輝日東高校にうつろいゆく光   作:こなひー

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今の作品の方向性に対して迷いが生じてしまったために投稿が遅れてしまいました。
ひとまずは今の作品として完成させると決めて進めることにします。


2

 次の日の放課後、俺はすぐさま教室から抜け出した。理由は今朝も遅刻をしたために高橋先生から目線で圧をかけられていたためだ。直接的な呼び出しは無かったものの、毎度尻に火をつけられたような気になるのは正直キツい。

 

 ちなみに春原は先生に呼び止められていた。『今年になって初めて顔を見れたわね?』と言いながら昨日の俺と同じように引きずられていった。つまり春原に気を取られていたお陰で俺は抜け出せたことになる。世の中は平等だったのかもしれない。

 

 教師に目を付けられている今の状況は、自分でもそろそろどうにかしなきゃいけないとは思っている。しかし、今までサボりや遅刻を積み重ねてきた奴が急にまともになるのは難しい。夜更かしが習慣になっているために朝が本当に起きられない。止めた方が良いとわかっていても、一度付いた悪習は中々変えられないものだ。

 

 考えるのを一度止めて、学校から出るために靴箱に向かう。その道中の廊下で、前から大きめの段ボールを抱えた女生徒が歩いてきた。段ボールの中身が重いのか、ややバランスを崩しそうに見えた。

 

「……ふぅ、もう少し……っと」

 

 大丈夫かよ、と思って見ていたら悪い予感が的中してしまう。彼女はバランスを崩して倒れてしまいそうになった。

 

「あっ、やばっ……!」

「っ!」

 

 すれ違い様に気づいた俺は、咄嗟に傾いた段ボールの底をガシッ、と掴む事に成功した。思いの外重く少し体勢を崩したが、どうにか持ち直して傾いた状態から戻す事が出来た。

 

「大丈夫か? ……って結構重いな、これ」

「へっ? ……あ、うん。新しいパソコンが入ってるからね」

「パソコン?」

「うん、私パソコン部の部長だからね!」 

 

 パソコン部という名前に聞き覚えは無かったが、きっと俺が知らないだけだろう。快活な声で話す彼女は、体勢を整えて俺の顔を見て感謝を述べる。

 

「支えてくれて助かったよ! ……あれ? 君ってもしかして岡崎君、だっけ?」

「ああ、そうだけど」

「やっぱりそっか! あ、私は伊藤香苗。君のことは梨穂子から聞いてるよ」

「桜井から?」

「そうそう、君と梨穂子が話してるのも何度か見かけてるし」

 

 桜井とつながりがあると聞いて納得した。大抵の場合俺だと知ると距離をおかれてしまう事がほとんどだったからだ。ふともう一度段ボールを見る。かなりの重さだったことを思い返したら、自然と次の言葉が浮かんだ。

 

「それ、どこまで持ってくんだ?」

「え? パソコン室までだけど……、もしかして手伝ってくれるの?」

「まあな、どうせ暇だし」

「うーん……それじゃあ本体をお願いしちゃおうかな! 私はこっちの付属品たちを持っていくから!」

 

 そう言いながら段ボールを開けて、いくつかのケーブル類を取り出してから再度閉じる。

 

「わかった……よっと」

「……梨穂子の言ってた通りの人で合ってたんだね」

「何か言ったか?」

「ううん、なにも! パソコン室はこの先の突き当たりを左に行ったところだよ」

「了解だ」

 

 そんなに遠くないと分かり、内心ちょっとだけ安心していた。このくらいなら、右肩への影響も無さそうだ。うっかり落としてしまわないように慎重に歩き始めた。パソコン室に向かう間、お互いが知っているであろう桜井の話になる。

 

「今日は梨穂子が寝坊しちゃったから、私が日直の仕事を代わってあげたんだー」

「寝坊か、……昨日は忘れ物を取りに戻って遅刻してたな」

「あー、流石の私でも忘れ物はカバー出来なかったよ」

 

 この言動からして、桜井はいつも伊藤に助けられているようだ。日直があるなら朝は早く起きないといけない、というのは初耳だった。

 

「ん? 日直って朝からやる事があるのか?」

「え? ……あーそっか、確か君は梨穂子よりもお寝坊さんなんだったね」

「そうだな。今日も連続記録更新中なんだが、そろそろ三週間が経ちそうだ」

「あはは! 誰にも抜けない記録だねー」

 

