輝日東高校にうつろいゆく光   作:こなひー

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「おかえりー」

「ああ」

 

 玄関まで戻ってきた俺を、美也は平常のテンションで迎えてくれた。家を出る前までは険悪になっていたのだがその様子は無くなっていた。俺の前まで歩いてきた美也は、俺の顔を覗き込んできた。

 

「んー……うん、大丈夫そうだね!」

「わかるのか?」

「にぃにって、結構顔に出るからね!みゃーじゃなくてもすぐわかると思うよ?」

「マジかよ……」

 

 自分では無愛想な方だと思っていたのだが、身内にはバレてしまうようだ。

 

「紗江ちゃんは家に戻ったの?」

「ああ……というか家の中からほとんど聞いてたんじゃないのか?」

「まあね!にぃにとおじさんの会話は全部聞いてたよ!」

「そんなことだろうと思ったよ」

 

 家に戻ってからあまりにも話がスムーズ過ぎるから何となく察していた。

 

「にぃにも紗江ちゃんといる間、楽しかった……んだよね?」

「ああ、そうだ」

「にっしっしー、世話を焼いた甲斐がありましたよー」

「何かしてたっけか?」

「あー! そういうこと言っちゃうんだー!?」

「冗談だ、ありがとな」

「もー……お礼ならもっと素直に言ってよー」

 

 勿論、中多と俺のために色々動いてくれていたのはわかっている。そもそも美也が間にいなかったらここまで関わりを持つことも無かっただろう。

 

「それにしてもほんと良かった!にぃに、紗江ちゃんと居る時楽しそうなの丸分かりだったよ?」

「そうだったか?」

「そうだよー、気づいてなったの?」

 

 これまでは本当に自覚が無かったけど、美也が言うのならきっとそうだったのだろう。もっと前に言ってくれても良かったんじゃあとも思ったが、前の俺は言われても認めなかった気がする。

 

「紗江ちゃんの手伝いも進んでやってたからさ、にぃにがようやく前向きになったー、って嬉しかったんだ」

「前向きか……まあ、そうかもな」

「だからもしかして、……やりたいこととか見つかったのかなーって思ったんだけど」

「あー、それはまだだな」

「んーそっかー」

 

 残念、と寂し笑いを浮かべる。だけど、どうやら俺は確かに前向きになっているようだ。

 

「けどさ」

「ん?」

「いろんなやつに背中を押してもらってるからな、探してみるよ。だから……もう大丈夫だと思う」

「……うん! それが聞きたかった!」

 

 今の俺に言えるのはここまでだ。絶対大丈夫とは言い切れないけど、美也が抱えていた心配を少しでも和らげたかった。美也の心からの笑顔を見て、言って良かったと思えた。

 

 

 あの後中多は繁野さんに家へと送ってもらい、もう一度父親と話しをした。しかし前の時とは違って、父親は中多の話をちゃんと聞いていたらしい。初めて娘が家を出るという思いきった反抗。娘の意見を聞かなかった事を父は反省したらしい。

 

 中多の話を最後まで聞いた後、結果的に納得してくれたとの事だった。俺と一緒にいることも認めてくれたらしい。ただし今後も供にする場合には条件付きとなった。それは、俺が不良と呼ばれなくなること。俺が悪い奴じゃないという点は納得してもらえたが、評判が悪いままなのは放置できない。原因は俺の遅刻やサボり癖なのであれば、それを直して欲しい。

 

 つまり、俺の生活態度が変われば問題は無くなる。それさえ出来れば、これまで通り中多と居ても良いそうだ。話し合いが終わった後、中多は父に褒められたそうだ。何でも娘がいつの間にか逞しく成長してくれて嬉しい、だとか。色々あったが、結果は丸く収まったと言えるだろう。

 

 

「という事で、お嬢様の行動によって無事解決なされました」

「何と言うか……成長しすぎじゃないすかね?」

「ええ、私もそう思います」

 

