展開をどうするかかなーり行き詰まっておりましたがようやく固まりました。
「家出……?」
突然の事で話を上手く飲み込めない。家出ということは、もう何日も帰っていないということなのだろうか?悪い想像ばかりが脳裏を過ってくる。
「家出って……いつから?」
「ああ、すみません。家出という言い方は少々大袈裟だったかもしれません」
俺が思いきり不安な表情をしていたのを見て、繁野さんは軽く謝った。繁野さんが言葉選びを誤るほどに余裕がなくなっているのを見て、動揺が俺にも移ってしまっている。
「家を出ていかれたのは数時間前の事です」
「な、なんだ……」
強張った体から緊張が解けて、ホッと胸を撫で下ろす。
「申し訳ありません。私も初めての事で戸惑っておりまして……」
「何があってそんなことに?」
「……貴方には知っていただいた方がよろしいですね」
そう言って繁野さんは一呼吸置いてから、経緯を説明してくれた。
事の発端は、中多の父親が俺の噂を知った事だった。娘が不良とつるんでいると聞いて不安になった父は、そのまま娘に聞いたのである。『紗江、学校で不良なんかと一緒にいるのか』と。それを聞いた中多は、強く否定した。『先輩は不良なんかじゃない!』と。
二人の言い合いは、平行線だった。中多がどんなに説明しても、父は全く認めようとしなかった。どうしてもわかってくれないと思った中多は、堪らず家を飛び出してしまったのだ。父は初めて娘に反抗された事で戸惑い、どうしたら良いのかわからなくなってしまった。
数時間が経ってから、繁野さんが事情を知った。それから思い当たる場所を探し回り続けて、今に至る。
「そんなことが……」
「お嬢様がお父上の意見に反発されたのは初めてでした」
「今まで、一度も?」
「はい、これまでお嬢様はお父上の言うことは必ず素直に聞いておりました」
その言い方からして、本当に反抗したことが無かったのだろう。
「きっとそれ程までに、貴方と居ることを否定されたのが嫌だったのでしょう」
「……なんで、そこまで」
俺には本当にわからなかった。何故そこまで俺と居ることに拘っているのだろうか。
「岡崎さん、貴方に確認したいことがあります」
「……はぁ」
「貴方のお話をされるお嬢様は、いつも楽しそうになさっています」
「前にも、言ってたっすね」
「貴方はお嬢様と一緒にいて、どうお思いでしょうか?」
「!」
一緒にいて『俺は』どう思っていたか。俺の頭からすっかり抜け落ちていた考え方だった。
「お嬢様はこれまで助けてもらったこと、教えてもらったことも喜んでおられます。ですが何よりも……貴方と時間を共にすることが楽しい、と一番に仰られるのですよ」
「俺と居て……楽しい、か」
「貴方は、どうでしょうか?」
今まで自身が楽しんでいるか、なんて全く気にしていなかった。俺の楽しみは、バスケができなくなったあの時に無くなったと思い込んでいたからだ。でも自分はどうだったのかと水を向けられて、ようやく気づいた。中多と行動していた時の俺は、退屈の苦しさも孤独の辛さも忘れていたこと。距離を置こうとしたら、苦しさや辛さがより増してしまっていたこと。中多の相談に乗って一緒にいる時、俺も楽しんでいたのだ。一緒にいる間は自分の心境の変化に気づいていなかっただけだった。
「俺も……楽しい、っす。あいつといたときは、退屈してなかったんで」
「そうですか、それは何よりです」
口にした瞬間、俺の中でようやく気持ちが理解できた。これ以上ここで立ち止まっていられなくなり、外に向かって歩きだした。
「俺、探しに行ってきます!」
「岡崎さん」
俺を呼び止める繁野さんの眼から、俺を信じてくれているのを感じる。
「私はここで待っておきますので……お嬢様の事をお願い致します」
「……はい!」
宛は無いが、ひとまず近くから探すために走り出した。
(……いた!)
