輝日東高校にうつろいゆく光   作:こなひー

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キャラの相関上、やはり棚町の出番は多くなりますね。
七咲編3話です。


3

「あ、今日は寝坊崎ね」

「……そのシリーズ気に入ったのか?」

「いや全然」

 

 ならなんで続けているのだろう。

 

 今朝は珍しく早く起きられたので素直に登校してきた。とはいえ、始業時間には間に合っていない。俺が朝に間に合う事は果たしてあるのだろうか。

 

「いや果たしてじゃなくて! あんたがちゃんと起きられればすむ話でしょ!」

「ん、声に出てたか?」

「諦め入った表情で何となくわかっちゃったの!」

 

 あまりに寝坊を繰り返しすぎたせいか、表情だけで俺の心を悟られてしまった。いつかこいつに叩き起こされかねないな、なんてアホなことを考えていた。その後の昼休み、教室に春原がのっそりと現れた。顔を見ると目の下に大きなクマが出来ていた。

 

「なんで昼に来てそんな寝不足なんだよ」

「へへへ……ちょっと武者修行をね……」

「なんだよそりゃ」

「で、今日はその成果のお披露目をしたいんだよ……。岡崎、今日は僕と共にゲーセンに来てもらうよ」

「え? 嫌だけど」

 

 普通に嫌だったので即答した。まさか断られるとは思っていなかった春原は血相を変えて俺にゾンビのように這い寄って来た。

 

「たぁぁのむよぉ~岡崎くぅ~~ん」

「うわぁ……」

「気持ちわる……」

 

 プライドを粉微塵にしてまで俺を誘ってくる春原の姿に恐怖を感じてしまった。棚町も椅子ごと後ずさりしている。俺の脚にすがり付いてきているため、無視もしづらい。

 

「岡崎、これ以上見てられないから行って来て」

「あぁ、仕方ないか」

「サンキュ! じゃよろしくなっ!」

「急にテンションを上げるな怖いから」

「こいつの情緒どうなってるのよ……」

 

 こうして今日の放課後の予定は不本意な形で決まった。棚町は普通にバイトだから断るつもりだったらしい。

 

 

 そして放課後、春原に連れられてゲーセンに向かっている。春原は意気揚々とここ数日とある格闘ゲームの練習に明け暮れていたことを語っていた。

 

「へへっ、お前をこないだ練習してきたハメ技の実験台にしてやるぜ!」

「それ楽しいのか……?」

「わかってないな~、これで倒した時の相手の悔しい顔を見るのが楽しいんじゃん!」

「性格悪りぃなお前……」

 

 ゲームの楽しみ方は人それぞれなんだろうが、俺には分からない感覚だ。店の自動ドアをくぐってからも、春原の語りは止まらない。

 

「勿論それだけじゃないさ!あのゲームにはとんでもないお楽しみ要素があるらしいんだよ!」

「お楽しみ要素?」

「前にここへ来たとき、見知らぬ奴が教えてくれたんだよ……ぐへへ」

 

 何やら気持ち悪い笑いを始めたので、適当に聞き流そうと店内を見回した。そこで少し引っ掛かる光景を目にした。最近よく会っている七咲だ。制服という事は俺たちと同じように学校帰りに寄ったのだろうか。彼女は一人じゃないらしく、違う高校の制服を着た男二人といる。しかしその雰囲気はどうも仲が良いようには見えない。今にも七咲に何かしてしまいそうだと感じる。あまりそういう気分では無かったのだが、俺は春原の肩を叩いて七咲の方に目を向けるよう促す。

 

「なあ春原、あれ」

「何? ……ふ~ん、面白そうなことしてんじゃん」

 

 春原は俺と同じ考えに至ったようで、にやりと笑いながら腕をブンブンと回す。

 

「岡崎、ゲームもいいけどリアルなファイトも楽しいと思わない?」

「出来ればそうなって欲しくないんだけどな、もしそうなったらやっちまうか」

「おっ、珍しく乗り気じゃん」

「いいから、いくぞ」

「へーい」

 

 俺たちはゆっくりと男達に向かって歩く。春原は謎に大きなガニ股で歩いているため、普通に歩いている俺から数歩分遅れている。アホか、と思いながら、気にせず男たちの元へと向かった。

 

「なぁ」

「あ? ……げっ、岡崎と春原!?」

 

