(先生プレイを岡崎にやらせるのはちょっとね・・・)
それといつもより文字数が多めです。
退屈な午前中の授業が終わり、昼休みになった。購買で買ったパンも食べたしこの後の授業をどうフケるか考えていた。すると俺の思考を打ち切るように棚町が俺の視界でひらひらと手を振ってきた。
「ねえ、あんたの彼女が来てるわよ?」
「はぁ?」
教室の出入口を見ると、中多のツインテール片方だけが見えていた。少し顔を出してこちらを覗いては引っ込んでを繰り返している。このクラスに俺以外の知り合いは棚町ぐらいのはずだ。
「中多は彼女じゃないからな。あとその冗談は春原がいる時は言うなよ」
「あいつは本当に必死すぎて引いてるわよ……。おまじないの時は本気で距離を置こうかと思った」
「それで、結果はどうだったんだろうな?」
「もし出来てたら今年一番のウッザイ顔で報告に来てるでしょ」
「それもそうだな」
あいつに春が訪れるのは果たしていつになるだろうか。俺の予想は永久に来ない。棚町の予想も永久に来ない。
「って早く行ってあげなさいよ!あの娘多分あんたが来るまでずっと待ってるわよ!」
「おっと、そうだな……。行ってくるか」
「あの娘を泣かせるんじゃないわよー」
「お前は誰目線なんだよ……」
また引っ込んでしまったツインテールに歩み寄る。
俺に気づくと笑顔になって近づいてきた。
「あっ、先輩!」
「ああ、なんかあったのか?」
「はい、また勧誘されそうになったんですけど……」
「まだされてるのかよ……。今日は断れたのか?」
「それが……、断りきれずに逃げてきちゃいました」
「まあそれでも良いと思うけどな。そいつら、本当にしつこいんだな」
「はい……」
中多が転校してきてから数日経っているというのに、勧誘はまだまだ終わらないとのことだ。
「それで、なんで俺のところに来たんだ?」
「教室で囲まれて困ってたら、美也ちゃんが『お兄ちゃんのところに行ってきなよ!』って……」
「あいつ俺のこと人避けだと思ってるのか?」
廊下のほうを見ると、勧誘っぽい生徒が何人か俺を見て来るのを躊躇っている。悲しいことに俺は人避けの効果を持っているようだった。自分でも人からあまり良く思われていない自覚はあるが、それでもちょっとショックだった。
「にしてもほんと変わった組み合わせよねー、この二人は」
「さらっと混ざってくるな」
「あっ、棚町さん! こ、こんにちは」
「やっほー、こいつに何か用事だったの?」
「それが……」
中多が話そうとしたところで、もう一人クラスメイトが話しの輪に加わってきた。
「あの、何かあったんですか?」
クラス委員の絢辻だ。
「あ、絢辻さん。何かってどうして?」
「いえ、何だか教室の外がいつもより騒がしかったので……」
クラス委員として状況を確認しにきたようだ。真面目なやつだとは聞いていたが、ここまでとは予想外だ。
「ああ、多分中多の追っかけが原因だ」
「追っかけ……?」
「そっ、そういうのではないです!」
「しつこく部活の勧誘してくるんだし、間違っちゃいないだろ」
何だったら追っかけよりたちが悪いかもしれない。
「何故この時期に勧誘を……?」
「ああ、こいつ最近転校してきたばかりでさ」
「中多ちゃん可愛いから、男子たちが血眼で入れたがってるそうよ」
「知ってたのか」
「まあね、わたしの知り合い皆その話するんだもの」
「……大方事情はわかりました」
納得した、という表情で絢辻は中多の方を見る。
「す、すみません……」
「いえ、中多さん……ですよね?あなたのせいじゃ無さそうですし、大丈夫ですよ」
「は、はいっ」
「勧誘なんてバシッと断っちゃえばいいのに!」
「……それが出来なくて苦労してるんだよな?」
「は、はい……どうしたらいいでしょうか?」
比較的人当たりの良い二人からなら、良いアドバイスが貰えるかもしれない。
そんな期待をしながら話を聞くことにした。
「誘いの断り方、ですか?」
「バイトしたいからヤダ! とかでいいじゃない、ダメなの?」
「そ、それだと失礼にならないでしょうか?」
「全然! 寧ろ変に期待を持たせちゃう方が良くないんじゃないかしら?」
「そうですね、その気は無いと早めに伝えるのが大事です」
真剣に答えてくれている二人に俺と中多は感心していた。
「私にはやりたいことがあるので! とはっきり言えば相手もわかってくれると思いますよ」
「そうよ中多さん! だから勧誘されてる暇なんか無いって言ってやりましょ!」
「な、なるほど……!」
真剣、なのだが段々ボルテージが上がっていく。
「いえ、キッパリ言っておかないと今後もしつこく誘ってきますよ?」
「どうせ皆下心で誘ってるだけだから全部突き放さないと!」
「な、なんだかお二人が怖いです……」
「お前ら何か嫌な経験でもあったのか……?」