 お寝坊さん、というのは今までで一番優しい言われ方だった。桜井のサポートをしてあげていたり、伊藤はかなり気配りができるタイプなのだろう。俺の冗談にも軽く乗ってくれるあたりにも好感が持てる。

 

 そんな話をしている間にパソコン室に到着した。パソコン室と言うだけありコンピュータ類の物が沢山あるが、ゴチャゴチャしている感じがなくきちんと整頓されていた。

 

「とりあえずその机に置いてくれれば良いよー」

「ああ……よし、置いたぞ」

「ありがとー!」

 

 一番近くの机の上に段ボールを置く。右肩を軽く動かしてみたが、に痛みは感じない範囲で済んで良かったと軽く安堵する。

 

「よし、設置は明日じっくりやるから今日のところはこれでおっけーっと」

「ふぅ、俺も運動不足になっちまったな」

「パソコン重かったでしょ?持ってくれたお陰で助かっちゃったよ!」

「そりゃよかった」

 

 作業が完了して、一緒に鞄を取りに行ってそれぞれの教室で自分の鞄を回収する。ほとんど何も入っていない鞄は本当に軽い。さっきのパソコンの重さと、俺の授業への準備のしていなさを感じた。教室の前で俺が出てくるのをそれとなく待っていた伊藤は俺に尋ねてくる。

 

「私は梨穂子と合流して帰るけど、君は何か用事はあるのかな?」

「いや、特に無いぞ」

「なら一緒に帰ろっか!」

「ああ、そうするか」

 

 共通の知り合いがいるからか、一緒に行動することに特に抵抗は感じなかった。二人で廊下を歩いて校門に向かう。

 

「桜井とはどこで合流するんだ?」

「えっと、校門の辺りで……あ、いたいた」

 

 伊藤が指差した先には、ボーッと立っている桜井がいた。伊藤がいることに気づくとハッとした顔になり、直後に俺に気づいて驚いた顔になった。

 

「あれ? 何で香苗ちゃんと岡崎君が一緒にいるの?」

「ああ、岡崎くんにさっき助けてもらったんだ!」

「そうなの?」

「まあ、な」

 

 こうも堂々と助けてもらったと言われると、少し気恥ずかしくなってしまう。

 

「何を助けてもらったの?」

「それはね……」

「残念だが桜井、ここから先の話は有料会員限定なんだ」

「えっ!? なにそれ!?」

「……おっとそうだった! ごめん梨穂子、お試し版だとここまでなんだよねー」

「私たちの付き合いってお試し版だったの!?」

 

 恥ずかしい話題から反らすために変なことを言ってみたら、伊藤はすぐにノッてくれた。あと桜井は俺の冗談を信じすぎだと思う。

 

「うそうそ、パソコンを運んでもらっただけだよ」

「もー……急に変なこと言うからビックリしたよー」

「ネットでは割りと見かけることなんだけどね……君もしかして意外と詳しい?」

「いや、ネットは詳しくないからさっきのは偶然だ」

「なーんだそっかー……良かったらパソコン部に、と思ったんだけどな」

 

 パソコン部というフレーズが出た瞬間、桜井が俺の顔を心配そうに見てきた。部活についての話が出たからと気にしたのだろうか。俺としては今のは冗談の範疇だったので気にするほどじゃない。

 

「そこまで心配しなくてもいいぞ」

「……うん」

「ん? 何が?」

「いや、なんでもない」

「そっか」

 

 あまり事情は知らなそうな伊藤だったが、深く気にせず次の話題に移ってくれた。

 

「そうだ! 心配で思い出したんだけど、梨穂子がさー」

「なんかあるのか?」

「痩せなきゃー、って言うわりに食べる手が止まらなくて……」

「わーわーっ! 香苗ちゃんそれ以上言わないでーっ!」

「……もう聞いちまった」

 

 顔を真っ赤にする桜井の体型をついちらっと見てしまう。俺が男だからなのか、見た目では心配するほど太っているという感じはしないように思える。

 

「うぅ……香苗ちゃんひどいよー……」

「そういうけど梨穂子、今のままじゃ永遠に痩せられないよ?」

「そんなに言うほどなのか?」

「梨穂子の鞄の中見たことある? ……大体菓子パンがぎっしりだよ」

「……マジか」

「だってあそこのパン屋さん美味しいんだもん……たまーに変なのがあるけど」

 

 たまに変なのがあるパン屋、と聞いて俺は既視感を感じた。もしかして、パンに煎餅を入れてあったりするのだろうか。美也が時々買ってくるパン屋のことを思い出していると、丁度伊藤が聞きたかったことを尋ねた。