 男は俺たちの事を知っているようだった。そういえば前にこのゲーセンの近くで喧嘩になった事があった。その話がこのゲーセンでは既に広まっていたために名前が知られていたのかもしれない。

 

「あ、岡崎さん」

「よお、こんなとこで何してんだ?」

「ゲームセンターに来てるんですから、ゲームをしに来てたんです」

「いや、そうだろうけどさ……」

 

 男二人に絡まれていたはずの七咲は、怖がるどころかいつも見かける無表情のままだった。

 

「……え? こいつお二人の知り合いっすか?」

「まあ、そんな所だ」

「マジかよ……、これ俺らヤバいんじゃ……?」

 

 俺が知り合いだと聞いて、二人はだんだん縮んでいった。やはりこいつらは喧嘩慣れしていないらしい。春原の期待したような面倒事は起きなさそうだ。

 

「な~んか楽しそうなことしてんじゃん、僕らも混ぜてくんない?」

「いや、俺らはその……」

「俺ら別にそういうんじゃなくて……こいつ! この女が悪いんすよ!」

「そうそう! こいつのデマに騙されたんです!」

「デマ?」

 

 もしかすると、いつも俺に言ってくる冗談のような事を二人にも言ったのだろうか。だとしたら二人がつっかかっていたのも無理はないのかも、と考えていた。 しかし、男の返答は想定を下回るものだった。

 

「この格ゲーで女キャラを……ぬ、脱がせられるって言われて!」

「……言ったのか?」

「はい、反応が面白そうだったので」

「もしかして、ゲームしに来たってのは……」

「人をからかって遊ぶゲームをしてました」

「お前な……」

 

 

 七咲は自分のしたことを全く悪びれる様子もなく肯定してきた。なんというか、これは七咲が悪いと思う。想定していたよりもしょうもないオチだった。こっちはあわや喧嘩かもしれないと構えていただけにとんだ肩透かしだ。

 

「そいつは俺たちの純情を弄んだんすよぉ!」

「こんなん許しちゃだめだと思いませんか岡崎さん!?」

「めんどくせぇな……」

 

 こいつらもこいつらで変なスイッチが入ってしまっている。これ以上この空気に付き合ってられないので、ちょっとだけ強行手段に出るとするか。

 

「まああれだ、ただのいたずらだったってことで許してやってくれないか?」

「わ、わかりました! わかりましたからその握り拳ほどいてもらえません!?」

「僕らも別に喧嘩したいわけじゃ無いっすから!」

「そうか、ありがとな」

 

 男達はそさくさと去っていった。あいつらはやはり根っからの不良という感じでは無かった。七咲のデマに怒って詰め寄っていたのが、女子に絡んでいる不良のように見えていただけだった。これで解決したかと一息ついていると、七咲がペコリと軽く頭を下げてきた。

 

「あの、岡崎先輩。助けてくれてありがとうございました」

「ま、いいけどさ。お前のその遊びって前からやってるのか?」

「今日のが二回目です」

「一回やってんのかよ……その時は大丈夫だったのか?」

「はい、その人下手だったのでそこまで辿り着けずに帰っちゃったんですけど」

 

 そいつはデマだと気づくタイミングも無く、下手したら今も信じ続けていることになる。そんなことを考えているとふと隣の金髪が掠れた声を出し始めた。

 

「ね、ねぇ君……?」

「なんですか?」

 

 そういえば春原がさっきから静かだったのは気になっていた。リアルファイトを仕掛けようとしていた威勢の良さは消えて足が小鹿の様に震えている。足だけでなく声も震わせながら恐る恐る口を開き始める。

 

「このゲームで脱がせられるって話……デマなの?」

「はい、私が適当に思い付いた嘘ですよ」

 

 散々躊躇ってから聞いた春原の問いに、七咲はさらっと言った。今目の前にある格闘ゲームのデマは七咲が適当に思い付いたもの。そして春原はその話を知って数日間練習に励んでいた。まさか、と思った瞬間、春原の何かが崩壊した。

 

「マジかよぉぉぉーーーーーーっっっ!!」

 

 ゲーセンの騒音に引けを取らない悲痛な叫びをあげながら膝から崩れ落ちていった。春原の言っていたお楽しみ要素が完全否定されてしまっていた。というかこいつが七咲の初犯の被害者だった。スローモーションで倒れた春原の上に、偶然近くの筐体に「K.O.」の画面が写った。完璧な敗北演出の前に、俺は思わず合掌していた。七咲は俺たちを後ろから見て口を抑えて静かに笑っていた。