「あっ……」
その姿は、案外すぐに見つけることができた。というのも、中多は俺の家から近い公園にいたのである。
「やっぱり先輩は、私が困っている時に来てくれるんですね」
「……たまたまだよ」
「ふふっ、何回も助けてもらったこと全部……たまたまなんですか?」
「どうだかな」
お互いに少しだけ笑う。けど、すぐに晴れない表情に変わってしまう。
「家を出た理由は、さっき繁野さんから聞いたよ」
「……はい」
「もしかして、俺の家に来ようとしてたのか?」
俺の問いに、中多は黙って軽く頷いた。
「始めは、先輩に頼ろうと思って飛び出したんです」
「けど、先輩は私から離れようとしてるんじゃないかって」
「……」
「だから、家の前で引き返しちゃいました」
諦めたような笑みを浮かべながら更に続ける。
「……お父さんに先輩の事を悪く言われて、つい言い返しちゃいました」
「そんなに嫌だったのか?」
「はい」
少しスッキリしちゃいました、と続けたがスッキリ爽快という様子では全くない。この後どうしたらいいだろうという不安に襲われているように見える。そんな暗い顔をさせたくなかったのに。
「……こうなると思ったから、俺はお前から離れようと思ったんだよ。俺の事を聞いたら、お前の家族はきっと良く思わないだろうって思ったんだよ」
「そう、だったんですね」
結果は、思いきり失敗だった。お互いに悲しい思いをした上に、中多は父親と喧嘩することになってしまった。それでも、中多は俺を軽蔑の眼で見たりなんかしなかった。
「やっぱり先輩は、優しいです」
「優しくなんか……」
「でも、嫌です。私は先輩と離れたくありません」
どこまでも純粋な娘の言葉は、とても強い意志が伝わってくる。
「先輩は、私といるのは……嫌、ですか?」
最初はただ見ていて心配になる奴、というだけだった。けどそれから何度も接していくうちに、俺にとっての中多の印象は変わっていった。
「嫌じゃない。お前と離れた時……俺も寂しくなっちまったしな」
「! ……よかっ……たです」
「お、おい!」
ふらふらと地面にへたりこんでしまいそうになった中多の肩を掴んで受け止めた。
「すみません……安心したら力が抜けちゃいました」
「ああ……」
「その言葉が、ずっと聞きたくて……こんな所まで来ちゃったんです」
軽く抱き止めた中多の体は少し震えていた。この寒空の下で独り、不安を抱えながら立ち尽くしていたのだから無理もない。
「……もう少し、こうしていてもいいですか?」
「ああ、いいぞ」
「ありがとうございます」
少しの間中多は俺に体を預け、震えが収まるまで数分の間何も言わずに支え続けた。
「……落ち着いてきたか?」
「はい。……家に戻って、もう一度お父さんと話しをしてみます」
「ああ、それがいいな」
震えは止まったようで、ゆっくりと俺から体を離す。
「今はこれで、大丈夫です」
「ん、そうか」
「……先輩」
「なんだ?」
中多は俺に向き直して、胸の前で両手を握りしめながら言った。
「私の問題が終わったら、大事なお話がしたいです」
「……ああ、わかった」
大事な話の内容については一切言っていない。けど、雰囲気からどういう話になるのか……何となくわかった気がした。
話が終わってから、二人で歩いて俺の家に向かった。繁野さんは俺が探しに出る前と同じく家の前で待っていた。俺が連れ戻してくることを予想していたのだろうか。
「岡崎さん、ありがとうございました」
「それでは先輩、……いってきます」
「ああ」
二人は車に乗り込み、ゆっくりと発進していくのを見送った。これまで中多を見送る時は毎回心配になっていた。けど今は、大丈夫だろうと心の奥から思えていた。中多自身が成長しているのもある。それに加えて俺が中多は意外に意志が強い娘であると知ったから、というのもあるだろう。
出会ってから数日しか経っていないというのに、様々な面を見ることができた。常識知らずといっても気遣いや心配りはできたり。一度やろうと決めたことは、意外に譲らなかったり。何だかんだありながらも、俺はこの娘が前向きに変わっていく姿を見守り続けていた。今日の出来事を経て、俺の何かが吹っ切れたような気がした。気持ちが変わった……いや、変えさせられたと言うべきだろうか。
明日はようやく厚い雲が途切れて日差しが見られるらしい。俺の心が引きずっていた暗雲も、晴れる日がくるのかもしれない。
思っていた以上にほぼオリキャラ運転手がキーキャラになっていました。
ここまで絡ませる予定じゃなかったから名前とかつけてなかったけど
この際名前付けた方がいいのかも・・・?と少し考えています。