。

 

 それにあのおまじないの事もあって妙に意識してしまう。これについては、俺があまり深く考えないようにすれば良いことだ。どうせこの関係はいずれ終わってしまうのだ。俺は誰かの助けになれるほど良いヤツじゃないから。

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