 

 

 その後、俺たちはゲーセンで遊ぶ気力も無かったので帰ることにした。人通りの無い道を車道側から春原、俺、七咲の三人横並びで歩いている。

 

「うぅっ……ぐすっ……頑張って練習したのに……」

「す、すみません……そんなに傷つけてしまうとは思いませんでした」

 

 あまりの春原の引きずり様に、流石に良心が痛んだのか少し申し訳なさそうにしている。しかしこいつは特殊なので気にしないほうがいいのだ。

 

「春原の九割は性欲で出来てるからな、そういうネタでいじるのだけは止めてやってくれ」

「わかりました、今度は別のネタにしますね」

「こいつの言うことを真に受けないでください!!」

 

 謝ったかと思いきや、俺の悪ノリにあっさり乗っかってきた。男二人に絡まれていた時も動揺していなかったし、大した心臓を持ち合わせているようだ。

 

「お二人は放課後いつも遊んでいるんですか?」

「そう! 僕らはズッ友だからね!」

「気持ち悪っ」

「気持ち悪っ」

「何でそこでハモるんだよ!仲良しかよ!」

 

 これは紛れもなく本心だった。男二人でズッ友宣言していたら大抵の奴は引くと思う。

 

「まあ、大抵暇潰しぐらいしかしてないんだけどな」

「やっぱり暇人なんですね」

「……岡崎、なんかこの子ある意味凄いね」

 

 不良二人をここまでサラッと貶す女子高生がそこにいた。俺と春原はその位で怒るような事は無いのだが、先程のゲーセンの件もあるのでいつか痛い目に会わないかがちょっと心配になった。

 

「部活とかはしていないんですか?」

「……それは」

「僕らは部活なんか大っ嫌いだからねぇ」

 

 水泳部に精を出しているという七咲から、その疑問が出るのは必然だった。彼女の質問に言い淀んでいた俺の代わりに、春原は完璧に突っぱねる答えを言い放った。

 

「……あなたもそうなんですか?」

「……まあな」

 

 七咲が俺に探るような目線を向けてくるが、俺は軽くだけ答えて流す。今ここで掘り下げて話すようなことでもないだろう。妙な沈黙が走るが、ここで春原が大きなあくびをかいた。

 

「じゃあ僕は帰るよ……なんかドッと疲れちゃったし」

「ああ」

「はい」

 

 振り返ってみれば、今日の春原は何一つ目的を達成できていなかった。けれどいつもとちょっと違う出来事があったからか、不満な様子はあまり見られなかった。

 

 

 春原が別の方向に歩いていき、必然的に俺と七咲の二人になる。けれど、以前公園であった時みたいな気まずい沈黙にはならなかった。

 

「……ゲーセンであの遊びはもう止めとけよ。次は助けられるかわかんないしな」

「はい、そうします」

 

 何故か俺はできる限り助ける前提で話していた。けど七咲は素直に聞き入れてくれた。何だか様子がいつもと少し違う気がする。

 

「その、すみませんでした」

「気にしなくていいぞ、大事にならなかったしな」

「いえ、そっちではなくて」

「ん?」

 

 謝罪は別のことについてだったらしい。俺には特に心当たりが無かったのだが、七咲は申し訳なさそうな表情のまま話を続ける。

 

「岡崎先輩のこと、誤解していました」

「誤解?」

「先輩の事、友達から不良だって聞いていたので……警戒していたんです」

「ああ、そういうことか」

「でも今日まで話してみて、そんなことないなってわかりました。さっきも助けてくれましたし……」

 

 これまでの素っ気ない態度は、俺を警戒していたからだったらしい。俺の少し先で立ち止まってこちらを向きながら、にこやかに俺に告げてきた。

 

「ただの、だらしない人だったんですね!」

「ってそりゃないだろっ!」

「ふふっ、冗談です。ちょっとだらしなくて誤解されてる人ですね」

「違いがわかりづらいぞ……」

 

 俺はこの時、七咲の屈託のない笑顔を見た。ただそれだけで、今日の疲れが無くなったように感じた。こういう日があっても悪くないか、と今日は流すことにした。




原作の出会いパターンをここで取り入れてみました。
面白そうだったので春原も七咲に騙されていたことにしちゃいました。
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