まるで過去にそれで嫌な思いをしたことがあるかのような力説だった。この二人、割りと気が合うのではないだろうか。これ以上は二人の愚痴になってしまいそうな雰囲気があったため、少し強引に話を打ち切る。
「二人ともありがとな、参考になりそうだ」
「全然いいわよこのくらい!相談事は薫ちゃんにはお手のものよ!」
「私もです。……それにしても、岡崎くんって意外と話せるんですね」
「え?」
「クラスではちょっと近寄りがたい雰囲気だったので……」
以前に別のやつにも似たようなこと言われた気がする。美也の友達の七咲、だったっけか。
「それで岡崎くん、一つ言いたいことがあったんです」
「なんだ?」
「……遅刻、どうにかなりませんか?」
「…………善処します」
「あらら~、クラス委員に警告されちゃったわね~」
隣から野次ってくる棚町も気にかかるが、今の絢辻から感じる圧力を全身に感じている。
「クラス委員として、忠告しておきますね」
「……うす」
とても優しく言っているはずなのだが、ここは逆らってはいけないと本能が警笛を鳴らしていた。
俺の都合で教室に居づらくなってしまったため、教室を出て中多と廊下を歩く。
「そういや、さっきは絢辻とそこそこ話せてたんじゃないか?」
「あれ?……そういえばそうでした!」
案外人見知りが治るのもそんなに遠くないのでは無いだろうか、と思っているところに中多の背後に何者かが近づいてくるのが見えた。
「可愛い娘、みっけ!」
「ひゃあぁぁっ!?」
何者かが中多に覆い被さるように抱きついた。それに反応して中多が廊下に響くほどの悲鳴をあげた。
「ちょっとはるか!」
「ねえ響! 私こんな可愛い娘を見逃してたなんてびっくりだよ!」
更に後ろから声が聞こえてくる。恐らく知り合いであろう女生徒が、抱きついている女生徒を中多から引き剥がした。
「いきなり走っていったと思ったら……はるか!いきなり抱きつかないの!」
「ごめんごめん、わたしは森島はるか、三年よ!」
「全く……私は塚原響、同じく三年生」
次はこちらの番だと思い、後ろにいる中多に目配せをする。中多は軽くうなずき恐る恐る二人に目線を合わせる。
「い、一年の中多紗江です……」
「中多さん、はるかがごめんなさいね」
「い、いえ……大丈夫です」
「怖がらせちゃってごめんねー……それで、君は?」
「え? ……ああ、二年の岡崎っす」
自分にも話が振られると思っていなかったため、反応が遅れてしまった。
「紗江ちゃん……でいいんだよね? わたし可愛い娘は一度見たら忘れないんだけどなー」
「確かに見かけない娘ね」
「うぅ……」
俺の背中に隠れて警戒している。さっきの襲撃ですっかり縮こまってしまっている。
「最近転校してきたんすよ、まだ慣れてなくて」
「そうだったんだ! ごめんねー、可愛い娘に目が無くてつい突撃しちゃった!」
「ついで突撃しないの」
森島先輩は俺が今まで会ったことの無いタイプだった。何というか……と考えている間、つい先輩をジッと見てしまっていた。
「……先輩?」
「ん? 君どうしたの? もしかして私の事気になってるのかな?」
「あ、いや……この人悩み無さそうだなと思って」
「ちょっと君! 先輩に対してそれは失礼じゃないかな!?」
「岡崎君、正解」
「響ー!?」
間の抜けたやり取りを聞いてか、背中で俺の制服を掴んでいた手の力が少し緩んだ。中多の警戒が少しだけ解けたのかもしれない。せっかくなので、中多の人見知りについて軽く相談してみることにした。
「そうね……どちらかと言えば私も人見知りな方だから、あまり力になれそうにないわね……」
「私は全然気にせずお話できちゃうけどなー」
「す、すごいです!」
「特に相手が男の子だと、積極的に話したり聞いてくれたりするし……」
「そう……なんですかね?」
それは、多分気があるやつの行動では無いだろうか。
「はるかは特殊なケースだから、参考にならないと思うわ」
「ちょっと響!?」
「そうっすね……中多、今のは聞き流していいぞ」
「君もひどーい!」
「は、はい……すみません」
「謝られるのもなんか嫌ー!」
なんだかコントみたいな展開になってしまった。
話しは終わり、森島先輩はまったねー、と言いながら去っていった。それにやれやれ……と塚原先輩もついていく。
「何だか変わった人でしたね」
「そうだな……悪いけどあまり参考にはならなかったな」
少し疲れて立ち尽くしていたところに、一人の女生徒がこちらに気づいて歩いてきた。
「あれ?岡崎くんだ」
「ん?あぁ、桜井か」
声をかけてきたのは、俺と中学が同じで会うと時々話をしてくれる女子、桜井梨穂子だった。
「えーっと、そちらの娘は?」
「はいっ、一年の中多紗江ですっ!」