 互いに苦笑しながら話しつつ、俺は報告の内容に安堵していた。思い返せば、俺が離れようとしてからの中多の行動力は凄まじかった。アルバイトの面接に挑み、父親を説得して……。もう俺の知っている中多じゃないのでは、と疑ってしまうくらいだ。

 

「あそこまで積極的になられたのは、きっと貴方のお力添えのおかげでしょう」

「いや、あいつが頑張ったからですよ」

「やはり貴方は、お優しいですね」

「繁野さんには叶わないっすけど」

 

 実際、繁野さんがいなかったら俺は中多と仲直りすることはできなかっただろう。この人とは多少なりとも信頼を感じていて、優しさに救われたと心から思っている。

 

「ところで岡崎さん」

「なんすか?」

「もし朝起きるのが辛いという事でしたら……私が家までお迎えにあがりましょうか?」

「いや、流石にそれは自分でやろうかと」

「そうですか。……念のため、ご連絡先をお教えしておくというのは」

 

 俺の遅刻癖については信頼されていなかった。まあ仕方ないといえば仕方ないのだが、ちょっと後にして欲しかった。念のため、連絡先は聞いておいた。

 

 

 あれから数日、学校に着いて席につくと棚町が俺の前に立つ。

 

「紗江ちゃんから色々聞き出したわよ」

「聞き出すなよ」

「『言わないと大変な事になっちゃうわよ? ……岡崎が』って言ったら漸く話してくれたわ」

「やられるの俺なのかよ!」

 

 あまりに斬新な脅し文句が誕生していた。

 

「あんまり無理矢理聞き出してやるなよ……」

「それは今後のあんた次第!」

 

 首を突っ込まれるのは避けられないらしい。

 

「そもそも全ての原因はあんたがだらしないからじゃないの!」

「……それはよーくわかったよ」

「反省はしてるのね、ならこれからどうするのよ?」

「まずは遅刻しないようにするところからやろうと思ってるよ」

 

 事実、今日はその成果があったのだ。

 

「なるほど、それで今日はいつもと比べてちょっと早く来たって訳ね」

「そういうことだ、褒めてもいいぞ」

「始業時間に間に合ってないんだから、威張れないわよ!」

「何事もちょっとずつ、ってことで」

「温いこと言ってちゃダメよ!紗江ちゃんのためなら引きずられてでも来なさい!」

「何に引きずられるんだよ!」

 

 もし毎朝繁野さんに車で引きずられたりしたら、俺の身が持たなくて遅刻癖どころじゃない。あと繁野さんもそんなことはしたくないと思う。

 

「まあとにかく、あんたが頑張ろうとしてるならそれでいいわ」

「ああ」

「次また紗江ちゃんを悲しませたら承知しないから、覚悟しときなさいよ?」

「美也にも同じこと言われたよ。気を付ける」

「うん!よろしい!」

 

 そう言って俺の肩を軽く叩いて満足げに席に戻っていった。今回の件では棚町にも心配をかけてしまった。どこかで借りを返さないとな、と思っていると『あそうだ』と棚町が戻ってきた。

 

「ところで岡崎、話は変わるんだけど」

「なんだ?」

 

 表情はにこやかだが、何故か嫌な予感がする。

 

「わたしの店で冷やかししたこと、忘れてないからね?」

「はぁ? 冷やかしなんていつ……あ」

 

 一人ファミレスに呼び出されて険悪になった時、俺は確かに何も注文せずに店を出ていた。あの場で何か注文して飲み食いは出来る程、俺の神経は図太くない。

 

「いやいや、流石にあの状況は……」

「ん?」

「……お手柔らかにお願いします」

「今度フルタイムで質問付けにしてあげるから!勿論その間の飲食代はあんたの払いね!」

「最早軟禁じゃねえか!」

 

 棚町への借りは、近々返すことになりそうだった。

 

 

 その日の授業を眠気と闘いつつ、一睡もせずに放課後を迎える事が出来た。中多との大事な話が控えていると思うとソワソワして眠れなったというのもある。話の内容も何となく気づいてしまっている事も要因だ。校舎裏の人気の無い場所に向かうと、すっかり見慣れた背中が既にあった。