 

「変なのってどんな?」

「えっとね……昨日は七色に光ってるやつだったよ」

「待て、パンの話だよな?」

「うん、私もびっくりしちゃって……ちょっと気になったけど買うのは止めたんだ」

「……とりあえず、その判断は合ってたと思うぞ」

「でも、逆に味が気になるかも……」

 

 あくまで勘だが、その味は今後も知らない方がいいような気がした。

 

「で話を戻すけど、梨穂子の食べ過ぎをどうにかしようって昨日話したんだ」

「戻さないでよぉー」

 

 桜井がガックリと俯く中、伊藤は首を傾げながら悩む様子を見せる。

 

「あれ? そういえば岡崎君は梨穂子が食べ過ぎな事知らなかったの?」

「ああ、今初めて聞いたぞ」

「それってつまり、一緒にいるときは食欲が抑えられてるってこと?」

「確かに……食べたいっていう気持ちがどこかに行ってるかも」

「ふむふむ……」

 

 伊藤は何かを考え始めた。一方桜井はキョトンとした様子で伊藤を見ていた。何だか対極的だなと苦笑していると伊藤の目線が俺に向いていることに気づく。

 

「それと、岡崎君って確か寝坊記録を更新中……と」

「え? まぁそうだけど……」

 

 桜井の食べ過ぎと俺の寝坊に何か関係があるのだろうか?うん、と軽く頷いた伊藤は俺達に意気揚々とある提案をしてきた。

 

「それなら朝に梨穂子が起こしに行ってあげる! というのはどうかな?」

「えぇっ!? 香苗ちゃん何言い出すのー!?」

「岡崎君と一緒にいる間は食欲が起きない、つまり一緒の時間を増やせばいいんだよ!」

「それはわかるけど、確か桜井も朝弱いんじゃなかったか?」

「そうだよー! 私も香苗ちゃんに起こしてもらう事がほとんどで……」

「まあまあ梨穂子、それに……」

 

 伊藤は桜井の肩を掴み、二人で俺に背を向けてコソコソと話し出す。

 

「頑張って起きれば岡崎君といられる時間が増えるんだよ?」

「そ、それは……うぅ~……」

 

 俺からは何の話をしているのかが絶妙に聞こえない。頑張ったら聞こえそうだが、野暮だと思い放置しておいた。内緒話が終わり、桜井は俺に胸を張って宣言した。

 

「お、岡崎君! 明日から私が起こしにいくから安心して!」

「ほ、本当に大丈夫なのか?」

「うん! 確か岡崎君の家ってそんなに遠くなかったよね?」

「あぁ、桜井の家から意外に近いんだったよな」

「だから大丈夫! 目覚ましもいつもよりちょっと早めに設定するし!」

「……昨日は鳴ってても起きれなかったんだけどねー」

 

 伊藤の一言でより心配になってしまった。但し俺も同レベルなので強くは言えない。ここまでの話を一度整理するために確認をしてみる。

 

「つまり、俺は伊藤に起こしてもらった桜井に起こしてもらうってことか?」

「ぷっ、なんか改めて文章にしたら凄い変だね!」

「俺、めっちゃ情けないやつだな……。その通りなんだけどさ」

 

 人の力を借りに借りないと起きれない男になってしまっていた。遅刻続きで不良と言われるのは良くないのだが、これはこれでどうなのだろう。

 

「ちなみに梨穂子、明日は起こしてあげるけどその次からは自力で起きてね!」

「えぇ~!? 香苗ちゃんの助けが無いと不安だよー……」

「桜井、俺をこれ以上情けなくしないために頑張ってくれ」

「あれ? なんかおかしい気がするけど……頑張る!」

 

 桜井が将来悪い奴に騙されてしまわないか不安になるやりとりだった。この場合の悪い奴は俺なのだが、それをツッコむ者はいなかった。ともかく、明日から桜井が家に来るかもしれない。美也には早めに言っておくべきだろう。

 

「……美也にどう説明しても呆れられそうだな)

 

 俺のぼやきは二人には聞こえていなかった。この後、妹から白い目で見られる事を想像したら帰宅する足どりがちょっとだけ重くなった。




原作では桜井が頑張るというパターンですが、
岡崎も寝坊癖があるので一緒に直そうという動きにしました。

今回もちょっと文字数が多くなりましたが、あまり気にしないことにしました!
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