「中多さんだね、私は二年の桜井梨穂子。岡崎くんと同じ中学だったんだー」
「そっ、そうなんですか」
中多が率先して自己紹介をしたことに内心驚いていた。この昼休みの間に人と話すことに少しずつ慣れてきているのだろうか。
「こいつの人見知りを解消したいんだけど、なんか良い方法あったりしないか?」
「うーん……私もそんなに得意じゃないんだー」
「そうか?俺に普通に話しかける奴なんて滅多にいないんだけどな」
「ええーっと……それは、その……」
「?」
「……中学が同じだし、岡崎くんの事は知ってたからね!」
「そうか……知ってるなら緊張することも無いか」
「うん、そうだと思うな」
俺の事情を知っているからこそ話しかけて来ないやつもいたのだが。多分桜井も特殊なケースなのかもしれない。
「相手の事を知るのも大事、ってことですか?」
「まあそうだな、といってもファミレスじゃ知らない客の方が多いか」
「うーん、あんまり参考にならなそうかな?」
「いえっ、頑張ってお客様を観察してみようと思います!」
「それは良さそうだね!」
中多にとっては学べる事があったようだ。桜井と別れた頃には、もう次の授業まで数分という時間になっていた。
「何人か話を聞いてみたけど、収穫はあった……のか?」
「はい!今日は初めての人と四人もお話できました!」
「上出来じゃないか」
「ありがとうございますっ!」
最初に会った頃と比べたら、かなり人と話せるようになってきているのは間違いない。俺の助けもいらなくなるのは案外早いのかもしれない。なんて事を思っていると、中多は何かを思い返して表情が少し曇り始めた。
「……先輩」
「どうした?」
「今日お話ししてくれた人たち、みんな女の人でしたね」
「え?……そういやそうだったか」
「先輩とも仲良さそうな感じでしたけど……」
そういやそうだったか、と今日の会話を思い返してみたが、気にする程では無かったと思う。
「むぅ……」
俺が考えている間に、何故か中多の機嫌が悪くなっていた。喜んでいた数分前から一転、頬を少し膨らませて不機嫌そうにしていた。
「先輩っ!」
「な、なんだ?」
「私、まだ不安なので……これからも練習に付き合ってもらえませんか?」
「あ、あぁ……いいけど」
「……約束、してくれますか?」
「わかったよ」
「はいっ、お願いします!」
俺の予想に反して、中多はまだ俺の助けが必要だと言った。中多のらしくない勢いに疑問は残るが、別に断る理由もない。もう少しだけ、付き合う事にしよう。
何やかんやで、昼休みの間中多を保護しておくというミッションは完了した。
「……それで、私のところに返却をしにきたと」
「ああ、確かまだクーリングオフの期間内だよな」
「それは買った商品を返す時のやつですよ」
「うん! 昼休み終わるギリギリだから有効!」
「成立しちゃうんだ……」
互いにボケてはいるが、意図は伝わっているので良しとする。七咲がちょいちょいツッコミを入れてくれるのだが、中多はやはりボケへの耐性が無いようで困惑していた。
「私、返品されちゃうんですか……?」
「また真に受けちゃってる!?」
「冗談だ、もう昼休みも終わるからな」
「あっ、そうでしたね!」
そろそろチャイムが鳴る時間だという事に気づいていなかったようだ。いい加減俺たちのボケにも慣れてほしい気もする。
「もー紗江ちゃん、お兄ちゃんの言うこと何でもかんでも信じちゃダメだよ!」
「今のはお前もノッてただろ」
「ノッたけど! 紗江ちゃんも気を付けてね!」
「う、うん……?」
ボケた側が気を付けろ、というのも変な話である。
「それじゃ戻ろっか!次の準備しないとね!」
「うん! ……あ、先輩」
「何だ?」
「ありがとうございました!それと……」
言いながら、両手の人指し指で小さくバツを作って俺に向けてくる。
「……授業サボっちゃ、ダメ……ですよ?」
「あ、あぁ」
「にっしっしー、紗江ちゃんもお兄ちゃんの行動パターンがわかってきたね!」
「……教室戻るからな」
「授業中寝ないようにね!」
「それは約束できない、じゃな」
「コラー!」
図星を当てられたせいか、それとも中多の表情にドキッとしてしまったせいか。少し照れ臭くなってしまい、気づかれない程度に早歩きで教室を去る。あそこまで見透かされたように言われてしまっては、サボるにサボれなくなってしまった。俺の行動パターンは分かりやすいのだろうか。昼休みの間だけだったが中多の大きな成長が見られた。別に俺に何かできた訳じゃないと思う反面、心のどこかで少し満足感を覚えていた。けれどそんな良い気分は、教室に戻った時の棚町のニヤケ顔によって打ち消された。
1話の文字数を4000~5000目安にしてたのですが今回はかなり膨らんじゃいました。
オーバーしちゃうのは今回だけにするつもりです。