 

「よう」

「……先輩」

 

 俺を見る中多の表情は、緊張で強張っているのがよくわかる。周囲が静かなのもあって、俺もつられて緊張してしまう。

 

「中多の父さんと仲直りできたんだよな?」

「はい。……先輩と離れたくなくて、頑張っちゃいました」

「ああ、頑張ったな」

 

 何だか発言もどんどんストレートになっていってる気がする。自信がついてきたという表れなんだろうか。

 

「本当に、変わったよな」

「自分でも、そう思います」

 

 目を閉じて、満足気に振り返る。

 

「ここまでやりたいことが叶えられるなんて、夢にも思いませんでした」

「お前がウエイトレスになりたいって言ったときは無理って即答しちまったからな」

「私も無理かもってちょっと思ってたんです……でも、なれちゃいました」

「凄いじゃないか、やりたいことを叶えてさ」

 

 ふと中多が遠くに行ってしまったような気持ちになった。やりたいことに夢中になれて、ひたむきに努力をしてきた姿を思い出す。そして、やりたいことの無い自分との距離を感じてしまう。この娘は、一緒にいると楽しいと言ってくれた。俺だって楽しいと思っている。なのに……次の一歩を踏み込めない。自らを憂いてしまい、黙ってしまった俺を見た中多は大きく口を開いた。

 

「先輩、私の問題はこれで解決しました!」

「あ、ああ……そうだな」

「次は先輩の手伝いをさせてください!」

「それって確か……」

「はい。前に返事を貰えなかったので……」

 

 それは以前に俺が返事をはぐらかしてしまった約束だった。中多は改めて俺の手伝いをしてくれると進言してくれた。けど、肝心なやりたいことがまだ決まっていない。どちらとも動けないでいる俺に、中多は続けてくれた。

 

「先輩のやりたいこと……一緒に探させてください」

「……いいのか?」

「私が、そうしたいんです」

 

 遠慮とか、気遣いとかそういうものではない。真剣な眼差しからは、心からそうしたいという力強い意志を感じる。本当に、成長したんだな……なんて思っていた。逆に俺の弱さが露呈してしまっているのを感じる。年下の女の子にここまで言われても、まだ素直に頷くことができない。こんな俺では迷惑になってしまわないだろうか、なんて気持ちを引きずっていた。

 

「……何で、そこまでしてくれるんだ?」

 

 ここに来て意地の悪い事を聞いてしまう。答えなんて、何となくわかっているのに。俺の問いを受けて、中多は俺の両手を握って顔を赤くしながらはっきりと言った。

 

「……先輩ともっと一緒にいたいから、です! 先輩は、どう……ですか?」

 

 気持ちがいいほどに、言って欲しいと望んでいた答えをぶつけてくれた。本当に純粋で、真っ直ぐな思いが込められていた。やりたいことを失った俺は、次の事なんてと見つけようという気すら起きなかった。けど彼女と二人なら、見つけられるかもしれない。見つけるまでの時間すらも、楽しくいられそうな気がする。心の中では既に決まっていた返事を、やっとの思いで絞り出す。

 

「俺も、一緒にいたい」

「……っ!」

「だから、手伝ってほしい」

「はい……はいっ!」

 

 やっと交わされた約束をお互いに噛み締める。そしてこの直後には、更に大事な約束事が待っている。二人がもう二度と離れないようにするため、やるべき事がある。

 

「朋也先輩!」

「……紗江」

 

 この時間は、この次の言葉は……恐らく一生忘れられないものになるだろう。

 

「私、先輩のことが……」




ということで中多編終了です。
一番ストーリーをどうするか悩んだキャラでしたが、結果的に一番文字数が多くなっていました。
中多が成長しすぎて最早別キャラみたいになっているかもしれません。

残すはあと二人・・・某スニーキングガールはどうするか保留中です。
あまり待たせすぎないよう頑張ります!
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